命改変プログラム

ファーストなサイコロ

秘密のおまじない

 車を走らせる事三十分程度。大きなビル群を抜けて入ってきたのは閑静というか、高級そうな住宅街って感じの場所だった。なんだか窓の外に見える家がどれも綺麗でデカイ。そんな印象。
 確か天道さんはLROの最大の出資会社の令嬢とかだったよな? それなら大企業だろうし、ここら辺にドデカイ家を持っててもおかしくはないな。でも実際、LROだったっけ? フルダイブシステムの方の出資だっけ? たしか結構複雑な事情があった気がするんだが、どっちだったか覚えてないな。
 まあ庶民には金持ちのお嬢様と会う程度の認識で問題はないだろう。


「なあ日鞠、思ったんだがタンちゃんとか愛とか置いてきたけど大丈夫か?」


 今更だけど、離れると気になるよな。監視だって居たって話だしな。二人共寝てるんだぞ。何をされるか分かったものじゃないかも……


「大丈夫でしょ。実はちゃんと護衛は残してるもの」
「えっ? そうなのか?」


 確かSPの皆さんは情報収集に向かわせたんじゃ? 俺達以外に居なかったじゃん。すると日鞠はスマホを取り出して何か操作する。そして画面を向けてこういった。


「秋徒、守る手段は側に居るだけじゃないんだよ」
「これって……」


 画面に映ってるのはタンちゃん所有の古びたビル。つい三十分前まで自分達が居た場所だ。つまりはこれって……近くの部屋で監視してるのか?


「そういう事。向こうの出方も伺いたいじゃない。まあ何もされないに越したことはないけど、された時の為に証拠は押さえとかないとでしょ」
「それはそうだが……何人で監視してるんだ?」
「二人かな」


 少なくないかそれ? 向こうの人数はハッキリとは分からないけど、かなりの人員を使えるはずだろ。二人じゃ正直心もとない。


「だけどいきなり大人数で押しかけるなんて流石にしないと思うわよ。それに昼間は人通りだってあそこはあるんだもの。下手に目立つ行動は取りにくい。それにもしも動きがあったら、外に出て大声でも上げて貰う手はずに成ってるわ。それだけで注目集めれるでしょ」
「それで引く連中か?」
「引くわよ。まだ強引に出る時じゃないってわかってるだろうしね」


 本当か? 向こうの情報はあんまり無いんだぞ。向こうの事情はハッキリ言ってわからないんだ。どこで強硬手段にでるか……そもそも強硬手段に出る必要性があるかとか疑問だけどさ。
 なかなか拭えない不安。すると体を丸くして無理してる感がひしひしと伝わってくるラオウさんがこういった。


「大丈夫ですよ秋徒君。もしも万が一愛さんが攫われる事があっても、私が必ず取り返してみせます」
「……はい」


 頼もしい。とても頼もしいが、実際攫われる時点で駄目だろう。俺、そんな事になったら幾らなだめられても発狂するかも知れない。やっぱりどうあっても不安ではあるな。せめてラオウさんを向こうに残しとけばこんなに不安になることも無いんだけど……


「信じなさいよ。彼等だってプロなのよ。そりゃあラオウさんから見たら赤子の手をひねる位だろうけど、相手は結局この国のレベルなんだから十分でしょ」
「そうかも知れないけど……」


 でも同じレベルなら数が多いほうが有利だよな。でも確かにSPは守りのプロではあるんだよな。実際ドラマくらいでしか知らないけど……そもそもこの手法はSPの領分ではないよな? 
 SPって動く盾なんだろ? だからこそ、いつも要人に付かず離れずな訳だからな。


「全く、人間は小さな事でよく悩むわね」
「小さくないだろ! お前だって兄貴の事心配じゃないのか?」


 メカブの奴が気だるそうに言うから、ついつい口調が荒くなる。でも家族だろ。もうちょっとお前も心配しても良いと思うけどな。


「インフィニットアート所持者に人と同じレベルの話しをされても困るわね。私達はそんな次元に生きてないのよ。心配なんて片腹痛いわね」


 そう言ってメカブはスマホに視線を落とした。さっきから何やってるのかと思ったら、暇潰しのゲームに勤しんでる様だ。マジでこいつ毛ほども心配してないな。図太い神経してやがる。
 すると日鞠の奴に名前を呼ばれた。視線を向けるとこっちに顔を向けてた。


「アンタのフィアンセの事だから心配なのもわかるけど、大丈夫だから。何かあっても絶対に私がなんとかしてみせる。信じなさい秋徒」
「日鞠」


 普通そんな事を言われたって女子高生が何を言ってるんだ……って一蹴される物なんだけど、こいつを知ってる俺はそうは出来ない。それはいつもの俺をバカにする声じゃない。真剣なトーンで本気の眼だ。
 他人を惹きつける、その瞳だ。こいつがそういうのなら……と、こいつを良く知ってる奴等ならこうなってしまうんだ。俺は信じる事にした。てか、ずっと信じては来たしな。こいつが期待を裏切った事はない。


「わかったよ。お前の言葉の方がどっかのインフィニットなんとかよりは信頼出来る」
「ちょっと、それって私に喧嘩売ってるのかしら?」


 あざとく反応してきたメカブ。メカブが握ってるスマホからなんだか変な音が流れてた。きっとゲームオーバーとかの音だろう。だけどメカブの奴はこっちに視線を向けて、そんなのは気にしてない。
 まあ暇潰しだろうからな。優先順位は低いんだろう。


「ねえ、どうなのよ? 私を怒らせるとちょっとヤバイわよ」


 ちょっとなのか? と心で思ったが、さてどうするか。あんまりこいつの相手をするのは乗り気じゃない。面倒だしな。さっきあんな事を言ったのは、ただ単に普通に肯定するのが恥ずかしかっただけだからな。
 ようは捻くれただけだ。だから別に他意はないんだけど……メカブには悪いことを言ったかも知れない。全然そう思えないけどな。そう思ってると俺とメカブの間になんとか収まってるラオウさんがメカブを抑えるよ。


「まあまあメカブ。力ある者は小さきことを気にしてはなりません。大らかに構えてこそ、その身の内に宿る力が自然と滲むと言うものです」
「そっ、そうかな?」
「ええ、私はそう思ってますよ」


 そう言われて、メカブの奴は一つ咳払いをする。そしてポスッと座席に戻った。


「まあ、人間なんて相手にしても仕方ないしね。勘弁して上げるわ。ふふん」


 なんだろう……メカブは大者感を出したいんだろうけど、俺には小者感しか感じれない。きっとこいつにはラオウさんや日鞠並の謎の迫力が付くことはないだろうな。ラオウさんはその体型とか風貌で常時迫力あるけどさ、日鞠の奴は謎だからなホント。
 あの容姿のどこから大人さえ時々怯む程の迫力を出してるんだか。なんか遺伝子レベルで違うんじゃないかと時々思う。


「さて、皆さんそろそろですよ」


 そう言ったのは運転手のオジサンだ。そろそろか……一体どんな豪邸に入るのだろう。そう思ってると、路肩に車は停車した。なんだかすぐ近くにはオープンカフェみたいなのがあるな。
 お洒落過ぎて一人では絶対に近づけない様なところだ。まさか待ち合わせってここか?


「そうよ。早く降りて」


 そう日鞠に促されて俺達は車を降りる。


「では私は近くの駐車場に待機してますので」
「はい」


 そんなやり取りの後に、車は発車する。流石にここにずっと停めてく訳にはいかないか。オープンカフェだから外で天道さんが待ってるのかと思ったが、日鞠はそそくさと中に入ってく。オープンカフェの意味が無いな。
 でもまあ外はこれからどんどん暑くなるだろうし、中の方が断然いいけどな。カランカランというカフェ特有の入店を知らせのベルが鳴り、可愛い制服を着た店員さんが出迎える。


「いらっしゃいま–––––––せ」


 一瞬店員さんの動きが止まり、「せ」の発音の後にゴクリろ唾を飲み込む音も聞こえた。そしてそんな彼女の視線の先にはシスターラオウの姿がある。まあ……初対面ならそうなるよな。
 普通に怯える。男も女も関係なくな。それがラオウさんだろう。


「えええええええとぉおおおおおおおお客様、よよよよよよよ四名様でよよよよよよよよよよ宜しいでしょうかかか」


 ヤバイ、恐怖の余り顎が誤動作してカチカチ成ってしまって上手く喋れてないぞ。するとメカブの奴がなんだか上機嫌に前に出始めた。


「あらあら、そんな緊張しちゃってまさか私の力に気付いたとか? 人間にしては見込みありそうじゃない」
「ふぇぇぇ?」


 おい、店員さん何が何やらわかってないぞ。ヤメろよな適当な事を言うのは。お前の力なんて微塵も感じ取ってないだろ。魔王級が居るのに、スライムの力なんて感じ得るはずもないだろうが。


「えっと……あの……私……」


 店員さん、もう混乱の極みに達してるのか、目に涙溜めだした。可哀想な事しちゃ……あれ? したか? よく考えたら何もしてないような。ラオウさんもこれじゃあある意味可哀想と言うか……そう思って彼女を見上げると、結構ショック受けてそうだった。


「わ……私は周辺の警戒をしてきます」


 そう言って外に出て行ってしまう。あ〜あ、ああ見えてなんだか普通の事に憧れてそうな一面があったから、こういうお洒落なカフェでお茶をしたりとか楽しみにしてたかも知れないのに……


「しょうがないかな? 今度また誘えばいい。もっとゆっくりと楽しめる時にね。その方がきっといいわよ」
「そう……だな」


 しょうがない、日鞠の言うように次でいいか。今はどうあっても緊張を解けないだろうしな。


「あの店員さん。先客が居るはずなんですけど。天道さんが待つテーブルはどこですか?」
「ふえ? ……ああ、お待ちのお客様ですね。それは多分、あちらかと」


 日鞠の言葉で急いで涙を拭いて奥の席を示す店員さん。まだ昼時でもないし、店は閑散としてる。落ち着いたクラシックの音楽が流れる店内で、客は数人くらい。俺達は店員さんに続いて、奥の一人の客を目指す。


「お客様、お連れ様が参りましたよ」
「あぁ、ありがとう。お久しぶりね二人共。それと……」


 シャツにピッチリとしたズボンというラフな格好の天道さんが初対面のメカブに視線を向けてる。てか既にその格好に若干引いてる様な……


「ふっふ、この私を知れるとはまた幸運な人間だ。よかろう、我が名を教えてやろう。我が名はメーカー•オブ•エ––」
「彼女はメカブです。今の事態に協力してくれてるんです」
「ちょっ!」


 折角格好良いポーズと共に名乗ってたのに、日鞠の奴があっさりと纏めた。メカブはノリノリだった瞬間を奪われてご立腹だ。


「ひまり〜〜〜!」
「一般人にはそれキッツいんだよメカブ」
「はうっ!」


 容赦無い事を言われたメカブはその場にへたり込む。どうやらかなりエグくその言葉が突き刺さった様だ。


「大丈夫なの彼女?」
「大丈夫ですよ。中々逞しい子ですから」


 ニッコリと笑ってそう言う日鞠。まあ確かにメカブの奴は中々に逞しいかも知れないな。普通あんな格好もあんな脳内設定も外で披露なんて出来ない。普通に生きてる人達には絶対に無理だろう。
 それを考えると、図太く逞しい神経をメカブは持ってるよな。そこだけは感心する。自分の生きたいように生きてるんだろうなって思えるからな。憧れたりは全然しないけど。


「ふん、まあ真名はそう安々と名乗る物でもないしね。メカブです、よろしく」
「……よろしくメカブちゃん。ホントに逞しいのね」
「上位の存在ですから」
「??」


 天道さんが頭にクエスチョンマーク浮かべてるぞ。俺達の様に慣れきった人種じゃないんだから自重しろよな。初対面のメカブの名乗りも終わったので、俺達はそれぞれ席に付くことに。四つある椅子の内、一つは既に天道さんで埋まってるから残り三つにそれぞれ腰掛ける。
 てかこれじゃあラオウさんの座る分なかったな。まあテーブルを付け足せばいいだけなんだろうけど。取り敢えず天道さんの正面にメカブ、メカブの隣に俺、天道さんの隣にメカブが座った。
 そして注文を適当にして、本題は始まる。


「天道さんは無事だったんですね。LROの運営側が捕まったからてっきり天道さんもそうなのかなって?」
「捕まったのは運営としてLROに関わってた部門の人達だけよ。それ以外はどうもされてない。でも、LROやフルダイブシステムに出資してた会社はどこもてんてこ舞いだけどね」


 いきなりこれまでの出資分を国が吸い上げようとしてるんだからな……そりゃあてんてこ舞いにもなるか。横暴だもんな。黙って見過ごせる物じゃない。


「これからどうして行くんですか?」
「取り敢えず連盟作って国と対立……って線はないわね。国家規模のプロジェクトになるのなら、我先にと出資企業は向こうに付き出してるのが現状。火の粉を押し付けられるのはたまった物じゃないでしょうからね。
 実際LROやってた会社は批難相次いでるわけだしね。株価は暴落で倒産寸前よ。出資会社もそれに引っ張られる感じで下がりつつあるし、株価回復の為にいち早く国家プロジェクト参入表明したいんでしょう。つまりは貴方達に味方しそうな所はどこにもないわ」


 なんか来て十分もしない内に終わりそうな事を言われてるんだが……けど味方が居ないなんてのは分かってたことではあるか。日鞠の奴はあんまり気にしてそうでもないしな。


「そうですか。大体予想通りの動きです。それは仕方ないし、止める事も私達にはできません。天道さんはどうなんですか? 国家プロジェクトになるのなら、今までの規模では出来なかった事が出来て研究スピードもあがるかもですよね?
 そしたら当夜さんが目を覚ますのも見えてくるかもしれません」
「そうね。確かにそうなればいいのだけど……」


 なんだかあんまり嬉しそうではないな。ずっと待ってる筈だろうに。天道さんは目の前のコーヒーをかき混ぜながらこう言うよ。


「私は他の誰かが当夜に勝るなんて思えないのよね。だからあんまり期待してないな」


 なるほど、秀才が幾ら集まろうと本物の天才には及ばないと……そう感じてる訳か。確かにそれはそうかもしれない。天才って計り知れないからな。俺はそう思いながら日鞠を見るよ。
 こいつも天才––というか、天才って言葉だけでは何かシックリこないなんかなんだよ。頭もいいし、なんだって出来る。誰からも一目置かれる……そこらの天才ってだけじゃない。当夜さんもきっとそうなんだろうなって想像してる。それならやっぱり秀才じゃあ到達出来ないどこかに居るんだろうなっては思うんだ。
 だって俺達が日鞠の場所まで行けない様に、誰も当夜さんのところまでは行けない……それは同義じゃないだろうか。


「それで、日鞠ちゃん達は何やってるの? やっぱり目論見はスオウくんの奪還かな?」
「それは勿論、その時が来たらやります。こちらには人類最強が仲間に居ますので」
「なにそれ? 凄いね」


 なんか天道さん案外普通だな。もっと落ち込んでるか慌ててるかしてるかと思ったんだが、全然そんな事ない。いつも通りって感じ。これが大人の余裕ってやつか?


「まあ私個人としては応援してる。私が期待してるのはスオウ君だからね。彼はまだあっちに居るのよね?」
「ええ、スオウはきっとまだ向こうで戦ってます。セツリちゃんを連れ戻す為に」
「妬けちゃうね」


 そう言いつつ、コーヒーを啜る天道さん。日鞠は俯き加減で「別に」と呟いた。それを見てなんだかニヤニヤしてる。まあニヤニヤってか、優しく微笑んでる感じなんだが……


「スオウくんもこんな可愛い幼馴染が居るのに、ずっとゲームの中ってのも酷いわよね。一回戻ってきてれば……って今の状況は彼が望んだ物じゃないわね」
「…………多分、スオウはもう自由に行き来出来ないんだと思います」
「え? 待って……それって………」
「既にスオウにログアウトの選択権はない。だからこそ、スオウだけはLROから排除されなかった。意識があるにもかかわらず、他の意識不明者と同じように出てきてないのは、きっとそのためです」
「そう……なのね」


 天道さんは天井を仰いでその腕で目を覆うように隠す。ショックを受けてるって事だよなこれは? そう思ってると、店員さんが注文を持ってやってきた。なんだか重い空気にたじろんでるのか、ちょっとオドオドしながらオーダーしたものを置いていく。
 なんか変な目で見られる様になったな……隣でメカブが脳天気にケーキにがっつく中、天道さんは日鞠の方を再び見てこういった。


「心配……よね。そしてごめんなさい。きっと私達が背負わせたから……色んな重荷が彼に伸し掛かってしまってる」
「……大丈夫ですよ。スオウなら大丈夫です」


 ハッキリとそう言う日鞠。その言葉に大人な筈の天道さんの方がハッとしてる。


「スオウはきっと皆を助けてくれます。だから私が……私がスオウを助けるんです。私が皆を助けるときはスオウがいつも私を助けてくれた。今までずっとそうだったから、だから今度もそうします。
 私達はそうやってずっと二人でどんな時だって乗り越えてきたんです。だから今回も大丈夫。そう信じてます」


 最後に見せた笑顔はきっと強がりだろう。泣いてたじゃないかお前。けど、それでも花が咲き誇るかの様な笑顔。だから俺もこう言うよ。


「親友の俺の事も忘れるなよな。スオウを助ける為ならなんだってやってやるよ」
「もぐね、もぐもぐだじもぐっぐもぐぐ」


 おい、メカブは口に詰めた物を飲み込んで喋れ。なんて言ってるか理解不能だ、だけどこいつは伝わったと思ってるのかケーキを食う行為に戻りやがった。まあきっと大した事はいってないだろう。メカブだしな。


「そうね。彼ならって思えるわね。でも彼自身も向こうの手の内で精神はLRO。どうするの?」
「それはこれからです。天道さんは当夜さんと付き合い長いんですよね?」
「そうね。小学生位から一緒ね」


 小学生……なんか想像出来ないな。


「じゃあ何か知りませんか? 当夜さんと摂理ちゃんの間だけの秘密の何か?」
「何か? 合言葉とかそう言う物?」
「ええ、そういう感じの物で良いんです。でも何かの動作とかの方がありがたいですけど」
「動作ね……う〜ん、そう言えば昔当夜が作った手文字遊びとかしてたわね」
「手文字遊びですか?」


 どういう遊びだ? 聞いたこと無い。日鞠も興味があるみたいだな。


「そうそう、両手や片手で特定の形を作ったりして意思疎通を計るってやつ。私達だけの秘密の仕草って感じね。合言葉の動作版だからシックリ来ると思うけど」


 そう言って天道さんはいくつかそれをして見せてくれた。なんだか昔を懐かしむ様にして、恥ずかしくも楽しいって感じの表情。なんだかそんな顔を見てるとちょっとだけだが天道さんや、当夜さんの昔が想像できる様な気がした。


「ん? 待てよ」


 微笑ましく見てた所にピーンと何かが来た。その言葉に反応して日鞠が「どうしたの?」と言った。俺も昔を……というか最初にセツリを見つけた時の事を思い出しながら語る。


「そう言えば、セツリの奴がそんなのをスオウに教えてた気がする。当夜さんとの秘密のおまじないとかなんとか言ってたような……」
「バカ! そう言う事は早く思い出しなさいよ」


 バカ言われても、ここずっと色んな事が有りすぎたんだよ。それに埋もれてしまってたんだ。しょうがないじゃないか。


「それで、それはどうやってたの?」
「えっと……それは……」


 そこ見てないな。あの時はセツリの事はスオウに任せて、俺は色々と調べてたんだ。だから知ってるのはスオウだけ……なんだか皆の視線が冷たく痛い。


「秋徒、あんたね……それがジェスチャーコードの可能性、限りなく高いんだけど、どうするのよ!」
「しょうがないだろ。こんな重要な事だと誰が思うかよ!」


 頭を抱える日鞠。でもそれ以上何も言ってこない。あの段階ではしょうがないと認めてくれたんだろう。でもようやく見つけた手掛かりだ……何かがまだ頭に引っかかってる気がすんだよな。


「待てよ。そのおまじないは確か、スオウの奴が病院で当夜さんに会うために使ったとか言ってた様な……」
「それよ!」


 勢い良く立ち上がった日鞠のせいで、後ろに椅子が倒れる。あつまる注目。だけどそんなの気にしてない。気にできる筈もない。だって今手繰り寄せた情報は、希望その物だ。グッジョブ俺!

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