命改変プログラム

ファーストなサイコロ

お酒は飲んでも呑まれるな!

 運ばれてくる底の浅いグラスに注がれた赤、青、黄色の飲み物。リアルでいうカクテルみたいな感じかな。取り敢えずやっすいのを所長が頼んで––まあそれでも安い––と思える金額でも無かったものが運ばれてきた。


(これで千……)


 内心本当にそう思ってた僕。お洒落にチェリーとか添えてるんならまだしも、完全に素じゃないか。しかもこれ何ミリリットルだ? 百ぐらいあるの? って感じだろ。ボッタクリにも程がある。


「なぁなぁ所長。これ、良いのか? 文句言ったほうが良いんじゃないか?」
「はは……こういう店のドリンクは総じてこういうものだ。受け入れろ」


 所長に進言したけど、腕を震わせながらメニューと睨めっこに忙しそうだった。受け入れろって……おかしな事にはおかしいと言いなさいと言われて育ってきたからな。いや、育てられた訳じゃないけど、ずっと一緒に居る奴がそんな奴だから、気になる。
 だってホント、これ絶対に千とかおかしい。リアルでいう栄養ドリンクでも無いくせに、グラス一杯でどれだけ取るんだよ。せめてドリンクバーなら文句は言わないけど……そう思ってると、ヒョイッとリルフィンの奴が三個のグラスを取って一気に口に流しこむ。
 そしてゴクッと、喉を鳴らしてこういった。


「足らんな。すまないが今度はもっと大きな器で頼む」


 するとリルフィンの隣に付いてた派手ドレスの女の人が素早くメニューを開いて体を寄せる。
「そうですか? ならこれなどいかがでしょう? 量も’質’も最高ですよ」
「それで行こう」
「ご注文うけたまわりました〜♪ G–ソトラス一本追加で〜す♪」


 その瞬間パッパパ〜といきなり変な音が響きわたった。


「なんだ?」
「おい貴様! なんて物頼んでる! 値段いくらだ?」


 そう言って所長はメニューをバララララと捲って今の品を探す。するとジャカジャカ五月蝿く派手な音楽と共に、大量のバニーガールが! おっきいのとかちっちゃいのとかいっぱいだ。そしてその中の一人が普通サイズのボトルを掲げてスポーン! とコルクをぶっ放す。
 トクトクとグラスに注がれるその色は毒々しい禁断の果実みたいな色をしてる。


「はぁ〜い、お値段なんて気にしちゃダメダメ♪ ささ、研究者さんもどうぞどうぞ」
「ぬぬっ!? 何故俺がマッドサイエンんっ!」


 所長の隣の女の子がメニューを強奪して代わりに今のグラスを所長の口に流しこむ。ゴクゴクと無理矢理飲まされてグラスに注がれてた液体はみるみるなくなってく。


「プハァ! 上手い!」
「そうでしょう。ささ、もう一杯♪」
「お〜う! どんどん持ってこ〜い!」


 あれ? なんか所長の奴、たった一杯で酔ってないか? どれだけ弱いんだ。頼んだリルフィンは黙々と酒飲んでるだけだし。隣に付いてる女の人の話しを時々相槌で返す程度。まあリルフィンの奴はローレ以外に興味無いからな。
 でも黙々と自分の満足行くまで注文しそうでもあるよな……こんな店って腹を満たす所じゃないんだから、一品一品が異様に高いも……


「いっ!? サラダ一皿千超え……しかもフルーツの盛り合わせとか三千––五千––壱万ってどんなフルーツ使ってるんだよ……」


 皇室御用達とかか? でも実際どうせそこらの八百屋で手に入る様な物だろこれ? それかもっと酷く考えれば、缶詰とか……やっぱり怒った方が良いだろ。


「おい所長。これ以上の注文はやめといてた方が……」
「プッハァ〜、いや〜いい気分だ。お嬢さん良い物もってるね〜ぐへへ」


 このエロ紳士は……自分達が何をしに来たか既に忘れてるだろう。てかたった数杯でもうグデングデンじゃないか。僕は取り敢えず、そのグラスをひったくる。


「なに〜するんだぁ〜」
「なにするんだ––じゃない。アンタそんなガブガブ飲んで、金あるのかよ?」
「うぐっ……」


 一杯の酒でタガが外れちゃって見ないようにしてたのかも知れないけどな。そうは問屋がおろさないぞ。現実を直視させて、目的を思い出させてやろう。


「良いか所長。僕達にはここで豪遊する資金なんかない!」
「そ……そんな………」


 ガクッと崩れ落ちる所長はテーブルに突っ伏す。これで目的を思い出して、ちゃんとやるだろう……そう思ってたけど、どうやら甘かったようだ。


「ぐへへ……これはこれはいいアングルだ」
「もうお客さん、パンツ覗いでる〜♪」
「きゃぁヘンタ〜イ」
「はっはっ、変態ではない! マッドサイエンティストだ!」


 立ち上がって白衣を翻しそう宣言する所長。駄目だこいつ。完全に目的なんかどこかに吹っ飛んでる。


「マッドサイエンティストってな〜に?」
「ふっふ、よくぞ聞いた。それはこの俺がこの街、いや世界で最高の研究者と言うことよ! はははははははは!」
「「「きゃあ! スゴ〜〜〜〜〜イ!!」」」


 複数の女の人がそんな甲高い声を出す。くっそう……どんどん持ち上げられて、所長は気を良くしていく一方だ。金なんてあるわけもないのに。リルフィンの奴はただ黙々と––


「––っておいリルフィン! なんだそれ?」
「追加注文だ」


 何やってんだこいつ!? リルフィンの周りにはいつの間にか、サラダやらオムライスやらデザートやらが並んでた。お前はお前でガッツリ食う気過ぎだろ! てか、食事済ませたよな!? 


「歩いてる間に小腹が空いてな」
「小腹って量じゃねーよ!」
「は〜い白い髪のお兄さんおっまた〜♪」


 そう言って女の人が更に数本のボトルを追加する。えええええええええええ––だ。つまりはもう駄目だ––って思った。どこからこいつら金を捻出する気だよ。


「ほらほら、お兄さんも楽しんじゃおう♪」


 そう言って僕も狂わせようとしてくる女性。露出の多い服で無駄に体をくねらせて、なんだか挑発されてる。垂れる胸を腕で支えて、その大きさをアピールしてるみたいだ。確かに大福みたいと言うか、メロンパンみたいというか……重量感は凄そうだ。
 でも僕的にあんまりこうムラムラしないと言うか……


「いえ、僕はそれよりもちょっとトイレに」


 僕はそう言って二人を置いて席を立つ。全くやってられない。どれだけ気苦労しないと行けないんだよ。


(それにしても……第二研究者の奴等はどこに?)


 てかそもそもよく考えたらさ、今日絶対にそいつ等が来るとは限らないんじゃ……いや、マジで。でもその考えは振り払う事に。だってそんなの最悪だろ。願うしかな––


「うん?」


 あれ? っと僕はあることに気付いた。最初あそこまで通されたときは、緊張で周りとかあまり見れなかったけどさ……なんだかてきとうに眺めた感じだと周りの席よりも明らかに僕達が通された席は豪華では無いだろうか? 店の中央付近に位置してるし、ソファの周りには花や植物があってなんだかちょっと豪華に見える? 
 それによく考えたら、たった三人にしては女の人がついてる割合が多いような……立ってる人もいるし、勿論ソファーにだって……僕が席を立ったから、挟みこむような配置になってる。
 そう思って見てると、すれ違った女の人達の会話が聞こえてきた。


「さて今日はどの位使ってくれるのかしらね?」
「やっぱり研究機関の人は凄いよね。なんだって研究費で賄えるんだもん♪」
「まあ、そのおかげでこっちも潤う、皆さんの疲れも吹っ飛ぶ。最高でしょ」
「うんうん、使い方が間違ってるって訳じゃないよね♪」


 ……間違ってる! 僕の顔はきっと血の気が引いてると思う。だって、それは間違いなんだもん。僕達は研究員じゃない。多分、所長の格好で勘違いしてしまったんだろう。どうりで、金無いと言ってる割に、どんどんメニューを勧めるわけだ。
 ジョーク位にしか捉えられて無かったんだ。そしてバシバシオーダーを受けるのも、第二研究所の研究員なら、金に糸目をつける必要なんてないとわかってるから……だけどそれは勘違いなんだ。
 そのマッドサイエンティストにはお金なんて……ない! 


(やっぱりトイレに行くふりをして脱出するかな?)


 そんな考えが浮かんでくる。だって、僕は一度も飲んでないし、食べてない。二人には悪いけど、僕が請求される言われはない! そもそもリルフィンも所長も目的見失いすぎなんだよ。
 てか、なんでリルフィンの奴は酔ってもないのに、あんな滅茶苦茶頼むんだよ。金の概念位、幾ら精霊といえど持ってるだろ。ずっとローレにこき使われてきたんだからな。


(ホントに逃げるかな? てかフランさんはどこに?)


 彼女の指示で入ったのに、肝心の彼女が居ないじゃないか。まさか既にこの現状を遠くから見て逃げ出したとか? 有り得そうな気もするな。まさかあの貧乏そうな所長が白衣一つで間違われるなんて思わないもんな。


「いらっしゃいませ~!」
「ん? ––げっ!」


 僕は取り敢えずトイレに向かう通路に駆け込んで身を隠す。店内に入ってきたのは白衣を来た集団。しかも全員胸にバッジみたいな物をつけてる。あれは……もしかしたらもしかしたらもしかすると思うんだがどうだろうか。
 そう思ってると先頭の男性についた女性がどこかを指さしてる。その指さしてる方向を確かめると明らかに今さっき僕が席をたった方向じゃないか! あれ絶対にこんな事をあのお姉さんは言ってるだろう。


「先客の方々はあちらでお待ちです」


 とか。それに対して明らかに腕を組まれてる人は鼻の下を伸ばしながらも、「先客?」ってな感じで疑問を持ってる感じだ。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。このままだと完全にはち会うし、そうなったら第二研究所となんの関係もないとバレるし、そもそも第二研究所の奴等を上手く使って第一研究所を攻略するという目的すら危うくなるぞ。
 一体どうすれば……くっそ、回避する手段が何も思いつかない。そうこうしてる内に第二研究所の人達が所長達の居る席へと案内されてく。これはもう駄目だろ。回避する手段はない。諦めたらそれで終わり……だけどこればっかりはどうしようも……
 でもあの酒が入った二人だけと邂逅させたら、どんな険悪な事になるか分かったものでもないかも。一応協力……というか利用を狙ってるんだ。最初は操りやすい関係に持っていくのが大事。話しも出来なくなるんじゃこれからに差し障る。


「くっそ!」


 僕は結局席に戻る事に。この位の状況乗り越えないと、そもそもシクラ共に勝つとか笑い草だろ。急いで席に戻る僕。だけど既にそこには嫌な空気が漂ってた。


「誰だ貴様? 我等の研究機関を名乗るとはいい度胸––」
「ふわっはは! 二番で甘んじてる奴等に誇りがあったとは驚きだな! 片腹痛いわ!」


 なんて事を言ってるんだあの酔っぱらい! 一触即発とはまさに今の空気だろ。アホ、完全にアホ。もう関係修復は不可能かも知れない。そう思ってると、第二研究所の一人が所長の素性に気付いたようだった。


「こいつ、第四研究所の奴ですよ! あんな非公式の研究員が、何を偉そうな事を!」
「ふん、二番煎じの研究しか出来ない貴様等よりも俺は、情熱と熱意………そして才能に恵まれてるがな! がーはっはははははは!」


 そう言ってグイッと酒を上機嫌そうに煽る所長。マジでこの酔っぱらい黙らせた方が良いかも知れない。スンマセンと謝れば許してくれるかな? 既に遅そうだけど……


「才能だと? そんなのは第一の奴等と触れ合って言ってみるんだな。自分が井の中の蛙大海を知らずだったとよく分かる。貴様がマッドサイエンティストなどと名乗って上機嫌に成ってる間にもあの天才集団共は魔鏡強経の扉を叩きつつあるとな。才能という言葉を軽々しく使うな。この落ちこぼれが!」


 落ちこぼれ–––まあきっと正しんだろうなって思った。多分ブリームスの住人の認識はそうだろう。あんなボロっちい建物のあるかないかも分からない研究所で所長やってるとか、落ちこぼれ以外の何物でもないだろう。


「なるほど、流石天才に尻尾を振ることにした負け犬共だ。研究などしても意味ないとわかってるから、こうやって酒を煽りによく来ると。ようは自分達も落ちこぼれと自覚してるんじゃないか?」
「何!?」


 カチンと来たんだろう。そりゃあ第一程じゃないにしろ、第二研究所だって十分優秀な人材の集まりだろうからな。それなのに第四なんて底辺の所長にそんな事を言われればそりゃあカチンとも来るだろう。
 燃え盛る互いの炎が今にも衝突して乱闘騒ぎにでもなりそう……プライドがとっても高そうな第二研究所の人達は、流石にここまで言われては簡単に引けないだろう。そして所長も酒が入ってるせいか、妙に強気に成ってる。
 いつも直ぐに日和ってたのに、何故かめっちゃ人数違うのになかなか日和らないんだもんな。


「あの〜お客さん、あの人達のお仲間じゃないの?」


 この一触即発の空気の中、ポワポワした声でそう聞いたのは、なんか頭弱そうな娘だ。まあでも店の人達はそれを気にしてた筈だ。空気を読まない子にグッジョブ! ––って思ってるだろう。
 金の無い客にこれ以上、接待しても意味ないしな。どうするんだ所長? ここで堂々と関係無い! とか言ったらボコボコにされて摘み出されてもおかしくないぞ。


「「全然関係ない!!」」


 言い争ってた二人が同時に堂々とそういった。もう頭を抱えるしか無いな。いや、第二研究所の人がそれを主張するのは当然だ。全くもって正しい。異論はないよ。だけど所長……アンタまでそれ言ってどうするよ! 
 そこ認めちゃ駄目な所だろ! 金どうするんだ金! 嘘でも良いから関係者装ってれば、まだ色々と時間稼ぎ位にはなったろうに。どれだけ真っ直ぐにそしてハッキリと無関係を主張してるんだ!


「じゃあお金は〜?」
「無くても君達のおかげで楽しいお」


 楽しいお––ってなんだよ。気持ち悪すぎて引いてるぞ。すると第二研究所の一人が所長を指差して周りの女の子達にこういった。


「そいつは第四研究所の……いや、変態研究所の奴なんだ! マッドサイエンティストを自称するこの街一番の痛い奴。聞いたこと位あるだろう」


 そんな指摘に周りからは「あっ」とか「もしかして」とかの声が漏れてきて、そして女特有のヒソヒソ話が周りで展開しだす。変態研究所とか呼ばれてるのか彼処……フランさんも苦労する訳だ。正体がバレて、途端に周りの女の子達の目が変わってく。
 今まで金づるを見る目だったのに、虫けらでも見るみたいに成ってくよ。だけど酔ってる所長はそんな事に気付くはずもない。リルフィンの奴は最初から飯しか見てないし、アイツはある意味でこういう店の女の人のプライドをズタボロにはしたかも。


「ふわっはは! そうだ、世界を恐怖に陥れるマッドサイエンティストとは俺の事だ!」


 そう言って高笑いしてる所長から離れてく女の子達。そして奥の方に屈強そうな男が見えた。ヤバイな。マジで摘み出されるぞ。上機嫌に笑ってる場合じゃない!


「マッドサイエンティストなんて笑わせる。何も出来ないから、狂気の科学者を名乗ってるだけだろ? お前の様な奴に何が出来る! 錬金はそんな安い物じゃない! 貴様が俺達……いや、この街の科学者を汚してるのだと知れ」


 そんなリーダー格の人の発言で周りの第二研究所の人達も威圧的な空気を所長に送ってる。すると流石に何か不味いものでも感じ取ったのか、所長も俯いた。少しは引く気に成ったのか? とか思ったけど、この位置からならニヤニヤしてる顔が見えてた。
 まだ一波乱有りそうだな。てか、既に屈強そうな男がズカズカと進んでる。あっという間に奴等は来るぞ。余裕かましてる場合じゃない。


「ほんと、どうしようもないんだから」
「ん?」


 なんだか聞き覚えのある声だった様な……それにフランさんが付けてた香水の匂い? でもその後姿は、一緒にここまで来た姿じゃない。背中なんて大胆に開けてるし、服は目が痛くなる様なビビット色。ヒールも高く髪もなんだかボリュームが違うように見えるし……やっぱり別人か? 
 そんな彼女は屈強な男に抱えられそうに成ってる所長の所へ。


「お待ちください。他のお客様も居るのです。ここは穏便に行きましょう」
「おお……」
「助手……か?」


 空気が変わる……とはこの事か。ザワッとその姿を見て殺気立ってた周囲が一気に別の色に変わったようだった。そこまでなのか? 実際僕は正面から見てないんだよな。なんか気になる。僕も急いで近くに向かう。


「ちょ、ちょっとフランちゃん。幾らフランちゃんの頼みでも、無銭飲食を見逃す事は出来ないんだよ」


 誰だあれ? なんだかちっこい小太りの蝶ネクタイを付けたオッサンが、そんな事を言ってる。


「オーナー、大丈夫ですよ。お金はキチンと回収します」
「本当に?」
「勿論」


 フワリと花が咲くように優しく微笑むフランさん。てかやっぱりフランさんなんだな。女は化粧で化けるというけど……印象変わりすぎてビックリだ。仕事中かオフかの差じゃない。マジで別人。
 一番驚いてる所長なんて空いた口がふさがってない。


「第二研究所の皆さん、無礼の数々すみません。ですが科学者として、何かを成し遂げたい気持ちはあるはずですよね? 第一研究所に全ての威光が集まってるこの現状……それを崩せるのはどこかのマッドサイエンティストじゃなく、私は貴方達だと思います」
「じょっ助手! 何を––」


 一瞬睨まれて言葉を紡ぐ所長。第二研究所の人達はフランさんの言葉で、少し気を良くしてる様だ。だから所長は黙っとけと、そういうことだろう。


「ま、まあ我々ならば第一の奴等の鼻を明かす事も夢ではない––と、自負してるな」
「流石です。だけど重要な資料や機密は第一が握ってるのも事実ですよね。でも今、実は第四研究所外部予備研究所には魔導強経第一の理論が使用された飛空艇があります。調べて見たくはないですか?」
「それは……本当かね?」


 第二研究所の奴等の目がなんだか変わった気がした。やっぱり科学者ってことなんだろうな。生唾を飲み込んだ様で、垂涎のお宝の情報を得た奴みたいになってる。フランさんは頷くよ。


「どうして君が……そんな事を」
「実は私も第四研究所所属の科学者ですので。でも実際、あんな廃れた変態研究所よりも、第二研究所の皆さんと仲良くさせて頂きたいんです」
「それは当然のことだな。いや、我等も君なら全然問題ない」


 うんうんと周囲の奴等も一斉に同意旨を示してる。逆に所長はどんどん青ざめて行ってる。まさかフランさんが離れるなんて思いもしなかったのか? どこにそんな自信があったのやら。
 まあ演技だろうけど、酔ってる所長は本気にしてそうだ。まあ良いんじゃないかな? 一度は危機感煽ってないと一生気付かなそうだしな。


「それはありがたいです。ですが引きぬくのも実績が必要ですよね? そこで私は皆さんと共に、魔鏡強経の飛空艇の完全修理を成し遂げたいと思ってます。勿論それには魔鏡強経第一の理論の解明が必要なので、十分な実績になると思うのです。
 そしてそれは皆さんの利益にも成るはずです」
「確かに……だが、魔鏡強経……しかも第一となると、ヘタに手をだすと……資料や記録は第一だしな……」


 そこでフランさんが皆さんを席の方へ促す。


「立ち話もなんですので、お酒も飲みつつ語りましょう。皆さんに美味しいお酒と、輝かしい今後の為に私は精一杯サービスさせて頂きます。第二•第四の共同戦線で打倒は第一です」


 最初はそんな言葉にそこまで乗り気でもなかった第二の皆さん。だけどお酒が進むに連れて、気が大きくなって行くのが見て分かった。そこに何故かヤケクソで所長も参加してた。
 いつの間にか意気投合してるし、リルフィンに興味を持つ第二の人達も居る。僕は蚊帳の外で何故か小太りのオーナーにこき使われる羽目に。納得出来ない。けど、フランさんのおかげで亀裂が入ってた関係は修復され、協力を取り付ける事も出来、しかも代金は第二の人達が全額負担してくれた。正確には上手く持ち上げて払わせただけだけどね。
 めでたしめでたしだ。だけど何故だか、一歩店から出たら所長は疲れたように肩を落としてた。黒い夜空を仰ぎ見て「はぁ〜」と大きなため息一つ。一体どうしたんだろう? 
 そう思いながら帰路について、再び日が登るのを僕達は静かに待った。

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