命改変プログラム

ファーストなサイコロ

夜の輝き

 みんなでワイワイと食事をした後、クリエの奴がオネムになってスヤスヤと寝息を立て始めた夜もこれからって時間帯に僕達は行動を開始する。クリエの付き添いにミセス•アンダーソンを残して、他の全員で繰り出すのは夜のブリームス。
 ああ、そう言えばピクも今回はお留守番。色々と頑張ってくれたからな。クリエと一緒にスヤスヤと今や深い眠りの中だ。そしてテトラも当然の事ながらまだ動くことは出来ない。大丈夫だろうとはずっと思ってるけど、目を開ける様子は今のところないんだよな。
 だけど実際、こいつにはここら辺で休んでもらってた方がいいのかも知れない。最近頼り過ぎてた部分あるしな。神だから……いや、邪神だからってかなり尊厳も感じずにその力を宛てにしてた所が僕達にはあった筈だ。テトラの奴は邪神言われてる癖に、面倒見良いから、そんな期待にいやいや言いながらも応えてくれてた。
 けどそれがこの結果だ。アイツが居なかったら僕達は今頃、あの艦隊に排除されてたことだろう。アイツはやっぱり強すぎるから……それをどこか拠り所にしてたよな。自分達が対峙したからこそわかってるその強さ。
 それがこちら側についてるんだ……頼りにしてしまうのはしょうがないじゃないかってまあ思う。でも……テトラでも及ばない敵は既に居るわけで……いつかはきっとこうなってしまったんだろう。
 一人じゃ結局ダメなんだ。


「それじゃあ頼むわよ」
「わかってるさ。そっちも一人で留守番させて悪い。クリエ達を頼む」
「任せなさい。私は攻撃よりもどちらかというと防御の方が得意なのよ」


 そう言ってミセス•アンダーソンはその首から下げてる十字架を見せる。まあ十字架だし、どちらかと言えば守るって感じの物ではあるよな。けど結構えげつない攻撃をしてた気がするんだが? 
 でもまあ本当は何も起こらなければそれが一番だよな。緊急の連絡手段はあるけど、そんな物は使わないに越したことはない。けどまっ、期待薄な気はするけどな。既になんか嫌な予感が……してるような、してないような。


「ほら、行くわよ僕。刺激が強かったらごめんなさい。なにせ今からは大人な時間だから」
「どんな刺激だよ……」
「ふふ、知りたい?」


 なんだかOL風の服から少し夜の格好にシフトしたフランさんが、髪をかきあげながらそう告げる。昼間は普通にスーツだった訳だけど、今は昼間ほどガッチリと身を固めた格好じゃない。髪も溶かしてるし、お腹丸見えだし、結構露出高い。でも下はやっぱりピッチリなタイトスカート。どうやらこの系統のスカートが好みらしい。でも昼間の大人しめな色じゃない。
 涼し気な青と深い青が下から上へグラデーションしてる。足元も昼間は黒いハイヒールだったのが今は軽く見える感じのハイヒールだ。なんだか花柄があしらわれてる。メイクも直したのかバッチリ決めて、なんか今から男を落としに行きそうな気がしないでもない。


「あながち間違ってないかもねそれ」
「おいおい所長、おたくの助手んな事言ってるぞ。あの格好で男を誘惑するって公言してるぞ」


 僕はオッサンに向かってそう囁く。いやだってね……二人の関係的に面白い反応でも見えれるかもと期待出来るじゃないか。すると所長は大きく笑ってこういった。


「ふははは! 良いではないか。研究の為ならどんな犠牲も厭わない。それこそマッドサイエンティストの助手に相応しい!」
「所長……ほんとにそれで良いのか?」


 まさかとは思うけど、男誘って最後まで行っちゃったらどうするんだ? 捨てられるぞ。そうなったらここもあの研究所も一人で切り盛りしなきゃ行けなく成るわけで……絶対に汚らしくなるの目に見えてる。
 てかマジで所長はフランさんの事、なんとも思ってないのか?


「情報を得るためだ。そして助手の全ての行動はこのマッドサイエンティストが世界にその名を轟かせるための布石でしか無い!!」


 バッサバッサとその白衣をはためかせる所長。なんでもかんでも助手のやることは自分の利になることだと思い込んでるのか……そこで何があったとかはどうでもいいのかな? 僕はちらりとフランさんを見るよ。
 彼女はなんだかそんな高笑いしてる所長を優しい目で見てた。それは良いって事か? とか思ってると、僕の視線に気付いたら、いきなり頬を膨らませてこう言うよ。


「ふん、別にアンタの為だけにやってるわけじゃないんだからね。私だって、あんな辺鄙な所でただ終わりたくないだけ。研究者としてきちんと認められる事を目指してるのよ」
「心配するな助手。お前の能力は俺が誰よりも認めてる。このマッドサイエンティストのお墨付きだ。誇っていいぞ!」


 更なる高笑いを始める所長。暗い森の中にバカみたいな笑い声が響き渡る。まったく……このオッサンは既にフランさんを自分の物の様に見てるのではないか? そして当のフランさんはというと、さっきの所長の言葉で顔を赤らめてた。
 どうやら相当嬉しかったようだ。


「あ、アンタ達が来てちょっとは良かったかも知れないわ」


 ボソッとそんな事を言われたけど、よく意味がわからなかったな。なんだかフランさんってキツそうに見えて、物凄く大和撫子な人だな。好きな人の為に尽くして、支えになって、だけど普段は気丈に振る舞う。
 所長の方は意識なんかしてないけど、彼女のほうは所長の言う言葉を取りこぼす事無く受け取って噛み締めて、それで満足して幸せそうで……なんか所長がムカツクな。てか最近、自分の周りには幸せそうな奴が多くて困る。
 その筆頭がアギトの奴だけどさ……本当にアイリって……正直うらやましい限りではあるよな。それにこの痛いオッサン。自分の幸せに気付いてないところにムカツクな。それはそうと、一つ気になることが。


「なあ、思ったんだけどここってモンスターは出ないのか?」


 随分静かな森だ。普通はそれさえ不気味なものなんだけど、ここはそんな感じしない。寧ろなんか神聖な空気さえ感じると言うか。どういう事だ?


「ブリームスにモンスターは居ないわ。見たでしょ? 街の中。誰か僕達みたいに剣とか武器、ぶら下げてた?」
「そう言えば……誰もそんな物持ってなかったな」


 それどころか防具だってしてなかった。本当にリアルの方に近い感じだったからな。なるほど、あれはモンスターの脅威がないからか。それなら納得できるな。


「この街は隔絶されてる。あの街と周辺五百メートルを繰り抜いてるから、外からモンスターが入ってくる事なんかないし、運良くこうなる時に、中にもモンスターは居なかったのよ」
「だから武器とか必要ないと……」
「必要ないって訳じゃないけどね。モンスターは居なくても狂気が無くなるわけじゃない。脅威が無いのなら脅威となり得る存在が同じ人になるだけ」
「残酷だな」


 折角モンスターの脅威から逃れられたのに、争いは無くならないってことか。まあ分かってた事だけどな。嫌な奴の言葉が頭に浮かぶ。


『誰もが敵。この世界の愛は憎しみ。繋がりは怨嗟の輪廻の輝きだ。だが悲観することはない。それが世界の美しき姿なのだから』


 そうだと思えばそうなのかも知れないと、あの頃の僕は思った。そして実際、今も別に否定はしない。どこかで納得してるしな。それを否定してるのは日鞠の奴だ。あいつは世界の闇なんて知らない。
 あの頃は……だけど。今は色々と大人に成った部分もあるだろう。でも本質は変わってない。今でもアイツは、この言葉を否定するだろう。そう思う。


「残酷なものよ。現実なんてね。けど外よりはずっと安全でしょう。だからこそ、外との併合をずっとこの街は拒んで来たんだもの」
「併合とか出来るのか?」


 なんか呪い的なものでこんな風に成ってるのかと勝手に推測してたけど、違うんだ。やろうと思えば普通に出現出来るってことなのだろうか?


「私達には外の情報も入ってくるわ。それがどうしてか分かる?」
「それは……中の住人は自由に行き来できるって事か?」
「正解。私達は既にこの現象を解明してる。だから現実にこの街を戻す事も出来るわ。でも……それが本当にいいことかどうかは別でしょう? だって既にここの大部分の人達はモンスターとか知らないのよ。
 そんな人達がモンスターに溢れてる世界と統一されたらどうなるか……それに問題はここの錬金の技術。外の世界とは別の進化を遂げてるわ。あの船を見てもわかるけどね。異常な力は脅威とみなされる恐れがある。
 争いとかに発展するのは望んでないじゃない。だから慎重になってるのよ」


 なるほどね。まあ確かにこれだけの街がドカンと向こうに鎮座してきたら、そりゃあ驚くよな。しかも未知ってわけでもないけど、強力な力を大量に所持してるんだ。脅威とみなされても文句は言えない––って待てよ。


「おい、さっきお前達は行き来出来るって行ってたよな? それなら、存在を秘密裏にどこかに教えてるとか無いのか?」


 どこまで徹底してその存在を隠してるのか……実際同じ人の国の連中は知っててもおかしくないような?


「案外鋭いわね。確かに向こうのお偉いさん方は知ってるわよ」
「やっぱりか……」


 ん? ちょ待てよ。僕は手を顎に置いて考えてた訳だが……ふと不味いことに気付いた。


「おい、外の連中がここを知ってるって事は、その内僕達を捕まえにくるんじゃ無いのか?」


 上手く変なところに逃れられたとか思ってたわけだけど、存在を知られてるんじゃ、そうは行かないよな。だけどそう言った僕の緊迫感なんかどこ吹く風に二人は言う。


「そうかもね」
「気にするな!」
「いやいや、気にするところだろ!」


 お前達にとってはどうでもいい事かも知れないけど、こっちにはとってもとっても重要だ。このブリームスが人の国と繋がってるのなら、うかうかしてられない。


「やはり一刻も早く情報を得て、グリンフィードを直して脱出が理想だな」


 後ろを付いてきてるリルフィンの奴がそう言う。確かにそれが一番だな。でも、そう上手く行くか……


「だけど不思議じゃない?」


 ふとフランさんが言葉を吐く。さっきはどうでもよさそうだったのになんだ?


「考えて見れば、僕達って外の奴等に追われて来たのよね?」
「そうだよ。だからここが外に知られてるのは不味いんじゃないか」


 そう言ってるだろ! すると今度は彼女が考えこむ。何か気になることでもあるのだろうか? てか出だしが「不思議じゃない?」だったな。何が不思議か言ってもらおうか。


「ほら、向こうの研究所に居るときに来たじゃない? 治安部の奴等が」
「あのキリッとした青制服の奴等か……それで?」
「鋭いのかそうじゃないのか分からないやつね。アイツ等はこの街の治安を守る政府機関みたいな物よ」


 んっ? って事は……


「つまりは情報が伝えられてたら、あの場で僕達を捕まえてたっておかしくないって事か」
「そういう事ね。でもあいつ等はそんな素振りを微塵も見せなかった……」
「いや、それどころかご丁寧に忠告までしてくれたぞ? アンタ達とは付き合わないほうがいいってな」
「なんだとー! あのキザったらし!! ちょっと私達よりも成績よくて、勝ち街道に乗っかってるからって調子に乗って!!」


 なんだ? いきなりフランさんが切れたぞ。僕は所長に近づいて聞いてみる。


「どうしたんだあれ?」
「お前に話しかけて来た奴は、旧友なんだよ。それだけだ」
「それだけって……」


 どう見ても「それだけ」って事は無さそうだけど。なんか恨み辛みを吐いてるぞ。折角元は美人なのに、なんか妖怪染みてみえるな……このモンスターが居ないはずの森に妖怪が降り立ってる。


「いつもの事だ。しばらくすれば元に戻る」
「ならいいけど……」


 所長は流石に慣れっこなのか平然としてるけどさ、僕達は戦々恐々だ。なんか溶かしてる髪がウネッてる様に見えるのは錯覚だよな? どうか錯覚だと言ってください。


 妖怪化したフランさんに怯えつつも、確実に歩を進めてた僕達の目の前に光が見え始める。ようやく見え出した街の光……それがなんだか救いの光の様に感じれる。だって瘴気を放つ妖怪が近くに居るんだ。
 地獄への道でも歩いてるのかと思えてしまってたわ。だけどこんなきらびやかな場所が地獄な訳がない。高い塀の向こうの空を彩る光は、色とりどりで、細かったり太かったり、別れたりする光の線はそれだけでなんだか楽しそうに見える。
実際LROでこんなに夜空に人工物的な光が闊歩するのは始めて見る気がする。今までもそりゃあ凄いものが夜空を彩ったりしたけど、それは全てもう規格外みたいなさ……街が一つ丸ごと燃える光とか、月に向かう螺旋の階段とか……純粋にスッゲー! と思える感じの物だった訳だ。
 それは実際リアルの方では味わえないもの、でいいんだよ。良いんだけど、毎回そんなデッカイ物に巻き込まれてると、流石に怯えが出てくると言うか……けどアレは人工の光だ。あんなのならリアルにだってあるだろう。だからこそかな? なんか驚きというか、安心がストンと胸に降りてくるみたいな感じなんだ。


 そして最初に入ってきた門から一歩を入ると、そこは既に日のある内に入った街とは違ってた。ネオンの様な眩しい光がビシバシと輝いてる。どこの歓楽街だよ……いや、リアルの歓楽街よりも酷いかも。
 だってブリームスの方は建物自体が発光してるもん。てかこれはもう、街自体が光を放ってると言ったほうが良いのかも知れない。地面も光ってるからな……なんだこれ? 発光ダイオードでも埋め込んでるのか?
 ここまで来ると歓楽街って言うか、どっかのテーマパークの様なのかも。実際、お下劣な看板とかが乱立してるって訳じゃないからな。街の人達は結構普通……


「なんかイチャイチャしてる人多いな……」


 やっぱ歓楽街だったか?


「まあ夜だからな。大人の時間だ。だがここら辺は普通に純粋な奴等のエリアだぞ。お子様もちらほら居る」


 確かに言われてみれば、同い年位の奴等がデートしたりしてるな。いっとくけど、別に羨ましくなんかないぞ。


「ここら辺では無いんだろう?」
「そうだな。第二研究所の奴等がよく使う店に行く。そこはこんな場所よりももっと……過激だぞ」


 リルフィンの言葉にそう返した所長は若干鼻の下が伸びてる。だけどリルフィンの奴は「くだらん」の一言で片付けた。やっぱり真の姿は狼だからな、人間のメスには欲情しないのか? でもローレにはご執心だからな……アイツにだけって事か。


 僕達はきらびやかに輝く町並みを進む。どこを見てもビカビカと光ってる物だから、目が痛くなってくる。町外れじゃなく、街の中央部分を進んで、その脇に少し入ると、一気になんだか大人な匂いが漂う部分が見えてきた。
 具体的に言うと、嫌らしく輝く看板がいっぱいだ。大通りの方はほんとテーマパークみたいな感じで通れるけど、一歩脇に入ると、この輝きに浮かび上がる程に、欲深い世界が広がってる。
 まあ夢があることにもしかしたら変わらないのかも知れないけど……そう思ってると先行する小さな姿が。


「おお〜、路地も本当にビッカビカね。無駄としか思えないけど、ここまで来ると、なんだかこれ自体にそれ相応の意味があるのかと思ってしまうわ」


 それは孫ちゃんだ。彼女はなんだか興奮した様子。まさかこの夜の街に当てられた? 僧兵チャンスじゃね? 今ならその高いプライドを壊して落とせるかも……


「ねえマッドサイエンティスト。何かこの明かりには意味あるの?」
「いや……そういうのは聞いたこと無いな。数代前の統治者が派手好きで、膨らみ続ける錬金のエネルギーを消費する為に、わざわざこうしたと聞いたことはあるがな」
「なるほどね……」


 考えこむ彼女は足元に魔法陣を現す。そして手を合わせて重ねた手を上下に開いてくと、なんとそこからタンポポが……どういう事? きっと孫ちゃんの魔法なんだろうけどな。彼女は自身が出したタンポポを吹いて、その花を空へと飛ばす。
 するとこちら側を振り返ってこういった。


「行くわよ僧兵A。ちょっと気になる事があるからそっちは任せるわ。こいつは家の国の兵隊なんで連れてくわよ」
「ちょ! 僧兵Aって幾らなんでも酷いだろ!」
「五月蝿い。アンタの名前なんか高貴な私が呼ぶわけないでしょ。黙って付いてきなさい」


 僧兵の奴に拒否権はないようだ。てか気になることか……実際孫ちゃんを一人にしておくのは不安だから、僧兵には付いて行って貰うのは当然だな。やっぱ拒否権ないや。それよりも彼女が自分を指名したと思え。


「だから俺はあんな女なんて……」
「はいはい、しっかり守れよ。この街の明かりに当てられてイヤラシイ事を考えたら嫌われ……いや、もしかして二人っきりになりたい口実では?」
「何!?」


 僧兵の顔が赤く火照った。まあ事実は分からないけどさ、いきなり気になることがあると言うのも変だと思うし、もしかしたら、もしかするかも知れないぞ。


「そんな……まさか……」
「ちょっと、さっさと行くわよ。グズグズしないで!」
「りょっ、了解!」


 甲高い裏返った声を出した孫ちゃんの所に行く僧兵。大丈夫かな? 二人共初めての街なのに。


「小さな餓鬼じゃあるまいし、どうにでも出来るさ。それよりも気になる事が気になるな。外から来たからこそ、見える物もあるのかも知れん」


 そういいつつ、路地に入ってく所長。真面目な顔して色物の看板スッゲー物色してるぞ。でもここって不思議な事に呼び込みとか一切居ないんだよな。料金とかも分からんし、どうするんだろうか?
 そう思ってると所長が「おっ、あれは!」とか言って小走りで掛けていった。そこで看板に向かって指輪をかざすと、何かを読み取ったのか。立体映像の綺麗なお姉さんの姿が出てきた。
 なるほど……あの指輪でね。この街の人達は誰もがあれを指にはめてるようだから、そうなってるんだろうな。便利な物だ。てか所長、完全に女の子物色してるんだけど……すると、無言で所長に近づくフランさん。
 そして彼の耳を掴んで捻じ曲げだした。


「イタっ! イタタタタタタタ!! 助手!! ヤメろ!! いやっ、やめてください!」
「え? 聞こえない。女を卑しく漁る豚の言葉なんて分からないの。ごめんなさい」


 淡々としたその口調に僕達は寒気を覚えた。所長はこっちに視線を流してる。きっと助けを求めてるんだろうけど……如何せん、自業自得だろ。目的見失って女に鼻の下伸ばしてるからこうなるんだ。
 それに健気なフランさんを知っちゃったし、気付いてないとしても酷いから同情の余地はないな。結局所長は路上で土下座してようやく許してもらってた。


 そんなこんなを乗り越えて、僕達は一つの店にたどり着く。周りの店よりもなんだか盛大に光ってて、大きな豪華な店だ。するとフランさんが「それじゃあ。アンタ達は正面から入ってね」とか言って裏に行ってしまう。


 僕達は男三人取り残された。なんか見るからに高そうな店なんだけど……所長の奴もさっきのところとは違って明らかにたじろいでるし、大丈夫なのか?


「まっ、任せろ。助手がなんとかしてくれる」


 フランさん頼みかよ! それは任せろ言っちゃいけないよな? でも正面から入ってね––言われたからな。いつまでも立ち往生してるわけにいかない。周りの視線痛いしな。「まさかあの店に?」みたいな視線が感じれる。


「いっ、行くぞ!」


 そう言って所長がお金の残高を気にしながら歩み出す。実際僕も結構ドキドキしてる。だってこんな店……入ったことないもんな。開かけるドア。なんだか甘ったるい香りと共に、女性たちの「いらっしゃいませ」の声。
 ドレスみたいな服を来た彼女達を彩る派手な照明は眩しくて、なんだか新しい世界が開かれたみたいな……そんな気がした。

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