命改変プログラム

ファーストなサイコロ

時間は有限

 屋上からはみ出したグリンフィードを見に、野次馬が次々と集まりだしてる。研究所の周りは物珍しい物を見るために集まった人達でいっぱいだ。閑散としてたはずなのに、屋上ってのもあって周囲に案外見えてるのかもな。


「おいおい、なんか目立ち過ぎじゃないか? 大惨事にはならなかったけど、一大事には成ってるぞ」
「誰が上手いこといえって言ったのよ。僕に座布団一枚」
「だからスオウだっての」


 この人もう僕の事を名前で呼ぶ気ないだろ。名前伝えてる筈なのに一貫して『僕』だしな。


「少年、そいつに何を言っても無駄だ。その女は自分を曲げると言うことを知らんからな」
「世界で一番アンタにだけは言われたくないわよ」
「ははっ、こりゃあ一本取られたな!」
「何が!?」


 白衣のおっさんの言葉に僕は思わず叫んだよ。だって意味不明なんだもん。てか二人共楽しそうにグリンフィードに張り付いちゃって。さっきまでは何かスキャンしてたんだけどね。二人してクラッカーみたいな道具をグリンフィードに対面から当ててた。
 はみ出してる部分も別段問題なくそれやって、今はアナログ的にグリンフィードの質感とか確かめてる感じ?


「本当に大丈夫なのかしら?」


 不安気にそういうのはミセス•アンダーソンだ。確かにその心配はある。こんなボロっちい研究所の研究員程度でサン•ジェルクの技術の粋を詰め込んだ最新鋭フラッグシップモデルのバトルシップを直せるのかどうか。
 でもそこはもう信じるしか無いよな。実はこの二人が相当優秀だけど、お偉い奴等に睨まれてこんな辺鄙な研究所に追いやられてると……勝手にそんな設定を作っておこう。ちょっとは安心できる。まあでも大丈夫––と思える要素がない訳でもないけどね。


「確かにこんな研究所にも、あいつ等にも不安はあるけど、でもそれらを吹っ飛ばす物があるとも思えないか?」
「どういう事よ」


 ミセス•アンダーソンは僕の事を見上げながらそう聞き返す。僕は色々なアイテムを指輪から取り出してる二人を見ながら言うよ。


「それはさ、ここブリームスの技術が外を圧倒してるんじゃないかって事だよ。どうやら錬金がかなり進んでるようだし、バトルシップのなんだっけ? 魔鏡強経とか言うのには驚いてたけど、それって内部システムみたいな物だろ? 
 案外外装を取り繕うとか簡単に出来たりするんじゃないかって……その魔鏡強経とかも、アンダーソン達が協力をすればどうにか出来る気がするしな」


 あのホースもメガネも外じゃ見たこと無いしな。まあ魔法でも同じようなのがあるとは思うけどね。特にステータス見る奴とかは普通かも。けどあのメガネはもっと詳細なデータ表示してるのかもしれないし、あのホースもあれさえ持ってれば誰でもそれが出来るってことが大きい。
 魔法は会得しないとできないからな。でもだからこそ、そんな「誰でも、誰もが」って部分が問題だったわけだよな。そこら辺は何か改善してるのだろうか? あの二人が普通に錬金アイテムを使ってる所をみるとそうでもないような……


「確かに彼等の使ってるアイテムは外では見たこともない様な物ばかりね。それにこの街も相当発展してる。だけどだからと言って、その技術を再現できるかは別問題でしょ。寧ろ見たこともない物を取り扱うのなら、それなりの経験とかそれなりの人数が居るほうが圧倒的に良いに決まってるわ。
 錬金で生成したアイテムならそれらを全て乗り越えられるのかどうか知らないけど、アレは私達には過ぎた代物よ」
「そういうけど、頼らざるえないのが現状だろ?」
「……そうね。もしもこの街が錬金を安全に使える所まで昇華してるのなら、別に私はそれで構わないわ。でも常に危険はつきものって事は頭に置いておきなさい」


 それは魔法でも同じだと思うけど……まあ錬金は誰もがアイテムさえ持ってれば使えるからこそ、敷居が低くて危険度が増してるのはわかるけどね。絶対数の違いだよ。魔法だって実際言うと、このLROの住人は殆ど使えるだろう。種族によって差はあるだろうけど、全く使えないって種族はない。
 つまりは魔法だって誰もが扱える力––なんだ。だけど錬金との違いは高位魔法を使うにはそれなりの修練が必要で、そこには努力の差やら、生まれ持った才能という壁が絶対的に存在するって事。
 きっと錬金術ってのは、そんな魔法には必要な残酷な部分を削いで、大衆への差をなくそうとした物、なんだろう。


「ね〜ねスオウ、グリリンは直るの?」
「さあな。あいつらが本当に優秀なのを祈るしかない」
「どの位かかるのかな?」
「それは……」


 思ったけど確かにどの位かかるものなんだろうか? グリンフィードはボロボロだ。一日で直せるなんて訳ないだろう。しかもたった二人だしな。二•三日は覚悟したほうが……いや、それとも一週間位掛かったり……考えてみたらそれはかなりヤバイな。
 今まで直せるかどうかしか考えてなかったけど、ここはLROだ。修理を選択したら、実時間が必要。次のターンで元通りなんて事はない。
 僕は恐る恐る、どの位掛かるか聞いてみる。


「お〜い、あのさぁちょっと聞きたいんだけど、どのくらい掛かりそうなんだ?」
「そうね……穴空いてる外装を変えて、モガれた翼部分を修復して、一番問題なのはエンジン部分ね。魔鏡強経なら自己修復機能がある筈だけど、どうやら作動して無いみたいだし、全く同じ物を作り出すなんて事になったら……一年?」
「ぶふぉ!?」


 思わず吹き出してしまった。一年って……流石に冗談だよな? 


「何言ってるのよ。これでも全然早いわよ! 私達じゃなかったら五年は掛かる仕事よ」
「そうなのか?」


 ごめん分かんない。フランさんは至って真面目そうに言ってるし、これは僕が甘かっただけか? 確かにこういうデカイの? リアルでは飛行機とか列車とかに分類されるんだろう物が、どのくらいかけて補修とか改修とかされてるかしらないからな。
 車も家にはないし……一番身近な自転車と同列に考えてたかも知れない。自転車なら店に行ってちょちょいと修理してもらって終わりだもんな。長くて数時間位。流石にそんなお手軽じゃないよな。
 でも一年って……飛行機や電車とかだって修理とかに流石にそこまでは……かかって半年くらいでは? それでも長いけどさ。きっと破損具合に比例するんだろうけど、一年なんて待っとけ無い! そんな猶予は僕達には無いんだよ!


「一年は長すぎるよ! どうにかしてください」


 下手に出てるようで強引なクリエ。どうにかすることを強要してる。だけどそこは強硬に行くべきかも知れないな。流石に一年は無理だもん。言っとくけど、一週間でさ無理だしな。
 ゲームなんだろ……無駄にリアルを追求する必要なんて無い。リアルを追求するから良いって所もあるけどさ、誰もが億劫に思ってる所は端折ったって良いと思うんだ。ゲーム性を高める為にも必要だろ。なんでもかんでもリアル仕様にすればいいってものじゃない。
 リアルに不満がないなんて無いんだから。てか不満がなければ、このゲームがここまで大人気な訳もないしな。そこら辺をちょっとは理解して欲しいよな。不便まで再現してどうするんだよ! まあ不便さがあるからこそ、ここでも生きてるとか思えるんだろうけど……そのリアルさがもどかしい。


「助手は何も意地悪で一年なんて数字を出したわけじゃない。外装だけならそれこそ、急げば数時間で済むだろう。金の調達が問題だがな。だがまともに飛べるようにするにはエンジン部分を修復する必要がある。それにはかなりの時間が必要になるということだ子供」
「それでもなんとかしてよ。おじさんたち『実は』凄いんでしょ?」
「まあ、このマッドサイエンティストは周りの学者どもに疎めを付けられてこんな場所に甘んじてるだけだからな」
「うん?」


 白衣のおっさんの言葉にクリエは首を傾げてる。マッドサイエンティストとか分かんないんだよクリエは。子供だからな。でもその子供に上手く乗せられてるんだよね。今のうちにどうにか出来ないか交渉しておくべきだな。


「ならどうにか出来るんじゃないのか? 本当に疎まれる程の力があるのなら、出来ないなんて言わないよな? 三日で頼む」
「三日!?」


 マッドサイエンティストの白衣がたなびいた。流石に一年言ってた物を三日は欲張り過ぎたかな? でも一週間でさえ無理なんだ。一年なんて論外。だけど一日二日で無理なのは確実で、なら自ずと残りは三日しかないじゃん。これでも妥協したほうだぞ。


「お前……三日って物を知らなさすぎるぞ」


 そう言ったのは僧兵の奴だ。くっ、こいつに言われるとなんかムカツクな。


「じゃあお前はここで一年も気長に待ってるつもりか? そんな余裕ないぞ」
「わかってる。だけど三日は幾らなんでも無茶すぎるって言いたいだけだ。そんな大雑把な作りしてないんだよ。グリンフィードは繊細なんだ」


 繊細ね。兵器としてそれはどうかと思わなくもないけどな。繊細だけど、そこにタフさが必要だろう。まあこれだけボロボロでもここまで僕達を運んでくれたんだから、タフさもやっぱり十分あるのかも知れないけどさ。
 だけど絶対の結論として、一年なんてあり得ないんだよ。それは確実で絶対だ。


「一年は完全補修をした場合だけどね。完璧に直すとなるとそれだけ掛かるってことよ。飛ぶだけでいいのなら、やりようはまだあるけど……この機体の運行性能の六十%は落ちるわね」
「六十%……」


 それはかなり痛いだろ。半分以上じゃねーか。それってもう飛んでる状態でしかないような……いや、具体的にそれだけ落ちてどの位動けるのかとかわかんないけど、色々とやばそうなのはわかる。
 バトルシップが空を支配できるのはあの飛行性能あってこそだからな。それが実現できないとなると、その価値が一気に崩れるみたいに感じるな。でも……


「それなら三日でどうにか出来るのか?」
「まあ……不可能ではないかもね。でも一番いいのはなんとか魔鏡強経を解明して自己修復機能を作動させる事ね。そうすれば放置してても勝手に直るもの。しかも尋常じゃない速さでね。
 私達としてはじっくりとそれを解明して、全く同じ物を作り出すまでにしたいんだけど……一年待ってはくれないのよね?」
「駄目だ」


 てか完全に同じ物を作るために一年って言ってたのかよ。まあ根幹の魔鏡強経のエンジンん部分を完璧に直すって事は、バトルシップをもう一機作ることと変わらないのかも知れないな。


「そうよ、そんなの許される筈ない。流石にバトルシップを造れるまで技術流出はさせれないわ。自己修復機能さえ戻せばいいの!」


 孫ちゃんが二人を指さしてそう言ってる。まあ確かに他の国がバトルシップを造れるまでに成ったらサン•ジェルクとしては嫌だよな。流石にそこまで許せるわけないか。


「ねえ、もうこうなったらアナタのバンドロームの箱に頼むのはどうなの? それで良くない?」
「あっ……」


 なるほど、その手があったな。バンドロームの箱は願いを叶えてくれてる……様に思う。それならグリンフィードを直すことも出来るかも……けど……


(なんか怖いんだよな)


 あの感覚……頭の中に入ってきた何者か……あれが妙に気持ち悪くてさ。助かったんだけど、言い知れない恐怖って奴を僕は感じた気がする。だからいつの間にか無意識で考えてなかったのかも。その可能性を。
 けど一年とかなんとか言われてる今の状況で考えない訳には行かないよな。これを使えばもしかして……そう思ってると白衣のおっさんとフランさんが今の孫ちゃんの言葉に反応する。


「ちょっと……今なんて言った?」
「ああ、バンドロームの箱と聞こえたぞ? どうして外の世界のお前達がそのアイテムの名を知ってる?」


 なんだ? 今までと反応が明らかに違うような。今まではどんな物にも興味津々って感じだったのに、こればっかりはその顔に恐怖が見えるような……すると孫ちゃんが呆気無くこう返す。


「言ったわよ。だってそこの人間かぶれはそのアイテムを所持してる物。それにそれだけじゃなく、法の書とかも持ってるんだからね」
「法の書……まさか……」


 二人の視線が僕に向けられる。なんか畏怖してるみたいな眼だな。瞳孔開いてるぞ。マジでなんなの? いや、この街の住人ならこのアイテムを恐れても仕方ないか。なんたって一度はこの街の全ての人間を消して未来を閉ざしたアイテムだ……でもそれは既に無かったことに成ってるはずだけどね。
 でも寸前までは行ったんだし、やっぱりその恐怖は語り継がれてるのかも知れない。


「信じられん。あのアイテムは中央が管理•封印してる筈だ」
「だけど一般に解禁されたことはないわ。それに昔の文献でもアイテム自体がどうなったのかは確かに曖昧だったかも。ねえ、最後の一つのアイテムの名は分かる?」
「愚者の祭典か?」


 法の書にバンドロームの箱、それに愚者の祭典があのイベントで手にした三つのアイテムの筈。間違ってないぞ。暁に染まってた空が徐々に青みを帯びていき、チラホラと空には星が輝きだしてる。


「外の方に情報って出てたのかしらね?」
「それなら名前くらい知ってても……いや、確か所持してると言ったな? 本当に所持してるのなら、証拠を見せてもらおうか。今や再現不可能の技術で作られた三種の神器とまで言われるアイテムだ。
 その姿、見れる物ならみてみたい」


 あっ、ちょっとワクワク感が出てきたかも。でもまさか三種の神器とまで呼ばれてたとは……でもそう言えばイベントの時もなんか特別です風な事言ってたかもな。僕は腕にある鍵を見つめる。
 みせなきゃ信じないだろうし、出すだけなら別にいいか。三つの鍵に「姿を現せ」って捻る。


「………………あれ?」


 おい、どうしたんだ一体? 愚者の祭典はともかく法の書とバンドロームの箱は出てきたじゃん前に! それなのになんで反応しない! 何度も鍵に命令を送るけど、うんともすんともしやがらない。どうなってるんだ一体?


「おい、何やってる? 早くその姿を拝ませろ」
「ええ、こっちにも散々失礼な事を言ったんだから、そっちも証拠を見せなさい」
「それは……わかってるんだけど……実はここに既に馬鹿には見えないアイテムが………」
「なるほど、私には見えるわ」
「そうだな。なかなかに刺々しいデザインだ」


 あれ? 二人してなんか勝ち誇ってるぞ。どうなってるの一体? 出てないし、見えるわけないんだけど……


「ちょっと、バカなアンタに見えるわけないでしょ。良い加減見栄張るのやめてくれない?」
「見栄だと? 何をバカな。俺には奴が持ってるアイテムがただ見えるだけだ。助手こそ見栄をはるのはやめろ。まあこのマッドサイエンティストに追いつきたいのはわかるが、如何せん十年早いな」
「十年も何も、既に私が追い越してるけど?」
「妄想も大概にしとけよ。まあだがそう思ってればいいさ。お前の中でだけな」


 こいつら……なんか勝手に喧嘩初めてね? てか馬鹿と思われたくないから二人して見栄張ってるだけじゃねーか。ハッキリ言って同レベルだよ。


「え〜と、あのゴメン。アイテム出してなかったや」
「まあわかってたけどね」
「当然だな。付き合ってやっただけだ」


 駄目だこいつら。なんか一気に不安が……


「ちょっと何やってるのよ。さっさと出しなさい」


 何故かこっち側の奴から催促される始末。


「それが、なんか出ないんだよ。しょうがないじゃんか」
「どうしてなのよ? ついさっきまで出てたじゃないの?」


 そんな事を言われてもな……ついさっきと今は最早違うんだよ。すると僕達の会話を聞いてたフランさんがこう言うよ。


「はいはい、やっぱり名前だけ知ってる口ね。あんまりビックリさせないでよ」
「それは違う! ちゃんとあるんだここに!」


 僕はそう言って右手を掲げて見せる。だけど二人はキョトンとしてるだけ。まあそうだろうね。だって見えないんだし。でも確かにここにあるんだ。


「そうだ。そのメガネ。そのメガネなら見えるんじゃないのか?」
「う〜ん」


 僕の指摘にフランさんはメガネをいじりながら腕に注目してる。どうなんだ? 同じ錬金で作られたアイテム同士。見えてもおかしくないだろ。


「ダメね。何も反応しないわ。何もない。嘘はやめてよね僕」
「……マジか」


 まさかあのメガネでも見えないとは……ここにあるのに……あることを証明するのは難しいな。嘘なんて一切ついてないのに信じてもらえないのはもどかしい。


「まあ、三種の神器のことは置いといて、取り敢えずこの船よね。一年がダメならどうにか魔鏡強経の自己修復を復活させることが大前提になるでしょう。協力して貰うわよ。そこのお二人には」


 そう言って視線を投げられたのはミセス•アンダーソンと孫ちゃん。二人しかそこら辺知らないからな。でも二人だって別に専門的な知識があるってわけでもないんだろうし……どうなるのか。テトラの奴の方の問題もあるしな。


「おい、テトラの奴はあのまま放置してて大丈夫なのか? 爆発するんじゃなかったっけ?」
「心配はいらん。あの装置は内部の力を強制的に外気へ排出する物だからな」
「あんな役立たずなゴミが役立つ日が来るとは思わなかったけどね」
「ゴミではない。俺の発明は全て偉大なる物だ。ただ常人には理解出来んがな」


 誇らしげにそういうマッドサイエンティスト。テトラの奴はここに来る前にその発明品に突っ込んどいたんだよな。中で暴れてるエネルギーをどうにかする必要があるとかで、カプセル状の容器に寝かせてきたんだ。
 傷の方はアイツほどの力を持ってるんなら、体内の余計なエネルギーさえ取り除けばそれこそ自己回復するだろうからと、今は放置中。まあアイツならそこまで心配することもきっと無い。問題はやっぱりバトルシップだよな。
 それに忘れてたけど、ここに来た本来の目的。二人はこのアイテムの事を知ってたんだし、よくよく考えると好都合というか、正解って感じ。この街には、少なくともこの三つのアイテムの情報が眠ってる。


 そう思ってると開かれてた屋上の扉からなんだかぞろぞろと青い服を着た一団が入ってきた。野次馬が不法侵入してきたか? でもなんか一般人には見えないな。


「また君達か。周辺住民から苦情が来てるぞ。屋上に変な物が吊るされてる。危なくておちおち外も歩けやしないとな。これ以上変な発明品で周辺に被害を出すのならどうなるか……前にも警告したはずだが?」
「マッドサイエンティストに何を言うかと思えば……なら俺は定番の答えを返そう。偉大なる発明に犠牲はつきものだ」
「君の作るものは何一つ偉大でもなんでもないだろう。迷惑しか被らない物などゴミと同じだ。いや、それではゴミに失礼だな。ゴミはちゃんと捨てれば迷惑にもならないが、君の発明はあるだけで騒動を起こす。無用の長物だよ」
「こ……これだから発想の貧困な奴は困る……」


 なんだか頬の辺りがヒクヒクしてるぞおっさん。なんとか切れるのを耐えてるのか? まあゴミ以下言われたしな。てかこいつらはこの街の治安を守ってる組織か何かなのか?


「まあまあ落ち着きなさいよ。今度一緒にお茶してあげるから。その後は良ければ最後までだって」
「助手、あまり下品な事は言うな」
「そうだね。ゴメンだけど、僕は女に困ってない。わざわざ君を抱く理由はないよ」


 可哀想なフランさん。正面から拒否されたぞ。スタイルはいいし、顔だって悪くないのにな。まあでも確かにあの眼鏡した真面目そうな短髪の人はそれなりにモテそうでもあるからな……てか、相性悪そうだし。


「通報の物はあれか……なんて巨大な物を。いつの間にあんなものを作ったのか。玩具でもよくやるよ」
「やめろ! 触るな!! それは貴様等が気安く触れて良い代物じゃない! 玩具だと? 魔鏡強経第一の理論で作られた船だぞ。その価値は計り知れない物だ!」


 白衣のおっさんが声高らかにそう宣言した。やめろよな。そんな風に言っちゃったら変に目を付けられたりするじゃないか。


「ふん、魔鏡強経だと? アレは第一研究所の『優秀な』研究員が必死になって研究してる物だろう? それを君達が先行して実用化するなど、あり得ない。寝言は寝てから言ってくれ。取り敢えず危険を撒き散らす物は回収させてもらおう」


 そう言ってその人は部下をこちら側に……ヤバイな、回収なんてさせるわけには行かないぞ。


「待ってくれ! ようはあれがここにあるのがダメなんだろ? 安全な場所に移動させれば良いって訳だ」
「…………君達は見ない顔だね? それに他種族まで………何の目的でここに居る?」


 そう言って抜かれたのは銃だ。まさか銃を見ることになろうとは……いや、無かったわけでも無いだろうけど、なんかかなりメカメカしいデザインしてる。てかいきなりこれは……


「なんの目的って……迷い込んだんだよ。そこであのマッドサイエンティストと出会って……」


 取り敢えず本来の目的を馬鹿正直に言うのは不味いかなと思った。それにグリンフィードも僕達が乗ってきた代物としたら不味そうだったから、ゴミみたいな発明と言うことを甘んじて受けよう。
 その方が都合良さそうだ。興味を持たれるときっと面倒な事になりそうだからな。


「そうか、なら一つ忠告しておこう。その連中とは関わらない方がいい。君達のためにもね。それと外から来たのなら、帰る時は中央庁にきなさい。森から外へは出れないからね」
「あっ、はい。どうも」


 なんだか案外親切な人だった。銃はどうやらハッタリだったようだ。彼等はグリンフィードを再びホースで吸い込むのを確認すると帰っていった。バトルが始まらなくて良かった。でもここではもうグリンフィード出せないな。


「森の研究所に行くか。あそこなら人も寄り付かないし、何よりも広い」
「そうね。上手くかわせてよかったわ。魔鏡強経なんて出すからヒヤヒヤしたわよ。もしも奴等が信じてたら、絶対にこんな簡単に引いたりしなかったでしょうね」


 安堵の溜息をつくフランさん。やっぱりそれほどなのか魔鏡強経? 第一研究所が研究してるっても言ってたもんな。確かに信じられると不味かったな。強制的に押収されてもおかしくなかった。
 グリンフィードが引っ込んだせいで野次馬も居なくなったここの路地は、いつもどおりに閑散としだしてた。夜の帳が降り出す……だけどこの街は空を照らす程の明るさだ。どうやらこの街は眠らない街のようだ。
 夕焼けと夜の境に見えてた星々は今は地上からの光で逆に見えなくなってる。あの時間帯が貴重な星が輝ける僅かな時だったのかも知れないな。

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