命改変プログラム
あの日の街
今まで比較的小ぶりだったモブリの国に居たせいか、それともこの街が普通にデカイだけか分かんないけど、なんだかちょっと圧倒されてる感がある。でも考えて見ればそれもその筈なんだよな。
この街『ブリームス』はこの世界には珍しく普通に高層な建物も幾つかあるし、建物が軒を連ねて密集してるって感じ。まあそれもその筈、だってこのブリームスは秋葉の街とシンクロしてるんだからな。街の構造なんてそのままだった筈だ。
まあ秋葉にあわせて作られた? からなんだろうけど、こっちの世界でここまで高いビルが空を狭く見せる所は今まで無かったからな。でも電線一本もない所は雑多差と無骨差を多少はなくしてるかもね。
それにただのビルじゃなく、こっちはこの世界の特色ある建物だ。ギラギラしたビルじゃなく、落ち着きのある色してる。まあ形は微妙に特殊っぽいけど、それはほらLROは異世界設定だからな。
「な……なんだか首が疲れる街ね」
「ほんと、もっとコンパクトに収められないのかしら」
孫ちゃんとミセス•アンダーソンが周りの背の高い建物に圧倒されながらそう言った。確かにこれはモブリなら疲れるだろうな。モブリサイズに何も収まってないもん。けどそうはいうけど、別に規模的にはノーヴィスだってそんな小さい範囲で収まってもないけどな。社とか無駄にデカかっただろ。
「あれは神の威厳の為には必要でしょ。だけど信仰なんて無いくせにどうしてこう、なんでもかんでもデカくしたがるのよ」
ミセス•アンダーソンがグチグチ言ってる。年寄りだからな。いっぱい歩くのが億劫なんだろう。きっとそうだな。でも白衣のおっさん見つける為にはこの街をくまなく探すしか……
「って待てよ」
よくよく考えたらさ、ここってあのイベントと同じ場所のハズで、僕の予想が当たってるとしたら、あのおっさんはきっと曲がりなりにもイベントで出会ったマッドサイエンティストの関係者の筈……それなら居場所わかってるよな。
居場所と言うか、アジトというかだけど。
「どうした? ここは変な匂いで満ちてて鼻が狂いそうだ。俺の鼻も使えん。アテがあるなら言え」
リルフィンの奴が鼻を擦りながらそういう。ふむ……変な匂いか。僕には別に、というかなんだか向こうの世界の匂いになんとなく似てる気もするけどな。地味に……というか、秋葉の街と同様になってるから当然道が広いんだ。
でも歩道と車道の区別が別にあるわけでもない。車という物はLROにはないしな。でも、この街では乗り物的な物はあるみたいだ。ダンゴムシみたいな乗り物の様なバスがどうやらこの街の移動手段らしい。人の波をくねくね曲がりながら進んでってる。
その他にも二人乗り程度の地味なバージョンもちまちま見かける。てかなんか服装も今まで見てきたLROの物とはちょっと違う。LROはあくまで別世界って感じで防具とか武器とか普通だった筈だけど……よく見るとここの人達はそんなのもの持ってないんだよな。
その代わりになんだか別の、皆さん指に付けた指輪みたいなので連絡を取ったりしてるみたいだ。どうやってるかは知らんけど、そこから僕達プレイヤーが使うウインドウと似たようなのが出てるのを確認できる。
なんだかこの街だけかなり進んでるぞ。これが錬金となると、確かに神が希薄化するかもな。信仰は都合のいい時だけに……ってなるんだろう。
「おい」
「あ? ああ」
僕が反応しないからリルフィンの奴からもう一度声をかけられた。前はスマホの小さな画面だったし、しかもあれからかなり街も様変わりしてるから、ついね。でも僕達の目的は観光じゃないんだ。さっさとあの白衣のおっさんを捕まえないとな。
結局街に入ったところで、兵隊がやってくる事も無かったわけだし、これであのおっさんの無実は証明されただろう。二人も納得して、協力を仰げると言うものだ。
「すごーい! 大きい! わあああ!」
小さな子どものクリエは他の大人と違って反応が違うな。頭の上にピク乗せて超はしゃいでるし。危なっかしいな……とか思ってると案の定歩いてた人とぶつかった。なんてこった。僕は取り敢えずクリエを助けに行こうとしたけど、その心配は無さそうだった。
「大丈夫?」
「うん。ごめんなさい」
なんだかキャリアウーマンというか、いかにも仕事が出来そうな感じのキリッとした女性だな。ぶつかられたその人は優しく丁寧にクリエに手を差し出してくれてる。厳しそうに見えるけど、案外優しい人のようだ。
「貴方モブリよね?」
「そうだよ~。クリエはね、クリエっていうの」
「そう……所でえっと……その頭のはなに? 物凄く興味あるのだけど」
「これ? この子はピクだよ」
「ピク……」
あれ? どうしたんだろうか? なんだかあのお姉さんの反応が少し違うような。ピクを見る目がキラキラしてるぞ。それに頬も赤らめてそわそわした感じがなんだか可愛らしい。なにあのギャップ萌えな人。狙ってるのか?
「す……少し触らせて貰っていいかしら?」
「ピクどうする?」
そう言ってピクに聞くクリエ。するとピクはクリエの耳元まで首を伸ばして何か呟いてるように見える。アイツ等は会話が成り立つからな……そう思って見てるとクリエが「いいよ〜」って軽く言った。
別に断る理由もないしな。
「ありがとう。では早速………おお! ヒンヤリしてる胴体の鉱石はまるで宝石の様な輝きを放ち、フワフワの羽はなんとも触り心地がいいわ。可愛い子ね。それに賢そうだわ。賢い子は好きよ」
なんだろう……少し嫉妬するな。なんかちょっとピクが羨ましい。あんな厳しいそうに見えるお姉さんが、目を輝かせかせてあたかも少女の様に手を伸ばしてるんだぞ。男ならなんかウズウズするだろ。
今まさに僕は見た目とのギャップにやられてるな。いや、だってあれはなんか反則だ。
「ちょっと、何怪しい目をして女性を舐めまわしてるのよ。こっちに戻って来なさい」
「誰が舐め回してるか! 誰が」
「舐め回してたじゃない。自分じゃ分かんないでしょうけど、変態の目をしてたわよ」
ええ〜マジでか? ミセス•アンダーソンの言葉に軽くショックだよ。まさかそんな……
「うふっふふふふふふふふふふ」
なんだかゾクッと背筋に来るそんな声。微笑ましいと思ってた所に不意に水を刺したそんな声の方を向く。するとそれはどうやらあのお姉さんのようだった。肩を震わせて、含み笑いしてる。
「お姉さん?」
「凄いわ。興味深い。こんな生き物が存在してるなんて、この子を使えば、物凄いアイテムを生成出来るかも知れないわ」
「だ、だめぇ!」
クリエが叫ぶ。その瞬間ピクは大きく羽を開いて彼女を威嚇した。
「駄目だよ。ピクに酷いことしちゃダメなの!」
「ふふ、そうね。わかってるわ。だけど私の中に流れる研究者としての血がね……羽と鱗一枚でいいからくれないかしら?」
駄目だあの人。全然わかってないじゃないか。さっきまでのあの輝いた瞳は可愛い動物に向けた物じゃなく、面白そうな研究素材を見つけた瞳だったのか。だめだめ言ってるクリエの事なんかお構いなしに迫ってるぞ。
「なんなのこの街の人達は。さっきの奴といい、おかしな奴しか居ないのかしら」
「まだたった二人だし、それでこの街を変人の巣窟みたいに言うのはどうかと思うけどな」
「そのたった二人が連続してアレだから、そう思うんでしょうが」
言われてみればそうだな。これだけ人が居るのに、出会う奴ばかりが変だと、自ずと他の奴等もそうなのか? と疑ってしまう。そんな考察してる間に、なんだか引っ張り合いになってるし……流石にアレは止めたほうが良さそうだな。
良い人っぽかったのに……豹変し過ぎだろ。
「少し、ほんの少しでいいから」
「や〜だ〜!」
そんな感じで結構注目浴びてるぞ。通行人達が足を止め始めてる。僕は急いで二人の元へ。テトラの奴が重いけど、逆にまだゆっくりしてやれなくて悪いと思うな。まあ腐っても神だし、そう簡単には死なないよな。もうちょっと我慢しててくれ。
「おいあんた、ピクを放して貰おうか」
「スオウ! このお姉ちゃん変だよ!」
知ってる。見てたからな。すると理論で納得させる事が出来ないクリエからこっちに矛先が。
「貴方が飼い主ね。交渉をしましょう。報酬は弾むわよ」
「いや、僕は飼い主じゃないんで。勝手にピクを実験動物として送り出す事は出来ないんだ」
「そう、なら飼い主を出しなさい」
なんか偉そうだな。こういう時は普通下手に出るものじゃ……ぴっちりとしたタイトスカートから伸びる御御足が麗しいのに、なんか残念だな。
「飼い主は今はいない。だから何も認める事は誰にも出来ない」
「代表者は居るでしょう? この子を預かってるね。それは貴方じゃないの?」
そう言って彼女は細長いメガネの奥の瞳を光らせてこちらに歩いてくる。高いヒールの靴が地面を踏む度にカツコツと音をならしてる。なんだろう……変なプレッシャーを感じる。あれかな? 年上の女性に迫られるって経験が無いから、純真な僕の心が警戒してるのかも知れない。
「僕……かも知れないけど、でも幾ら報酬を積んだってピクを実験に使うことを承認なんかできないからな」
「そうだそうだ! ピクは友達なんだよ!」
僕の足元に避難したクリエがピクを両手で抱えて抗議してる。だけど目の前の女性はそんな声に耳を傾けずに、僕に向かってその靭やかな手を伸ばしてくる。顎に指が触れて、そのまま頬をなぞるように動かしてくる。どういう事!?
なんか悔しいけどドキドキする!
「そうかしら? 別に報酬は僕が望む物ならなんでも良いわよ。女性の体に興味はない?」
息が吹きかかる程の至近距離でそんな事を囁かれた。
「な……何言って……」
「知りたいでしょ? お姉さんが手取り足取りレクチャーしてあげる」
手取り足取り……レッレクチャー!? それってつまりは……その……ベッドの上でゴニョゴニョと言うやつか? グリンフィードの後ろに付けたあの文字の意味違いか? ヤバイだろそれ。
使えなくなっちゃう! そんな事を受け入れたら、もうグリンフィードの後ろの文字がそれにしか見えなくなるじゃないか。
「そんな……そんなの……ダメだろ?」
「どうして? 興味あるでしょ? 女性の体って君が想像してオナってるその何倍も気持ちいいものよ」
なんだと!? そ、そんな何倍も違うのか? 確かに女の子は全部なんか柔らかいと思うけど、でも僕だって少しは触れた事あるし、それを元に想像はしてた訳だから、そこまで違うってのも信じれないって言うか。
「女は外は勿論だけど、中だって柔らかいのよ」
「な……中?」
「そう……中」
そう言って彼女は僕に触れてた指を唇に持って行き、艶かしくそれを下げて首を通り、胸を揺らして、そしてヘソの方まで降りていき……更にその下の方まで!! 中って……中って……つまりは……その中って!!
「挿れたこと無いでしょ?」
ドッカーーン!! だ。僕の顔からきっとそんな爆発が起こった様な気がした。だって、だって……何いってんのこの人!? そりゃあ僕は童貞だけどさ! ってそんな事はどうでもよくて、マジで言ってるのかこの人?
「スオウ! 何されてるの? きっと攻撃受けてるんだね。大変だよ早くスオウを助けて!」
リルフィン達にそう叫ぶクリエ。ありがたいけど、なんか恥ずかしいから実際はやめてほしい様な。クリエの言葉を受けてみんな臨戦態勢に入る。
「貴様、何を企んでる。さっさとそいつから離れろ!」
「そうね、これ以上は見てられないわ」
リルフィンとミセス•アンダーソンが彼女を威嚇する。だけど彼女は気にした様子がない。悪いことなどしてないという態度だ。
「邪魔しないで。これはただの交渉なの。何も危険な事なんかしてないわ」
今まさに僕の貞操が危険に晒されてると思うんだけど……大人の女性に取って食われそうな気がしてる。
「ねえ、いいじゃ無い。あの子の体の一部をちょっと提供するだけで、僕は大人の階段を登れるのよ? いい話でしょ? それともこんな硬そうな女じゃ嫌かしら?」
「いや、そうじゃないけど……って、待って今の無し」
危ない危ない、何言ってるんだよ僕。惑わされるな。ピクはシルクちゃんの大切なパートナーなんだぞ。そのピクをこんな危険そうな人に一部でも提供出るか。一度許しちゃったら、その後ズルズルと何度でもってのはよく聞くパターンだ。
そうなったらピクの体はどんどん研究によって削られていってしまって悲惨な事になりかねない。そうなったらシルクちゃんに合わせる顔が無いよ。あの子に嫌われるのはなんかヤだしな。いつもいつも僕の味方してくれる貴重な人材だもん。裏切る様な事出来るわけない。
けど……健全な男子高校生にとってこの人は危険過ぎる。実際なんでそんな堅そうな外見してるのに、性を開放しちゃってるの? これもまたギャップだな。真面目そうに見えるのに、夜は大胆に成っちゃうみたいな……そんな事を思ってると「どうして?」といいつつ体を密着させてくる。やばいやばい! これはヤバイ! 柔らかい感触があたってます! くっそ、ワザとだとわかっててもドキドキしてしまう。
「その背負ってるお友達に悪いとか? 大丈夫二人一緒でも全然平気よ。まあそっちの彼は……なんだか人間じゃないみたいだけど」
なに? 分かるのかこの人? 必死に顔を背けて耐えてた僕だけど、彼女に視線を移す。すると彼女は何かその細長いメガネを操作してる? レンズ部分に何かが表示されてるような。まさかこれも錬金アイテムなのか?
「そのメガネ……」
「これ? これは色んな物を直ぐにスキャン出来る優れものよ。ここの研究者たちは大抵持ってるわ。これでスキャンすれば大まかなデータが一瞬で得られるのよ。便利でしょ?」
そんな物が……スカ◯ターか? 戦闘能力までまさか表示されてるとか? 今まで敵の強さの基準は名前の上に現れる赤•黄色•緑の三つの色で大体の強さを測ってた訳だけど、これがあれば詳細な敵のデータが一瞬で手に入ると?
色々と戦闘が捻りそうなものだな。
「その背中の彼はそうね……殆ど測定不能。でもだからこそ人じゃないと分かる。平均のデータに当て嵌まらなすぎるわ。一体何者?」
「神様」
「面白い冗談ね」
いや、本当なんだけど……でも信じれないのはよく分かる。目の前に居るボロボロの奴が神様……というか邪神様だとは誰も思うまい。
「それにしても……」
そう呟いて彼女はテトラから僕に視線を移して、更にリルフィン達へと移動してく。僕達のデータを見てるようだけど、よくよく考えたらこのパーティーって特殊な奴ばっかだよな。そして案の定それを指摘されたよ。
「僕達は随分と研究しがいがありそうなのが揃ってるわね」
ジュルルっと思わず唾を鳴らす彼女。いやいや、今のは女性としてどうなんだ? それに僕達まとめて研究対象にされたみたいだぞ。これはヤバイから、さっさと逃げたほうがいいか? でも周りの人だかりがな……なんか僕が彼女相手にタジタジしてる間に更に人が増えてるんですけど。これを無理矢理突破するとなると、少々荒っぽくなってしまうよな。街の人を傷つけるとかしたら、この街にも居るであろう警察みたいな組織に目を付けられるかもしれない。それは避けたい。
「なんだか欲が出てきちゃったわね」
そういう彼女は突然僕から離れる。諦めたのか? でも今の言葉はそうとは思えない物だったな。それにしてもちょっと残念……いや、全然そんな事ないんだけどな!
「ねえ僕達。どうやら負傷者も居るようだし、それに余所者よね? 宛なんかなく、困ってるんでしょう? 私の研究––じゃなく、仕事場に来なさい。そこならゆっくり出来るわ。丁度五月蝿いのも出払ってたしね」
今明らかに研究所と言おうとしたよな。間違いないよね? どう考えても罠じゃないか! 誰が行くか!!
「ふふ、いいのかしらそれで? その背負ってる彼。かなり危険な状態よ。外傷がって訳じゃなく、内側がね。どういう攻撃を食らったか知らないけど、体内のエネルギーが激しく暴れまわってる。
その彼のエネルギーはどうやら測定不能レベルに膨大みたいだし、このまま行くと数時間後には彼事大爆発を起こすかも。そうなったら僕達だけじゃなく、この街まで無くなるかも知れないわね」
「なに?」
まさかそんな危険な状態だったとは……いや、でも本当か? ニワカには信じられないぞ。
「別に信じなくてもいいわ。でもついてこないのなら、そんな危険な存在を野放しになんか出来ないから、保安局に報告する必要があるわね。そうなったら僕達はどうなるかしら? 追われる立場に成るわよ?」
「脅迫か……」
「そんな物騒な事してないわ。これはただの助言。私は僕達に別の道を示して上げてるだけ」
何が助言だよ。そんなこと言われたら、僕達の選択できる道は一つしかないじゃないか。この女……やっぱり見た目通りなかなかやる人だな。そう思ってると、彼女の指の指輪みたいなのが光って目の前に映像が現れる。
『おい凄いぞ助手! 俺は凄いものを発見してしまっ––』
ブツッと映像の向こうの誰かが言い終わる前に映像を切った彼女。何故か頭を掲げてる。そしてぶつぶつと「五月蝿いのが戻ってきたか……だけど他にやるなんてしたくないし……」とか言ってた。
てか今の声……それに背中越しだったけどあの白衣はもしかして……どれだけこの街に白衣を着た人が居るかしらんけど、あれはさっきのおっさんの可能性が高いと思う。この女の連れて行こうとしてる場所にあのおっさんもいる?
それなら、上手く立ち回ればグリンフィードも奪還できるかもしれないな。
「スオウ今の……」
「ああ、これは乗ってみるのもいいかもな」
クリエの奴も気付いたみたいだ。実際通報されるのは不味いし、あの白衣のおっさんの場所に案内してくれるっていうのなら願ってもないことだ。僕は真っ直ぐ彼女を見つめて言い切るよ。
「わかった。行こう。それでいいよな?」
「しょうがないわね」
「通報されるよりはマシだろ」
「自分達もそれでいいです」
「ちょっとさり気に私の意見を一緒くたにしないでよ」
なんか一人別のところに噛み付いてるけど、みんな納得してくれたみたいで良しとしよう。
「そう、良かったわ。これで背中の彼も助かってお互いにハッピーね」
「本当にそうなれば良いんだけどな……」
イマイチ信用出来ないんだよなこの人。だけどそんな僕の言葉さえ呆気無く受け流し、「こっちよ」と歩き出した。ガヤガヤと集まってた野次馬は話しがまとまったと見るや速攻で捌けてたよ。
それから彼女の後を追って歩くこと数十分。僕はその間に色々と確信を持ってきてた。この街ブリームスは秋葉の街とシンクロした街並みしてる……だから歩いてれば大体の場所が補完される。
記憶と照らし合わせる事ができる。それで今のルートを照らし合わせると、やっぱり僕達が向かってる場所……どんどん町外れの方に向かうこのルートは多分あの研究所に違いない。
この街『ブリームス』はこの世界には珍しく普通に高層な建物も幾つかあるし、建物が軒を連ねて密集してるって感じ。まあそれもその筈、だってこのブリームスは秋葉の街とシンクロしてるんだからな。街の構造なんてそのままだった筈だ。
まあ秋葉にあわせて作られた? からなんだろうけど、こっちの世界でここまで高いビルが空を狭く見せる所は今まで無かったからな。でも電線一本もない所は雑多差と無骨差を多少はなくしてるかもね。
それにただのビルじゃなく、こっちはこの世界の特色ある建物だ。ギラギラしたビルじゃなく、落ち着きのある色してる。まあ形は微妙に特殊っぽいけど、それはほらLROは異世界設定だからな。
「な……なんだか首が疲れる街ね」
「ほんと、もっとコンパクトに収められないのかしら」
孫ちゃんとミセス•アンダーソンが周りの背の高い建物に圧倒されながらそう言った。確かにこれはモブリなら疲れるだろうな。モブリサイズに何も収まってないもん。けどそうはいうけど、別に規模的にはノーヴィスだってそんな小さい範囲で収まってもないけどな。社とか無駄にデカかっただろ。
「あれは神の威厳の為には必要でしょ。だけど信仰なんて無いくせにどうしてこう、なんでもかんでもデカくしたがるのよ」
ミセス•アンダーソンがグチグチ言ってる。年寄りだからな。いっぱい歩くのが億劫なんだろう。きっとそうだな。でも白衣のおっさん見つける為にはこの街をくまなく探すしか……
「って待てよ」
よくよく考えたらさ、ここってあのイベントと同じ場所のハズで、僕の予想が当たってるとしたら、あのおっさんはきっと曲がりなりにもイベントで出会ったマッドサイエンティストの関係者の筈……それなら居場所わかってるよな。
居場所と言うか、アジトというかだけど。
「どうした? ここは変な匂いで満ちてて鼻が狂いそうだ。俺の鼻も使えん。アテがあるなら言え」
リルフィンの奴が鼻を擦りながらそういう。ふむ……変な匂いか。僕には別に、というかなんだか向こうの世界の匂いになんとなく似てる気もするけどな。地味に……というか、秋葉の街と同様になってるから当然道が広いんだ。
でも歩道と車道の区別が別にあるわけでもない。車という物はLROにはないしな。でも、この街では乗り物的な物はあるみたいだ。ダンゴムシみたいな乗り物の様なバスがどうやらこの街の移動手段らしい。人の波をくねくね曲がりながら進んでってる。
その他にも二人乗り程度の地味なバージョンもちまちま見かける。てかなんか服装も今まで見てきたLROの物とはちょっと違う。LROはあくまで別世界って感じで防具とか武器とか普通だった筈だけど……よく見るとここの人達はそんなのもの持ってないんだよな。
その代わりになんだか別の、皆さん指に付けた指輪みたいなので連絡を取ったりしてるみたいだ。どうやってるかは知らんけど、そこから僕達プレイヤーが使うウインドウと似たようなのが出てるのを確認できる。
なんだかこの街だけかなり進んでるぞ。これが錬金となると、確かに神が希薄化するかもな。信仰は都合のいい時だけに……ってなるんだろう。
「おい」
「あ? ああ」
僕が反応しないからリルフィンの奴からもう一度声をかけられた。前はスマホの小さな画面だったし、しかもあれからかなり街も様変わりしてるから、ついね。でも僕達の目的は観光じゃないんだ。さっさとあの白衣のおっさんを捕まえないとな。
結局街に入ったところで、兵隊がやってくる事も無かったわけだし、これであのおっさんの無実は証明されただろう。二人も納得して、協力を仰げると言うものだ。
「すごーい! 大きい! わあああ!」
小さな子どものクリエは他の大人と違って反応が違うな。頭の上にピク乗せて超はしゃいでるし。危なっかしいな……とか思ってると案の定歩いてた人とぶつかった。なんてこった。僕は取り敢えずクリエを助けに行こうとしたけど、その心配は無さそうだった。
「大丈夫?」
「うん。ごめんなさい」
なんだかキャリアウーマンというか、いかにも仕事が出来そうな感じのキリッとした女性だな。ぶつかられたその人は優しく丁寧にクリエに手を差し出してくれてる。厳しそうに見えるけど、案外優しい人のようだ。
「貴方モブリよね?」
「そうだよ~。クリエはね、クリエっていうの」
「そう……所でえっと……その頭のはなに? 物凄く興味あるのだけど」
「これ? この子はピクだよ」
「ピク……」
あれ? どうしたんだろうか? なんだかあのお姉さんの反応が少し違うような。ピクを見る目がキラキラしてるぞ。それに頬も赤らめてそわそわした感じがなんだか可愛らしい。なにあのギャップ萌えな人。狙ってるのか?
「す……少し触らせて貰っていいかしら?」
「ピクどうする?」
そう言ってピクに聞くクリエ。するとピクはクリエの耳元まで首を伸ばして何か呟いてるように見える。アイツ等は会話が成り立つからな……そう思って見てるとクリエが「いいよ〜」って軽く言った。
別に断る理由もないしな。
「ありがとう。では早速………おお! ヒンヤリしてる胴体の鉱石はまるで宝石の様な輝きを放ち、フワフワの羽はなんとも触り心地がいいわ。可愛い子ね。それに賢そうだわ。賢い子は好きよ」
なんだろう……少し嫉妬するな。なんかちょっとピクが羨ましい。あんな厳しいそうに見えるお姉さんが、目を輝かせかせてあたかも少女の様に手を伸ばしてるんだぞ。男ならなんかウズウズするだろ。
今まさに僕は見た目とのギャップにやられてるな。いや、だってあれはなんか反則だ。
「ちょっと、何怪しい目をして女性を舐めまわしてるのよ。こっちに戻って来なさい」
「誰が舐め回してるか! 誰が」
「舐め回してたじゃない。自分じゃ分かんないでしょうけど、変態の目をしてたわよ」
ええ〜マジでか? ミセス•アンダーソンの言葉に軽くショックだよ。まさかそんな……
「うふっふふふふふふふふふふ」
なんだかゾクッと背筋に来るそんな声。微笑ましいと思ってた所に不意に水を刺したそんな声の方を向く。するとそれはどうやらあのお姉さんのようだった。肩を震わせて、含み笑いしてる。
「お姉さん?」
「凄いわ。興味深い。こんな生き物が存在してるなんて、この子を使えば、物凄いアイテムを生成出来るかも知れないわ」
「だ、だめぇ!」
クリエが叫ぶ。その瞬間ピクは大きく羽を開いて彼女を威嚇した。
「駄目だよ。ピクに酷いことしちゃダメなの!」
「ふふ、そうね。わかってるわ。だけど私の中に流れる研究者としての血がね……羽と鱗一枚でいいからくれないかしら?」
駄目だあの人。全然わかってないじゃないか。さっきまでのあの輝いた瞳は可愛い動物に向けた物じゃなく、面白そうな研究素材を見つけた瞳だったのか。だめだめ言ってるクリエの事なんかお構いなしに迫ってるぞ。
「なんなのこの街の人達は。さっきの奴といい、おかしな奴しか居ないのかしら」
「まだたった二人だし、それでこの街を変人の巣窟みたいに言うのはどうかと思うけどな」
「そのたった二人が連続してアレだから、そう思うんでしょうが」
言われてみればそうだな。これだけ人が居るのに、出会う奴ばかりが変だと、自ずと他の奴等もそうなのか? と疑ってしまう。そんな考察してる間に、なんだか引っ張り合いになってるし……流石にアレは止めたほうが良さそうだな。
良い人っぽかったのに……豹変し過ぎだろ。
「少し、ほんの少しでいいから」
「や〜だ〜!」
そんな感じで結構注目浴びてるぞ。通行人達が足を止め始めてる。僕は急いで二人の元へ。テトラの奴が重いけど、逆にまだゆっくりしてやれなくて悪いと思うな。まあ腐っても神だし、そう簡単には死なないよな。もうちょっと我慢しててくれ。
「おいあんた、ピクを放して貰おうか」
「スオウ! このお姉ちゃん変だよ!」
知ってる。見てたからな。すると理論で納得させる事が出来ないクリエからこっちに矛先が。
「貴方が飼い主ね。交渉をしましょう。報酬は弾むわよ」
「いや、僕は飼い主じゃないんで。勝手にピクを実験動物として送り出す事は出来ないんだ」
「そう、なら飼い主を出しなさい」
なんか偉そうだな。こういう時は普通下手に出るものじゃ……ぴっちりとしたタイトスカートから伸びる御御足が麗しいのに、なんか残念だな。
「飼い主は今はいない。だから何も認める事は誰にも出来ない」
「代表者は居るでしょう? この子を預かってるね。それは貴方じゃないの?」
そう言って彼女は細長いメガネの奥の瞳を光らせてこちらに歩いてくる。高いヒールの靴が地面を踏む度にカツコツと音をならしてる。なんだろう……変なプレッシャーを感じる。あれかな? 年上の女性に迫られるって経験が無いから、純真な僕の心が警戒してるのかも知れない。
「僕……かも知れないけど、でも幾ら報酬を積んだってピクを実験に使うことを承認なんかできないからな」
「そうだそうだ! ピクは友達なんだよ!」
僕の足元に避難したクリエがピクを両手で抱えて抗議してる。だけど目の前の女性はそんな声に耳を傾けずに、僕に向かってその靭やかな手を伸ばしてくる。顎に指が触れて、そのまま頬をなぞるように動かしてくる。どういう事!?
なんか悔しいけどドキドキする!
「そうかしら? 別に報酬は僕が望む物ならなんでも良いわよ。女性の体に興味はない?」
息が吹きかかる程の至近距離でそんな事を囁かれた。
「な……何言って……」
「知りたいでしょ? お姉さんが手取り足取りレクチャーしてあげる」
手取り足取り……レッレクチャー!? それってつまりは……その……ベッドの上でゴニョゴニョと言うやつか? グリンフィードの後ろに付けたあの文字の意味違いか? ヤバイだろそれ。
使えなくなっちゃう! そんな事を受け入れたら、もうグリンフィードの後ろの文字がそれにしか見えなくなるじゃないか。
「そんな……そんなの……ダメだろ?」
「どうして? 興味あるでしょ? 女性の体って君が想像してオナってるその何倍も気持ちいいものよ」
なんだと!? そ、そんな何倍も違うのか? 確かに女の子は全部なんか柔らかいと思うけど、でも僕だって少しは触れた事あるし、それを元に想像はしてた訳だから、そこまで違うってのも信じれないって言うか。
「女は外は勿論だけど、中だって柔らかいのよ」
「な……中?」
「そう……中」
そう言って彼女は僕に触れてた指を唇に持って行き、艶かしくそれを下げて首を通り、胸を揺らして、そしてヘソの方まで降りていき……更にその下の方まで!! 中って……中って……つまりは……その中って!!
「挿れたこと無いでしょ?」
ドッカーーン!! だ。僕の顔からきっとそんな爆発が起こった様な気がした。だって、だって……何いってんのこの人!? そりゃあ僕は童貞だけどさ! ってそんな事はどうでもよくて、マジで言ってるのかこの人?
「スオウ! 何されてるの? きっと攻撃受けてるんだね。大変だよ早くスオウを助けて!」
リルフィン達にそう叫ぶクリエ。ありがたいけど、なんか恥ずかしいから実際はやめてほしい様な。クリエの言葉を受けてみんな臨戦態勢に入る。
「貴様、何を企んでる。さっさとそいつから離れろ!」
「そうね、これ以上は見てられないわ」
リルフィンとミセス•アンダーソンが彼女を威嚇する。だけど彼女は気にした様子がない。悪いことなどしてないという態度だ。
「邪魔しないで。これはただの交渉なの。何も危険な事なんかしてないわ」
今まさに僕の貞操が危険に晒されてると思うんだけど……大人の女性に取って食われそうな気がしてる。
「ねえ、いいじゃ無い。あの子の体の一部をちょっと提供するだけで、僕は大人の階段を登れるのよ? いい話でしょ? それともこんな硬そうな女じゃ嫌かしら?」
「いや、そうじゃないけど……って、待って今の無し」
危ない危ない、何言ってるんだよ僕。惑わされるな。ピクはシルクちゃんの大切なパートナーなんだぞ。そのピクをこんな危険そうな人に一部でも提供出るか。一度許しちゃったら、その後ズルズルと何度でもってのはよく聞くパターンだ。
そうなったらピクの体はどんどん研究によって削られていってしまって悲惨な事になりかねない。そうなったらシルクちゃんに合わせる顔が無いよ。あの子に嫌われるのはなんかヤだしな。いつもいつも僕の味方してくれる貴重な人材だもん。裏切る様な事出来るわけない。
けど……健全な男子高校生にとってこの人は危険過ぎる。実際なんでそんな堅そうな外見してるのに、性を開放しちゃってるの? これもまたギャップだな。真面目そうに見えるのに、夜は大胆に成っちゃうみたいな……そんな事を思ってると「どうして?」といいつつ体を密着させてくる。やばいやばい! これはヤバイ! 柔らかい感触があたってます! くっそ、ワザとだとわかっててもドキドキしてしまう。
「その背負ってるお友達に悪いとか? 大丈夫二人一緒でも全然平気よ。まあそっちの彼は……なんだか人間じゃないみたいだけど」
なに? 分かるのかこの人? 必死に顔を背けて耐えてた僕だけど、彼女に視線を移す。すると彼女は何かその細長いメガネを操作してる? レンズ部分に何かが表示されてるような。まさかこれも錬金アイテムなのか?
「そのメガネ……」
「これ? これは色んな物を直ぐにスキャン出来る優れものよ。ここの研究者たちは大抵持ってるわ。これでスキャンすれば大まかなデータが一瞬で得られるのよ。便利でしょ?」
そんな物が……スカ◯ターか? 戦闘能力までまさか表示されてるとか? 今まで敵の強さの基準は名前の上に現れる赤•黄色•緑の三つの色で大体の強さを測ってた訳だけど、これがあれば詳細な敵のデータが一瞬で手に入ると?
色々と戦闘が捻りそうなものだな。
「その背中の彼はそうね……殆ど測定不能。でもだからこそ人じゃないと分かる。平均のデータに当て嵌まらなすぎるわ。一体何者?」
「神様」
「面白い冗談ね」
いや、本当なんだけど……でも信じれないのはよく分かる。目の前に居るボロボロの奴が神様……というか邪神様だとは誰も思うまい。
「それにしても……」
そう呟いて彼女はテトラから僕に視線を移して、更にリルフィン達へと移動してく。僕達のデータを見てるようだけど、よくよく考えたらこのパーティーって特殊な奴ばっかだよな。そして案の定それを指摘されたよ。
「僕達は随分と研究しがいがありそうなのが揃ってるわね」
ジュルルっと思わず唾を鳴らす彼女。いやいや、今のは女性としてどうなんだ? それに僕達まとめて研究対象にされたみたいだぞ。これはヤバイから、さっさと逃げたほうがいいか? でも周りの人だかりがな……なんか僕が彼女相手にタジタジしてる間に更に人が増えてるんですけど。これを無理矢理突破するとなると、少々荒っぽくなってしまうよな。街の人を傷つけるとかしたら、この街にも居るであろう警察みたいな組織に目を付けられるかもしれない。それは避けたい。
「なんだか欲が出てきちゃったわね」
そういう彼女は突然僕から離れる。諦めたのか? でも今の言葉はそうとは思えない物だったな。それにしてもちょっと残念……いや、全然そんな事ないんだけどな!
「ねえ僕達。どうやら負傷者も居るようだし、それに余所者よね? 宛なんかなく、困ってるんでしょう? 私の研究––じゃなく、仕事場に来なさい。そこならゆっくり出来るわ。丁度五月蝿いのも出払ってたしね」
今明らかに研究所と言おうとしたよな。間違いないよね? どう考えても罠じゃないか! 誰が行くか!!
「ふふ、いいのかしらそれで? その背負ってる彼。かなり危険な状態よ。外傷がって訳じゃなく、内側がね。どういう攻撃を食らったか知らないけど、体内のエネルギーが激しく暴れまわってる。
その彼のエネルギーはどうやら測定不能レベルに膨大みたいだし、このまま行くと数時間後には彼事大爆発を起こすかも。そうなったら僕達だけじゃなく、この街まで無くなるかも知れないわね」
「なに?」
まさかそんな危険な状態だったとは……いや、でも本当か? ニワカには信じられないぞ。
「別に信じなくてもいいわ。でもついてこないのなら、そんな危険な存在を野放しになんか出来ないから、保安局に報告する必要があるわね。そうなったら僕達はどうなるかしら? 追われる立場に成るわよ?」
「脅迫か……」
「そんな物騒な事してないわ。これはただの助言。私は僕達に別の道を示して上げてるだけ」
何が助言だよ。そんなこと言われたら、僕達の選択できる道は一つしかないじゃないか。この女……やっぱり見た目通りなかなかやる人だな。そう思ってると、彼女の指の指輪みたいなのが光って目の前に映像が現れる。
『おい凄いぞ助手! 俺は凄いものを発見してしまっ––』
ブツッと映像の向こうの誰かが言い終わる前に映像を切った彼女。何故か頭を掲げてる。そしてぶつぶつと「五月蝿いのが戻ってきたか……だけど他にやるなんてしたくないし……」とか言ってた。
てか今の声……それに背中越しだったけどあの白衣はもしかして……どれだけこの街に白衣を着た人が居るかしらんけど、あれはさっきのおっさんの可能性が高いと思う。この女の連れて行こうとしてる場所にあのおっさんもいる?
それなら、上手く立ち回ればグリンフィードも奪還できるかもしれないな。
「スオウ今の……」
「ああ、これは乗ってみるのもいいかもな」
クリエの奴も気付いたみたいだ。実際通報されるのは不味いし、あの白衣のおっさんの場所に案内してくれるっていうのなら願ってもないことだ。僕は真っ直ぐ彼女を見つめて言い切るよ。
「わかった。行こう。それでいいよな?」
「しょうがないわね」
「通報されるよりはマシだろ」
「自分達もそれでいいです」
「ちょっとさり気に私の意見を一緒くたにしないでよ」
なんか一人別のところに噛み付いてるけど、みんな納得してくれたみたいで良しとしよう。
「そう、良かったわ。これで背中の彼も助かってお互いにハッピーね」
「本当にそうなれば良いんだけどな……」
イマイチ信用出来ないんだよなこの人。だけどそんな僕の言葉さえ呆気無く受け流し、「こっちよ」と歩き出した。ガヤガヤと集まってた野次馬は話しがまとまったと見るや速攻で捌けてたよ。
それから彼女の後を追って歩くこと数十分。僕はその間に色々と確信を持ってきてた。この街ブリームスは秋葉の街とシンクロした街並みしてる……だから歩いてれば大体の場所が補完される。
記憶と照らし合わせる事ができる。それで今のルートを照らし合わせると、やっぱり僕達が向かってる場所……どんどん町外れの方に向かうこのルートは多分あの研究所に違いない。
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