命改変プログラム

ファーストなサイコロ

察してあげて

 コード類と沢山のモニターが明々と脈打ってる部屋の中で、受け取ったリーフィアがPCと接続される。カタカタカタと何度かキーを打ち、中に入ってた紙を確認してパスコードを打ち込む。
 だけど実際、これだけじゃリーフィアのセキュリティは抜けなかったりする。まあ分かってたことなんだが、リーフィアにとってのパスとかIDとかはぶっちゃけ飾りでしか無いようだとここに来て知ったよ。
 タンちゃんの話だと、どうやらリーフィアは脳波? で本人認証をやってる節があるようだ。最初のキャリブレーションの時に、色々とやったけど、その時にきっと頭も登録されたって事なんだろう。
 実際IDやパスワードなんて物は盗もうとする悪意がある奴から完全に身を守るって事は出来ないからな。リーフィアはフルダイブを完全に実現した機械だ。もしも接続中にでもハッキング受けたら……なんて考えると既存のコンピューターでは起きない様な事が起きるかも知れないからな。
 その為に、脳波での本人認証を行ってるって可能性はある。まあそれも絶対ではないけど。一度被ってとっても十分くらいはそのままだしな。面倒がない分その時は危険なのかも。
 でもそもそもにリーフィア•LRO共にハッキングは超難しいとされてるし、なんだかネットワークの質? というかなんだかよくわからない部分が違うらしいからな。そこまで心配する事も無さそうではあるが、既存の部分に繋がってる部分はあるからな。
 その為の対策でもあるんだろう。事実、俺達はその部分をつついてる訳でもあるしな。


「大丈夫なんだよな?」


 俺がそう言うと、タンちゃんは仮面の位置を整えてこう言う。


「見てるがいいさ坊や。インフィニットアートを持つものの違いと言う奴をな」


 すると何やら画面によくわからない小窓がいっぱい出てきた。そしてこれまでとは桁違いに早いタイピング。どう見ても手の速さがおかしい。それに画面に流れる文字もおかしい。確かに異常な手の動きだけどさ、それにしたって流れる文字が速すぎだろ。そう思ってるとメカブの奴が下を指差して言ってきた。


「アレよあれ」
「アレって……足!?」


 いやいや、それまじか? 自分の目を疑いたいが、いくら擦ってもその現実が見えなくなく訳じゃない。タンちゃんさ……足でもキーボード弾いてるぞ。見なくても確かにタイピングは出来るものだ。
 だけどそれは繊細に動かせる指だからじゃないだろうか? それこそ高速で打てるのは指であるおかげの筈。それを足って……あり得ないだろ。足の指ってそんな自由に動かせるか?
 まあ訓練とかで出来なくもないのかもしれないけどさ、使い勝手は手の指には及ばないだろ。だって短いし。


(その筈なのに……なんだあの動き……まさかアレがインフィニットアートのちか……)


 って影響されるな俺。んな訳ないだろ。そもそもインフィニットアートってなんだよって事だし。そんな物、このままならないリアルに存在してる訳ない。彼等の中二病的な設定なだけ。
 でも……異様な光景なのは確かだな。


「へぇ〜凄いけど、なんだかあんまり格好良いとは思えないかな?」
「それを言うなよ」


 確かにタンちゃんの技術は凄い。ハッキリ言って何やってるか全然分からんけど、凄いのだけはわかる。日鞠の言うように格好良くはないけどな。まあズバッと言っちゃえば地味だ。


「なかなかやるように成ったわね」


 なんだか感慨深い様な台詞をきっとなんの意味もなく言ってるとおもわれるメカブ。なんでもかんでも意味深にしようとするの辞めてほしいな。うざったい。するとタンちゃんの奴がこっちを向かずに手だけを「んっ」と向けてくる。
 どういう意味だ?


「きっと何かを求めてるんだわ。供物をそこに!」
「供物って……」


 生き神かなんかだったのあの人? 取り敢えず辺りを見渡す。取り敢えずジュースとお菓子しかないぞ。そう思ってると、日鞠の奴が素早くポテチをやってた。だけどタンちゃんの奴は受け取ったポテチを握りつぶすばかり。口に運ぶ気配がない。その間にも大量の文字列が流れて行ってる。
 そして辺りからはどんどんパソコンの駆動音が激しさを増して行ってる様な……なんだかこのまま行くとまたブレーカーが落ちそうな気配がするな。大丈夫か?


「どうやら食べ物じゃないようよ。供物は別の物ね」
「贄は生命の息吹を感じるものではないと……」
「てか聞けば早いんじゃないか?」


 そこに居るんだ。わざわざ考察を楽しむ事はないだろ。急いでるなら尚更。てか、タンちゃんはなんで何も言わないんだよ。ポテチでベタベタに成った手でタイピング続ける気か?  一回拭いた方がいいと思う。


「インフィニットアートは集中力が必要なのよ。それこそ今アレは全てを画面の向こうにつぎ込んでる。言葉に変換出来る余力さえない」
「つまりはパソコンの方で手一杯と言うことか」
「インフィニットアートを馬鹿にしないで」


 冷ややかな目が俺に突き刺さる。でもあんまり痛くはないな。馬鹿にしてると言うか、呆れてるからか。けど向こうに余力がないのなら、こっちで考えるしか無いか。


「取り敢えず今やってる事に必要なものがあるんじゃないのか?」
「じゃあこれね」


 俺の言葉に直ぐに日鞠が床にあった工具箱を持っていく。それをどうしろと? パソコンを起動してる時に分解でもやれと言うのか? ぶっ壊れるぞ。当然の如くそれは弾かれてた。


「全く、何が不満なのよ」
「お前の頭にじゃないか?」
「最高峰なんですけど」


 威張ってそういう日鞠。こいつを見てるとバカと天才って紙一重なんだなってしみじみ思う。取り敢えずお前はあの工具をどうして欲しかったんだよ。


「パソコンを更に組み上げてスーパーコンピューターを作り上げるとか?」
「そんな事できる奴いねーよ」


 文字通り片手間で出来る事じゃない……と言うか、そもそもそんな問題じゃないだろ。日鞠も本気じゃないだろうけど、もうちょっと真面目にやれよ。深夜だからってテンションおかしくなってるんじゃないのか?


「失礼ね。この位の時間は余裕よ。車の中で寝てたしね」
「ああ」


 グースカグースカよう寝てたなそう言えば。行きも帰りも爆睡して、少しはあの運転手さんの話し相手も努めろよな。帰りはともかく、行きはちゃんと俺は付き合ってたからな。


「まさか秋徒、あんた私の寝顔を撮ったり……」
「してねーよ」


 頬を赤らめておぞましい想像するな。そんな事するわけない。なんで今さら、こいつの寝顔を俺がニヤニヤしながら撮らなきゃいけないんだ。ありえん。そりゃあこっちにもたれ掛かって来た時とかドキッとはしたけど、それだけだ。


「じゃあ愛さんだったら、撮ってた?」
「なんの話だよ。そんな事よりもさっさと要求してるものをだな……」
「撮ってたんでしょ? むふふ……」


 手を口に添えてムカツク顔でムフフとしてる日鞠。こいつ勝手に結論づけてるな。色々と言ってやりたいけど、ここでこいつに文句言うと、その話題に行きそうだからな。それに実際多分撮ってたとは自分でも思う。
 だから全力でスルーだ。俺は部屋を見回す。何が必要かとか全く言わないから、実際要求されてる物の検討すらつかないのが本音。でも考えてみると、俺達にそこまで専門的な知識がないのはタンちゃんだって知ってるはずだ。
 それなら何も言わずにPC 関連のパーツとかを要求するはずはない。参考にしてる書籍とか……とも思ったけど、ここ本ないや。


(もしかして)


 俺はある考えが浮かぶ。専門的な物とかが無理で、食べ物系でもない……タンちゃんは今インフィニットアートとかで集中力を削りまくってる最中……それなら自分をリラックスさせるアイテムを求めてると思えないだろうか。
 部屋を見回す俺の視界に、ある物が飛び込んでくる。それはさっき(というか茨城に行く前にメカブが持ってた袋……そこに数センチ四方の箱が! これだ。見た感じタンちゃんは大人(成人)だと思われる。それなら成人が用いるリラックス方法は大体二つに絞られる。
 それは酒かタバコ。でも酒は流石に渡せないからな。なら選択肢は一つだ。そしてこれは間違いなく––そう思って俺はビニール袋に手を突っ込ん目的の物を持ってタンちゃんの近づき「コレだろ!」って言って渡した。


「ぶげっ!?」


 すると速攻で顔面に帰ってきた。なんて事をしやがる。これ以外にあり得ないだろ!! そう思って俺は床に落ちたその箱を取る。すると薄暗い中、なんとかパッケージが確認できた。そこにはタバコと瓜二つの商品のイメージ写真とデカデカと商品名が印刷されてる。それを見て俺ももう一度それを床に叩きつける。


「ココアシガレットかよ!!」


 駄菓子じゃねーか!! 紛らわしいもの買ってくるな。俺はメカブを睨みつける。


「それはタバコです。そう思えばそれはタバコなの」
「そんな哲学は知らん!」


 そんな俺の言葉に何故か日鞠と一緒に肩を竦めてる。むかつくなアイツ等。てか、流石に選択肢がもう……一体あいつは何を求めてるんだ? やっぱ酒か? ここには冷蔵庫あるしな。中見てないけど、きっと酒くらい入ってるだろ。
 でも酔われると困る。


「しょうがないわね。でも落ち込むことはない。インフィニットアートを持ってない貴方達には、持つものの思考を理解できなくて当然。私達はだからこそ孤独になって行く」


 メカブの奴が自信満々に歩きながらそういう。なんだこの迫力? メカブの癖に……異様な自信を感じるぞ。


「わかるのか? あいつが求めてる物が?」
「私を誰だと思ってるのよ? アンタ達は私を軽んじ過ぎなの。私はメーカー•オブ•エデン。その力は世界を壊す」


 乱れた髪に、真っ赤なトマトの寝間着を着込んでたら何言っても決まらないな。元からアホだが、ポーズまで加わると流石にアホ度もここに極まれり––と思える。「世界を壊す」がギャグにしか成ってないんだが……言葉を崩壊させる天才かお前。


「うるっさいわね。人間の分際で私に文句でもあるわけ?」


 いきなり柄悪くなったぞこの女。正面に立ってガン飛ばして来やがる。その鼻周りのソバカス擦り削ってやろうか……


「ふんまあいいわ。人間の事、私基本的に憐れんでるから見逃してあげる。良かったわね」
「そりゃあどうも」


 心底どうでもいいけどな。俺も実際お前を憐れんでるぞ。とても悲しい目が出来るくらいに。どうしてこんな風に育っちゃんだろうか……せっかく立派な物を持ってるのに。そう思いつつ俺はタユンタユン揺れる大きな胸に視線を向ける。
 顔はまあソバカスはアレだが、整っちゃいるし髪だってくせ毛だけどまだどうにか出来るだろ。そしてこの胸……ちゃんとしてればそれなりに良い部類の筈なんだが……如何せん中身が悪いな。
 そう思ってると、メカブの奴は何を思ったのか俺のイチモツをモギュっと––


「ぼぎゃ!!?」
「あっ、間違えた」


 何今の? え? いやマジで説明……いや、やっぱ良いかも。いきなりの事で動転してるし、ちょっとその硬くなったと言うか……腰が自然と引けてしまう。


「メカブ案外大胆だね。消毒したほうがいいよ」
「そうだね。でも汚れてる内にもう一度」
「もう一度!? どこ狙ってるんだ!」
「大丈夫、今度は外さないから」


 またモギュっとされるのは勘弁だ。だって今はその……血流が早くなってるからな。体に変化が起こってるんだ。神秘……そう神秘という変化が起こってるんだ! でもそんなのお構いなしにメカブの奴は指をウネウネさせてやがる。本当にもう一度来る気かこいつ?
 何が目的なんだよ! そんなに……良かったとか? 恥ずかしい。


「なんかキモいわよ」
「うるせえ!」
「隙あり!!」
「ぬあ!?」


 突っ込まれた……俺のイチモツ近くまでメカブの手が……指が迫ってくる! やめろ……辞めてくれええええええ!


「これこれ、これをきっと求めてると思うんだ」


 何を握って引っこ抜いたのかと思ったら、それは俺のイチモツじゃなく、スマホだった。まあポッケに入ってる物は限られてるからな。てかそれ欲しいのなら、なんで言わない。いきなり男子の大切な部分に触れるとか、心臓に悪すぎなんだけど。しかもさりげに酷いこと言われてたしな。
 今でも心臓バクバクだっての。


「それ欲しかったのに、最初なんで間違えた?」
「手だけに手違いかな?」
「何も上手くねえよ!」


 くそ、なんだかマトモにメカブの事を見れなくなるな。てか、こいつはなんで普通なんだ? だってその……触れちゃったんだぞ。普通「きゃー」とか言うだろ。でもメカブの奴はそんな素振り一切無く「間違えた」で済ましたからな。
 何その反応? まるで俺の物に気付かなかったみたいな……やめよう、なんだかこっちの傷だけ大きくなるだけだ。向こうも気にしてないのなら、こっちも気にしなければいいんだ。そうだよな。


「それがタンちゃんのほしい物? 秋徒のスマホをどうするの?」
「それは知らないけど、これは情報の収束体でしょ。何かやりようがあるんだろうし、私達に求める何かはこれくらいでしょ?」
「それもそうね。って、何秋徒は落ち込んでるの?」
「いや、別に」


 物が手に入ったら速攻で俺の事なんか放り投げやがって。これだから女は……愛しかもう信用出来ない。二人して再び肩を竦めて、メカブは俺のスマホをタンちゃんに渡す。てかちょっと待てよ。
 あの手、ポテチでベタベタじゃなかったか? 俺は阻止しようと動こうとしたけど、如何せん下半身の突起物のせいでヘタに動けなかった。なんてこった!! そしてそうこうしてる間に俺のスマホは脂ぎった手の中に。


(ああ〜)


 だ。そう思うしか無い。速攻で放してくれないかな? とか思ったが、どうやらメカブの予想は当たりのようで、タンちゃんが俺のスマホを解放することはなかった。何をするのかと見てると、どうやらケーブルでPCと接続してる。更に指をスワイプしながら何か操作してるな。
 するとプルルと呼び出し音が鳴り出した? どこかに電話掛けてる? 


『もしもし? こちらテッケンです』


 出たのはテツ? それはいつも向こうで聴いてるテツの声だった。でもなんの為に? 別に話そうともしないしな。


『えっと、アギトだよね。セラ君から番号は聞いてるから分かるよ。……どうして何も言ってくれないんだい? ああ、そうか。僕自身が会いに行かなかった事を怒ってるのか。それは済まないとは思ってる。
 でも……その少し事情があってね。だから彼女に頼んだんだ。ごめん、今の僕はまだこちらの姿は見せたくないんだ』


 なんだか一人でブツブツ言ってるテツ。誰も聞いちゃいないけど、なんか大切な事をいってるぞ。タンちゃんとか、通話かけた癖にガン無視だもんな。何をやってるんだか。


『ごめん本当に。だけどちゃんと穴埋めはするよ。向こうで、もう一度会うことが出来たなら、その時は色々と話したいと思うんだ。だからそれまで––プツ』


 お〜い、物凄く深刻そうな話だったのに切りやがったぞこの仮面野郎。これじゃあ俺がテツに最低な奴だと思われるだろうが! だけどそんな怒りを忘れさせることをタンちゃんは告げる。


「抜けた……俺に不可能はない!」


 画面にはどうやらテツのアイテム欄が表示されてるようだ。なるほど、確かに抜けてるな。でもあの通話は一体なんの意味が?


「貴様等では理解できないだろうが、人それぞれの特徴というものは節々に現れるんだ。あの通話によってそれを俺は引き出した」


 安っぽい仮面に手を当てて大物振るタンちゃんは満足そうだ。確かによく理解できないが、ようはあの通話で脳波を解析でもしたってことか? 出来るかは知らないが、出来たんだから、リーフィアの内部にアクセスしてるんだよな。


「よくわからない事なんてどうでもいいわよ。それよりも例のアイテムは?」
「ちゃんとある。これだろ」


 タンちゃんが画面をスクロールしていくと、そこには確かに『???』の文字が。このアイテムで実際にスオウへの道が開かれるかは未知数だが、俺達の希望はこれだけだ。後一つ……それからでもあるよな。


 アイテムは確認された。俺達は流石に少し休憩することに。朝にならないと物は届かないんだ。こればっかりは急いだってどうにも出来ない。リアルにはワープとか無いんだからな。物理的な距離の壁は超えられない。
 日鞠とメカブは別の部屋で仮眠を取ることに。俺はしょうがないからこの場所で寝たよ。パソコンとタンちゃんのタイピングの音が煩かったが、流石に色々とあって疲れてたから、案外すんなりと寝れた。
 愛の為にも起きときたかったが、帰ってきた時に目の周りにクマでも出来てたら、逆に心配させそうだしな。


 ––てな訳で朝だ。鳥のさえずりに、季節感を出すセミ達の鳴き声……そんな風流な物はなく、やっぱり起きてもパソコンの駆動音が部屋を満たしてた。なんか気が滅入りそうになるな。カーテン一つ開けてないし……体内時計狂うぞコイツ。てか既に狂ってそうだな。タンちゃんは俺が寝る時と変わらない態勢の様な気がするが……寝たのだろうか?
 あれからもずっとパソコンと向かい合ってた? でもなんだかやたら元気だな。画面に向かって変な笑い声を上げてる。画面の向こうの世界にでも行ってそうだな。取り敢えず一人でアレの相手はしたくないし、気持よく起きるために外に出ることに。
 ガチャッと扉を開けると、モワッとした熱気が……部屋がやたら寒いから忘れてたが、まだまだ暑い日が続いてたんだな。


「あれ?」


 扉を開けた筈なのに、何故か外に出れないぞ。寝ぼけた目を擦りながら視界を確認すると、何かがあるな……というか硬くがっしりとした物が立ちふさがってる様な……


「こんなのあったっけ?」


 俺はそう言いつつ手を伸ばしてその何かを退かそうとした。だけど硬くがっしりとしてたはずのそれは、俺の手が触れた部分だけ、フヨンとしてた。なんかちょっと柔らかかったんだ。
 黒い山が二つ目の前にあって、そこだけなんか柔らかい? 


「なんだこれ?」


 ガジガジ揉んでると、どこかからか「滅!!」の声が聞こえたと思ったら、俺の意識は突然ブラックアウトした。いったい何が? 訳がわからない。



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