命改変プログラム

ファーストなサイコロ

それぞれの大切

 夜道をひた走り、ボロいビルに戻ってきた頃にはやっぱ深夜回ってた。てか次の日になってた。愛はまだ戻ってこれてない。流石に島根から行って戻って来るにはもう少し……と言うか、今日はもう無理かな。
 一応公共交通機関には駆け込んだみたいだけど、全て遅かったみたいだ。それでも「タクシー使います」とか言ってたけど、流石にそこまでさせるのはな。早く戻ってきて欲しい気持ちはあるけど、島根からタクシーで東京までって……何万かかることやらだろ。
 愛にとってはそんなのはした金かも知れないけどさ、だからってほいほい使わせて、縋るのはどうかとも思う。まあ今は状況が状況だし、そんな事にこだわる必要もないっちゃないんだけどな。
 色んな事が一刻を争ってるかも知れないんだから……俺自身の小さなプライドとかは捨てた方がいいのかも知れなかった。けど……そう出来るほどに俺は大人でもないんだ。


「ありがとうございます。助かりました」


 運転手さんにそう告げる日鞠。流石にちょっと疲れた感じになってる運転手さんの労をねぎらうのは大切だよな。この人のお陰で、なんとか一つリーフィアを持って帰って来れたわけだし。


「ありがとうございました」
「いやいや、これもお嬢様の為だからね。それに君達を見てたらおじさんも頑張らないとと思えて来るんだよ。やっぱり若者のパワーは凄いね」


 そう言ってくれるとありがたい。ぶっ通しで運転してもらって、帰りなんて俺達殆ど寝てたしな……流石にこき使いすぎ? とか思ってたわけだが、運転手さんの言葉に救われた。すると時計を確認しながら運転手さんはこう言ってくる。


「所で君達は家に戻らなくていいのかい? ご両親もきっと心配してるよ」


 ごもっともな質問がきたな。まあ良識ある大人の質問だ。心配してくれるのはありがたい。でも大丈夫だ。


「ありがとうございます。けど大丈夫です。家は放任主義なんで」
「私も大丈夫です。ついさっき連絡入れときましたから」
「それならいいんだけどね。でも彼の方はともかく、彼女の方はそれだけで大丈夫なのかい? 家の娘なら外泊なんてとても……」


 日鞠に自分の娘を重ねたみたいな運転手さん。確かに、この年頃の女子を外泊させるって男親としては心配かもな。女同士ならともかく、いきなり外泊するって伝えられるだけじゃ、気が気じゃないだろう。
 こいつの場合はそれが普通で気にもしてなかったけど、ホント日鞠の親父さんは大変だ。娘の事溺愛してるしなあの人。


「運転手さん娘さんが居るんですか?」
「ああ、まだ小学四年生くらいだけどね」
「それは可愛い時期ですね。でもその年でも友達の家に外泊とかしますよね?」
「ああ、時々ね。その時は本当に女友達かの確認は怠らないよ。迷惑を掛けるわけだから……と言ってそちらさんにも連絡を入れるようにしてるからね」


 徹底してるな。この人も親馬鹿か。普通そこまでするか? でも小学四年ともなると、色々とおませになってく頃かもな。特に女子は心の発育が早いって言うしな……


「ウザがられてないですか?」
「うっ……少しだけだよ。確かに最近はちょっとそんな気もあるかも知れない。やっぱり私が周りのお父さん方よりも歳なのが嫌なのかも知れない」


 そう言ってちょっと塞ぎこむ運転手さん。そう言えば確かに小学生の娘を持つには年食ってる……か? 五十過ぎてそうだもんな。でも原因はだから最初の方だと思うけどな。勿論女の子なら歳もありそうだけどさ、相手方に毎回連絡入れるとか、そこだろ。


「む、娘を守るのが親の仕事だよ。最近は色々と少女趣味の変質者増えてるしね」
「それは……まあ確かに」


 増えてると言うのは実際語弊があると思うけどね。昔は良かったってよくこの年代の人はいうけど、そういう犯罪は寧ろ減ってるからな。とか思ってると、日鞠の奴がそれをそのまま言った。


「そうですか? 今は履口が一杯あるから寧ろ減ってる方ですよ。数十年前の方が少女に対する性犯罪は圧倒的に多いですし。マスコミや政治家は事あるごとにそういう本やゲームを持ちだして原因にしたがりますけど、ハッキリ言えば日本よりも外国の方が圧倒的に性犯罪は多いです」
「確かにそれも言われてるけど、犯罪が無くなることはないんだよ! 自分の娘がその魔の手にいつ絡めとられないかも知れないじゃないか。君のお父さんは、心配してないのかい?」


 やっぱり親馬鹿だなこの人。犯罪が無くなる事はないって、それはどうしようもない。人に感情がある限り、犯罪が無くなることなんてあり得ないんだからな。心配する気持ちはわかるし、この人だってそれをわかってるから、娘を軟禁するとかアホな事はやらないんだろうけど、これじゃあ毎日毎日ストレスたまるだろうな。
 もう年なんだし、愛の事も心配して、愛娘の事も心配して……胃に穴が空くぞ。


「実はもう空いてるんだ……」
「笑っていうことじゃないですよ」


 やっぱりこの人後数年でぽっくり行きそうだな。ご愁傷さまです。


「嫌だ。私は娘の結婚式を見届けるまでは死ぬなんて出来ない」
「結婚までで良いんですか?」
「え?」


 日鞠の言葉に目を丸くする運転手さん。何を言いたいんだこいつ。


「今は結婚した三組に一組が離婚する時代ですよ。見届けた一年後には子連れで放り出されて実家に戻ってくるかも知れません」
「嫌な事をいうなよ。そこは幸せに暮らしてるって事で逝かせてやれよ」
「そんな状況で逝きたくない!!」


 ほら、こうなっちゃうじゃないか。そんなの聞いたら結婚したって安心できなくなってしまうのは当然だ。そもそも親父側って娘を快く送り出してないって聞くしな。


「確かに、本当は娘をどこぞの馬の骨などにはやりたくない!」
「秋徒は良いんですか? 愛さんと釣り合いとれてないと思うんですけど」
「おい、お前な!!」


 それを聞くって鬼かお前は! ホント良い性格してるよこいつ。すると運転手さんは車にもたれかかりながらこっちを値踏みする様な目で見てくる。


「まあ……彼にはもう色々と言ってあるからね」
「そうなの?」


 日鞠の奴がこっちにそう聞いてくるから俺は頷いてやるよ。そう言えば色々と話したもんな。日鞠の奴は寝てたから知らないだろうけどな。


「そっかそっか。一人でも味方ができて良かったじゃん。なんてたって愛さんの家は大きいからね。その内財産争いとかに巻き込まれて血みどろの闘争に。婿養子なんて真っ先に暗殺されそうよね?」
「なんで目を輝かせてそんな事言えるのお前?」
「だって、小説みたいじゃない。その時は私が犯人を見つけてあげるわよ」


 イラネーよ! 殺される前に何とかしようという発想はないのかよ! てかまさかそんな事は……ない、よな?


「どうでしょうか? まあお嬢様とお兄様方は仲良くいらっしゃるので、流石にそこまでの事はないと思いますが」
「ほらな」
「でも秋徒が気に入られるかは別問題じゃない? お兄様方は別に愛さんには敵対しなくても、大事な妹を奪った秋徒は憎いかも知れないんじゃない?」
「お前な、なんだって俺の事になるとマイナス面でしか思考しないわけ?」


 お前はいつだってポジティブシンキングが売りだろ。それなのになんで俺の事となると暗いことばかり……応援してるんじゃなかったのかよ。


「別にマイナス思考してる訳じゃない。可能性を言ってるだけだよ」
「それがたち悪いんだけどな」
「まあそれだけ家族にとって女の子は大事な存在って事よ」
「じゃあある意味、何も言われないお前はどうなんだよ?」


 溺愛されてた筈だけど、実際俺が知ってるのは中学までの事だしな。最近の事はしらないし、いつの間にか愛情が薄れてるということはあり得そうだ。


「私はもうフィアンセいるし、自立してるも同然だもの。そこら辺をお父さんもわかってる。愛されてはいるけど、今はその愛情は妹に方に向かってるわけ」
「妹?」


 居たっけそんなの? こいつの印象が強すぎてちょっと記憶にないぞ。


「居たわよ。人の可愛い妹をなんだと思ってるの。確かにおとなしい子だから記憶に残りづらいけど、とっても美人なんだから」


 家族が言う美人は信用出来ない。てか、女が語る可愛いも信用出来ないけどな。どこがって聞くと「目元が」とか「口元が」とか言うだろ。まだ外見的な物ならいいけど「喋り方」とかなんだよ。
 知らねーよ! お前の感性なんて知らないから! って言いたく成る。まあもう学習してるんだけどな。


「言っとくけどホント美人よ。街に一緒に出かけたら向こうだけスカウトされるくらいにね」
「それ、自分を貶めてるぞ」
「うう、私はそんなの求めてないもん!」


 突っぱねた。悔しいからって突っぱねたぞ。まあでも日鞠は容姿が問題じゃなく、格好が問題なんだと思うけどな。いつだって三つ編みだし、似合ってないわけないけどさ、今時の服には結構浮くんだよねそれ。
 てかこいつはなんでここまで三つ編みに凝ってるのだろう? きっとスオウ絡みなんだとは思うけど、そこまで聞いたこと無かったな。


「なあ日鞠、お前なんでその髪––」
「ん?」


 その時、俺のスマホがバイブする。会話を中断してスマホを取り出して画面を見ると、愛からだった。


『やっぱりなんとか戻ります。朝一には着いてみせます』


 そんな内容のメールだった。愛の奴、無茶しなくてもいいって言ったのに。取り敢えずそのままメールを返してやった。すると数秒もしない内にメールが……と思ったら電話がかかってきた。打つのが煩わしくなったのかも知れないな。でも丁度いい、なんだか愛の声が聞きたかった気分だったんだ。取り敢えずちょっと車から離れる事に。運転手さんと日鞠の奴は、再び娘さんの事で話に華を咲かせてる。


「もしもし」
『はい、秋君。あの……ごめんなさい。でもやっぱりどうしても早く戻ったほうが良いと思って』
「それは、そうなんだけど……でもこんな時間だろ? 戻ってくるって言ってもどうやって?」
『大丈夫です。既にタクシーを捕まえてます。高速をひた走って朝にはそっちにつくと思います』


 早い、俺の反対意見を想定してか、既にこっちに向かってると……愛って案外行動派? てか、既にタクシーまで捕まえて向かってるのなら、もう何言っても無駄じゃないか。俺が大きなため息を吐くと、電話の向こうの愛がちょっと尻すぼみになってこう言う。


『怒りましたか秋君?』
「そうじゃないけど……愛にばっかり大変な思いさせてるなって……本当ならさ、男の俺が一番大変な所引き受けなくちゃならないのに、俺には自由に出来る金なんて微々たるものだから……愛にばっかり頼って。これじゃあ釣り合いが取れてないって言われるのも当然だ」


 俺は愚痴みたいにそうこぼす。すると愛が少しの間黙る。聞こえてくるのは愛と運転手さんの話し声だけ。閑散とした街は、街頭の明かりだけが虚しく続いてる。そして不意にポツリと愛は突飛な事を言った。


『秋君は……その……私達の将来の事とか考えた事ありますか?」
「へ?」


 思わず言われたそんな言葉に俺の喉は変な声を発した。いやだって、将来って……どういう事? と思うだろ。いきなりのジョークで空気を変えようとしてる? でも愛はどうやら真剣な模様だ。


『将来というか……先の事です。どの辺りまで考えてるのかなって……どうですか?』


 更に迫ってくる愛。俺はゴクリと喉を鳴らす。これは……アレか? ここでプロポーズしちゃって良いのか? 色々とこっちは先の先まで考えちゃいるからな。俺は愛を手放す気なんかないんだから。


「お、俺は! 俺は……愛との将来だっても、勿論色々と考えてる。だからこそ、今から頑張って相応しい年収を」
『年収なんですか?』
「いや、相応しい男になりたいと……その思ってます」


 こ、これはプロポーズ認定して良いのか? もう全く格好良く言えなかった。完全にしどろもどろだ。しかも電話……


『私も色々と二人の未来を考えてます』


 おお! それはつまり……そういうことですか愛? そういう事と受け取って良いのか?


『私達は互いに将来に前向きです。ですからハッキリさせておきたい。相応しいとかそうじゃないとか、私に頼ることが嫌だとか、そういうのはやめて欲しいんです』
「愛……」


 愛の静かな……水面を広がる淡い波紋の様な波長の声に俺の心の高揚が静まってく。


『私はもっと秋君に頼られたいですよ。秋君はそれが男の人として嫌なのかもしれない。情けないと思うのかも知れない。でも私達は遠慮なんていらないんです。知ってておいてください。私達は互いに互いの為に成ることをやりたいと思ってる。
 そしてそれを今は、私の方が多く出来ると言うだけ。それだけです』
「……そうだな。愛だって俺のためにって思っててくれてるのはわかってるんだけど、俺はどうしても変な見栄を張りたがる。行けないよなそれじゃあさ」
『いいえ。秋君はまだ高校生ですから』
「どういう意味だそれ?」


 なんだか今のは『まだ子供』と言われたに等しいよな。そりゃあ愛の方が年上だけど……子供とはもう違う……と全国の高校生は思ってるはずだぞ。


『ふふ、その頃は背伸びしたくなる物ですよね。では秋君おやすみなさい』


 そう言って通話は切られた。やっぱり子供と思われてるじゃないか。そりゃあ、成人するまでは子供なのは法律的にそうだけどさ……早く対等になりたいと思う。年齢は追いつけないけど、せめて同じ目線に立ちたい。
 その為にも、色んな事を今から頑張らないといけないよな。取り敢えず俺も、日鞠みたく救えるものを片っ端から救うとか、スオウの奴の様に固い意志を心に刻むことか始めるさ。俺はスマホをポケットにしまって日鞠達の方へ。


「愛さんなんだって?」
「こっちに向かってるってよ。急がなくて良いって言ったのに」
「愛さんも秋徒と一緒に頑張りたいんだよ。わかってやらなきゃ、体だけデカくてもあの人は守って行けないわよ」


 なんだか日鞠の奴に分かったように言われると腹立つな。でも言い返せない。確かにその通りだと思ったからな。


「それじゃあお二人共、今日の所はこれで失礼します。アドバイスありがとうございます。心がけて行きます」
「頑張ってくださいね」


 ニコニコしながら運転手さんは車を出した。レンタカーだったよなあれ。今の時間に返せるのだろうか? 流石に明日にするのかな? まあそんな事よりも……


「何アドバイスしたんだよ?」
「年頃の女の子との正しい接し方かな?」
「そんなのあるのか?」


 無条件で「キモ」とか言われるのが親父さんの役目じゃないのか?  洗濯物も別にされたり、お風呂の湯を後に入るとき抜かれて入れ直されたりとか……ドッカンと来る痛みじゃないが、ジワジワと来るものがあるよな。
 そんな相手と良好にだと……


「それは中•高の時期に出てくる症状でしょ。あの人の娘はまだ小学生よ」
「そう言えばそうだったな」
「でも、このままではいずれそうなるのは確実ね。だから色々と今のうちにパパ大好きにする作戦を伝授しておいたの」
「うん、まじで大丈夫なのかそれ?」


 お前のやり方って殆ど異常だからな。信用出来ない。あの人大丈夫かな?


「何よ。私も女の子なんだからね。何をされたら嫌だとか、そういうのはわかってるもん」
「お前の感性を一般的な女子と一緒にするなよ」
「どういう意味よそれ」


 ぐいっと懐に入って見上げて来る日鞠。なんだか甘い香りが鼻孔に……俺は逃げるように荷物と共に階段の方へ上がる。


「いつまでも外に居るのもなんだし、さっさと中に行こうぜ」
「ふん、まあいいわ。私の絶対的な正しさがその内分かるわよ」


 俺達は古ぼけた階段を上がる。日中はあんまり思わなかったけどさ……なんだかこのビル……夜は相当不気味じゃないか? 音も何も聞こえず、僅かな蛍光灯の明かりを頼りに最上階まで上がるこの道程……ちょっと怖い。
 すると日鞠の奴がこんな事を言う。


「ねえ秋徒。何か聞こえない?」
「は? 何がだよ」
「何かが……這ってくる様なそんな……音が!!」
「うおあ!?」
「あっはは〜ビビってる、ビビってる」
「お前な!!」


 完全に遊ばれた。この女……どうしてこう俺の心の内を呼んで行動できるんだ? おかしいだろ。俺一言も口に出してなかったはずだぞ。


「イイ顔してたよ秋。愛さんに送ってあげよう」
「やめろ。返せ!」


 いつの間に写真まで……俺は日鞠のスマホを奪おうと躍起になる。するとその時、カーンと甲高い音が階段の上から聞こえた。そしてカンッカンッ……と連続した音がビル内に響く。
 足元まで落ちてきたのは、凹んで拗られた缶だった。なんだかその拗られ方が妙に狂気を感じる拗られ方というか……俺と日鞠はゴクリと喉を鳴らして上を見た。するとそこにはだらりと腕を垂らして頭をたれた、全身真っ赤な服を着て髪を見だした女の姿が!!


「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」


 俺達は二人同時にそう叫ぶ。いや……だって薄暗い蛍光灯の光に照らされたそれはまさに霊としか……しかも裸足だし。足あるけど、裸足なのが妙にリアリティがあるというか……
ペチペチ鳴らして迫ってくるのは怖すぎる。


「人間……」


 なんだか自分は人間じゃないみたいなことを言ってる! これは確定だろ。これだけハッキリと見えるが、人間は人間をみて「人間」とはそうそう言わないぞ。別の……何か!?
伸びてくる腕は妙に白っぽく見えて、だけど指先には赤い汚れが……血か? 血なのか!? 一体誰の?


「何をビビってる? 私の強大な力をとうとう感じたか? 感じてしまったのか?」
「あ?」


 声が……普通の少女の声だった。てかまあ普通よりもちょっと甲高くてアホっぽい声だった。こいつ……


「メカブか?」
「今はカモフラージュしての夜間休止状態なの。だけど私のインフィニットアートの力はなかなか抑えられる物ではない。それを感じ取ってしまったのね」


 いや、全く違う……てかカモフラージュって、その真っ赤な服は何なんだよ?


「禁断の赤い果実」


 そう言ってメカブはフードを被る。するとてっぺんに青いヘタが見えた。


「それはトマトじゃない?」
「そうね。そうとも言う」
「えっと、禁断の赤い果実は林檎じゃなかった?」
「…………それはクックロビンによって歴史改変された後の捏造世界での事。本当はトマトこそが禁断の赤い果実」


 誰だよ。明らかに「え? そんな……」みたいな顔したぞ今。


「そ、そんなことよりもミッションはコンプリートできたんでしょうね。こっちは管理局の目を誤魔化す為にイントラスワールでの壮絶な戦いを今までやってたのよ」
「翻訳してくれ」
「ようは、調査委員会の監視と追跡を逃れる為に、ネットに色々と仕込んでたの」
「なるほど」


 そこはちゃんと翻訳してくれるんだな。でもそれタンちゃんがだろ? こいつ絶対に寝てたよな。それ寝間着だろ。そう思ってるとメカブは真剣な顔してこう言うよ。


「いつまでもここに居るわけにも行かないかも。お兄ちゃ––じゃなくて、アレは踏み込むことはないとか言ってるけど、安心は出来ないわ」
「ちょっと待て、その言い方だと、既にここがバレてる様な……」
「バレてるわね。管理局の数と設備は凄まじい」


 まさか……もしかしたらさっき外に居た時実は監視されてたとか? あり得なくはないかもしれないな。でもどうやって?


「高速かな? オービスあるじゃない」
「車替えてたんだぞ」
「車を替えたかどうかも調べればわかる。レンタカーなら、ナンバーさえ分かれば追跡は出来るでしょうしね。どうやら我々は泳がされてるみたいよワトソン君」


 誰がワトソン君だ。キャラを統一しろ。取り敢えずアホなメカブじゃなく、日鞠に話をふる。


「でも泳がせるって……俺達が何か出来ると思ってるのか?」
「可能性の問題でしょ。出来れば御の字でもあるし、泳がせておいて、何かできたら諸々と奪えば良い。LROのように」


 国という暴力か……でも泳がせておいてくれるならその間にやるだけだ。どうせこの国にいる限りは逃げきれるわけ無いんだ。それなら、出来るだけの事をするしか無い。俺は紙袋をメカブに見せてこう言う。


「リーフィアは回収してきた。愛の方も朝一にはつくそうだ。取り敢えずこれも試して見よう」
「世界転換機が周り出せばいいのだけど」


 訳わからん事をメカブがつぶやいたけど、スルーした。そんな事よりも今はこれに破損アイテムが有るかが問題。

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