命改変プログラム

ファーストなサイコロ

錬金の洗礼

 見えてきた人の国。その首都は西洋の街並みで基本構成されてるけど、至る所に煙突が飛び出てるのが特徴的。まあ景観壊さないように、色々と配慮はされてるけどさ、けど街の端っこの方は、景観よりも発展を選択したみたいになってる。
 その証拠に中央付近はほんと芸術的な西洋街並みが軒並み再現されてるけど。それを囲む周りの街は色々とごった煮の様な……ある意味特徴はある。欲深い人をよく表してるんだろう。てか、僕が離れた頃はまだここまでじゃなかったような気がするけどな。
 確かにあの頃も美しい景観に混じって鉄臭い様な、工房臭いとでも言うような匂いも時たま感じてたけどさ、煙突も流石にここまでじゃなかったような気がするんだ。久々に帰ってきたらなんだか凄く煙突が乱立してる。


「なんだか、随分みすぼらしく成ったわね」


 そう言ったのはミセス•アンダーソン。みすぼらしいは表現としてどうかと思うけど、なんだかそろそろ、中央付近の美しい景観が逆に周りの乱雑な景観に食われる様な気がしないでも無いかもな。
 LROでは街の拡張もプレイヤー次第だったわけだけど、人は頑張りすぎだろ。一ヶ月もしない内にどれだけ街の範囲を広げてるんだって言うね……


「まあ、もともと歴史も薄い国だし、そこら辺はどうでも良いんでしょうね。貪るように土地を食いつくすのは人の得意技だもの」


 なんだかミセス•アンダーソンの言葉は結構棘があるように感じるな。なんか恨みでもあるのか? まあ基本種族同士はそんな仲いい印象ないけどさ。


「人はその欲深さでどれだけの土地を食いつぶして来たかしれないわ。それに一番魔物と派手にやりあってきたのも人だしね。一番平凡な癖に、一番質が悪いのよ」


 どうしてか僕の胸に棘がグサグサと……そう言えば僕も人だったな。


「てか、人が一番魔物とやりあってきたってのは意外だな。そこはエルフじゃないのかよ?」


 一番好戦的なのは奴らだろ。それに一番数も多いんだから、エルフが一番やりあってそうな物だけどな。


「エルフは確かに一番血気盛んだけど、縄張り意識も強い連中だから。エルフの土地は広大なのよ。そこを守るために昔は戦力を殆ど使ってた訳。だけど人は昔から他所の土地に踏み込むのが好きな奴等だったからね。
 勝手にその土地に住み着いて色々と余計な事をするものだから、そりゃあ色んな所と衝突するわよ」
「なるほど、他の種族の縄張りじゃない所へ出張るとなると、自然と魔物との衝突が増えるって訳か……」
「そういう事ね」


 流石人、欲深い。確かに色んな場所に勝手に住み着いてはその土地を食いつぶすよな。人こそが地球の癌だと言われてる理由だな。それはどうやらLROでも変わらないらしい。


「今のこの場所に住み着いたのもほんの百年位前。なんだか条件が良かったんでしょうね。元々は商人達が集まって出来た街だったらしいわ。物が集まるから人も集まり、発展して行ったんでしょう。
 簡単に土地を捨てるれる奴等だから出来ることね。私達モブリはあの二つの聖地を離れることは出来ないもの」
「離れてるじゃん」
「一時的にはね。でも永久的には無理だわ。離れてると言うか捨てるね。それは私達には出来ない。でも、アンタ達には簡単な事なんでしょう?」


 なんで僕を人代表みたいに扱うわけ? やめて欲しい。こっちの人々の感情なんか知らないっての。てか、僕達にだって故郷を捨てるとか、そんな簡単な事じゃないぞ。だからこう言ってやるよ。


「簡単な訳ない。僕達だって生まれた場所は大切だ。でも昔の人達が色々と放浪してたって言うのなら、何か理由が合ったんじゃないか?」


 知らないけど。まったくもってこっちの歴史的背景には疎いからな。まあ歴史というか設定だけどさ……すると僕達の間にテトラの奴が入ってくるよ。


「人には聖地というもの無いからな。モブリにはサン•ジェルクにリア•レーゼが、エルフには王族が建国したあのアルテミナスの場所が聖地。ウンディーネは母成る海の全て、スレイプルはあの移動要塞だ。
 だが人には何も与えられてない。彼等は我が身一つで世界に置き去りにされたも同然なんだよ」
「おい、人だけ最初の難易度高過ぎだろ。女神シスカは何やってたんだ?」


 土地や場所があった他の種族と違って裸一貫なんてどう考えても詰んでるよ。だってここはLRO。街の外には人さえも食う魔物が一杯。よく今まで絶滅しなかったよ。


「シスカに罪はない。試練の様な物だ」
「試練の難易度がだから人だけおかしくないって事なんだけどな」
「愛されてなかったからよ。人は神の力が一番薄い。加護が薄いのよ。昔から人は信仰心が一番低いと言われてるわ。シスカ教の中での問題児よ。当然の報いじゃない」


 シスカに愛されてた事を誇りにしてるモブリらしい言葉だな。でもまあ、確かに人は神の加護は薄いかもな。一番平均なのはその為だろう。魔法ではモブリに勝てないし、身体能力ではエルフよりも下。
 変身能力はないし、特殊能力も人には無い。ないない尽くしじゃないか人って。でもこれでも二番目に数多いんだよな。人気の種族ではあるんだ。でもそれって、一番慣れてるとか、しっくりくるから……とかの理由だよな。無難だから、選ばれてる……悲しき事実。


「お前のそれは結果論じゃないか? 一人だけ何も与えられずに、自分達で頑張ってきたから、人という種族は神に縋ることをしてないだけともとれる」


 一応擁護するような事を言ってみたり……


「創世記から信仰心が薄かったから、女神に見限られたんでしょ。感謝を一番早く忘れるのも人なのよ」
「それはどこで得た結論だよ?」
「私の経験ね。アンタ達は根っからの商売人体質なのよ。常に利益とリスクを天秤に駆けて行動してる。アンタ達は神が自分達の利益ではなくなったから、早々に信仰心を捨てた種族なのよ」


 むぐぐ……言いたいことは色々とあるわけだけど、こっちの人と言う種族が実際どうだったのか知らないからなんとも言えないな。何も与えられずに放り出されたのは、確かに人に問題があったのかもしれない。
 創世記の事はわかんない––って知ってる奴がここに居るじゃないか。


「なんだ? 俺は敵側だったからな。大戦末期の向こうの事情はしらんな」
「使えない奴だな」
「貴様な……」


 まあ確かにテトラはその頃邪神として悪の限りを尽くしてたらしいし、わざわざ女神側の内情とか知ってるわけもないか。人の国を目の前に、そんな話をしてたら、バトルシップ改めグリンフィードSEX内に通信が入ってくる。


『そこの船、所属国と艦名、目的を告げよ。繰り返すそこの船––』


 まあ正面から突っ込んでたしな、ちゃんと機能してる国で気付かない訳無いな。僧兵の奴がこっちを向いてくる。


「どうする?」
「どうするって言われてもな……ここは艦長に任せよう」


 こういうのの形式なんて僕知らないし。僧兵は艦長なんだからちゃんとした対応が出来るだろ。


「ちゃんとした対応って言ってもな……この船が出発してるのはサン•ジェルク側は知らないんだぞ。確認取られたら不味いし、そもそも目的はどうする? 錬金術の資料を探しにって言って良いのか?」
「う〜ん、それは……不味いかもしれないな」


 確かによくよく考えたら不味かったな。教皇権限で極秘裏にこの船は出発したんだった。それをサン•ジェルク……というか元老院の奴等に知られるのが不味い。わざわざ本国にまで連絡して確認を取るかはわからないけどさ。
 そう思ってるとミセス•アンダーソンがこんな事を言ってくる。


「確認を取る取らないは問題じゃないわね。結局取るもの」
「なんでそんな事が分かるんだよ?」
「アンタ艦長なら知ってる筈だけど? あるでしょ、各国の飛空艇の数と形式ナンバーの表が」


 僕の疑問に答える為に、ミセス•アンダーソンは艦長僧兵に厳しい目を向けてそう言った。少しの間考えてる僧兵。あれはダメだな。そんな資料知らないって顔だ。僕が免許剥奪かな? とか思ってると、僧兵の奴の胸がブルルッと振動したように見えた。なんだ? 心臓でも飛び出したのか? 
 僧兵もかなりビックリしてた。でも何か気付いたのかコソコソと資料を探す振りをして、僕達に背を向ける。そしてその直後、艦長席から飛び降りて、前のクルーが座る席の画面に何か表示させてる?


「はは、これですよね。いや〜勿論わかってましたよアンダーソン様!」


 最初から分かってたと言いつつ冷や汗ダラダラ垂らしてるぞあいつ。アンダーソンは厳しい目をしたまま更にこう言うよ。


「それがあるとわかってるのなら、後は分かるでしょ?」
「えっと……それはですね……」


 駄目だあいつ。ミセス•アンダーソンのプレッシャーに既に押しつぶされそうで、まともに思考が働いてない。だって見ただけでそれが分かる。目がわかりやすくグルグル回ってるんだ。LROの過剰表現が久しぶりに顕著に出てるな。
 てか抜き打ちテストで点が散々だったから叱られてるみたいに成ってるな。いや、抜き打ちテストは乗り切ったけど、実はカンニングを疑われてる––の方がしっくりくるかも知れない。
 実際僕も疑ってるし。誰かがアドバイスをしたんじゃ……でもこの場に居る奴等には無理だろう。テトラの奴にそんな義理ないし、クリエは論外。リルフィンならあの資料を知っててもおかしくないけど、こいつにそんな器用な真似は無理だろう。ってなると、後は一人しか居ない。
 しかも丁度この場に居ない。さっきの胸の振動は御札に連絡が入った合図では? 彼女ならあいつを助ける事はまあ考えられる。どうやってこの事態を知ったのかは知らないけど、実際あいつに味方するのは彼女くらいしかいないしな。
 まあでも流石に可哀想だし、ここまで来れば僕にも分かる。助け舟を出してやろう。ここにはあいつを助けるのは彼女しか居ないとか言ったけど、アレは僕を除いてだからね。僕も何気にあいつを助けるのはやぶさかじゃない。
 この中じゃ一番関わってるしね。


「ようはこういう事だろ? 各国にはそれぞれの国が保有してる飛空艇の数とナンバーが渡されてる。それで着艦して来る船を確認してるわけだ。だけど、この船はサン•ジェルクの最新鋭飛空艇。その情報はまだ渡されてない。てか、渡す気があるのかも謎だな。だからこそ、こっちのが艦の名前と国を伝えたところで、向こうは照会出来ないから、本国に連絡を取るしか無いって事だな」
「ふん、まあそういうことね」


 僕が代わりに言ってやったから、僧兵の奴はホッと胸を撫で下ろしてた。僕はこっちに気付いた僧兵に指を一本立てて、声を出さずに口だけ動かしてこう伝える。


(貸し一な)


 嫌そうな顔したからきっと伝わっただろう。全く助けてやったのに嫌そうな顔するとは贅沢な奴。


「でも、国通しで仲悪いとか言ってた割には情報の共有とかしてるんだな」
「それは昔の話でしょ」
「昔ね……一年くらい前まで大きな戦いやってなかったっけ?」


 種族間戦争があったんだろ。LRO始まって最初のスーパードデカイイベント。それを流石に昔と言うのはどうだろうか? せめて十年位経ってるんなら昔で納得するけどな。一年はつい最近だろ。


「そう言えばやってたわねそんな事も」
「結構デカイ戦だったはずだけど、そんな認識なのかよ?」
「私達モブリはそんな積極的じゃなかったもの。こっちは聖地さえ守れれば良かったんだしね。エルフと人が潰し合った後の漁夫の利を元老院共は狙ってたみたいだけど、私は知らないわね」
「元老院らしいなそれは」


 ホントあいつらずっと屑だな。マジで元老院共のイメージピッタリ過ぎて、直ぐに納得できる。違和感ない。


「まあ確かにそんな事もあったけど、あの後結構大変だったから共同戦線してモンスター達を追い払ったりもしたわけよ。その時に色々と友好条約とか結んだの。まあどこの国も自分達の国の技術をヘタに流失させたくないし、口八丁の物が大半だけどね
 それにいつまた領土戦争は起きるかわからない。そうなったら、約束なんて簡単に反故にされるわよ」
「その割にはモブリって飛空艇の技術とか渡しすぎじゃないか?」


 各国に飛空艇配ってるじゃんな。それって再び戦争に成った時、確実にどの国も軍事利用するだろ。不利になることやってるじゃんか。するとミセス•アンダーソンは肩を竦めてこういった。


「だってほら、元老院ってバカが偉そうにしてる奴ばかりだからね。家柄しか威張れる物が無い奴が下手な政治をやっちゃってるから仕方ないのよ」
「ああ〜」


 それも納得。元老院ってホントノーヴィスのお荷物だろ。やっぱりノエインは元老院を解体した方が良かったんじゃね? マジそう思う。でも考えを変えれば、その馬鹿な元老院共のおかげで僕達冒険者は移動が楽になったんだよな。各国に飛空艇が配備されたからこそ、主要都市間を歩かずにすんでるんだからな。
 そう考えると馬鹿さまさまじゃね? そんな話ばっかりやってると、いつの間にか通信の声は聞こえなくなってた。そしてふと都市の方を見ると、数隻の飛空艇が出てきてた。


「おいおい、なんだかやばくないか?」
「通信途絶=敵対行為は当然だな」


 冷静にリルフィンの奴がそう言った。どうやらまさしくその通りのようだな。てか、なんだか向こうの船『武装』されてないか? 普通の飛空艇は艦首の主砲一個だけのはずだったのに、飛び立って来た飛空艇の甲板には物騒な物が沢山見える。
 もっと明確に言うと、近代的な兵器みたいな物が積まれてるように見える。ミサイルとかミサイルとかミサイルとか……


『我等はこれから貴殿らに対して防衛行動を行う!!』


 わざわざ律儀にそんな通信をしてきたかと思えば、その直後に三隻位の船の甲板から、一気に数十発のミサイルが次々と発射された。でもなんか綺麗だ。ミサイルって言ったらただ無骨に殺しに来る兵器ってイメージだけどさ、この世界はミサイルの煙はなんだかキラキラしてるぞ。
 やっぱ現代技術で作ってる訳じゃないんだろうし、そこにはこの世界でしかない魔法とかが組み合わさってるのかも知れないな。てか––


「ヤバイぞこれ!」
「どけ!!」


 僧兵が急いで席に戻る。そこで良いのか? 実際操縦席とは違うだろ? とか思ってると「自動操縦解除、マニュアル操作を機長席へ集約!」とか言ってた。すると僧兵が座ってた席がガチャガチャと様変わりしてく。どういうギミックだよそれ。
 てか集約できるんなら最初飛び立つ時もそれで行けたんじゃ……コマンダー席はあっという間に第二の操縦席へと変わってた。そしてその瞬間、一気に機体が傾く。


「しっかり捕まってろ!!」


 遅い!! 言うのが遅い!! だけどそんな抗議してる場合じゃない。僕たちは機体にしがみつくので必死だ。クリエは咄嗟にテトラの奴が保護してくれたみたいでよかったよ。船内がグルグルと回ってる。
 テトラが助けなかったら、きっとそこら中に全身強打してたところだ。外を見るとどうやら向かって来てたミサイルを次々と避けてるみたいだ。なんて運動性。凄まじくて頼もしいけど、盛大に吐きそうだぞ。するとなんとか機体が安定しだす。


「避けれたのか?」
「なんとかな」


 あの数のミサイルを避けるとは……凄いテクニックだな。なんとか助かったと思ってた僕達。だけどテトラの奴がこういった。


「おかしいな。あれで奴等が攻撃を終わらす理由がない」
「弾切れじゃないか? って、んな訳ないよな」


 まだ始まったばかりだ。それで弾切れなんて間抜けなことはないだろう。もしかしたらバトルシップの飛行性能に圧倒されてるとか? あり得なくはないかも。当てきれないと判断したから、次の攻撃に迷ってる? それなら––


「今がチャンスだ! 一時離脱!!」
「突破しないのか?」
「アホか! 今好戦してどうする。僕達は戦争しに来たわけじゃないぞ。実際向こうはこの船がバトルシップってくらいは気付いてる。だって連合してた時に見たはずだしな。この船が攻撃を仕掛ければ、それはすなわちノーヴィス自体の宣戦布告と一緒だ。そんな事やりたいのか?」
「それは確かにやれないな。だがあそこに用があるんだろ?」


 僧兵の言うことは最もだけど、街に潜入するくらいはいくらだってやりようがある事だ。戦争は一度始まると止めようがな……そもそも真正面からバトルシップで行くのが悪い。これは凡ミスだろ。
 誰もが指摘しなかったって事は、誰もがうっかりしてたのか……くそ、今更だな。誰も責めれないし、今の状況はそれを許してはない。


「そうだけど、今は引く! それしかない。一発も撃つなよ。この船なら余裕で振りきれるんだからな」


 そうだバトルシップ––じゃなくグリンフィードSEXなら奴等を置き去りにしていくことなんか簡単だ。慌てることはない。そう考えてた。そしてそれは実際間違いなんかじゃなかったはずなんだ。でも……


「スオウ、あの煙変じゃないかな? 消えないよ?」
「何?」


 クリエの指摘でミサイルが噴出してたキラキラしてた煙に目をむける。確かにおかしい。なんで消えない? するとその時、ガクンと大きく船が揺れる。


「なんだ? どうした?」
「分からない何かに引っかかったような」


 引っかかる? ここは空だぞ。ワイヤーが張ってある訳でもあるまいし、そんな事があるわけ……


「この煙だ。旋回した船の翼が煙に絡め取られてるぞ!」
「なに!? それは煙じゃないだろ!!」


 煙って何かしってるかリルフィン? 気体だぞ気体。船を絡めとる質量なんて無いんだ。だから船の翼が煙に絡まるとか、ぶつかるとかそんなの……


「いや、煙だ。この煙、そういう性質を持ってるということだ!」
「ヤバイわよ。さっきのミサイルで行動を遮るように煙が––って前!」


 ミセス•アンダーソンの声で前を見ると更に大量のミサイルが発射されてた。ヤバイぞ、ここらの空にあの煙が更に広がったら、小型のバトルシップでも流石に自由に動けなくなる。
 このミサイルは最初からそれが狙いだったのか? 確かにこの船は落とすには惜しいかもしれないからな。


「一度後退して煙から脱出しろ。間を縫って比較的層がまだ薄い、六時の方向に撤退!」
「お前の命令は気に食わないが、それしかないか!」


 バトルシップは一度後退して煙から脱出する。バキッと何か聞こえたけど、飛べてるんなら問題ないだろ。だけどその時––「第二波来るぞ!」––そんなテトラの声が聞こえた瞬間、激しい衝撃と共に、激しい閃光と音も炸裂した。


(爆発? やっぱりミサイルとしての機能もあるのか)


 しかも最悪な事に、今ので視界が悪くなったぞ。これじゃあミサイルが作る煙の位置がわからない。だけどそうしてる間に更に何発かが爆発してその衝撃が僕達を襲う。


「ぐああああああああああああああ」
「きゃあああああああああああああ!」


 このまま立ち往生してたら駄目だ。そこまで威力はないっぽいけど、やっぱり無傷で捉えるって気は無さそうだ。でもどうしたら? 僧兵一人でバトルシップを動かすのはやっぱり大変っぽいし、だからといって僕達は素人同然だ。
 サポート出来ない……


「ちょっと! さっきからメチャクチャに動かないでよ。メイク失敗しちゃったじゃない!」
「あ……」


 素人じゃない奴が戻ってきた。眉毛でも書いてたのか随分太く濃く成っちゃってるけど、それが失敗か。なになに気すること無い、案外似合ってるぞ。


「丁度いい所に来てくれた! ピンチなんだ、オペレーション頼む!」
「はあ? 私が協力するのはアレっきり……てっちょ!」


 僕は有無を言わさず前に彼女が座ってたところに鎮座させてあげる。


「頼む。もしも落ちたら、僕達全員一巻の終わりだ」
「っつ……しょうがないわね。何やればいいのよ?」
「取り敢えずあいつのサポートを頼む! テトラ!」


 僕は今度はテトラを見る。すると奴は「俺の出番か?」と自信たっぷりに言ってる。流石は邪神。この状況でも悲鳴一つあげてないからな。敵だったときは恐ろしかったけど、味方となると心強いやつだ。


「外に出てミサイルの着弾を防いでくれ。流石にこれ以上食らうとヤバイだろ」
「そうだな。警報がうるさくて眠れんしな」


 そんな呑気な理由はないけどな。でも案外余裕でできそうでなによりだ。


「貴様はどうする?」
「僕も甲板に出る。イクシードでフォローしてやるよ。リルフィンとアンダーソンはクリエを頼む」


 二人は直ぐ様頷いてくれる。だけどとうのクリエが僕を引き止めるよ。


「スオウ待って!」
「お前は外に出るな。危ないんだから」
「わかってるよ。だけどね。ピクが案内できるって!」
「何!?」


 そうか、そう言えばその手があったな。僕はピクを見つめてこう言うよ。


「出来るのかピク?」
「ピーーー!!」


 元気にそう鳴いたピク。僕はそれを信じてクリエの頭からピクを掴み上げる。


「甲板に出たらピクを放すから、こいつの指示通りに進んでくれ!」
「了解だ!」


 僕は甲板向かって走りだす。テトラの奴は既に靄をつかって船外へと出てた。案外働き者だなあいつ。何度か激しく揺れる船。転ばない様にしながらでも全力で駆け抜ける。


 そしてたどり着いた甲板。近くの機器を操作して、甲板に張ってある膜を取ると一気に激しい風と爆発した焦げ臭い匂いが鼻に入ってきた。


「ピク、頼むぞ」


 そう言って僕はピクを解き放つ。ピクは船首の先へと飛んでいく。そしてこっちもセラ•シルフィングを抜いてイクシードを宣言する。刀身に集まる風のうねり。爆煙で遮られた視界から現れるミサイルをそれを使って切り刻む。
 遠くの方でも聞こえる爆発音はきっとテトラなんだろ……だけどなんだか、この煙、晴れるどころか、爆発する度に濃度を増していってるような……密室ならそれもあり得るけど、ここは空だ。
 こんな事って……


「待てよ……まさかこの煙も!!」


 ピクの先導で順調に進んでたと思ったグリンフィードSEX。でもスピードは確実に落ちてた。慎重に進んでるから……だけじゃない。これはさっきの煙よりも硬度はないけど、粘度がある!
 次々と爆発させた煙は結びついてるんだ!! そしてそれは確実にグリンフィードにも絡んでた。知らず知らずに拘束されてた……しかもこの煙、僕達にはそれを感じさせないから気付きにくかったんだ。
 僕は機器の所まで走って機関室との通話ボタンを押す。


「全速だ! 今直ぐパワーをフルスロットルに回せ! 煙を振り払うんだ!!」
『それが……機体の重さが増して……既にエンジンはフル回転してる!!』


 遅かった……煙のせいで周りが見ないけど、落ちてたのか。ピクが鳴きながらこっちに戻ってくる。そしてテトラの奴も現れた。


「これはしてやられたな」
「お前も気付いたか?」
「外に出たからな。かなり高度が落ちてるぞ。このままでは地面に激突して終わりだ」
「いや、きっとそれはない。奴等がこの船を欲しくてこんな厄介な事をしてるのなら、壊すような事はないしないだろ。きっとこの煙がクッションにも成るんだと思う」


 船を重さで落としてるんだ。それだけの物体に成ってるって事だろ。


「なるほど、やけに柔らかないのはその為か。だがこのままでは死ななくても終わるぞ。どうする?」


 僕は数瞬思案して顔をあげる。


「この煙を吹き飛ばすしかない」
「柔らかく粘度がある物体だ。簡単には吹き飛ばせないぞ。出来ないことはないが、粘着してるからな……この船も巻き込む事になる」


 確かに、テトラの言うとおりだ。この粘度は厄介。だけどやりようはある。


「大丈夫。イクシード3の鋭利さなら、この煙だって切り離せる。僕が切り離した一瞬を狙ってお前の力を使って吹きとばせ」
「それしかないな……なるべく爆発系はやめておこう。一瞬では巻き込む事になるのは変わらないしな」
「出来るか?」
「貴様俺を誰だと思ってる? 邪神テトラだぞ? その質問は愚問だな」


 そりゃあ頼もしい。僕は僧兵に今の話を伝えてイクシードの段階を上げる。背中から伸びる四つのうねり。実際ずっと煙の中にいるからどういう風に粘着してるのか分かんないんだけどな。
 いや、普通は中にいるからこそみえるんだろうけど、ひっついてるように見えないってのが正しい。でもきっとコレは大きすぎるからなんだろう。靄が濃くても中に入れば一メートルくらい先は見える。それと同じ。
 僕たちは大きな粘着煙の中に居るせいで見えてないってだけなんだ。でもイクシードの風なら……そんな見えない糸だってきっと切れる。


「行くぞテトラ。準備はいいか?」
「ふん、さっさとやってこい!」


 僕はその瞬間一気に駆け出す。取り敢えず風の刃を船体にぶつからないスレスレに片っ端から飛ばすんだ! しかも全方向。だから走る。風を纏う今の僕なら、低速のバトルシップの壁くらい難なく走れる!


「うらあ!!」


 最後に僕は船首の頭部分に風の刃を飛ばす。これできっと……


「テトラ!!」
「吹き飛ばされるなよ!!」


 黒い靄が濃く大きく広がって––そして一気に弾ける。激しく揺れる船体。だけどようやく、青い空が顔を出した。その瞬間グリンフィードは一気に加速する。開けた空へ飛び出す。


「やった!」


 そう思った。だけどその時、必死に方に肩にしがみついてたピクが鳴いた。その瞬間赤い凶悪な光がグリンフィードをの船体を掠める。掠った部分が次々と爆発を起こす。勢いがガクンと落ちた。
 今の攻撃……どう見ても落とす気だった。逃げられる位ならって事か。もう一度アレがきたら、避けることなんか出来ないぞ。だけど視界の先には既に第二射が迫ってた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 赤い光を受け止めるテトラ。拡散する光。確かにこいつならこの程度……だけどそこに更に別の飛空艇の砲撃が加わる。更にもう一発……


「テトラ!!」
「はは、この邪神が誰かを守って逝く事になるとはな……」
「何縁起でもない事を言ってんだ!!」


 ヤバイ、テトラでも流石にこれだけの複合砲撃には耐えられない。どうする? どうすればいい? テトラにどうにか出来ない威力の攻撃じゃイクシード3だって……


「ん?」


 その時赤い光に反射して煌めく鍵が見えた。


「そうだ……このアイテム達なら……」


 何かが出来るかも知れない。僕は取り敢えずセラ•シルフィングを一本さやに納めて、鍵を全部握る。すると頭に何かが流れ込んでくるような……なんだこれ? 鍵を見ると法の書の鍵が輝いてる? そして続いてバンドロームの箱の鍵も輝き出す。右脳と左脳? それとも右目と左目? それぞれに何かが見える。開いたページと、バンドロームの形。
 何がなんだが分からない……けど、何かが出来そうな気がした。僕は二つの鍵をどこかに差し込む。その瞬間ガチャンと聞こえた。入ったんだ。まずは法の書……それを回す。すると光の文字が鍵を握る腕から頭に伸びてきた。
 そして誰かが僕の口を使って言うんだ。


『システムロック84Rを解除。攻撃解析。錬金生成のトアルの咆哮の未完成版と確認。空間剥離の要求をバンドロームへ』


 そして次にバンドロームの箱の鍵が回った。伸びてくる別の光の色の文字。すると組み上げ式が頭に展開される。そしてまた誰かが言う。


『バンドローム形式6•17•93•237の組み合わせで空間剥離を実行』


 その瞬間赤い光が白くなってパズルのピースみたいになった。それはどんどん広がって根本の方からそうなって消えていく。
 何がなんだかわからない……だけど!


「くっ!」


 僕は落ちてきたテトラを捕まえる。それを忘れちゃいけない。だけど結局僕たちは落ちるはめに……既にこの船に飛ぶ余力は残ってない。でもこのまま落ちたら……


「頼む……後少しでいい、グリンフィード!!」


 すると僅かだけど浮力が戻った気がした。分からないけど、ただ僅かにグリンフィードは滑空してくれた。グリンフィードは僕の期待に答えてくれる様に、遠くの森の中へと落ちたんだ。




「生き……てるかぁ〜?」


 地面の冷たさを感じながらそう呼びかけると、所々から返事が返ってくる。なんとかみんな無事のようだな。でも……テトラの奴はかなりダメージを負ったようだ。流石に戦艦の主砲を我が身一つで受けるのは無茶すぎたな。
 でもお陰で助かったんだ。起きたら「ありがとう」といってやろう。それと……グリンフィードにも。あのまま落ちてたら、きっと回収されてただろう。なるべく離れてくれて助かった。
 そう思ってると、ガササと茂みが揺れた。僕はモンスター? それとも追って? と警戒する。だけど茂みから現れた奴は、なんだか見たことある格好したやつで、更に聞いたことあるような事を言う奴だった。


「おお〜やはりそうだ! これは魔導と錬金を組み合わせた魔鏡強経第一の理論で作られた船ではないか!! まさかこのマッドサイエンティストよりも早くこれを作り上げる奴がいたとはな!! 貴様らこの内部構造を吐け。
 さもないとモルモットにしてやるぞ!!」


 ボロい白衣を翻しふんぞり返るその姿は……まるでどこのかのマッドサイエンティストと瓜二つだった。

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