命改変プログラム
君に贈りたい物
大空をバトルシップが颯爽と駆ける。何者にも並走を許さないその圧倒的なスピードはまさに王者の風格。エアリーロとかが聞いたらさぞかし怒るだろうけど、直接的なスピード対決じゃ流石にエアリーロも負けると思うんだよな。
バトルシップはそれだけサン•ジェルクの魔法技術の粋を集めて作られた最高傑作なんだ。まあ僕が言うのも変だけどさ、実際サン•ジェルクの方々よりも僕はその恩恵に預かってる。
てか、このバトルシップが無かったら、詰んでる場面結構あったよな。あの時とかあの時か……ホント拝みたい位に最高な奴だ。
「何機械相手にニヤニヤしてるのよ。気持ち悪い奴ね」
そんな事を言ってくるのはちっちゃいくせに偉そうな(てか実際偉いんだけど)ミセス•アンダーソンのババアだ。さっきまでバトルシップの一室に閉じこもって何かやってた癖に、いつの間にこんな所に……別にニヤニヤしたって良いじゃないか。
男はメカに弱いんだよ。
「アンタ、そんなのに興味あるの?」
「どういう意味だよそれ」
「別に、理解も出来ないでしょうにって事よ」
「うるせえ。理解できなくても、ワクワクはするものだ。それに感謝くらい示したって良いだろ」
本音をいうと、実際メカとかはどうでもいいんだ。俺はそこら辺には興味はない。ついさっきメカに弱いとか言ったけど、その舌の根が乾かないうちに、僕は例外だと言っておこう。
でも男の大半は好きだろ。メカってさ。僕だって興味はないけど、ワクワクと胸が高鳴るのは本当だ。なんだかバトルシップが来てくれたら頼もしいって言うか、そんな気がしてさ。
もう僕にとっては仲間みたいな物だ。そう勝手に思ってる。だからニヤニヤだってしてしまう。
「感謝するならこれを作り上げた人に感謝すれば?」
「そいつにも勿論感謝するけど、僕が思い入れてるのはこいつだからな。この機体」
そう言って近くの壁を撫でる。ノエインの奴は気を利かせて先の戦いで僕が乗ったバトルシップ貸してくれたからな。まあ知り合いの僧兵の艦がこれなんだから、当然といえば当然なんだけどさ。こう、思い入れってのがあるんだよ。その作った技術者にはそんなのないからな。
会ったこともないし、世間一般的な『便利な物をくれてありがとう』くらいしか感想ない。でもこのバトルシップにはそれ以上の感情があるんだよ。
「そうだ!」
僕は良いことを思いついたぞ。感謝を表すいい事だ。僕はミセス•アンダーソンに聞くよ。
「なあ、この船には名前ってあるのか?」
「名前? バトルシップでしょ」
「ちげーよ。個別のちゃんとした奴だ。バトルシップは総称だろ。こいつ固有の機体名だよ」
「それね。あるでしょ。01とか02とか付いてたはずだし。これは多分06位だったかしら?」
指折り数えながらミセス•アンダーソンはそういった。けど、予想してたけどさ、それは流石に味気ない。てか味気なさすぎる。『六号』とか読んじゃうわけか? なんだかそれは友達って気がしない。
あくまで物と付き合ってるみたいだ。
「ミセス•アンダーソン! 僕はここに提案しよう」
「何よ藪から棒に……まあ言わなくても想像できるけどねぇ。暇なのアンタ?」
うるさい。これはこれで大事な事なんだよ。
「もっともっおおおおおおと大事な事があると思うんだけどね」
「尿意でも催してたか? 年寄りは近いって言うしな」
「違うわよ!! あんたホントデリカシーってものが無いわね。一応女性なのよ私!」
足元で何をビービー騒いでるんだか。ちゃんと丁寧に言ったじゃないか。トイレか? とは聞かずに、尿意って丁寧にさ。しかも催す––とかなかなか使わないぞ。これでも最大限注意してやったのに、どこに不満があるのやら。
『お花を摘みにいきたくなった?』
位の方が良かったのか? 正解は隠語だったか。しょうがない、言い直してやるか。
「お花を––」
「そっちに言い直せば良いってもんでもないわよ! 女性に向かってアンタの方からそんな事を言ってくる事自体が失礼なのよ。恥を欠かせてるって気づきなさいよ。てかそもそも尿意とか催してないし!」
「まったく、そんなに何に目くじら立ててるのかよく分からん。大事な事だろ? 女は言い出しにくいのかなって思ってこっちからさり気なく聞いたってのに」
「あんたの今大事な事って尿意なの!! 違うでしょ。この世界の事とかアイテムの事とかを本当に大事な事って言うのよ!!」
ぜぇはぁぜぇはぁ––とミセス•アンダーソンは弱った肺で精一杯呼吸してる。年考えろよな。いきなり肺の中の空気を全部出す勢いで喋るからそうなるんだ。まあそうさせたのは僕だけどさ。
でもまさか、ここまで乗ってくるとは。冗談だったのに。そこら辺の対応上手いやつじゃなかったのか? 年の功がそこにはあるだろ。乗りまくって来るから、こっちも歯止めって奴が効かなくなったというかさ……期待に答えようとしただけだ。
「何が期待よ。そんなのアンタの勝手な思い込み以外の何でもないじゃない。ちゃんとした会話をしなさい」
怒られた。まあちゃんとすることは大事だけどさ、ずっと緊張しっぱなしは疲れるものだ。そこら辺、ミセス•アンダーソンはわかってる奴だと思ってたけどな。
「息抜き––って程でもないけどさ、ちょっとは緊張を緩めることも必要だろ。なんか難しい顔して部屋に閉じこもったお前を心配したんだよ」
「息抜きはいいけど、抜き方って物があるのよ。アンタが抜けても私は抜けてないじゃない。それじゃあ意味ない事と変わりはないの。追い込まれてる中で緊張を解くってのはね。アンタが思ってるほど簡単なことじゃないのよ」
やっぱり怒られてるな僕。こんなちっちゃい存在に怒られるなんて、変な気分。少なくともいい気はしないよな。でもこっちが悪いことは確かだし、静かに受け入れてやるけどな。
「悪かったよ。もうちょっと話題を考えるべきだったって事だろ? でも実際僕の当初の話題はバトルシップの名前の方だったんだけどな」
「それなら変な方向に話題をずらさくていいのよ。最初からそれを始めにもって来てなさいよ」
「いやほら、スムーズにその流れを作るためにも……と思ったんだけど」
「スムーズどころか私たちの会話はコレっきりだったかも知れないわね」
そこまでダメな話題だったの? 流石にそこまでじゃないだろ。何をそんなにピリピリしてるんだよ。
「ピリピリもするでしょ。法の書はなんとか取り返したからいいけど、私達はまだなんの逆転の芽も掴んでない。鍵はアンタの持ってる五つのアイテムだって事くらい。だけどそれも謎が多すぎる。
気に病むこと山のごとしよ。そもそも所有者のアンタだって、もしかしたらその鍵の一部なのかも知れないわよ」
「どういう事だそれ?」
「考えてもみなさい。アンタに接触してきたマザーという存在。そして得てきたアイテムがここに来てその真価を発揮……するかもしれない。少なくともそれを私達はやらなければいけない。
そして更に、そのアイテムを使えるのはアンタだけ。考えてみれば、アンタ自身特別なのかもしれないと言うことよ」
「う〜ん」
ミセス•アンダーソンの言葉を聞いて僕は思案する。特別ね。昔は特別に憧れてたりもしてたけどさ、いつしかそれは重荷にしかならなくなって、色々と投げ捨てた事があるんだよな。
それ以来、僕は別段自分にはそういうのは求めてない。それに特別って単語に良い印象ないしな。
「アンタがそれを否定しようとも、その事実は変わらないわ。アンタも私達にとっては鍵の一つよ」
「むず痒いなそれ。けど、だから法の書は誰もが使えただろ? 僕が鍵ってのは言いすぎじゃ……」
「けどバンドロームの箱はアンタしか使えなかった。きっと全てを使えるのがアンタだけなんでしょう。それが大事なのよ」
そうビシッと言われたよ。そう言われると言い返す事は出来ないな。まあいろんな事が、これから行く場所で分かる事を願うしか無い。
「それはそうとこのバトルシップの名前だけどさ」
「アンタしつこいわねそれ。そんなに名前つけたいの?」
ミセス•アンダーソンは呆れた様にため息一つそう言うよ。なんだよその反応は。これだって大切な事なんだぞ。それにこの話題はそんな否定してなかっただろ。
「どうでもいいだけ何だけどね」
「あっ! 居たスオウ!!」
ミセス•アンダーソンの冷たい声とは対照的な明るく元気な声が聞こえた。顔を反対側に向けるとそこにはクリエの姿があった。頭に桜色の小竜を乗せたクリエがこっちに元気に駆けてきてる。
(うわ、なんだか転びそう)
「きゃっ!」
そんな予感が第六感を刺激した瞬間、本当にクリエの奴は何もない平面の床でつんのめる。僕はとっさに動こうとするけど、流石に間に合いそうにない。これは床に「ベチャ!」っと倒れるな––とそう覚悟した。
そしてそれはきっとクリエも同じだったんだろう。固く目を閉じたのが見えた。でもその時、頭に乗っかってたピクが叫んで大きくその翼を広げる。するとクリエは地面にぶつかるスレスレを滑空しながらこっちに迫ってくる。
「うお!」
ドサッと胸に飛び込んできた一人と一匹を僕は受け止める。結構激しい衝撃だったけど、なんのこれしきだ。てかピク元気に成ったんだな。
「よくやったぞピク」
「うん、ありがとうピク」
僕とクリエのお礼の言葉を聞いて、ピクは元気にその喉を鳴らした。ほんと、もう無事そうだな。
「てか気をつけろよクリエ。あんまり病み上がりの奴に気を使わすな」
「わかってるよ〜だ。今のはたまたまだもん。クリエ普段はもっとしっかりしてるし」
「ええ〜」
どこら変が? お前のしっかりしてる所なんか、片手で数える程度しか知らんぞ。いや、そもそも指折り数える必要さえも……
「クリエ、これからしっかりするかな」
言い直した。自覚あったんだな。そう思ってると、横からミセス•アンダーソンが顔出してくる。
「クリエ、何か用が会ったんじゃいの? 急いでた様に見えたわよ?」
「ああ! そうだそうだよスオウ。見て見て!」
そう言ってクリエは手に持ってた袋を見せてくる。なんだ?「じゃじゃ〜ん」と満面の笑みで包を開けるとそこには香ばしい匂いを奏でるクッキーの姿が。なるほど、だから上機嫌なんだな。
「どうしたんだこれ?」
「テトラが作ってくれたの」
「ああ……」
あいつ、最近クリエにデレすぎだろ。邪神のプライドどこに置き忘れた? まあ、仲良くなることは僕も願ってた事だし、別に良いんだけどな。
「てか、これだけなのクリエ?」
「そうだよ〜。でも一杯あるからみんなも呼んでこようかなって思ったの」
「アンタ達はどうしてこう……」
そうブツブツ呟きながら頭を抱えるミセス•アンダーソン。案外苦労性なのかもしれないなこいつ。
「大変だなお偉い役職の奴は」
「アンタ達冒険者が責任感為さ過ぎなのよ」
まあ僕達冒険者はフリーが売りだからな。自由なんだ。誰よりもな。でも自由だから楽だってことでもないけどな。自由だからこそ、責任はこの身で請け負ってる。組織に入れば、責任者が取ってくれるような事も、僕たちはちゃんと自分でそれを負ってるんだ。
決して責任感がないわけじゃない。見えにくいだけ。
「アンダーソンは食べないの?」
「食べ……るわよ。邪神の作ったものなら、その効果が期待できるしね。あくまで効果を期待してだけどね」
ツンデレか? 一瞬拒否しようとしたくせに、クリエの顔見て言い直しやがったぞ。誰も彼もクリエに甘いな。まあ僕も言えた義理ないんだけどね。やっぱり子供は強いよ。クリエが悲しい顔すると、ズキンと心に来るしな。
心を鬼にするってなかなか大変。それに時と場合の見極めもね。ここは別に変に拒絶する場面でも僕の場合は無いし、普通に受け入れるよ。
「じゃあ行こ二人共!」
そう言ってクリエは僕達を従えて歩き出す。その瞬間もっかい足を引っ掛けたけど、今度は自分で立て直した。なんて危ないやつ。ヒヤヒヤするよ。
「大丈夫かクリエ? 担いでやろっか?」
「だ、大丈夫だもん! クリエはもう大人の階段登ってるんだからね」
どういう事だそれ? こいつ絶対言葉の意味わかってないと思う。でもなんだかドヤ顔で歩き出すクリエを見てると、別にいっか––と思えたんで深く追求はしなかった。代わりに僕はこの話題をふるよ。
「なあクリエ、このバトルシップの名前は何が良いと思う?」
クリエはそんな僕の突飛な質問に変な疑問を返すことなく、色んな名前を言ってくる。さすが子供、直情的だ。まあだけど全部却下だけどな。指折り数えて言ってくる言葉はなんだか変なのばっかだ。僕の琴線には触れない。僕は首を横に振り続けて、だけどクリエは名前の候補を片っ端から言い続ける。そしてミセス•アンダーソンは疲れた感じてその後ろをついてきた。
そんな感じで僕たちはバトルシップの通路を進んだ。
クッキー求めて僕達がたどり着いたのは船の船首部分。そこはようは機関室だ。船の操縦から情報管理までを行う司令室だと思ってくれればいい。一番ここに居ることが多い。当たり前だけどな。
そしてそんな中ではあの二人がいつものやり取りをしてた。
「このクッキー歯ごたえが足りないな邪神!」
「犬用に作ってないからな。貴様は犬らしく骨でも噛じってろ。その方がお似合いだ」
「最初から言ってるが、俺は犬ではない。狼だ!」
そんな威勢良くリルフィンは言ってるけどさ、お前正確には狼でも無いだろ。精霊とか言えよ。そっちの方がカッコいいから。てかくだらない事で毎度毎度喧嘩してるなこいつ等。しょうがない、ここは僕が納めてやるか。
僕はまっすぐに二人の近くに進み出る。
「おいお前ら」
「黙ってろスオウ! 俺はそろそろこいつに犬と狼の違いを叩きこまないといけないようだ」
「ふん、犬と狼の違いぐらい貴様に教わるまでもない『ワン』と鳴くのが犬で『ワオ〜ン』と鳴くのが狼だ。ほら鳴いてみろ犬」
ほんと間違いなく見下しながらテトラは言ってるな。馬鹿にしてるよ完全に。まあ、どうせリルフィンがつまらない事で何回も突っかかってくるから流石にめんどくなってきたのかも。
あんまり突っかかってるといつかマジで消されるぞリルフィン。その位の力はあるからな。いつの日かぱたっとリルフィンの姿を見なくなる日が来るかも知れないな。その時はきっとテトラに消されたんだろうと思うことにする。
てか、そうじゃなくて––
「お前らのそのくっだらない話しなんて吹き飛ぶ話題を僕がくれてやる! いいかよく聞けよ。これはこれからの為にとても重要な事だ!」
「何? これからに重要だと?」
「それはなんだスオウ?」
二人共僕の言葉で興味を持ったようだ。ふふ、ちょろい奴らだぜ。まあ僕の高尚な話しは貴様らの低レベルな争いとは比べ物にならないからな。しょうがない。僕は溜めを作って、拳を突き出して言ってやる。
「それはな、このバトルシップに名前をつけるって事だ!!」
「は?」
「殺すぞ」
待て待て、リルフィンの反応は普通だ。一般的だから分かる。でもテトラの反応は素早すぎだろ。色々と工程ふっ飛ばしてるだろ! いきなり「殺すぞ」とか、一瞬喉元に既にナイフの切っ先でも当たってるのかと思うほどの殺気を感じたわ!
でもだけど僕はめげないぞ。
「これは本気だ! お前達もこの船には感謝してるだろ? それなのにずっとバトルシップって総称で呼ぶのは味気ないと思うんだ。ここは一個、特別な名前を与えて仲間に加えてあげようじゃないかって事だよ!」
僕はそう熱弁した。だけどどうやらその熱意は二人には伝わらなかったようだ。白けた目をしてる。
「興味ない」
「物は物だ。必要以上に情を注ぐものじゃない」
「なんだよなんだよ! お前達だって一つくらい大切にしてる物あるだろ。その仲間にこのバトルシップも加えて上げたって良いじゃないか。ピンチを幾つも救ってきた奴だぞ」
「俺はまだ一回くらいしか無いがな」
テトラの奴はしょうがないけど、リルフィンは一杯お世話に成ってるだろ。そんな心の狭く小さな奴だとは思わなかった!
「俺の大切な物はただ一つだけ……それだけで十分、それは––」
「いや、言わなくてもわかってるし。どうせローレだろ?」
「……ん? ああ、そうそれだ! はは、どうしたんだろうな」
なんだ? なんだかリルフィンの様子がちょっと変だったな。今もなんだか頭を叩いてるし……
「おい、犬の癖に主の事も忘れてたのか?」
「違う。ただちょっと出て来なかっただけだ。俺が主の事を忘れるなど……ローレ様の事を忘れるなど……ありえん。それこそこの世界が終わろうともだ」
なんだか深刻そうな声でそう訴えるリルフィンは、マジなんだなっておもう。こいつのローレに対する忠誠心だけは海よりも深いもんな。けど……そのリルフィンがど忘れって、それしか頭にないような奴なのに。
そんな風に考えてると「こ、コホン」という咳払いと共に、艦長席に座ってる僧兵の奴が不機嫌そうな声でこう言ってくる。
「ちょっといいか?」
「ああ、騒がしかったか? ごめんごめん」
僕は察してそう言った。だけどどうやら騒がしいのは別に良いらしかった。
「違う、確かにうるさいがそこじゃない。さっき言ってたろ。この船に名前をつけるって……」
「うう、やっぱりお前も反対なのか? 艦長だしお前の承認も必要だ」
「いや……そうじゃない。そうじゃないが、この船には既に名前がある!」
なっ、なんだって!? 06とかじゃないだろうな。
「そんな識別番号じゃない。ちゃんとした名前を自分が付けた」
どうやらこいつの勝手な名称らしい。でもまあいいよ。同じ事を考えてた奴がいただけで十分だ。聞いてやろうじゃないか。
「この船の名前は決まってる。まさかお前がそれを思いつくとは思わなかったが、これできっと正式採用されるだろう。今ここにこの船の名前を宣言してやる。この胸から飛び出し羽ばたけ! 『グリンフィード!!』」
「グリンフィード?」
腕を高らかに上げて僧兵が気持ちよく宣言した。響き渡る声の反響が止むまで周りは誰も反応しなかった。
「皆、反対する物は居ないようだな。ではアンダーソン様、グリンフィードを正式採用の形で本国に連絡をお願いします」
「待て待て、なんか違う」
「は?」
僕は慌てて止めに入る。いや、確かに近いんだけどさ。こう、なにかあと一歩足りないような。
「コレ以上の名称などないからな! グリンフィード一択だ!」
「もう後一工夫を求める!!」
「じゃあじゃあ、プリティを入れようよ。『プリティ•グリンフィード』可愛い」
「お前のセンスは要らない!」
僕はニコニコしながら入ってきたクリエを突っぱねる。だってプリティはないよ。そんなのばっかり言うんだもんなクリエは。まあ女の子だから仕方ないけど。するとその時言い合ってた僕達の音を凌駕する音を出して出入り口に立ってるモブリが一人。
僧兵の未来の嫁がそこにまた不機嫌そうに立ってた。
「うるっさいわね! そんなの最後にEXとかDXとか適当なのつけとけ!!」
そう言い放ち彼女はドアの向こうに消えていく。なんだか不機嫌度が最初よりもまして無いか?
「お前何やったんだよ?」
「別に何も……」
目を逸らす僧兵。これはきっと何かあったな。僕達が砂浜でアイテムを広げてた間に一体何が?
「そんな事より名前だ。取り敢えずそうだな、彼女の意見を取り入れる方向で……」
「そうだな。まあ無難だけど悪くはない」
二人の仲を取り持つ意味でもそれで妥協してやろう。てな訳で、晴れてこのバトルシップの名前が決定しました。これからはバトルシップ改め『グリンフィードSEX』。言っとくけどセッ◯スじゃないよ。シードエクステンションだからSEXね。でも言っておくと語感で決めたから意味はない。
変なツッコミは無しの方向で。そんな事をやってる間に、ようやく見えてきた人の国。あそこに錬金術の資料がきっとあるはずだ。頼むぞ『グリンフィードSEX』。
バトルシップはそれだけサン•ジェルクの魔法技術の粋を集めて作られた最高傑作なんだ。まあ僕が言うのも変だけどさ、実際サン•ジェルクの方々よりも僕はその恩恵に預かってる。
てか、このバトルシップが無かったら、詰んでる場面結構あったよな。あの時とかあの時か……ホント拝みたい位に最高な奴だ。
「何機械相手にニヤニヤしてるのよ。気持ち悪い奴ね」
そんな事を言ってくるのはちっちゃいくせに偉そうな(てか実際偉いんだけど)ミセス•アンダーソンのババアだ。さっきまでバトルシップの一室に閉じこもって何かやってた癖に、いつの間にこんな所に……別にニヤニヤしたって良いじゃないか。
男はメカに弱いんだよ。
「アンタ、そんなのに興味あるの?」
「どういう意味だよそれ」
「別に、理解も出来ないでしょうにって事よ」
「うるせえ。理解できなくても、ワクワクはするものだ。それに感謝くらい示したって良いだろ」
本音をいうと、実際メカとかはどうでもいいんだ。俺はそこら辺には興味はない。ついさっきメカに弱いとか言ったけど、その舌の根が乾かないうちに、僕は例外だと言っておこう。
でも男の大半は好きだろ。メカってさ。僕だって興味はないけど、ワクワクと胸が高鳴るのは本当だ。なんだかバトルシップが来てくれたら頼もしいって言うか、そんな気がしてさ。
もう僕にとっては仲間みたいな物だ。そう勝手に思ってる。だからニヤニヤだってしてしまう。
「感謝するならこれを作り上げた人に感謝すれば?」
「そいつにも勿論感謝するけど、僕が思い入れてるのはこいつだからな。この機体」
そう言って近くの壁を撫でる。ノエインの奴は気を利かせて先の戦いで僕が乗ったバトルシップ貸してくれたからな。まあ知り合いの僧兵の艦がこれなんだから、当然といえば当然なんだけどさ。こう、思い入れってのがあるんだよ。その作った技術者にはそんなのないからな。
会ったこともないし、世間一般的な『便利な物をくれてありがとう』くらいしか感想ない。でもこのバトルシップにはそれ以上の感情があるんだよ。
「そうだ!」
僕は良いことを思いついたぞ。感謝を表すいい事だ。僕はミセス•アンダーソンに聞くよ。
「なあ、この船には名前ってあるのか?」
「名前? バトルシップでしょ」
「ちげーよ。個別のちゃんとした奴だ。バトルシップは総称だろ。こいつ固有の機体名だよ」
「それね。あるでしょ。01とか02とか付いてたはずだし。これは多分06位だったかしら?」
指折り数えながらミセス•アンダーソンはそういった。けど、予想してたけどさ、それは流石に味気ない。てか味気なさすぎる。『六号』とか読んじゃうわけか? なんだかそれは友達って気がしない。
あくまで物と付き合ってるみたいだ。
「ミセス•アンダーソン! 僕はここに提案しよう」
「何よ藪から棒に……まあ言わなくても想像できるけどねぇ。暇なのアンタ?」
うるさい。これはこれで大事な事なんだよ。
「もっともっおおおおおおと大事な事があると思うんだけどね」
「尿意でも催してたか? 年寄りは近いって言うしな」
「違うわよ!! あんたホントデリカシーってものが無いわね。一応女性なのよ私!」
足元で何をビービー騒いでるんだか。ちゃんと丁寧に言ったじゃないか。トイレか? とは聞かずに、尿意って丁寧にさ。しかも催す––とかなかなか使わないぞ。これでも最大限注意してやったのに、どこに不満があるのやら。
『お花を摘みにいきたくなった?』
位の方が良かったのか? 正解は隠語だったか。しょうがない、言い直してやるか。
「お花を––」
「そっちに言い直せば良いってもんでもないわよ! 女性に向かってアンタの方からそんな事を言ってくる事自体が失礼なのよ。恥を欠かせてるって気づきなさいよ。てかそもそも尿意とか催してないし!」
「まったく、そんなに何に目くじら立ててるのかよく分からん。大事な事だろ? 女は言い出しにくいのかなって思ってこっちからさり気なく聞いたってのに」
「あんたの今大事な事って尿意なの!! 違うでしょ。この世界の事とかアイテムの事とかを本当に大事な事って言うのよ!!」
ぜぇはぁぜぇはぁ––とミセス•アンダーソンは弱った肺で精一杯呼吸してる。年考えろよな。いきなり肺の中の空気を全部出す勢いで喋るからそうなるんだ。まあそうさせたのは僕だけどさ。
でもまさか、ここまで乗ってくるとは。冗談だったのに。そこら辺の対応上手いやつじゃなかったのか? 年の功がそこにはあるだろ。乗りまくって来るから、こっちも歯止めって奴が効かなくなったというかさ……期待に答えようとしただけだ。
「何が期待よ。そんなのアンタの勝手な思い込み以外の何でもないじゃない。ちゃんとした会話をしなさい」
怒られた。まあちゃんとすることは大事だけどさ、ずっと緊張しっぱなしは疲れるものだ。そこら辺、ミセス•アンダーソンはわかってる奴だと思ってたけどな。
「息抜き––って程でもないけどさ、ちょっとは緊張を緩めることも必要だろ。なんか難しい顔して部屋に閉じこもったお前を心配したんだよ」
「息抜きはいいけど、抜き方って物があるのよ。アンタが抜けても私は抜けてないじゃない。それじゃあ意味ない事と変わりはないの。追い込まれてる中で緊張を解くってのはね。アンタが思ってるほど簡単なことじゃないのよ」
やっぱり怒られてるな僕。こんなちっちゃい存在に怒られるなんて、変な気分。少なくともいい気はしないよな。でもこっちが悪いことは確かだし、静かに受け入れてやるけどな。
「悪かったよ。もうちょっと話題を考えるべきだったって事だろ? でも実際僕の当初の話題はバトルシップの名前の方だったんだけどな」
「それなら変な方向に話題をずらさくていいのよ。最初からそれを始めにもって来てなさいよ」
「いやほら、スムーズにその流れを作るためにも……と思ったんだけど」
「スムーズどころか私たちの会話はコレっきりだったかも知れないわね」
そこまでダメな話題だったの? 流石にそこまでじゃないだろ。何をそんなにピリピリしてるんだよ。
「ピリピリもするでしょ。法の書はなんとか取り返したからいいけど、私達はまだなんの逆転の芽も掴んでない。鍵はアンタの持ってる五つのアイテムだって事くらい。だけどそれも謎が多すぎる。
気に病むこと山のごとしよ。そもそも所有者のアンタだって、もしかしたらその鍵の一部なのかも知れないわよ」
「どういう事だそれ?」
「考えてもみなさい。アンタに接触してきたマザーという存在。そして得てきたアイテムがここに来てその真価を発揮……するかもしれない。少なくともそれを私達はやらなければいけない。
そして更に、そのアイテムを使えるのはアンタだけ。考えてみれば、アンタ自身特別なのかもしれないと言うことよ」
「う〜ん」
ミセス•アンダーソンの言葉を聞いて僕は思案する。特別ね。昔は特別に憧れてたりもしてたけどさ、いつしかそれは重荷にしかならなくなって、色々と投げ捨てた事があるんだよな。
それ以来、僕は別段自分にはそういうのは求めてない。それに特別って単語に良い印象ないしな。
「アンタがそれを否定しようとも、その事実は変わらないわ。アンタも私達にとっては鍵の一つよ」
「むず痒いなそれ。けど、だから法の書は誰もが使えただろ? 僕が鍵ってのは言いすぎじゃ……」
「けどバンドロームの箱はアンタしか使えなかった。きっと全てを使えるのがアンタだけなんでしょう。それが大事なのよ」
そうビシッと言われたよ。そう言われると言い返す事は出来ないな。まあいろんな事が、これから行く場所で分かる事を願うしか無い。
「それはそうとこのバトルシップの名前だけどさ」
「アンタしつこいわねそれ。そんなに名前つけたいの?」
ミセス•アンダーソンは呆れた様にため息一つそう言うよ。なんだよその反応は。これだって大切な事なんだぞ。それにこの話題はそんな否定してなかっただろ。
「どうでもいいだけ何だけどね」
「あっ! 居たスオウ!!」
ミセス•アンダーソンの冷たい声とは対照的な明るく元気な声が聞こえた。顔を反対側に向けるとそこにはクリエの姿があった。頭に桜色の小竜を乗せたクリエがこっちに元気に駆けてきてる。
(うわ、なんだか転びそう)
「きゃっ!」
そんな予感が第六感を刺激した瞬間、本当にクリエの奴は何もない平面の床でつんのめる。僕はとっさに動こうとするけど、流石に間に合いそうにない。これは床に「ベチャ!」っと倒れるな––とそう覚悟した。
そしてそれはきっとクリエも同じだったんだろう。固く目を閉じたのが見えた。でもその時、頭に乗っかってたピクが叫んで大きくその翼を広げる。するとクリエは地面にぶつかるスレスレを滑空しながらこっちに迫ってくる。
「うお!」
ドサッと胸に飛び込んできた一人と一匹を僕は受け止める。結構激しい衝撃だったけど、なんのこれしきだ。てかピク元気に成ったんだな。
「よくやったぞピク」
「うん、ありがとうピク」
僕とクリエのお礼の言葉を聞いて、ピクは元気にその喉を鳴らした。ほんと、もう無事そうだな。
「てか気をつけろよクリエ。あんまり病み上がりの奴に気を使わすな」
「わかってるよ〜だ。今のはたまたまだもん。クリエ普段はもっとしっかりしてるし」
「ええ〜」
どこら変が? お前のしっかりしてる所なんか、片手で数える程度しか知らんぞ。いや、そもそも指折り数える必要さえも……
「クリエ、これからしっかりするかな」
言い直した。自覚あったんだな。そう思ってると、横からミセス•アンダーソンが顔出してくる。
「クリエ、何か用が会ったんじゃいの? 急いでた様に見えたわよ?」
「ああ! そうだそうだよスオウ。見て見て!」
そう言ってクリエは手に持ってた袋を見せてくる。なんだ?「じゃじゃ〜ん」と満面の笑みで包を開けるとそこには香ばしい匂いを奏でるクッキーの姿が。なるほど、だから上機嫌なんだな。
「どうしたんだこれ?」
「テトラが作ってくれたの」
「ああ……」
あいつ、最近クリエにデレすぎだろ。邪神のプライドどこに置き忘れた? まあ、仲良くなることは僕も願ってた事だし、別に良いんだけどな。
「てか、これだけなのクリエ?」
「そうだよ〜。でも一杯あるからみんなも呼んでこようかなって思ったの」
「アンタ達はどうしてこう……」
そうブツブツ呟きながら頭を抱えるミセス•アンダーソン。案外苦労性なのかもしれないなこいつ。
「大変だなお偉い役職の奴は」
「アンタ達冒険者が責任感為さ過ぎなのよ」
まあ僕達冒険者はフリーが売りだからな。自由なんだ。誰よりもな。でも自由だから楽だってことでもないけどな。自由だからこそ、責任はこの身で請け負ってる。組織に入れば、責任者が取ってくれるような事も、僕たちはちゃんと自分でそれを負ってるんだ。
決して責任感がないわけじゃない。見えにくいだけ。
「アンダーソンは食べないの?」
「食べ……るわよ。邪神の作ったものなら、その効果が期待できるしね。あくまで効果を期待してだけどね」
ツンデレか? 一瞬拒否しようとしたくせに、クリエの顔見て言い直しやがったぞ。誰も彼もクリエに甘いな。まあ僕も言えた義理ないんだけどね。やっぱり子供は強いよ。クリエが悲しい顔すると、ズキンと心に来るしな。
心を鬼にするってなかなか大変。それに時と場合の見極めもね。ここは別に変に拒絶する場面でも僕の場合は無いし、普通に受け入れるよ。
「じゃあ行こ二人共!」
そう言ってクリエは僕達を従えて歩き出す。その瞬間もっかい足を引っ掛けたけど、今度は自分で立て直した。なんて危ないやつ。ヒヤヒヤするよ。
「大丈夫かクリエ? 担いでやろっか?」
「だ、大丈夫だもん! クリエはもう大人の階段登ってるんだからね」
どういう事だそれ? こいつ絶対言葉の意味わかってないと思う。でもなんだかドヤ顔で歩き出すクリエを見てると、別にいっか––と思えたんで深く追求はしなかった。代わりに僕はこの話題をふるよ。
「なあクリエ、このバトルシップの名前は何が良いと思う?」
クリエはそんな僕の突飛な質問に変な疑問を返すことなく、色んな名前を言ってくる。さすが子供、直情的だ。まあだけど全部却下だけどな。指折り数えて言ってくる言葉はなんだか変なのばっかだ。僕の琴線には触れない。僕は首を横に振り続けて、だけどクリエは名前の候補を片っ端から言い続ける。そしてミセス•アンダーソンは疲れた感じてその後ろをついてきた。
そんな感じで僕たちはバトルシップの通路を進んだ。
クッキー求めて僕達がたどり着いたのは船の船首部分。そこはようは機関室だ。船の操縦から情報管理までを行う司令室だと思ってくれればいい。一番ここに居ることが多い。当たり前だけどな。
そしてそんな中ではあの二人がいつものやり取りをしてた。
「このクッキー歯ごたえが足りないな邪神!」
「犬用に作ってないからな。貴様は犬らしく骨でも噛じってろ。その方がお似合いだ」
「最初から言ってるが、俺は犬ではない。狼だ!」
そんな威勢良くリルフィンは言ってるけどさ、お前正確には狼でも無いだろ。精霊とか言えよ。そっちの方がカッコいいから。てかくだらない事で毎度毎度喧嘩してるなこいつ等。しょうがない、ここは僕が納めてやるか。
僕はまっすぐに二人の近くに進み出る。
「おいお前ら」
「黙ってろスオウ! 俺はそろそろこいつに犬と狼の違いを叩きこまないといけないようだ」
「ふん、犬と狼の違いぐらい貴様に教わるまでもない『ワン』と鳴くのが犬で『ワオ〜ン』と鳴くのが狼だ。ほら鳴いてみろ犬」
ほんと間違いなく見下しながらテトラは言ってるな。馬鹿にしてるよ完全に。まあ、どうせリルフィンがつまらない事で何回も突っかかってくるから流石にめんどくなってきたのかも。
あんまり突っかかってるといつかマジで消されるぞリルフィン。その位の力はあるからな。いつの日かぱたっとリルフィンの姿を見なくなる日が来るかも知れないな。その時はきっとテトラに消されたんだろうと思うことにする。
てか、そうじゃなくて––
「お前らのそのくっだらない話しなんて吹き飛ぶ話題を僕がくれてやる! いいかよく聞けよ。これはこれからの為にとても重要な事だ!」
「何? これからに重要だと?」
「それはなんだスオウ?」
二人共僕の言葉で興味を持ったようだ。ふふ、ちょろい奴らだぜ。まあ僕の高尚な話しは貴様らの低レベルな争いとは比べ物にならないからな。しょうがない。僕は溜めを作って、拳を突き出して言ってやる。
「それはな、このバトルシップに名前をつけるって事だ!!」
「は?」
「殺すぞ」
待て待て、リルフィンの反応は普通だ。一般的だから分かる。でもテトラの反応は素早すぎだろ。色々と工程ふっ飛ばしてるだろ! いきなり「殺すぞ」とか、一瞬喉元に既にナイフの切っ先でも当たってるのかと思うほどの殺気を感じたわ!
でもだけど僕はめげないぞ。
「これは本気だ! お前達もこの船には感謝してるだろ? それなのにずっとバトルシップって総称で呼ぶのは味気ないと思うんだ。ここは一個、特別な名前を与えて仲間に加えてあげようじゃないかって事だよ!」
僕はそう熱弁した。だけどどうやらその熱意は二人には伝わらなかったようだ。白けた目をしてる。
「興味ない」
「物は物だ。必要以上に情を注ぐものじゃない」
「なんだよなんだよ! お前達だって一つくらい大切にしてる物あるだろ。その仲間にこのバトルシップも加えて上げたって良いじゃないか。ピンチを幾つも救ってきた奴だぞ」
「俺はまだ一回くらいしか無いがな」
テトラの奴はしょうがないけど、リルフィンは一杯お世話に成ってるだろ。そんな心の狭く小さな奴だとは思わなかった!
「俺の大切な物はただ一つだけ……それだけで十分、それは––」
「いや、言わなくてもわかってるし。どうせローレだろ?」
「……ん? ああ、そうそれだ! はは、どうしたんだろうな」
なんだ? なんだかリルフィンの様子がちょっと変だったな。今もなんだか頭を叩いてるし……
「おい、犬の癖に主の事も忘れてたのか?」
「違う。ただちょっと出て来なかっただけだ。俺が主の事を忘れるなど……ローレ様の事を忘れるなど……ありえん。それこそこの世界が終わろうともだ」
なんだか深刻そうな声でそう訴えるリルフィンは、マジなんだなっておもう。こいつのローレに対する忠誠心だけは海よりも深いもんな。けど……そのリルフィンがど忘れって、それしか頭にないような奴なのに。
そんな風に考えてると「こ、コホン」という咳払いと共に、艦長席に座ってる僧兵の奴が不機嫌そうな声でこう言ってくる。
「ちょっといいか?」
「ああ、騒がしかったか? ごめんごめん」
僕は察してそう言った。だけどどうやら騒がしいのは別に良いらしかった。
「違う、確かにうるさいがそこじゃない。さっき言ってたろ。この船に名前をつけるって……」
「うう、やっぱりお前も反対なのか? 艦長だしお前の承認も必要だ」
「いや……そうじゃない。そうじゃないが、この船には既に名前がある!」
なっ、なんだって!? 06とかじゃないだろうな。
「そんな識別番号じゃない。ちゃんとした名前を自分が付けた」
どうやらこいつの勝手な名称らしい。でもまあいいよ。同じ事を考えてた奴がいただけで十分だ。聞いてやろうじゃないか。
「この船の名前は決まってる。まさかお前がそれを思いつくとは思わなかったが、これできっと正式採用されるだろう。今ここにこの船の名前を宣言してやる。この胸から飛び出し羽ばたけ! 『グリンフィード!!』」
「グリンフィード?」
腕を高らかに上げて僧兵が気持ちよく宣言した。響き渡る声の反響が止むまで周りは誰も反応しなかった。
「皆、反対する物は居ないようだな。ではアンダーソン様、グリンフィードを正式採用の形で本国に連絡をお願いします」
「待て待て、なんか違う」
「は?」
僕は慌てて止めに入る。いや、確かに近いんだけどさ。こう、なにかあと一歩足りないような。
「コレ以上の名称などないからな! グリンフィード一択だ!」
「もう後一工夫を求める!!」
「じゃあじゃあ、プリティを入れようよ。『プリティ•グリンフィード』可愛い」
「お前のセンスは要らない!」
僕はニコニコしながら入ってきたクリエを突っぱねる。だってプリティはないよ。そんなのばっかり言うんだもんなクリエは。まあ女の子だから仕方ないけど。するとその時言い合ってた僕達の音を凌駕する音を出して出入り口に立ってるモブリが一人。
僧兵の未来の嫁がそこにまた不機嫌そうに立ってた。
「うるっさいわね! そんなの最後にEXとかDXとか適当なのつけとけ!!」
そう言い放ち彼女はドアの向こうに消えていく。なんだか不機嫌度が最初よりもまして無いか?
「お前何やったんだよ?」
「別に何も……」
目を逸らす僧兵。これはきっと何かあったな。僕達が砂浜でアイテムを広げてた間に一体何が?
「そんな事より名前だ。取り敢えずそうだな、彼女の意見を取り入れる方向で……」
「そうだな。まあ無難だけど悪くはない」
二人の仲を取り持つ意味でもそれで妥協してやろう。てな訳で、晴れてこのバトルシップの名前が決定しました。これからはバトルシップ改め『グリンフィードSEX』。言っとくけどセッ◯スじゃないよ。シードエクステンションだからSEXね。でも言っておくと語感で決めたから意味はない。
変なツッコミは無しの方向で。そんな事をやってる間に、ようやく見えてきた人の国。あそこに錬金術の資料がきっとあるはずだ。頼むぞ『グリンフィードSEX』。
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