命改変プログラム

ファーストなサイコロ

好みは人それぞれ

 つけられてる事を承知で進み続けてようやく辿り着いた自分の住み慣れた街。とにかくその時まで悟られない様になるべくおかしな行動を取らない様にしてここまで来た。まあ俺達はただ車に乗ってるだけだけどな。
 自分が通ってる高校を通り過ぎて、寂れて来てる商店街の方へ。見慣れた光景だけど、妙に緊張する。実際本当に尾行してる奴等が何も手を出さない保証は無いからな。愛のマンションはセキュリティがしっかりしてただろうけど、ハッキリ言って家にはそんな概念ない。
 だって古い商店街だ。戸締り位はするけどさ、近所は全て知り合いみたいな物だから、意識が低い。まあある意味そう言う方がセキュリティ的には良いって言うけどな。どれだけカメラを設置しても、防げない事はある。
 けど、近所の目ってのはそう言うのの換わりになれるらしい。だからある意味頼もしいと思えるかも。それにもしも襲われたとしても、この街でなら逃げれる自信はそれなりにあるしな。地の利はこっちにある。


「あれ?」
「どうしました秋君?」


 緊張しながら外を見てたらなんだか変な違和感に気付いた。見慣れた街だ。ずっと住んでるんだから当たり前。だからこそ、異物があると目に入る。なんだかさっきからやたらと……


「愛、なんだか同じ様な車ばかりと思わないか? すれ違ったり、停車してたりする車がさ」
「そう……ですか?」


 愛は俺の言葉を受けて辺りを見回す。すると「色が同じなら、同じに見えちゃいます」
と言われた。まあ女の子はそうだろうな。車種の違いなんか殆どの女子は分かりはしないだろう。
 けど実際それでも別にいい。様は同じ様な印象を持つ車ばかりってのが問題。流石に違和感覚えるレベルに多いんだ。近所の人達が一斉に車を変えたとかじゃないと説明出来ない。でもそんなのある訳ないよな……最近は、というかずっと景気悪いし、そんなポンポンと誰もが車を買い替えられる訳が無いんだ。


「秋君は政府が既にここに展開してると?」
「その可能性はある。俺達の事を調べるなんて朝飯前だろ。まあここまでやる程に関心買ってたのかは疑問だけどな」


 流石に子供に構い過ぎ……と思えなくも無い。ここまで俺達に関心を向けるメリットでもあるのだろうか? 殆ど無視したって別に良いだろうにさ……暇なのかよ。いや、暇な人材を使ってるってだけなのかも。
 政治家とか来年の予算を減らされない為に、無理に不必要な所に金をつぎ込むってのは良く聞く話しだよな。使い切らないと不要部分として来年度予算が減らされるから、それを防ぐ為にその金で旅行したりマッサージチェア買ったり接待したりで良くニュースになってる。
 これも同じなのかも。無駄に予算を抑えて、余りそうな部分は適当な部分につぎ込む。まあまだこれはマシなのかも知れないけど。こんな時だけ、仕事しなくても良いのにって思うな。
 いつも通りに職員の事を考えてマッサージチェアや、職員全員にエステ券とかでも配っとけ。本当に不必要な部分にでも使えば良い物を……わざわざ「もしかしたら」でしか弊害に成りそうも無い俺達の監視にどれだけの人材を掛けるんだよ。


「でもどうしましょう? もしも秋君の言う様にこの辺り一帯に監視の目が張り巡らされるとしたら、流石にその目から逃れるのは難しいですよ。こちらも残り三台の車に、数十人のSPが居ますけど、通行を妨げるのは至難の技です」
「そんなについて来てたんだ」


 知らなかった。まあ実際俺達が監禁された場所に来た時は確かに結構な人数が居たからな。でも車に乗り込んだのは俺達三人だけだった。ちゃんと別の車に乗り込んで密かに守ってくれてた訳だ。
 尾行を教えてくれたのも、そう言えば後ろの車とか言ってたしな。


「でも、それが今の私が動かせる人数の限界と思ってください」
「車四台に、SP十人程度……それでこの監視網をすり抜けて日鞠達の待つアジトまで戻らないと行けないと……」


 くっそ、この場に日鞠が居てくれれば妙案の一つや二つは楽だったのにな。それにアイツが居ればこの街全てが味方みたいな物だ。数でだってそれなら上回る事が出来る。だけどアイツも今は別方向で頑張ってる筈だからな……俺は取り出してたスマホをそっとしまう。
 直ぐにあいつ等に頼ろうとするのが悪い癖なんだ。日鞠もスオウも、基本困った奴はほっとかないからな。だけどそれじゃあダメだ。俺は……そう思いつつ愛を見る。


(俺は愛に相応しい男に成るんだからな)


 その為にも、自分でこの位乗り越えないとだろ。命を賭けてって場面でもないんだ、難易度的にはそんな厳しい訳じゃない。それに有利な部分もあるしな。


「秋君? 電話……しないんですか?」


 頼ろうとしてたのバレてたか……だけどしない。俺は首を横に振るう。


「自分達でなんとかしよう。日鞠達はずっと頑張ってるんだ。俺達は専門的な事ではなんの役にもたてからさ、こんな所でも足手まといには成りたく無い……だろ?」
「そうですね。私達で頑張りましょう……で、どうしましょうか?」


 可愛らしく首を傾げる愛。可愛いけど、丸投げですか愛さん。ここは初めての共同作業と……いや、共同作業は何回かやってるか。でもだからこそ、ここで更に回を重ねるのもいいと思うんだ。
 一緒に苦悩を乗り越えて結ばれるって素敵じゃないか!


「愛、俺は陽動とか良いと思うんだがどう思う?」


 取りあえず一人で考えるのは不安だから自然と愛の意見を出す様に質問してみる。すると愛は「そうですね……」と言って考え始める。まあ愛も俺なんかより全然頭良いしな。日鞠やスオウの奴が違うベクトルの頭の良さだとしたら、愛は正統派だ。
 俺に取ってはだからこそ安心出来ると言える。スオウの奴とか成績は俺とどっこいどっこいの癖して、キレる所はキレまくるからな。ゲームの中では一日の長が俺にはあって、経験則でも負ける筈ないんだが、いざという時の判断力の違いとかは認めざる得ない。
 まあだからこそ俺は自分を『小心者』と思ってる訳だけどな。体はアイツよりもデカいんだけどな……そんな思いを抱いてると、考えを纏めた愛が意見をくれる。


「陽動は定番ですけど、良いと思います。それくらいしか私達には出来ませんしね。でも具体的なプランはどうしますか? それが重要です」
「具体的なプランか……数とか配置が正確に分かれば良いけど、そこまでやってる時間もないしな……」


 一瞬で奴等の目を眩ませられれば……すると見覚えのある姿が目に入る。ゆっくりと自宅に向かう中、人通りがまばらながらもチラホラ見えるのに女の子に壁際で迫ってる男……あのいかにも軽そうな感じの奴は間違いない。俺は車を止めてもらって外に出る。


「おい」
「大丈夫誰も見てなんか……いや、俺は別に見せつけたって良いんだよ」
「そんな……」
「おい」
「恥ずかしがる事なんかないよ。君はほんと可愛いんだから」
「えっと……」
「おい」
「さあ目を閉じて」
「あの……後ろ……」
「おい」
「あぁ!? さっきからなんだよ! 見ない振りをお願いしますよ!」
「ふざけんな!」


 バコンと頭を叩いてやった。この年中発情野郎が……どこでもホント盛ってんだな。その性欲の強さは呆れるわ。ムカつくしな。


「あ、兄貴……なんでこんな所に?」
「別に、それよりもお前は少しは場所とか考えろよ。ここメッチャ近所だぞ。お前がそんなどこでも盛ってるから、あそこの息子さんは~とか言われて俺まで恥ずかしい思いをする羽目になるんだろうが!」


 ほんと、コイツの女好きと手の早さは既に近隣住人に知れ渡ってしまってる。こいつがこんなんだから、俺まで盛ってると思われるんだ。そんな事全然ないのにな。俺はクラスの女子とか友達以上には見てないからな。
 それなのに、ちょっと女子と居る所を見られるだけで、あらあら~やっぱり兄弟ね~とか思われる。マジで迷惑だ。そんなのが愛の耳に入ったらどうするんだ。俺は愛以外の女子にはそんな気起こす気ないんだ! 


「それなら兄貴だって沢山彼女を作ればいいじゃんか。別に出来ない訳じゃないだろ? 俺みたいにスポーツでエース張ってる訳じゃないけど、顔はそこそこだし背も高いんだからさ。一人に拘らないで、沢山の女の子と付き合うのはステータスだよ?
 何がいけないのか分からない」


 こいつ、マジでこう思ってるのが質悪い。悪びれる様子が無いどころか、今イチャイチャしてた娘が居る前で良く言えるな。俺は中々に可愛……いや……ちょっと待てよ。あれ? なんだろう、見間違いかな? 
 俺は取りあえず周りを見回して、そしてもう一回弟の奴が連れてたいわゆる彼女って奴に目を向ける。


「おい裕樹……お前その娘は……」
「え? ああ、今日の彼女」


 今日の? 今日のってなんだ。お前にはどれだけ彼女が居るんだよ。いや、こいつ女と見れば年上だろうと年下だろうと関係無いからな……毎日変えれるだけの人数が居てもおかしくは無いかも知れない。
 絶対その内後ろから刺されるだろうなコイツ。てか、そう成れと俺自身が思ってるし。でもこれはちょっと予想外の事実を今日発見したかも知れない。いやはや、十数年同じ屋根の下で暮らして来たのに、案外知らない事という物はある物だ。
 でももしかしたら今日は妥協しただけなのかも……でもいつだってとっかえひっかえ出来るだけの彼女が居るって言ってるのに、わざわざコレを選ぶ必要が……目の前の彼女さんに対して失礼だけどさ。
 なんか意外でポロリと言ってしまう。


「お前って案外ブス線なんだな」
「ブッ!? ちょっと裕樹君。この失礼な人は何なの!? 私達の間に突然割り込んで来てなんて事を言うのよ!?」


 思わず口から突いて出た言葉に彼女さんが怒ってしまった。まあ当然だけどな。口に出す気はなかったんだけどさ、余りにも意外だったからついつい。車の中で見た後ろ姿は美人だったんだ。
 でもそれは後ろ姿だけで、正面に回るとなんだかガックシするあの感覚に襲われた。男なら誰もが経験した事あるあの感覚だ。だから思わず……今度はなんでそんなに顎が出てるんですか? って聞いて良いか?


「ははは、ごめんごめん。コレは俺の兄貴なんだ」


 兄貴をコレ呼ばわりとは、偉くなった物だなこいつも。


「兄貴? 裕樹君お兄さんなんて居たんだ?」
「まあね。でも兄貴は女の子にあんまり耐性無いからさ、俺の彼女を見てきっとヤキモチ焼いてるんだ」
「でもさっきからずっと私の顎を凝視してるんだけど……」
「クジラみたいに雄大で可愛いよ。きっと兄貴もそう思ってる」


 彼女さんの顎を指で触りながらそう言う弟。ヤバいな、コイツの頭疾患か何か抱えてるかも知れない。今なんて言った? クジラみたいに雄大? ゴメン、意味が分からなくて吹き出しそうだった。
 それなのに、彼女さんは「えっ、そんな……恥ずかしいよ」とか言って頬を赤らめてる。再び二人の世界に行っちゃってるよ。どういう事なんだ? あれが嬉しいのか? 別の奴が言ったらどう聞いても悪口かバカにしてるとしか思えないんだが? 


「お前本気で言ってるのか? あんまり適当な事を言うと、その娘も勘違いするぞ」
「ちょっと裕樹君! この人やっぱなんなの!? 折角良い空気だったのに!」
「まぁまぁ、兄貴はだから嫉妬してるんだよ。女にモテた事の無い悲しい男の性なんだ。良い女なら許してやってよ」


 誰が悲しい男だ。こいつ、まじで俺の事を見下してるよな。だけど今の俺はそこまでムカつかない。今まではこいつの自慢や次から次へと出て来る女の名前にイライラが募ってたけど、なんだか今はもう笑ってながせる感じだ。
 それもこれもきっとこのアゴ娘ちゃんのおかげだな。何十人っていう美女をはべらせてると思ってたんだけど、今はもうその美女がアゴ娘ちゃんに置き換わってる。するとなんと不思議な事に、別に全然苛つかない。不思議な事もある物だ。
 性別的には同じ女なんだけどな。


「おい裕樹、お前ちょっとスマホ貸せ」
「なんで?」
「良いから。直ぐに済む。その間そのアゴ−−じゃなかった彼女とイチャついてろ」
「今アゴってっ言わなかった? ねえ裕樹君も聞いたよね?」


 アゴ娘ちゃんは瞳孔を開いてこちらを見てる。こわっ! なんか一言で敵認定されたかも。


「ははは、まっさか〜。それに全然気にする必要なんかないよ。君は俺だけを見てればいいんだからな」
「裕樹君!」


 ズキュンとハートを射抜かれたみたいな声を出して、アゴ娘ちゃんと弟はイチャイチャし始める。なんておぞましい光景……まあ取りあえず恨めしい目を向けられる事は無くなったから良しとしよう。
 弟から受け取ったスマホをいじって本体内の画像を表示。そこには別に隠す事無く、複数の女の子とのツーショットが一杯だった。これって誰もがこいつの性格を理解して付き合ってるってことか?
 別に誰も本気じゃなく、ノリで付き合ってるみたいな物なんじゃ……だって本当に好きなら、こんなの耐えられないだろ。


(でも、やっぱりコイツ……)


 このアゴ娘ちゃんだけが特殊なのかと思ったが、一緒にツーショットを決めてる女子の殆どがその……なんというか微妙な娘達が多い。やっぱりこいつはブス線の様だ。確信に変わった。
 衝撃の事実……モテモテだと思ってた弟はなんとブス線だった!? でもどうして……実際、こいつ相当モテるのは事実で、それならここに写ってる娘達よりもハイレベルな女の子だって言い寄って来てる筈だ。
 その中でこれだけの逸材を選び抜くなんて……兄としてどこで道を踏み間違えたのか気になる。


「秋君、さっきから何をやってるんですか?」
「愛」


 俺がいきなり出てったから、気になって愛も下りて来た様だな。


「あ……兄貴……その方は?」


 はっ、しまった。コイツとは会わせたく無かったのに……って待てよ。それは普通に可愛い子が好きなこいつか。ブス線なら別に会わせても問題ないんじゃ……俺はコホンと一つ咳をして紹介してやる事に。


「彼女は愛。俺の……彼女だよ」
「ああ〜やっぱり。噂の兄貴の彼女さんかぁ〜へぇ〜」


 なんだか値踏みでもするかの様に愛を見る弟。どういう評価を下すんだろうか? それでコイツの好みがハッキリするな。俺的には愛よりもアゴ娘ちゃんが優れてる点は何一つないと思えるんだけど……ブス線であろう裕樹がどういう評価を下すかは分からない。
 俺的には全然興味ないという評価であって欲しいな。それなら安心出来る。


「どうぞこれからも兄貴をお願いします。苦節十六年でやっとで出来た彼女さんなんで」
「いえいえ、こちらこそお願いします」


 なんだか普通の……というか、ちゃんとした対応だな。意外だ。これはどう見れば良いんだ? 愛は好みに合わなかった? それとも他人の女に興味は無い? まあどちらにせよ、あまり琴線には触れてないみたいだ。やっぱブス線だな。
 アゴ娘ちゃんは愛が出て来た途端に、恨みがましい目をしてる。可愛い子にコンプレックスがあるのかも知れない。愛は誰が見ても美女だからな。鼻高々だぜ。


「秋君、急がないと……それに邪魔をしちゃ悪いですよ」
「そうなんだけど−−っつ」


 視線を感じた。周りを見ても別段おかしな人物は見えない。だけど……監視されてる気はする。立ち止まって携帯をいじってる人……通りすがるラフな格好な人……別に気にしなければ普通の事。だけど……見られてると感じる。
 被害妄想か……でも監視の目があるのは確かだ。


「このままここに居たら二人を巻き込むかも知れません」
「分かってる……けど待てよ」


 ちょっと俺は考え込む。どうやって監視の目を振り切って日鞠達の場所まで戻るかだけど……コイツ等は使えるかも知れない。裕樹は俺よりも背低いけど、そこはどうにか出来るし、アゴ娘ちゃんは愛とあんまり身長も変わらなそうだ。
 後ろ姿なら可愛く見えるしな。俺は二人に提案してみるよ。


「おいお前等、デートしてるんならもっといいムードの方が良いだろ?」
「デートはもう終わったんだけど。流石にこんな近所じゃやらないし」


 ああ、そうか。どうりで家の近くに居ると思った。確かにデートにしては近場過ぎだな。どっかに言って既に戻って来た帰りなのか。案外健全な付き合いしてるのか? でももうちょっと一緒に居てもいいだろう。


「これからの時間はドライブするにはムードも出ていいと思うんだけどな。高級車なら尚更な」
「どういう事だよ兄貴?」
「だから……」


 俺は裕樹に耳打ちをするよ。すると乗り気なってくれた。


「秋君、家族を巻き込むのは……」
「大丈夫、何も知らない奴を無理に捕まえたりしないさ」


 それに捕まえたとしても、直ぐに解放されるだろう。裕樹達は何も知らないんだからな。


「よし、そうと決まれば家に行くぞ!」
「車は?」
「その後だ!」




 俺達は四人で家の中に入る。愛やアゴ娘ちゃんはちょっと緊張してるようだった。だけどそれを気にしてる暇はない。俺は速攻自分の部屋に上がって、リーフィアを確保する。袋に入れて、持ち運びし易い様にした。


「次はそれぞれ服を変えるぞ」
「それなんか意味あるの?」
「高級車にはそれなりの服じゃないとダメなんだよ。特に女性はな。愛の服こそ相応しい。俺の服は愛の彼氏の服だから相応しい。お前のじゃダメだ」


 そんな事を言って俺達は服を取り替える。勿論愛達が着替える時は部屋から出てたぞ。当然だ。着る人が変わると服の価値も変わる気がする……と思ったのは胸にしまっとこう。そして着替え終わると、先に裕樹達を外に出して、ワザと少し歩かせて車へ。俺達は裏から脱出して、学校の方まで急ぐ。


「向こうの方に食いついてくれたでしょうか?」
「そうでないと困る。あの場所までついて来られると困るからな」
「ですね。上手く行ってる事を願いましょう。上手く行ってれば反対方向に引き連れて行ってくれてる筈ですからね」


 弟を使った陽動作戦。単純だけど、今出来るのはこの位だ。向こうが監視に徹してるのなら、ちゃんと引っかかってくれてるのかも確かめる事が出来ないのが難点だな。まあ向こうにもちゃんと付いて行ってるみたいだけど、それが全部なのかは分からない。
 こんなんで騙されてくれる程なら、助かるけど……実際はどうなんだろうな……一応周りに警戒しつつ、俺達は学校前に辿り着く。そこには一台の車が止まってた。
 大丈夫、アレはこっち側の車だ。愛を守ってるSP達なんだ。まあ流石に全部をこっちに持ってくる訳にはいからないから、一台だけ。


「周囲はどうですか?」
「今の所は怪しい影は見えません。奴等はいい加減な仕事をしてるようです」


 屈強そうな人がそう言ってくれる。上手く行ってるってことだな。俺達は車に乗り込み、アジトを目指す。




「じゃあやるぞ……」


 アジトに戻った俺達を待ってたのは既に目にクマを作った愛と、紙のマスクがフニャッと湿気ってるタンちゃんの姿だった。どうやら相当格闘した様だな。メカブの奴はどこへいったのか分からないけど、既に検証を終えたようなリーフィアは三つ転がってる。
 そして次に俺達が持って来たリーフィアとスマホを繋いで、更にそこからケーブルでPCに繋げる。後は何をやってるのかは良くわからない。愛とタンちゃんはそれぞれ別々のPCに俺と愛のリーフィアを繋いで、独立して道を開く検証をしてるようだ。
 けどキーを叩いたりする訳でもなく、最初にエンターを押して放置って……前の三つをする上で既にその作業をするプログラムでも組んだって事だろうか? 半端ないなコイツ等。
薄暗い部屋でモニターの灯りと繋いでるスマホの画面の輝き、そしてリーフィアの電源の光がチカチカしてる。


「こっちは同じ結果だな」


 そう言ったタンちゃんは作業を止める。どうやらダメだったようだ。向こうへの道も足がかりも何一つないって事。後は俺のリーフィアだけか……愛の前にあるモニターには理解不能な文字列が流れてく。それが進む度に俺のスマホの画面の光が増して行ってる様に見える。
 大丈夫なのか……二年縛りがあるから壊されるのは……てかこれは保険効くのか? そう思ってると、日鞠の口から「来た」と聞こえた。画面に目をやると、流れてた文字列が止まってる。一番下の文字が赤く表示されてた。


「やったか!」
「凄いです日鞠ちゃん!」


 二人も興奮気味にこっちに来る。画面を覗き込んで、タンちゃんはこう言うよ。


「おい人間、コレが何か分かるか? お前の所有物の筈だ」


 人間って……まあいいや。突っ込むのは後にしよう。俺は赤くなってる文字を見る。だけど長いし何語か分からないしでハッキリ言って判断出来ない。


「鍵カッコの中の文字を見ろ。それがLRO内で表示されてる名称だ」
「なるほど……って???だぞ」


 表示出来てないんだけど……


「???というアイテムじゃないのか?」
「んなバカな。そんなの持ってねーよ」
「読み込みが上手く出来てないのか? そもそもこれだけしか抽出出来てないってのも……
???か……」


 ブツブツとタンちゃんは思考を巡らせてる。これは俺のアイテムの一つなのか? でもこんなアイテムはマジでしらないな。いや……待てよ。俺はハッとする。


「おい、コレってLROで登録されてる名称を表示してるんだよな?」
「そうだな。そいつが持って来たLROの設計データのデータを丸写ししたから、アイテム抜けがあるとは思えん」
「それなら……壊れてるんじゃないのか? このシステムがじゃなく、このアイテム自体がだ。それなら一つ心当たりある」
「壊れたアイテムを持ってたという事か? 何の為に?」
「それは……」


 ご尤もな質問だな。確かに壊れたアイテムなんて持っててもなんの意味も無い。でもこれは捨てられない物だったんだ。だってコレはサクヤと戦った後に現れた破損アイテム。俺達はそれをその場に居たみんなで分けた。四つのアイテムを四人で……それからずっと何か意味があると思って持ってたんだ。それがもしかしたらここなのかも知れない。
 破損してたクエストから現れた破損アイテム……その壊れたアイテムは、壊れかけの世界を繋ぐ鍵に成るのかも知れない。

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