命改変プログラム

ファーストなサイコロ

君の価値

 煌めく炎が凶悪に凶暴に周囲を満たす。息も出来ない程の熱気が服を肌を焦がす様だ。


(遅かったのか? ……いや、まだだ!!)


 そんな簡単に諦められる訳が無い。まだ間に合うかも知れない。僕は立ち上がりセラ・シルフィングに力を込める。このままの風じゃこの炎は突破出来ない。なら、派手には成るけどイクシードの段階を上げるしかない。それに既にこの鳥がメチャクチャやってるし、今更だろう。既に感付かれてるかも知れない……けど、気遣ってなんかいられ−−


「ん?」


 真っ赤に燃え盛る炎の中に何かが見える。炎や光さえも吸い込む様な……それは闇。黒い靄が炎に対抗する様に広がって行ってる。あれは−−


「調子に乗るなよ鳥風情が。この程度の炎……俺が消し去ってやる」
「テトラ!」


 あの野郎、遅いんだよ! だけど超ホッとした。どうやら間一髪、アイツがクリエ達を守ってくれた様だ。ホント邪神の癖にヒーローみたいなタイミングで現れる奴だ。憎たらしいけど最高だよ。自分の炎が押されてる……そう感じたのか鳥は更に炎を強める。どこまで火力を上げれるんだ? 熱気だけで周りが溶け出してるぞ。だけどテトラの奴は全然余裕の涼しい顔してやがる。あの靄には熱を遮断する効果もあるのか? どこまで万能なんだ。てか、テトラに守られてるクリエ達は良いとして、これは僕自身がヤバいぞ。どう見てもHPが減ってる。ダメージ認定されてるんだ。そりゃあそうか、熱気だけで壁までも燃やし出してるんだ、皮膚の方が耐久性低いだろう。僕はイクシードのウネリを大きく広げてなるべく熱気を遮る。そして風で常に冷ます。それが大切。
 でもここまで熱いと、風自体が運んで来る熱気も半端ない。皮膚の穴全てから汗が吹き出てる様な感覚。


「無様な姿だな。全く、俺が間に合わなかったらどうなってた事か。貴様にはもう少ししっかりして貰わんと……困る!!」


 黒い球体が炸裂して、易々と鳥が後方に吹き飛んでく。するとようやく後ろ側の通路は炎が弱まってたのに、再び鳥がぶつかる事で火力が復活してしまう。そこにはこっちに来ようとしてたリルフィンとミセス・アンダーソンが居たけどまたとうせんぼを喰らう形に……


「おい邪神! 何しやがる!危ないだろうが!!」


 ギャーギャー騒いでるリルフィンの事を無視して、テトラは歩みを進めながらこっちを見る。


「何を躊躇ってるのか知らないが、戦闘中に迷うと死ぬぞ。お前か……それか仲間がな。それを肝に銘じておけ。お前がやれないのなら、俺がやってやる」


 そう言って両手に力を収束させるテトラ。小さな球体が圧縮されてく。テトラの奴はマジだな。当然か、こいつにとってはあの鳥はただの敵だ。だけどあれは多分……


「テトラ、お前は知らないだろうがあれはきっと−−」


 僕が言葉を続けようとしてると、壁にぶつかってた鳥がその姿に相応しい重厚な声を上げる。そしてくちばしの先に溢れ出す炎が集まってくじゃないか。決め技か? 丸く納められる炎はその高温からか太陽の様に輝いてる。


「一介のモンスター風情にしては良い物を持ってるな。ここの連中に改造でもされたか? だが貴様等を生み出したのは俺だ。本当の主が誰か、その身に再び刻んでやろう」


 テトラの奴はやる気満々になってる。鳥の攻撃に対抗する様に自身も片方ずつで作ってた球体を両手で合わせて強力差を増させた。テトラの球体はより黒が沈んだ様で、まるでそこだけスッポリと空間に穴が空いてる様に見えなくも無い。ブラックホールみたいなさ……そしてそこからビチバチと紫色したスパークが弾けてた。ヤバいぞこれ……あんなのがぶつかり合ったら、この城もただでは済まないだろ。もしもだ……もしもまだシクラ達が気付いてないとしても、流石に城が派手にぶっ壊れたら速攻気付くだろう。
 ここにまだ奴等が来ないのは、まだ城の内側で収まってるから……と無理矢理思えなくもないけど(窓とかから微妙に光や炎は出てるけど、シクラ達は今もっと強い光の中だから気付いてない可能性はある)この城がぶっ壊れたらもう絶対に視覚的に完全アウトだろ。それが起こったら奴等の儀式だって中断するかも知れない。そうなると一気に取り囲まれて僕達はジ・エンドだ。


「テトラ待て! それは不味い!!」
「何が不味いだ? このままアイツに燃やされる気か!!」
「そうじゃない! けどお前達の力がぶつかったらこの城はどうなる!?」
「何とかなるだろ。頑丈そうだぞ」


 そういう問題じゃない! その手の中の力が引っ込みつかなくなってるだけじゃないのか? なんだその適当な言い訳は。お前達がこのままぶつかり合うのは不味いんだよ。


「全く。ならどうすれというんだ? 奴はもう撃つ気だぞ!」
「くっそ!」


 どうにかして止めないと。この面子でそれが出来るのはきっと僕だけだ。だって僕だけが、お前の事を知ってるんだからな。僕は覚悟を決めて二人の間に入るよ。そして燃え滾る鳥の方を向く。


「止めろ! お前クーだろ? 僕の知ってる姿と多少違うけど、お前はクーの筈だ。なんでお前が僕達を襲う? お願いだから止まってくれ!!」


 僕は必死にそう訴える。あれは絶対にクーなんだ。そうでなくちゃ納得出来ない。この場所にはシクラ達姉妹に、セツリとサクヤ、そしてあの黒い奴で全てと思ってた。だけど居たんだ後一人……というか一匹。それがクーだ。クーはサクヤがこっちに飛ばされて飼い始めたペットみたいな存在。だからあの儀式に参加出来なくて当然だ。あそこに居たのはこの世界を改変するのに必要な、それぞれが外れた存在。そしてシクラが用意したその為の存在だけ。クーはハッキリ言って完全な部外者なんだ。
 だからここで僕達の前に現れたのは暇してたクー以外にはあり得ない。姿や力が微妙に変わってても、色々と総合するとここで出会うシクラ達以外の存在なんて、お前しか居ない! 分かる筈だろうクー! 僕の事。


「退けスオウ。奴は撃つ、ただのイクシードでは防げんぞ!」
「出るなテトラ! アイツは……クーは撃たない」


 −−と信じてる。多分……うんまあきっと。


「クー、分かるだろう? 僕だ。僕はお前の敵じゃない」


 僕は必死にその姿に視線を向ける。スッゲー熱いけど、ここで顔を逸らすなんてしちゃダメだろ。見つめ続ける事は自分の意思の強さを見せるのに必要だ。この程度かって思われちゃダメだからな。するとその時だ。クーの側面からヤケに張り切ってリルフィンの奴が再び組んだ武器を構えて突いて来た。


「くらええええええええええええええええええええ!!」


 不意打ちは完全に決まった。まあ多分炎が周りに展開してるから直撃ってわけでも無いんだろうけど、その勢いで無理矢理リルフィンはクーを吹き飛ばす。だけどこのタイミングは最悪だろ。クーは少しでも耳を傾けてくれた様に見えたのに……


「リルフィンお前……」
「危なかったな。突っ立ってたらやれるぞ。礼はいらんがな」


 いわねえよ! もうちょっと炎に足止めされとけ。いや……心配してくれてたのは分かるけど……分かるけどタイミング的には最悪だったんだ。なんだか「やってやったぜ」みたいな顔をしてるリルフィン。確かに普通は「やってくれた!」なんだけど、クーはまだ交渉の余地がある相手だ。多分……シクラとかに洗脳されてなかったらな。サクヤの奴はセツリによってなんだかおかしな事になってる。自分の意志を塞がれた様な状態。それをクーにもしてるって言うのなら交渉の余地なんか無いけど……実際まだそこら辺は分からない。
 わざわざクーにまでそれをやる理由も無い気がするしな。でもここで躊躇いなく僕達を襲って来た……それを考えるとまさか本当に忘れられてる? とも思えなくも無いけど、さっきの反応も気になる。クーの技はきっと完成してた。でもそれを撃たなかった。それはどこかに葛藤が生まれてたからじゃないのか? そう考えるとやっぱりクーは僕の事を覚えてるってことになる。いや待てよ……


(そう言えば世界からプレイヤーの記憶が書き換えられる事象はどうなってるんだ? ピクにもそれが適用されてるのか? それが適用されてるのなら、忘れてても断片的に記憶が見え隠れするってのはコレまでの観測から分かるぞ)


 それなら色々と説明がつく部分もあるな。けど全ては憶測か。それにクーは動物……それも元はモンスターなんだよな確か。しかも多分ただのモンスターじゃない。普段は白いフクロウで本気出すと光り出して姿が変わるってどう考えても特殊だ。今までそれをあまり深く考えなかったけど、そこまで変化をするモンスターなんてそうそう居ないだろ。それにこの姿もそうだけど……前に見てた姿を思い出してもただのモンスターって感じじゃない。もっと神々しい様な気がする。でも炎で召還獣と言えば既にイフリートの奴がいるしな……召還獣以外で神々しい存在ってなんだ? 
 いや、今はクーがどんな存在なのかはいいんだ。問題はクーの今の状態。僕の事を分かってるのか、そうじゃないのか。それとも分かってる上で、攻撃して来てるのか……ただ一つ絶対に言える事は……


「今の内に畳み掛けるぞ! スオウ! 邪神も手伝え!!」


 リルフィンの奴が勢いそのままに決めに掛かってる。テトラはリルフィンに命令されるのが気に入らないからやれやれって感じだ。だけどそれでもテトラも進み出す。リルフィンはともかく、テトラならクーを消滅させてしまうかも。


「ダメだ」
「何? おい、何を言って−−っつ!?」


 その瞬間、炎自体がうねって破裂する様に弾けた。思わず後方に飛んだリルフィン。だけどそれを狙うかの様に炎から顔を出したクーが収束してた太陽の縮小版みたいな球体を放つ。ついに放って来たか……アレは炸裂させる訳にはいかない。


「テトラ! お前の靄で包み込んで押さえ込め!」
「なっ!? 打ち落とす方が簡単だ」
「だからそれをやったらこの城がヤバい。既にバレてるのかも知れないけど、まだ現れてないのならバレてない方に賭けて行動するんだ。だからお前達の力をぶつけ合うのは絶対に無しだ! それとも押さえ込む自信が無いのか?」
「ふん、神を舐めるなよ!!」


 テトラは合わせて収束してた黒い球体を握りつぶす。そして溢れ出した靄をリルフィンに向かう太陽へと向けた。眩しい程の光と、濃い闇が混じり合う。全てを飲み込む闇が包んでも、クーの作り上げた球体はその光で存在感を伝えてる。押さえ込めるのか? 想像も出来ない熱量だぞ? 包み込んだだけで大きさとかは変わってない様に見えるけど大丈夫なのか?


「テトラ!」
「そう焦るな。もう用意は出来てる。飛べ!」


 その言葉の瞬間黒い靄だけがリルフィンにぶつかった。中の小型太陽はどこかに消えてる。靄を使ってどこかに瞬間的に飛ばしたって事か? 自身の移動にも使ってるし、確かにそれは出来たか。でも確かそんなに遠くには飛ばせ無かった様な……まあぶつからなければ良いんなら外の適当な方向に飛ばせば済む事か。だけどこれでなんとか凌げた。今度こそクーを説得……そう思ってると、クーは既に羽ばたいてた。そしてその周りにはクーを包み込む大きな炎の他に様々な色の炎が小さく揺らめいてる。クーの一声……それで一斉にその炎達は放たれる。
 無数の炎の矢だ。でもさっきよりのよりは威力は無い。僕達はそれぞれ個別にその攻撃を捌いてく。するとその隙にクーの奴は再び僕とテトラの後ろに居るクリエの方へ天井ギリギリを飛んで向かってく。


「クーの奴またクリエの方へ!」


 いや、違うのか……クーの狙いはクリエ曰くピクだ。だけどどうしてそこまで拘ってるのか、正直分からない。だって完璧に狙うなら僕達の方だろ。特にリルフィンやテトラは攻撃向けてるんだぞ……狙いが攻撃して来た奴よりも高いままなんて、絶対におかしい。どれだけ執念燃やしてピクを狙ってるんだって事に……


(待てよ。ピクを狙ってる……そもそも狙える程にこだわりがあるのは記憶があるって証明なんじゃ? 野生で出会う訳が無いからな。ピクはプレイヤーの為の存在。サポートモンスターなんだから)


 って事はやっぱりクーには記憶がちゃんとある。僕の事、わかってるはずだ。


「テトラ!」
「分かってる。今度はきちんとその炎事沈下してやる!」
「ちげーよ! どうにかしてクーの動きを拘束してくれ。それだけでいい。後は僕がやる!」
「倒さずにどうする気だ?」
「そこはだから繫がりだ! クーだって仲間だったんだ。ただ今は向こう側に居るだけ。きっとどうにか出来る!」
「ふん、ならやってみろ!!」


 テトラの靄がクーに伸びる。そしてそれが体に巻き付いてクーの進行を阻害する。流石テトラ。靄なら燃え尽きる事も無いのか? でも実際は靄だって水分だろうし、リアルじゃ蒸発とかしそうだけどテトラの靄は黒い闇を滲み出してるみたいな感じだからな。水分ではないんだろう。色々と変換も効くしな。そんな万能靄だから、ピクを引っ張る綱にも成れる! だけどピクの奴も直ぐさま炎の矢をこちらに再び放って来る。ヤバいな。これじゃあ近づけないぞ。


「クー止めろ! 僕達はお前を倒したりしない! だから落ち着け!! なんでそんなにいきり立ってるんだよ!?」


 僕は必死に言葉を紡ぐ。だけどクーからの返事は無い。そもそもなんて言ってるのかわからないしな。するとピクを抱いて縮こまってたクリエが頑張って声を出して来た。


「スオウ! あの子はね……ピクの事で怒ってるの」
「怒ってる? なんで?」


 同じペット枠どうし仲良くしろよ。でもよく思い出したら、あんまりこの二羽は絡んでないかも知れない。でもここまで怒ってる理由なんて心当たりが無い。ピクの奴、何やったんだ? けどそもそもセツリがサクヤを連れてってから、関わり一切無かった筈だけど……何に対して怒ってるのか全然分からない。


「その子はね、ピクのせいで……」
「ピクのせいで?」
「自分があんまりチヤホヤされなくなったって!!」
「はぁ!?」


 なんじゃそりゃ!? それはマジなのか? でも今この状況でクリエが嘘を言うとも思えないし、その必要性も無い。って事はマジ……なのか? それが理由? くだらなくね?


「おいクー、お前本気でそんな事思って暴れてるのか?」


 確かに白いフクロウよりも傍らにはピクみたいな珍しいドラゴン置いておきたいとは正直思う。それに嫉妬してたのか? ピクが居たから自分があんまりチヤホヤされなかったと……でもなんで今それを爆発させるんだよ。遅いだろ。


「その子はここの人達は可愛がってくれたって。ピクがまた自分の場所を奪いに来たって」
「なんだその被害妄想!」


 てかそう言う事とか気にしてたのなお前等。まあピクもクーも感情がありそうだし、当然と言えば当然なのか。もしもサポートモンスターが普及したら、こう言う問題多くなりそうだな。でも今の状況じゃ、元のLROの光景に戻れるかも分からない状況だけどな。取りあえずクーにはそのくだらない嫉妬の怒りを鎮めて貰わないと……


「クー止めろ! 別にピクはお前の居場所を奪ったりしない。そんな気ない! てか、お前今のこの場所に満足してるのか? どうなんだよ!」


 ようやく止まった炎の矢。僕は引っ張ってくれてるテトラを抜いて、クリエとクーの間に入る。


「クー、お前だって気付いてる筈だろ? 今のサクヤは今までのサクヤじゃない。自分の心を封じられて無理矢理セツリの傍に置かれてるんだ。お前の主が望んでた場所はここか? お前はそれでいいのか!?」


 僕はクーを強く見つめてそう紡いだ。だってそうだろ……お前が一番大切なのは誰なんだって事だ。危機から救って、ずっと一緒に居てくれた人は誰だよ。その人が望まない場所を、お前が受け入れても良いのか!! サクヤは……アイツはセツリにリアルに戻って欲しいと、そう言ってたじゃないか! ここに居続けるってことは、サクヤの願いを踏みにじる事だ。。色々と言われたく無い……だけどサクヤは大切だから離したくも無い……そんなセツリの願望が、アイツから心を奪って傍に居させてるって分かってる筈だ!!


「クー! お前に取って一番大切な人は誰だ? 可愛がってくれるシクラ達か? それともサクヤの全てのセツリか? そうじゃない筈だろ! お前にとっての一番はサクヤじゃなかったのかよ!? サクヤが望む事をお前が分からなくてどうするんだ!! 僕は……セツリをリアルに連れ帰る。それをまだ諦めちゃいない! サクヤだって絶対に正気に戻してみせる! だから他の誰かで満足なんかしてないで、自分の一番大切な人を見ろ!! お前はずっとサクヤがこのままで良いって思ってるのか!!」


 ゆっくりだけど、少しずつテトラを引いて近づいて来てたクーがついにその進みを止めた。そして怒りに燃える炎の外装が沈下してく。吹き荒れてた熱気が静まってく。通じた……のか? 僕は後ろのクリエを見る。するとブイってしてくれる。分かってくれたみたいだ。炎が消えたクーの姿は見覚えがある物だった。何度かその背に乗った事もあるしな。やっぱりこの程度の輝きが目に優しくていいよ。乾かないしな。すると疲れたのか、その姿も直ぐに縮こまって白フクロウの姿まで戻った。そしてパサパサと飛んで僕の肩に乗って来る。
 頭を頬にすり寄せて来るクー。ははは、なんだか懐かしい感覚だ。ピクとは感触が違うからな。


「もう大丈夫だよ。クーは分かってくれたんだ」


 僕は警戒してるテトラやリルフィン、そしてミセス・アンダーソンにそう伝える。これで戦闘態勢は解除だ。


「全く騒がしい奴だったな。なんなんだその鳥は?」
「そうね、それは知りたいわ。なんなのその鳥?」
「こいつはクーだよ。セツリの一番のお気に入りのサクヤのペット。どうやらクーには記憶の改変とか行われてないみたいだな。花の城に居たからか?」


 良くわからないけど、まあ良かったよ。でもまさかクーの奴がここまで強かったとは……いや、最初の出会いのときも戦ったんだけど、あの時よりも僕も成長してる筈なのに……なんだか更にクーの奴が強くなってる気がした。前はあんな燃えてなかったしな。頭はいじられてないけど、体の方はいじられてるのかも。するとリルフィンの奴がこんな事を言った。


「おい、そいつはずっとここに居たのだろう? なら、知ってるんじゃないのか? 法の書の場所を」
「「「!!」」」


 僕達は全員でクーに注目するよ。するとクーはフクロウ特有の首を傾げるみたいな動作をした。とぼけてるのか? それとも無意識で出るフクロウの癖か? でも確かにリルフィンの言う事の可能性は高い。


「クー、法の書を知ってるか? シクラ達がとっても大事にしてる本なんだ。それの在処が知りたい」


 するとクーはバサバサと羽を羽ばたかせて僕の肩から飛び立った。知ってるのか? ついてこいってことか? そう思ってるとクリエが僕の足に抱きついて来る。


「行こう! 教えてくれるって!」


 僕は皆を見渡してそしてクリエを抱いて走り出す。




 クーの後を追って辿り着いたのは正面玄関ホールだ。この直ぐ外はもう奴等の儀式場の傍だからな、精神衛生上よく無い。それにしても改めて見ると凄い。天井高いし、装飾も凄く凝ってるし、なんだかそこら辺キラキラしてる。だだっ広いのに何もないとは思えなくて、どこにでも目をやれるというか……ようは豪華絢爛って事だ。まあ物自体は少ないんだけどな。あるのは中央に三体の像くらい。三体の天使? かな。そこにクーは進んでく。そしてクーはその一体を押し始める。だけどフクロウ姿のクーにはそれだけの力が無い。
 だから僕達が頑張る事に。男三人で力を合わせて押してみる。


「あれ?」


 なんだか思ったより力入れなくても動くぞ。それによく見たら床に傷が僅かに見える。これって……元の位置はここじゃないってことか。クーは像を進める方向を示してくれてるのか、地面に下りてクークー言ってる。そこに僕達は像を動かす。だけど一体動かしただけじゃ何も成らない。残りニ体もクーの示す場所に動かすよ。すると僅かな振動が城を揺らした。そして再びクーについて中央の大きな扉を開いて、階段をいくつか上がると、見覚えの無い扉が……中に入るとそこも通路が続く場所なんだけど、決定的に違う事が一つあった。
 それは匂いだ。現にリルフィンの奴も「甘ったるい匂いがするな」とか言ったからな。今までの通路とかには考えてみれば生活感もそうだけど生活臭なんて物も無かったんだ。だからこれは……この場所はセツリ達が良く通ったりしてる場所って事。きっと間違いない。見た目はそんなに変わらないのに、匂いで分かるってなんだかドキドキするな。女子の匂いってことか? 言われてみれば、日鞠の部屋もなんか甘い匂いするもんな。クーの奴は更に進み一つの部屋をコンコンする。


「あそこか」


 僕達はその部屋の扉を開く。すると開いてビックリ。綺麗な通路とは違ってこっちはマジで生活感が漂ってる。散らかる本や服の山だ。閉められたカーテンから僅かに差し込む光からでもこの部屋の散らかり具合が分かるよ。結構広いけど、奥の方まで足の踏み場が無いぞ。そしてそんな中、ゴソゴソとゴミを漁ってクーが一冊の本を持って来た。それは勿論−−


「法の書だ」
「おいおい、こんな無造作にゴミに混ぜられた本に価値があるのか?」


 テトラの奴が訝しんでそう聞いて来る。確かにこの管理体制ではそう思うのも仕方ないな。実際僕も拍子抜け……というか驚愕だ。いくらシクラの奴でも無造作過ぎだろ。いや、ある意味らしいけどね。


「価値はある……筈だ。取りあえず目的は達したんだ。とっととこんな場所からは離れよう」


 法の書の価値を信じて僕はそう言うよ。よく考えれば、今やってる儀式がどれだけ重要かなんか分からないけど、奴等が全員出張ってるってとこにコレが無いのはやっぱりおかしくはある。まさかもう無価値に? その思いは捨てきれないけど、でもここでコレを手放すなんて出来ない。これの価値に僕達は賭けるしかないんだ。僕は取りあえず法の書を安全なアイテム欄へ−−


「いらっしゃいスオウ☆ 私の部屋でオナニーでもしてるのかな?」


 寒気が……全身を、いやこの部屋全体を覆った気がした。でもいきなりオナニーは無い。こんなふざけた事を言う奴は勿論……


「シクっ−−」
「はっはぁぁ!! 飛んで火にいるなんとやらだな!!」


 勢い良く黒い鎌を振り上げるのはガイエンモドキ。だけどそれをテトラが素早く防いでくれる。でもそいつの後方から更に黄色い髪が揺れてる。あれは−−


「僕とも遊んでよ!」
「ヒマワリ!」


 細い腕と拳−−だけど当たるのは不味い。コイツの打撃は半端ない。するとリルフィンが僕を強引に弾いて、代わりにヒマワリと相対してくれる。でも更に二人・三人とチートが迫る。これは……ダメだまず過ぎる。


「止めてよスオウ。それ、まだ必要なんだからね☆ それに正当な対価として貰った筈だけど?」
「何が正当な対価だ! 許可なんかしてない」
「あっそ、残念じゃあここで終わりだね☆」


 法の書の価値はまだ健在。だけどこのままじゃ僕達の存在が消される。絶対的な戦力差が僕達にはある。でもだからって易々とやられる訳にはいかない! 僕はイクシード3を発動させる。


「この狭さじゃあんまり意味ないかもねそれ☆ それに勝てるなんて思ってないでしょ?」
「はっ……どうだ−−か!!」


 僕達は精一杯応戦する。だけど数の差と力の差は直ぐに現れる。法の書はクーに任せてクリエも後方に放り投げたけど、二対の剣の速さや手数を奴等は強引に押し切って来る。僕達は三人とも壁に叩き飛ばされる。あっという間に残りの壁はクリエ達を守る障壁を張ってるアンダーソンだけ。くそ……どうにかしないと……


「さて終わりだね☆ 最後って案外あっけないものなんだねスオウ。まあスオウ達を消す前に法の書は回収させて貰うよ。お姉様お願い☆」


 そう言って出て来たのはサクヤだ。サクヤの登場にクーはビクッとした。だけど感情を封じられてるサクヤはただ淡々と「クー、法の書をこちらへ」そう言うだけだ。だけどクーはそれに逆らう。するともう一度サクヤは同じ言葉を紡いだ。そしたら僅かに前に進み出すクー。ミセス・アンダーソンの障壁の外へ……


「ダメだ! クー、今……その本を奴等に渡したら、本当のサクヤは……お前の大切なサクヤは戻って来ないんだぞ!」


 僕のその言葉にクーは進みを止める。だけどそうするとさっきよりも語気を強めにサクヤは言うよ。


「クー、どうしたの? 私の言う事を聞いてくれるでしょう? 早く……早くその本を持って来て」
「ダメだ! よく見ろ! あれがお前の大好きなサクヤなのかよ!!」


 迷うクー。前に出ては後ろに下がるを繰り返す。


「無駄だよスオウ☆ ペットはご主人様の言う事には逆らえないの☆ そこのクロリンみたいにね」


 クロリン? あのガイエンモドキそんな名前だったのか。


「誰がペットだ誰が! それにその呼び方は止めろ!」


 どうやら本人は認めてないらしい。やっぱりガイエンモドキでいいな。だけどペットね……僕は言ってやるよ。


「それは違うなシクラ。ペットはご主人様の玩具じゃない。癒しや支えに成ってくれる頼もしい存在なんだ。時には拗ねたり機嫌を悪くしたりする生き物だ。少なくとも……本来のサクヤとクーはそんな関係に見えた。お互いを信頼して分かり合って、絶えず一緒に居る。ちょっとしたいざこざだって絶対に仲直り出来る安心感がある。そんな家族みたいな存在なんだ。だから……ただの所有物みたいに言うんじゃねぇよ!」


 その瞬間、クーは僕へ向けて法の書を投げて来た。そしてそれと同時にその姿が輝いて炎に包まれる。そしてその炎が僕達とシクラ達の間を完全に隔てて前進し出した。クーの奴……まさか、自分を犠牲にする気じゃ……


「クー!!」
「止めなさいスオウ! あの子の覚悟を無駄にしない事が大事よ。これを見なさい」


 そう言って示されたのは別のお札? そこからはこんな声が聞こえて来てた。


『こちらバトルシップ。儀式の光が消えた。今城を旋回してる。どうすれば良いでしょうか?』


 それは僧兵の声……こっちは僧兵達と繋がってるのか。外で旋回……それは正しい判断だ。この状況で下に行く方法はない……まあ床をぶち抜けば行けそうだけど、発進までを待ってくれるとは思えない。動いてれば、バトルシップはこの世界で最速だ。そしてそれを生かすとしたら……僕は窓を見る。そして炎を見る。


(クー……)


 僕達の為に足止めをしてくれてるんだ。それは僕達に託してくれたって事。この法の書を無駄になんて出来ない。僕は法の書を強く握りしめて前を向く。そしてお札に向かってこう言うよ。


「今から合図を空に向かって放つ。そこに向かって全速力で突き進め!」
「スオウか……分かった。遠慮はしないぞ!」
「そうでないと困る」


 僕は皆の顔を見渡す。みんなもう分かってるって顔だ。説明はいらない。


「テトラ、クリエを頼む。お前と一緒が一番安全だ」
「分かった」


 クリエもそそくさとテトラの腕の中に。すると炎の向こうからこんな声が聞こえて来る。


「スオウ〜、この世界に居る限り、どこへ逃げても同じだよ☆ 絶対に見つけてあげる」


 脅しか……上等だな。僕は唾を飲み込んでこう言い返す。


「僕達は逃げ続けなんかしない。これは転換の一手だ。次は……次こそは決着の時だ!!」


 そう言い放って僕達は一斉に窓を突き破る。耳に響く甲高い音。それと同時に体に当たる外の空気。僕は周囲の風を掴んで一筋の風の柱を打ち立てる。そしてそれを目印にバトルシップが迫って来る。すると周囲に黒い靄が広がってそれが僕達の体に巻き付いて来て、更にわざわざ貼り付かなくても靄に突っ込んだバトルシップにそのまま僕達は強引に引っ張られる形になった。なんだか今の靄は質量があるみたいだ。だけどコレのおかげで全員が猛スピードのバトルシップを掴め損ねずに済んだ。脱出は成功だ。
 瞬く間に小さくなってく花の城……クーは大丈夫だろうか? 次は絶対纏めて救ってやる……僕はそう心に誓うよ。

「命改変プログラム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く