命改変プログラム

ファーストなサイコロ

リアルでやれること

「少し宜しいですか?」


 そう言って糸目のオッサンが見張ってる屈強な男共に声をかける。彼等は軍隊出なのか……それとも今なお軍隊所属なのか知らないけど、ビシッと訓練された敬礼を見せてくれた。そしてその態勢のままこちらを見てる(そんな気がする)。
 いや、サングラスのせいで目が見えないから……でも視線は感じる。頭も少し動いたしな。多分見られてるだろう。でも日鞠の奴はそんなの気にしない。颯爽と糸目のおっさんに続いてく。全く、動じるってことが無い奴だ。
 もしも襲いかかって来たらとか考えないのか? 日鞠の奴は地味系だけど、よく見たらそれなりに可愛いんだから少しは男って奴を警戒した方が良い。カルト的人気だからって、その思いが変な方向に向く信者が居ないとも言えないしな。
 それにここはあくまで敵地なんだ。まだ交渉段階だから甘い顔してるだけだと思う。それともいざって時は俺を頼るつもりか? 正しい選択だけど、過度な期待はしないで欲しいな。俺はペコペコしながら敬礼してる見張りの人達の前を通る。


「皆さん、お客様ですよ」


 そんな風にガラス越しに声をかける糸目のおっさん。すると絶望に打ち拉がれてるオーラをかもしつつ、酷いクマを目尻に作った大人達がこちらを見て来る。その負のオーラに思わず俺は一歩後ろに下がってしまった。その位、酷い何かが感じれた。
 でもやっぱり日鞠の奴は動じない。


「数日振りですね。お元気そうで何よりです」
(えええええ!?)


 この状態を見てその発言はどうだろうか? とにかく元気そうには見えないんだが……まあ「絶望してますね」とかは言えないだろうけど……なにかもっと語録あるだろお前なら−−と思った。でも中で絶望してた人達は、俺達の姿を見据えると少しだけ表情が和らいだ気がした。
 だけどそれは本当に一瞬。次の瞬間にはこんな言葉が漏れて来た。


「ごめんよ……ごめん。こんな事になってしまって……本当にすまない」


 ああ、更にダークサイドに落ちて行く。自分達の事で絶望してた所に、俺達が現れた事で、スオウを巻き込んだ責任……みたいな物までのしかかって来たのかも知れないな。酷だとは思うけど、でもその位重く受け取るべき事だよな。
 軽い感じで言われてたら、逆にこっちが不愉快だしな。スオウの奴をここまで危険に押しやったのの一端は、この人達にも確実にあるんだしな。まあアイツが選んだ事……ではあるんだけど。でも自分達の保身だってあった訳だし、やっぱし負い目があるんだろう。


「そこは良いんです。今更貴方達を責めても意味ないし、スオウ自身だってこうなるかも知れないってことは分かってたんですから、私は別に責めません。まあこれから一杯謝る必要性はあるでしょうけど」
「はは……日鞠ちゃんは相変わらず厳しいね」


 やつれた顔でなんとか笑顔を作る佐々木さん。痛々しいななんか。


「それよりも、LROに一体何が起こったのか……分かりますか?」


 その日鞠の質問に、佐々木さん達と同じ部屋に居る数人は顔を見合わせる。そして全員同時に首を振るよ。


「済まない。実はこっちも分からないんだ。突然……そう突然に我々はシステムの管理者権限を外された」
「外された? それってどういう事ですか?」
「わからない。マスター権利者はずっと当夜君だったんだが、彼以外の管理者コードが書き換えられたとでも言うのか……とにかく私達はその権限を失ったんだ」
「じゃあ今のLROは完全に一人歩きしてるってことですか?」


 日鞠の質問に、十分な溜を作って頷く彼等。無駄な演出を……


「一人歩きなら既に結構前から……というか最初期の頃からそうではあったんだけどね。私達に与えられてた権限は低かったからね」


 そう言えばそんな事をこの人達は言ってたな。運営と言ってもそんなに何かをやってるって訳じゃないというか……やれないって感じだったんだよな。重要なイベントも予め仕込んでた物が発動されてたって言ってたし……彼等がやってたのは内部の監視と、小さな単発イベントの企画くらいだったかな。


「でもそれすらも無くなった……原因はいくつか考えられますけど、皆さんはどれだと思ってるんですか?」
「私達は今あんまり頭が回ってなくてね。良かったら君の意見が聞きたいな。もう、色々と考えるのがキツいというかね……」


 お察しはしたいけど、考えてもらわないと困る。この人達が放棄したら、誰が犠牲になった百人以上の責任を取るんだ。スオウか? アイツに今度こそ丸投げするのか? そんなの許さないぞ。


「アンタ達な!」
「秋徒、ちょっと黙ってて」
「え? ……あ、はい」


 折角、折角親友の為の行動だったのに! まるで俺が邪魔者みたいな言い方ってないだろ。日鞠のアホ。拗ねるぞ。


「一つ目の候補はシクラ達とか言うLRO外の存在。彼女達はセツリちゃんの為の世界にしたいが為にプレイヤーを排除した。それと同時に皆さんの権限も奪い取った−−とも考えられる」
「待って、その情報はどこから? プレイヤーの一斉排除は彼女達のせいなのかい?」
「そう言ってましたよ。私達は病院でスオウの視界を僅かながら共有できたので、その時に得た情報です」


 日鞠の奴、それって結構重要な情報の筈なのに、糸目のオッサンを気にせずに話してるな。既に言ってたのか? 本当に包み隠さず喋ったのか? 意外だな。


「なんと……」
「貴方達には対抗手段は無かったのですか? そんなおかしな権限を有してる存在を野放しにしておくなど、愚の骨頂でしょうに」


 糸目のおっさんがさも当たり前の事を、さも当たり前の様に言った。いやいや、彼等だってそんなの分かってただろう。あの存在はさ、どうにも出来なかったんじゃないのか?


「あれには……そこまでの権限はまだ……」


 目を逸らしながらそう紡ぐ佐々木さん。権限ね……でも確かに奴等はそう言ってた。それに出来るとは思えるしな。シクラ達はLROのシステムに縛られてない。だからこそ、規格外のやり方でいろんな物を我が身に取り込んでるんだろう。
 それなら、その懸念はあったよな。少しは何か対策をしてなかったのか? とは正直俺も思う所ではある。


「何もやってなかったんですか? あいつ等の目的は分かってたんですし。セキュリティを強化するとか、色々やれる事はありますよね?」
「そ、それは……」


 あっ、しまった。意図せずに俺も責める様な感じに成ってしまったぞ。更に顔を下に向ける皆さん。そんなつもりじゃなかったんだけどな……


「言っただろう……我々はLROの内部、マザーには干渉出来ない。セキュリティなんてそんな……我々ではどうにも出来ないんだよ。自分達は小さな支店で末端の作業をやっていたに過ぎないんだから、せいぜいセキュリティといっても、支店に鍵をかける位だよ」


 おいおい、まさかそんなちっさい場所だったとは流石に意外だ。だってあんな立派なビルの中にあったじゃん。あれだけドカ〜ンと構えてたのに、やってたのは支店規模の事なのか? 見かけ倒しにも程があるだろ。


「小さいですね。そこには流石に我等も愕然としましたよ。あれだけの規模のゲームを運営してる筈の場所が、実はただの見せかけなんですからね。私よりももっと上や、研究班の方々はとても頭を焼いてるでしょうね」
「それでも……それでもやって来れたんだ」
「やはり桜矢当夜は正真正銘の天才だったと言う事でしょう。惜しい人物でした」


 死んだみたいに言うなよ。まだ生きてるだろ。肉体的には……だけど。実際精神はどうなんだろうか? スオウの奴は何度かあった事あると言ってたけど、それはいつも夢とか、そんな曖昧な部分でだけ……まあLRO自体が曖昧なんだし、問題ない様にも思えるけど、LROのあの世界にいるのか?
 実際俺はマザーが怪しいと思ってるんだけどな。だってLROのシステムの根幹らしいし、そこに彼「桜矢当夜」が陣取っててもおかしく無い。マザー自体が当夜さんとかね。でもそれなら何故に「マザー」なのか? って疑問が残る。
 セツリの兄って所を考えるとマザーじゃなくて「ブラザー」じゃね? ブラザーじゃ威厳とかがないのが問題なのかな? マザーの方がなんだか良くわからなくても、大きな存在って気はするな。それならファザーでも良いけど……母の方が偉大なのかもしれない。彼にとっては。


「あの……少し気になるんですけど、運営の権限が凍結されたのはいつですか?」
「え? ああ、昨日位かな? プレイヤーの一斉排除に対処してたから、正確な時間まではちょっと……もうほんとてんてこ舞いで……いつの間にかこちらの要求は何も通らなくなってたよ」
「そうですか」


 日鞠の奴は何か思案顔。そして更に言葉を紡ぐ。


「二つ目ですけど、もしかしたらみなさんの管理者コードを使用出来なくしたのはシクラ達じゃない可能性があります」
「シクラ達以外で誰がそんな事を出来るんだ? それにメリットとか考えると一択の様な気がするけどな」


 日鞠の言葉に俺はそう返すよ。だってな……他に誰がそんな事をやって喜ぶんだって事になるじじゃないか。得があるからやろうとする事だろ? そしてそれだけの力が必要で技術も必要。それらを一番兼ね備えてるのはシクラ達−−この認識は間違いなんかじゃないだろ。


「確かにシクラ達は第一候補でいいよ。一番可能性は高い。それは間違いないもの。でもあくまでネット上にあるんだから更なる外的要因があったっておかしく無いでしょ?」
「なんだそれ? ハッカー的な攻撃を受けたとかか?」


 いやいや、今更そんなバカなだろ。確かにLROはネットワークを利用した多人数参加型の大規模なネットワークゲームだけど、今までのゲームとは作りが違う。それは日鞠だって分かってる筈だろ。そもそもLROって既存のネットワーク上に本当に存在してるのかも怪しいというか……ローカルとかでは無いんだけど……ネットワークの海の質が違うくね? とかなんとか言われてた様な。
 まあ俺程度の知識じゃそこら辺は理解してないんだけどな。けどだからハッカーとかの攻撃は受けないというか、限りなく受け難い状態の筈だ。それに一番の理由はそこら辺のハッカーが天才が作ったLROに穴をあけれるとも思えない。
 でも末端らしい佐々木さん達の支店位なら攻撃は出来るのかな? 公式サイトは普通のネット上にあるしな。あそこからな攻撃は出来る……か。


「確かにハッキングは出来るだろう。だけど管理者コードを抜かれるなんてあり得ないよ。私達が気付かなくてもマザーは気付く。警告は直ぐに送られる筈だ。だけどそんな前置きは一切なかった」
「だそうだぞ日鞠」
「そう、じゃあ二つ目は無しで良いよ。そもそも外的要因は厳しいものね」


 言い出したのお前だろ。そのお前が厳しい言うなよ。なんの為に言い出したんだよ。


「まあだけど、ここの人達もハッキングとかやってそうよね? 国の援助を貰ってる公的機関が優秀な人材を使って攻撃してるとしたらあるいは……」
「はは、まあやってないとは言えませんけど、ここは黙秘で」


 糸目のオッサン、それはやってますと同じ意味じゃないか? てか確かに外的要因となると、ここも含まれるのか。そうなると、ちょっと心配になるな。これだけの施設まで作ってやってる本気度を見ると、相当に優秀な人材が揃えられてるんじゃないかと思える。そこら辺のハッカーが一人でハッキングするのとは多分違うんだろうって思うしな。
 数が多ければ良いって物でもないんだろうけど……国を味方につけてるって事はだ。多少強引にやっても良いという事ではないだろうか? 一般のハッカーはさとられないってのが大前提でそこにプライドも持ってそうだけど、こう言う所でやってる奴等は違いそうだよな。
 抜ければ良い……どんな手を使ってでも。バレてたって構わない……もみ消せる力がある。質悪過ぎだな。


「でも結局抜けてないらしいから、やっぱりこれは除外ね」


 バッサリだった。居るかどうか分からない優秀な人材君達は簡単に切り捨てられた。でも確かに抜けられてはないんだから気にする必要は無いか。この分だとやっぱり犯人はシクラ達ってことに成りそうだな。
 あいつら管理者コードまでも奪って何を? そう思ってると日鞠が最後の一つの可能性を示す。


「なら三つ目……それはマザー自身の判断って事かな?」
「マザー自身の判断? もうシクラ達で良いんじゃないか? これって考える事に意味あるか? 俺達はスオウを助けるんだろ」


 俺のそんな言葉に、日鞠の奴が眉を吊り上げて迫って来た。


「秋徒は何にも分かってない」
「な……何がだよ?」


 分かってないって、どういう事か説明を求める! 分かり易くな。


「ここはねLROじゃないんだよ」
「そんなの当然だろ」


 何を言ってるんだ今更。だけど日鞠は真剣だ。冗談じゃないみたい。でもそんな分かりきってる事を今更発言されても……その位俺だって分かってるぞ。どれだけバカだと思われてるんだよ。


「当然じゃない。分かってないから言ってるの。ここでは私達には力なんてないの。無力な未成年でただの学生。魔法もスキルもない、強引な事なんか殆ど出来ない。突き抜ける力なんてないの。だから頭を使わなきゃいけない。考えなきゃ行けない。
 突破口はどこにあるか誰も分からない。だから、何も見落とすなんか出来ないの。考える事に無駄なんて無いの。考える事を放棄して飼われる事を選ぶなら、それは家畜の人生と一緒よ」
「そこまで言うか……」


 家畜には成りたく無いな。でも……分かってた筈なんだけどな。日鞠の言った事、頭では分かってたし、痛感だってした筈だ。なのに……まだ甘かったんだろうか? 確かにリアルでの俺達はただの学生。学生でなくても、リアルではモンスターなんてきっと倒せない。軍隊とかに任なきゃいけない世界だ。
 だけど今はその軍隊というか自衛隊を抱えてる国は敵側。明確に敵に成ってるわけでも無いけど、イマイチ信用出来ないからな。だからこそ、リアルでの武器は俺達にはこの自前の頭しかないって訳か。
 この一つの武器で戦わなきゃ行けないんだよな。人生っていう冒険をさ……ホントリアルは無理ゲーだと思う。


「日鞠ちゃん、マザー自身の判断って言うのはどういう事なんだい?」
「それはですね。実を言うと時間が合ってないと思うんです。私達がスオウを通して見て聞いた情報と佐々木さん達の情報を照らし合わせると多分そう成ります。それに実際に少し前までその権限が無かったってのは本当なんだとも思うんです。
 シクラ達はスオウ達の前に現れて必要な物を奪った。それまではきっとそこまでの権限はなかった」
「待てよ日鞠。でもあいつ等自分達がプレイヤーを排除して入って来れない様にしてるって言ってなかったか? それってつまりはそれだけの権限を既に有してたって事だろ?」


 てか、でないとそんな事が出来る訳が無いじゃないか。だけど日鞠の奴は冷静にこう返す。


「プレイヤーを外に出す事は権限なんてなくても出来るわよ。ようはシステムに多大な負荷をかければ良いんだからね。前にもあったでしょ? あれを故意にやればいい。丁度大きなイベントみたいなのやってたんでしょ?」


 イベントか……流石にあれはイベントとは言えないけどな。でも確かあれって幽霊みたいな奴等が大量に成仏したとか……そんなんじゃなかったか? そんな風に言ってただろ。ならシステム的には逆なんじゃ? 前に落ちたのはあの不確かな存在が増えすぎたのが原因だろ?
 それが出て行ったのなら、負荷どころか軽くなるだろ。


「出て行く過程ではそうじゃないでしょう。沢山の残滓を処理しなきゃ行けなくなるんじゃない? それにそれだけ大量の魂が一斉に出て行ったとしたら、どこかに穴が空いてもおかしく無い。奴等ならそれを突く事位出来るでしょ」
「まあ確かに……でも入れないってのはどういう事だ? シクラ達が故意に妨害をしてプレイヤーの侵入を阻害してるんじゃないのか? それにはシステムへの干渉が必要だろ?」


 てか自分達がやってるとか言ってたぞ。嘘なのか? でもそんな嘘をつく理由はなんだ?


「システムの表面には干渉してるんじゃない? 扉を開けたり絞めたりする位は出来るんでしょう。現に前にスオウのスマホに入って来てたらしいし、入り口位はどうにか出来ると見ていいと思う。でもまだきっとマザーへの道はなかった筈。
 そしてマザーの方が権限は強い筈で、やろうと思えば扉を開ける事くらい強制的に出来るのよ。だけどそれをマザーはせずに実際には固く扉は閉ざされてる。それもマザー自身の判断じゃない?」


 最初はシクラの妨害だったけど、それにマザーも乗ってるって事か? なんの為に?


「そんなの簡単よ。マザーはマトモなシステムらしいし、それなら安全が確保出来ない世界には戻せないってことでしょう。今のシクラ達はそれほどの権限を有してる。自身を守る行動をマザーは取り出した……そう感じる」
「自身を守ってる?」
「そう、佐々木さん達の管理者コードが停止させられたのもそれが原因じゃないでしょうか? 佐々木さん達の管理者コードが停止させられたのは、シクラ達が強引にプレイヤーを排除したり、妨害したりしてた時じゃない。その時は対応でてんてこ舞いだったんだから確実です。
 もしもコードを事前に奪ってるのなら、対応に追われる前に気付く筈だし、シクラ達はもっとスマートに事を運ぶ事が出来たでしょう」


 なるほど……確かに言えるかも知れないけど……じゃあいつ? 俺も同じ映像を見てたんだ。同じ場所にたどり着くアイテムは同じだけ揃ってる筈なんだけどな……くっそ、なんだっけ?


「降参、いつなんだ一体?」
「? それは邪神テトラのコードを奪ったその時よ。あれで多分、マザーが危険視する程の存在に彼女達は変わった、だからこそ、外部からの侵入経路を閉じる為に−−」
「私達は排除されたと言う事か……まさかシステムからも見捨てられるとは……情けない」


 床に手をついて俯くその姿は、甲子園で負けた野球部員みたいだ。悲惨だな……悪意じゃなく、善意で切り捨てられるって遣り切れない。しょうがないと思うしか無い所がな……するとその時、パンパンパンと大袈裟な拍手が響く。


「いやはや、素晴らしい。流石ですね。どうですか? このプロジェクトに協力してみては? 推薦しますよ」
「それはお断りした筈です。貴方達は信用出来ない」


 ズッパリと言いきる日鞠。流石ブレない奴だ。普通考えたりする物だと思うけどな。ここに入れば取りあえず、スオウの傍には入れそうだしな。でもそんな所に魂を売ったりはしないか。


「それは残念。ですがもう少しゆっくりして貰いますよ。心変わりするかも知れませんし」


 俺はその言葉に「げっ」と内心思った。だってそれってつまりは何日か監禁するって言ってる様な物じゃないか? そんなの嫌だ。絶対に。どうにかして逃げた方が良い様な気がして来た。だけど出口も分からないし……身を隠す事も出来ない……状況は絶望的だ。
 だけどその時日鞠がクスクス笑う。手で唇を隠して上品に……だけど腹黒さがにじみ出てる様な笑い方。


「すみませんけど、私は今日は帰ります。迎えもきっと来ますんで」
「何を? ここには誰も−−ん?」


 その時バイブが成って電話を取り出す糸目のオッサン。そして通話をし出した瞬間「なんですと!?」と面白い台詞を吐いた。通話を切ると「はっはっは」と笑って日鞠を見てる。


「貴女は本当に侮れない。迎え、確かに来ましたよ。だけど良いのですか? ここには貴女が会いたくてたまらない彼が居ますよ」


 この糸目のオッサン……スオウを人質に使う気か? なんてゲスい真似を。だけど日鞠は動じない。そう必死に見せてこう言うよ。


「スオウは生きてるんでしょ?」
「ええ、勿論。彼はもっとも大切な人材ですから」


 人材……物は言い方だな。ようは材料だろ? 実験材料。すると日鞠は力強い瞳で糸目のオッサンを見据えてハッキリと言った。


「スオウは必ず取り戻してみせる。私が直接この手で! だから貴女達に会わせてもらう必要なんてありません。出口まで案内してください」
「…………そうですか。ではどうぞ」


 日鞠の視線に押されたのか、糸目のオッサンはそれ以降静かだった。佐々木さん達は最後まで申し訳なさそうだったけど、どうする事も出来ない。俺達はエレベーターに乗ってこの施設の出口へ。
 エレベーターが開くとそこには屈強な男達が居た。黒服と黒服が対峙してる……みたいな。なんだこれ? するとその中から可憐な姿が見えた。


「愛?」
「秋君! 日鞠ちゃん!」


 そう言って飛び出して来た彼女が俺に抱きついて来る。一気にあがる体温。迎えって……まさか愛なのか?

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