命改変プログラム

ファーストなサイコロ

敵の内

 宣言されたLROのサービス停止。そして俺と日鞠はどこかに監禁されてる。予想としてはあの植物園の地下の施設……だと思うんだが、確信は持てない。なんてたって眠らされて連れてこられたからな……これから俺達は一体どうなってしまうんだろうか。
 用が済めばちゃんと帰される……それを期待していいんだよな? 流石に数日監禁とかは無いと思いたい。でも帰されるときももしかしたら何かされるかも知れないな。だって、この場所を知られたく無いから、俺達を眠らせたんだろうし、そうなら帰るときだって同じ可能性は高い。
 それかあんな大胆な事をする奴等だ……もっと何か酷い事があってもおかしくは無いかも知れない。それこそ、ここに居た事さえ忘れさせられる……とか。変な薬を飲まされるとかあったらどうしよう……不安が尽きないな。


「--で、なんでお前は二度寝を決め込もうとしてんだよ!」


 俺はベッドに潜り込んでる日鞠の布団を引っ剝がす。どうしてこの状況で二度寝をしようなんて思えるんだよ! 神経図太過ぎだろお前! すると日鞠はもぞもぞと団子の様にくるまったまま、顔を見せない様にしながらこう言って来た。


「バカ秋徒……ぐす」


 うっ……まさか泣いてたのか? ホントスオウの事になると真っ直ぐ過ぎるんだよ。色々と加減って奴を覚えろよ。でもこいつが何もせずに泣き寝入りとはな……ある意味丸くなったとも言えるかも。引っ剝がした布団がなんだか不憫に思えて来たな。しょうがないから俺はよそよそともう一度布団を日鞠に掛け直す。
 するとその時、腕を掴まれて一気に自分も布団の中に引っ張られる。おいおい、何するんだ。これじゃあナニをしてるみたいじゃないか! ふざけるなよ。俺には愛という心に決めた女性が……


「暴れても良いけど、あんまり激し過ぎると高校生っぽくないかもよ」
「なんの話だよ! てか、いきなり何をするんだ? 落ち込んでたんじゃないのか?」


 涙を流してたんじゃないのかよ。俺の心動かされた優しさ返せよ。


「私がそう何度も泣くと思う? 私はね、悲劇のヒロインなんて気取らないの。私は主人公の隣に居れるヒロインに成りたいんだもの」
「あっそ……今でも十分そうだと思うけどな」


 俺がそう言うと、日鞠は少し顔を伏せる。そしてこう言った。


「私なんてまだまだよ。いつだってスオウに追いつこうと必死だもの」
「そうか? 逆に見えるけどな」


 てか、お前等ってお互いそう思ってないか? まあ二人それぞれがお互いを認め合ってるって事なんだろうけど、端からみたら不思議でしょうがない。全てにおいて日鞠はスオウを上回ってるだろ? 勉強だって教養だって、運動--は流石に男女比があるからな。そこら辺は比べても仕方ない部分だが、誰もが俺と同じ意見の筈だ。
 日鞠は料理も出来るし、家事も仕事も完璧だ。完璧超人、それが日鞠だろ。その日鞠があんまり目立たないスオウに追いつきたいって実感わかないぞ。逆なりしっくり来るんだけどな。実際スオウはそのつもりな所もあるみたいだしな。
 あのいけ好かない糸目のオッサンじゃないけど、日鞠は自分の価値を低く見積もり過ぎだとは思う。


「みんな分かってないだけ」
「分かれないと思うけどな……」


 生徒会長で、人気絶大で、その人気は校外まで広がってる人気者と、その人気者のお気に入りって事でやっかまれてる冴えない男……比べようも無いぞ。いや、親友の俺が言うのもなんだけど……実際そうなんだよな。
 言うなれば、親友の俺でさえ、そこには疑問を抱くってことだ。


「でも、LROでのスオウを見て、少し位は分かる様になったんじゃない?」
「……まあ、言われてみれば」


 確かにLROでのあいつは、リアルよりもある意味生き生きしてるかも知れない。案外熱い奴なのはしってたが、あそこまでとは思ってなかったしな。まあ最初はセツリが可愛いからなんだと思ってたが……もうそう言う段階を越えてるだろあれ。
 可愛いは正義だけどさ、可愛いだけで命を賭けれるかって言えば、そうじゃないだろう。アイツはそれでも命をかけて戦ってる。そこは素直に凄いと思えるな。誰にでも出来る事じゃない。


「--って、今はそう言う場合じゃないだろ。俺達ピンチなんだぞ。なんでそんなに余裕なんだよ?」
「別に余裕な訳じゃないわよ。だけど何が出来るのよ? 警備は厳重、しかも相手にはプロだって居るみたいだし、私達が暴れたって直ぐに拘束されるのが落ちよ」
「それは……そうだろうけど……」


 いつもの破天荒な思いつきはどうしたんだ? どんな状況でもチャンスに変えるのがお前だろ。そもそも暴れるってなったら俺がやる事になるんだろうけどさ、絶対に無理なのは鼻から分かりきってる。
 だって、扉の前に居座ってる奴、スーツの癖に筋肉がモリモリしてるのが見えるんだ。絶対にあれ体育会系だろ。学生時代はラグビーやってました--的な体つきだ。慎重はさほど変わらないだろうけど、勝てる気がしない。そしてそんな奴等が後何人も見える。


「だけどこのまま手を拱いてるなんてお前らしくないぞ」
「拱いてる訳じゃないけどね。手は既に打ってるし」
「打ってる? そんなのいつ−−あっ」


 思い出したぞ。そう言えば眠る前に何かしてたな。アレか。


「病院で何をやってたんだ? 意識が無くなる前に何かやってたろ?」
「なんだ見てたの? 体デカい割にさっさと倒れるから、知らないかと思ってた」


 悪かったな体がデカい割にさっさと倒れて! 確かに倒れるのが日鞠よりも早かったってのはなんだか情けない様な気もする……気もするけど、そんなの自分はどうにも出来ないじゃないか。デカいからって毒の回りが遅いって訳でもないだろ。
 いいから何やってたのか教えろよ。


「あれはまあ保険みたいな物かな。多分既に動いてくれてる筈だけど……でも確認のしようがないわね。スマホ取られちゃってる見たいだし」


 そう言って日鞠はポッケをポンポン叩く。無くなってるか……それはまあ当然だよな。だって折角拉致監禁してるのに、外部との連絡手段を持たせてたんじゃ意味が無い。てか、待てよ。


「その無くなってるのって俺のスマホだろ?」
「まあそうだから未練は無いわね。ここのどこかにあれば良いし」
「良い訳あるか! 絶対に取り返す」


 他人の物だからって簡単に諦めて貰っちゃ困るぞ。きっと返して貰える−−とは思うけど……そうだよな? 


「何? エロいのが入ってるの? ほんと秋徒は好きよね。エロいの」
「言っとくけどな、男は全員エロが好きなんだよ。俺だけだと思うなよ。スオウの奴だってエロ好きだから」
「まあ男の子だしね。分かってあげてるよ。けどスオウのパソコンからはそう言うの見た事無いけど」


 それはお前がいつチェックしてるかわかんねーから、こま目に履歴とか消してるんだよ。あいつもそりゃあ大変な思いをしてるんだ。同い年の女子……しかも一番身近な奴に性癖とか諸バレしたら生きて行けないだろ。
 まあアイツ幼なじみ物超大好きだけどな。だからこそ、やっぱり……的な。もう意地張ってないでさっさと結婚すれば良いのに……ってたまに思う。けどまだ十六だし、結婚は無理なんだけど……高三になれば行けるよな。
 でもその頃には俺も結婚出来る年齢に到達する訳で、それはつまり俺も愛と結婚出来る……………


(うへへ……)
「気持ち悪い。人のベッドに潜り込んで何想像してるのよ変態」
「潜り込ませたのお前だろ! それに別にお前を襲うとかこれっぽっちも思わねーから! そんな残念胸を求めなくても、俺にはもっと揉み心地良さそうなボリュームのある胸をいつだって……そういつだって……」
「揉めるわけ?」
「揉めないな」


 愛の体ってもの凄く欲情的で素敵なんだけど……一介の高校生の俺には年上の彼女に襲いかかる事も出来ないんだよ。色々とリードして欲しい所もあるけど、愛ってそんなタイプじゃないしな。お姉さんだから! って張り切ってる部分は色々とあるけどさ、そっち方面では本当に超ウブだし……しかも憧れが強過ぎる所も多々ある様な……そんな愛に「胸を揉ませて欲しい」なんて言えない。嫌われたく無いしな。
 断れない雰囲気を作り出せれば良いんだろうけど……そこには経験不足という弊害が出て来るんだよな。くっそ……マジで揉みたいのに。愛の胸は別にボイーンってデカい訳じゃない。それよか控えめっていうか、寧ろあれは品が良いと俺は思ってる。そこら辺もさすが愛。
 だからこそ……な。そんな品の良い胸を揉む事をやってみたいというか……男ならだれだって思うよ! 俺は変態じゃない。ノーマルだ。


「てか、なあなんの為にこんな事やったんだよ? いつまで同じベッドに潜り込んでれば良いんだよ?」


 言っとくけどな、実は結構ドキドキはしてるからな。日鞠の奴だって一応−−女子だし。規格外が付くから普段はそんなの全然意識しないけど、ベッドの中で二人きり……これで意識するなって方が無理あるよな。
 愛の事が勿論一番だけど……この状況はな……日鞠の魅力はやっぱ脚か。こいつの脚線美は愛にも勝るとも劣らないと思う。スカートからスラッと出てる太ももから続く膝小僧はちょっと赤い。そこから脹ら脛にかけて適度にふっくらとして足首に至るまでにきゅっとしまる。
 胸が残念な分を脚で補ってるよこいつは。そんな生脚が直ぐ傍に……ちょっとは触りたい衝動に駆られるな……やんないけど。そんな事をしたら休み明けの学校できっと変態の汚名が広がる事に成りそうだからな。
 てかこいつ、ホントなんでこんな事を……別にヒソヒソ話しなら、引っ張り込まなくても出来るだろ。このベッド既に日鞠の匂いで満たされててヤバいんだけど……女の子の匂いだ。しかもベッド……ドキドキしない訳ない。


「いつまでって、一体いつまでこうしときたい?」
「なんだそれ?」


 まるで俺がそれを望んでるみたいな言い方だな。質問に質問を返すな。まあいい、ここら辺でハッキリさせといてやろう。


「コホン……意味無いんなら出るからな。出るぞ。ホントに出るから。いや、マジで」
「早く出れば?」
「ああ出ますとも! それじゃあ」


 その瞬間キュっと摘まれる……何故か髪の毛。顔を上げてみると、面白そうな顔した日鞠が居た。


「ほれほれ、大好きな女の子のベッドから出れる物なら出て見なさい」
「……お前には危機感って奴が足りないと思う。お前の担当はスオウだろ。俺をからかうな」


 大量に泣いてた癖に、既に立ち直ってるのか? よくわからんな女って。それとも俺をからかう事で立ち直ったのか。それなら質悪いな。すると何故か撫で撫でし始める日鞠。俺はガキか何かか?
 いつも日鞠の行動は訳が分からんが、これは流石にさっぱりだ。どうした? 振り払った方が良いのか?


「危機感ならあるよ。それに秋徒だからね。秋徒には愛さんが居るからどれだけ近づいても、何もしないでしょ? そういう男じゃない。まあもしも私に一時的に惚れてもそれはそれで仕方ないけどね。私ってほら、可愛いし」
「よう言うなお前」
「だから出て行くの惜しいくせに」


 そこまで間違ってないのが悔しいな。確かに日鞠が不細工なら惜しくは思わなかったかも知れない。まあこいつがこんな風にするのは安心があるからなんだな。でも考えてみるとそれってある意味俺を試してるよな? もしも俺が日鞠に手を出したら、それは愛に伝わるのでは……怖い、女の繫がり怖い。


「そう言う訳でもないけどな。確かにちょっと惜しい所はまああるにはあるけど、心配だからが一番だ。俺はな、お前の事普通じゃないって思ってるけど、スオウの事に関しては恋する普通の乙女だろ」
「……」


 なんかキョトンとしてる日鞠。するといきなり毛を引っ張られた。


「いでで! なにする!?」
「別に……似合わない事を言うからよ。恋する乙女って……その図体で何言ってるのよ」


 うっ……その時見せた日鞠のカラッとした笑顔は可愛いと素直に思ってしまった。何故か嬉しそうな笑顔だったな。


「じゃあ知ってるでしょ? 恋する乙女は強いのよ。私はこれ以上泣かないわ。必ずスオウはこの手に取り戻す」
「それでこそお前だな」


 日鞠らしい。どんな相手にだって向かってく。諦めない。それが日鞠。無茶は既にこいつのアイデンティティみたいな物だ。そして何故か勝利する。それが日鞠が日鞠であって、日鞠という存在だからこそ出来るというか起きる−−もう現象みたいな物だろう。
 良くわかんないけど、立ち直ったのなら良かった。自分がこれと言って何をしたかは分からんけど……まっ、普通の俺には良くわからんままでも別に良い。こいつがいつも通りに戻ったって事が大事。
 実際、大泣きされた時、どうしたら良いのか分からなかったからな。だって日鞠があんな落ち込む所なんか見た事なかったし、今のこのちょっといたずらっぽい笑みを浮かべてるのがらしい。そう思ってると、外側からこんな声が。


「全く、最近の高校生は性にどん欲なんですね。まあ人口が減り続けてる我が国にとってはいいことなのでしょうけど、少しは時と場所を考えて欲しいですね」


 嫌な奴が来た。声とその言葉遣いで察する事が出来る。間違いなくこれはあの細目のオッサンだろ。てか、変な勘違いするなよな。何をやってると思ってるんだ。すると日鞠の奴がニヤッと嫌な笑いをして顔を先に出した。


「固い事を言わないでよ。男女を分けずに居れる方が悪いと思うな。それとも後で相手してあげよっか。おじさんお世辞にもモテそうに見えないし」


 何言ってるんだお前!? そんなビッチじゃねーだろ。スオウ以外に迫ってる所なんか見た事ねーぞ。まあからかってるんだろうけどな。いつもの日鞠のやり方だ。自分のペースにもって行こうとしてる。


「ふふ、女子高生ですか。しかも特別な。自分の遺伝子が残せるのなら、喜んで抱きたいですが、私にはその資格はありませんよ。私には貴女の様な人を背負う覚悟は無い」
「どういう事?」


 なんだ? 確かに「どういう事?」だ。何を言いたいあの糸目。するとアイツは簡単に事務的にだけど嫌みたっぷりに言いやがった。


「貴女みたいな化け物、傍になんか居て欲しくないって事ですよ。だってこちらが惨めになるでしょう。私なら背負いきれずに潰されます。それが分かる。いいえ、貴女みたいな世界から愛された様な人、人の器では一体誰が、背負おうなどとするでしょうか?」
「やめてよ……」
「日鞠?」


 なんだ? 様子がおかしいぞ。こいつらしく無い。


「一応スオウ君を調べる過程で貴女の事も調べましたが、ホント驚異的なスペックですよ。ご人気もある様で。ですが貴女、それは見上げられてると言う事ですよね? 小・中・高と生徒会長で伝説も色々と残してるようですが、出て来るのは見上げた意見ばかりですよ。
 貴女に友達と呼べる人など一人も居ない。何故か分かってるでしょう。貴女はとても賢いのだから。頼りにはされます。誰からも。だけど貴女は圧倒的過ぎるから、羨望にしか成らない。憧れは壁を作る物です。一線を引く……踏み込めないその場所に貴女は存在してる様な物です。
 私達人間を見下ろす場所に居る貴女は、我々とは違うと誰もから思われてるんですよ」
「止めて!! 私は……普通だもん。皆と同じ女の子。何も変わらない」
「構造上でしょう? ですが貴女はナニかなんですよ。よしてください、私達と同じだなんて。そんなの迷惑じゃないですか。私達普通の人間は小さなプライドを必死に必死に守ってるんです。貴女みたいな人が同じだなんてそんな……絶対に嫌です」


 その瞬間耳を抑えてキツく目を閉じる動作をする日鞠。いたたまれない。てか、あの糸目、流石に言い過ぎだろ!! 俺は被ってた布団を退けやって言ってやる。


「ふざけるな! 何好き勝手な事言ってるんだ! アンタの言った事は誰かから聞いての印象でしか無いじゃないか! そんなんでこいつの何が分かる!? 知った風な口をきいてんじゃねーよ!」
「秋徒……」


 弱々しい声が後ろから聞こえた。そしてキュッと今度は本当にからかいじゃなく縋る様に俺の服を摘む日鞠。俺には彼女が居るけどさ、こんな怯えた女の子を守らない男は居ないだろ! でも俺の言葉も糸目の野郎は容易に受け止めて言って来る。


「確かに私は彼女の事を直接は知りません。想像で物を言いすぎましたね。反省しましょう。けどでは君はどうなのかな? 君は恐ろしく無いのかいその子が」


 恐ろしい? ハッキリ言ったら、そりゃあ知らないときの噂程度なら恐ろしかったぞ。そんな人間いるのかって思ったし、出会ってからも確かにそりゃあまあ、色々と、本当にこいつとスオウに出会って色々あった。
 だから恐ろしいは……正直おもったさ。でも……それでも同じ様な部分の方がずっとおおい。俺は日鞠の腕を掴みつつ、目の前の糸目に向かって言ってやる。


「俺は、こいつの友達だ。恐ろしい訳ない。それに周りに居る奴等だって、同じだ。日鞠の事を凄いと思う奴はいても、怖いなんて誰も思わねーよ。日鞠の事を誰もが見上げてるってアンタは言ったよな?
 それは実際間違っては無いだろう。でもそれで遠巻きにしてる訳じゃない。誰もが触れたくも無い奴じゃない。みんな誰もがこいつに惹かれてるから、見上げるんだ。それはこいつの魅力だろ。恥じる事なんか一つもない……寧ろ恥じるべきはそんなすげー奴を遠巻きにしか出来ない奴等。アンタは日鞠に嫉妬してるんじゃないのか?」
「ふふ、嫉妬ですか。それは勿論してますよ。神様の不公平を呪わずには居られない人達など幾らでもいますからね。君はどうやら良い子の様だ。友達思いの良い男だよ。素晴らしい」


 そう言ってパチパチと乾いた拍手を起こす細目。なんだか褒められてる気が全然しないな。寧ろ苛つく。なんなんだこいつ? そう思ってると、奴は自身の腕時計に目を落としてこう言った。


「おやおや、もうこんな時間ですね。そうそう貴女達に色々と事情を聞きたくて来たのですよ。それなのについ、別の話題が花開いてしまいましたね」


 花……開いてたか? そこに疑問が残る。すると後ろからゾロゾロと屈強な黒服達が……なんだ?


「お話を聞く部屋をご用意してますので、移動してもらって宜しいですか? 勿論今度は別々です。良かったですね」


 ニコッと微笑んだその笑顔−−ぶん殴ってやりたかった。だけどそれは出来ないよな。


「日鞠……」


 大丈夫なのか不安だ。さっきの反応とか異常だったし……俺は後ろの日鞠に目を向ける。


「大丈夫。秋徒、下手に隠さなくて良いから。質問には成るべく答えてやって」
「それは助かりますね」


 糸目の声に反応してキッと睨む日鞠。でも良いのかそれ?


「良いから。あんまり酷い事されたく無いし、素直にね」
「お前は大丈夫なのか?」
「私は大丈夫。秋徒が居てくれたから……大丈夫だよ」


 ふんわりと微笑んだ日鞠に胸が高鳴る。ヤバいなこいつ。今のは反則。でも酷い事って……日鞠は先にベッドから下りて黒服達の所へ。俺もそれに従って付いて行く。何が起こるか……どうされるか分からない。だから素直に……なんだよな。
 忘れちゃ行けない。俺達は今。敵の腹の中にいるんだ。

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