命改変プログラム

ファーストなサイコロ

切り貼りの記憶

 開いた障子戸から風が抜ける。目の前のミセス・アンダーソンは本気で今の言葉を紡いだのか?


「どちら様ですか?」


 なんてホントまるで全く僕達を知らないかの様な発言じゃないか。でも受付でもそんな答えは返って来てた……まさか本当に? そう思ってると、クリエの奴が飛び出すよ。


「アンダーソン! 私だよクリエだよ! クリエの事忘れちゃったの?」
「ああ、どうして貴女がここに? ようやく自由になれたからと言って、あんまり変な事をしては行けません。貴女は将来、サン・ジェルクを背負う立場に成るのですからね」


 どうやらクリエの事は覚えてる様だな。でも気になる事があったぞ。


「おい、自由になれたって……それはどういう事なんだ?」


 戦いが終わったから自由になれた--そう言う事なのか? でもそれなら僕達の事だって覚えてる筈だろう。どれだけ都合の良い頭してるんだよって事になる。ミセス・アンダーソンは僕をいぶかしむ様に見るけど、答えてくれるよ。


「何故か癪に触りますね貴方。ですがまあ良いでしょう。この子は最近まで少し不自由な立場だったのですよ。ですが教皇猊下の宣言に寄り、元老院の魔の手から救い出したのです。教皇猊下は頼もしくなられた。
 サン・ジェルクは安泰です」


 どういう事だ? 僕達の存在だけがすっぽりと抜けてでも居るのか? なんだかミセス・アンダーソンの言葉を聞くにそんな感じがする。プレイヤーという存在が消去されて、だけど起こった事は純然とそのままに成ってる? でもそれって無理があるよな? 
 そこを突けばあるいは……


「なあミセス・アンダーソン。教皇様は一人で元老院に立ち向かったのか?」
「それは勿論。あの方は勇敢でそして聡明。このシスカ教の教皇ですよ。一人で何でも出来ます」
「本当に?」
「それは……まあ、少しは私も力を貸しましたが……」
「元老院は裏でシスカ教を支配してた存在で、教皇はその操り人形でしかなかった筈だ。たった二人でそれをひっくり返したのか?」
「たった二人というか、裏はそうかも知れませんが、表ではノエイン様に付く物は沢山居ます」
「本当にそうだろうか?」


 僕の言葉に顔をしかめるミセス・アンダーソン。明らかに不快感を表してるよ。いや、まあ最もだけどな。でもどこかに違和感があるんじゃないのか? 僕はそれを呼び起こしたいんだ。ノエインは確かに立派な奴だと思うよ。
 だけど立派で良い奴だからこそ、いろんな事に縛られて動けなくて、諦めて部分だって一杯あったんだ。それを忘れて、結果だけ残していいのかよ。アイツの苦悩も、お前の苦悩も無かった事にされていいなんて事は無い筈だ。
 進んだ過程は自分の道だ。自分の歴史……それを勝手に歪曲されてるんだ。良い筈ない。思い出せよミセス・アンダーソン。


「貴方さっきから何を? それに失礼でしょう。まずは礼を知りなさい」
「それならお前の方がよっぽどだと思うけどな。一緒に戦った戦友を忘れる事の方が失礼だろ。まあだけど、思い出せないって言うなら名乗ってやるよ。僕はスオウ。お前とは最初ぶつかったりもしたけど、クリエを箱庭から出す時には協力してくれたよな。
 そこで深い眠りに落ちたけど、後にまたリア・レーゼを守る戦いの時に協力してくれた。そこで初めてサン・ジェルクとリア・レーゼは一つに成ったんじゃないか。僕はさ、アンタの事も、ノエインの事も良く知ってるぞ。友人だからな」
「友人……貴方何を言って--うっ! うああああ、頭が……」


 ミセス・アンダーソンが突然頭を抑えて苦しみ出す。クリエが心配気にミセス・アンダーソンに駆け寄る。どうなってるんだオイ? そう思ってると外側から今の悲鳴を聞いたモブリが心配そうに声を出す。


「アンダーソン様? どうなさいました? 今の悲鳴は一体?」


 ヤバいな、この場面を見られて大丈夫なのだろうか? なんかちょっと不味い様な気がする。ミセス・アンダーソンの苦しみ方も尋常じゃないし……くっそ、どうにかしてこの声だけでも止めないといらぬ誤解が……


「アンダーソン様! 開けますよ。一体何が!?」


 入って来た案内のモブリと目が合う。部屋の中の光景に一瞬固まるモブリ。それは無理も無い。だって僕がミセス・アンダーソンを抱えて口を抑えようとしてるんだもん。


「えっと……いや、これは……違う……そう違うんだ!!」


 必死に弁解をしようとする僕。だけどモブリのその人は服の内側から赤塗りのお札を一枚取り出してそれを破った。その瞬間、カンカンカンカンと社中に響き渡るけたたましい音。そして彼女は現れてる球状の魔方陣に向かってこう叫ぶ。


「緊急事態です。ミセス・アンダーソン様が襲われてます。僧兵の方々は至急救援にあっ--」


 不意に途切れるモブリの声。その原因はテトラの奴が一発ぶち込んで彼女を失神させたからだ。


「何やってるんだよお前!」
「いや、余計な事をこいつがしてるから」
「んな事したら誤解が誤解を生むだろうが! ちゃんと説明すれば--」
「もう遅いだろ」


 沢山の足音がこっちに向かって来てるのが聞こえる。途中で途切れたから、更に緊急性をましてるとでも思われたのかもしれないな。最悪だよ! ミセス・アンダーソンはまだ苦しんでて、まともに喋れる状態でもないし……どうすれば。
 するとテトラの奴が腕をポキポキ鳴らしながらこう言う。


「静かにさせてやろうか? 簡単だぞ」


 何やる気だよこいつ。てかやる気満々だな。そんな事をやったら二度とサン・ジェルクに来れなくなるだろ。今頼れる存在は早々いないんだ。大問題なんか起こされてたまるか。まあ既に事態は大きいけど、手を出さなかったら誤解を訴える事は出来るだろう。
 救出に来た僧兵まで楽しげに倒しまくったらもう僕達は完全な敵性勢力と見なされてしまう。それだけはダメだろ。


「やめとけテトラ。どうにかして誤解を解く方が大切だ」
「誤解を解くな? どうやってだ? この状況、言い訳出来る状況ではないぞ」
「うぐ……」


 確かにテトラの言う通りではあるな。この案内モブリに誤解されたのは完全な僕のミスだったけど……一人倒されて、更に一人苦しんでる……この状況は言い訳しても通らなそうだ。だって外から来た僕達はぴんぴんしてるんだからな。
 誰がどう見ても、僕達が何かをした--としか思えない光景だ。


「どうするんだよおい! まだ一人ならよかったけど、お前が手を下したせいで最悪な状況だよ!」
「俺のせいにするな。もとはと言えばお前が浅はかな行動をしたのが行けないんだ」


 くっそ、邪神のくせにマトモな事を……


「うう~うるさいよ~スオウ」
「確かに、カンカンカンカン頭に響く音だなまったく……」
「どうする? 逃げるか? ここなら飛び降りるのもそう難しくは無いぞ」


 確かにリルフィンの言う通り、逃げるならそれしか無いな。でも逃げるって事はやましい事があると思われるよな。でもここに居て捕まっても弁明出来るか謎だな。ミセス・アンダーソンがこの状態だったんだ。つまりはノエインも僕達の事……そしてこれまでの過程に改変が加えられてる可能性は高い。
 そうなると弁解は難しい。不本意だけどしょうがないか……


「逃げよう。捕まる訳にはいかない」
「アンダーソンはどうするの?」
「……連れて行こう。逃げたらどうせ犯罪者。それなら一緒だろ。それにアンダーソンは何か思い出しそうなのかも知れないしな」


 そうなったら味方に成ってくれるかもしれない。その僅かな可能性にかけよう。この苦しみ具合は多分、何かが沸き上がろうとしてるから……そう信じてみたい。


「テトラ、クリエを頼む」
「仕方ないな」


 そう言いつつも優しくクリエを抱きかかえるテトラ。クリエも別に嫌がらないし、案外良好な関係がこの二人は早めに築けるかも知れないな。なんだか惹かれる物でもあるのかも。シスカの事はお母さん呼んでるくらいだし、それで言うならテトラはお父さんの筈だからな。


「おい、急げ。僧兵が雪崩込んで来るぞ!」
「おう!」


 リルフィンのそんな言葉に急かされて、僕はミセス・アンダーソンを抱える。そしてドアの反対側、開け放たれた障子戸の方から僕達は社の外に飛び出すよ。そこまで高く無い。四~五階位の高さだ。LROなら即死には成らないだろう。それにこっちにはスキルがあるしな。
 僕達はそれぞれスキルを駆使して、床に着地して速攻で社を離れる。苦しみ続けてるミセス・アンダーソン……どこかゆっくり出来る所を見つけないとな。




 --てな訳で、僕達はミセス・アンダーソンの自宅に潜り込んだ。灯台下暗しとはこの事だ。前に一度ここには来た事があったからな。丁度良かったんだ。裏も掛けそうだったしな。まさか誘拐犯が人質の家に潜り込むとは思うまい。
 それにミセス・アンダーソンを連れてたおかげでロックも解除出来たしね。


「どうだテトラ? 何か分かるか?」


 ソファに寝かせたミセス・アンダーソンをテトラがその万能の靄で包み込んで何かを探ってる。これで記憶消失の原因でも分かれば良いんだけどな。するとテトラが難しい顔をしてこう言うよ。


「コードが無造作に塗りつぶされてるみたいだな。切り貼りで記憶を上書きされたと言う感じだ。言うなれば応急処置か」
「応急処置ね」


 応急処置はなんだか助ける為にやる事だから、なんだかイメージが違う気がするな。取りあえずの処置ってことなら間違いないんだろうけどさ。これは別にミセス・アンダーソンの為の処置じゃないからな。そこら辺が違和感。
 でもそれなら--


「応急処置なら僕達との記憶も戻る余地はあるってことだよな?」
「まあな。だからこそ苦しんでるんだろう。所詮は切り貼り……完全にコード自体を書き換えられた訳じゃない」
「じゃあじゃあ、その貼付けられたのをテトラが取れば良いんじゃないの? そしたらアンダーソンは楽になるよ」


 確かにな。それが出来れば一番良いんだろうけど……


「それは無理だな。俺でもコードへの干渉は出来ない。干渉が出来るのはそれこそマザーだけ。それかあの外側の姉妹連中だけだろう」
「って事はやっぱりこの記憶の改変はシクラ達の仕業……」


 既にマザーへの干渉を始めてるのか? でもついさっきまで戦闘してたのに速過ぎだろ。アイツこんなに働き者だったか? でも実際問題ミセス・アンダーソンの記憶は改変--いや、まだ完璧には改変はされてないか、言うなれば改竄中って所だ。
 もう少し時間をかければ上から張られた記憶が定着するのかもしれない。そうなったら最悪だな。


「僕達は結局、ミセス・アンダーソンが上書きされた記憶に打ち勝ってくれるのを期待するしか出来ないってことか」
「そう言う事だな。この老人のボケが始まってなければ良いが」
「それは無いだろ。スッゲーピンピンしてたしな」


 それに老人は流石に失礼だろ。まだ老を付けるのは忍びないぞ。まあ言っちゃうと老を付けるかどうか微妙な所なのは確かだけどな。でもこの人のアグレッシブさを見てると老人って気概ではない気もする。
 確かに婆ではあるけど、おばさん程度がまだ妥当だろ。


「クリエにとってはお婆ちゃんってのがしっくり来るけどな。でもそう呼ぶと怒られるんだよね」
「モブリもそこら辺は気にするんだな」


 小さいから遠目ではそこまで老けたって違いは分かんないんだけどな。流石に近づくと皺とか白髪とかは目立つけど……ミセス・アンダーソンもそんな所をちゃんと気にする女性だったとは驚きだ。


「まあクリエから見たらお婆ちゃんで間違いないだろうな。子供にお婆ちゃん呼ばせないとか、案外ちっちゃいなこいつも」


 外見じゃなく中身がね。するとリルフィンの奴が付け足す様にこう言って来る。


「沢山の奴等に尊敬されてたが、そこらのおばさん同様なミーハーな奴だったからな。こいつが台頭出来たのは声の大きさもきっとある」


 ああ、確かにおばちゃんって妙にデカい声で話すよな。笑い声も下品だし……ミセス・アンダーソンのそう言う所はあんまりイメージ無いけど、声がデカいってのは何となく分かるかもしれない。頑固者っぽい所あるよな。
 まあそれが自分を持ってる……自分の中に確固たる信仰があるって事なんだろうけどな。


「クリエねクリエね。知ってるけど、アンダーソンってお料理出来ないんだよ。昔シスターと一緒にアンダーソンの持って来た本で料理しようってことになった時、酷い事に成ったもん。だから結婚? 出来なかったんだって」
「お前も、案外酷い事を言うな……」


 でも考えてみれば結婚してても良い年なのは確かだな。てかクリエと同じかそれ以上の子供がいたって別に普通だ。一応ミセス・アンダーソンもシスターに当たるから? とか思ってたけど、そう言う訳じゃないんだな。
 料理出来ないんだこの人……何だって出来そうに見えたけど……てか、確か前に来た時に豪華な料理があったよな? あれは何? デリバリーか? まあミセス・アンダーソンの場合は使える人材は幾らでも居るんだろう。
 自分は自分の出来る事をやって来た代償なのかもね。この年での独り身って。そう考えると寂しくもある。クリエの事を色々と気にしてたのは、シスカ教の事もあるだろうけど、娘みたいに思ってたのかもな。
 そんな感情も考察しつつ、クリエやリルフィンが文句を色々と吐いて行く。まあクリエには悪意なんてなさそうで、純粋に「こんな事があったよ~」とか「こんな事言ってた~」とかばっかり。でもそう言うちょっとした所で、実は本音が混じってたりする物だ。
 普段から気を張ってる奴なら尚更な。だから結果的にミセス・アンダーソンという奴の人となりが現れて来るというか……そんな話で盛り上がってたら、ソファに寝かせてた筈のミセス・アンダーソンがいきなり叫ぶ。


「それ以上は止めて!! いや、やめろおおおお!!」


 チクチクと耳に入ってたのか、堪忍袋の緒が切れたかの様な声だった。舌まで巻いてドス聞いた声をしてた。基本愛らしいモブリもこんな声を出せるんだって若干引いたよ。クリエなんて目を見開いてブルブル震えてる。


「はぁはぁ……アンタ達ね……本人の前でよくもまあそこまで暴言を吐けた物よ」


 荒い息を繰り返しながらソファの上に立ち上がるミセス・アンダーソン。そしてキッと鋭い眼光を送って指差して来た。


「リルフィン! アンタさっきから散々好き放題言ってくれて……言っとくけどアンタ全ての国の外交筋から変人の目で見られてるからね。何で交渉に来てる側がフードやコートで全身覆って来てるのよ。どこの暗殺者よ。せめて最低限の礼儀位弁えなさい」
「うぐっ……あれは貴様等に配慮してだな……」
「魔法を使う私達が、アンタ程度の存在でたじろぐ訳も無いでしょう。リア・レーゼを大きく見せたいのなら寧ろその存在意義を隠さずに見せつけるべきでしょう」


 なるほど、確かに召還獣というか精霊の存在は大きいもんな。考えてみれば最初あったとき確かにリルフィンは怪しさ満点だった。あれで外交って……考えて見たらおかしいね。


「それとクリエ!」
「はっはい!」


 次に名指しされてピシッと背筋が伸びるクリエ。さっき散々言ってたけど、怖いんだな。


「さっきから私の失敗談ばかり語ってる様だけど、殆どアンタが原因でしょ。私は簡単な料理位出来るわよ! 本の通りの分量を居れなかったり、砂糖と塩を間違えたり、材料をぶちまけたり、クリエの起こす行動はどこぞの小説のオチかなにかなの?
 それともお約束? ワザとやってるの?」
「う~う~」


 クリエは涙目でプルプル頭を横に振ってる。哀れな光景だな。そう思ってると今度は僕にその視線が向けられる。


「へらへらしてるそこのアンタもよ! ちょくちょく挟む言葉に悪意があったわ。てかアンタは止める役目の筈でしょう。クリエの今の保護者はアンタでしょうスオウ!」
「いや、そんな事言われても--って、え?」


 おい、待て。今なんて言った? なんか大切な言葉がポロッと出なかったか?


「おい、今なんて?」
「はあ? 聞いてなかったの? 私のありがたい言葉を? それならもう一度その耳を掃除してからありがたく受け取りなさい。良いスオウ!!」
「「「あっ」」」


 僕とクリエとリルフィンは同時にそう呟いて顔を見合わせた。?を頭に浮かべてるのはミセス・アンダーソンだけだ。


「な……何よ?」


 訝しむミセス・アンダーソンに僕は近づいて聞くよ。


「おい、僕の事が分かるんだよな?」
「何を言って? ボケたの? そんなの当たり前でしょ」
「ふむふむ、じゃあアイツの事どう思う?」
「アイツ?」


 僕はいつの間にか家の中を散策してたテトラを指差す。流石邪神は自由人だな。指差されたテトラの奴は「なんだよ?」ってな感じでこっちを向く。するとソファーに立ってたミセス・アンダーソンがガクガク震え出す。


「なっなっなっなっ--何で邪神が……どういう事よ!? ってちょっと待って……え? あれ? ここどこ? 何がどうなって……」


 ヤバい、記憶が正常になったのは良いけどいろんな矛盾に混濁し出してる。取りあえず落ち着かせないと!


「落ち着け。ここはお前の家だ。それに邪神の事は安心していい。全ては上手く行ったんだ。今あいつは僕達の味方だよ」
「味方? 邪神が? だけどいつの間に私達はサン・ジェルクへ?」
「そこは僕も分からないけど、まずは事実だけを受け止めろ。僕の事、分かるんだよな?」
「スオウでしょ。わかるわ……けど、なんだか記憶が渦巻いてるみたい……」


 怒りのおかげで切り貼られてた記憶が剥がれたのかな? それはラッキーだったけど、突然前後の記憶がおかしくなったせいで、ミセス・アンダーソンは不安定に成ってる。何か落ち着かせる手段は無いか?
 そう思ってると横から暖かい緑茶が入った湯のみが差し出される。


「こう言う時はお茶が一番だろ。まあ俺は紅茶派だが、モブリはこっちが好きだろうからな。勝手に使わせてもらった」
「ナイスだテトラ」


 こいつって案外気が利いてるよな。僕は湯のみを受け取ってそれをミセス・アンダーソンへ渡す。ズズズと音をたてて緑茶を喉に流し込むミセス・アンダーソン。すると少しは落ち着いたのか、激しかった呼吸が静かになってく。


「なんなのこれ……私はどうなってたのか説明なさい」
「まあなんだ……簡単に言うとお前の記憶が書き換えられてたって感じだな」
「っつ……だからこんなに気持ち悪いのね。頭の中をかき回されたみたいだわ」


 そう言いつつ、ミセス・アンダーソンは冷静さを取り戻してく。僕達は一つ一つ記憶を並べる手伝いをしてやったよ。ぐちゃぐちゃになってる様だから整理しないとな。数杯目のお茶が無くなる頃にはミセス・アンダーソンは大分記憶を取り戻してくれたよ。


「状況は分かったわ……外側の存在が動き出した。そいつらが世界中の人達の記憶の改竄を行ってると……」
「多分だけどな」


 確証はない。けどそれしか考えられない。


「それならノエイン様もその影響を受けてると見た方が良いでしょうね」
「だろうな」


 きっとNPCで例外なのは僕とともに居るこの三人だけだろう。他の召還獣はもしかしたら大丈夫かも知れないけど、あいつ等って基本自分の巣からでれないっぽいし意味ないよな。だからこそ、ローレという主を伝って、その姿を巣の外側に具象化してるみたいな感じだよな。


「教皇も救いたいのなら早くした方がいい。切り貼られた記憶が定着すれば元の記憶は戻らないぞ」


 まるで自分の家の様にくつろぐテトラの言葉で、僕達はそれぞれ顔を見合わせる。


「このまま世界を言いように蹂躙されるなど許される事ではありません。ノエイン様を救いましょう」


 ミセス・アンダーソンの言葉に僕達は同意する。異論なんてある訳が無い。するとその時、この家のドアが激しく叩かれる。

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