命改変プログラム

ファーストなサイコロ

射程圏内の世界

 一体何が起きた? 全てが上手く行った筈で、その余韻がこれから待ってる筈だった。空に昇る光が消えれば、僕達は互いを見つめてハイタッチ位決めてた筈だ。だけど……………………世界は突如闇に染まった。
 しかも自然な闇とか、夜とかそう言う物じゃない。もっと純然たる闇だ。まるで自分達がさっきまで居た場所、居た世界がすっぽり消え去ったかの様な……そんな闇。本当に何も理解する事が出来ない。


「セラ? シルクちゃん! 五右衛門さん! ノウイに鍛冶屋にリルフィン!! 皆どこだ!?」


 見えない……というか、まるで映る物が一つもない様な。どうなってしまったんだ一体? 


「スオウ……」


 キュッと手を握りしめる感覚。意識すると同時に闇にその姿が浮かぶのはクリエだ。


「クリエ……お前はちゃんと居てくれるんだな」


 なんだかホッとするよ。すると更に別の声が闇の中から聞こえて来る。


「俺も居るぞスオウ。セラ達は気配も匂いも感じないがな。それどころか、主の存在まで失念してる」
「リルフィンか……」


 居るんならさっき呼んだ時に返事しろよ! 不安になっちゃうだろうが。でもこいつの鼻でも感知できないって事は、やっぱりこの場所にはもうセラ達は居ないってことか? すると更にもう一つの姿が浮かび上がって来る。


「この場所だけじゃないな。この世界その物からプレイヤーと呼べる存在が消えている」
「テトラ! お前もかよ……てかプレイヤーが消えてるってどういう事だ?」
「前にも同じような事が無かったか?」


 そう言われてみれば有った様な気がしなくも無い……というか有ったな。でもその原因は今しがた無くなった筈だろ。前にLRO全体が落ちたのは沢山の彷徨える魂が流れて来てたからだろ。公式にはそんな発表なかったけどさ、僕達にはその確信がある。
 そしてその彷徨える魂達は道しるべを見つけてあの世へと逝った。LROは大量の過負荷から解放された筈だ。それでなんで前と同じ状況に陥る? おかしいだろ。いや、状況は同じでも原因は違うって事はあり得るか。
 けどそれなら……他に何が……どんな事があればLROがこう成るんだ? 実際彷徨える魂の過負荷なんて想像の範囲外も良い所だからな。ようはそんな想像の範囲外の力がまた働いて……


「うん……待てよ?」


 想像も及ばない力を有する……か。なんだかそんな奴等に心当たりがある気がしないか? まさにチートを体現した様な集団……というか姉妹がこの世界には居る。嫌な予感……それが僅かだけど顔を出してきてる気がする。


「どうしたの?」
「いや、こんな事を起こせる奴等が居るんじゃないかって思って……しかもそいつ等の目的はLROをたった一人の夢の世界にする事だ。プレイヤーなんて、必要ない」


 考え得る事が出来るよな。シクラ達にとってはプレイヤーは邪魔でしかない。それにあいつ等のチート能力なら……こんなアホな事だってもしかしたら--とマジで思える。すると僕の言葉にリルフィンの奴が同意して来る。


「それはあの外側の奴等の事だろう。確かに奴等ならあるいは……その力の片鱗は見たからな。納得はできる。奴等が遂に動き出したって事か」
「ああ、そうかも知れない。遂に理想郷って奴を作る為にこの世界を掌握しに掛かって来たのかもな」


 本当の世界征服……いやこの場合は世界の改変とでも言った方が正しいのか? まあどちらにしても本当なら笑い話の筈だけど……シクラ達だとそうは成らないよな。だけど気がかりが一つあるな……それは--


「ねえスオウ。でも誰も居ないよ。本当にその人達の仕業かな?」
「確かにそれはあるけど……」


 気がかりはそこだよな。この闇のどこにもシクラ達の姿は見えない。まあ世界規模で起こってる事なら、自分達のアジトでやってるって可能性の方が高いけど……今の段階じゃ奴等の仕業とは確定は出来ないよな。


「だけどそれじゃあ他にこんな仕業出来る奴がいるかって事になる。システムへの過負荷が無くなってるんだから、自然発生した前回とは違うと考えた方が良いだろ。それならどこかの誰かが人工的にやってるとしか思えない」
「う~んクリエは『しすてむ』とかよくわかんないけど、問題はシルクお姉ちゃん達だけじゃなく、他のいっぱいの人もこの世界から消えちゃったって事なんだよね? クリエにはそんな事が誰かに出来るなんて思えないよ。そこのテトラならまだしも」
「ん?」


 クリエに指差されたテトラは反応に困ってる。まあ確かに、第二候補と言ったらこいつになるわな。だって神だし、そう言う事も出来なくもなさそうなデタラメな力を振り分けられてるだろ。


「実はお前の仕業--って訳じゃないよな?」
「貴様……本気で思ってない事を言うな」


 テトラの奴は自分にはそんな事が出来る訳ないと分かってる。そして僕もこいつが言った様にさすがにそれは無いかなって思ってる。だってテトラは神だけど……それはLROの設定上の神なんだ。
 言うなればシステムに縛られた側。神とは言ってもそれじゃあシステムの上で踊らされてるだけ。まあ自由に動いたりはLROでは出来るけど、流石にこの世界自体の内側に強制干渉出来る……とかじゃないもんな。


「なんでなんで? だってテトラは神様だよ。神様は何だって出来るんでしょ? まあ邪神だからちょっとショボいけど」
「ショボいだと糞ガキ。もう一度消してやろうか? 誰のおかげでもう一度ここに存在してられるか分かってるのか?」
「スオウのおかげだよね。クリエ分かってるよ!」


 テトラはばっちりクリエに嫌われてるみたいだ。一応と言うかお前の体を構成してる半分の力はテトラの物なんだけどな。まあでも流石に一度はめちゃくちゃにやられた訳で、クリエがなかなか受け入れら無いのは正直仕方ないよな。
 助けてくれたって言っても、その時の事をクリエが知ってる訳じゃない。だけど死ぬまでの恐怖はちゃんと体感してる訳で……どう考えても死ぬまでの恐怖の方が鮮明だよな。テトラってホントとことん報われないよな。
 力だけならホント最強の筈なのに、それでも幸せではいられないって何かを皮肉ってるのか? そう言う存在として作られてるとか。


「あのなクリエ。実は--」
「ふん、ガキになんと思われたって別にいいさ。それにな糞ガキ、俺はショボくは無いが万能じゃないんだよ。そう思ってろ」
「それをショボいって言うんじゃ……あぐぐ」
「それ以上は止めとけ」


 僕はクリエの口を塞いだ。流石にちょっとテトラが可哀想だからな。だけどテトラはやっぱり不遇な身を甘んじて受けてる気配もあるよね。まあ慣れてるだけかも知れないけどさ。でもその慣れを今も続けさせたのは僕達なんだよ。
 テトラが願いを叶えていれば、今頃はシスカにきっと甘えてたり出来たんだろう。そしたらこんな不遇な人生ともおさらばだったかも知れない。でもテトラは譲ってくれたんだ、僕達のクリエの願いにさ……金魂水を。
 だからこれ以上僕達がテトラを虐めるのは良く無いと思うんだ。クリエの願いが叶ったのも、そしてサナの願いが叶ったのも、それはテトラのおかげでもあるんだよ。だから僕達はせめてこの世界での数少ない理解者であらないとだろ。
 まあテトラがどんな関係を求めてるのかは知らないけど、こいつの望みだって叶えるって僕は言ってるからな。仲間みたいな物には成るだろきっと。いや……まだ分かんないけど、成れればいいなって思う。
 だからあんまりクリエには毛嫌いして欲しく無い訳だけど……テトラが現状を甘んじて受け入れるのなら、僕が余計な事を言うのもなんだし、でもそしたらクリエは結局邪神ってイメージをテトラから払拭する事は出来なくて……なんだか双方にとって良い事無くね?
 まあこの二人が歩み寄るには時間がかかるのは当然か……本当は父親と娘みたいな物の筈だけど……クリエにはちょっと速い反抗期が来てる感じで、テトラは娘にどう接したらいいか分からない父親みたいだよ。この二人の関係はもうちょっと様子見するとして……問題は現状なんだよな。


「でもでも、神様にも出来ない事を他の人に出来るの? それこそ無理っぽいけどな~。世界には一杯なぞがあるから、これもその一つだと思うな。集団神頼みだよ!」
「それを言うなら神隠しだろ」


 集団神頼みってなんだよ。ミサとかお祭りとかか? まあお祭りは何か違うけど……でもクリエの意識にはこのLROが絶対の世界って事になってるから、作られた世界--とは思わないんだよな。まあそれは他のNPCもそうなんだけど。テトラの奴は神っていう設定上か、この世界が作られた世界である事も自分達の存在もどんな物か知ってるけど、それは異例中の異例なんだよな。
 そしてそこで気になるもう一つの存在。僕は静かになってるそいつを見つめるよ。


「リルフィンはどう思う? 実際シクラ達の仕業と思うか? それとももっと別の何か。世界の異常現象とかと思うか?」


 リルフィンの奴は結構テトラに近い存在の筈だよな。召還獣は召還士と契約するまでは精霊とかって感じで呼ばれる存在だろ? それに世界を支える柱とも呼ばれてる位なんだから、テトラと同じでこの世界が作られた物と知っててもおかしく無いかも知れない。どうなんだそこら辺?


「そうだな……あの最後の光景を見てて思ったが、結構な大事だったろあれ? 反動で世界に何かが起こっても逆におかしく無いとも思える。お前は不透明な存在が消えたからそれは無いって考えなんだろうが、その存在が担ってた何かだって世界には有ったかもしれない」
「じゃあお前も世界の不思議が発生した派か?」
「いや、そうでもない。あの姉妹の恐ろしさは俺も良く知ってるからな。実際どっちが原因でもおかしくは無い。よって結論はだせんな。俺は両方だ。どっちの可能性もある」


 まっ、確かに一番無難な答えだな。いや、答えではないか、結局の所それは推察でしかない。そもそも僕達には明確な答えを知る術が無いからな。でもいつまでもこんな闇に閉じ込められてる訳にも行かないぞ。みんなが無事かどうかとか一応確認したいしな。
 多分はじき出されただけだとはおもうけど。僕がそうじゃないのは落ち切ってるから……だと思いたい。でもそう言えば皆には隠してたからな……流石にこれはバレるかな? バレるよな。憂鬱だ。だって今の問題も片付いたし、やっとで打ち明ける事が出来る--って心で思えてた矢先だからな。
 皆には心配かける事に成るだろうな。


「なあテトラ、ここから出る方法とか無いのか?」
「出るって言ってもな。ここはまだ俺達が居るべき世界だろ。ただ闇に覆われてるだけでな」


 確かに言われてみればそうだけど……いつに成ったら復旧するんだよこれ。こんな何も見えない、何もない場所にずっとなんか居れないぞ。それにこの面子だしな……なんか微妙じゃないか。そう長く場が持つと思えない。


「そうだ!」
「どうしたのスオウ?」


 僕の突然の閃きに皆が注目してる。まあまだ何も言ってないけど。でもこれは大発見だと思うんだ。


「なあクリエ、お前って確か世界がの声が聞けただろ。それならシステムの声を聞け。この世界の根幹の声だ」
「こんかん? よくわかんないよ。そもそもここ何もないし」


 クリエにはちょっと難しい言葉だったか。だけどそこら辺はどうでも良いんだ。言葉なんてニュアンスが伝われば文は伝わるだろ。重要なのはお前の能力だ。


「別に本当に何もない訳じゃない。こう考えろクリエ。ここだって世界の一部。そして何もないからこそ、一つ一つの声じゃなく、世界という一個の声が聞こえる--ってな」
「う~ん、じゃあまずはどうすれば良いの?」
「え?」


 どうすればいい? そう来たか。それは考えてなかったな。クリエの力ならシステム自体と対話出来たりするのかな~ってちょっと期待しただけだし。そしてそのシステムの根幹ってのはきっと時々名前が出て来てる『マザー』とかなんじゃないかって思ってるんだ。
 それがこの世界を統括してる存在ってのはシクラの言動から察せれる。だからそれとアクセス出来れば色々と得難い物が得れそうじゃ無いかなって……とにかくなんでも今は試すしかない。僕がクリエに出来るアドバイスは何が有るだろうか。
 取りあえず最初にやる事だよな……この真っ暗な世界で何をやるべきか。こっちが歩み寄るんだからな……そうだなまずは……


「え~と、やっぱり話をしたいなって伝える事が重要じゃないだろうか?」
「なんだそれ?」


 うるさいそこ。テトラもリルフィンも呆れてるけど、クリエだけはワクワクしながら僕の言葉を待っててくれてるんだぞ。余計な横やりいれるなよな。実際重要な事やろうとしてるんだから。クリエは「それってどうやるの?」って言って頭を傾けてる。
 うんうん、純粋って素晴らしい。


「そうだな。やっぱりそれは分かり易く話しかけるのが良いと思うんだ」
「うんうん」
「でもいきなりじゃどこに向けて喋っていいか、クリエだって分かんないよな」
「そうだね、システムさんはどこに居るの?」


 システムさんがどこに居るかは僕も知りたいな。でも右も左も下も上もただ真っ暗な場所だからな。ここは確実に感じ取れてる場所を使った方が良いよな。左右も横も限りは分からない。でも足下だけは、立ってる--と言う感覚がある。つまりそこは地面だろ。それが構成されてるってことではなかろうか。


「システムさんがどこに居るかは僕にも分からない。だけどこの世界の物を通じてなら、それはシステムに通じるって事じゃないか? ようは、今僕達とこのシステムを確実に繋げてるのは、立ってられるこの地面……」


 僕は膝を折って地面に手を付き感触を確かめる。別にザラザラしてる訳でもなく、ヌメヌメしてる訳でもなく、けどだからってスベスベしてる訳でもない。寧ろ抵抗は有るけど、何もない……そんな感じだ。
 けど僕達はここに立ってる……いや立たされてる訳だから、システムが干渉してるって事だろう。それならさ--僕はコンコンと床を叩いてみるよ。そしてクリエを見る。


「こうやってシステムに知らせて言葉を発せれば聞こえるんじゃ無いか? ノックは大事だろ。ノックは」
「心のドアをノックするんだね! やってみる!」


 システムに心があるかは知らんけど、クリエはノリノリで地面をコンコンしだした。まあこれで本当にシステム側が反応してくれたらラッキーだな。確率は低いだろうけど、クリエの力ならもしかするかも知れない。
 実際世界と対話出来るって貴重な力だと思うんだよな。ローレの奴も星の声が聞こえるとかだったけど条件付きで柔軟性に欠点が有るみたいだし、それに比べたらクリエの力は結構凄い。誰とでもなんとでも話せるんだからな。


「お~いシステムさ~ん、聞こえてる~~~? クリエ達はね~世界を元に戻して欲しいの~」
「マザーがそんな声に反応するとは思えんな」


 テトラの奴がため息付きながらそう言いやがる。確かに反応しないかもしれないけど、絶対にしないとは限らないだろ。てかそういうのならお前が元に戻せよって--クリエじゃないけど、この世界を作った(とされてる設定)の神だろ。


「てか、神設定のお前ならそのマザーとかと交信出来たりしないのかよ?」
「無理だな。俺達は結局人形だ。自由に動けては居るが、マザーから一度命令を受ければ拒否する事は出来ない。そしてそれは一方通行だ。向こうから伝えられる事はあっても、こっちが要求する事など出来ないんだよ。
 そして俺は結局そんな神だって事だ。一人じゃな。せめてシスカが居ればこう成った世界に光位は灯せたかもな」


 テトラ達NPCは結局、命令を受けるまでは自立行動可能な一個の端末に過ぎないってことか。分かってたけど、それは結構悲しいよな。まあNPCなんてそんな存在だけど……寧ろLROの場合は異常な程にNPCは自由な位だよな。
 最近は意思まで持ち始めてるし……って待てよ。そう言えば不明瞭な存在の他にもシステムを圧迫してた問題が有ったじゃないか! 


「そうだよ……NPCだよ。お前達の意思の発現がシステムに過負荷を与えてた筈だ。原因はそっちなのかも知れない」
「待てよスオウ。意思の発現って、俺達は最初から意思を持ってたぞ」
「……」


 どうやらリルフィンもここがゲームって認識は無いらしい。やっぱり特別なのはテトラだけか。でもリルフィンは精霊であり召還獣だからな。実際最初から意思は有ったのかもしれない。世界的に上位の存在や、クエストやミッションに関係深く関わるキャラには最初から意思があったしな。
 でもリルフィンは「俺達」っていってるしな。その俺達が周りを全部含めた俺達なのか、それとも召還獣内の俺達なのか……でもこの場合は前者だよな。そう思う。


「まあそれでも良いけど、もっとそれが顕著化してきたって事だよ。そしてその容量が世界のキャパを越えようとしてるんだ。だからこんな事になった……そうも考えられるって事だよ」


 でもそれってつまりはやはりシクラ達の仕業って事になるな。意思を解き放ってるのはあいつ等なんだからな。どうやってLROのシステムを落としたのか……その方法はこれなのかも知れない。もしかしたらもう殆どのNPCに意思が発現してるのかも。そう言えばここ最近出会ったNPCには何も違和感を感じなかったな。
 誰も彼もが自然と……当たり前に世界に生きてるようだった。まあLROの場合は一定の行動と言葉を確実に繰り返すのなんて、精々店先の店員位なんだけどね。あれはきっと効率を重視して、余計な物を省いてるんだと思う。
 それ以外は基本違和感なんてなく、NPCもプレイヤーもほぼ区別なんか付かなかった。まあそれでも少し喋ればボロが出るってことは有った筈だけど……考えて見ればここ最近はそんな事も皆無だったんだ。
 だってどう考えてもモブの僧兵達一人一人にも特徴があったもんな……ようはそれだけ水面下でシクラ達の行動は侵攻してたって事だ。


「お~い、システムさ~ん! クリエの声聞こえてる~?」


 僕達が色々と推察してる中、クリエは何度もそんな声を出してた。コンコンと床を叩いては返事を待ってる。やっぱりクリエでもシステムと直接会話なんてな……流石に無理が有ったか。--と思ってると聞こえて来るこんな声。


【聞こえてますよ。大丈夫、世界は直ぐに元に戻ります】
「ホント?」
【ええ、本当ですよ】
「だってスオウ!」


 嬉しそうな声と満面の笑みだけどちょっとまて……なんでその声が僕達にも聞こえてるんだ? なんかおかしく無いか?


「おいクリエ、それって本当にシステムか?」


 するとそんな僕の声も聞こえてるのか【ふふ……】っと怪しげな笑いの後に、その声はこう続ける。


【疑うなんて酷いですよスオウ。世界はちゃんと元に戻ります。そう……今までよりももっとずっと綺麗な世界にね☆】


 声から煌めく星が見えた……気がした。でもそれで十分だ。見えた気がしただけだけど、何故かそれで確信出来る。この声の主--それは……


「お前シクラか!」
【ピンポンピンポン! 流石スオウ。声だけで私って分かるなんて、強い絆がある証だね☆】
「ふざけてるなよ。どういう事だよこれ?」
【どういう事って分かるでしょ? 準備はもう少しで整うから、最終調整に入ったって感じかな☆ まずはせっちゃんの世界になるここから不要な物を追い出したの】


 それがプレイヤーか。人と関わりたく無いセツリにとってはプレイヤーなんて不必要だからな。


「僕が排出されてないのは、落ち切ってるからか?」
【うん、その通り☆ せっちゃんと同じ状況ね。世界が暗くなってるのはエコみたいな物よ。言った通り直ぐに元に戻るでしょう。でもプレイヤーが戻って来る事は出来ないけどね。さてここで提案です】
「なんだよ?」
【スオウもこっち側に来ない? 仲間も居ないし既に落ち切ってるんだよ? この状況で私達に挑んでどうするの? ハッキリ言って勝てる見込みは〇パーセント。それを断言出来ちゃうな☆】


 楽しそうな声で残酷な事をぬけぬけという奴だな。でもまあ、断言されても確かに仕方ない気はする。仲間は追い出された。そして向こうはチート集団。システムに影響されない力を使う奴等だ。僕が勝てるかも……そしてこのテトラが勝てるかも怪しいかも知れないな。けど……


「それでもお前達側に付く気なんか僕には無い。僕はちゃんと生きたいんだ。そしてセツリの事も、ちゃんと生かしてやりたい。だから僕は絶対にお前達の元にはいかない」
【そっか……まあ分かってた事だけどね。それじゃあこっちはマイペースに最後の重要なコードを回収しようかな☆】
「重要なコード?」


 その言葉の瞬間、何かがズダダダと迫って来る様な音が聞こえ出す。なんだ? 一体何が? 僕はクリエを抱えて片手をセラ・シルフィングに向ける。だけどそのとき、闇に浮かぶ赤い瞳が見えた。そしてその赤い瞳の先には黒光りする大きな鎌……振り下ろされたそれは僕じゃない--クリエを狙ってる?


「させるか!」


 そんな声と共に、テトラの奴が腕を出してその攻撃を防ぐ。まさかこいつが庇ってくれるとはな……そう思ってると、防いだ筈のテトラの服に切り傷が刻まれる。


「っつ!?」
「この攻撃……まさかあいつ!」


 思い当たる節がある攻撃に、装備が鎌。そして闇にとけ込む様な姿。きっと間違いない。こいつはアルテミナスの混乱と共に生み出された異形の存在。そいつは続けざまに鎌を振り回して暴れまくってきやがる。セラ・シルフィングでガードするけど、全く別の場所から再び刻まれる傷。これは相変わらず厄介だ。


「ガードするな。アイツの武器は全く別の場所を切り刻む!」
「そうは言うが、こいつ……変則的な動きをしまくるぞ!」


 確かにな。リルフィンの言う通り、まさに野生の獣を越えた動きをしてきやがる。しかもスピードもパワーも前よりも上がってる気がする。


「貴様等は引いてろ」
「テトラ」


 前に出て来るテトラ。どういうつもりだよ? 


「ふん、邪を従えるのは邪神のつとめだろ。邪のくせに俺に牙を剥けた罪を分からせてやる」


 なるほどそう言う事か。邪には邪をって事ね、確かに適任かも。


「でもお前、力消耗してるだろ? しかもスキルとかどうなんだ? 使えるのか?」
「心配するな。今この場所はあの場所じゃない。制限は解除されてる。一人で余裕だな」


 それなら……まあ良いんだけど。こいつの強さはよくわかってるし、負けるとは思わない。でも……なんだか嫌な予感がするんだよな。


「よこせ……よこせ……お前のコードを……寄越せえええええええええ!!」


 黒い存在の奴がそう叫ぶと、僕達の傷がうずき出す。そして傷から青い光の帯みたいな物が奴に向かって伸びて行こうとしやがる。これはコードか? なんだかこのまま伸ばしたらヤバいと感じる。僕はそれを必死に巻き取ろうとするよ。
 でもどうやらそれは出来ないらしい。するとテトラがコードの進行を阻んでくれる。


「躾が成ってない犬だな。貴様に与える餌などない。どうしてもというのなら……倒してみろよ」
「うおおおおおがああああああああああああ!!」


 テトラの挑発で奴はテトラだけを狙う様に動き出す。引き受けてくれてるのか。正直助かる。それに見てる分にはやっぱりテトラが優勢だ。


「これなら……」
【安心するには早いよスオウ。私達は一年前より、一月前より、一週間前より、もっと言うと一時間、ううん一分前よりも強くなれる。甘く見てると足下すくわれるぞ☆ ほらほら言ってる側から世界が色を取り戻して来てる】


 シクラの奴のそんな言葉通りに、世界は徐々に元の姿に戻り始めてた。見えて来る赤い鳥居の数々に星の輝き……でも待てよ……世界が元通りに成るってことはこの場所での制約も復活するって事なんじゃ?


「テトラ!!」


 リルフィンの声に僕がハッとして視線を向けると、そこには鎌に見事に切られたテトラの姿が見えた。再び力が制約されたのを奴は見逃さなかったって事か。横に振らりと倒れ込むテトラ。僕はクリエを地面において走り出す。この場所では幾らテトラでも一人じゃ奴の相手は厳しい。そう判断したんだ。
 するとそのとき、テトラから溢れ出す大量のコード。大きな傷が開いたせいで、出易くなったって事か? そしてそのコードは黒い奴の方じゃない所へ流れてく。


「神のコード、確かに受け取ったわ☆ これで必要な物は全てそろったわ。消えてくれればもっと簡単だったんだけど、残っちゃったら直接とるしか無いよね。ふふ、これでマザーへの道が開ける。せっちゃんの理想の世界に書き換えれる。
 今更仲間にしてって言っても遅いからねスオウ」
「シクラ……」


 コードをその手に集めて愉悦に浸ってるシクラ。相変わらず、こっちにとって最悪のタイミングで姿を現す奴だ。そして全てをかっさらう。地球を背に、奴の月光色の髪が輝いてた。

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