命改変プログラム

ファーストなサイコロ

こっちとあっち

 刺さる様な日差しに照らされる真っ白なベッド。そこで静かに寝息を立ててるのはスオウだ。間違いない……というか間違いようが無い光景だ。これで一緒に日鞠もベッドに入ってる--とかだと衝撃だったんだけど、流石のこいつもそこまで非常識では無かった様だ。
 まあだけど……これはこれで衝撃映像なんだよな。俺に取っては。日鞠は理解してない様だけど……これは異常事態だろう。


「おい、本当にスオウは目を覚ましてないのか?」
「見て分かるでしょう。一体何言って--まさか!」


 日鞠は何かを悟ったのか、俺の胸ぐらを掴んで強引に引き寄せて来る。なんて女だ! いや、女かこいつ!? 俺、百八十はあるんですけど?


「ちょっと、ちゃんと説明しなさい。アンタが戻ってここに居るのに、スオウが戻ってない。それをアンタはおかしいと感じてるのなら……まさかスオウは向こうでやられた……とかなの?」


 最後の方の言葉を紡ぐ時は顔を伏せて僅かに声が震えてた。そう言う思いやりを少しは俺に向けてくれれば、求めてる説明を出来るんだけど……


「お、落ち着け日鞠。やられては無い……筈だ」
「そうなの? 本当に?」


 何故にドスを利かせた声で囁く。末恐ろしいわこいつ。俺は必死に頭を縦に振りまくる。


「じゃあどういう事なのか--って、ん?」


 振動を感じ取った日鞠は携帯を取りだす。そして表示された名前を見て、俺を離して出口の方へ向かう。


「スオウに変な事したら許さないから!」


 そんなアホらしい捨て台詞だけ残して廊下へと消えて行った日鞠。変な事って、アイツは俺がスオウに何すると思ってるんだ。まあでも静かになって良かった。ほんとスオウの事に成ると沸点が低いんだからな日鞠の奴は。でもそれはスオウの奴も大体同じだけどな。


「さて……おい、スオウ。お前本当は目覚めてるんじゃないのか?」


 俺はスオウに近づきながらそう言うよ。実は日鞠の奴がうざったいから寝たふりをしてる……と思ったんだけど、反応がない。俺の事もうざったいと思ってるという事か! この野郎。俺は取りあえずほっぺたを抓ったりして反応を確かめてみる。


「お~い、痛いか? 痛いのなら今直ぐ起きろ」


 だけどやっぱり反応がない。まさか本当に戻って来てないのか? いやいや、そんな馬鹿な事が有るわけないだろ。プレイヤーは全員強制排出されてる筈だろ。一人だけ例外なんてそんな……いや、こいつの場合はあり得るか。


「おい、起きろスオウ!」


 俺は取りあえず出来る事を全部試す事にするよ。さっきまでは片方しか抓ってなかったから、今度は両方を抓ってみる。だけどやっぱり反応がないから、今度は平手打ちで小気味良くリズミカルに叩いてみる。


「どうだ! おら! どうだ! この野郎!」


 結構叩いて手がひりひりするけど、スオウに反応はない。ヤバいな……これはヤバいかも知れない。嫌な汗が、俺の額から頬に流れ落ちる。冷房の効いた部屋だってのに、妙に暑く感じるぜ。いや、ほんとこれは不味いだろ………


「頬が腫れ上がってしまった。日鞠にバレたら殺されるかもしれない」


 どうしよう。頭を抱えるレベルの問題だろこれ。土下座の練習でもしてた方が良いかも知れないぞ。そう思ってると、ガサッと白いビニール袋から青いパッケージと共にガキ大将みたいなイガグリ頭のヤンチャ小僧が顔を出した。
 そしてそいつは俺に向かってこう言ってる(ような気がした)。


『俺が居るだろ(キラーン)』
「ガリガリ君!」


 なるほど、言いたい事は伝わったぜ。ようはこうするんだな! 俺はビニール袋に手を伸ばし、ガリガリ君を装備する。そしてそのパッケージのガリガリ君とウインクをかわして、勢い良く--だけど最後にはそっとそのままスオウの頬に乗せてあげた。自分の分も買ってたから両方に置いて、これで万事解決だな。
 流石ガリガリ君、心の友だ。これでしばらくすればガリガリ君の冷却効果で張りも引くだろう。


「ふう、これでバレないな」


 --ガラララ。


「秋徒、さっきの言葉信じてあげる。確かにスオウはやれてないっぽいわね。綾乃さん達からお礼の電話来たから、全ては上手く行ったって事でしょう--ってアンタは何やってるのよ?」
「え~と……これはだな……」


 まさかこんなに早く戻って来るとは! 一体なんと言えば良いんだ? 俺はスオウに視線を戻す。


(ダメだ!! 両頬にガリガリ君を乗っけた奴の言い訳なんて難易度が高過ぎて何も思い浮かばない。誰だこんな意味不明な事した奴!! いや俺だけど!)
「秋徒……」


 ヤバい背中にゾクリとした寒気が! 不味いぞ、下手な事を言ったら殺される。なんとかこの場を切り抜ける起死回生の言い訳を…………うおおおおおおおおおおおおお振り絞れええええええええ俺の十六年間の人生に賭けて!!
 俺は手を突き出して日鞠を制止する。


「落ちつけ日鞠! これはアレ……そうアレなんだよ。ガリガリ君と宇宙の電波で繋がって……そしたらこの儀式を行う事で……エレクトロニクスパワーが生じてスオウを眠りから覚ませるとかこいつが言いやがってよ~。はっは、やっぱガリガリ君はヤンチャだよな。
 俺達には思いもつかない事を意図も容易くやってのける。そこに痺れる--」
「--憧れるか!!」


 一瞬にして俺の視界は奪われた。両目に走る激痛……俺はきっと鉄拳制裁という名の目潰しを喰らったんだなって、涙ながらに理解した。




 失明の恐怖からどうにか脱却した頃合いで日鞠の奴がこう言って来る。


「全く、だから変な事はするなって言ってたでしょ? 何よこれ? どういう思考回路してたらこんな事をやろうなんて思い浮かぶのよ?」


 くっ……普段こっちが全力でお前に思ってる事を逆に問われてしまった。なんか悔しい。でもここで素直に--スオウに平手打ちをしてたら頬が腫れ上がったから、それを引かせる為にガリガリ君を利用した--って言ったら、また目潰しが決まる可能性があるよな。
 やれやれどうした物か。取りあえず文句でも言っておくか。


「確かに変な事はしたけどな。だからって目潰しはやり過ぎだろ! 失明したら責任とれるのかお前?」
「責任? ああ~はいはい、せめて課題はやって上げるわよ」
「ちいせえよ!! なんで失明って言う人生に関わる大問題の責任がこの休みだけの消化課題なんだよ! 俺の人生はそんな程度か!!」
「そんな程度でしょ?」


 あっさりと言いやがったこの女。人の人生をそんな程度って言い切りやがったよ。こいつと俺って本当に友達だったっけ? 疑わしくなる。いや、主従関係なら正しいのか? そう言えば俺と日鞠の関係は主従関係の方が近かったかも知れない。
 でもだからってその程度の人生って思われるのも嫌だ。


「んな訳あるか。俺にだって輝かしい未来があるんだよ。それをその程度なんて言わせねーぞ」
「ええ~でも責任って言っても、私の事は諦めて貰うしか無いって言うか。先約はスオウがしてるもん。だから私を伴侶にするのは諦めて……ね」
(いらねーよ!!)


 心の中で全力で叫んでやったぜ。マジでどういう思考回路でそんな想像出来るんだ? 誰がいつ、お前を嫁にしたいとか言ったよ。責任って一生世話しろみたいなら、精々メイド止まりだっての。それなら考えてやらん事もないな。
 あの日鞠をメイドにして一生こき使えるとか想像すると案外楽しいかもしれん。


「お前を嫁には要らんけど、メイドとしてこき使えるのなら考える」
「うわ~秋徒ってやっぱり変態だね。同級生の女の子に向かって自分のメイドになれって……普通言えないよ。ほんと軽蔑します」


 あれ~何故かいつの間にか俺が悪者に成ってないか? もう嫌だ。こいつと揉めるといつだってこっちが不利になってくんだ。こいつマジで恐ろしい。こうやって学校の反対勢力をねじ伏せて今や、あの学校はこいつの物だよ。
 先生方でさえ、日鞠の顔色を伺ってるからな。そう言うのは見てる分には楽しいけど、こっちに矛先が向くと途端に笑えなくなる。


「やっぱり秋徒なんかには愛お姉様はもったいよね。苦言を呈さなきゃいけないかも」
「おい、止めろよなそう言う事!」


 マジでそれだけは勘弁だろ。俺、愛に捨てられたら生きる希望を失うぞ。


「まあ冗談だけど。どうせ愛さんは私の忠告なんか聞かないだろうし。どこが良いんだろ?」


 そう言ってジッと見つめて来る日鞠。「秋徒の一体どこが?」とか真剣な眼差しで見つめられる程に俺は心がすり減ってくよ! 新手の苛めかそれ。


「そもそもそれならお前がスオウにゾッコンなのも周りからしたら謎だろ!」
「そうかな? みんなが裏でスオウの事をやっかむのは別に私のせいじゃないって思ってるけどな。みんなスオウに嫉妬してるんだよ」


 ああ、お前がスオウスオウ言ってるから、皆がスオウに嫉妬してるよ。アイツはだから全校生徒からちょっと距離を置かれてるんだ。まさにその通り。


「違うって。私が言ってる嫉妬は、私関連への嫉妬じゃないの。純粋にみんなスオウが羨ましいんだよ」
「ああ、それもそうだな」


 みんなお前がスオウスオウ言ってるからほんとうらやましがられてるよ。ほんと悲惨な位な!  全て当てはまっとるわ。


「だ~か~ら~私関連じゃないって言ってるでしょうが!」


 その瞬間ズブッと目からあり得ない音が脳内に響いた。確かに俺はその音を聞いた。そして断末魔の叫びがこの病棟に響き渡った。


 あまりの悲鳴に飛んで来た複数人の看護師さん達に俺達はみっちりと叱られた。まあついでに目薬貰えたから良かったんだけど……二度も目潰しとかあり得ない。本当に失明したらどうするんだ。ギャグでした--じゃ通じないぞ。今まで全て欲しい物を手に入れて来た日鞠には分からないだろうけど、世の中には取り返しがつかない事ってのがだな……


「うるさい、黙れバカ」


 なんでこいつは人の心に、そんな的確に言葉を返せるんだ? 聞こえてるのか? と言いたい。恐ろしいわホント。


「なんだいきなり不機嫌になって? こっちがバカ言いたいっての」
「ふん、別に不機嫌になんてなって成ってないわよ。私はただ、スオウを心配してるだけ。アンタのアホな行動のせいで回り道しちゃったじゃない。いいからどういう事なのか教えなさいよ」


 アホな行動……否定出来ないけど、ここまでそれを長引かせたのはお前だから。スルーしてくれれば良かったのに、無駄に引っ張ったじゃないか。まあ蒸し返すのも嫌だし、もう良いけどな。


「だから、どういう事も何も、俺達にだって詳細は分かってないんだよ。でもセラもそしてさっきの電話でも上手く行ったって事なんだろ? それならスオウ達が原因って訳でもないかもな。今はLROは停止してる状態らしいんだよ。プレイヤーは強制排出されてる」
「それでなんでスオウだけ出てないのよ?」
「だからそれはわかんねーよ」


 そもそもここに来るまで、普通に出てると思ってたからな。俺達は考える。すると日鞠はスオウのベッドに腰掛けて頬に手を添える。その視線はとても優しく見える。こいつ……ほんと時々ドキッとする様な顔をする。
 スオウ絡み限定だけど……すると何かに辿り着いたのかスオウを見つめたまま日鞠は紡ぐ。


「ねえ……まさかスオウはもう、戻って来れない所まで落ちてたんじゃないの?」
「は? それってつまりどういう事だ?」
「だからつまり……スオウはセツリと同じ状態に成ってるんじゃないのかってことよ」
「まさか……そんな……」


 にわかには信じれない、いや、信じたく無い事だ。でも……確かにそれしか考えられないのかも。だって誰しもがシステムに強制排出されてるんだ。それが適応されないって事は……スオウもつまりは、引っ張り上げられない所まで落ちてしまってるってこと。


「だけど……そんないつ?」
「少なくともここに運ばれて、そしてもう一度LROに戻った後……決着がつくまでの間にスオウは戻れなくなってたって事よ」


 確かに最後にリアルに戻ったのは、ここに運ばれた時だったから--え? ポタポタとそのスカートに出来る染み。日鞠の奴……泣いて……


「おい……」
「何でも無い。まだ泣くのは早いわよね。私達が出来る事は……きっとまだある」


 日鞠が下を向くなんて珍しい。てか、初めて見たかも。こいつはいつだって太陽みたいな奴だから……他人を照らす程に眩しい奴。それが日鞠。


「取り合えず佐々木さん達に連絡してみる」
「そうだな。それが良い」


 開発陣なら今の状況を俺達よりも詳しく知ってる筈だ。実際俺達がスオウが戻って来れない理由を推察しても、それは結局憶測だからな。だけど開発側ならこっちが手に入れられない情報がある筈。具体的にはLROへの浸透率とか。
 確かそれが三百? 三百五十越えで戻って来れなくなるって話しだったよな。その数字が具体的に向こうでは分かるんじゃないだろうか? それが分かれば、そう言う事なんだって確信が持てる。まあでも、こんな事に成ってる理由までは分からないけど……それでも運営側なら、きっと何か……そんな願いがある。


 プルル--プルルそんな音が漏れ聞こえて来る。だけどそれがいつまでも続くんだ。不安--そんな思いがわいて来る。そしてそれは日鞠もそうで、何回か鳴り響くけど遂には通話を切る。


「ダメね。出る気配がない」


 気配が分かるのかお前? でも確かに何となく出そうにはなかった--そんな気がした。


「やっぱり問題が起こってるから大変なのかな?」
「そうだろうな。今は注目もされてるし、ドタバタしてるだろう」
「何か他に出来る事は無いの? リーフィアを外から操作するとか」
「そんな事が出来るなら、セツリとか既に戻って来れてるんじゃないか?」
「それは……そうだけど……」


 日鞠の奴が俺にもわかる事をわざわざ言うとは珍しい。やっぱり相当切羽詰まってるな。でも俺も日鞠も、いつかはこんな日が来るかも知れない……それはお互い覚悟してた筈だ。でも実際……こう成るとな。
 覚悟は頭でする物じゃないってのがよくわかる。腹でしなきゃ、頭が上手く付いて行かない。日鞠の奴も相当混乱してるようだしな。どんだけベタベタスオウをなで回してるんだよ。確かめてるんだろうけど……そこにあるのは今はもう容れ物同然の肉体だ。
 魂や精神と言った内側は、きっとまだLROに……


「ちょっと退いてくれ日鞠」


 そう言って俺はLROの耳の部分に当たる部分をカチカチと操作する。一応物理キーもあるんだ。そしてその部分がパカッと開くよ。すると接続端子類が顔を出す。LRO同士を繋げる事も出来るし、別の機器を繋げる事も出来た筈。
 確か外部モニターに見てる映像を映す事も……でもそれには本人側の設定も必要だった筈かも。だって寝てる時に勝手に映像を見れるのなら、それはある意味盗撮というか……盗み見みたいな物だからな。運営側は勝手に見れたりもしてそうだけど、こっちはそうは行かないからな。
 だけどそういう要求がある--とスオウには通知されるかも知れない。それにアイツが応えてくれたら、こいつの現状が分かる。けど残念な事にここにはそれを表示出来るディスプレイがない。
 取りあえずスマホに繋いでみるよ。


「うっ、当然だよな……」


 そこで要求されるのはパスコードだ。スマホの画面にはリーフィアからパスコードが要求されてる。まあ当然だよな。誰もが直接操作出来る訳が無い。頭を覆う機械で、意識を別の世界にやってるんだ。無防備な状態に成ってる時に変な操作されたら、どんな後遺症が残るか分かった物じゃないもんな。


「日鞠、分かるか?」
「簡単ね。日鞠LOVEに間違いないわ」
「……」


 あり得ないと思うけど一応入力してみた。まあ当然弾かれたけどな。


「何で!?」


 何でって逆に今ので抜けれたらスオウを見る目が変わるわ。口では否定してるけど、結局そう言うことなのかよ--とな。いや、まあそう言う事なのは見てれば大体分かるんだけど、こう言う誰にも見せない所でデレデレしてんのなって事。


「生年月日……はどうだ?」
「私の?」
「いや、スオウのだよ」


 どこまで自分を押して来るんだよ。だけど生年月日とかは分かり易いからな……流石にスオウでも自分の生年月日は使わないかも知れないな。それなら逆に日鞠のを--ってのはある意味考えれるかも。取りあえずスオウのをやって弾かれたから日鞠のも入れてみる。


「……ダメか」
「ちょっと、後一回しかチャンス無いわよ」


 日鞠の言う通り、画面には警告の文字が出て来てる。リーフィアが稼働してて本人が被ってるのに、外部からの操作要求を何度も失敗してるからな。リーフィア自身が警戒してるんだろう。


「おい、何か無いのかよ? スオウの奴がパスワードにしそうな言葉とかなんとか」
「そんな事言ったって……最近は私がプライバシーを侵しまくるからスオウも関連性の無い物を使ってるのよね」
「お前な……」


 スオウも苦労してるな。鍵と付くものは取りあえず日鞠が開けるから、スオウの奴も意地でも破られないパスコードとかを工夫してそうだ。だけどそれがここに来て障害になるとは……スオウに取っては狙い通りなんだろうけど、俺達は困るんだよ。
 あれ? こういう奴等を防ぐ為にパスワードってやるもんだな……本末転倒というか、パスワードは当たり前にブロックしてるだけ。その機能が多いに役立ってるのは良いんだけど、俺達は別に悪意有って抜こうとしてる訳じゃない。だからそこをリーフィアが感じ取ってくれたり……する訳ないよな。
 基本内側に機能が収束してるだろうしな。外側はマジで頭を守るヘルメット的な役割なのかも。


「こうなったらリーフィアをハッキングしてパスコードを抜き取る?」


 なんて物騒な事を平然という奴だ。目の前の鍵は取りあえず開けてしまえってこいつ思ってるだろ。将来ハッカーになってもおかしく無いな。でもリーフィアを甘く見るのはダメだ。


「止めとけ。そのスマホだけでどうするんだよ。幾らお前が規格外の奴でも、これを作った奴も規格外の天才なんだぞ。リーフィアの構成は誰もハッキング出来てない。既存の言語プロトコルじゃ突破出来ないと噂される代物だ。
 ましてやスマホ一台分の処理能力じゃ、及びもしねーよ。ハッキング仕掛けようとした瞬間、装着者保護の為のプロテクトが掛かったらどうするんだ。そうなったら外部からじゃ本当に何も出来なくなるぞ」
「あ……秋徒の癖にまともな事を言ってる……」


 どういう意味だそれ。俺は基本マトモな学生だっての。お前やスオウがマトモから逸脱してるんだよ。


「まあ確かに……これだけじゃ流石に厳しいわよね。一様開発コードは手に入れてるけど、良く分からないし」
「開発コード?」


 どうして日鞠がそんなの持ってるんだ? 盗んだのか?


「人聞きの悪い事言わないでよ。ちゃんと受け取ったの。だって私だけ蚊帳の外って癪だし……でも今からじゃ向こうではスオウの役には立てないでしょ。だから外から出来る事を探したのよ」
「だからってそんな物手に入れて何が出来るんだ?」


 作り替える……とか不可能だろ。そんな物手に入れて出来る事ってなんだ?


「別に大層な事は考えてないわよ。だけどLROって開発者以外まともに中の事が分かってないでしょ? 佐々木さん達も内側には干渉出来ないって言ってたし。だからそこを解明するのよ。LROの謎が分かれば、それはスオウの力になるでしょ」
「そんな事出来るのか?」


 プロの人達が出来ない事をお前が……


「やってみなきゃ分かんないじゃない。私はね秋徒。スオウの為ならなんだって出来るわ。やってみせる」
「お前……なんでそこまで?」


 実際日鞠とスオウの関係って良く知らないんだよな。俺がスオウと知り合ったのは中学でだし、それ以前はハッキリ言って謎だ。出会った当初から、スオウと日鞠は今の関係だったけどな。すると日鞠は俺の言葉を受けて、確信めいた声でこう紡ぐ。


「何で? そんなの簡単よ。私達は互いに欠かせない存在だから。私達にはお互いが絶対に必要なの」


 ほんと、何でそう思えるのか俺には分からない。いや、今ならまだ理解が出来るかも知れないな。今の俺には愛が必要だ。愛にもきっと俺が必要だよなって思う。そう言う事だろ? でも実際、俺は今の関係がいつかは壊れるんじゃないかとどこかで恐れてる所がある。
 けど日鞠やスオウにはそれが見えない。こいつらは不思議な何かで本当に繋がってたりするのかも知れない。そう思ってると「あっ」と日鞠の奴が何か思い出した様に聞いて来た。


「ねえ、リーフィアをスオウが手に入れたのって具体的に何日?」
「えっと……夏休み入って、八月前くらいだったから、七月三十一日? その日に給料貰ってそのまま買いに行ったからな」
「そっかなるほどね。じゃあきっとこれかな?」


 日鞠は頷きながら俺のスマホをかっさらい何かを打ち込む。そして返して来た時にはパスコード画面を抜けてた。


「結局なんだったんだ?」
「忘れられない思い出……かな? ううん、忘れたいけど……忘れられない思い出。だから見落としてたわ」


 なんだそれ? だけどこれでスオウの現状を知る事が出来るかも知れない。スマホの画面に表示されてるのは体の状態とか通信状況とかだ。個人情報に触れる物は一切ない。中に入っても内部データをここからいじれる……とかは無い様だ。


「ねえこれって浸透率じゃないの? 四百三十パーセントって成ってるけど……」
「おいおい、マジかよ……」


 普通のプレイヤーは確か八十程度だった筈だ。体へダメージが還元される程になると百二十以上だったよな。スオウ調べで。セツリはどの位だっけ? まあでもきっと同じ位……なんだろうな。


「ねえ、この目のアイコンが視覚共有の奴じゃないの?」
「ああ、押してみよう」


 すると今度はログインIDとパスワードを要求された。あれか、このリクエストを誰が送ってるのかを知らせる為か。後はやっぱりセキュリティ。俺は自分のIDとパスを入れて送信する。すると数秒の後に画面が真っ黒になった。そして次第に浮かび上がる視界には沢山の鳥居に囲まれた場所が写し出される。
 だけどそんな背景は直ぐにぼかされた。多分スオウの意識が別の一点に集中してるから……スマホに映るその一点には、見覚えのある後ろ姿が映ってる。長い黒髪に白い服と金装飾が邪神っぽくない服。そう……あれはテトラ……だけどその姿が力なく揺れて横に倒れてく。そしてテトラが横にズレた事で前方に居る奴が見えた。それは--


「こいつ!!」


 俺は思わずスマホを握りしめる。だってアイツはガイエンを犠牲に作られた異形の存在。なんで? 一体どうなってるんだ? 訳が分からない。だけど向こうの世界はこっちみたいにお気楽じゃないのはよくわかる。視界が揺らぐ--それは風の様な速さ……スオウがきっと動き出したんだ。

「命改変プログラム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く