命改変プログラム

ファーストなサイコロ

明日の為にさようなら

 振り返ったサナの腕に抱えられたクリエは……まるで死んでるようだった。呼吸をしてる様にも見えないし、その体も腕も足も力なくダランと垂れてる。生きてる様には……感じない。僕は心の中で慟哭の叫びを上げて、だけど実際には拳を握って、血が出るまで歯を噛み合わせる事しか出来なかった。


「クリエはね、少し前に落ちて来たの。だからダメだったのかな? って思った。だけどそしたら、今度はお兄ちゃんも……どういう事なの? 頑張ってくれてた筈って私信じてるよ。信じてるけど、教えて欲しいよ」


 そっか、サナはここで全てを見てた訳じゃないんだな。クリエがここに落とされて、僕達が願いを叶える事に失敗したと……そう思った訳か。だけどそれは仕方ない。確かにクリエがこんな所に落とされて、しかもあんな状態じゃ、失敗したと思うのは当然か。てかそれ以外に思えないよな。
 責めるってのはそう言う事だよな。そして僕はそれを甘んじて受けるよ。言い訳して逃げる様な事はしない。確かに僕達はあの後になんとか願いをその手に掴んだ。だけどさ、クリエを失ったのは事実なんだ。
 責められるのは仕方ない。だってサナの願いはクリエの幸せだったしな。


「サナ……実は……」
「そいつを使い殺したのは俺だ。だがスオウ達は貴様の願いを勝ち取った。この俺からな。責められるいわれなど無いだろ」
「えっ? あっ!? 邪神!!」


 僕がちゃんと説明しようと思ってた事を投げやりに言いやがったテトラ。しかもそれまで気付いてなかったのか、サナはその姿にビックリしてる。いや、まあ確かにビックリだよね。だって敵だったし、自分が使い殺したとか言っちゃったし……まあ潔い良い奴だけど、サナだってまだ子供なんだからな。
 そこら辺はもっと考えて欲しい。ちょっとはオブラートに包めよ。


「アンタがクリエちゃんを……何で……どうしてお兄ちゃんと一緒に居るの? てか、絶対に許さないんだからね!!」
「ほお、許さないか。それでどうするんだ? 口で言うだけなら誰にでも出来るぞ」


 おいおい、テトラの奴なんでサナを煽ってるんだよ。サナは体は震えてるけど、必死にテトラを睨みつけて、その拳を開く。


「おい、テトラ。そこら辺に……」
「あ、アンタなんか怖くなんかないんだからあああああああああ!!」


 目を瞑って振りかぶられたサナの手のひら。するとパチンと、そんな軽い音がこの空間に響く。テトラの奴はわざわざその手に当たりに行った? 


「はう……」


 まさか当たるとは思ってなかったんだろう。サナの奴は、大変な事をしてしまったみたいに、ガクガク震えてる。まあテトラは世間一般では泣く子も黙る邪神だからな。サナみたいな子供ならこうなってもおかしく無い。
 どこまでLROの事を知ってるのか僕は分からないけど、サナはクリエと交流してたんだろうし、いろんな事を知っててもおかしくは無い。実態がないんだから、いろんな所に制限無く行けるんだろうしな。いや、今は行けた……が正しいのか?


「貴様……」
「ふぎっ!」


 テトラの出した声に思わず変な声を出して後ずさるサナ。僕はテトラが子供に暴力を振るう前に止めようとするよ。こいつなら普通に殴る位しそうだからな。だけど僕の伸ばした手がテトラの奴の肩に触れる前にテトラは俯かせてた顔を上げてこう言った。


「良い攻撃だ。クリティカルヒットしたぞ」
「………?」


 テトラの笑顔を理解出来ないでいる涙目のサナ。いや、それは僕にも分かるぞ。おい、お前そんなキャラじゃないだろ。だけどその言葉を喉から発する事が出来ない。僕もなんかあんぐり状態だからかも。
 てかちょっと気持ち悪いな。そう思ってるとテトラは体を起こしてサナに背中を向ける。そしてポツリとこう言った。


「すまないな。そいつを殺してしまって」
「う……ううううう……謝ったってクリエは戻ってなこないよ!!」


 正論だな。サナは背中を向けたテトラに向かってそう叫んだ。テトラの奴はそんな言葉を受けて「全くだ」とか言ってたよ。死人は戻ってこない……それは絶対的な法則。だけどサナは子供だからか、こう言った。


「ねえ、神様なんでしょ? ならクリエを助けてあげてよ!」
「そうは言っても……俺は悪い神様だぞ」
「そんなの関係無いよ! 謝ったんなら悪いって思ってるんでしょ? お母さんが言ってたもん。悪い事をしても悪い事って思えない人が本当の悪人だって。悪い事を悪いって思える人は、心のどこかに良い人が居るんだって、そう言ってた!」
「おめでたいな。邪神である俺に向かってそんな事……」


 テトラの奴はニヒルを気取りたいから、まだ否定的だけど……実際僕はテトラにはサナが言った事が当てはまると思う。こいつなかなか邪神っぽいとこ見せなかったしな。甘い所も多分にあるし、それに過去の行動もシスカの為だろ。ハッキリ言って邪神じゃないだろ。
 確かに昔にこいつが世界を滅ぼしかけたその行動は五種族からみたら邪神その物なんだろうけど、それって被害者から見た観点でしかないよな。真実がそこには含まれてない。テトラの奴は心を鬼にして、大切な人に嫌われるかも知れなくても、調子に乗った五種族を粛正したんだろ。
 確かにやった事はあまりにも残虐非道で、今の世まで遺恨を残し『邪神』と呼ばれる相応しい悪行だったんだろうけど、実際こいつがモンスターという悪の象徴を作らなかったら、まだ五種族は争ったままだったかも知れない。
 それかとっくに滅んでたかも……まあゲームで何言ってるんだ? って感じだろうけどね。もしかしたらなんて実は絶対になかったからな。リアルとは違う。この世界は今の状態に絶対になったんだ。だってそこから作られた訳だからな。
 過去なんて物は、僕達プレイヤーからしたら設定でしかない。でも不思議な事に、こっちに居ると、自然と入り込めるんだよね。頭では分かってても、色々と共感せずにはいられなくなる。まあそれがフルダイブしてる特性……みたいな物なんだろうけど。
 僕達が今、立ってるのはこの世界だから。ゲームの世界に来てるというか、生きるか死ぬかをやってる僕には異世界にでも来てる感覚の方が強いのかも知れない。だからこそ、テトラやこの世界の人達が語る過去に入り込める。本当にあったと……自然と思える。


「邪神だって神様でしょ! 神様なら願いを叶えてよ! こんな小さな子を見捨てないで!!」
「サナ……」
「私みたいに……クリエをしないでよ神様」


 その言葉はズガンと胸の深くに突き刺さる気がした。そして多分それはテトラの奴もそうなのだろう。なんだか悲しげな表情でサナを見つめてる。事情を知らなかったら「何を言ってるんだこの子供は?」位の反応しかきっとテトラはしなかっただろう。
 でも今は違うんだ。その事情をテトラは知ってしまった。事細かく、それこそ感情移入する程に、見た筈だ。皆が見せられたのなら、お前だってそうなんだろう。だからこそ、サナの言葉にこんなに動揺してる。


「私が知ってる事じゃ……クリエは助けられないよ……でも神様は、ここの神様なんでしょ? ならお願い……クリエを助けて。私の願いもクリエに回していいから!」
「それはダメだ!」


 僕は思わず大きな声を出してそう言った。


「あっ……えっと……」
「お兄ちゃん……でも……」


 驚かせてしまったな。だけど……それはダメだろう。それはダメなんだ。だってサナの為を思ってクリエが願った願いなんだぞ。それなのにそれを捨ててまで助けられたって、クリエは納得しないだろ。逆に怒ると思う。
 てか、そもそも願いを変えるなんて出来るかどうかも分からないしな。


「ダメだよそれは。サナがクリエの事を想ってくれてる様にクリエだってサナの事を想ってくれてる。クリエは最後に、自分の願いを僕達に託したんだ。それを投げ捨てるなんて……しちゃダメだ」
「だけど……それならお兄ちゃんはこんなままで良いって言うの? クリエちゃんがこのまま消されていいんだ!?」
「良い分けないだろ! でも……お前にだって最後の望みを叶えて欲しいんだ。もう、全ての舞台は整ってる。後はお前を連れてくだけ。その為に僕達は来たんだよ」
「それなら……お兄ちゃんだけで良いじゃん。なんで何もやってくれない神様まで居るの?」
「それは……」


 資格が有ったから? でもなんの? 確かに実際のところ、迎えに来るのは僕だけで良かった筈だよな。そもそもテトラはサナとそんなに繫がりが有る訳じゃない。


「おい、資格ってなんだったんだ?」 お前がここに居る意味って?」
「確かに俺はその子供には必要ないな。だがその抱えてる奴には必要って事なのかも知れない。資格なんて適当だったんだが……どうやら金魂水はおせっかいなアイテムの様だな。それか、これも願いの為に必要なのか……」


 適当……そう言ったテトラはもう一度サナに近づく。思わず後ろに後ずさりかけるサナだけど、雰囲気の違いでも感じ取ったのか、踏みとどまる。


「賢いな。俺にはお前を救う事は出来ない。悪いがそっちの世界の神じゃないからな。だがそうだな……クリエならどうにか出来るかも知れない。やっても良いか?」


 テトラの奴はなるべく目線を合わせる様に、片膝を付いてそう言った。そんなテトラの姿にサナは、しっかりと抱えてたクリエを差し出す。


「感謝する。上手く行ったら、俺の罪は消えるか?」
「クリエちゃんを生き返らせてくれたら……許して上げてもいいよ」
「なら、善処しよう」


 そう言ってクリエを受け取るテトラ。なんだか思ってたよりも、案外子供慣れしてないか? もっと無愛想に対応するかと思ってたけど、別にそんな事は無かったな。取り立てて愛想が良かった訳じゃ勿論ないけどさ、自分が出来る範囲で気を許してるみたいに見せてたなって思った。


「おい、やるぞ」
「はっ?」


 何をだよ? いや、何は分かるけど、僕にどうしろって言うんだ? 僕は神様じゃないぞ。んな大層な力は持ち合わせちゃいない。


「お前にも神の力は宿ってるだろ?」
「これの事か?」


 僕は右手の中心にある白い模様を見る。あれ? なんか広がってるな。それにテトラの呪いがない?


「呪いは全ての役目を終えただろ。このクリエが消えたその時から、完全にお前の呪いは解けた訳だ」


 なるほど、あそこで契約は終了してた訳だ。なるなる。だからあの後戦闘した筈なのに、天罰が僕には降りなかった訳だ。でもどうして広がってるんだろう? 確かこの女神の力は雀の涙程しか無かった筈だけど……


「どうして最後の場所に行けたか……分かってない様だな」
「最後の場所? それって僕達の戦いが決着した場所か?」


 その言葉にテトラは頷く。そう言えば確かになんであの場所へいけた……とかは分かってないな。本当ならノウイの奴がクリエをあの場所まで連れてく筈だったんだけど……それは叶わなかったんだよな。てかそもそもあの前の階段にはゴールが無かったって事なのか?


「そうだな、残酷な事だが、あのままじゃ一生どこにも辿り着けなかっただろう。何故ならあの扉を開くには……世界樹の落とし子の犠牲が必要だからだ。言ったろ、その為の存在だと」
「そう言えば……そんな事言ってたな」


 ようは最初にあの階段を表すのにもクリエを使い。更にはその次の段階の鍵がクリエ消滅だったって事か? 残酷過ぎるだろ。もしかしてスキルを一部の鳥居が解放出来るのって……止めを刺させる為なんじゃ? 
 もしかしたらあの階段の場所では苦しみだけがクリエには続くだけだったのかも知れない。それはそれでまた残酷な仕様だな。なんだかヤケにこの世界はクリエに冷たく感じる。やっぱりただの道具としての認識だから……なのか?


「だけどあの時お前も、そして僕のこの腕の模様も光ってたよな? なんだったんだあれ?」
「共鳴かなにかだろ。クリエの存在は俺とシスカの力で出来てる。だからそのクリエが消える時に、俺達の力が共鳴した」
「なるほどね。じゃあこの広がってるシスカの力の模様は……まさかクリエを構成してた力が加わってるって事か?」
「そう考えられる。それでもお前は何も出来ないと思うか?」


 この野郎。そう言う大事な事は前もって言っとけよ。まあ言うタイミングも無かった訳だけどな。そもそもこんな場所でクリエと再会するなんて思っても無かった事だし……でもそっか、今の僕にはクリエの力になる事が出来るのか。


「お兄ちゃん……」
「大丈夫、きっとクリエを目覚めさせてみせる」


 その希望が僕達にはある。思わぬ所で色々と繋がってる物だ。まあ不安も有るけどね。


「テトラ、お前力は使えるのか?」


 確かスキルが制限されてた筈だろ。その状態で大丈夫なのか不安だよ。でもテトラは不適に笑ってこう言うよ。


「問題ない。そもそも特殊な力を使わない方がこの場合は良いだろう。ただ己の力を解放すれば良いだけだ。問題ない。それよりも貴様だ」
「僕?」
「貴様も自身でシスカの力を解放させるんだぞ。出来るのか?」


 出来るのか? と言われても……やり方が分かんないぞ。そもそも勝手に入ってしまってる物をどうやって自由に操れというんだ? そんなの無理だろ。だけどここで出来ないなんて口が裂けても言えないよな。だって期待の眼差しが見てるもん。それに任せとけっても言ったしな。


「やってみるさ。どうすれば良いんだ?」


 僕はそう言ってテトラに近づくよ。するとよりハッキリと見えるクリエのその姿に心が痛む。だけどもう直ぐだ。もうすぐできっともう一度元気な姿を見せてくれる……それを信じてるよ。


「ほら、手を合わせろ」
「それだけか?」


 てか男の手を握るとテンションが下がるって言うか……まあ贅沢言ってられないけどさ。僕は模様のある方をテトラの手に重ねるよ。ゴツゴツしてる手だな全く。まあ人の事は言えないけど。どっちも男の手で骨張ってる。握り心地が良いとは言えない。


「お前がシスカの力を解放出来ないと話にならん。意識を集中しろ。その力はお前に宿ってるんだ」
「集中だな」


 僕は深呼吸をして瞳を閉じる。これもクリエの為だ。引いてはサナの為でもある。サナが気持ち良くこの世界から去るには、後顧の憂いは無い方がいいだろう。その為にももう一度、クリエには目を開けてもらわないと行けないんだ。


(力を感じろ。自分の中にある筈の……別の力を)


 意識を深く沈めて行く。そして必死に願うよ。


(頼む。その力を解放してくれ!)


 てね。すると腕の模様が輝き出す。それを確認してテトラの奴も自身の力を解放し出した。この深淵のゴミ箱で、神の力が溢れ出す。周りの見えないある筈のゴミ達はその影響なのか、時々ノイズが走るみたいに姿を浮かべては消えて行く。


「くっ……」
「一つの命を取り戻すんだ。もっと気合い入れろスオウ!!」


 分かってる……分かってるけど……こっちはそっち見たいに自由自在じゃねーんだよ。思いだけで必死に解放してるだけだ。それに絶対的にエネルギーの総量が違うからな。テトラの奴はほぼ無限なんだろうけど、こっちはこの右手の拳一個分だぞ。合わせろ。


「合わせてるさ。当然だろ。だがそれは貴様に宿ってる全部のシスカの力とだ。チマチマ出してたら意味ないぞ。クリエから貰った分は全部返す気で解放しろ!」


 なるほど、こっちが苦しく感じるのは、出力が足りないからか。でも今でも結構一杯一杯なんだよな。これ以上の出力を出すって……どうやれば。きっとどこかでリミッターが掛かってるんだとは思うんだけど……それを自分で外す手段は無いだろう。
 併せた手で二つの神の力が交わってクリエを包み込んでる。だけどまだその瞳は固く閉じられてる。まだだ……まだ全然足りない。


「僕には神の力なんか要らないんだよ。だから全部クリエの為に動いてくれ!!」
【優しいですね】


 ハッとした。どこからか聞こえて来る声。どうやらテトラは気付いてない。僕にだけ聞こえてるのか? 


【ありがとう。私達の娘の為に必死になってくれて。その気持ち、きちんと受け取りましたから。輝きましょう。共に】
「うわっ!?」


 その瞬間、手の輝きが激しさを増した。


「来たか! クリエに全部ぶつけるぞ!!」
「よ……よし!!」


 なんだか腕だけじゃなく全体にまで光が広がって、そして僕達は互いの力を纏ってないか? でもそれを気にしてる場合でもなく、僕達は二人して……いや、間に入って来た女神様の三人でクリエに力を注ぎ込む。輝く神の力が、一瞬だけこのゴミ箱の吹き溜まりを照らした。






「はぁはぁ……」


 どっと来る疲れ。疲労が流石にヤバいな。手を見ると、そこにはもう女神の模様は無くなってた。だけどかわりにクリエの体の周りを二人の力を示す魔方陣が囲んで回ってる。上手く行ったのかな?


「なあテトラ……今の……」
「なんだ?」


 シスカが居た様に見えた事を聞こうと思ったけど止めた。だって気付いてなさそうだし。それかやっぱり幻覚だったのだろうか? そう思ってるとサナが「クリエは?」って聞いて来る。僕にはよくわかんないから、テトラに視線を向けるよ。


「多分上手く行っただろう。想定以上の力がお前から出てたしな。良い塩梅に成った筈だ」


 想定以上の力……僕がシスカの力を増幅させるなんてあり得ないから、やっぱり……するとクリエの周りに展開してた魔方陣が次第に組み合わさってそしてクリエの体に解けて行く。二つの力が交わり合ってそれがクリエの命に成ってるのかな?
 僕はテトラが抱えるクリエを覗き込む。すると僅かに息が戻ってる事に気付いた。そして次の瞬間ゆっくりとその瞳が開かれてキラキラする瞳を見せてくれる。


「スオウ?」
「ああ、お帰りクリエ」
「スオウ……スオウ!!」


 暴れてこっちに飛び移って来るクリエ。僕はそんなクリエをしっかり抱きとめる。


「クリエ……良かった」
「あれ? シャナ? 何で? スオウのおかげかな?」


 訳が分かってない様だな。まあ取りあえず「全て上手く行ったよ」とだけ伝えるよ。


「そっか……でもクリエはなんで?」
「それはほら、そこのテトラのおかげだよ」
「テト……きゃああああ!  なんでなんでどうして?」


 クリエの奴は悲鳴を上げながら背中側に回る。相当警戒してるな。まあ当然だろうけど。でも折角助けてくれたんだ。このままじゃ行けないと思うからしっかり説明してやった。


「じゃあ……仲直りして……そしてクリエを助けてくれたの?」
「そう言う事だな」
「そっか……ありがとう」
「ふん」


 背中を向けてしまったテトラ。だけどなんか照れくさそうに感じる。さて、これでもう良い筈だよな。


「行こうサナ。今度はお前の願いを叶える番だ」
「うん、シャナの願いを叶えてあげる」
「そうだね……ありがとうクリエ」


 僕達は手を繋ぐ。すると近くに光の扉が現れた。金魂水が用意してくれてたのかな? 僕達はその扉を潜るよ。


 戻って来たのはテトラと最後の戦いをした場所。LROの世界が下にあって上を見れば地球が輝き、宇宙が広がってる。


「スオウ--に、え? クリエ?」
「ヤホーセラ」


 軽いノリで返事を返すクリエ。みんな「何で?」「どうして?」の嵐だよ。だけど一様に喜んでくれてるのは確かだよね。シルクちゃんなんてポロポロ涙流してるし、セラも実は結構危なそうだ。惜しむらくはノウイの奴が居ない事か……


「居るっすよ」
「何でだよ!?」


 マジでなんで復活してる? 死んだろお前。星に成った筈だろ。


「はは縁起でもないっすね。考えてみてくださいっすよ。だってここではスキルは何度も使えるんすよ。ミラージュコロイドならあそこからでも脱出出来るっす。まあ苦労はしたっすけど」


 なるほど、そう言う事か。まあ何はともあれだな。そう思ってるとこの場に見慣れない二人の姿を僕は発見するよ。


「あれは……」


 見慣れないけど、見覚えが無い訳じゃない。あれは間違いなくサナの……


「紗奈……なのか?」
「紗奈ちゃん!」
「お父さん! お母さん!!」


 三人は走り出して互いに強く抱きしめ合う。言葉なんて無くても、きっと分かるんだろうな。三人の目には大粒の涙があふれてる。


「スオウ……」
「セラ?」


 なんだ? 服をちょっと摘んで来たぞ。なんだかドキッとする仕草だな。


「私達も見たわ。サナの過去を。だから……本当に良かったって思える」


 震える声を出して俯くセラ。その目から涙が出てる。こいつもこんな風に泣くんだなって思った。全く。ハンカチでも持ち合わせてたら格好よく渡せたんだけど……僕はしょうがないからセラの肩を持って引き寄せる。


「俺の体なら貸してやるよ」
「何よその言い方…」


 文句を付けながらもセラは僕の腕に絡み付く。ちょっと……てかかなりドキドキするな。そしてそんな僕を余所に、数年振りの再会を果たした親子は最後の時を惜しむ様に言葉を紡ぐ。


「紗奈……私達は……」
「お父さんもお母さんもそんな顔しないで欲しいな。最後に言った事は本当だよ。私は幸せだったよ。お父さんもお母さんも、こんな苦労ばっかり掛けた私を最後まで愛してくれたもん。ちゃんと分かってるんだよ」
「だけど……私達は紗奈の苦しみを……分かってやれてなかった。もっともっと出来た事があったんじゃないかって後悔ばかりを考えちゃう」
「もうお母さんは……そんな事ないよ。後悔なんかしないで……二人とも出来る事を全部やってくれた。それでも私は生きられなかったけど……それは二人のせいじゃないもん。私がもっともっと強かったら良かったんだよ」
「違う! 私達が……親である私達が守ってあげなきゃ行けなかったんだ!!」
「もう十分守って貰ったよ。だから……だから……」


 なんだろうな……なんだかちょっとぎこちなくないか? 親子なのに、そう感じる。無理も無いんだろうけどな。僕は言ってやるよ。


「サナ……甘えて良いんだぞ。本心を言っていいんだ。勿論今のが嘘だなんて思わないけど、お前が心にもってるもの全て、今ここでぶつけないでどうする! 本当にこれが最後なんだ! 願いを……叶えろよ!!」


 ポタポタと床で跳ねる涙。サナは涙声で紡ぐ。


「本当は……もっともっと、生きたかったかよ……ずっとずっとお父さんとお母さんと一緒に居たかったあああああああああ!!」


 その言葉を聞いた瞬間、二人とも更に強くサナを抱きしめる。そしてサナは「どうして……どうして」と理不尽な世界に恨みを吐いてくよ。そりゃそうだ。言ってやらないと気が収まる筈が無い。そして全てを吐き出した後に静かにこう言う。


「でも……もう遅いし、どうにも出来ないよね。私は死んじゃったんだもん」
「紗奈!」
「紗奈ちゃん!!」


 両親の強い愛を解いて、サナは立ち上がる。そして少し離れるよ。


「逝かないで! ここでならいつでも会えるんでしょう?」
「ダメだよ。そんなのダメ。私は逝かなきゃダメなの。死んでるんだもの。お父さん、お母さん、私ね……もう旅立つ事本当に怖く無いよ」
「そんな……」
「なんで……?」
「だって私が死んでもずっと二人は私の事を想ってくれてたって知れたもん。忘れ去られる事なんか無いってわかったら安心した。それにね……私はやっぱり二人にも笑顔で居て欲しいもん。私の事を忘れないでいてくれるのは嬉しいけど、その顔がずっと暗いままじゃ嫌だよ。
 だから本当のバイバイする。しなきゃいけない。私は……私紗奈は、二人の子供で本当に幸せだったよ。だから今度もし、生まれ変われるのなら、もう一度お父さんとお母さんの所に生きたいな。だから私は行くよ。
 もう何も……怖くなんてないもん!」


 そう紡いだサナは浮いて行く。宇宙を見上げるとそこには白い渦が広がってた。そして下から次々と光が昇ってく? まさかこれはLROに居た他の魂か。


「紗奈ちゃん! 紗奈ちゃん!」


 そう言って手を伸ばす奥さんを旦那さんが止める。


「違うよ綾乃さん。僕達が最後に掛ける言葉はそれじゃない。引き止めちゃ……ダメなんだ。あの子は立派に成長してる。僕達も……見習わないと行けない。そうじゃないかな?」
「貴方……」


 そう言って二人は支え合う。そして昇ってく、サナに向かってこう言った。


「「紗奈! 君は(貴女は)僕達の(私達の)自慢の娘だ!(よ!)。…………いってらっしゃい」」
「うん……うん! 行ってきます!」


 光の中に消えてくサナ。あの向こうはきっとあの世に繋がってるんだろう。僕も……僕達もさよならを心の中で紡ぐ。そんな中クリエが「シャナ~またね~」と叫ぶ。全くこいつは……するとこっちを向いたサナが笑った様に見えた。そして声が聞こえる。


「ありがとうお兄ちゃん。私達の感謝の印を入れとくね。きっと役に立つと想うから。頑張って」


 そんな言葉と共に消えていく。流れ星が逆に登る光景も珍しい。終わったんだな……そう思いつつ僕はウインドウを開く。するとそのとき、画面に現れる謎の文字列とそして耳につんざく−−


【ピーーーーーーーーーーーーーー】


 −−と響く音。一切の操作を受け付けないウインドウ。そして次の瞬間、世界はブレーカーが落ちたみたいに暗転した。

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