命改変プログラム
要らなくなった者達へ続く
真っ暗な場所に僕は居る。それは落とし穴の底の様な……奈落の底の様な……そんな真っ暗な場所だ。サナが逝った後、真っ白な日差しからいきなりこんな奈落へと突き落とされた訳だ。一体どうなってるのやら。
てかさっきまではまだ理解出来たけどさ……これは一体どういう状況だ? まったくもって意味不明だよ。金魂水は願いを本当に叶えるアイテム……何だよな?
「本当にそうなのかな?」
ちょっと不安になって来たかも。でもテトラの奴もそう言ってあんなに必死になってた訳だし、騙してる筈が無いよな。だけどもしかしたら騙してる気がないだけだった……とかじゃないよな? テトラ的には普通に真実を言っただけなのに、僕達が勝手に万能なアイテムに解釈をしてしまった……みたいな。
つまり……だよ。つまりテトラが言いたかった事は『俺の望みを叶えるアイテムだ』って事か? でもそれも今更すぎだし、そもそも良く思い出せば「一つだけ願いを叶えるアイテム」だった筈だから過大解釈じゃない筈だ。まあそうと信じたい。
「ん?」
なんだかカツンカツンと響く音が深淵の向こうから聞こえて来る。僕は音のする方に耳を傾けようとする訳だけど……如何せんこの空間なんかおかしい。なんだかどこから聞こえてるのか分かんないんですけど? そこかしこからカツンカツンと響いて来る音に目が回りそうだ。近づいて来てる気はする。でもどこからか分かんないと恐怖心が増して来る。
(敵……か?)
もしかしたらだけどそんな可能性も完全には否定出来ない。この真っ暗闇なら、どこからでも敵が飛び出して気そうじゃ無いか。僕は取りあえず腰のセラ・シルフィングに手を掛ける。迫り来る足音に意識を集中。視線を周囲に巡らせて警戒を強める。息を殺してその時を密かに待つ。
足音は淀みなく聞こえて来る。それはつまり向こうはこちらの存在に気付いてないってことだろう。たまたま向かってる方向に僕が居るってだけ……それか気付いてるけど、警戒する必要が無いと思われてるかってこともあり得るかな。
でもこの暗さなら向こうだって姿までは見えない筈だよな。幾ら強さに自身があったとしても、警戒位普通はすると思うけど。それともそれだけ自身があるって事か? 取りあえずこういう時は出会い頭が大切だ。
最初の行動をミスれば相手に有利に運ばれるかも知れない。だからこそ、初撃に賭ける!
「はぁ~ふぅぅぅぅ」
息を整えてその時を待つ。速さには自信があるから、先手はとれる筈だ。問題はどこから現れるか分からない所。風を掴めば周囲の状況も判断出来るんだけど……最低でもイクシードを発動しないと風は掴めない。
今から不自然に風が吹くと警戒されるかも知れないからな。それに根本的に掴めそうな風ないし。いや、風がないなんて無いらしいけど、僕の技量ではエアリーロの言ってたみたいには出来ないんだ。
だからここは大人しく、これも一つの自慢の目で見つけるよ。暗闇から姿を現す最初の足。それが見えた瞬間に僕は動く。鞘から素早く片側のセラ・シルフィングを抜いてその剣線を向ける。
「何やってるんだ貴様は?」
「テトラ!?」
しまった。止められな−−−−ま、良っか。僕は無理矢理に止まるのを止めて勢い良くセラ・シルフィングを振り抜く気満々だ。
「おい! おまっ−−え!? マジか!!」
ガッツゥゥゥゥゥンと良い音を響かせてテトラの奴の腕にぶつかるセラ・シルフィング。
「ちっ、ガードしたか」
「貴様聞こえてるからな。止めろよ! てか、止めるだろ普通! もう俺達は戦ってないんだからな!」
全く何正論をほざいてるんだか。邪神のくせに。テトラの奴は僕の行動に不満があるらしい。
「なんで?」
「なんでってお前……」
僕の純真無垢な顔と言葉にテトラは困惑してるよ。具体的には「こいつ頭がおかしくなったんじぇね?」的な酷い顔されてるよ。失礼な奴だな全く。
「あ~はいはい分かりました。わるうございましたね。つい出来心だったんです。ここで止まるのも難しいし、テトラなら別にこのまま振り抜いたって大丈夫だよなって買っての行動だったのに」
「だったのに~じゃねえよ! 明らかにお前の怠慢じゃねーか。もう一度やりあうかコラ?」
「それは勘弁」
もう一度やって勝てるなんて思ってないから。たく、本音を言っても怒るんだから困った物だよ。褒めてるじゃないか。テトラだったからこそ、僕は止めなくてもなんとかしてくれる思ったんだ。用はお前の力を信じてた訳だよ。死線をかわし合った者どうしには信頼関係が構築されるって言うじゃん。それだよそれ。
「分かったかテトラ? 僕はお前を信頼してたのだ」
「分かるかボケ。それでむせび泣くとでも思ったか。次ぎしたら殴り返す」
なんて物騒な奴。流石邪神。
「止めろよ。お前の攻撃ってえげつないんだから、死ぬだろが」
「はは、まさか……俺はお前を信じてる。信頼関係だからな」
キリッと爽やかな表情で何言っちゃってんのこいつ。随分テトラも俗世にまみれたな。それにこいつ完全に僕の事殺す気だろ。どの口が信頼関係とかほざいてるんだよ。その爽やかな表情の裏には遺恨が見えるわ。
まあここはこれ以上変な話題で間延びさせるのもどうかと思うので、その事は返さずに、僕は全く別の話題……と言うか、本来は真っ先に聞くべき事を聞くよ。
「まあそんな事より、なんでお前がここに居る?」
「ふん、そんなの分かり切ってる事だろうが」
面倒くさそうにそう言ったテトラ。だけどさ、こっちは分かんないから聞いてるんだけど。ほんと、こいつは自分が知ってる事を他人も知ってるだろうって思うその癖直した方が良いと思う。僕はまだ心が寛大だから良いけど、気の短い奴とかそんな言い方してたら直ぐにプッツンするぞ。まっ、こいつの場合は相手が切れたって関係無いだろうけどさ。
力で全てをねじ伏せられるだろうしね。
「お前ってさ……」
「何だよ?」
僕は少し逡巡するよ。そして口先まで出掛かってた言葉を飲み込んで波風立たない方に切り替える。
「まあいいや。それよりもちゃんと説明しろ。なんでお前がここに居るんだよ? てかどこだここ? さっきまでは確か……うっ」
よく考えたらさ、今見たのはペラペラ喋って良い物じゃないよな。だってとってもプライバシーに関わる物だった筈だ。既にあの世界からサナは消えてるのだとしても、僕的にまだサナは存在してる訳だからな。ペラペラとは喋れないよ。でもテトラの奴は僕が言おうとしてた事が分かってるみたいにこう言うよ。
「別に隠す事でもないだろう。俺も多分お前と同じ物を見たからな」
「そうなのか?」
「貴様はここがどこだか本気で分かってない様だな。俺達は金魂水の力の元に居るんだ。あの時発動した金魂水の光に包まれただろう」
「ああ、確かに包まれたな」
ピカーって光ったもんな。
「お前はあの光に巻き込まれたのが自分だけとでも思ったのか? きっとあの場に居た者ならあまねく今のは見た筈だ」
「って事はシルクちゃんやサラ達もって事か……」
あれを見て皆がどういう反応をしてるのか気になるな。でも待てよ。けどそれじゃあおかしいだろ。
「ちょっと待て、じゃあなんで今ここには僕とお前しか居ないんだよ? 皆が巻き込まれたのなら、皆がここに居る筈だろ?」
「他の奴等にはここまで来る資格が無かっただけだろ」
「資格って何だよ?」
「さあな、俺が知るか」
この邪神め。適当な事ばかりほざくな。そもそもここがどこなのかまだちゃんとした説明してないぞ。さっさと教えろ。
「ここはアレだろ、さっき見た事をふまえて、そして願いを考えれば分かるんじゃないのか?」
またナゾナゾ形式にしてきやがったなこいつ。とことん考えさせる気か? 答えを安易に提示しないポリシーでもこいつは持ってるのかよ。面倒くさい。こっちは誰かさんとの戦闘で疲弊してるんだよ。頭を使うのはキツいのに……でも腕力はもっとキツいし……勝てないしな。全く……
「はぁ」
僕は思わずため息付くよ。取りあえずセラ・シルフィングを鞘に戻して少し考える。さっきの事を願いをふまえれば分かるってテトラは言ったな。さっきのはサナの過去だった。それは間違いない。そして僕達の願いはクリエの願いを叶える事だ。そしてそれはサナを月へ行かせる事。けどもっと具体的に言えばそれってもう一度向こうの世界に返したかったって事で、それはつまりクリエはサナを両親に会わせてあげたかった訳だよな。
月へ行けば、それが叶うとクリエは信じてた。そしてその願いを金魂水が叶えてくれる訳だ。けどその前に見せられたのが今の奴? 関係はあるけど、必要だったのか? と言われれば疑問だよな。なんで金魂水はあんな物をわざわざ見せて来たんだろうか?
それとも金魂水にそんな意思はなく、偶々願いを叶える過程で流れ出てた物に僕達が巻き込まれたのかも知れない。
「う~ん、だから何だっけ?」
糖分足りねぇ~。確かに金魂水は願いを叶えようとしてくれたとは思う。で、ここは何−−と問われるとやっぱり???じゃね? サナの記憶を僕達は見たんだろう。
「あれ?」
だけど考えてみたらアレは本当にサナの……サナだけの記憶だっただろうか? 僕はアイツが知り得ない事まで知ってたと思う。両親の気持ちとか、その行動は確実にサナが知り得ない範囲にまでも達してた。
それってつまり……あの時の映像にはサナだけじゃない意思の記憶も混ざってたってことに。それにそれが考えられるのは自ずと絞られるよな。多分サナの両親はリーフィアを装着してその時をLROの一歩手前で待っててくれた筈だ。それならあり得る……のか? でもあの記憶はそうとしか思えない。
実際快く二人がやってくれたかは分かんないけど、もしかしたらの望みを賭けてくれたかもしれない。だから金魂水はサナだけじゃない、家族の思いを届けれた……
「なあ……今のってもしかして僕達だけに見せられた物じゃないんじゃないか?」
「どういう事だ? 金魂水はそんな節操のない事はしないと思うがな」
節操のないね。確かに個人情報を見境無くバラまくなんて事はしないだろう。そんな事したら大問題だ。沢山の人に伝えたい気もするけど、関係者からしたらそれはあんまり喜ばしい事じゃないよな。僕達は結局部外者だ。だからこそ心は痛んでも、その絆に感動したり、姿勢に感銘出来たり、良い所だけを美化出来る。
でもきっとサナや両親は違う。辛かった事も、悲しかった事も、やっぱり思い出す事になるんだ。それを綺麗だったと思える僕達とは違うんだよな。
「確かにそんな誰彼構わず見せるなんて事はしないだろう。だけどさ……アレがサナやその両親から流れた物なら……互いの思いが流れ合うって事は無いのか?」
「つまりお前は、あの映像を流した互いも見たんじゃないかと言ってるのか。それなら確かにあり得なくは無いな」
だろだろ。なんだか頭が回って来たぞ。どうやら疲れのせいじゃなく、テトラの奴が現れたから無意識に拒絶反応を起こしてたみたいだな。そして今は慣れて来たと、そう言う事だろう。
「だがそれでどうなる? 意味があるか?」
「多いにあるだろ。まだ出会ってる訳じゃないかも知れないけど、互いにその時には知り得なかった事を知ったんだ。それに……それが今だからこそ意味があるって事もある」
後は疑いとかもきっと晴れたろ。今のを見たら、サナがこの世界に居ると……きっと信じれる。何となく分かって来たぞ。この空間の事もさ。テトラが言った資格の事はよくわからないけど、金魂水は確かに願いを叶えるアイテムなんだ。しかもちゃんと僕達の思いを汲み取って。あの時伝えなかった事、見せようとしてなかった部分、それを見せる事でいろんな物が取っ払われるんじゃ無いだろうか。
例えば親としての意地とか、娘としての生きれなかった責任とか……重い事だったから、生きようとしてた時、救おうとしてた時には言えない事、見せれない姿ってのがあったんだよ。だからそれを今知る事に意味があるんじゃないかって……さ。
「死人に口は無いからな。本当なら墓の前で一方的に喋るだけで、知る事なんか出来なかった筈の事か」
「そう言うと恐ろしく残酷な事に聞こえるな」
「死とは残酷な物だろ」
確かに。そればかりは同意するよ。死は残酷だ。いつか誰かに絶対に……その時は訪れる。今の科学技術でそれを回避する術は無い。死は残酷で……だけど全ての命に平等に降り掛かる。違いは速いか遅いかだけ。
「それにしても……」
「どうした? 行き詰まったか?」
なんでこいつは「その程度か?」みたいな顔をしてるんだよ。僕に何を期待してるんだ。
「別に何にも行き詰まってない。ただ少し疑問がな」
でもまあこれはいいや。疑問だけど、納得もできるんだ。だからそう言う事にしておこう。僕はテトラを置いて歩き出す。
「おい、疑問って何だよ?」
「それはいい。それよりもこの場所だろ。金魂水はちゃんと望みを叶えようとしてる。そのお膳立てが今見た事なら、次のイベントは決まってるんだ。最後は、それしかないってのがある」
「まあそうだろうな。今までやって来た事を考えればそれしかない」
後ろから付いて来るテトラは既に分かってるらしいから余裕だな。まあ焦る場所でもないんだろうけどさ。こいつ的にはもう全部終わったみたいな物だしな。暗闇を僕はズンズンと進むよ。僕達がここに居る事はきっと意味がある事なんだ。そして望みを叶える為に必要な要素は両親とサナの存在。
両親は前もって日鞠がリーフィアを渡してくれてたから良いとして、問題はシステム的にはイレギュラーな筈のサナなんだ。それにサナは既に僕の為に消えてしまってた。それは完全にじゃないんだろうけど、元々システムに紐付けされてないその曖昧な存在を金魂水は引っ張れないんじゃないだろうか?
だからこその僕達でこの深淵。
「分かった様だな。ここはただの闇じゃない。よく見ればお前にも分かるだろう」
そんなテトラの言葉に後押しされて、僕は注意深く周りを見るよ。するといきなり目の前に鉄柱みたいなのが見えた−−−−気がした? だけどそれは僕にぶつかる事は無かったよ。なんか普通に通り抜けられた。
「あれ?」
「お前には害がない物だなこれ等は」
そう言うテトラの奴はその実態が無い鉄柱に何故か触れられてる? 僕には害がないってどういう事だよ? するとテトラは周りを見回して静かにこう言うよ。
「ここはきっと墓場だ。コンピューター的に言うと、ゴミ箱じゃないか? つまりはそう言う場所で、ここにぶち込まれてるのはLROを構成する上でいらなくなったゴミが溜まってるんだろう。LROだってそう言う物の筈だろ」
「そう言う物……なのか?」
確かにネットワークを使ってるし、あのリーフィアには飛んでもないコンピューターがつまれてると考える方が自然か。でもパソコンの形してないからなアレ。それに別途PCが必要って訳でもない。よくよく考えたらこれだけの世界を構築してる物が完全にPCレスで稼働し続けてるのって凄い事だよな。
まあ一部ではリーフィアの記憶媒体はネットワーク自体とそれに真しやかに所持者の脳……とも言われてたっけ。大容量ストレージを必要としないのもハイスペックのCPUとかを詰んだパソコンの頭を必要としないのも、柔軟性に優れてる脳と言う最強のコンピューターを利用してるから……でも流石にね。
あれだろ? 実は本社に超凄いハイパーコンピューターみたいなのが一杯あってそれでLROの世界を構築して僅かな個人データだけをリーフィアで管理してるとかだろきっと。それなら現実的だな。
まあ本当に現実的なのかは、そこまでパソコンに詳しい訳じゃない僕には分かんないけどね。でもまあ確かにゴミとかはやっぱり出るんだろうなってのは分かるよ。パソコンも定期的にシステムの最適化とかして不要な物は一斉排除だからな。デフラグだっけ? 様はどんな優秀なコンピューターにもそれは必要ってことだろう。
僕達の記憶もどうでも良い物は忘れる様になってるって言うもんね。忘れる事は大切だってことだ。勿論覚え続ける事が大切な事だってある。そこの案配がやっぱりコンピューターと脳の違いなのかもね。
脳は勝手に自然にいらない事は忘れさせてくれる。まあ時々大切な事も無くなるけど……それは記憶の引き出しの奥の方に行ってるだけと言われてるよね。そこら辺の整理を脳は日々独自判断して行ってるんだろう。
だけどPCには命令が必要だ。「今から不要なファイルを抽出して排除しなさい!」って命令が無いとやってくれない。まあ毎週自動でっても出来るけど、深い階層の物とかを消すにはやっぱり人が判断して消すしか無い。
脳の独自の判断はやっぱり凄い事なんだと思う。全ての事を事細かく覚えてたら、きっと発狂するんだろうな。人が生きる為には忘れる事が大事なんだ。そしてPCも最終的には脳みたいな物をどこかで目指してるのかも知れないから、やっぱり忘れる事が大事なんだろう。
これだけの世界ともなると一日で出る物も半端ないんだろうなって思う。きっといろんな所から僅かずつだけどそう言う物は出てて、ここはそれを纏めて排除する所。
「つまりここは言うなればLROの掃き溜めか。奥に潜ったサナに繋がる金魂水が用意した道だと思ってたけど、そんな大層な物じゃなかったと」
「間違っては無いだろ。そのサナとかに続く道は道だ」
確かにあの時、僕をリアルに返した代償でその力を使いすぎたサナは、こう言う所にぶち込まれてもおかしく無いな。そもそもサナ達の様な存在こそ、LROにとっては不要だもんな。それがメッチャ増えてるから近々一斉排除の兆しもあるみたいだし、それならここにはサナ以外のそう言う人達が居てもおかしく無いな。
「…………ゴク」
そう思うとこの暗闇がなんだか怖くなって来るな。霊を見たれば枯れ尾花って言うけど……なんだろう、暗闇の向こうに誰かが手招きしてる様に見える……気がする。
「何を震えてるんだ貴様は?」
「いや、別に……それよりも思ったんだけど、無闇に動いてサナは見つかるのか? 結構ここ広そうだぞ」
僕達が仰せつかった命令はきっとサナを引っ張り上げる事。その役目を金魂水は僕達に託してると思う。ならもう少し親切設計でお願いしたいよね。これじゃあどこを目指せば良いのか……
「心配する事も無いだろう。向こうだって実は気付いてるんじゃないか?」
「何を根拠にそんな事を……」
気休めなんて止めろよな。それともその目は実は特殊でこういう暗闇の方がよく見えるとかか? あり得そうだなオイ。
「根拠も何もお前には見えないのか? やはり自慢は速度だけか」
「むっ……」
絶対こいつワザと煽ってるよな。でもそこまで言われちゃ仕方ない僕は周りに目を向ける。でもやっぱり何も見えないぞ?
「お前はプレイヤーだからかも知れないな。俺達と同じで完全に存在してる訳じゃない。全部落ちたと言ってもやはり定着してる訳じゃない。まあだからこそ希望があるのかも知れないがな」
希望ね。それってリアルに戻れるかもしれないって希望だよな。確かに何か違いがあるのなら、それは猶予なのかも知れない。でも猶予って言っても既に三年近く落ち切ってる奴も居るしな。きっと命改変プログラムならそこら辺をどうにでも出来るんだと僕は思ってる。
まあだけどそれが僕にまで適用されるのか……は考えたら謎だよな。命改変プログラムの存在が希望だけど、それって完全にセツリの為に用意された物の筈だからな。
「お前はプレイヤー側でまだここを見てる。いや、正確にはだからこそ綺麗に見栄え良く見せられてるとでも言うのか。取りあえず落ち切ってるお前ならこっち側の視点も見えるだろう。集中しろ。さっき鉄柱が見えた感覚を思い出せ」
無茶ばっかり言う奴だな。鉄柱見えたのは偶々だよ。どうやったかなんか分かるか。でもそれをしないとサナを見つける事は出来ないらしい。やるしか無いよな。どうやら瞬きの瞬間には僅かに見えてるんだよな。なら高速に瞬きを繰り返せば……と思ったけど流石に無理だと気付いた。
なんだろう……もしかしたら逆にしっかり見ようとしない方が良いのかも知れない。しっかり見ようとするからシステムは見栄えを気にする……のかも。だから僕は薄目にして全体をボヤーっと見る。すると不要な物が大量に見えて来た。そしてその中で隠れる様に動いてる小さな影を見つけた。
(まさかアレが?)
「待て!」
僕は逃げるその影を追いかける。薄目じゃないと見えないけど、そのせいでいろんな物にぶつかって……ってぶつからなかったや。避ける動作が僕には必要ない様だ。これなら追いつける。向こうはちゃんと障害物避けてるからな。てかアレがサナならなんで逃げる?
それに逃げ方がなんかおかしい。何かを庇いながら逃げてる様な……けどそれも捕まえれば分かる事だろう。僕は近づいた影に手を伸ばず。だけどその体に触れたと思ったらスカッと通過してしまった。
「ってそうか、周りの物と存在が同じなのか……」
僕がこのある筈のゴミに触れられないのなら、サナにだって触れられる訳ない。じゃあどうすれば? 触れられないのならサナを止める手段が無い。それに本当になんで……なんで逃げるのか僕には理解出来ないよ。
約束した筈だろ? 迎えに行くって。ちゃんと迎えに来たのになんで………僕は立ち止まってその影の背中を見つめる。拳を握って歯ぎしりをして、そしてこう叫ぶよ。
「何でだよ……何で逃げるんだよサナ!!」
すると僅かに反応があって、徐々にその影のスピードは緩くなって、遂には止まる。そしてこんな声が聞こえた。
「逃げたくなんか……無いよ。でも今会ったら、頑張ってくれたお兄ちゃんの事を責めそうなんだもん!」
「責める?」
どうして? そう言おうとしたら、サナの姿が徐々にハッキリ見えて行く事に気付いた。双方がハッキリと認識したから、曖昧だったプロテクターが解けたのか? 影が消えてくサナ。薄めじゃ無くても見える様になるのはありがたい。
だけどその時、僕はもう一つの物を見る事に成った。サナが責めると言った訳が……その姿を見て分かったよ。サナが苦しい顔して落とす視線の先……彼女が抱えると少しは大きく見えるその物体は……
「クリエか?」
僕の言葉にサナはコクリと頷く。クリエはその役目を全うして消えた……つまりは、そう言う事か。ピクリとも動かない……ダランと手足を垂らしたその姿を見て、僕の心は慟哭の叫びを上げる。
てかさっきまではまだ理解出来たけどさ……これは一体どういう状況だ? まったくもって意味不明だよ。金魂水は願いを本当に叶えるアイテム……何だよな?
「本当にそうなのかな?」
ちょっと不安になって来たかも。でもテトラの奴もそう言ってあんなに必死になってた訳だし、騙してる筈が無いよな。だけどもしかしたら騙してる気がないだけだった……とかじゃないよな? テトラ的には普通に真実を言っただけなのに、僕達が勝手に万能なアイテムに解釈をしてしまった……みたいな。
つまり……だよ。つまりテトラが言いたかった事は『俺の望みを叶えるアイテムだ』って事か? でもそれも今更すぎだし、そもそも良く思い出せば「一つだけ願いを叶えるアイテム」だった筈だから過大解釈じゃない筈だ。まあそうと信じたい。
「ん?」
なんだかカツンカツンと響く音が深淵の向こうから聞こえて来る。僕は音のする方に耳を傾けようとする訳だけど……如何せんこの空間なんかおかしい。なんだかどこから聞こえてるのか分かんないんですけど? そこかしこからカツンカツンと響いて来る音に目が回りそうだ。近づいて来てる気はする。でもどこからか分かんないと恐怖心が増して来る。
(敵……か?)
もしかしたらだけどそんな可能性も完全には否定出来ない。この真っ暗闇なら、どこからでも敵が飛び出して気そうじゃ無いか。僕は取りあえず腰のセラ・シルフィングに手を掛ける。迫り来る足音に意識を集中。視線を周囲に巡らせて警戒を強める。息を殺してその時を密かに待つ。
足音は淀みなく聞こえて来る。それはつまり向こうはこちらの存在に気付いてないってことだろう。たまたま向かってる方向に僕が居るってだけ……それか気付いてるけど、警戒する必要が無いと思われてるかってこともあり得るかな。
でもこの暗さなら向こうだって姿までは見えない筈だよな。幾ら強さに自身があったとしても、警戒位普通はすると思うけど。それともそれだけ自身があるって事か? 取りあえずこういう時は出会い頭が大切だ。
最初の行動をミスれば相手に有利に運ばれるかも知れない。だからこそ、初撃に賭ける!
「はぁ~ふぅぅぅぅ」
息を整えてその時を待つ。速さには自信があるから、先手はとれる筈だ。問題はどこから現れるか分からない所。風を掴めば周囲の状況も判断出来るんだけど……最低でもイクシードを発動しないと風は掴めない。
今から不自然に風が吹くと警戒されるかも知れないからな。それに根本的に掴めそうな風ないし。いや、風がないなんて無いらしいけど、僕の技量ではエアリーロの言ってたみたいには出来ないんだ。
だからここは大人しく、これも一つの自慢の目で見つけるよ。暗闇から姿を現す最初の足。それが見えた瞬間に僕は動く。鞘から素早く片側のセラ・シルフィングを抜いてその剣線を向ける。
「何やってるんだ貴様は?」
「テトラ!?」
しまった。止められな−−−−ま、良っか。僕は無理矢理に止まるのを止めて勢い良くセラ・シルフィングを振り抜く気満々だ。
「おい! おまっ−−え!? マジか!!」
ガッツゥゥゥゥゥンと良い音を響かせてテトラの奴の腕にぶつかるセラ・シルフィング。
「ちっ、ガードしたか」
「貴様聞こえてるからな。止めろよ! てか、止めるだろ普通! もう俺達は戦ってないんだからな!」
全く何正論をほざいてるんだか。邪神のくせに。テトラの奴は僕の行動に不満があるらしい。
「なんで?」
「なんでってお前……」
僕の純真無垢な顔と言葉にテトラは困惑してるよ。具体的には「こいつ頭がおかしくなったんじぇね?」的な酷い顔されてるよ。失礼な奴だな全く。
「あ~はいはい分かりました。わるうございましたね。つい出来心だったんです。ここで止まるのも難しいし、テトラなら別にこのまま振り抜いたって大丈夫だよなって買っての行動だったのに」
「だったのに~じゃねえよ! 明らかにお前の怠慢じゃねーか。もう一度やりあうかコラ?」
「それは勘弁」
もう一度やって勝てるなんて思ってないから。たく、本音を言っても怒るんだから困った物だよ。褒めてるじゃないか。テトラだったからこそ、僕は止めなくてもなんとかしてくれる思ったんだ。用はお前の力を信じてた訳だよ。死線をかわし合った者どうしには信頼関係が構築されるって言うじゃん。それだよそれ。
「分かったかテトラ? 僕はお前を信頼してたのだ」
「分かるかボケ。それでむせび泣くとでも思ったか。次ぎしたら殴り返す」
なんて物騒な奴。流石邪神。
「止めろよ。お前の攻撃ってえげつないんだから、死ぬだろが」
「はは、まさか……俺はお前を信じてる。信頼関係だからな」
キリッと爽やかな表情で何言っちゃってんのこいつ。随分テトラも俗世にまみれたな。それにこいつ完全に僕の事殺す気だろ。どの口が信頼関係とかほざいてるんだよ。その爽やかな表情の裏には遺恨が見えるわ。
まあここはこれ以上変な話題で間延びさせるのもどうかと思うので、その事は返さずに、僕は全く別の話題……と言うか、本来は真っ先に聞くべき事を聞くよ。
「まあそんな事より、なんでお前がここに居る?」
「ふん、そんなの分かり切ってる事だろうが」
面倒くさそうにそう言ったテトラ。だけどさ、こっちは分かんないから聞いてるんだけど。ほんと、こいつは自分が知ってる事を他人も知ってるだろうって思うその癖直した方が良いと思う。僕はまだ心が寛大だから良いけど、気の短い奴とかそんな言い方してたら直ぐにプッツンするぞ。まっ、こいつの場合は相手が切れたって関係無いだろうけどさ。
力で全てをねじ伏せられるだろうしね。
「お前ってさ……」
「何だよ?」
僕は少し逡巡するよ。そして口先まで出掛かってた言葉を飲み込んで波風立たない方に切り替える。
「まあいいや。それよりもちゃんと説明しろ。なんでお前がここに居るんだよ? てかどこだここ? さっきまでは確か……うっ」
よく考えたらさ、今見たのはペラペラ喋って良い物じゃないよな。だってとってもプライバシーに関わる物だった筈だ。既にあの世界からサナは消えてるのだとしても、僕的にまだサナは存在してる訳だからな。ペラペラとは喋れないよ。でもテトラの奴は僕が言おうとしてた事が分かってるみたいにこう言うよ。
「別に隠す事でもないだろう。俺も多分お前と同じ物を見たからな」
「そうなのか?」
「貴様はここがどこだか本気で分かってない様だな。俺達は金魂水の力の元に居るんだ。あの時発動した金魂水の光に包まれただろう」
「ああ、確かに包まれたな」
ピカーって光ったもんな。
「お前はあの光に巻き込まれたのが自分だけとでも思ったのか? きっとあの場に居た者ならあまねく今のは見た筈だ」
「って事はシルクちゃんやサラ達もって事か……」
あれを見て皆がどういう反応をしてるのか気になるな。でも待てよ。けどそれじゃあおかしいだろ。
「ちょっと待て、じゃあなんで今ここには僕とお前しか居ないんだよ? 皆が巻き込まれたのなら、皆がここに居る筈だろ?」
「他の奴等にはここまで来る資格が無かっただけだろ」
「資格って何だよ?」
「さあな、俺が知るか」
この邪神め。適当な事ばかりほざくな。そもそもここがどこなのかまだちゃんとした説明してないぞ。さっさと教えろ。
「ここはアレだろ、さっき見た事をふまえて、そして願いを考えれば分かるんじゃないのか?」
またナゾナゾ形式にしてきやがったなこいつ。とことん考えさせる気か? 答えを安易に提示しないポリシーでもこいつは持ってるのかよ。面倒くさい。こっちは誰かさんとの戦闘で疲弊してるんだよ。頭を使うのはキツいのに……でも腕力はもっとキツいし……勝てないしな。全く……
「はぁ」
僕は思わずため息付くよ。取りあえずセラ・シルフィングを鞘に戻して少し考える。さっきの事を願いをふまえれば分かるってテトラは言ったな。さっきのはサナの過去だった。それは間違いない。そして僕達の願いはクリエの願いを叶える事だ。そしてそれはサナを月へ行かせる事。けどもっと具体的に言えばそれってもう一度向こうの世界に返したかったって事で、それはつまりクリエはサナを両親に会わせてあげたかった訳だよな。
月へ行けば、それが叶うとクリエは信じてた。そしてその願いを金魂水が叶えてくれる訳だ。けどその前に見せられたのが今の奴? 関係はあるけど、必要だったのか? と言われれば疑問だよな。なんで金魂水はあんな物をわざわざ見せて来たんだろうか?
それとも金魂水にそんな意思はなく、偶々願いを叶える過程で流れ出てた物に僕達が巻き込まれたのかも知れない。
「う~ん、だから何だっけ?」
糖分足りねぇ~。確かに金魂水は願いを叶えようとしてくれたとは思う。で、ここは何−−と問われるとやっぱり???じゃね? サナの記憶を僕達は見たんだろう。
「あれ?」
だけど考えてみたらアレは本当にサナの……サナだけの記憶だっただろうか? 僕はアイツが知り得ない事まで知ってたと思う。両親の気持ちとか、その行動は確実にサナが知り得ない範囲にまでも達してた。
それってつまり……あの時の映像にはサナだけじゃない意思の記憶も混ざってたってことに。それにそれが考えられるのは自ずと絞られるよな。多分サナの両親はリーフィアを装着してその時をLROの一歩手前で待っててくれた筈だ。それならあり得る……のか? でもあの記憶はそうとしか思えない。
実際快く二人がやってくれたかは分かんないけど、もしかしたらの望みを賭けてくれたかもしれない。だから金魂水はサナだけじゃない、家族の思いを届けれた……
「なあ……今のってもしかして僕達だけに見せられた物じゃないんじゃないか?」
「どういう事だ? 金魂水はそんな節操のない事はしないと思うがな」
節操のないね。確かに個人情報を見境無くバラまくなんて事はしないだろう。そんな事したら大問題だ。沢山の人に伝えたい気もするけど、関係者からしたらそれはあんまり喜ばしい事じゃないよな。僕達は結局部外者だ。だからこそ心は痛んでも、その絆に感動したり、姿勢に感銘出来たり、良い所だけを美化出来る。
でもきっとサナや両親は違う。辛かった事も、悲しかった事も、やっぱり思い出す事になるんだ。それを綺麗だったと思える僕達とは違うんだよな。
「確かにそんな誰彼構わず見せるなんて事はしないだろう。だけどさ……アレがサナやその両親から流れた物なら……互いの思いが流れ合うって事は無いのか?」
「つまりお前は、あの映像を流した互いも見たんじゃないかと言ってるのか。それなら確かにあり得なくは無いな」
だろだろ。なんだか頭が回って来たぞ。どうやら疲れのせいじゃなく、テトラの奴が現れたから無意識に拒絶反応を起こしてたみたいだな。そして今は慣れて来たと、そう言う事だろう。
「だがそれでどうなる? 意味があるか?」
「多いにあるだろ。まだ出会ってる訳じゃないかも知れないけど、互いにその時には知り得なかった事を知ったんだ。それに……それが今だからこそ意味があるって事もある」
後は疑いとかもきっと晴れたろ。今のを見たら、サナがこの世界に居ると……きっと信じれる。何となく分かって来たぞ。この空間の事もさ。テトラが言った資格の事はよくわからないけど、金魂水は確かに願いを叶えるアイテムなんだ。しかもちゃんと僕達の思いを汲み取って。あの時伝えなかった事、見せようとしてなかった部分、それを見せる事でいろんな物が取っ払われるんじゃ無いだろうか。
例えば親としての意地とか、娘としての生きれなかった責任とか……重い事だったから、生きようとしてた時、救おうとしてた時には言えない事、見せれない姿ってのがあったんだよ。だからそれを今知る事に意味があるんじゃないかって……さ。
「死人に口は無いからな。本当なら墓の前で一方的に喋るだけで、知る事なんか出来なかった筈の事か」
「そう言うと恐ろしく残酷な事に聞こえるな」
「死とは残酷な物だろ」
確かに。そればかりは同意するよ。死は残酷だ。いつか誰かに絶対に……その時は訪れる。今の科学技術でそれを回避する術は無い。死は残酷で……だけど全ての命に平等に降り掛かる。違いは速いか遅いかだけ。
「それにしても……」
「どうした? 行き詰まったか?」
なんでこいつは「その程度か?」みたいな顔をしてるんだよ。僕に何を期待してるんだ。
「別に何にも行き詰まってない。ただ少し疑問がな」
でもまあこれはいいや。疑問だけど、納得もできるんだ。だからそう言う事にしておこう。僕はテトラを置いて歩き出す。
「おい、疑問って何だよ?」
「それはいい。それよりもこの場所だろ。金魂水はちゃんと望みを叶えようとしてる。そのお膳立てが今見た事なら、次のイベントは決まってるんだ。最後は、それしかないってのがある」
「まあそうだろうな。今までやって来た事を考えればそれしかない」
後ろから付いて来るテトラは既に分かってるらしいから余裕だな。まあ焦る場所でもないんだろうけどさ。こいつ的にはもう全部終わったみたいな物だしな。暗闇を僕はズンズンと進むよ。僕達がここに居る事はきっと意味がある事なんだ。そして望みを叶える為に必要な要素は両親とサナの存在。
両親は前もって日鞠がリーフィアを渡してくれてたから良いとして、問題はシステム的にはイレギュラーな筈のサナなんだ。それにサナは既に僕の為に消えてしまってた。それは完全にじゃないんだろうけど、元々システムに紐付けされてないその曖昧な存在を金魂水は引っ張れないんじゃないだろうか?
だからこその僕達でこの深淵。
「分かった様だな。ここはただの闇じゃない。よく見ればお前にも分かるだろう」
そんなテトラの言葉に後押しされて、僕は注意深く周りを見るよ。するといきなり目の前に鉄柱みたいなのが見えた−−−−気がした? だけどそれは僕にぶつかる事は無かったよ。なんか普通に通り抜けられた。
「あれ?」
「お前には害がない物だなこれ等は」
そう言うテトラの奴はその実態が無い鉄柱に何故か触れられてる? 僕には害がないってどういう事だよ? するとテトラは周りを見回して静かにこう言うよ。
「ここはきっと墓場だ。コンピューター的に言うと、ゴミ箱じゃないか? つまりはそう言う場所で、ここにぶち込まれてるのはLROを構成する上でいらなくなったゴミが溜まってるんだろう。LROだってそう言う物の筈だろ」
「そう言う物……なのか?」
確かにネットワークを使ってるし、あのリーフィアには飛んでもないコンピューターがつまれてると考える方が自然か。でもパソコンの形してないからなアレ。それに別途PCが必要って訳でもない。よくよく考えたらこれだけの世界を構築してる物が完全にPCレスで稼働し続けてるのって凄い事だよな。
まあ一部ではリーフィアの記憶媒体はネットワーク自体とそれに真しやかに所持者の脳……とも言われてたっけ。大容量ストレージを必要としないのもハイスペックのCPUとかを詰んだパソコンの頭を必要としないのも、柔軟性に優れてる脳と言う最強のコンピューターを利用してるから……でも流石にね。
あれだろ? 実は本社に超凄いハイパーコンピューターみたいなのが一杯あってそれでLROの世界を構築して僅かな個人データだけをリーフィアで管理してるとかだろきっと。それなら現実的だな。
まあ本当に現実的なのかは、そこまでパソコンに詳しい訳じゃない僕には分かんないけどね。でもまあ確かにゴミとかはやっぱり出るんだろうなってのは分かるよ。パソコンも定期的にシステムの最適化とかして不要な物は一斉排除だからな。デフラグだっけ? 様はどんな優秀なコンピューターにもそれは必要ってことだろう。
僕達の記憶もどうでも良い物は忘れる様になってるって言うもんね。忘れる事は大切だってことだ。勿論覚え続ける事が大切な事だってある。そこの案配がやっぱりコンピューターと脳の違いなのかもね。
脳は勝手に自然にいらない事は忘れさせてくれる。まあ時々大切な事も無くなるけど……それは記憶の引き出しの奥の方に行ってるだけと言われてるよね。そこら辺の整理を脳は日々独自判断して行ってるんだろう。
だけどPCには命令が必要だ。「今から不要なファイルを抽出して排除しなさい!」って命令が無いとやってくれない。まあ毎週自動でっても出来るけど、深い階層の物とかを消すにはやっぱり人が判断して消すしか無い。
脳の独自の判断はやっぱり凄い事なんだと思う。全ての事を事細かく覚えてたら、きっと発狂するんだろうな。人が生きる為には忘れる事が大事なんだ。そしてPCも最終的には脳みたいな物をどこかで目指してるのかも知れないから、やっぱり忘れる事が大事なんだろう。
これだけの世界ともなると一日で出る物も半端ないんだろうなって思う。きっといろんな所から僅かずつだけどそう言う物は出てて、ここはそれを纏めて排除する所。
「つまりここは言うなればLROの掃き溜めか。奥に潜ったサナに繋がる金魂水が用意した道だと思ってたけど、そんな大層な物じゃなかったと」
「間違っては無いだろ。そのサナとかに続く道は道だ」
確かにあの時、僕をリアルに返した代償でその力を使いすぎたサナは、こう言う所にぶち込まれてもおかしく無いな。そもそもサナ達の様な存在こそ、LROにとっては不要だもんな。それがメッチャ増えてるから近々一斉排除の兆しもあるみたいだし、それならここにはサナ以外のそう言う人達が居てもおかしく無いな。
「…………ゴク」
そう思うとこの暗闇がなんだか怖くなって来るな。霊を見たれば枯れ尾花って言うけど……なんだろう、暗闇の向こうに誰かが手招きしてる様に見える……気がする。
「何を震えてるんだ貴様は?」
「いや、別に……それよりも思ったんだけど、無闇に動いてサナは見つかるのか? 結構ここ広そうだぞ」
僕達が仰せつかった命令はきっとサナを引っ張り上げる事。その役目を金魂水は僕達に託してると思う。ならもう少し親切設計でお願いしたいよね。これじゃあどこを目指せば良いのか……
「心配する事も無いだろう。向こうだって実は気付いてるんじゃないか?」
「何を根拠にそんな事を……」
気休めなんて止めろよな。それともその目は実は特殊でこういう暗闇の方がよく見えるとかか? あり得そうだなオイ。
「根拠も何もお前には見えないのか? やはり自慢は速度だけか」
「むっ……」
絶対こいつワザと煽ってるよな。でもそこまで言われちゃ仕方ない僕は周りに目を向ける。でもやっぱり何も見えないぞ?
「お前はプレイヤーだからかも知れないな。俺達と同じで完全に存在してる訳じゃない。全部落ちたと言ってもやはり定着してる訳じゃない。まあだからこそ希望があるのかも知れないがな」
希望ね。それってリアルに戻れるかもしれないって希望だよな。確かに何か違いがあるのなら、それは猶予なのかも知れない。でも猶予って言っても既に三年近く落ち切ってる奴も居るしな。きっと命改変プログラムならそこら辺をどうにでも出来るんだと僕は思ってる。
まあだけどそれが僕にまで適用されるのか……は考えたら謎だよな。命改変プログラムの存在が希望だけど、それって完全にセツリの為に用意された物の筈だからな。
「お前はプレイヤー側でまだここを見てる。いや、正確にはだからこそ綺麗に見栄え良く見せられてるとでも言うのか。取りあえず落ち切ってるお前ならこっち側の視点も見えるだろう。集中しろ。さっき鉄柱が見えた感覚を思い出せ」
無茶ばっかり言う奴だな。鉄柱見えたのは偶々だよ。どうやったかなんか分かるか。でもそれをしないとサナを見つける事は出来ないらしい。やるしか無いよな。どうやら瞬きの瞬間には僅かに見えてるんだよな。なら高速に瞬きを繰り返せば……と思ったけど流石に無理だと気付いた。
なんだろう……もしかしたら逆にしっかり見ようとしない方が良いのかも知れない。しっかり見ようとするからシステムは見栄えを気にする……のかも。だから僕は薄目にして全体をボヤーっと見る。すると不要な物が大量に見えて来た。そしてその中で隠れる様に動いてる小さな影を見つけた。
(まさかアレが?)
「待て!」
僕は逃げるその影を追いかける。薄目じゃないと見えないけど、そのせいでいろんな物にぶつかって……ってぶつからなかったや。避ける動作が僕には必要ない様だ。これなら追いつける。向こうはちゃんと障害物避けてるからな。てかアレがサナならなんで逃げる?
それに逃げ方がなんかおかしい。何かを庇いながら逃げてる様な……けどそれも捕まえれば分かる事だろう。僕は近づいた影に手を伸ばず。だけどその体に触れたと思ったらスカッと通過してしまった。
「ってそうか、周りの物と存在が同じなのか……」
僕がこのある筈のゴミに触れられないのなら、サナにだって触れられる訳ない。じゃあどうすれば? 触れられないのならサナを止める手段が無い。それに本当になんで……なんで逃げるのか僕には理解出来ないよ。
約束した筈だろ? 迎えに行くって。ちゃんと迎えに来たのになんで………僕は立ち止まってその影の背中を見つめる。拳を握って歯ぎしりをして、そしてこう叫ぶよ。
「何でだよ……何で逃げるんだよサナ!!」
すると僅かに反応があって、徐々にその影のスピードは緩くなって、遂には止まる。そしてこんな声が聞こえた。
「逃げたくなんか……無いよ。でも今会ったら、頑張ってくれたお兄ちゃんの事を責めそうなんだもん!」
「責める?」
どうして? そう言おうとしたら、サナの姿が徐々にハッキリ見えて行く事に気付いた。双方がハッキリと認識したから、曖昧だったプロテクターが解けたのか? 影が消えてくサナ。薄めじゃ無くても見える様になるのはありがたい。
だけどその時、僕はもう一つの物を見る事に成った。サナが責めると言った訳が……その姿を見て分かったよ。サナが苦しい顔して落とす視線の先……彼女が抱えると少しは大きく見えるその物体は……
「クリエか?」
僕の言葉にサナはコクリと頷く。クリエはその役目を全うして消えた……つまりは、そう言う事か。ピクリとも動かない……ダランと手足を垂らしたその姿を見て、僕の心は慟哭の叫びを上げる。
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