命改変プログラム

ファーストなサイコロ

風が吹く時

 セラの、鍛冶屋の、そしてリルフィンの協力で僕はテトラの力を突破した。眼下に見えるその姿に向かって素早く風の刃を放つ。テトラは靄に突っ込んでた腕を出して風の刃をガードする。だけどそこで地上を動く陰が見えた。
 そしてその影はためらう事無くテトラに近づいてく。そして次の瞬間、膨張した風の刃の攻撃の中からテトラの奴を叩き出した。叩き出されたテトラは背中から倒れて床を滑る。


「くっ……貴様等、一対一の勝負を邪魔するか!!」


 黒い靄がテトラから沸き立つ。だけどその瞬間、直上から細長い光が降り注ぐ。上を仰ぐと聖典が三機見える。その聖典は三角を作る様に体を接近させて、クルクルと回りながらテトラへ向けて砲撃を次々とかましてる。


「小賢しい!!」




 その言葉と共に黒い球体を放つテトラ。だけど聖典はそれを三方に分かれて素早くかわす。凄いな。動きがキレまくってるぞ。そう思ってると、今度は床に振動が伝わって来た。そしてテトラの足下から沸き立つ岩が奴を空中へ跳ね上げる。


「「「スオウ!!」」」


 その瞬間三方から聞こえたそんな声。僕は床を蹴ってテトラへ向かう。目の前に迫る僕に対してテトラは言うよ。


「貴様はこれで--」
「言ったろ? 僕達は繋がってるんだ。一対一なんて鼻から考えてない! 繫がる力は僕の所で終わってた訳でもない。それに僕達の狙いははなっから金魂水一つだけだ!!」


 球体を作ろうとするその腕を叩き弾く。するともう片方の手を向けようとするけど、それよりも速くセラ・シルフィングはテトラの体に届く。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 黒い光が線となって床に伸びる。ようやくの直撃。僕は息を整えながら地面に着地する。


「はぁはぁ……」
「スオウ、アンタの回復薬助かったわ」
「……それは良かった。てか、お前、その姿……」


 セラの奴、聖典だけじゃなくその体も光を放ってる。これってまさか……


「浄心水よ。このくらいしないとダメでしょ? 既に何機か壊されてるんだし、さっきの場面でアンタを助ける為には通常状態の収束砲じゃ威力が足りなかったのよ」


 どうりで強烈に瞼に刺さって来た訳だ。浄心水はたった三度の限界突破。セラの奴はこれで三回目……それをここで使うなんてな。


「例えどこかでこの力が必要なのだとしても、今を置いてそれはないわ。私がそう判断したから別に良いのよ。精々感謝しなさいよね」


 そう言って不遜な態度を取るセラ。いつも通りだな。感謝はしてるよ。ほんとこの上なくね。セラだけじゃなく、皆にだ。鍛冶屋にもリルフィンにもそして五右衛門もといテッケンさんにもね。皆ちゃんと僕の飛ばした回復薬も受け取って、もう一度立ち上がってくれた。
 テトラの奴が一対一に拘ってくれたくれたおかげでスキルを一つだけ取り戻した皆に気付かないで居てくれたのも大きいな。てか、セラの後に現れた鍛冶屋もその体が光ってる。つまりは浄真水を使ってるのか。


「安心するな。これで終わる奴じゃない。そうだろ? 今の内に金魂水へ」


 鍛冶屋の奴がそう言って金魂水の方を見る。確かにそうだな。人数を増やしたのもそれが目的だし、速く金魂水を手にして、願いを……だけどその時、沸き立ってた煙から黒い光が立ち上がる。そしてそれに目を奪われた瞬間、靄から飛び出したテトラに鍛冶屋が吹き飛ばされた。


「貴様等の狙いはよくわかった。お前達は勝負をする気はないと言う事か。くっくっはははははははははは」


 高笑いを始めたテトラ。どうした? 頭狂ったか?


「正しい選択だな。だがそれは侮辱でもある。複数なら俺を出し抜けると思ったか貴様等?」
「少なくとも今のお前ならその可能性はある!」


 こっちも全員スキルは一つずつだけど、テトラだって使えるスキルは二つだけ。一人ではそれでもキツかったけど、数が違えば状況は変わる。


「ならやってみるんだな。だが金魂水は渡さん!!」


 その瞬間広がる靄。だけどそこに素早くリルフィンの奴が咆哮を浴びせて広がりを食い止める。広がりが止まれば広範囲からの攻撃は出来なくなる。攻撃的なスキルじゃないけど、リルフィンのスキルではこの咆哮が一番良い仕事をしてる気がする。
 スキルを掻き消すか、強制停止……多分そんな効果がこの咆哮にはある。ローレが一緒に居たときは対策されてたけど、今のテトラを見るとテトラ自身の対策じゃ無かった様だ。てか、二つだけのスキルじゃ対策の使用も無いのかも。
 万能な筈の奴の靄も、今はスキル制限の枷にはまってるからな。


「それはこっちの台詞よテトラ。金魂水はアンタなんかに渡さない!!」


 広がりが収まった靄を聖典の攻撃が風穴を開けて行く。いつもなら突き抜けた穴なんか直ぐに閉じるんだけど……今の聖典はそれを許さない速さで攻撃を放ちまくってる。流石はたった三度の限界突破の力だ。セラの聖典操作が神がかってる。
 複数台の聖典が空に描き出す黄金色の軌跡がとても美しく輝いてるよ。最初この力を得たときは僕もセラもマトモに制御なんか出来なかった。そのせいで大変な事に成った訳だけど……今はもうそうじゃない。
 限界突破した状態に、体が慣れたって事か? 聖典の攻撃で闇が晴れる。まっさらな状態で晒されたテトラ。そこに五右衛門さんが帽子を抑えて接近戦を仕掛ける。でも彼の場合、何かスキルを発動させてって訳でもないのに、流石に無理がある様な。
 てか、彼はどのスキルを回復させたのか? いや、あの姿なんだから、変身……か。


「いい気になるなよ。その程度で俺の目の前をチョロチョロとするな!」


 そう言ってテトラは攻撃を繰り出す彼の足を掴んで振り回す。そして動こうとしてたこっちに向かって投げて来た。そう来たか! だけどその時奴は気付く。自身の周りに投げ放たれた物体に。そして次の瞬間その物体は弾けたり中身をぶちまけたり、煙を発したり電撃を放ったりと様々な効果を発揮する。
 あれは攻撃系のアイテムなのか? 彼の狙いは自身の攻撃じゃなくそっちだったって事か。


「僕の場合、選ぶ事が出来なくてね。すまない。だけど出来る限りやってみるよスオウ君。アイテムの効果が続くうちに!」


 そんな言葉と共に彼は自身で態勢を立て直す。僕は頷いて彼を超えて前に出る。風の刃を先に飛ばしてその後に自身でテトラに直接攻撃を加えに行く。


「うおおおおおおああああ!!」


 聞こえる叫び。かなり頭に気始めたのか、唸る様な叫びとともに、大きな球体が見えた。そしてそれを床に叩き付けるテトラ。凄まじい衝撃で近寄る事が出来なくなった。それと同時に叩き付けた反動を利用して高く体を上昇させる。あいつ、距離を取る気だ。
 今のテトラのスキルはお世辞にも近距離向きとは言えないからな。遠距離からの圧倒的な数とそれに似合わない精密射撃と複雑操作が売りみたいな物だ。そりゃあ距離も取りたくなる。だけどそれをそう易々と許す訳には行かない。
 そう思ってるとテトラの後方から聖典が撃ち落としに掛かる。ナイスだセラ! 僕もウネリを強めてテトラに向かって飛び上がる。


「逃がすかテトラ!!」
「逃げるだと? ふざけた事を抜かすなよ。俺が貴様等相手に逃げるなどあり得るか!!」


 そう言ってテトラは僕達の攻撃をその身で甘んじて受けた。だけどそれは覚悟の上で耐えうると判断しての行動。固く握る刀身と共に、凶悪な顔してこう言うよ。


「これが貴様等の攻撃の限界か?」


 無理矢理振り回されて僕は地面に投げ飛ばされる。そして聖典にも同時に靄を出してそこから反撃に転じる。だけどセラの感覚は研ぎすまされてる。大量の球体を凄まじい動きでかわして、更には床に向かう僕の方にも来てくれた。
 僕は聖典を掴み一気に上昇。そこからもう一度テトラに仕掛ける。


「まだまだあああああ!!」


 僕は真上からテトラに迫り、セラ・シルフィングを連続で叩き込む。今度は掴まれない様に意識して最初の初撃はわざと擦る程度の物に抑えたよ。テトラの顔を片側の剣で狙って視界を遮らせてその間にもう片側を叩き込んで態勢を崩させる。
 一撃が入ればこっちの波に乗れてそれから一気にテトラを地面まで無理矢理落としきる。激しい衝撃がこの場所全体に伝わった。


「はぁはぁ……」
「スオウ退け!!」


 そんな声に思わずその場を離れる。すると上から、鍛冶屋の奴がその重量級の鎚を振り下ろし、床のヒビを促進させる。その衝撃で僕が立ちこめさせてた煙が鍛冶屋を中心に円周状に広がった。多分鍛冶屋は鉱石操作を復活させたんだろうから、あの武器の攻撃が底上げされてる訳は無いんだろうけど、純粋な物理重量と高い所からの落下スピードや加速度を足して威力を上手く加算させたな。
 スキル使用してなくてもえげつない破壊力だ。だけど問題はそこにテトラの奴が居ない事。周囲の球体での攻撃も止まってるって事はどうやら靄を使っての移動で脱出したか。いったいどこに?
すると空を黄金色の光が走った。その先で「づ……」っと僅かに聞こえる声。そっちに視線を向けると靄から球体と共に姿を現してるテトラの姿があった。
 てか見つけるの早いなセラの奴。


「私の目から逃れられないわよテトラ!!」


 その言葉と同時に聖典が一気にテトラへと攻撃を炸裂させまくる。本当に今のセラはキレにキレまくってる状態だな。セラは聖典から見える視界も共有してるみたいだから、出してる聖典の数だけ目がある様な物なんだろうけど……実際それだけ目があっても活用出来る自信は僕には無いな。
 それに今までの数倍の速さで聖典は走ってるし、それでいて今までよりもその動きに無駄が無い。伝達速度でも変わってるのかな? それにしてもセラの頭は一体どうなってるのやら。どれだけの処理を同時にやってるんだよ。


 聖典の攻撃を甘んじてその身に受け続けるテトラ。だけどそれは何も出来ないから……って訳じゃきっとないだろう。奴は顔の前で腕をクロスさせて防御態勢を取ってる様に見えるけど、見方を変えれば力を貯めてる様にも見えなく無い。
 僕と鍛冶屋も急いでテトラを目指す。だけどその時気付くよ。なんだかテトラを中心に黒い靄が丸く空間に広がってる様な……そう思ってるとテトラの奴が顔を隠してた腕を腰まで下げて大きく叫ぶ。


「ぜああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 その瞬間全方位に向けて一斉に放たれる大量と言う言葉でも足りない程の球体。これは避ける……なんて出来っこなさそうだ。


「下がれスオウ!!」


 そう言って前に出る鍛冶屋の手には鉱石が握られてる。それを手で床に押さえつけると、一際強い光が輝いてその鉱石が僕達を守る壁になる。その壁にテトラの奴の攻撃がこれでもかって位に衝突しまくる。


「くっ……っつ!」
「鍛冶屋!」
「安心しろ、持ってみせる!」


 力強くそう宣言してくれた鍛冶屋。だけどこれは……他の皆は大丈夫なのか? そこが気になる所だ。でもみんなの状況を確認する事は出来ない。降り注ぐ球体が激しい煙を巻き起こして視界を遮ってるからだ。そしてそこかしこから聞こえて来る崩壊音。
 周りにあった鳥居さえも壊しまくってるんじゃないのか? てか、こんな無差別攻撃……金魂水は大丈夫なのか? テトラの奴が金魂水を壊すとは思えないけど、この状況で無事とも思えないんだよな。


 続いた破壊の音がようやく沈静化してく。どのくらい続いただろうか、かなり長く続いてた気がするけど、それでもきっと一・二分程度なんだろう。でもそれだけ攻撃を続けるってかなり大変な事だ。しかもそれがこれだけの規模になると尚更だよ。
 テトラの奴はこれで決める気だったのかも知れないな。かなりボロボロになった鉱石の壁。だけど良く耐えてくれた。でも流石に限界だったのか攻撃が止んだのを確認すると堰を切った様に僕達を守ってくれてた壁は崩壊する。そしてそれと同時に鍛冶屋も倒れ臥す。


「おい!」
「心配ない……流石にどっと疲れが来ただけだ。鉱石操作は特殊なスキルだからな」


 強がってるけどなんだか汗がヤバいぞ。それだけこれだけの攻撃を防ぐ為に維持し続けるのが大変だったって事だろう。もしかしたら鉱石操作で形を変えた物の強度のそれは勿論鉱石自体の依存度も高いだろうけど、術者の精神力とかにも影響されてるのかも知れない。
 普通はもの凄い行程を踏んで形を変える物を意思一つで思い通りに形を変えさせるんだからな。それを行う力の分、どこかに負担がかかってる筈なんだ。普段はそうそう気にならない程度なのかも知れないけど、それを続けさせるってのは大変だったって事か。


「俺の事は良い。それよりも他の奴等は……」
「セラ達だな……」


 僕は周りを見るよ。だけど周囲は煙で何も見えない。でもあの状態のセラならどうにかしてそうではあるよな。聖典は防御も出来た筈だし……だけどリルフィンや五右衛門さん……それにシルクちゃんはどうだろうか?
 テトラの攻撃は鳥居までも巻き込んでた。下手したらシルクちゃんの所にまで届いてたかも知れない。けどよく考えたらシルクちゃんは何処に行ったんだろう。全然姿が見えない。まあだけど結局見えないのなら、絶望しても仕方ないよな。仲間達の事を僕が諦めてどうするよ。


「大丈夫だろきっとさ。そんなやわな連中じゃない」
「やわな攻撃でもなかったけどな……」


 それを言うなよ。不安が増すだろ。「そうだな」だけでお前の言葉は良かったんだ。不安をあおるな。みんなきっと大丈夫--それを信じさせろ。すると煙の向こうから聞こえて来る足音と共にその姿が見えて来た。


「勝負あったな。残ってるのは貴様だけだ」
「何?」


 なにを根拠にそんな事を言ってるんだこの邪神は? やすやすとは信じないぞ。


「貴様以外は地に伏した。この煙が晴れれば嫌でもその事実が入って来るさ」


 ……マジ、なのか? テトラのこの余裕は、そうと思えるかも……いや、僕は頭を振ってその考えを追い払う。揺さぶりだこんなの。


「僕はみんなの事を信じてる」
「信じてようがどうしようが、事実はかわらん。貴様以外はもう行動不能だ。結局は事実が結果として残った訳だ」


 そう言って手のひらで翳すそれは……


「金魂水!」
「驚く事もないだろう。いつだって取れた。ただやらなかっただけだ。いつだって取れるんだからな」


 遊んでたやってただけ……と、それを強調したいみたいな言い方だな。だけどこれは不味い。再び金魂水がテトラの手の中に。


「それで道を開いて神の国に戻ったとして……シスカはお前を歓迎するのか?」
「どういう事だ?」


 どうにかしないと行けない。僕は少しでも時間を稼ぐ為にテトラが食いつきそうな話を考える。そしてそれはやっぱり女神の事だよな。反応が直ぐに返って来る。


「わからないのか? 女神は僕達に協力をしてくれたんだ。それってクリエに肩入れしてるって事だろ? チャンスをくれたってお前は言ったけど、クリエを犠牲にして戻って来たお前をそんな女神が笑顔で迎えるとは僕には思えない」
「貴様はシスカの事を何も知りはしないだろうが」
「確かに僕は女神の事は何も知らない。だけど慈悲深いんだろ? そんな女神が許すのかよ。お前の行動を。僕にはとてもそうとは思えない」


 テトラは色々と割り切れてるっぽいけど、女神もそうなのか? 色々と苦しんだって話だけどさ、それって彼女が優しいからだろ。そんな女神がテトラの行動を許すのか? クリエは一回だけお母さんって言ってた。最初は誰のことなのか分からなかったけど、昨晩の話を聞いてそれがきっと女神だと気付いたよ。
 クリエにだって女神は情を向けてたんだ。テトラみたいにただの道具となんか見てなかった。クリエの幸せだって、彼女はきっと願ってくれてた筈だ!


「だからクリエの願いの為に使わせろと? それは違うな。シスカは確かに慈悲深い。なんにだって直ぐに感情移入してしまう奴だ。だが、一線は守ってる。神という立場として贔屓はしない。結果を受け入れる強さもある。
 確かに怒ってるかも知れないが、分かってくれるさ。だからこれを使う事に迷いは無い」


 神として割り切ってると……そう言う事か? テトラは腕を伸ばし、金魂水を顔の先に持ってく。光を讃える金魂水。


(まずい!)


 願いを口にする気だ。それをさせたら終わってしまう。僕達の戦いが……クリエの、サナの願いが……そしてきっと待っててくれてる人達の行動が無駄に……


「叶えろ金魂水よ! 俺の願--」
「やめろおおおおおおおおおおおおお!!」


 僕はテトラを目指して爆進する。だけどその時、煙の中から光が突き進んで来てテトラの腕にピンポイントで当たった。跳ね上がる金魂水。僕とテトラの視線がそれを追う。そして互いを一瞬見やり、同時に飛んだ。
 けどそこへ再び黄金色の光が降り注ぐ。幾重にも重なるその光がテトラの行動を邪魔してる。ありがたい! これはきっと聖典だ。自身が動けなくなっても、セラの奴は意思だけで動かせる聖典でフォローしてくれてるんだ。
 今の内にテトラの奴を出し抜こう!


「ん?」
「この程度で俺を止められると思うなよ!!」
「げっ!?」


 テトラの奴、大量に降り注ぐ砲撃をその身に受けながらも進んできやがる。もういちいち一個一個の攻撃にまでかまってられないと言う事か。僕とテトラは互いの剣と拳をぶつけ合う。轟く衝撃が周囲に弾けるけど、今の状態ならマトモにぶつかるとこっちの攻撃の方が強いのか、テトラの拳に傷が出来てる。
 あの黒い力を纏って殴る事が出来ないのは大きいな。今でもおかしな攻撃力してるけど、やっぱり力を乗せてた時とはかなり違うんだろう。しかも攻撃力で僅かでも上回ってるのなら、こっちに分がある。なんせスピードは元からこっちが上だ!! 
 テトラと僕の攻撃に差が付きだす。攻撃回数がこっちは違うんだ!しかも今までと違って僅かでも押せるのならこっちの勢いが止まる事は無い!


「スオウ!」


 空中で押し出した所で聞こえたセラの声。その時真上から強烈な輝きが射して来る。僕はその声の意味を察してテトラの奴を床に弾き返す。そしてその瞬間聖典数機から砲撃を合わせた砲撃が放たれた。黄金色の光がテトラに降り注ぎ、響くテトラの叫び。
 これって収束砲? だけどあれは中心にセラ自身が居なくちゃダメだった様な……いや、限界突破してる今なら可能なのか。取りあえず、今がチャンスだ。僕は地面に再び落ちてる金魂水を目指す。だけどその時、後方から苦しげな声が聞こえて来た。


「まち……やが……れ!」


 後方に目をやると、そこには変わらない光が降り注いでる。流石に……なっ、幾らテトラでも今の弱体化した状態プラス、スキル制限では限界突破してるセラの聖典の攻撃でもキツい筈。でも光の中に黒いシルエットが僅かに見え出す。
 それは床から這い上がり、光を僅かに持ち上げて行く。


(おいおい、マジか?)


 光の底から聞こえ出す震える様な叫び。持ち上げられてく光が周囲にその光を零し出す。本当に聖典の攻撃を持ち上げやがったよアイツ。乱れた髪にはいつもの余裕はもう無い。テトラの奴は片方の手をこちらに向けて黒い球体を放って来る。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 本気になったテトラは次々と球体を放ち続ける。僕はそれをセラ・シルフィングで払い続ける。だけどふとテトラの奴は僕の手前の床に攻撃をぶつけ出した。巻き起こる煙に視界が遮られる。僕はその煙をセラ・シルフィングを振り抜く事で風を起こして拡散させる。
 でもその時には既にテトラの姿は視線の先には無かった。まさか今の目くらましは、自分が移動するのを悟られない為のか! 僕は直ぐに金魂水の方を見る。するとそこには黒い靄を纏ったテトラの姿がある。


「今度こそ……これで」


 そんな事を呟いて金魂水に手を伸ばしてる。僕は急いでテトラの方へ。勿論風の刃を向ける。だけどテトラは球体でそれを阻む。もう油断はしないか。僕を阻む様に靄が広がる。またこの状態か。だけどここで止まってなんか居られない。そう思ってると複数の聖典が僕を追い越して先行する。しかもその力でシールドを作ってだ。
 大量攻撃に聖典のシールドは長くは持たない。けれど複数居るから次々と入れ替わりでシールドを作ってくれる。これで行ける所までは送ってくれるって事なんだろう。一回目の聖典達が撃ち落とされて、今は二回目。そしてその二回目のシールドも壊されて聖典が落ちて最後の三機が三角のシールドを作り出す。
 一回目も二回目も物の数秒で実際には落ちてる。それだけの攻撃に晒されてる。だからきっとこれも……だけどその数秒が今は大事なんだ。その数秒で僕達の命運が決まるんだ。頂点の一角の聖典が炎上する。一点の崩壊から一気に崩れさるシールド。僕は炎上してく聖典に「ありがとう」と呟き、ジャンプする。
 一瞬でも照準をずらせればあとは一足で突き抜ける! その速さが僕にはある。ここまでその身を犠牲にして送ってくれた聖典のおかげ。背中のウネリがうなって僕は急降下する。闇を突き抜けて見えたのは魔方陣に囚われてるテトラの姿。腕と足と腰に魔方陣が輝いてた。これはシルクちゃんか! 無事だったんだ。
 だけどその拘束は長くは持たない。一度やったし、しかも今のテトラはがむしゃらだ。自身の傷に躊躇いなんてないんだ。テトラの奴は靄からの攻撃を自分にも向けて魔法を打ち破る。そして伸ばされる腕。だけどそこに僕も突っ込む。
 紙一重で掴みかけたテトラの腕を弾き飛ばす。だけどその剣をテトラは勢いが落ちた所で掴んだ。僕は逆の剣も向けるけど、肉に食い込んだ所で脇を閉めてきやがった。


(抜けない!)
「終われスオウ!!」


 テトラの胸に黒い靄が渦巻く。そこから僕へと次々と叩き込まれる黒い球体。口から血が吐き出される。衝撃と共に後方に弾き飛ばされる僕。セラ・シルフィング共々解放されたけど……不味い、HPがみるみる消えてく。
 回復薬はもう無い……本当にこれで……おわ--


「え?」


 みるみる減ってたHPの減少が一桁台で踏みとどまる。そして体を包む優しい光。それがどんどんHPを巻き戻してく様に回復させてくれる。態勢を立て直してた僕はこの力の主の声を聞く。


「まだです! スオウ君は私が殺させやしません!!」


 シルクちゃんは見つけてたんだ。壊される前にもう一つのスキル解放の鳥居を。彼女の傍らにはピクの姿もある。そしてその時、後ろからセラと、リルフィンと鍛冶屋と五右衛門さんがテトラに掴み掛かる。みんなのHPが回復してる。シルクちゃんは僕にニコリと笑顔をくれる。
 彼女の手には複数の羽がある。そう言う事か。やっぱり君は最高だよ。


「貴様等! 離せええええええええええええええ!!」


 テトラの力がしがみついてたセラ達を引きはがす。そしてその振り乱された姿で向かうのは金魂水。


「「「スオウ!!」」」
「「スオウ君!!」」


 皆の声に促されて僕もウネリを加速させて床を蹴る。さっきの攻撃で金魂水から離された。だけど今度こそ掴み取ってみせる。僕は気付いたよ。ここには僕以外の風もちゃんとある。その心から沸き立ってるじゃないか。
 みんなの声と共に、思いの風が吹いてるのを僕は感じる。セラにシルクちゃん、五右衛門さんに鍛冶屋にリルフィン。そしてもう居ないけどノウイだってその風は僕達ぼ中にある。アイツが繋げてくれたんだ。
 そう言えばエアリーロの奴が何か言ってたな。風の唄を教えてくれた。あれの意味はよくわかんないけど、風という物を少しだけ理解出来たかも知れない。風は……ただの気象現象なんかじゃない。いろんな物を伝えてくれる乗せてくれる……そして僕の力は、そんな風に支えられた力だ。吹く風を力に、思いを乗せた風を力に変える事が出来る。
 吹こう……もっと、吹き荒れろ……更に。そして届かせるんだ。この風を……願いまで!! 輝き出した風と共に、僕は最後の一足を蹴る。視線の先にはテトラが金魂水を掴み上げてた。もう遅い? いや、まだだ!!


 輝く風が余韻を残して吹き荒れた。テトラの長い髪が激しく後ろに流れてそしてフワリと元に戻る。僕はそんな光景を視線の端で見つめつつ、この手にある物を晒してこう言うよ。


「悪いなテトラ。願いは僕達が叶える」


 僕の手には金魂水がある。それは僕の煌めく風を受けて輝いてた。

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