命改変プログラム

ファーストなサイコロ

風が咲く

 シルクちゃんは邪神がつき合ってくれるまでは持たせられると言ってた。大切なのはテトラ自身に余裕を持たせておく事。アイツが一度本気になれば、それを止める術を今の僕達は何ももってないんだから、奴に危機感を持たせない事が大切なんだと。
 そしてその間に僕はスキル復活を狙う。大量の鳥居の中には必ずスキルを取り戻せる奴が混じってる筈なんだ。まあ混じってるというか……僕用のが発生してる筈--なのか? そこら辺はよくわかんないけど、必ずある事は確かだろう。
 僕はシルクちゃんから少し離れた場所まで来て辺りを見回す。どこまでも続いてる鳥居、これを渡って行けばこの星の裏側にだって行けそうだな。だけど流石にそんな所まで行ってる時間はない。望むのはせめてこの見えてる範囲に当たりがある事だ。


「けど、それは期待し過ぎか?」


 どうしたらいい? どうやって見つけるべきだ? シルクちゃんは運が良かったって言ってたけど、どうなんだろうか? シルクちゃんだってそこまで余裕たっぷりと時間があった訳じゃない筈だ。それに彼女がこの鳥居間をひょいひょいと進めるともあまり思えない。
 まあシルクちゃんはああ見えて結構なににも動じないタイプだから、案外ひょいひょいと進んでたのかも知れないけど、でもだからってそこまで遠くに行けるとは思えないんだよね。しかも事前にストック魔法に補充までしてたとなると尚更だ。
 一体どれがシルクちゃんの当たりだったんだろうか? 聞いとけばヒント位にはなったかも知れないのに……シルクちゃんは別に鳥居を壊すなんてしないだろうしね。


「てか、そもそもなんでテトラの奴は鳥居を破壊するんだ?」


 自分の力を見せつけたいから? インパクトがあるから? でも絶対に必要な事じゃないよな。そもそも最初に壊したのはアイツにとっては僕達へのヒントの意味合いもあった。それは優しさか? それとも残酷さ? 
 邪神を基準に考えるのなら残酷さなのかも。アイツは僕達にここでも鳥居切っ掛けでスキルを発動出来るって情報を与えた。でもそれは同時に奴がスキルを復活させた事も示してた。僕達よりもいち早く、自分はそれが出来ると示したかったのかも。
 それによって僕達は自分達がいかに不利かを実感出来た。ようは絶望に近い物を味合わされたって事だ。だけどその残酷さってのはある意味でテトラの優しさであるとも結局言えるよな。今もそうだけど……あいつ相手に成らなくなった僕達を殺そうとしてない。
 テトラ的には既に勝負はついたから引かせようとしてるのかも知れない。残酷と絶望を味併せて僕達の戦意を削る気だったって事かも。


(でもそれは見くびってるに過ぎない)


 僕達はクリエを亡くした。その時点でテトラとしては勝負は決してるらしいけど、僕達は違う、てかなんで、残した思いをアイツはあそこまで否定するんだろうか? 神なら分かってそうな物だけどな。だってシスカ教だって女神が残した思いを受け継いでいる筈なんだから……当人が死んだって続いてく思いがあるってのはアイツだって分かってる筈だ。
 それなのに頑に無駄だと言う。認めたく無い何かがあるのかも。


「ん?」


 ヤバいヤバい、思考がズレてるぞ。僕が今考えないと行けない事はテトラの事じゃなく、どうやってこの鳥居の山から当たりを引くかってことだ。いや、引くってか運頼みなら引き寄せるかって事か--だな。
 でも散々言ってるけど、この数の中から運で自分のスキル解放の鳥居を見つけるのは相当数の強運じゃないと……日鞠とかならそれでもあっさり見つけそうだけど、僕はアイツ程世界に愛されてないからな。
 どっちかって言うと嫌われてる。まあLROは別かもしれないけどさ。でもここでもセツリ以上って事はきっと僕はない。基本自分はそんなに運が良い方とも思わないしな。散々な事に巻き込まれてるし、これで自分は幸運なんだ! とはあんまり思えない。
 ならやっぱり闇雲にはね……アイテムの中には幸運を上げるのとかある様だけど、残念ながらそんな物は持ち合わせてない。持ってるのはバトルシップで補充した回復アイテムとかだけ。皆もその筈だけど……ボロボロの状態のままなのを見ると、使い切ったって事なのかな?
 それともシルクちゃんの指示でもあったのか。地面に倒れ臥してる皆は意識が無い訳じゃない。既にそれは取り戻してるだろう。僅かに動き出そうとしてるのがここからでも僕の目なら分かる。でも行動を起こさないのは極力テトラを刺激しないため? 
 シルクちゃんが皆に接触する暇があったのかどうかは分からないけど、意思は疎通されてる様だ。


 シルクちゃんは何度も何度もストック魔法を解放したり詠唱を続けたりしてる。きっと見えない所でテトラの奴が暴れ出そうとしてるんだろう。そして時々会話したり……ストック魔法もフォローがないとそこまで長くは持たない筈だ。あれは使うのは一瞬だけど、貯めるのには詠唱が必要だからね。
 てか、思ったけど最初に入ってた筈の魔法はどうしたんだろう? 上書き出来るのか? てかストック魔法自体は最初から使えたんだよね。それは予め入ってたのは使えたんだろうか? なんだか聞いときたい事がいっぱい出て来るけど、今戻る訳には行かない。
 彼女が頑張ってるのは僕の為なんだからな。


「シルクちゃんは運が良かったって言ってたよな。それに彼女の身体能力的に遠くまで行く事はきっと出来ない。それで都合良く当たりを引く事が出来る……」


 う~ん、彼女も世界に愛されてるんじゃなかろうか? 暗く冷たい宇宙を見上げてそう思う。まあ実際そんな寒いとかの感覚はない。だけどこのどこまでも続く真っ暗な闇を見上げてると、ふとゾクリとした寒気? みたいなのを感じるんだ。遠くには輝く星が沢山見えるのに、その星々を暖かそうとは思えない不思議。
 地上から見た星は寄り添ってるかの如く見える時だってあるのに、近づけば近づく程にその孤独さがわかる……みたいな。まあその分スケールの大きさも自分の矮小さもわかる訳だけどね。僕がこの光景を怖いと感じるのは自分に自身がないからかも知れないな。
 何もしなくったって運を引き寄せる奴等とは僕は違う。それをちゃんと分かってる。僕みたいな奴はさ、出来る事のその延長線上に運が乗って来てくれれば良いだけだ。それが精一杯。だからやっぱり考える事しか出来ないよ。
 真っ先に運に頼ってもそっぽを向かれるだけだ。ある程度絞らないと、僕みたいな幸薄人間の運は乗せどころが分からずに消えて行くんだよ。だから考える事は必須。僕みたいな奴は爆弾に繋がった導火線の二本の線のうちの一本をただ何となく「今日のラッキーカラーだから」とかの理由で切っちゃうととデッドエンドなんだ確実に。
 せめてやれる事を全部やってからでないと運も乗って来てくれない。僅かでも可能性を絞る事が大事。


「シルクちゃんの運が良かった発言……行動範囲の狭さ……前の場所での条件……」


 待てよ。シルクちゃんってそもそも前の場所で鳥居に触ってたっけ? もしかしたらシルクちゃんが「運が良かった」って発言は最初に触れた鳥居でスキルが解放されたからじゃないのか? それならどうしてシルクちゃんがスキルを得れたのか納得できる。
 それは確かに「運が良かった」と言えるだろう。でもどうして鳥居に登ってたのかな? 彼女の場合は登るのも大変そうだけど。残ってたストック魔法を使ったとか? これだけの鳥居の数だから触れる前に魔法で登ったけど、着地した瞬間に解放された……とかか? 
 それなら今の状況の説明は出来る。確かに僕には意味のない事だな。


「いや、あれ? 僕も確かあの階段に突入した時は触れてないぞ」


 でも僕の場合はスキルが復活しなかった。どういう事だよ? 最初の一回はどれでも良いんじゃなかったのか? それともまだ何かあるのか? 


「ノウイの奴はどうだったんだろう?」


 アイツはああ見えて行動力はある。回避スキルが高いってことは運動能力とか体の使い方がきっと上手いんだろう。あいつ接近戦仕掛けられても結構避けるからな。それを考えると、ミラージュコロイドが無かったとしてもシルクちゃんよりは行動範囲が広いだろう。
 それに一番重要なのはあいつの気概かも知れない。あの時……テトラを道連れにして行った時のノウイの迫力は正直凄かった。あいつはそんなに頭を使うタイプじゃないし、法則性とかも見つけてなかったようだけど、それでも引き当てたのはきっとあの気概に運が乗ったんだろう。
 僕だって本気も本気で必死な訳だけど、運まで引き寄せるとなると、きっとどこかのスイッチが入ってるか壊れてるかしてないといけないんだと思う。その切っ掛けがノウイの場合はクリエの消失。きっと誰よりも悔しい思いをしてたんだ。
 自分が守りきれなかった事に、それだけの責任を感じてた……だからあそこまで感情を爆発させてたんだろう。だけど僕はまだ理性的だ。スイッチは入れたいけど、壊れる事は出来ないよ。だって闇雲に当たったってテトラの奴に勝てる筈が無い。
 感情は高ぶってるけど、自分で入れたスイッチで運まではきっと引き寄せられない。そう言うのを呼び込むには一線って奴を超えないとだからね。今ここでこうやって頭を働かせてる自分には無理だろう。
 僕は何個かの鳥居を渡り歩く。ウインドウのスキルに変化は無い。


「設定はきっと持ち越されてる--と考えて良いんだよな」


 シルクちゃんは初めてだったから関係ないとしても、テトラとノウイは実際に探してる訳だからな。まあテトラは探してるかも怪しい感じだけど……その仕草がないからな。もしかしたらアイツには本当に分かるのかも知れない。目的の鳥居が。
 シルクちゃんはテトラの行動で法則性があるって気付いてたけど、例えば元から分かってたのなら、法則性を知らなくてもその行動を取る事に成るんじゃないのか? しかももっと考えれば、法則性を知ってたとしても、奴に目的の鳥居が分かる術が別にあってもおかしくなんかない。
 てか、この場所でテトラの奴が迷わずに目的の鳥居が分かるのはやっぱりそうとしか思えない所がある。だってここは前の場所みたいに分かり易い訳じゃない。それなのにアイツは迷ってもないんだ。これはアイツにはその力があるって考えるべきだよな。
 まあ分かるのなら次々にスキルを復活させた方が有利だろうけど……それをしなかったのは今の僕達には、あの程度で十分と思われてるからなんだろう。しかも実際十分だったしな。


「どうしたら……何か無いのか? 今までの情報で僕のスキル解放の鳥居に繋がる何か……」


 情報はそれなりに揃って来たと思う。重要なのは最初の鳥居の位置だろう。それによってはもしかしたらこの星の裏側とかの鳥居が対象になってもおかしく無いからな。でも実際、僕が最初に触った鳥居なんて……


「待てよ」


 何か引っかかる。頭の中で得た情報がグールグルと回る中で、かみ合う何かがある様な……今、決定的な答えを出せないのって何だろう? ノウイはまあ運で良いとして、シルクちゃんはきっと最初の鳥居……一番不可解な行動はやっぱりテトラの鳥居壊し意外には無い気がする。
 自分でさっき考えた絶望とかはあくまで可能性。それにもっとよく考えたら、鳥居を壊すのはインパクトあるけど、スキルで壊した方がもっとインパクトあるよな。鳥居を壊す事には意味があったとは思う。だけどその理由が一つである必要は無いし、僕が考えた事は一番の目的じゃなく、あくまで二次的効果って可能性も……じゃあ一番の狙いはなんだったのか?


「テトラにはノウイが言ってたらしい力はきっとある……だけどだから前の場所では法則性がある行動が出来てただけとは限らない。それに一番最初に触った鳥居を起点とするって言う前情報を持ってないと、その力も使えるかどうか……この場所で初めてアイツがスキルを使ったとき……確かこんな事を言ってたな」
(残念だったな。ここはさっきまでの場所とは違んだよ)


 --って言ってた。それって明らかに分かってたって事だ。そう全てを。あいつは鳥居を知る力も、そしてこの場所の法則も前の場所の法則もきっと分かってたに違いない。そうなると、次に考えるのは効率だよな。
 テトラの奴だって早くノウイに追いつきたかった筈だ。だからこそスキルを効率よく運用する為にも最もスキルを使用出来る様に動いてた筈。それで考えると簡単だな。だって一個の鳥居に付き一回のスキル使用で最も効率良くスキル運用するなら、起点と成る最初の鳥居は決まってるじゃないか。
 それは絶対的に最初の鳥居だ。そこから始めれば一番回数多くスキル使用が可能。全てを分かってたテトラなら絶対にそうしたに違いない。


「ってあれ? ちょっと待てよ」


 なんだろう……頭の奥がチクチクする。何かを思い出せと言ってる様な。最初の鳥居……それが何か引っかかるのか? この場所で僕が幾ら鳥居に触れてもスキル解放が行われないのは、事前にどこかの鳥居に触れてたからって考えるのが自然。
 でも封印が解かれた状態では、僕はどこも触ってなかった筈。それならもっと前って事か? そして最初の鳥居……


「まさか……」


 思い出すのは初めてメイズの村に訪れた時の事だ。あの時、僕とクリエは笹舟でボロボロの鳥居まで行って、そして--


「触ったんだ。まさかアレがカウントされてるのか?」


 ここで幾ら触れても起点の鳥居が出現しないって事は、それしか考えられない。そしてここで更に怖い事に気付く。


「待てよ……それなら僕のスキル解放の鳥居はテトラと同じってことに成るんじゃないのか?」


 僕はテトラがぶっ壊して不自然に空間が空いた場所を見つめる。ぽっかりと空いた寂しげな穴。まさかテトラのこの行動の本当の目的って……


「僕のスキル解放を阻む為に、わざわざ鳥居ごと壊してた?」


 同じ場所を起点としたのなら同じ鳥居がスキル解放の役割を担う筈。どっちか速いもの勝ちじゃなくどっちも解放出来るのなら、敵としては壊しておくって事はとっても合理的だ。そのままにしてたら、この事実に気付くと分かり易いことこの上ないし、しかも同じ場所である分近づくだけで内心ヒヤヒヤものだったのかも。
 そんな気苦労したく無いなら、ぶっ壊せば良いだけ。寧ろ相手にスキルを解放させたく無いのならそれが一番確実だ。自分と同じ鳥居なら、まさについでで壊せる。でもどうやってアイツは、僕と自分のスキル解放の鳥居が一緒だと分かったんだ?


「そう言えば、見てた--とか言ってたな」


 暗黒大陸に居た筈なのに、結構事情通だったし世界を見渡せる術があってもおかしく無い。なんせアイツは神だからな。それなら、僕とクリエが一度あの鳥居に触れてたのも確認済みだったって事もおかしくない。
 全てが繋がって来た。そして見えて来た。


「どうやらまだ希望は繋がってる。確かに鳥居は壊されてるけど、この法則自体を潰した訳じゃないんだから、目的の鳥居はちゃんとある」


 ヒントはまさにテトラがぶっ壊した鳥居だ。シルクちゃんが予想した一定距離で鳥居がスキル解放の力を帯びるのなら……最初にテトラが壊した鳥居と後に壊した鳥居との距離で大体の範囲が絞れる。
 後はその距離にある鳥居を円周状に回ればどれかがきっとスキル解放の鳥居へと変わる筈だ。


「最初の鳥居と後の鳥居の距離は直線距離で二百メートルか三百の間くらいか? それなりに遠い……のか? まあこの密集してる鳥居はかなり超えないといけないな。取りあえず、同じ距離になるまで先に行く!」


 僕は動き出す。鳥居を蹴って次々と飛び越えてく。まずはテトラがさっき壊した鳥居を超えて、そしてそこを起点に更に進む。


「これは……思ったよりも結構遠いな」


 全力疾走がいつまでも続かない距離だよ。しかも前の螺旋状のしかも階段なら、かなりキツいかも知れないな。まだ平面だからここは良い方なのかも。てかイクシードならこの程度の距離でも速攻なんだけどな……慣れすぎたか。


 ぜぇぜぇ良いながら、僕は取りあえず同程度の距離まで来た。見渡せばまだまだかなりの鳥居がある。だけど取りあえず絞れた事は確かだ。あの鳥居の消失点を中心に見据えて、この範囲の鳥居を集中して渡ればきっとどれかに当たりがある。
 それは見渡す事も叶わない鳥居の山が候補だった頃に比べれば、現実的な数字だよ。


「急ぐか……」


 僕はそう呟いて取りあえず左側から始めるよ。シルクちゃんもいつまでも持つか分からないし、急ぐに超した事は無い。でも範囲が正確じゃないから、片っ端から近くの鳥居に飛び移るのはかなり面倒。でも僕は一心にその作業を続けるよ。
 みんなが繋いでくれてるこの時間だ。無駄になんて出来ない。ようやく手に届きそうな所まできたんだ。後はここに自分の幸薄い運が一刻も早く乗る事を祈る! 


「--っつ、うお!」


 一心不乱に鳥居間を渡ってると、間から見える星に吸い込まれそうな気がして来て、足を踏み外しそうになった。危ない危ない。なんとか上手く手で鳥居を掴んだから良かった物の、下手したら落ちてたよ。
 よくよく考えると、これってそれなりに危ない行為なんだよな。鳥居は何かに支えられて浮いてる訳じゃない。それぞれが自立して浮いてる訳だから下に足場なんて無いから、踏み外すと下の星へ向かって真っ逆さまなんだ。
 まあ、鳥居は大きいし、そんなに一個一個の距離が離れてる訳でもないから、そこまで踏み外す危険は無いけど、ずっと同じ作業を繰り返しながら下を見てると、不意にね……星に誘われてる様な気がするんだ。意識が別の所に持って行かれるって言うか……そんな感覚が確かにある。


「一心不乱ってのも危ないか」


 だけど集中は必要……じゃあどうすれば良いか? 僕はある旋律を口ずさみながら再び走り出す。その旋律はクリエと一緒に居る中で何度も聞いた旋律だ。アイツが何度も歌うから頭に残ってた。歌詞まではアイツ自分で勝手に改変してたから覚えてないけど、旋律はクリエだけじゃなく他の人も歌ってたし良く耳に残ってる。
 優しく、心に染みる様な旋律だ。これなら心を落ち着かせて集中出来る。鳥居を渡ってく中で瞳から自然とこぼれる雫。これを口ずさんでるとどうしてもクリエの事を思い出さずに居られないな。一緒に過ごした日々……後悔や無念も押し寄せる。


「クリエ……」


 僕は記憶をたどって歌詞も思い出そうとするよ。僅かだけど口ずさむだけでクリエと近くなれた気がした。それならさ、アイツの歌を思い出せばもっと近くなれるかも知れないじゃないか。頭に浮かぶいつかの光景を思い浮かべて、僕は震える声を出すよ。


『幾億の星が~流れ落ちるその時~私はその星の一つに~なれているのだろうか。一人で輝く星になんて~成りたくはな~いよ~。言葉の欠片を拾っても、私じゃ届ける事が出来なくて。時間とともに全てが移り変わっても、私はついて行く事さえ出来なかったの』


 あれ? この歌ってこんなに悲しい歌だったっけ? 思わず歯を悔いしめて涙をこらえる羽目に……すると涙が触れた拳の中心の模様が輝き出す。さっきもそうだったけど、なんでここに来てこんな生き生きし出してるんだ?


(スオウ……)


 その時頭に確かに聞こえたクリエの声。そして視線の先には輝きを放つ鳥居が一つ。まさかアレは……僕はその鳥居を目指してスピードをあげる。そしてそこに付くと僕のウインドウも輝き出した。


「やっぱり……これが当たり」


 でもどうして光ってるんだ? 僕のこの呪いに反応したのか? だけど輝いてるのは呪い自体じゃなく、実は一点の女神の力の方だ。どういう事なのかはよくわからない。だけど確かに今、クリエの声が聞こえた気がした。
 助けてくれたんだと……そう思う。僕は涙を拭いて宣言する。


「イクシード3」


 風が涙を舞い上げて、輝く恒星が僕を照らす。これがきっと最後になる。決着の時だ。


「クリエ、必ずお前の願い……叶えてみせる!!」


 僕はウネリを使って一気に加速、目指すはテトラよりも早く金魂水を手にする事だ!

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品