命改変プログラム

ファーストなサイコロ

繋げる力

「ノウイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」


 宇宙に響き渡る僕の声。空よりも高い場所から、その身と共に落ちる覚悟をしたノウイ。僕達が気付くよりも早く動き出して、そしてその存在を消して一番大事な場面で、狙った様にやってくれた。
 ノウイはその身を犠牲にしてテトラを大気圏内で燃やす気だ。上手く行けば、それは確かに回避しようもない最強の攻撃かも知れない。スキルも使えない僕達が望める、たった一つの有効手段。それをノウイが……いや、ノウイだからこそやれた。
 アイツのスキルミラージュコロイドだから一瞬であそこまで行けたんだ。テトラの奴の耐久性も異常だからな。あそこまで吹き飛ばすなんてそうそう出来ない。本当に、もしかしたらこれでやれたのかも知れないな。
 重力に引っ張られつつあるから、流石のテトラでも戻って来れないだろう。飛べる筈だけど、星の引く力ってのは想像以上に強い物だ。なんせ星だからな。その大きさや規模から考えてきっとスケールが違うんだろう。
 しかもノウイの奴は意図的にこの場所よりも低い位置に出てた。燃え尽きる気満々だったんだ。自分に出来る事を考えた結果……それしか無いって思ったのだろう。それに僕達が全く手も足も出てなかった事も大きかったのかも知れない。
 このままじゃダメだとアイツは必死に思い、考え抜いた末の行動。自分の力に攻撃力が無い事はアイツが一番良く分かってる。でもその特性は抜きん出てる訳だから、僅かだけどこの場所での一日の長を密かに生かしたんだ。
 テトラの鳥居の趣旨にいち早く気付いて、スキルを復活させた。そしてここぞと言う場面を待ってたんだろう。あのテトラでも僅かながら気を緩める瞬間。それが金魂水を手にする瞬間。


(勝利を確信したあの瞬間だからやれた)


 油断大敵とは良く言った物だ。テトラにとったらまさにその通りだろう。遠くの二人が赤くなってくのが見える。大気の摩擦で熱が発生してる。それは隕石だって大気中で燃え尽きる程の超高温……生身の人間が無事で居られる訳が無い。
 テトラは人間じゃないけど、だからってこれはこれ以上無い程に強大な攻撃だろう。流れ星に成ろうとしてる二人。だけどその時、大きな黒い固まりが現れ出す。テトラの奴、今更何をしようとしてるんだ? 大きく膨らんだ黒い固まりは一気にその姿を消した。


(不発?)


 そう思ったけどそれは間違いだった。次の瞬間こっちまでその余波が押し寄せて来る。大量の鳥居もビリビリと振動する程の力の波動。どうやら今消えた様に見えたのは発動の前段階ってだけだった様だ。
 可能な限り力を圧縮しての解放。それによって解放された時の勢いを増したんだろう。まさかこれを利用してテトラの奴は……


「うお!?」


 そう思ってると更にもう一度激しい衝撃が襲い来る。しかも今度はもっと激しい衝撃。さっきよりも少しだけ近いのかも知れない。衝撃に耐えてふと前を見ると、ゾクリと嫌な感覚が背筋を上がって来る。
 考えたく無い……思いたく無いけど……まさか……


「まさかあんな奴にあそこまで追い込まれるとはな。大胆な事を考える。まあ俺は生きてるがな」
「テトラ……」


 結構ボロボロになってるけど、奴は再び僕の前に現れた。どうやら自身の攻撃で自身を吹き飛ばしたって感じなんだろう。だからこそ、テトラには珍しく服も髪も乱れてる。そしてそんな奴は僕と同じ様に鳥居の上の部分に着地した。


「つくづく無駄に足掻くなお前達は。既に勝ち目など無いというのに……ホントに良くやる。もうクリエは居ないんだぞ。後はただ世界の変容を見届けてれば良いんだ。死人の為に動くなど、時間の無駄だろ」
「無駄……だと?」


 その言葉……マジで言ってるのかこいつ? 無駄だと……その言葉だけで僕達の行動を否定するのかよ。


「無駄だろ。お前達は既に負けたも同然だ」
「そんな訳--っつ!?」


 次の瞬間、テトラの奴は鳥居を蹴ってこちらに向かって来てた。その勢いの激しさからか、鳥居を粉々にして向かってきやがる。伸ばされて来る腕を僕はセラ・シルフィングで受け止めようとする。だけどその瞬間、黒い靄に包まれてテトラが目の前から消える。


「なに?」
「ふん、貴様の相手などしてられんな。金魂水は直ぐそこだ。それで全てが叶う」


 くっそ、既にテトラの目には僕なんか入ってない。アイツが求める物はただ一つ……願いを叶えるアイテム金魂水だけ。不甲斐ない自分にいつまでもアイツが執着してくれる筈も無い。止めなきゃ行けない……だけど靄の移動までするアイツには追いつけない。


「なんで……さっきまではあの移動技は使ってなかった筈……」


 てかそもそもあの移動方が出来るのなら、あんなボロボロに成る方法で脱出する必要なんてないじゃないか。どうしてここで……


「まさか……」


 僕はテトラを追いかけながら振り返る。蹴り崩された鳥居の姿は既にないけど、考えてみたら「また」なんだ。最初のもテトラの奴は壊してた。あれが無駄じゃないのなら……まさかさっきの鳥居はもう一つのスキル解放の鳥居かも知れない。
 だってそもそも考えてみたらおかしな事があったじゃないか。なんでアイツは力を使っての圧縮と解放しかしなかったんだ? あの黒い力はもっともっと万能だった筈だろ。それなのに執拗までにそれにしか使ってなかった。
 あれはまさか余裕じゃなく、まだそれだけしか使えなかったってだけのか? そして今しがたもう一つの鳥居で靄を使っての移動する力を復活させた……ノウイが言ってた鳥居一個に付き一回の縛りを超えた事に驚いてたから、同じスキルしか使わなかった事をそれほど重要視してなかったけど、縛りはちゃんとあったんだ。
 もしも最初の鳥居で得たのがあの黒い球体の生成で、さっきので得たのが靄を使っての移動だと仮定するなら、この場所での縛りは鳥居一個に付き一回のスキル使用じゃなく、鳥居一個に付き一つの力を解放するって事なのかも。
 だからこそ解放したスキルは何度だって使える……でもそれなら、既に二個もスキルを解放させてるテトラは圧倒的に有利。しかもアイツ、迷う事無くあの鳥居に着地したように見えた。もしもそうなら……最悪の想像が出来る。


(あいつ、まさかスキルを解放出来る鳥居が分かるのか?)


 その可能性が高い。これだけの鳥居の数だ。もしかしたら万が一偶然だった……って考えも出来なくは無いけど、それの方が無理矢理だと思える。だって奴は確認とかしたか? あれは全てを分かってた顔だ。
 数えきれない程にある鳥居。その中から一つを迷わず選んで着地して、そして直後に確信した様に別のスキルを使ってみせた……これで分かってないなんて思えない。完全に狙っただろ。アイツの目にはきっと見えてるんだろう……自分のスキルを解放出来る鳥居が。
 全く、どれだけ僕達は不利なんだよ! だけど愚痴を言っても追いつける訳じゃない。だけど何も考えずに走っても追いつける事は無い……テトラの背中は既に遠い。奴は鳥居の天辺から飛び出して、再び用意された舞台に降り立とうとしてる。


「折角ノウイがその身を犠牲にしてまで一度は止めてくれたってのに!」


 僕には何も出来ないのかよ。アイツの文字通り命を燃やした行為が無駄になる。それは絶対にダメだ! 本当に死ぬ事はないっていっても、相当の覚悟はした筈だ。だって普通はあり得ない死に方だ。生身での大気圏突入なんて、そうそう出来る事じゃない。
 完全に痛みが無いのなら、本当に死なない普通のプレイヤーにはそれほど覚悟なんかいらないかも知れない。それこそ遊び程度のスカイダイビング感覚でやれたかも……でもLROはそうじゃない。
 この世界は痛みだってちゃんとある。勿論刺された痛みや斬られた痛みを完全には再現してないけど、かなり痛いしキツいのは確かだ。体の重くなり様もリアルだし、下手すればリアルよりも酷い時だってある。
 堪え難い痛みは疲労とかに変換されてるのかも知れないな。それでバランスとってるとか。様は一つの攻撃を受けるにしてもここではそれなりの覚悟が必要な訳だ。痛みはそれだけで恐怖だからね。我慢は出来るだろう……その程度に調節されてる。だけど我慢出来るからって痛く無い訳じゃない。怖く無い訳じゃないんだ。
 ちゃんと痛いし、ちゃんと怖い。だから死ぬ時だって死なないって分かってても恐怖はある程度はあるだろう。しかも死なない程度の痛みだとしても、大気圏に突入ってどういう風になるのか判断出来ないしな。誰もやった事が無いこと……初めてってのは予想出来ないからまた怖い物だ。
 それでもノウイは自身に攻撃力が無いからとあの方法をとった。これ以上無くそれは効果的だった。ただテトラの奴が規格外過ぎたってだけ。ノウイは自身に出来る最高の仕事をしただろう。それでも及ばなかった……戦闘に向いてないアイツがあれだけ頑張ったんだ。僕達がそれ以上頑張らなくてどうするよ。
 ノウイの奴が逃げる事しか出来ないってんなら、僕には戦う事しか出来ない。


「行かせるかああああああああああ!!」


 僕は必死に追いすがろうとする。そして舞台手前の鳥居まで来た所で面白い光景を見た。僕よりも早く舞台に降り立ったテトラ。そのテトラの奴が魔方陣に囚われてる? いや、正確に言うなら沢山の魔方陣に拘束されてる--が正しいか? 床に大きく現れてる魔方陣と、テトラの体からも小さな魔方陣が現れてるんだ。
 それが腕や足、腰や首を固定してる様に見える。あれは一体どういう事だ? 


(誰が……)


 なんて思いつくのは一人しかいないな。そう言えば彼女は戦闘にも参加してなかった。まさかこの為に? 


「くっ、まだ厄介なのが居たか。だがこんな物!」


 そう言ってテトラは靄で脱出を計ろうとする。だけどどうやら変化はない。黒い球体も作り出すけど、手首も固定されてる以上自身にぶつける事もまま成らない様だ。さっき無理矢理脱出したように高出力の球体にしてその場で爆散させればあの魔方陣を吹き飛ばす事くらいは出来そうだけど……テトラの奴はちょっと苦い顔をしてる。
 するとシルクちゃんが別の鳥居の上でこう言うよ。


「無駄ですよ。その魔法は結界と言うよりも封印術に近いんです。スキルでの脱出は不可能ですよ。重ね掛け出来る封印術。これで貴方を可能な限り拘束します!!」
「封印術か……どうりで少し心地いい訳だ……」


 何故かほくそ笑むテトラ。不気味な奴だな。結界は基本邪を追い払う為の物だけど、封印は邪を押さえ込む為の物だから刺激があって心地いいとかそんな事か? 大層なドMだな。そう思ってると、テトラはシルクちゃんの居る方向とは関係ない少し下を見たまま喋る。首も固定されてるから向きも変えられないんだな。かなりアホ臭い光景だ。


「だが俺にはまだ術がある。言っとくが確実に俺の耐久性よりもこの魔法の方が弱いだろう。俺を捕まえ続ける事は出来ない」
「そうですね。でも……なら早くやれば良いじゃないですか」


 シルクちゃんもどうやらテトラの言ってる事が分かってる。やっぱり球体の出力をあげて自身を巻き込んでの脱出……それを示してるんだろう。だけどシルクちゃんはアッサリとそれを促してもいるな。


「確かに貴方の言う通りです。私の魔法よりも貴方の耐久力の方が上でしょう。でもなんでそんな宣告をするんですか? 金魂水が欲しいんですよね? 無茶なんていくらでもやるべきじゃないですか? それとも宣告したのは出来ないからじゃないですか?
 不可能ではなくても、やりたく無い何かがある。見た所、ノウイ君のせいでかなりボロボロですよね? それが関係してるのかなって思いますけど」
「--っつ」


 舌打ちと共にテトラは面倒そうな顔を……した様な気がする。多分ね。ここからじゃマトモに顔は見えない。でも悔しそうな声は聞こえた。どうやらシルクちゃんの言葉は的を得てる様だ。確かにテトラは見て分かる程にボロボロに成ってる。
 あれだけの傷は僕達だってまだつけてない……


「流石に邪神でも自身の力は痛いと見えます。もう一度は流石にダメージが大き過ぎると言った所でしょうか?」
「ふん、別にそう言う訳じゃない。遊んでやってるだけだ」
「それは無いですね。だって皆ボロボロだけどまだ生きてます。もたもたしてると誰かが金魂水を手に入れます。それを貴方は許せない。遊ぶ程の余裕があると?」


 するとシルクちゃんがこっちに視線を送って来る。なんだろう? 僕は彼女の方に向かうよ。


「スオウ君、今の内に--」
「ああ、今の内に金魂水を手に入れるんだよね? 分かってる!」


 これ以上のチャンスは無い! 確かにセラ達はまだ生きてるけど、ボロボロなのは確かだ。ここで僕が抜きん出れば確実に金魂水を手にする事が出来る。そしてあとはこの場所で願うんだ。僕がクリエの変わりに……変わりにその願いを成就させる! 


「まっ待ってください。それはダメです!」
「ええ?」


 何故に? だってどう考えても今しかないよ。スキルも無くした僕達がテトラを出し抜けるのは今しかない! その筈だろ! 


「はは、余裕なんてそこら中に転がってる。世界が何度転んだとしても、お前達が俺に勝てる要素はないからな」
「それにしては焦ってる様にも見えますよ? 貴方がどれだけ否定しても、そして例え神であっても、私達から可能性を完全に奪うなんて出来ない。私達はまだ誰も諦めてなんか居ないんです!」
「奮起した所でお前達が救いたかった奴は居ないがな」


 嫌な事を……だけどシルクちゃんは胸を抑えて痛い顔を一瞬したけど、直ぐに僕の方に向き直してくれる。どうやら、こっちの行動を気付かせたく無いみたいだな。さっきから声を極力彼女は抑えてる。


「スオウ君、今がチャンスなのは分かります。でもそのチャンス……一体どれだけ持つと思いますか?」


 シルクちゃんの表情は至って真剣。チャンスがどれだけ……それって実は誰にも分からない事じゃないか? 取りあえず僕が言える事は--


「チャンスを持たせる事よりも生かす事の方が大事じゃないの? 今なら金魂水を取れる。そうだろ?」


 だけどシルクちゃんは首を振るうよ。どうして……チャンスは結局どれだけ持たせようとしてたって勝手に流れてくものだろ。そのチャンスをどう生かすかが大事なんだ。


「確かに取れるかも知れません。だけどそれはあくまで邪神が余裕を見せてる間だけです。本当にあれはまだ余裕を見せてる。その気になれば、私の魔法は一瞬で破られる筈です。そしてその時が来れば自身の身など彼は顧みたりしないでしょう」
「それなら余計に速くやらないと--」


 するとここでテトラの奴が無様な格好で、まだまだ持ってる余裕を見せて無駄って奴を突きつけて来るよ。


「真実をいってやろうか? お前達はただ躍起になってるだけだ。救いたかった奴が居なくなって、ただ単に、これまでの自分の行動を無駄にしたく無いだけ。だがな、勝負はもう付いてるんだよ。クリエが消えた時点で、願いを叶えるのは俺なんだ。
 お前達がやってる事は、勝負に負けたのにぐちぐちと野暮を言って勝者を貶してるに過ぎない。恥ずかしい事としれ。お前達がやれる事はもう、クリエの為に墓でも作るしかないんだよ。敗者はそうやって潔く身を引けば良い。ここまで来たんだ、既にどこも潰しはしない」


 潰しはしないか……それで妥協しろと? てかそもそもここからじゃ下の様子なんか分かんないだ。こいつがその気でも下まで命令届かなかったらモンスター達は目の前のプレイヤーなりNPCなりを襲い続けるんじゃ無いのか? 
 とてもじゃ無いけど、そんな言葉は信じれない。特にスキル制限が掛かってるんだし、下の様子なんてアイツも分かってないだろ。しかも更に不服なのは、僕達の行動が恥ずかしい事とな……


「まだ何も終わってなんか無い! 勝手に終わらすなテトラ!」
「それが見苦しいんだよ。お前達の目標は消えたんだ。お前達が足掻いた所で、クリエは何も感じはしない。お前達が自己満足で行動して死んだ方が悲しむかも知れないぞ。お前は本当にあの世でクリエに会う気なのか?」


 なんだかやっぱりこいつの言い方はムカつくな。まあ意図的に癪に障る言い方をしてるんだろうけど……流石邪神だけあって人の心を逆撫でるのが上手い。躊躇いも無く爆発するであろう箇所を踏んで来る。
 僕は落ち着かなきゃとわかってるけど、反論せずにはいられないよ! だけどそこでシルクちゃんが僕を制してくれる。そのしなやかな手で先制して、僕の気勢を削いでくれる。


「そんな事、私達がさせません。それにクリエちゃんが居なくなったからって、彼女の願いが終わった訳じゃない。彼女が逝ったのは、私達を信じてくれたから……だから私達は戦ってるんです!」


 シルクちゃんの横顔がとても凛々しくみえる。可愛いだけじゃない、清廉さが垣間見える様だ。テトラの言葉に心を乱されまくってる僕とは違う。彼女もそこまで強い戦う力って奴を持ち合わせてる訳じゃないけど、その心には力強い芯が立ってるかの様に思える。
 やっぱりいろんな所から認められてる人は違うね。こういういざって時にその人の本当の強さって奴は出るんだよな。
 僕はまだまだ脆いよ。


「スオウ君、チャンスをちゃんと違う方向で生かすって事なんです。確かにここで一時的に金魂水を手に入れたとします。だけどそれを守りきれる戦力が私達には無いんです。実際願うだけで良いのか、それとも口に出さないと行けないのか……どれだけの行程が必要か私達には分からない。
 私達は一瞬でも金魂水を守れません」
「それは……」


 確かに今の僕達にはそれだけの力すらないだろう。でもここで金魂水を求めなかったら何をするんだ? チャンスを違う方向で生かすって一体……


「邪神はきっと誰かが金魂水を手にしたらなりふり構わないでしょう。そうなったら今の私達じゃ手が付けられない。だから余裕を見せてる今を利用するんです。急いで金魂水を手に入れても直ぐに奪い返されるのがオチなら……急ぐ事にメリットなんかありません。私が可能な限り時間を稼ぎます。
 だからその間にスオウ君はイクシードの復活を。それからの方が絶対に良い筈です」


 確かにそれなら一瞬で奪い返される……って事は無いかも知れない。でもその後にちゃんと金魂水を手に出来るかって問題はあるよな……だけどシルクちゃんはこう言うよ。


「そこは私達がフォローします。この偽りの命を丸ごと使えば、スオウ君の速さで金魂水をきっと取れる筈です」
「シルクちゃん……」


 自分達の命を投げ打ってまで……でもそれしかないのか?


「でもこの鳥居の中からどうやって当たりを引くのかが問題だよ。適当になんかやってられない。そう言えばシルクちゃんはどうやって?」


 それは欲しい情報だよ。一体どうやってこれだけの中から当たりを見つけたんだ?


「私はノウイ君からある程度の情報を貰ってましたし、皆が私の為に時間を作ってくれました。きっとそのおかげです。運が良かったんですよ」
「でもノウイの情報ってのは?」
「きっとそれはあの階段の場所で有効だったんだと思います。ノウイ君から聞いた話によると、さっきの場所では一つの鳥居は一回だけスキルを解放して、その後は距離を開けた鳥居にランダムに移るみたいな感じでした。
 でもそこにも考えられる法則性はあります。ノウイ君はいつまでも終わりの見えない道に疑問を抱き鳥居を確認しだしたそうです。だけどその時点ではスキル復活には気付いてない……でも私が思うにその時最初に触った鳥居で一回目のスキル解放は行われてたと思います」
「どうして?」


 するとシルクちゃんは確信めいた声でこう告げる。


「そうしないと合わないんです。もしも最初の鳥居から同じ条件でスキル解放が始まるのなら、ノウイ君と邪神のスキル解放の鳥居は同じだと思いませんか? だけど実際には違ったし、邪神はノウイ君の対象の鳥居を壊してるとも聞いてます。
 その時点でノウイ君は邪神には自分には見えてない何かが見えてると思った様ですけど、私には逆に確信出来る法則があるんじゃないかと思いました。彼はこの世界を想像した神です。なら始めからそれを知ってておかしく無い」
「そんな特徴がある場所だったかな? 同じ階段に続く鳥居しかなかった筈だけど」
「階段と鳥居、それだけで満たせる条件のトラップは幾つもあります。簡単なので言うと距離です。あの場所で言えば段。それか鳥居にそれを計る機能があったのかも知れません」
「ようは一定の距離を進めば鳥居がスキル解放を担う様に変化するって事か」
「はい、それなら最初に鳥居に触った場所から換算されるのでノウイ君と邪神の目的となる鳥居が重ならなかったのも説明出来ます」
「でも……確かにこれは今の場所には通じない」


 だってここには階段がないし、鳥居だってどれを最初に触ったかなんて……ここにあるのは前の場所にあった鳥居だから持ち越されてるのかな? そもそも距離の概算の概念がここじゃ分からない。前の場所は明確で分かり易い一本道だったから良かったんだろうけど、ここはどの方向にだって進める。
 やっぱり当てずっぽうでいくしかないのか? でもそれじゃ見つかる訳ない--とも言えないけど、相当確率は低い。


「ふん、俺は何も死者に譲る気はない。我が身を犠牲にせずとも、こんな結界ぶち破ってやるよ」


 そう言ったテトラの周りに幾つもの小さな球体が発生する。どうやら手のひらだけで作る物じゃない様だ。するとシルクちゃんはピクの羽を数枚もって魔法の準備に入る。てかストック魔法は使えるのか?


「どうやらストック魔法は私自身のスキルと認められてません。ピクの力ですからね。それに明確なピクのスキルでもない。契約的に発生する力だからどこにも制約は掛けられてません。だから可能な限り、私が復活させた一つの魔法を溜め込みました」


 それって今テトラを縛ってる魔法だよね? シルクちゃんが回復魔法じゃなく、封印魔法を選んだってのも驚きだよ。回復はどう考えても追いつかないって判断かな。それよりもチャンスを作る事と、今思えば、あのノウイの捨て身の行動が無駄になるかも……って思ってたって事だよね。


「ノウイ君が私に言ったんですよ。復活させるのは繋げる力にしようって。まあノウイ君は『自分にはミラージュコロイドしかないっすけど』って言ってましたけど。でもだから私も、必死に考えてこの魔法を選びました。
 スキルがない私達にはマトモな足止めなんか出来ない。皆に頼って後ろで回復だけしてるだけじゃいけないんだって……だからこの封印魔法です。実際には全然封印出来てないですけど、重ね掛けのおかげで行動を縛る事には成功してます。あとは可能な限り、この魔法を続けてみせます。これが私の繋がる魔法。
 この魔法を繋げる相手は貴方ですスオウ君」


 光の中で優しく微笑むシルクちゃん。ノウイの奴がシルクちゃん繋げてた密かな思い。それを今度は僕が受け取る番……


「少ないスキルの僕には迷う物なんて何もない」
「はい、羨ましい限りです。たった一つの最高の力を取り戻してください」


 僕は彼女に世を向けて無数の鳥居の海へと再び踏み出す。必ず見つけてみせよう。この中にある、僕の為のスキル解放の鳥居を!

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