命改変プログラム

ファーストなサイコロ

さよならの時

 黒い煙を抜けて、僕達は結界内に侵攻する。眼下に見えるクリエ達とテトラ。なんとか間に合ったかな? だけど直ぐ側にテトラは居るし、悠長にやってる暇はない。この勢いのまま階段にぶつかるのはヤバいし、取りあえず風の刃で奴を牽制しつつ、シルクちゃんの魔法で安全な着地を狙うのが良いよな。


「僕が仕掛ける。シルクちゃんは着地の為の魔法を準備してください」
「はい! --って、あれ?」


 なんだか変な声が聞こえた。だけど僕は既に量の腕を振るってた。でもそれでシルクちゃんの素っ頓狂な声の意味が分かったよ。


(風の刃が出ない!?)


 いや、それどころかいつの間にかイクシードすら解除されてないか? 一体どうして? するとこんな声が聞こえて来た。


「なんで? スキルが反応しません!」
「シルクちゃんもか……僕もイクシードが切れてる様だよ」


 ヤバいな苦笑いしか出ない。皆はどうなんだろうか?


「だめ、聖典もここに入った途端に鏃に戻ったわ」
「こっちもスキルは何一つ反応しない!」
「くっそ、よりによってこんな所で……」


 それぞれセラ、鍛冶屋、リルフィンが悔しげにそう教えてくれる。ほんとよりによってこんな所でだよ。どうすんだこの勢い……階段に衝突するぞ。すると静かにしてた五右衛門が長帽子が飛ばない様に必死に押さえつけながらこう言うよ。


「まさかあの結界の内側はスキル使用不可領--」
「--み……みんなあああ! ここではスキルは使えないっす!」


 ボロボロのノウイの奴がありったけの声を出してそう伝えてくれる。確定情報だなそれは。五右衛門さんが想像で言おうとしてた事と被ってるだろうけど、ありがたい事だよ。てか、スキル使用不可の空間か。
 その情報はありがたいけど、でも同時にその縛りはありがたく無い。このままじゃダメージ覚悟で階段と衝突するしかないのか? この勢いを抑える術なんて誰も生身じゃ持ち合わせてなんかないだろう。
 だって僕達に翼は無いんだから。僕達を羽ばたかせる翼の変わりがスキルだったのに……それを取り上げられちゃ、何も出来ない。別に死ぬ事が無いからってダメージを受け入れるしかないのか?


「いや、この勢いなら死ぬぞ。LROはちゃんと高さや勢い、その他諸々ちゃんと計算してダメージを算出する。ビルの七・八階位の高さから飛び降りてもそうそう死なないが、これはその次元じゃない。ぶつかった瞬間ダメージ過多でお陀仏だ!」
「んな!」


 鍛冶屋の奴、嫌な情報を……でもまあ分かってたけど。流石にこの高さでこの勢いで無事で居られるなんておかしい。高さや勢いはいつだって気を付けてたしね。何度かバトルシップや飛空挺から飛び降りてるし、サン・ジェルクでも高い場所から飛び降りたりもしてる。
 だけどあれはちゃんと減速方法があったからね。今回はスキルで無理矢理解決を計ろうとしたけど、その術を封じられてしまった訳だ。だから誰も他に手段を用意してる訳が……そう思ってると五右衛門さんが何かをウインドウから取り出して落下地点に向けて投げた。
 それは階段に当たると白い煙を上げて大きくなる。何かは分からない。だけど僕達はそれに突っ込むしかない。五右衛門さん……いや、彼はテッケンさんなんだ。きっと助かる術を用意してくれたに違いない! 


「んぐっ!」


 次の瞬間ズボボボボボとヒンヤリとして粘っこいゲル状の何かに突っ込んだ僕達。これがさっき五右衛門さんが投げた物の正体か? てか……奥まで突っ込んだら身動きが取れないんですけど。どうするんだこれ? 息も出来ないぞ。
 まさかこれは本来の使用目的じゃないからって事なんじゃ……上から落ちて来た人を助けるようじゃないのか。罠系のアイテムなのかも……でもこれどうするんだ? 脱出手段がないぞ。スキルがあれば破壊出来そうだけど、今はそれも無理だし……でもスキルでどうにか出来るのなら、そもそも罠の意味も無いかも。そう思ってると突如このゲル状の物体が消えて行く。


「かはっかはっ……」


 口に入った変な感触を吐き出しながら、同時に空気も求める。近くを見ると五右衛門さんが何か竹筒みたいなのをくるくるまわしてた。クルクルって言ってもその竹筒自体を回すんじゃなく、腕の方をゆっくりと動かす様な動きだ。そうやって階段に溢れてるゲル状の物が竹筒に回収されて行ってる。
 使い捨てじゃないんだな。普通、こう言うアイテムは一回キリの様な……


「あんた……それって……」
「済みません。手持ちがこれしかなかったもので。不愉快な思いをさせてしまいましたね」
「……うっ、そんな事ないわ。おかげで助かった。多少の不愉快なんて生きてる事に比べたら些細過ぎる事よ」


 余所者とか言ってたけど、これは流石に素直にお礼を言わざる得ないよな。セラもそこら辺は常識ある。てか、僕以外には常識あるよな。でも確かに助かったよ。ほんと、流石テッケンさん。頼りになる仲間が一杯で恵まれてるよ僕は。


「本当に助かりました。お手柄ですね。ふふ、これできっとセラちゃんも認めてくれますね。良かったですね五右衛門さん」


 嬉しそうにそう言うシルクちゃんを避ける様に、何も言わずに顔を背ける五右衛門さん。なんて態度だって思うけど、なんだか妙にニコニコしてるシルクちゃんを見るともしかしたら知ってるのかな? って思いがわいて来る。
 でも正直知っててもおかしくは無いよな。だってシルクちゃんは誰よりもテッケンさんと一緒に居た筈だ。それを考えると知ってない方がおかしいとさえ思える。誰にでも優しいシルクちゃんだからあの対応なのか……それともやっぱり気付いてるからなのか……判断は難しいけど、そんな事に頭を向けてる場合じゃなくなる。
 だってここでテトラの奴がいきなり声高らかに笑い出すんだ。その笑い声に僕達はビクッとするよ。


「くはははっ、はっはははははははは! まだ生きていたとはな」
「おかげ様で。お前がとっととあの場を離れてくれたおかげだよ」
「どうやって助かった?」


 笑ってた空気はどこへやら。一瞬にして張りつめた空気が周囲に満ちる。顔も真剣そのもので射抜く様な瞳はモンスターさえ萎縮してしまいそうな眼光を放ってる。どうやら、かなり予想外だった様だ。僕達はこいつにとって、既に退場した筈の存在。そんな亡霊がどうして--って感じなんだろう。腑に落ちないか。
 僕はテトラのプレッシャーに当てられながらも引かない。息を整えて、歯を噛み締めて向かい合う。


「簡単だよ。お前が軽視してたあの場に集った人々。それが立ち上がっただけだ」
「プレイヤーが奮起したと? だからと言ってお前達をあの瞬間助けれたとは思えんがな」
「確かに、並みのプレイヤー達はあのモンスターに苦戦を強いられるし、僕達を助ける余裕なんてない。でも、あの場に居なかった奴がここに居るだろ?」


 僕の言葉でテトラはスレイプルである鍛冶屋を見る。


「そう言えばスレイプル共がこそこそ動き回ってたな。貴様の計らいか」


 そう言われて一度唾を飲む鍛冶屋。だけどこいつだって引きはしない。グッと堪えてその鍛冶で鍛えた真っ直ぐな目を向けるよ。


「別に俺の計らいって訳じゃない。だが俺達は俺達に出来る事をやって、俺達だけじゃ出来ない事を他の奴等にやってもらっただけだ」
「他の奴等……それが周りに居たプレイヤーか」


 だけどその言葉に鍛冶屋は首を横に振る。


「違うな。お前が思ってた通りにあそこに集まった大抵のプレイヤーはあのモンスターには勝てないだろう。数十人で結託してようやくって所だ。俺が言う他の奴等は、あの場に居たたった数人の攻略組の事だ」


 攻略組……何回も話しに端的に出てるトッププレイヤーだよなそれって。なるほど、あれはやっぱりそのクラスか。焼き付いてる光景が蘇るよ。ついさっきの事だし、忘れ様が無いね。モンスターにもみくちゃにされた僕達はあの後直ぐに、実はスレイプル達の鉱石操作によって作られた壁に助けられてた。
 地味にスレイプル達はテトラにバレない様な救出方法を考えててくれたんだろう。速攻で助けてたらきっとテトラにバレてその機会を失うから、慎重にって事だったんだと思う。流石にあの状態で僕達がテトラを止められるなんてあり得ないと……鍛冶屋達は判断してたわけか。それを考えるとちょっと微妙だよね。正論なんだけど。
 だけど実際その壁は数十秒しか持たなかった。まあその間にテトラは消えてた訳だけど、壊された壁の向こうで見たのは、輝く羽を生やした剣を振るってるプレイヤーだった。そして周りには後二人くらいは多分居た。その三人程度で暗黒大陸のモンスター共を上手く引きつけてたんだ。倒しまくってた訳じゃない……実際やってた事は僕と同じ様な事だった。
 だけどそれを三人で回しながら上手くやってたって感じ。やっぱり攻略組ともなると暗黒大陸のモンスターの行動パターンも分かってたのかも知れないな。
 その直ぐ後に、更に別の攻略組の人達とそれに引き連れられたプレイヤー軍団にスレイプル達も来てくれて僕達は助かった訳だ。


「俺達スレイプルは武器や防具を作る職人だ。繫がりってのは結構広いんだよ。閉鎖的な攻略組も、武器や防具には気を使う。命を守る生命線だからな。職人は縁の下の相棒なんだよ。大事に思っててくれてたって事だ」
「貴様等職人の顔を立てて奴等も動いたと……そう言いたい訳か」
「まあ、実際そうかは定かじゃないがな。そもそも平和な世界なんて、攻略組にとっては退屈な世界かもしれないしな」


 なるほど、確かに攻略に精をだしてる人達には平和な世界ってのはやる事がなくなるのかもね。でもそれでもあの人達は鍛冶屋達が話を持って来るまでは動かなかった。まあ実際、あの人数の中どうやって少数の攻略組を見つけたのかが甚だ疑問だけど、あれだけの力があるのなら僕達の状況を見てテトラを横からブスリと狙う位出来たと思う。
 本当に平和を望んでなかったのなら、そして本当に攻略組が世間で言われてる様にそれにしか目がない連中なら、ラスボス宣言をしたテトラを目の前に我慢出来るだろうか? だってあの人達の最終目標と言っても過言じゃない筈だ。
 それを僕達にあっさりと渡してた訳だからね。世間で言われてる様に攻略にしか目がないのなら、割って入って来た筈だ。でも彼らはそうじゃなかった。どっちかって言うと僕達の事を見守ってた様な感じだった。
 でも結局あまり話せては居ないし、本心の所は分からないけどね。あとそう言えば攻略組によると角は弱点って訳じゃないらしい。効き易い部位ではあるけど、頻繁にそこばっかり狙ってると、暴走状態に入るとかなんとか。
 まあ暗黒大陸のモンスターは常に暴走状態みたいな物のような気がするけどね。


「ふん、結局貴様達は周りに生かされただけと言う話だな。自分たちでは何も出来ずに終わってる。大人しく逃げてた方が良かったんじゃないか? わざわざ殺されに来るとはな。折角拾った命だろ」


 確かに「まだ行くのか?」ってのは言われたな。攻略組の人にさ。そう言えばあの剣……なんか喋ってた様な……まあ今は良いか。確かに一度……じゃないか。二・三度は僕は既にテトラに負かされてる。正直勝てた事なんか一度も無い。
 だけどそれでも行かない訳には行かないじゃないか。助けてもらった命を投げ捨てに行く様な物なのかもしれないけど、この心は生きてる限り変わらない。
 だから僕は言ったんだ。その人にさ「約束したんです」って。それだけで案外納得してくれた。意外だけど「自分達にゆずれ」っても言わなかった。もしかしたら彼らの方がテトラを止められたかも知れないし、きっと自分達の方が相応しいと思ってても違いない筈なのに……実際ポッとでの僕なんかよりは、LROが稼働してからここまで、攻略に熱を注いで来た彼等の方が、テトラと戦う資格はあると思う。
 でも案外アッサリ譲ってくれたんだ。後でお礼言わないといけないよ。


「折角拾った命だからだよ。折角拾ったから、諦めるなんて出来ない。彼等は僕達に諦めて欲しいから助けた訳じゃ決して無いんだ」


 そう言う僕の言葉に、鍛冶屋も頷いてこう言ってくれる。


「そうだな。あいつら攻略組は基本、世事になんか興味ない。そんな奴等が動いたのは俺達との繫がりや、世界の事情ってだけでもきっとないだろう。あいつらだって人なんだ。感化されたんだ。スオウ達の姿に、きっと何かを刺激されたんだ」


 すると今度はシルクちゃんが凛とした声で紡ぐ。


「私達は何度その力の差を見せつけられても諦めません!」


 そして更にそれに続くセラ。


「負けたままの自分を受け入れ続ける事なんかしない。恐怖に足を竦ませてなんかいられないのよ」


 そして人じゃないリルフィンも……


「俺にはこいつ等の考えなど分からん。無謀な事を積み重ねてく愚かな奴等って、もしかしたらお前と同じ感覚なのかも知れない。だがな……悪く無い。一緒に無謀に挑み、たぎらせた命は熱い物がある。
 今の俺はお前をそこまで悪とも思ってないが、だがやはり敵側で居る事にする。世界という大きいくくりじゃなく、今ようやく俺は仲間としてこいつ等側に立ってるんだ」
「リルフィン」


 召還獣の立場も遂に忘れたか。今までは利害関係の一致で一緒に居たに過ぎないんだよな。そんなリルフィンが世界もローレも無視して、僕達を仲間と言った。嬉しい事だな。一緒にやって来た時間は無駄なんかじゃ無かった様だ。NPCである筈のリルフィンにも大切な仲間だと思えてもらえたんだ。素晴らしい事だろそれは。


「仲間だと? お気楽だなフィンリル。そう言えば貴様は覚えてないんだったな。だからこそローレの考えも、俺にもその牙を向ける。失格だな、召還獣として。全てを思い出せばそんな馬鹿な気もなくなるだろうに」


 だけどそんなテトラの言葉にリルフィンは首を振るう。


「違うな邪神。過去の事なんかどうでも良いんだ。今俺は純粋にこいつ等と共に戦いたいと思ってるんだよ。主の命令や、召還獣や精霊としてのしがらみじゃない……ただ一人のリルフィンとしてだ」
「そうか……なら、思い出してみるか? そこまで言うのなら、真実を全て知った上でもう一度選んでみろ。結局、ローレの奴は最後まで貴様の記憶を取り戻す事はしなかったんだろう?」


 真実……それを知ってしまうと他の召還獣の様に、テトラの奴の行動に納得いくってことか? それか五種族への恨みとかが爆発するとか? でも既にテトラがどういう奴なのかは、既に結構分かってるよな。最初の頃の言い伝えと憶測全快だった頃とは違う。リルフィンだってテトラが邪神邪神してないのは分かってるだろうし、あの頃の意地をまだ張ってる訳でもない。
 アイツの心が決めた事だろ。それでも全てを思い出せば心変わりをすると思える程の事があるのか? でもそれならそもそも召還獣が人に使役されるのがおかしい気がするけどな。もしもテトラが臭わす様な深い深い溝があるのなら、もっともっと召還獣と術者はシビアな関係に成りそうだろ。
 だけどローレを見る限り、そうじゃない。でもそう言えばエアリーロが言ってたっけ? あんなに対話をして来た術者は初めてだ--とかどうとか。もしかしたら歴代の星詠みの御子の中で、ローレが特殊なのか? 今まではもっと、シビアな関係だったのかも。


「今の俺は昔の俺とは違う。他の召還獣とも違う。それに主が最後まで教えなかったのには理由があるんだろう。今更知ろうとは思わんな。主は俺の考えを尊重してくれたんだ」
「怖いか? 全てを思い出す事が?」


 そう言いつつテトラの奴は階段を上がってく。なんだ? なんで階段を上がる? そう思ってるとボロボロのノウイが声を荒げてこう言うよ。


「行かせちゃだめっす! 邪神はスキルを使う気っすよ!」
「は? ここじゃスキルは使えないんじゃなかったのか?」
「基本使えないっすけど、この無数の鳥居の中にはスキルを使える様にする鳥居が混じってるっす!」
「なに!?」


 そういう大事な事はもっと早く言ってほしいな。既にテトラの奴は鳥居に手を置こうとしてるぞ。流石に今からじゃ間に合わない。僅かに微笑んで鳥居に手を触れる。するとリルフィンの足下に黒い闇が染み出て来た。


「くっそ、今からでも止め--」
「待て、これはきっと攻撃じゃない。思い出させる気なんだろ? 上等だ」


 テトラに向かおうとした僕を止めて、リルフィンの奴はその闇を受け入れる気らしい。体を昇って行く闇。本当に大丈夫なのか? てかさっきのテトラの挑発発言に刺激されてるだろ。


「お前がどう変わるのか楽しみだ」


 テトラがその言葉を紡ぐと同時に、リルフィンの全身が闇へ包まれ……それしていきなり苦しみ出す様にリルフィンが吠え出した。僕達はビックリするよ。ダメージ受けてるんじゃないか? この闇が晴れるとそこにはHPがなくなったリルフィンが……とかおかしく無い。
 だけどそんな苦しみもほんの数十秒程度だった。直ぐに闇は晴れて行き、リルフィンの姿が見えて来る。フラッと倒れそうになるリルフィンを僕は支えるよ。


「おい、大丈夫か?」
「スオウか……もう一度お前を殺したくなるとはな」
「は?」


 もう一度ってなんだよ。そんなに殺したくなる場面あったか? お前と本気で戦ったのって最初くらいしかないだろ。でもそんな思いを沸き立たせる程の何かがあったのか?


「まさかお前……」
「心配するな。別にやりあう気はない。全てを知って邪神への同情の心も芽生えるが、だが今の俺が選ぶのはこっちだ。それで間違いない」


 結局リルフィンも昔何があったとか言わないんだな。テトラに同情心が芽生える程の何かがあったのは確実なんだろうけど……だからこそ、他の召還獣はテトラ側に付く事に躊躇いなんて無かった。もしかしてローレが全ての願いを叶える術を探してたのも、自分を試したいだけじゃ無かったのかも。本当はあいつは誰よりも全部を救いたいとか思ってたのかも知れないな。
 だからこそ、召還獣達の信頼も厚いのかも知れない。


「結局選ぶはそちら側か」
「言った筈だテトラ……今の俺は昔とは違う。俺達はもう利害関係だけで繋がってる訳じゃない」
「親の願いを阻むか。たった一つの願いなんだがな」
「……チャンスはきっと、またある。そもそも時の長さなんて俺達には永遠の様であってそして……一瞬でもある筈だ」
「だから今は子供に譲れという事か」


 リルフィンは頷くよ。だけどテトラは納得なんかしない。アイツにとっても今こそが待ち望んだ時なんだろうから。


「これ以上なんて待ってらるか。俺はアイツの側にただ行きたい。それだけなんだよ」
「クリエだって友達の為に……それだけだ。子供が願う夢を、大人が……ましてや神が奪っていいのかよ!」


 僕はセラ・シルフィングをテトラに向ける。普通は応援するものだろ。あんな小さな子が願う思いを、潰して良い筈無い。


「俺は邪神だ。慈愛に満ちた神じゃない。勝てもしないのに何度も何度も……今度は確実に殺してやろう」
「出来る物なら--」
「スオウ!!」


 ガシッと足下にくっついて来るのはクリエだ。なんでこんな時に。危ないから下がってろよ。てかなんか……随分軽くないか?


「おい、クリエお前……」
「ふん、もう風前の灯火だな。最後にもう一度会えて幸せだったんじゃないか?」


 最後だと? テトラの奴がそう言いながら階段を下りて来てる。すると僕の前に皆が展開する。庇ってくれてるのか。僕は膝を付いてクリエを抱えるよ。


(やっぱりだ。羽の様に軽い……)


 そう思ってるとノウイの奴が申し訳なさそうにこう言って来た。


「ごめんっすスオウ君。結局連れて行けなかったっすよ……本当に、ごめんっす」
「ノウイ……いや、ノウイのせいじゃない。僕達がテトラを止められなかったからだ」


 そしたらこんなボロボロになんて成らずにすんだ。僕達が負けたつけを払わされたんだ。


「えへへスオウの匂い……あのね、お願い……聞いてくれる?」


 腕の中でごそごそ埋まりながらそう言って来るクリエ。なんだろう……嫌なフラグが立ってる気がする。でも……聞かない訳には行かない。今のクリエの状態を見て「聞けるか!」なんて突っ張れない。


「なん……だよ?」
「シャナの事……お願い。クリエは十分……幸せだったよ」


 頬を赤らめたクリエの笑顔が消えてく。光となって霧散する。逃がさない様に、僕はクリエを強く抱きしめようとしたけど無駄だった。クリエは光と成って消えてった。


 カンッ……コツンコツンと音を立てて階段を落ちる金魂水。それがなんだか空しくて、大切な物なのに取りに行こうと思えない。だけど……体は勝手に動き出す。クリエの望み……願いを体は叶えようとしてる。伸ばした腕……するとその時手の甲の模様が僅かに光ってるのに気付いた。
 そして同時に全ての鳥居が輝き出す。それと同時にテトラの奴の体からも黒い光が溢れ出してた。なんだ? 一体何が起きてる? 訳が分からない。悲しみにくれてる場合でもないってのか。


「開く、最後の扉が」


 そう紡いだテトラ。すると足下の階段が一斉に崩れ出した。崩壊してく道。僕達には免れる術はなかった。

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