命改変プログラム

ファーストなサイコロ

天罰に消えてく

「「「いけええええええスオウオオオオオオオオ!!」」」


 背中にかかる声を受けて、僕は開かれた道を進む。目指すはテトラ。足に風を集めて盛り上がる黒い地面を駆け上がる。一足で数メートルを飛び、テトラに迫った。


「テトラアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「もう俺達の関係も因縁だな。そろそろ決着を付けようか」


 因縁にまで仕立てのはお前だよテトラ。僕達の出会いは偶然だった。テトラに取っては誰でもきっと良かった。だけど僕にとっては天啓だったよ。いうなればクリエの方が後だったしさ、力を欲してる僕には必要だったんだ。
 最初は組んだ筈だったのに、僕はお前の期待には応えられなかった。それどころか、テトラの願いを犠牲にクリエを優先してる。対立するのは必然だったのかも知れないな。でもここまでクリエと関われたのもテトラとの契約があったからでもある。


 結局ここまで来るのには、こいつの存在は欠かせなかった。因縁……まさしくそこまでの間柄に僕達は成ってるんだろう。僕じゃあこいつとの因縁相手には役不足だろうけど、誰よりも関わってるのは間違いない。皆を巻き込んだのは間違いなく僕だ。そしてここまで事が大きくなったのも……風を纏った剣を振るって、テトラに一撃を加える。
 奴のガードに動く腕よりを素早く僕はセラ・シルフィングを振り抜くんだ。だけど浅い。それに一撃程度でどうにか出来る奴でもないのは分かりきってる。僕がやる事はこいつをここに引き止めておく事! クリエがその願いを叶えるまで、僕はこいつの前に立ち続けなくちゃ行けない。倒せればそれが一番なんだろうけど、その気概を持って挑み続けるしか今は無い。
 最初の一撃の後に続けざまに二撃目。そして間髪をいれずに更に攻撃を加えて加速してく。その場から引く事もしないテトラに僕は前から横から後ろから、可能な限り攻撃を続けてく。弾け飛ばされる感覚もなく、そしてちゃんと奴をとらえてる感覚はある。
 攻撃は通ってる筈だ……だけど盛り上がる地面は止まらずに、微動だにしないテトラの様子から、効いてるのか疑わしくなって来る。


「貴様の攻撃、避けるのも防ぐのも今の俺には面倒だからな」


 その瞬間、奴の肉を抉る感覚とこっちの脳が派手に揺さぶられる感覚が同時に襲う。


(何が!?)


 そう思ったけど、答えは簡単だ。要ははなからカウンター狙いだった訳だ。しかもギリギリでかわしてとかの高度な奴じゃなく、膨大なHPとその耐久性を駆使しての荒々しい馬鹿げたカウンター。攻撃を当てられた時に攻撃を合わせる--向こうにも傷がつくけど、圧倒的にこっちのダメージの方がデカい。


「くっそ……」


 実際、頭が吹き飛ばなかったのが奇跡だろ。アイツの拳ならそれが出来てもおかしく無い。HPがたった一撃でレッドゾーンに達っしてる。頭だからな。ダメージがデカい。実際拳を受けた方の目がまだぼやけてる。これは不味いかも。そう思ってると、上空から再び刀を持った奇怪なモンスター共がこっちに向かってきてるのが’見えた。
 片目だと距離感が……するとメキメキバキバキと後ろの方で変な音がしだした。僕は不振に思ってそちらを見ようとする。だけどその何かを僕が捉えるよりも早く、その音の原因は動き出したらしい。自分の頭上に吹き荒れる荒々しい風。その瞬間、エグイ音を響かせて向かって来てたモンスターがあらぬ方向に飛んでいってた。
 どういう事なの? --それが素直な感想だ。すると柔らかな光のクッションみたいなのに僕の体は優しく包まれた。


「スオウ君!」
「シルクちゃん……今のって?」
「きっとスレイプルの人達が駆けつけてくれたんです。鉱石操作の応用らしいです」


 きっと? 鉱石操作の応用? てか、このフワフワしたので僕を地面との衝突から守ってくれたのはやっぱりシルクちゃんだったんだね。ありがたい。そう思ってると素早く回復魔法も掛けてくれる。暖かな光がHPを回復して、体の不具合も治してくれるよ。これでよく見える。
 フワフワの魔法が消えて地面に両足を付いて上を見上げる。そこには泥……と言うか、石がくっついたみたいな歪な形の巨大な人形が。言うなればゴーレムって感じか? 鉱石操作でスレイプルがこれを作り出してるってシルクちゃんは言ってたな。
 凄い事も出来るものだ。でもよく見ると結構粗が目立つ。既に崩壊寸前にも見えるんだよね。完成しきってない感じ。だけどそのゴーレムは更に動こうとしてる。ボタボタと体の一部を落としながらも、一歩を踏み出して地面を揺らす。そして盛り上がり続けてる黒い地面に向かって、倒れる様に突進してく。


(いや、あれはマジで倒れてるのかも)


 既に脚部分が崩壊してるしな。本当なら一撃を入れる気だったんだろうけど、進む事にも耐えられなくて崩壊を起こしたって見た方がただしそうだ。だけどそれはある意味でラッキーだったのかも知れない。何故なら、無駄にテトラの居る天辺へと攻撃を繰り出す--って事がなくなったからだ。
 派手に登場したゴーレムが目の前で崩壊して突っ込んで来る。デカい一撃が来ると身構えてた方に取っては予想外の筈だろ。まあテトラなら攻撃が届く前にゴーレム丸ごと吹き飛ばせそうな感じだし、別に身構えては居なかったかも知れない。
 でも--だ。身構えてなくてもどう来るか位の予想はしてた筈。その中にあれは入ってないと思う。そしてだからこそ、崩れたゴーレムはテトラに邪魔される事無く、盛り上がり続けてた黒い地面に盛大に突っ込んだんだ。
 盛り上がってた地面の上からじゃなく、少し下の方へ盛大にその岩の固まりが流れ込む。盛り上がってた黒い地面はその岩の流れに耐えきれずに液状化し一気に弾けて同様に流れ落ちた。


「やった、結果オーライですね。それとも狙ったのかな?」
「流石に狙ったとは思えないけど……でも確かに大金星だ」


 あの黒い地面から一体何が出て来たかはもう定かじゃないけど、そんなの見たくも無かったからね。これでいい。てか、よかった。運が。あの崩れたゴーレムがテトラの居る位置位に降り注いでてもこうはきっと成らなかっただろう。
 スレイプル達の急造っぷりに感謝だよ。僕は助けても貰ったしねちゃんと。すると上空から、テトラの奴がダン! と激しい音を立てて降りて来た。まさかわざわざ降りて来るとはね。実際飛べるんなら上空に居た方が絶対的に有利だろうに。


「テトラ……」
「ふん」


 不適な笑いを浮かべて指をパチンと鳴らす。すると同時に二カ所から激しい叫びがあがった。それぞれの方を見るとそこにはかなり深刻なダメージを受けたらしいアイリとオッサンの姿があった。おいおいHP残り1って、この状況でヤバすぎだろ! 
 アイリは状況判断と指示の為に少しモンスター共から離れてたからまだ良いけど、オッサンは最前線だ。暗黒大陸のモンスター共なら、擦っただけで終わるぞ!


「シルクちゃん!」
「分かってます! 絶対に死なせたりしません! ピク!!」


 その言葉で近くを飛んでたピクがオッサンに回復ブレスを吹きかける。これで僅かだけどオッサンの体力が回復する。だけどオッサンは体力が回復したにも関わらずに、そのまま地面に倒れてしまう。そして別の場所ではアイリも……二人にはそれぞれイケメンさん達とアギト達がフォローに回ろうとしてる。
 だけどアイリはともかく、オッサンは不味い。回復したと言っても無防備な状態でモンスターの攻撃を諸に喰らったらHPはなくなるだろう。それだけ奴等は強い。イケメンさんにリルフィンにテッケンさんが向かってくれてるけど、壁は厚いぞ。
 清閑なんてしてる場合じゃない。てか皆既にかなりボロボロだ。HPは誰も彼もイエローゾーンにまで達してる。シルクちゃんの回復でも無茶を通し続けてるみんなのHPをグリーンに保ち続けるなんて無理なんだろう。
 しかもさっきの回復魔法は僕に割り振られたしな。せめて後一人でもヒーラーが居れば……でも贅沢は言ってられないか。今は居ない物を願うよりも、居てくれる仲間を欠かさない事の方が大事だ。


「シルクちゃん、僕もフォローに回る!」
「はい! 気をつけてください」


 シルクちゃんの言葉を背中に受けながらオッサンの方を目指す。すると僕の横に黒い靄が沸き立って来た。


「俺を前に背中を見せるとは余裕だな」
「テトラ!」


 確かにこれは危険だった。そんなの分かってたさ。だけどこのままじゃオッサンがヤバかった。行かない訳にはいかないだろ。靄から姿を現したテトラに向かって僕は剣戟を叩き込む。だけどこいつはガードなんて既にしようともしない。
 傷つく体を無視してその目を光らせる。まるで肉が裂かれる感覚までも楽しんでる様だ。そして僕の攻撃のヒットの瞬間に合わせてまたしてもその拳を叩き込もうとして来る。黒い力を纏った拳。それが僕の顔面を捉えてる。これを喰らうとまた一気にレッドゾーンに逆戻り。回復に追われてるシルクちゃんの負担になってしまう。
 そんなこと----出来るか!!


「っつ!」


 僕は強引に体をひねってその拳をかわす。態勢は崩れたけど、まだまだだ! 僕は態勢が崩れたまま刀身の輝きを強める。勢い良く回転していく恒星。そして至近距離で風の刃を連続して放ってやった。避けるなんて面倒な事をしないテトラは案の定かわさなかった。だけどこっちもそのまま地面に尻餅をつく羽目に。
 だけどこれで少しは時間稼ぎになるだろう。今テトラは風に切り刻まれてる--筈。僕は急いで立ち上がりオッサンの方を向く。すると丁度その時、大きめのモンスターの腕が振り下ろされた。重量級の攻撃……間に合わなかったのか? 


「代表おおおおおおお!」


 そんな叫びをあげながらイケメンさんが必死にモンスターを斬り飛ばしながらオッサンの方へ近づく。僕も突っ立ってる場合じゃない。まだ分からないだろう。モンスターの攻撃で土埃がたって見えないんだ。まだオッサンは無事かも知れない。だけどそんな願いを打ち砕く様に、そのモンスター一回では飽き足らず、何度も何度もその腕を振り下ろす。


「「やめろおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 僕とイケメンさんはほぼ同時に執拗に攻撃を続けるモンスターにアタックを噛ます。大きく後ろに仰け反るモンスターに二人して更なる追撃をしてオッサンからその身を放す。


「ここは僕が引き受ける! だからオッサンの方へ!」
「--すまない!」


 取りあえずオッサンの安否の確認が大切だ。だけどそれをやる役目は僕よりも彼の方が良いと判断したよ。僕は繋がり薄いからね。彼の方がきっと深刻だ。それにモンスターはこのデカ物一体じゃない。周りには獲物を狙うモンスターが幾らだっているんだ。
 だからスピードと手数の多い僕の方が満遍なく相手に出来ると思った。一人でこいつ等を倒しきるのは無理だけど、攻撃をし続けて牽制する事は出来る。それなら次から次へと相手に出来る二刀流は有利だよ。イケメンさんは装備重そうだしね。
 スピード型じゃない。かといって完全な攻撃型でもない。彼は守り。パーティーを守る壁。だけど彼が一番に守りたいのはきっとオッサンだろうからね。行かせなきゃだろ。そしてモンスター共は--


「行かせない!!」


 向かい来る大量のモンスター共を隙間を縫って斬りまくる。これじゃあダメージはそう与えられないけど、より多くを攻撃する事が今の目的だ。こいつ等の足を止める事が僕の役目。ダメージ量なんてどうでもいい。一体もオッサン達には近づけさせない!!
 モンスターどもの攻撃をかわしては斬り。受け流しては斬り。切り返しては斬る。息を整える暇もない。次から次へと、どんどん湧いてきやがる。振り回される汚らしい唾。喉を震わす声を上げながら、モンスター共はその角を輝かせだす。
 すると更に激しく、凶暴になるモンスター。


「これは--」


 --ヤバい! そう思った。目の前の一体を地面に叩き付けて次に移ろうとすると、既に別のモンスターの攻撃が迫ってた。いや、それ自体は今までもそうだった。別段驚く事じゃない。この攻撃をかわして一撃を叩きこむ。それで良いんだ。
 でも……その瞬間足に鋭い痛みが走る。視線を下に向けると、さっき叩き付けた奴が僕の足をかじってる。


(そんな! 幾らなんでも復活早すぎだろ!)


 少しは昏倒しとけ。こいつら--


「ぐっ!!」


 迫った攻撃をセラ・シルフィングの腹で受け止める。だけどこれは--重い! より一層輝いた瞳と吹き荒れる声と唾。汚らしい行動で気合いを入れたモンスターは僕の防御を跳ね上げる。無防備に成った僕の体。これは不味い! だけどここで引くと他のモンスターに追撃される。引く事は出来ない。
 今この瞬間、一番生存率が高くて、しかも次に繋げられる行動……それは!!


「うっ−−らああああああああああああああ!!」


 僕は背中のウネリを使って、前へ進む。後ろが駄目なら前しかないだろ! 目の前のモンスターの止めとも言える攻撃に、僕自らが向かうんだ。引いても追撃される……こいつか、それかまだまだ周りに沢山居る奴等に。それなら、前へ!! 攻撃の出足に足を噛んでるモンスター諸共、突っ込んでタックルを決めてやる!!
 目の前のモンスターもまさかこの状態から突っ込んで来るとは思ってなかったのか、一瞬動きが固まった。それと同時に打ち当たる体と体。四本のウネリは勢いが半端なかったせいでその瞬間、ベキョっと自身の体から変な音がした。ぶつかったこっちの意識が飛びそうになる。
 向こうは筋骨隆々の屈強な体だからな、自分からトラックに体当たりかましに行ってる様な物なのかも。だけどタックルかますだけの価値はあった。引いてたら総攻撃を受けてた所をこいつにぶつかった事で周りは手出ししない。それに追い討ちを掛けた攻撃も潰せた。
 痛かったけどその価値は十分だ。クラクラする頭に鞭を打って両手の腕に力を込める。まずは足に噛み付いてる奴に脳天から剣を突き刺して即死させる。てか、角が折れたら死んだ様な……僕は続けざまに目の前の奴に剣戟を叩き込む。
 連続攻撃をしてく中で僕はある場所を見つめる。


(角……か)


 確かめる価値はあると思った。僕は攻撃で僅かに怯んだ隙を利用してモンスターの角を狙う。さっきの奴と違ってこいつは頭に二本生えてる。だからこいつの体を踏み台にして高い頭部に飛んでセラ・シルフィングをぶつける。
 けどさっきの奴と違ってスパッとは行かない? 光ってる角に固く攻撃は阻まれる。だけどその瞬間、モンスターが大きく怯んだ。それは今までセラ・シルフィングで攻撃して来た一撃よりも効いてる?
 僕はもう一度、今度はそいつの肩を蹴って反対側の角をぶっ叩いてみる。やっぱり切れなかったけど、大声を上げてモンスターはひっくり返った。これは効いてる……と見ていいっぽいぞ。するとリルフィンとテッケンさんがフォローに駆けつけてくれた。


「スオウ! お前何を?」
「角だ。こいつ等どうやら角が弱点らしい」
「角……かい?」


 僕は頷くよ。そして三人でイケメンさん達を守る様に展開する。ひっくり返ったお仲間を見て、自分達の弱点に気付かれた事が分かってるのか、モンスター共は僅かに勢いを弱めてる。でもこれがいつまでも続くとも思えない。
 奴等はモンスターだ。それに数も圧倒的……こっちもこのメイスに集ってるプレイヤーが反撃にでも出てくれれば、良い勝負が出来そうだけど……流石にそれを期待するのはね。しかもよく考えたら暗黒大陸のモンスターはそこらのプレイヤーじゃ相手に成らないのかも。どう感じても、明らかに強さが一桁二桁違うからな。
 ここに集ったプレイヤーの半分でも対抗出来れば良い方なのかも。いや、それでも多いのか? でも角が本当に弱点なら、これからはまだ対応しやすくなるかな。


「角が弱点なんて効いた事ないよスオウ君」
「でも確かに奴等は角への攻撃が一番効いてます。これは間違いないです」


 てか、そのボソボソとした喋りはやめてほしい。変身してる以上、正体をばらしたく無いんだろうけど、聞き取り辛い。でも意外なのは角が弱点って知られてない事だな。これってかなり分かりやすくないか? 


「だからこそ、そんな分かりやすい物を見逃す訳が--」
「分かりやすかったから見逃したって事もあるかも知れないですよ」


 僕達は取りあえず周りを牽制しながら後ろに下がる。オッサンの事も気になるしね。


「おい、オッサンは生きてるのか?」
「代表は無事です。どうやら守ってくれた方々が居る様で」
「?」


 そう言ってイケメンさんは地面から何かを拾い上げる。それは岩の固まりの様な……なんかさっきのゴーレムの素材に似てるな。


「多分その通りでしょう。きっとこれを作って代表を守ってくれたのはスレイプルの方々です」
「じゃあモンスター達が執拗に攻撃してたのは、この壁を壊そうとしてたのか」


 なるほどね。そもそもやられたのならモンスターの興味は僕達の方に移るのが普通だ。そうじゃないって事はまだオッサンが生きてたって証だったのか。でも……オッサンはやっぱり虫の息なのはどうやら変わらない。
 でも僕がモンスターの相手をしてる間に回復は行われては居る様だ。シルクちゃんもピクも頑張ってくれてる。でもそれでもやっぱりオッサンの瞳は固く閉じられたまま。どういう事だ一体? そう思ってると、アギト達が同じく瞳を開けないアイリを抱えてこっちにやって来た。確かにこの状況じゃ、戦力を分散させてる訳には行かないな。


「シルクちゃん、これって一体?」
「分かりません。回復は出来てるのに……どうして? 起きてください二人とも!」


 必死にアイリを揺さぶるシルクちゃん。でもその程度で起きるなら、回復した時点起きるだろう。回復しても起きないってことは、何かが二人の意識を妨げてるんだ。でも一体何が? 


「おい、このダメージってモンスターから受けた物か?」
「いや、そんな筈は無い。そもそもアイリはモンスターと接触する位置には居なかった」


 そう言えばそうだったな。


「代表は確かにモンスターの攻撃を受けてましたが、ここまでの深刻なダメージではなかった。私はこう成る前に代表の周りを黒い何かが覆った様に見えました」
「黒い何か……」


 やっぱり思い当たる節はあの時のテトラの指パッチんだな。その直後に二人は倒れたんだ。原因はやっぱりアイツ。すると丁度闇を纏ってテトラが再び姿を現す。しかもこんな事を言いながらだ。


「そいつらはもう目覚めはしない。罰が落ちたからな」


 僕達はオッサンとアイリを守る様にテトラの前に立ちはだかる。


「罰だと?」
「そうだ、天罰だ。契約を破った者にはそれが落ちる。逃れる術は無い」


 契約違反のペナルティのアレか。でも確かそれってクリエも喰らってたよな。でもこんな効果あったか? いや、考えてみればノンセルスでクリエはあの後ずっと気を失ってた。風を通して話してたから、その印象が薄いけど、同じなのか。


「だが愚かしいな。お前達はやはり愚かしい。どうやら天罰はモブリとスレイプルの代表にも落ちた様だ。残ったのはウンディーネだけ……それも偶々だろうがな」
「何!?」


 衝撃の事実……と思ったけど、考えればそうなのか。モブリは姿を見せてはないけど、妨害をしてるし、スレイプルだってそのスキルで反抗してるのは確定的だ。ウンディーネが無事なのは既にボロボロで反抗も出来ない状況だから。
 って、事はノエインにスレイプルの爺さんもこの状況か。結界は大丈夫なのか?


「結界は維持されてます。きっと他の方々が頑張ってくれてるんです」
「そっか」


 それは良かった。これで結界まで壊れてたら世界が滅びる所だよ。


「惜しいな。結界さえなくなれば直ぐにでもモンスター共を動かせるのに。貴様達は俺が一人だから勝てるかもとか思ったかも知れんが、ペットを呼び出す位できる。ただ国攻めの為に配置してただけだからな。それが出来なくなれば、こっちに連れて来るだけだ。
 まあだが、これが全てじゃない位はわかるだろう。まだまだ国を落とせる程に居る。安堵なんて一切するなよ」


 テトラの奴が闇をその手で握りつぶしながらそう言った。確かにこれが全ての数じゃないって事は分かる。ここに居る数は多くても百は行ってない。これで五種族全てを滅ぼすのは流石に無理がある。要はまだまだ兵隊を温存してて、どの国の首もにナイフは突きつけられてるって事だ。
 この結界が壊されれば、それぞれの国は滅ぼされる。だけど分からない事がある。


「おいテトラ、なんで天罰は昏倒なんだ? 殺す事だって天罰って言うなら出来るだろ?」
「生温い、そう思うかスオウ? だがそれは違う。この世界には死よりも辛い事など、幾らでもある。信じた者からの裏切り。愛する者との別れ。永遠に終わらない時間の牢獄。死など、一瞬で終わる感覚だ。
 そんな物、なんの意味がある? それに貴様達には特に……死など意味を持たないだろう」


 僕達は唾を飲み込む。確かに僕達プレイヤーにとって、普通は死なんてペナルティくらいしかリスクが無い代物だ。一回ゲートクリスタルに戻るか、ヒーラーに蘇生魔法でも掛けて貰えば、それで事足りる。LROでの死は、普通はその程度。確かに言葉負けなのかもな。だからこそ気絶なのか?


「ただの気絶じゃない。それに天罰とはその者に相応しい罪を与える事だ。最も相応しい苦しみを与える事だ……だからこそ、代表共には見届けて貰う。自分たちの無力さと共に世界が、自国と民が消え行く様をな!
 自分たちの選択に後悔をし、国の崩壊を見届けて、民の断末魔に心を焼かれろ。それがそいつ等に相応しい苦しみ--それこそが天罰だ!」


 この瞬間僕は確信したよ。こいつは紛れも無く邪神だ。そう呼ばれるに相応しい存在なんだ。


「ふざけるなよ……」


 僕は地面を強く踏みしめてそう紡ぐ。テトラにとっては当然の報いなんだろうけど、それを許せる訳ない。すると後ろから別の声も聞こえて来た。


「ええ、そんな事は絶対にさせません!」
「私達は守ってみせる!」
「我々の愛する国を! 民を!!」


 シルクちゃんにセラ、そしてイケメンさんがそれぞれ言葉を続ける様にそう言った。そしてアギトが僕と同じ位置まで出て来てその槍を構える。


「天罰なんてそんな物、俺達が覆す!!」


 その槍に炎がたぎる。その言葉に反論でもしてるのか、周囲のモンスター共が騒がしく騒ぎ始める。でもそこでテトラが片手を上げてそれを制するよ。そして奴はその口に笑いを乗せながら、その長い黒髪をなびかせる。


「終わらせよう。戦力も減った、助けなど期待するだけ無駄。遊びは終わりだ。貴様達には無慈悲な死を与えてやろう!!」


 その手から放たれる黒い力。それを僕とアギトが空へ打ち返す。だけどその瞬間雪崩の様に大量のモンスターが一気に押し寄せる。今の一撃が合図だったんだ。アイツははなから僕達の相手をこれ以上する気なんか無かった。押し寄せたモンスター共に揉まれながら、見据えた先で奴の姿は闇に消える。
 僕はその姿を追おうとするけど、モンスターがそれを許さない。もう……何がどうなってるのかわからない。折り重なるモンスターの軍勢に、連携も何もあった物じゃない。僕が叫ぶテトラの名前は奴等の荒々しい叫びに消えて、そして次第に僕と言う存在までも、闇の中に潰されるみたいだった。

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