命改変プログラム

ファーストなサイコロ

無茶でいっぱい

 染出た黒い部分から湧き出て来るモンスターの数々。赤く輝く瞳を開くと、奴等は一斉に大口を可能な限り開けて夜空に向かって叫びだした。鼓膜に直接突き刺さるかの様な咆哮に僕達はたじろぐ。そして奴等は動き出した。


「あれは……普通のモンスターじゃないぞ!?」
「暗黒大陸……」
「みたいだな。くるぞ!!」


 真っ先にモンスターは近くのフードの奴等を狙う。だけど溢れた奴等は次に近くのこっち側にくる訳で、暗黒大陸のモンスター相手じゃ直ぐにカバーに行けない。


「「「う、うああああああああああああああああああああああああ!!」」」


 練金で体力を削られてる人達に暗黒大陸のモンスターに対応出来る余裕はない。周りに居る僕達がなんとかフォローしてあげないと! だけど……


「くっそ!」
「どけええええええええ!!」


 暗黒大陸のモンスターは屈強だ。僕達の攻撃でもそう易々と倒れたりしない。アギトの炎に身を焦がされても腕を伸ばして攻撃して来るし、イケメンさんの氷の剣に閉じ込められてもものの数秒で脱出して来る。
 そしてオッサンのバカでかい剣の一撃さえも、奴等は受け止めてみせた。それほどにこいつ等は一体一体強い。それに実際、向こうもいろんなタイプが居る。屈強そうなタイプに、俊敏に動く細身のタイプ、そして羽を持ってる奴。共通してるのはどいつもこいつも頭に角を持ってる所か。
 だけど僕が暗黒大陸で相手したゴリラみたいな奴はあんな角無かった様な……


「角持ちは暗黒大陸の中でも中心部分に生息する上位モンスターです! 油断しないで!!」


 そう言って僕達をフォローする様にアイリが側面からその細い剣を振りかざす。そしてそれに続いてリルフィンやテッケンさん、セラも加わって来る。


「油断など……しとらんわ!!」
「だけど……これは流石にですね……」


 確かに別に油断なんてしてた訳じゃない。オッサンもイケメンさんも倒す気でぶつかってた筈だ。だけどこのモンスター共は想像を超えて屈強なんだ。しかもセラ達が復活したからって、安心出来る数じゃない。次から次へと……あの染み出る黒い物の出所を叩かないとヤバいぞ。
 一人数体を倒すなんて計算が出来ない敵の大量出現……いや、MMORPGではきっとこのくらいの敵が普通なんだろうけど……今の状況でこれはヤバすぎる。一塊になれてる僕達はまだいい。だけどテトラを囲んでた練金要員の人達は減ってたHPも相まって、助けに入る前にお陀仏してく。
 響く恐怖に戦く声を止める事を僕達は出来ない。


「代表、このままでは練金の維持が!」
「だからと行ってこの数、下手に態勢は崩せん。役目は終えた。そう思え」
「………了解です」


 どうやら、オッサン達は彼らを見捨てる様だ。でもそれもこの状況じゃ……僕達は背中合わせに成る事で、大量のモンスター共の襲撃から互いの身を守れてる。誰かがこの輪から離れるってことは、そこから切り崩されるって事だ。
 下手な行動はパーティーの全滅か……


「セラ達が復活した所悪いけど、早速大ピンチだな」
「アホな事言ってないで、集中しないさい。アンタが死んだらそれこそ終わりよ。こんな雑魚にやられたりしないでよね」


 雑魚? じゃないだろ。相当ヤバいぞ。相当ヤバいモンスターが数えるのも億劫になる程にわんさか一杯だ。


「それでも、雑魚って思わないとやってられないでしょ。アンタ以外ならやられてもシルク様がなんとかしてくれる。二人で暗黒大陸に飛ばされた時よりもそこだけはマシ。状況は最悪だけどね」


 襲いくる強力なモンスター共の攻撃をかわして一撃を叩き込む。そしてその瞬間にセラの聖典が後方からサポートをしてくれて。更に追撃を繰り返す。なるべく出来るだけ連撃を繰り返して一体に集中出来れば、イクシード3なら三分程度で倒せそう……と言うくらいか。
 僕はゼイゼイ息を吐きながら、まだまだ立ち上がろうとするモンスターに視線を向ける。戦闘での三分はかなりの長さだぞ。HPの多さがこのモンスター共異常だろ。どう考えても一体一体がボス並みにある。


「スオウさっさと倒しなさいよ! この数相手に聖典だけじゃ足止めもそう出来ないんだか--」


 セラの真上から黒く大きな一つの目を持った羽根つきのモンスターが迫ってる。そう言えば飛べる奴も居るんだよな。くっそ…本当に厄介過ぎる。


「セラ!」


 僕はセラの方に風の刃を飛ばす。上空で上手くかわされたけど、その隙にセラは聖典で攻撃を仕掛ける。放たれる複数の光。上手く空中に追い返す事は出来た……けどその時、背後から嫌な威圧感を感じる。さっきまでフルボッコにしてた奴がここぞとばかりに渾身の攻撃を振りかざして来た。
 防御を--そう思った瞬間、バカでかい剣が真横からその屈強な体を貫いた。憎しみに燃えてた赤い瞳がその瞬間色を失っていく。そしてそのモンスターの体はオブジェクト化して消えていった。


「オッサン……」
「ふん、貴重な戦力が減るのは困るからな」


 そんな風に言ったオッサンの背後からドバッと押し寄せて来るモンスター共。聖典の牽制がなくなったから一気に押し寄せたか。僕は両腕のセラ・シルフィングの風を投げ放ってそいつ等を弾き飛ばす。すると今度はどこかから女の子の声がした。


「きゃあああああああああああああ!!」


 あれは侍従隊の人か。メイド服で直ぐに分かった。ヤバいな、侍従隊が守る方は火力が足りない。押し返せないぞ! 悲鳴を上げた人はモンスターに掴まれて潰される寸前。HPがどんどん減ってる。他の侍従隊の人達は助けにいこうとしてるけど、モンスターの壁が厚くて届いてない。
 暗器をメインにしてる侍従隊だけじゃ厳し過ぎる。そもそも暗器は威力を求める武器じゃないからな。フォローいれに行かないとあそこから崩される。僕は向こうに体を向ける。
 だけどそのとき、モンスターが間近に!! 鈍足なオッサンだけじゃ技の繰り出しが問題だな。立て続けに出せるんなら、勢いもどんどん付いてその純粋な物理重量と相まって手が付けられなく成りそうだけど、このモンスター共はまさに肉を裂いて骨を断つ事をやって来る。
 だからこそオッサンの武器さえ止められる。そして一度止められると、隙はデカい!


「っつ!」


 僕は敵の攻撃をかわして近くのモンスターを次々に切り飛ばしてく。速さで圧倒して手数で攻撃の暇を与えない。そしてその隙にオッサンやアギトの重量級の攻撃を決めてくれれば……だけどそう上手くも行かない。
 暗黒大陸のモンスター共は常に暴走状態にでもあるのか、切り倒されたって這いつくばってでもその汚らしい口から唾液を垂れ流しながら腕を伸ばして来る。そんな腕が次の敵を狙ってた僕の足を掴む。そして軽々と振り回されて地面に投げつけられる。


「がはっ!?」


 背中のウネリで多少は防御したけど勢いが止まらない。いや、このまま滑れば彼女を助けれるかも知れない。彼女を掴んでる腕を一瞬で斬る。出来る筈だ……イクシード3なら。


「スオウ君、駄目です!!」
「アイリ?」


 一生懸命刀身の風やウネリを調整してたのに、なんで! このままじゃあの子がやられる。アイリは僕をその体で止めた。


「貴方を単騎であそこに突っ込ませるなんて出来ません。取り返しが付かないんですよ」
「だけどアイリ、このままじゃ崩される! そう成ったらおしまいだ! セラ・シルフィングなら道を造れる。暗器よりも可能性はあるだろ」
「確かにそうですけど……」


 そう言ってアイリは周りを一瞬見回す。僕が飛ばされた事でオッサンがヤバいな。一人少し孤立してる。


「五秒です」
「ん?」
「スオウ君は五秒で彼女を解放する事だけをしてください。後は侍従隊で回収させます。セラ・シルフィングは一瞬でも納めない方が良い。彼女を解放したら必ずこっちに戻って来てください。セラの聖典で道を作ります」
「……わかった!」


 なんだかアイリがこれまで見た事無い感じに成ってる気がする。彼女は素早く指示を出すよ。


「セラ、聖典の半数の火力を人の代表へ。シルク様自身は全体回復を欠かさないでください。ピクも代表の方へ。フォローを入れて少し戦闘範囲を狭めましょう。そうすれば近くのアギト達と三人態勢に出来ます」


 セラとピクで時間稼ぎを僅かにした後でみんなを少し後退させるのか、それでそれぞれの戦線を強化すると……追い詰められてるだけの様な気もするけど、このままじゃどこかかが落とされる。侍従隊が持ちこたえても今度はオッサンの方が……そしてその次の問題がきっと出て来る。だから今のうちにって事なんだろう。
 そしてこれは全員がちゃんと揃ってる事を前提にしてるんだよな。それなら、僕は必ずあの子を助けないと行けない。既にHPはレッドゾーンに入ってる。だけど解放さえ出来れば、シルクちゃんの魔法で回復出来る。彼女のストック魔法は最強で最高の部類に入る能力だ。
 僕が助け出す事さえ出来れば、その命は保証されてる様な物。僕達がこれだけのモンスターに囲まれて一人も死人を出してないのは、個々の性能の高さもあると思うけど、シルクちゃんの回復魔法の秀逸さもあるよ。
 彼女は効率よく魔法をまわす。彼女の足下には消えない魔方陣が輝き、その手には幾枚かの桜色の羽がある。信頼出来る仲間が居る。それだけで色々と安心出来る。前だけ見れる。僕はウネリを鳴らし走り出す。風と共にモンスターの相手をしてる侍従隊のメンバーを通り越し、捕らえられてるメイドさんへ迫る。
 そしてそのまま勢いを殺さずにモンスターの腕へ切り込む。だけど最初の一発では半分くらいしか切れなかった。この状態で半分てどんな分厚い肉をしてるんだよと言いたいけど、僕は切れ目に反対側のセラ・シルフィングを滑り込ませてその腕を切り裂いた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 腕の痛みで断末魔の叫びをモンスターはあげる。ようやく解放されたメイドさん。すると空中に放り出されたその体に鉛が付いた鎖がグルグルと巻かれて、救出される。随分と強引だな。だけど生優しく……なんてやってられる状況でもないか。
 そう思ってると地上から数体の細身のモンスターが僕目指して飛んで来る。メイドさんを捕まえてた奴はパワー系の大型モンスターだったけど、こいつ等はしなやかな体に同じくらいの背丈。人形って訳じゃなさそうだけど、その手には何故か刀が握られてる。なんて物騒な奴等だ。そしてその刀は淡い光を帯びだした。


(これってまさか!!)


 その瞬間繰り出される技はスキルを纏った技だ。僕は咄嗟にウネリを使って下に落ちる。アホな奴等なのか奴等はお互いが出し合ったスキルで互いを切り刻む羽目に。危なかったな、スキル攻撃までしてくるとは……いや、実際モンスターはそれぞれ独自の攻撃をしてくるし、魔法なら同じ魔法を使うなんて所も見た事ある。
 でも今のはなんか普通にプレイヤーの技っぽかった様な……何となくだけど。そう思ってると、お互いに傷つけ合ったモンスター共は、何故か僕に怒りをぶつける様に、三体が一体を蹴り飛ばしてこっちに向かってきた。酷いなオイ! 
 しかもまたご丁寧に刀身がスキルを帯びてる。僕はそいつ等の剣戟をセラ・シルフィングで受けきる。奴等三体の一斉攻撃に自慢の速さで対抗した。てかそれしかない。最初の一体の攻撃を受け止めて回転を加えてそいつを受け流し、そのまま二体目の攻撃を反対側の剣で受け止める。最後の奴は一体目を受け流した方の剣で対応して、なんとかダメージを受けずに地面に着地。
 けどそこはモンスター共のど真ん中。しかもたった一人で、確かにアイリのいった事は正しかったな。こんな状況でもしもあの子を抱えてたら終わってたかも知れない。さて、どうやって個々を突破するか……そう思ってると黄金色の光が横方向から差し込んで来た。
 この光--収束砲か! 


「セラ!」
「とっとと来なさい! これでも倒せてなんか無いんだから!」


 確かにどいつもこいつも吹き飛んだだけで、消えていってる奴はいない。ホントに耐久性あり過ぎだろ。オート回復でもしてるんじゃないのか? って疑うレベル。僕は取りあえずこの隙にみんなと合流する。


「無事で何よりですスオウ君」
「アイリのおかげでね」


 アイリはやっぱり上に立つ人なんだって思ったよ。実際自分で戦うよりも指示してる方が似合ってる気がする。まあそれならオッサンも……いや、アイツは参謀は別に立てるタイプか。戦うのもメッチャ好きなタイプだあれは。
 だからこそ指示をアイリに任せてるんだろうしね。


「アイリ様、このままじゃ周りの人達も巻き込まれます。避難指示をしないと」
「それは分かってるけど、こっちも人手不足なのよね。別部隊でやってるけど、流石にあれだけじゃ足りないでしょうし……どこかの国が上手く対応してくれたら良いんですけど」


 上手く……か。この場合期待出来るとしたらノーヴィスかスレイプルしかないな。いや、オッサン達もあれだけ--な訳はないのか? でも代表がここに居るんじゃやっぱりマトモな行動は期待出来ないかも。ノーヴィスも実際、テトラの通信妨害にどれだけの人数を裂いてるのかわからないからな。
 実質今、なんの被害も被ってないのはスレイプルだけ。周りの人達をどうにか出来るのは彼らだけか。一番向いてなさそうな奴等が残ってるな。しかも既に被害は広がりつつあるよ。さっきから溢れてるモンスター共はどんどん周りに流れていってる。
 被害が広がるのは避けたい……けど、流石にこのモンスター全部を相手には出来ない。どうすれば……いや、それの結論は始めから決まってる。決定事項としてそこにある。だってこんな事が出来る奴はこのLROが広しと言えども一人だけだろう。
 暗黒大陸のモンスターなんかを引っ張って使役出来るのは邪神であるテトラだけだ。


「そう言えばアイツはどこだ?」
「アイツ? 邪神ですか? 邪神ならあそこに居ますよ」


 アイリが指差す方を見ると確かに居た。なんだかモリモリと盛り上がってる地面に立ってる。どうやらこれ以上のモンスターの追加は止まってる様だ。黒い染みは今あの盛り上がってる部分に集まってる。てか……今度は何をする気だ?


「まだ何かする気か?」
「どう考えても不味そうですね。巨大なモンスターでも出す気でしょうか? 山ぐらいの居ましたよね?」


 おいおい、それってどうやって対抗するかも分かんないよ。しかも確かに居たしねそんなの。まさか本当に? 止めた方が良いんじゃないか。だけどそんな余裕も無いのが現状だ。周囲の人達も、そして僕達も、絶体絶命のピンチ。


「アイリ、なにか方法は?」
「方法は……正直何も。このモンスターの強さ……余裕も何もあった物じゃないです」


 確かにその通りなんだよな。僕達は互いに今は守り合う事しか出来ない。それでようやく生きてる状態だ。ここでテトラを止めにいくなんて……けど、奴を止めないと戦闘は終わりはしない。もしもこのまま終わりが来るのだとしたら、それはきっとテトラが願いを叶えた時だろう。でもそれは同時に僕達の敗北だ。
 何もしなかったら……出来なかったら、きっとその結末しかない。方法を考えるんだ。どうにか出来る方法を。これだけ役者が揃ってるじゃないか。国を代表するプレイヤーが二人に、その直属の側近に部隊。そして名の知れたプレイヤーのテッケンさんにシルクちゃん。後は召還獣のリルフィンだっているんだ。
 対抗出来る何かがきっとある筈だろう。幾ら神だからって、これじゃあ結局人は神に及ばないって示されてるみたいじゃないか。LROが設計された時からあいつがラスボスなら、倒す術はあって然るべき。
 その筈なんだけど……最低の想像ってのもある。アイツの異常なまでの強さ。神だからってことで圧倒的なのは分かるけど、弱体化してる今でさえ底が見えないって異常だろ。前にも少し思ったけど、今だからその可能性が高くなったと感じる。
 こいつの邪神としての強さ……それはやっぱり圧倒的で例えるなら、普段は倒す事が不可能なキャラとして設定してあるんじゃないかって事だ。RPGでよくある負けを強いられてる戦闘のキャラとか……ストーリーの都合上倒される訳には行かない時に、絶対に勝てない仕様になってるアレだ。
 それが今のテトラで……いや、一応弱体化してる様だから、昨日までのテトラか。つまりはアイツを倒せる唯一の機会は元の設定ではラストバトルという場所だけじゃないかって事だよ。だってラスボスが途中で倒されたらそりゃあ困るだろうしね。
 でもこうやって考えたらやっぱり倒す--って事は可能になってる筈だな。昨日までのテトラなら本当にそれは不可能だったかも知れない。けど、僅かだけどちゃんと奴は弱体化してる。女神の祝福が、不可能と可能を隔ててたシステムを取り除いたのかも。


(僕達は仲間が増える事で、どこか大きく出てたのかも。弱体化した邪神ならもしかしたら……なんて、それは本来の目的とは違うんだ)


 僕は前へ進む。黒い盛り上がってく物体に乗ったテトラを目指すんだ。


「スオウ君!」
「アイリ……僕達の目的はなんだ?」
「目的……ですか? それはスオウ君を殺させない事です」
「それは……まあアイリ達やシルクちゃんに取ってはそうだけど、根本はクリエだろ。クリエの願いを叶える。それが目的だ。僕が今やってる事は時間稼ぎなんだよ。ノウイはきっとクリエをつれってくれる。だから僕達はその時まで、アイツを引きつけておかなきゃ行けない。
 倒さなくたって、僕達に勝利はある。だからここで手を拱いて、更に厄介な奴を呼ばれる訳にはいかないよ」


 僕達がモンスター共に気を取られれば取られる程に、それはテトラの思うつぼだ。僕達がアイツをこちら側に引きつけようとしてるのと同じ様に、テトラは僕達をモンスターに引きつけようとしてる。


「ですが、闇雲に向かってどうするんですか! 私は君を死なせる訳には行きません!!」


 思いやりのある言葉……それは十分に分かってる。だけど……ここでモンスター相手にみんなでジリ貧の攻防なんてやってられない。だってそれこそ奴の狙いなんだ。いや、向こうは本当に僕達を皆殺しにして……位は思っててもおかしくは無いけど……それならそれで好都合でもある。
 死ぬまではこっちに引っ張れるんならね。でもテトラが見届ける気なのかは分かんないし、あれを呼んだ後にノウイを追われても困るんだ。


「アイリ、僕は--」


 言葉を紡ごうとした僕。だけどその時、魔方陣の光に包まれたシルクちゃんが先にこう言うよ。


「行かせてあげてくださいアイリ様」
「シルクちゃんまで何を言ってるんですか!」


 うん、実際僕もびっくり。シルクちゃんがこんな事を言うなんて……だけど彼女は僕に視線を向けて笑顔をくれるよ。魔方陣の光も相まって神々しく見えた。女神はここに既にいたかも知れない。


「私達は確かにスオウ君を死なせたく無い。だけどここで負ける訳にもいけません。本当に山みたいなモンスターが現れるのなら、教皇様達の結界も危ういです。そう成ったら国も危険になります。私達はスオウ君を死なせずに、クリエちゃんの願いの完遂を待つしか無いんです。
 幸いそれには邪神の完全討伐なんてない。みんなを気遣うのも大切だけど、今は無茶をしましょう。大丈夫です。私が誰も死なせたりしません。邪神もモンスターも私達に釘付けにしてあげましょう」
「シルクちゃん……」


 するとシルクちゃんが今現在必死に交戦中のみんなに話しを振るよ。


「皆さんどうですか!?」
「はっ、これ以上の無茶? 上等だなシルク。自分の国の為にはこの身を削る事くらいしよう! もっともっときつめでこいやあああ!!」
「私も国の為にこの身を犠牲にする事は既に誓ってます!」


 真っ先にオッサンとイケメンさんが声を上げる。オッサンは男前だな。イケメンさんは普通に続いただけの気もする。


「シルクに言われるまでもない! ただ死なない様にする戦闘なんて意味なんてないだろアイリ! 俺達は勝たなきゃ行けない! その筈だ!!」
「その為にまだまだ無茶が必要なら……異論なんてないですよ。シルク様の事は信じてますしね」
「「「私達はセラ様に従います!」」」


 アギトにセラ、それに侍従隊の面々。みんなの声が暖かい。


「異論は無い。俺はそもそも勝つ気だからな」
「………」


 最後にリルフィンにテッケンさんな訳だけど、テッケンさんは変身中だからデカい声はあげない様だ。だけどコクリと頷いてくれたよ。みんなが今以上の無茶を許してくれた。きっと誰もがレッドゾーンギリギリでの戦闘に成るだろう。
 だけどここには誰も無難な戦いなんて求めちゃいない。この戦闘に参加してる時点で、ハードな事は織り込み済み。だったらやってやろう、見せてやろう……僕達を見下す邪神にか弱い命の意地って奴をさ。
 開かれる道はみんなの命の代償だ。僕は風に乗ってその道を最速で駆け抜ける。背中にかかるみんなの声。僕をそれを力に変える様に、セラ・シルフィングを握りしめる。

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