命改変プログラム

ファーストなサイコロ

僕が居れる場所

 世界の敵−−まさにそれに相応しい状況。セラを抱える僕の周りには多数の血の気だったプレイヤーの数々。そしてそこから統率された人の軍勢とエルフの一部隊が姿を現してる。
 エルフはセラを求めて、人は僕を……まあ僕の場合、このプレイヤーの数を相手にするより--って思うけど、そもそもこいつ等の相手をする事自体が、無駄だ。余裕が無い。


「アギト……お前本気か? 本気でセラを……」
「本気だ。この状況でもうセラに何を期待する? 終わりだろ。俺はアルテミナスを守る」


 取りあえずオッサンを無視してアギトと会話する。そう言えばそんな事をセラも言ってたような……アギトが喜んでセラを殺そうとしてるなんて訳ないからな。辛いけど、やらなきゃ行けない事。そう思ってると、上からテトラの声が聞こえて来る。


「そう言えば忘れてたな。色々な事で後回しになってたよ。アルテミナスを潰す事。セラの行動は重大な反逆。契約違反。潰すべきだ。見せしめに。お前もそう思うだろ?」
「誰が思うか。そのまま忘れてたらよかったんだ」


 本当に。もしかしたらアギトが出てこなかったらアイツは忘れたままだったかも知れないな。今更だけど。


「示しが付かないというのは分かるがな。特別な扱いは、特別な奴にしか使えない物だ。そしてそれは誰もが認める特別じゃないと、周囲の不満に繋がる」
「五種族で差を欲しくないだけだろ。お前達が認めれば--」


 僕はオッサンの言葉を否定しようとするけど、そこでまたテトラが僕達の考えを全否定して来た。


「違うな。それはお前達の勝手な思い込みだ。俺は示しなんか付かせる必要は無い。俺にとって邪魔だから、潰すだけ。俺が許せないから、壊すだけだ。お前達人とは違う。俺たち神は、誰かに奪われるなんて立場じゃないからな」


 それも確かに。示しとかはこっちが勝手に求めてた物だった。テトラは自分の障害を潰すだけだと思ってる。細かい事はあんまり考えないよな。その必要も無いしな。それだけこいつは圧倒的だ。
 てか五種族がテトラの顔色を伺ってるんだしな。こいつは自由にやってればいいだけ。そしてテトラはその腕を天へ突き出す。


「聞け下部達よ。エルフの国へ……」
「やめろ!! スオウ、セラをこっちに渡せ!!」


 そう言って手を差し出すアギト。このままじゃアルテミナスが……でもセラを殺させるなんて……だけどセラもこれは覚悟してた事。でもそもそもそれで止まるのか? それにセラはここで殺せるとしても、ノウイはどうする? あいつが今、一番重要な役目を果たしてる。


「アギト……今更、セラだけでアイツが止まるとでも思ってるのか? そんな甘い奴か邪神は?」
「それでも止まって貰う!」


 無茶苦茶言ってるぞ。それを決めるのは邪神なんだぞ。こっちの想いなんてアイツ次第。世に伝わってる邪神よりも邪神っぽくないテトラだけど、残酷な所はやっぱりちゃんとあるんだ。そしてそれが一番に出るのが、自分を阻もうとしてる奴の前に立つ時じゃないか?
 願いの為……それを考えると当たり前と言えば当たり前。僕達だって実際そうなんだろう。願いの為に他の願いを潰す事をいとわない行為をしてる。クリエの願いの為にはテトラの願いを通す訳にはいかないんだ。


「テトラ、エルフの尻拭いはエルフがやる。それでいい筈だろ!」
「確かにそいつは殺せるだろう。だがもう一人はどうする? それにそいつは代表の側近だろ? エルフの意思と思えるがな」
「セラは既に侍従隊じゃない。こいつは今は、ただの一人のエルフだ。その反抗でしかない。ノウイだってそうだ! だから--」
「だからエルフの統一意思じゃないと? だがそれでも止められない奴が一人居る時点で許される事じゃないな」


 しまったな。簡単に頼ってしまってせいでアルテミナスがこのままじゃ沈まされる。折角復興して来てるのに、今度こそ更地になっちゃうぞ。不幸の地なのかあそこは? 


「くっ……スオウ早くセラを渡せ! その後にノウイも殺せば、問題ないだろ」
「お前、本気か!?」


 何言ってるのか、分かってるのかよアギト。セラも殺して、その後にノウイもだなんて……確かにそこまでしなきゃ尻拭いって事にはならないだろうけどさ、そんなのおかしいだろ!


「本気だ。ノウイだってアルテミスの為の覚悟は出来てるさ。そうしないとアルテミスが守れないのなら、そうする!」


 アギトの奴、本気でアルテミスを守る為にはそれしかない……そう思ってる。僕は目を閉じてるセラを見る。こいつが起きてたら、その身を自ら捧げるのかな? どうしたらいいんだ?
 アルテミスを潰させるなんてそんなのダメだって思う。けどだからってそれを回避する方法が生け贄みたいなことしかないなんて……それはそれでおかしいじゃないか。
 選択肢はそれだけしか無いのかよ?


「本当に本気ならさっさとセラを殺せ。そしたら俺がノウイの所まで送ってやるよ。お前はアルテミスを守り、俺は自身の願いをそれで叶えられる。それならまあ、許してやってもいいぞ」
「本当だな?」
「アギト!!」


 アギトの奴は僕の言葉を無視してテトラを見上げてる。真剣な表情。それは覚悟は出来てるってことか。


「スオウ、お前が渡さないのなら、強制的にでも渡して貰うぞ」


 そう言ってアギトは背中の武器に手を伸ばす。本当の本気なんだな。空でにやにやしてるテトラがムカつく。アイツの言いように成ってるんだぞ。でもそんなのアギトだって分かってるか。
 それでもアルテミスを守るにはそれしかない--と、アギトは自身が優先する物を決めてる。


「大丈夫だ。殺すなんて事はしないさ」


 なるほど、それは安心--てはならないよ。その宣言はありがたいけど、まだ僕は納得出来てない。セラ達が助力に来たとき、無理にでも追い返すべきだったのか……こうなる事は分かってた筈なのに、僕は甘えてしまったんだ。普通に素直に、うれしかったから。
 けどあれを断ってたらここまで持ったかどうかも怪しい。結局僕には、自分自身で切り抜ける力が無かったんだよな。ここでこうやってアギトと対峙してるのも、不甲斐ない自分が周りに頼るしか--いや、甘えてたから。
 僕の為に助力してくれて、そして何も得ないままセラやノウイは裏切り者や反逆者の汚名を塗られて殺されなきゃ行けないのか? そんなのなんの為に二人が来てくれたか分からないじゃないか。
 どうしたら……どうしたらいい? アギトが辛いのだって分かってる。だけどこんなの誰も幸せにならない選択だ。


「まてまて、出しゃばるなよ。アイツとやるのは俺だ。敵を殺す気で行けない奴になど、譲れんな」


 そう言って僕達の間にデッカい剣を入れて来たのはオッサンだ。そう言えば先約して来たのはこいつだったな。面倒奴がしゃしゃり出て来た。


「人の……貴方だって知ってる筈だ。あのHPはスオウの命そのものだ! 殺すって事は現実でもこいつは死ぬって事なんだ!」
「知っとるよ。そいつが普通でないのは知ってる。だが本当に死ぬかは--知ってようが知った事ではないな」


 ん? なんか日本語おかしかったぞ。ようは知っているけど、関係無いと言いたいのか? よくそんな事言えるな。モンスターに殺されるなら、仕方ないから恨まないでやれるけど、分かってた上で完全に殺しにこられちゃ恨んじゃうぞこっちだってな。


「これは冗談じゃない! 貴方は人殺しに成りたいんですか? 周りのプレイヤーもそうだ。こいつを攻撃してたけど、スオウを殺すって事は、一人の命を奪うって事だ! それはゲームじゃない。本当の人殺しだ! その覚悟があってやってたのか?」


 隙を伺ってた周囲にもそうやって牽制するアギト。周りのプレイヤー達はその言葉を聞いて、僕に向ける視線がかわってる。さっきまでギラギラとした獣の様な瞳を光らせてたのに、今の言葉でなんだかちょっと引いた目に成ってるというか……「あの噂は本当なんだ」とか「本気で死なれちゃな」とか言われてる。嫌な視線だ。
 まあ引いてくれるのはありがたいけどね。けどそんな中、周りのプレイヤーと同じように成ってる側近のイケメンとは違ってオッサンは豪快に笑い出した。


「ぬわっはははははははははは! 殺す覚悟などアホらしい。そんなの俺達にある分けないだろう」
「なに?」
「お前達はここで何を背負ってるんだ? 忘れるなよ。ここは今でも、大多数のプレイヤーにとってはゲームだよ。まあ近頃はゲームでなくなる頻度が増してるのかも知れんがな」


 ん? どういう事だ? 今の発言、少し気にかかる。


「だがやはりゲームだ。俺達にとってはそうなんだ。ゲームの中でプレイヤーを狩る。それは認められる事だ。俺達はゲームの中でゲームのルールに従い、フェアに狩る。それは結局遊びなんだよ。
 遊びで実際に死なれても、こちらは責任なんてとれんし、知った事ではない。ましてや自分が悪いなど、思わんよ」
「あっ--アンタって奴は! 冗談なんかじゃないんだぞ! 自分で手を掛けておいて、それで知らんぷり出来るのか?」


 今までなんとか我慢してたけど、ついに食い掛ったアギト。だけどそのアギトを阻むようにイケメンさんを筆頭に怪しいフードを被った奴等がオッサンへの道を阻む。


「分かってますかアギト。貴方が手を出せば、それこそ戦争です!」
「くっ……」


 イケメンさんの言葉で僅かに身を引くアギト。知り合い……か? なんかそんな感じがちょっとしたけど、今聞く事じゃないな。それにお互い僕の事で揉めてるんだし。


「ハッキリ言ってやろうか? ゲームで本当に死ぬ奴が悪い。ここがゲームじゃないのはスオウと目覚めたらしい子だけだろう。それを世界の基準にされても困るな。俺達の感覚の方が圧倒的に多いんだ。迷惑なのはどっちかくらい、分かるだろ?」


 迷惑……か。確かにそうかもな。僕やセツリのせいで迷惑を被ってるのはきっと普通にLROを楽しんでた人達なんだ。僕達のせいで狂いだした。もしかしたら、寧ろ死んでほしいとか、そう思ってる人達が居たっておかしくないのかも。
 近くのみんなは良くしてくれて、理解して助けてくれてたから勘違いしてたのかな。自分達が特別なんだって。僕とその他のプレイヤーに認識の違いがあるのはアルテミスでの戦いで分かってたけど、ここまでハッキリ言う奴はいなかった。
 出来る覚悟の違いとでも言うか、そんな物だったけど、今突きつけられてるのは、僕やセツリの存在が世界にというか、周りに不協和音を響かせる原因に成り得てるってことだ。
 誰もが当たり前にやれる事をやれない存在を贔屓しろと……特別で死んじゃうからと……それを押し付ける事は確かに間違ってるのかも。僕達の事情は、僕達の問題。
 みんなが楽しそうにゲームをしてるのに、僕がその中に加わると、途端に気を遣い合わないと行けなくなっちゃう……そんな事が起きてるんだ。


「はは……」


 なんだかどこか懐かしいと感じてたけど……そう言う事か。この視線、この雰囲気。自分の存在が居たたまれなく空気。周囲から向けられる奇異の視線。全部を僕は知ってる。懐かしい筈だ。小さい頃はこんな雰囲気が当たり前だった。
 僕が加わるだけでかわる空気。それを肌で感じてたんだ。


「スオウ?」
「ああ、ごめんアギト。でもなんだか懐かしくって。けどそいつの言う事はあながち間違っちゃいない。僕達の方が実はお願いする立場なんだよ。『こう言う事情があるから殺さないでください』ってさ。異端なのはこっちなんだ」
「お前……」
「その通りだな。世界中に頭を下げて回るべき事だ。まあ受け入れられるかは知らんがな」


 確かに、普通はハブるよな。そんな気を使い合うゲームなんて自分も嫌だ。それを考えるとやっぱりみんなに僕は随分と救われてたんだ。嫌な顔なんてせずにつき合ってくれてる。それはさ、本当に凄く感謝すべき事だった。
 この世界で、この広いLROで僕の居場所を作ってくれてたのは、国やギルドやましてやシステムでも作り手でもない--仲間達なんだ。それが今、分かったよ。僕がこの戦いでどこにも付かない、つけないのは元々僕の居場所はこの世界で存在なんてしてなかったからだ。
 アギトが……セラが……テッケンさんやシルクちゃんが……そして鍛冶屋やノウイ、みんなが集まって僕が居て良い場所を作ってくれてた。本当に居心地がいい場所はそこにしかなかった。そう言うことなんだよな。


(僕はもう何も、無くしたくなんかない)


 それを決意すると、やっぱりセラは渡せない。殺させるなんて出来ない。こいつだってもう仲間なんだ。わがままでもなんでも欠かす事なんか出来ない。


「覚悟は出来たんだろう? それならやりあうぞ。俺はお前を倒し、他の種族よりも人を有利な立場におきたいんだ。代表というのは色々と大変でな」


 自分の欲望をつらつらと良く喋る奴だ。でも確かにここで僕を倒せば、多少は後の世界で上に立てるのかもね。少なくとも裏切り者を出したエルフよりは上へ行けるだろうしな。


「貴様はその女をさっさと退かせ。本気でやりあうには邪魔だからな」
「くっ……どうしてもスオウを殺す気か?」
「くどい、これは俺達に与えられた権利だ。それに利益を考えて動く事は当然だ。まあ本当は全ては建前だがな。俺が単純に奴とやってみたいと言うのが大きい。そしてそれは本気でないと楽しめないだろ」


 戦闘狂か。でも実際はこのオッサンも結構考えて行動してるんだよな。利益だって当然あるし、泊も付く。今まで一応大人しくして、更に取り入ってたのはこういうチャンスを狙ってたのかも。混戦に成れば、チャンスは転がり込んで来るかもしれないと。
 でもそれなら、結構僕達に期待してたって事にもなるな。だってノンセルスでの敗退っぶりを見てて、それでもこんなチャンスを狙ってたのなら、そう言う事だろ。
 オッサンの為に道をあける人の軍勢。やる気満々だし、周りは止める気もないのか。まあオッサンが気にしないのなら、それでいいのかも知れないな。僕は勝手に死ぬだけ。勝手に死ぬ方が悪いらしいからな。
 なんかいじめっ子の理屈に似てるな。遊んでてやってたのに勝手に死ぬ方が悪い--みたいな。でも虐めは確実に悪意があるからな。けどこのオッサンは表情からして純粋に戦闘を楽しもうとしてるように見える。そこにはやっぱりゲームを正しく楽しんでるってだけで、僕を殺したいとかがある訳じゃないんだ。質が悪いのはかわらんけど。


 ごついマントの下には筋骨隆々の体が覗いてる。馬鹿デカい剣を支えるからそれだけで筋肉に筋が浮きだってピクピク動いてるのが暑苦しい。でも……強いのは分かる。でも、そう言えばこいつのバランス崩しって何なんだろう? この馬鹿でかい剣じゃないんだよな。
 アルテミスはカーテナだし、ノーヴィスは杖。その流れから行くと、武器だと思ってたんだけど、メインにこの馬鹿でかい剣を使ってるってことは違うのかも? まあどの道、自国外では使えないんだし、考える必要は無いか。


「なあアギト、やっぱりセラはやれない。やらせられない。そこのオッサンや、周りの空気を感じて思い出した。そして分かったんだ」
「俺を前にしてよそ見とは、舐められた物だな!!」


 振り下ろされる重量級の一撃。だけどそんな鈍い攻撃なんて当たる分けない。軌道も完全に分かってるのにわざわざ的の様に突っ立ってると思ったか。横に避けた僕はオッサンじゃなくアギトを目指すよ。


「スオウ?」
「リアルでは日鞠が居場所をくれた。そしてここではお前達が……みんなが僕を受け入れてくれてるそこが居場所なんだよ。僕には友達も仲間も人に自慢出来る程居ないけど、だからこそこれ以上何かを無くすなんかしたくない。いや、させないんだ!」


 横振りで迫って来てたオッサンの攻撃をセラ・シルフィングをぶつけて軌道を変える。下から跳ね上げる形で自分の頭上を掠めさせる。


「甘いな! そのお前のわがままでアルテミナスという国は滅ぶんだ! お前が得れば、その分誰かが損をみる。そしてアギトは、それらを天秤に掛ける事は出来ない! どうしようもないんだよ。
 だがそれでも死なぬように貴様を守ろうとしてる。二人の反逆者を潰す事でアルテミスを守り、邪神の願いを叶える事でお前を守る--そうせざる得ない! どこまで行っても、お前は守られてるんだよ!」


 軌道を変えた剣の勢いを利用して体をまわす。一回転をした馬鹿でかい剣は地面を強引に抉りながら僕へ迫った。しかも地面の砕かれた欠片を飛ばして視界を誤摩化し本命を直撃させて来た。
 なんとかセラ・シルフィングで受け止めたけど……これは!


「薄いわああああああああああああ!!」


 弾かれた腕が痺れる。そして奴の分厚い剣先が僕の胴体に届いた。ヘソの所から服を裂き肉に届いてそして胸の防具にぶつかった所で大きく吹き飛ばされる。
 くっそ、なんて攻撃だ。あれじゃあ受け止めるなんて選択肢は皆無だな。純粋な物理攻撃だけでこれっておかしいだろ。スキルの光も見えなかったぞ。折角新調した胸当てに既に亀裂が入ってる。だけどこれのおかげで助かったな。
 あのままだったら下から上へ斬られてた。それが防具のおかげで跳ね上がったんだ。それにこれは丁度いいよ。
 僕が出した答えは、やっぱりこれしか無い。信じれないだろうし、上手く行く保証も勿論ないけど、伝えない訳にはいかない。だってセラもノウイもそしてアルテミナスも守るにはこれしか無い!


 僕は空中で背中のウネリを激しく動かす。そして空中で一気に方向を変えて目指す場所--それは勿論、テトラだ!!


「セラは渡せない。アルテミナスも見捨てない。それならやっぱり僕はお前にここで負ける訳には行かないって事なんだ!!」


 気合いを入れた一撃を僕はテトラに叩き込む。だけど振り抜けない……奴の腕がセラ・シルフィングを防いでる。


「苦肉の策か」
「違う! 予定通りの作戦だ!!」


 僕は周囲の風を掴んでく。テトラの力は弱まってる。それは確実で、肌で感じた事だ! 今のテトラになら届く筈なんだ!!


「ピピー!!」


 吹いて来る優しい風。それはとても掴みやすく、なんだか握手を求めて来てくれた……そんな感じさえする風が僕を後押ししてくれる。輝きを増すセラ・シルフィングを回る恒星。僕はその腕を遂に弾き返す。
 黒い靄の中に輝く光と風が流れる。そしてここで更に空中を蹴ってテトラの頭上を取る。そこから一回の捻り回転を加えてセラ・シルフィングを叩き込む!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 靄が細い線を描いて地面に落ちる。激しい土埃が起きる中、僕を狙ってその中からオッサンが飛び出して来た。落ちて来てた僕を狙っての攻撃か。


「俺の攻撃を利用して邪神を落としたか! 天晴な機転だ。じゃあこれはどうする!?」


 戦闘を楽しんでる感丸出しのオッサンの攻撃。馬鹿でかい剣は風さえも切り裂く様な音を出しながら迫って来る。避けたい所だけど、さっきの一撃にかなり気合いを使ってしまった。ウネリが小さくなってる。受け止める--は論外だし、どうする? 
 するとその時、僕とその攻撃の間に一人の少女が飛び出して来た。


「やめてください! こんなのっ--」


 銀髪の髪が一瞬で上へ流れて、彼女は地面に落ちた。まさか何の策も無いまま飛び出して来たのか?


「シルク様! どうして!」
「やめろ。どうせ、こう成るだろう事は分かってた事だ」


 僕よりも早く落ちた彼女に駆け寄ったのはオッサンの側近のイケメンさんだった。そしてオッサンはそんなイケメンの行為を止める。僕も地面に付いて急いでシルクちゃんに駆け寄ろうとする。だけど--


「それはもう敵だ。殺せ。それが人の国の為だ。我らはエルフとは違う。そうだろ?」


 オッサンの奴、僕が近づく前にやる気か。だけどあのイケメンさんなら少しは迷って……そんな期待をしたけど、彼の返答は早かった。一瞬だけ拳を握ったと思ったけど、それだけで直ぐさま「はい」と答えて腰の剣を抜き去る。


「シルク様--私は本当に残念です」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 一秒が、一瞬がまだ遠い。間に合わないのか? 本当に? 夜空に掲げられた剣はその刀身に青い光を帯びる。そして躊躇無く、振り下ろされる。

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