命改変プログラム

ファーストなサイコロ

いつのまにか

 振り切った武器の周りをキラキラとした砕けたエフェクトが光を発してる。攻撃は通ってる。それが見えるだけでも大分絶望感は緩和されるよ。でもそれでもテトラは強い。腕に入った傷……でも奴はそれを気した風もなく、その腕で拳を握って振るって来る。
 セラ・シルフィングの背でその攻撃を受け止める僕。だけどその衝撃は凄まじくて、ただの一発で弾かれる。そして態勢が大きく後方に傾いた所を更に一歩踏み込んで来るテトラ。けどそこに両端からリルフィンとテッケンさんが一足速く攻撃をしてくれる。
 勢いよく放たれた攻撃はスキルの光と共にテトラを襲う。だけどテトラの奴は動揺も見せずにリルフィンの武器を素手で掴み取ると、そのまま強引に反対側のテッケンさん(変身バージョン)にぶつけるんだ。纏ってたスキルがぶつかった衝撃で開放されて、二人を巻き込んで爆発が起こる。
 でも二人のおかげで難を逃れた僕はこの爆発を利用して、再びテトラに迫る。煙りごとセラ・シルフィングを凪いでテトラの胸に傷をつける。更にそのままもう片方の腕を振り下ろすけど、それはテトラの腕に阻まれた。
 虚をつかないとやっぱり中々切れない感じがある。意識を防御に集中されると、奴の身体を傷つけるのは難しい。弾かれてしまった訳だけど、僕はその反動でクルっと回転--突き出されてたテトラの拳を紙一重でかわして更に剣で脇腹を切る。
 すると直ぐに膝蹴りがこっちに向けられる。だけどそれにも僕は剣をぶつける。更に切りつけてダメージを狙うんだ。微量にしか減らないけど、それでも減ってる事が大切。
 そして僕はここで身体をテトラにぶつけて、態勢を崩させてから僅かな距離を取る。すると横からテトラに降り注ぐ黄金色の砲撃が直撃するよ。セラだってまだ終わってなんかないんだよ。だけどその時、黄金色の光を飲み込む闇が天に登る。それはテトラの闇の光。まるでそれはまだまだ元気ハツラツだとでも宣言してる様な光だよ。


「そう時間を取ってるわけにも行かない。俺は早くあの目が点野郎を追わないといけないんだ」


 そんな言葉と共に、なんだかテトラの光が大きく広範囲に広がり出す。一対複数で面倒だからって全部吹き飛ばす方向で来たか。僕はとりあえずウネリを作ってぶつけて見る。だけど全く止まらない。


「ちっ」


 反転して高速移動で振り切る!! てか既にリルフィン達も回避行動に移ってやがる。だけどどこまで逃げれば良いんだ? そう思ってるいきなり広範囲に広がってた光の侵食が止まった。そしてその黒い光に現れ出す見覚えのある文字。
 それはまだ自分の腕に刻まれてる呪いと同じ様に見える。なんだかあの文字を見ただけで腕が疼く様に感じるよ。


 そして今度はその光に亀裂が走り出して、砕け散る。その中からは当然だけどテトラが出て来るよ。あれは攻撃……じゃなかったのか? キラキラと輝く欠片達、だけどそれが突然に黒い炎によって燃えて行く。その先でこんな事を言い出した。


「なるほど、そう言う事か……俺の力を阻害してる術式。まさかとは思ったが……」


 何を一人でブツブツ言ってるんだ? そう思ってると、テトラはこちらを見据えて来る。


「お前達は知らんだろう。自分達がどれだけ、その愛に守られてるのか。だが別にそれを俺は憎んでなどいない。ただ、お前達はそれに気付かずに、彼女を傷つける。それが許せんだけだ」
「何を言ってるんだ? なんの事だよ」
「どうしてお前達の攻撃が俺に届く様に成ってるか疑問の一つもないのか? 」


 それは確かに疑問があったよ。真っ先に感じたおかしな事。ノンセルスじゃ全く歯が立たなかったわけだからな。それなのに、何故かここではテトラがたった一晩で弱体化しちゃったかのように、攻撃が通る。
 確かに疑問には思ってた事だけど、考えても出る結論はないし、有り難い事だからスルーしてたんだ。てか、その口調だとテトラ自身も疑問に思ってたって事か? 今のは自身の身体を調べた--みたいな事なのか?


「どうやら相変わらず彼女はお前達に味方した様だ。何度裏切られても、それでもシスカは信じ続ける」
「シスカ? 女神が僕達の為に何かをお前にしたって事か?」


 僕は思わずテッケンさんの方を見るよ。だってシスカって言われたらね……でもテッケンさんはそんな僕の視線に水から出した首を横に振って否定する。まあそれはそうだろう。だって僕が先に飛び出した訳だしね。シスカに成れたテッケンさんがテトラと邂逅したのは後なんだから、テッケンさんが何かするのは無理か。
 そもそもそんな女神と同じ力までも再現できるわけないもんな。そんな事まで出来るのなら、かなり貴重なスキルになれる。


「そうだな、まあどちらが勝つか負けるかを願っての肩入れじゃないだろうが、彼女はお前達に可能性をきっと与えたんだろう」
「可能性……」


 それはつまり、あまりにもテトラが圧倒的過ぎるからって事か。見兼ねた女神様はわざわざ知らない間にテトラを弱体化させて僕達とテトラの力を近づけたのか。可能性を等しくする為に。すると聖典に乗ったセラがこんな事を言って来る。


「ねえ、思ってたんだけど、アンタ昨晩の事覚えてないの? そもそも何のおとがめなしだったのもビックリだったんだけどね。」
「おとがめ? 昨晩の事? クリエが逃げ出してそれを捕まえた。それ以外には特に何もなかったがな。貴様の事など知らん」
「なるほどね」


  何かを納得した様な言葉。セラの奴は何かを知ってるのか? てかクリエが逃げ出したってなんだ? 逃亡を測ってたのかよあいつ。ローレとテトラ相手に凄いな。


「おい、なるほどってどういう事だよ?」
「なるほどはなるほどよ。つまりは納得出来る事があるって事。昨晩の出来事がテトラの中でその程度って、私の印象とは食い違うのよね。私が感じた事を、あんたが感じれない筈がないもの」
「聞かせろよ、貴様が感じたと言う物を」


 確かに、それは聞きたいな。一体何を感じたんだ? それにおとがめされる程の事とはなんなんだ?


「昨晩のクリエの逃亡をなんで私が知ってると思う? 慌ただしくはあったけど、ローレはその事を伝えてなんかいないわよ」
「まあ発表する程の事じゃないしね」


 黒い球体に包まれて楽してる奴が他人事みたいにそう言った。お気楽なやつだ。どっちに転んでもって言ってたけど、ローレはやっぱりテトラが負けるなんて思ってないよな。規定路線を進むのは確定してるから、少しの遊びに期待してる。そんな感じだ。僕達に賭けてる期待なんてきっとその程度。


「ていうか、その話は興味あるわ。クリエがただ逃亡を試みたってだけじゃないのかしら? あんたがその事を知ってるって事は一枚噛んだってことでしょう? でもクリエを捕まえて帰って来たテトラは何も言わなかった。
 テトラに庇う理由なんてないし、今の反応からして本当に忘れてたっぽいわよね? どう言う事?」


 ローレさえも知らない何かが起こってたらしい事が見えて来たな。


「まあもう言っちゃうけど、私はクリエの逃亡に協力したわ。聖典で色々と様子を伺ってる時に、見つけたのよ。本当なら子供の逃走なんて直ぐにでも捕まる筈。だけど上手く私が状況を伝えて、ルートを示してたから手こずったでしょ?」
「ああ、あんたの手引きのせいだったんだ。ホントこそこそとあんたにピッタリの役目をしてたわけね」
「ただ物量で捜索するなんて愚策使ってくれて助かったわよホント」


 あれ? なんだか女の戦いが始まってないか? そんな見るに耐えない女の裏の部分なんていいから、さっさと話を進めろよ。


「あれは愚策じゃないわ。情報がなかっただけ。そもそもなんでテトラが何も言わないのよ? その所為で私が謂われもない中傷受ける羽目になってるのよ。気付いてない訳なかったでしょう」


 確かにな。ローレの言ってる事も分かる。あのテトラが幾らセラがこそこそしてたからって気付かない訳あるか? でも実際テトラの奴の言葉的に考えると、マジで知らなかった--みたいに思えるかも知れない。どうなんだ? 
 ローレに振られて考え込んでるけど……


「いや、駄目だな。実際俺はそんな苦労をして捕まえたとは思ってなかった。そもそも追い詰めるのも遊びだった訳だしな。最終的には捕まえた。それでなんら問題なかった」


 なるほど、意識の違いか。周りのローレの命令で動いてた人達と違って、テトラの奴は余裕を持って、それこそゲーム的に楽しんでたのかの知れない。そもそもあいつのスペックで子供一人を逃がすなんて事が珍しい。
 だからこそ細かい事なんて気にせずにやってたから気付かなかった--と。納得--出来る事か? ローレ次第かな。


「それはつまり、周りに意識を集中してなかったって事ね。お遊び感覚だったから。でも実際、私もあんたがミスるとは思ってなかったわ。あそこで逃がす訳がないものね。
 あんたにとって一番必要だったんだし……それに邪神だものね」


 ローレの奴は含んだ様な言い方で最後の言葉を紡いだ。なんだあいつ? あれは嫌な事を企んでた奴の顔だ。もしかしたらローレの奴はテトラの行動とかを見てたのかも。
 案外邪神呼ばれてる割にまだ誰も殺したりしてないもんな。言い伝えにある印象とは随分違うし、残虐性は必要としてないだろうけど、爪の甘さとかそこら辺を心配したとか? 
 それかもっと別の考えでもあったのか……実際、ローレの奴の考えはなかなか計れないからな。でもそれなりの数を動かしてた様な印象なのに、ローレが捕まえきれないってのもよく考えるとあり得ない様な気がする。
 昨晩必死だったのは、実は狩り出された奴らだけだった……とか言うオチか。テトラはローレの含みの意味を理解でも出来てるのか「フン」と鼻を鳴らす。


「ちょっと待ちなさいよ。納得しかけてる様だけど、実際気付かないとかの問題じゃないから。私は聖典で邪神の妨害をやったわ。それこそもう滅亡覚悟でね。そうしないと、クリエを辿り着かせる事が出来そうになかったから。
 だけどその後は拍子抜けする程に何もなかった。実際今日はずっといつ、アルテミナスが攻撃を受けたって言う報告が来るかビクビクしてたのよ。けど結局はこの有様。あれを覚えてないって--だからこそ私は余計に昨晩の事がクリエのちょっとした反抗だとは思えない」


 う~ん、確かにセラの言う事もご尤もだ。てか、その話が全部本当なら、流石におかしいよな。セラは聖典まで使ってテトラを妨害したのなら、それはもう確定的だろ。おとがめ無しなんて考えられない。
 だからこそさっきからずっとセラは「覚えてないの?」って言葉を言ってた訳か。そして実際、どっちも嘘を言ってるとは思えないのも事実。だって嘘を言う理由がない。
 テトラにはアルテミナスを庇う理由なんてないし、既にクリエの逃亡の協力を暴露しちゃったセラは、テトラを直接妨害したかどうかはあんまり関係ない事だよ。
 だってクリエを逃がそうとしたって事が、奴らにとっては反逆行為そのもの。その時に直接やりあっててもそうでなくても、結果は同じ……筈だった。でも実際はアルテミナスは無事で、テトラは昨晩のぶつかり合いを覚えてないとまで言う始末。
 セラはずっと考えてた可能性を考え直してると思う。するとその会話を水面から顔を出して聞いてたテッケンさんがセラに向かってこう言うよ。なんかシュールな光景だな。いや、おかしいのは水上の方に居る僕達なんだけどね。


「待ってくれセラ君。確かにその事はおかしい。特に邪神がその事を覚えてないってのは信じれない事だよ。でも実際にそんな事が起きてしまってる。きっとこの疑問の解決は君にしか出来ないんだろう。
 その場に居てクリエちゃんと接してた君だからこそ、様々な疑問を持って思考を巡らす事が出来る。君はこの事をどう思ってるんだい?」


 確かにこの問題を解決出来るのはセラしか居なさそうだ。そしてセラは考えをまとめて確信を持った瞳でこう綴る。


「つまりですねテッケンさん、私が感じた違和感はクリエだけじゃ出来ない事にあるんです。でもその答えは既に邪神自ら言ったんですよ。あの言葉を私は妙に納得できた。昨晩の不自然なクリエとも繋がります」


 なんだか一人で既に納得してるセラ。テトラが言った事に答えがある? それはつまり……


「シスカ様が昨晩のクリエを導いて、そして今、俺達の為に邪神を弱体化させてると、貴様は言いたいのか?」


 テトラが紡いだその言葉に、セラは「それしかないわ」と答えた。


「ねえテトラ、あんたはどうしてシスカの仕業だと思った訳? 言ってあげなさいよ」
「ふん、そんなのは簡単だ。俺がシスカの魔法を間違える訳がない。それにそもそも、この世界のどこに、俺に気付かせずにこんな事が出来る奴が居る? これは俺の魔法の仕様も知ってないと無理な芸当だ。
 本当に巧く俺の力の流れを阻害してる。これだけの手際の魔法を他の誰が出来るなんて考えても居る筈がない。それこそあの外側の連中くらいだろうが、流石に俺にはわかる。魔法に込められた想いと言う奴がな」


 想い? 魔法に? 何言ってるのこの人? とか普通は思うところだけど、相手は神様だからな。そんな事が出来てもおかしくはないのかも知れない。それにきっと誰のでもって事でもないんだろう。
 テトラはシスカの魔法だからこそ分かる--そう言ってるんだと思う。


「曖昧だけど、実際私達はそんな曖昧な言葉を否定できない。それにやっぱりそう考えないと納得なんて出来ないでしょ? 本当にテトラが言う通りなんだもん。
 他の誰に、奴に気付かれずに弱体化なんか出来る? 想いを除けばあのシクラとかになら出来ても確かにおかしくないけど、あいつがそれをするメリットって何よ?
 あいつは、あんな飄々としてるけど、考え無しでは動かない。そういう奴ってのはもう誰もが分かってる筈でしょ」


 だな……確かにシクラはそういう奴だ。それにあいつ自身の口からも実は聞いてる。あいつ等外側の存在は、既存の神の存在を邪魔に思ってる。勝手に居なくなってくれるのなら、それは奴等にとってはありがたい事なんだ。
 それを阻む様な事をあいつがするとは思えない。反論する余地はなくなってるな。でも本当に女神が? けど僕達が得た情報だと、既に女神はこの世界自体に居ない筈……なんだけどな。
 だからこそ、女神復活は無理だってことになったんだしな。まあ他にも理由はあったけど、居ないものは呼び出せない--それが結論だった。けど……もしも昨晩の逃亡劇に女神が噛んでるとしたら、色々と考えれる事が増えるぞ。


「じゃあ、本当に女神様が? 貴様の確証はなんだ?」


 にわかにはまだ信じれないリルフィンがそう問いかける。確かにそういえば、テトラの理由ばっかりだったな。昨晩のクリエのおかしかった所を聞いてみたい。ようはセラはそれを知ってるから、シスカの仕業って奴をすんなり受け入れてるんだ。
 納得できる程の事がそこにはある筈。


「そうね、まずはクリエは昨晩だけ魔法を使ったわ。それまで魔法なんて一度も使った事なんかなかったのに、あいつはそれを誰かに教わりでもしてるかのように使った。この時点でおかしいでしょ」
「確かに……」


 クリエには悪いけど、反論できない。てか魔法って……マジかよ。それこそにわかには信じれないぞ。でもまだある様だ。


「後はそうね、あいつが目指してた場所。それは確かに外だったけど、広場の所までだったわ。しかもその先は行き止まりの場所……逃げる奴がそんな所をわざわざ目指す? 隠れるにしてもまだどこか--せめて町中に紛れるとかあるでしょ。
 幾らクリエが頭が緩いからって流石にあれはないわ。無さすぎて逆に不自然だったのよ」


 なるほど、アホの行動が極まったせいで、逆に誰かの入れ知恵が働いてるって考えに至った訳ね。確かにそんな所をわざわざ選びはしないよな。そもそもあいつ逃げる事は結構上手そうじゃないか? 
 最初だって、サン・ジェルクから逃げるために一人で飛空挺に紛れてたんだ。とりあえず遠くに--その思考は少なからずある。それを考えるとクリエが意図的に目指すにしてはやっぱりおかしいな。でもその時は女神が助力してるなんて夢にも思わなかったんだよな。まあ当然だけど。その時点じゃ、その思考には至れない。
 女神の事に至れたのはあくまでテトラがその名を出したから。そしてあいつの圧倒的な強さを僕たちが知ってるからこそ、納得できるんだ。あいつを出し抜ける様な真似が出来るのは、女神くらい。同じ存在……同じ創世の神……闇の対になる光の存在。だからこそ--


「だからこそ、出てくるのはもう女神しかない。消去法で行ってもそうなるわ。魔法が使えない筈のクリエが即席で魔法を使えた。それは女神がクリエの力を理解してるから。だってクリエの力はそこの邪神と女神の力を併せ持ってるんでしょう。納得できるわ。
 そして邪神の記憶操作と弱体化--それも女神でないと出来ない。相棒であった邪神の事を理解してるからこそでしょう。そしてその弱体化を邪神自身が、シスカの力だと言った。確信出来る。女神シスカはあの夜だけ、この世界に居たのよ」


 反論の余地はどこにもないな。確かに女神シスカはこの世界にあの夜だけ居たんだろう。どうやって? --それはまさに神のみぞ知るって奴だな。まあ、もしかしたらテトラの奴なら何か方法が提示出来るかもしれない。


「女神がこの世界に降りてきてたってのはそうなんだろう。実際ここまで言われたら、反論なんて出来ないよ。ただ言える事は、ありがたいって事だよ。ようは女神とクリエの昨日の頑張りのおかげで、僕達は戦えてるんだろ? 
 クリエの奴もちゃんと自分に出来る事を頑張ってたんだ。それなら僕達だってやらないとだろ。バトンは受けとった。出来る限り最高のバトンだ。僕達があいつに迫った訳じゃないけど、届く位置にテトラは降ろされた。これ以上、何をありがたがれって位の功績だ!」


 初めて会った時は逃げてて、無邪気ながら直ぐ泣いて、守ってくれてた人まで居なくなって、それからも良く泣いて守られる事が続いてた。だけどあいつは小さいながらに一人で立とうとしたんだ。
 女神が一緒だったとしても、それが出来たのはクリエが諦めなかったから。それが今、この時に生かされてる。僕達はクリエの行動に、勇気に助けられてるんだ。
 空へ続く長い階段を見上げる。必死に上を目指すノウイの姿が見える。そしてその背に背負われたクリエ。表情までは流石に見えないけど、きっと辛いんだろう。でもきっと後少しだ。一番上まで、ノウイが--いや、僕達全員が連れて行ってやる。
 だからそれまで、もっともっと頑張れ。お前の頑張る姿が、僕達の励みに、心の奮えになるよ。力が溢れる--なんて事は実際にはないけどさ、心から溢れるものはある。
 頑張りはきっと相乗してく。互いの姿が、行動が心を震わせるものなら、自分たちだって負けられないって思う。もっともっとと前を目指せる。そんな状態は確かにあるんだ。
 僕はみんなの前から一歩を進み出る。


「なあテトラ、今更だけどこれだけは言わせて貰う」
「そうか、俺ももう一度ハッキリ言っとかなくちゃ行けない事がある。変な期待はさせない主義だからな。俺は邪神--絶望はきっちりと与えるタイプだ」


 テトラの奴も一歩を踏み出す。そしてその周囲を濃い靄が覆いだす。滞ってた戦場の空気が再び流れ出すのを感じる。僕は僅かに振り向いて後ろのみんなに視線を送る。言葉なんていらずに頷いてくれるみんな。
 僕は足に集めてる風を蹴って水上を走る。そして月明かりに輝くセラ・シルフィングを大きく両側に広げて叫ぶんだ! するとテトラの奴もその黒い靄を移動に使うじゃなく、纏ったままこちらに突っ込んでくる中でその漆黒の髪を揺らして叫ぶ!


「「僕は(俺は)譲らない!!」」



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品