命改変プログラム
最後の希望
 ヒトシラ−−それは召喚士に仕える選ばられし従者みたいなものだ。召喚士が全ての召喚獣を操るのであれば、ヒトシラはパートナーである召喚獣一体と密接に繋がる感じ。そしてそうなる事で、召喚士しか使えない筈の召喚獣の特性をその身に宿す事が出来る。
 そしてメリットはそれだけじゃなく、召喚獣の方にもあるんだ。パートナーがいれば、召喚獣は自身の力を最大限に発揮出来るらしい。統括の召喚士だけじゃ引き出せないパフォーマンスを、ヒトシラは引き出す事が出来る、重要な存在なんだ。
「てな、事らしいですよテッケンさん」
「なるほど。あまりにも君たちが普通に『ヒトシラ』なんて専門用語を使ってるから聞きずらかったけど、これで良くわかったよ」
「それは何よりです」
 まあ僕も詳しいわけじゃ無いけどね。ほぼテトラの受け売りだ。そもそもヒトシラなんて存在はメジャーじゃ無いもんね。このままテッケンさんを無視して続ける訳にはいかなかったので、説明したんだ。大切な事だしね。
「つまりは今のスオウ君とエアリーロの様な関係がそうなんだよね? 確かに二人はリア・レーゼでも力を相乗してた様な感じだったね。それはまさにヒトシラとしての関係が出来つつあったから……なんだね」
「そうなりますね。エアリーロと繋がる事で、僕はあいつの風を、そしてエアリーロは僕の風を得て互いを強化出来たんです。だからこそ、もしも他の召喚獣とも、それが出来れば……って事なんですけどね」
 そう、それが出来れば、きっともっとあの二人に近づける。少なくとも力では。でもだからって超えるか? と問われるとそこは微妙だ。なんせ戦力が桁違いだからね。だけど力があれば、もっといろんなアプローチの仕方があると思うんだ。
 可能性の幅が広げれる……みたいなさ。それは結構大きい事だろう。だからやる価値はあるとは思うんだけど……
「だけど今スオウ君は自分でヒトシラはパートナーの召喚獣一体と繋がるっていったよね? それって召喚獣一体に対して、一人のヒトシラが割り当てられてるって事じゃ無いのかい?」
「そこは確かにそんな感じなんですよね。だから問題はそこなんです」
 ローレの奴もエアリーロの奴も、言い方的にテッケンさんの推論通りっぽいんだよね。きっと普通に考えたら、召喚獣一体に心通じるヒトシラが一人つくんだろう。だけど絶対に出来ない……なんて言えないよね。他の召喚獣とも心を通わせれば、一人で複数のヒトシラになれるんじゃ……僕はリルフィンに話を振る。
 悩むよりも、この場に召喚獣が居るんだし、聞いた方が早いよな。
「どうなんだリルフィン? 一人で複数の召喚獣のヒトシラに成るって事は出来るのか?」
「聞いた事はないな。そもそも全部が揃った事など俺の記憶にはないしな。まあ俺はかなり古い方の記憶は無いから曖昧だが。だが、それ程ヒトシラに選ばれると言うのは難しいと言う事だ。意思でどうにかなってる物なのかもわからんしな」
 う〜ん、確かにヒトシラの選定はよくわかんない様な事をエアリーロも言ってたよな。やっぱり相性とか、それとももっと潜在的な何か……なのか? LROは心を汲み取るから、その人の本質までも見抜いて精霊の祝福の武器を決めるとまで言われてるんだ。
 それなら、本質を見抜いて割り当ててもおかしくないよな。だけどそれなら、やっぱり一人に対して一体が強くなる。それじゃあ困る。
「なんなんだろうな? ビビっとくる物があるとか? リルフィンは今までそんな奴にあってないのか? てか一番ローレの傍に居るのなら、最初に探し始めた筈じゃ無いのか? 」
 普通そうだよな? どうやらリルフィン以外の召喚獣は風の棲家にいたエアリーロみたいに、自分の特徴の現れてる場所に居るみたいだし、遠征とかして手に入れてった筈だ。それは結構面倒だし、召喚獣との契約を求めての戦いはきっとローレにとっても楽じゃなかった筈。
 だけどやらない訳にもいかない。だって召喚士であいつの目指す目的は大きいからね。それなら既存の力のパワーアップは図ろうとするものだ。リルフィンのヒトシラを求めててもおかしくない。
 どうなんだそこら辺?
「そうだな。確かにヒトシラ探しは俺から始まった。だが最初の頃はそんなに乗り気でもなかったからな主は。しばらくしても見つからない様だったから、早々と打ち切ってたぞ」
「珍しいな、あいつが諦めるなんて……」
 どんな手を使ってでもやり遂げるのがローレだろ。それが早々に切り上げるなんて……どうでも良いとでも思ってたのか? それかもっと興味のある事がその時にはあったとか?
「単純に時間を避けなかっただけかも知れないがな。その時は領土戦争の始まり時期で、色々と不都合が多かった。単純に戦力を増強させるために、不確かなヒトシラを求めるよりも、主は場所が割れてる召喚獣との契約を優先したと言う事だろう。
 ヒトシラ一人居るよりも、召喚獣が並んでた方が壮観だろ?」
「確かに、それはそうだな」
 前に見せてもらったローレと召喚獣の写った画像は確かに壮観だったもん。見栄えを気にして、ハッタリにも使おうと思うなら、召喚獣を数体揃えた方が確かに効果的だ。ヒトシラなんてメジャーじゃ無いもんな。この国のテッケンさんも知らないんだし、僧兵達も知らなかったようだしな。
 ヒトシラは代々星の御子を継いだ者だけに伝えられて来た秘密みたいな物だったのかも。テトラが知ってたのは、あいつは創生の神だからね。そこはまあおかしくない。召喚獣は自分達の事だし、知ってて当然。
「思ったんだけど……」
 ポツリと考え込んでたテッケンさんがそうつぶやく。一体何をおもったんだろう? 僕達は注目をするよ。
「複数のヒトシラはやっぱり無理なんじゃないかな?」
「どうしてですか? それはまだわからないですよ」
 もしかしたらの可能性は残ってる筈だ。実際フィフティフィフティくらいはまだ希望を僕は持ってるよ。それなのに無理は無い。流石に女神復活とか、全員の願いの成就の方法よりも、まだ可能性は高いとさえ思ってる。
 理由を聞かせて貰おうか。
「いや、単純にこれは差別化の問題だと思うんだ」
「差別化?」
 どう言う事ですか? 説明プリーズ。
「だからこれはそれぞれのアドバンテージの問題なんだよ。考えてもみて欲しい。もしも一人で複数の召喚獣と繋がれるヒトシラがいたら、それは複数の召喚獣の力を扱える事になるんだよ」
「そうですね。最高じゃないですか」
「いや、だからそれは召喚獣やヒトシラの頂点に君臨してる筈の召喚士の領分だって事だよ」
「力が結局被る事になる−−って事ですか?」
「そうだね。そもそもヒトシラはそれぞれの召喚獣に最もあうパートナーでその力を最大限に引き出すと言うのなら、ヒトシラ全員、その対応した召喚獣の一点特化型のスタイルになる筈なんだよ。そうでないとバランスも悪いし、そもそも召喚獣と波長があうとか必要じゃなくなるよ」
 確かにテッケンさんの言う事はごもっともだな。元締めである召喚士の領分を子分達が犯すわけは無いか。てか、そう言う風にシステム上なってるとおもった方がいい。なるほどね、ゲームとして考えても、確かにそれは結構あり得る。
 全ての召喚獣の力を満遍なく扱える術者自身……ヒトシラはそれを守る従者なんだから、それぞれの召喚獣の一点特化は普通に考えてもそうだね。
 納得だ。
「でもそれなら……この考えも無駄って事に。なんだか自分達で次々に可能性を潰す感じになってませんか?」
 いや、そんな事言いたくなかったけど、だってもうそうなってるとしか……するとリルフィンの野郎が終わった事をネチネチとまだ言ってる。
「だからシクラ達を協力者に仕立てとけばこんなことになってないんだ。大事なのは先の事じゃなく、今だろうが。今を越えないと、先はないんだ。越えれた時に、先の事は考えればいい。今を越えれば、落ちた印象も挽回するチャンスはくる。
 だが、ここで終われば全てががここまでなんだぞ」
「そんなのわかってる」
 頭を抱えながら僕はそう言い返す。だけど声に力はなかったかもしれない。だってリルフィンの言ってることは正しいからな。今を越えないと、明日へはいけないんだ。ならまずは、今をどんな手を使ってでも超える事が大事なのかも。
 でも結局、あのシクラとかが協力を約束したってそれはそれで嘘っぽいんだよね。そもそもそんな事を言ってたら、僕はきっと殺されてたし、あいつらにとっての最優先事項はセツリだよ。それにこの世界の神がいなくなるのは好都合とか言ってたしな。
 実際そんな今はあり得なかったんじゃないか? プライドとかじゃなくてさ、考えてもいくと、そう思える。
「ふん、まあ今更頭を下げる気もないから良いがな。だがそろそろ本当に頭打ちだぞ」
 確かにやれることはどんどんなくなっていってる。こうなったらプライドとか本当にいってらんないから、エアリーロのところに戻って二人の神の話でも聞くか? これだけは本当にただのプライドと羞恥心の問題だからやれるよ。
「何も出来ずに負けるなど、それだけは出来ん。なんの策もなく出ていくと、主に失望されかねんからな」
 本当にどこまで行ってもお前の心配事はローレに通じるな。なんだかそこだけはズレてると思うんだ。まあズレてるだけで真っ直ぐではあるけどな。でも確かにこのままじゃ、ろくな策もなくぶつかる羽目に……でもとりあえずぶつかればなんとかなる……って次元の相手じゃない。それは誰もが良くわかってる。マジで一体どうすれば……
「リア・レーゼがこの有様なんだ。サン・ジェルクに希望を託して行ってみるかい? 元老院がどう出るかわからないけど」
「そこですよね問題は」
 ようやくノエインが教皇として自分の道を進み出したわけだが、今その教皇は不在だ。あいつらの事だから好き勝手しそうだし、そもそも僕を見つけたら喜んでテトラに捧げそうだろあいつら。邪神にビビってたらしいし、取り居る為に、世界の敵にまでのし上がった僕を献上したいはずだ。
 てか、普通にこのまま終わるとも思えないんだよな。あいつらこそ、プライドだけはデカく高いはずだ。元老院と言う名家に生まれて、その誇りと上流階級の既得権益で好き勝手にやって来た奴らだからな。
 ノエインのことは勿論、僕の事だって相当嫌ってる筈だ。だけどノエインは圧倒的大人気の教皇様。今手を出すのは流石に不味いと奴らもわかってるんだろう。だけどちょうどいい事に、僕は指名手配犯だよ。あいつら民衆を煽っててもおかしくない。
 邪神はシスカ教にとっては敵の筈だろうけど、そんな信仰よりも、復讐を優先するだろあいつらは。目に浮かぶ。きっとシスカも神の国で泣いてるな。
「あいつらは確かに腐ってるけど、その歴史は相当なんですよね。それなら、やっぱり表に出て来てない裏の情報なんかも相当持ってる筈」
 寧ろそっちが多そうだしな。元老院は星羅が出来る前から元老院なんだろ? 沢山きっと隠し持ってる。でもサン・ジェルクに行くのはリスクがね。暴れるわけにもいかないんだし、難しいところがある。ノエインから圧力をかけて貰うとかするか?
 だけどそんな事をしたら、元老院側に、ノエインが僕の協力をしてると教える事になるかもしれない。そうなるとまた厄介な事になるよな。あいつらの事だから、これを世間に流して信用失墜させて、実権を取り戻そう−−とか考えてもおかしくないんだ。
 いや、おかしくないって言うか……絶対にやるな。確信もてるもん。やっぱり元老院なんかあの時に叩き潰して解体しとくべきだったんだ。ノエインは甘すぎるよ。懐に敵を飼ったっていい事ないよ。
「元老院内に協力者でも居れば、また違うんだろうけどね。このまま向かうのは危険だよ」
「協力者ですか……」
 案外あいつらって黒いつながりでガッチガチだからな。結構厳しいかもしれない。どうせ弱みを握り合って、裏切りを防いでたりしてるんじゃなかろうか。悪い奴らがよくやる手段だよな。別に奴らは信用をしてるわけじゃなく、メリットである集団になってるだけ。
 そしてそこで一番怖いのが裏切りな訳だから、それを起こさせない対策をとってるって考えるのは普通だろ。だからこっちに協力をする様な奴は正直考えられない。こっち側に付くメリットも考えても考えてもでてこないしね。
 するとここで僧兵の奴がポツリと言うよ。
「協力者ってわけじゃないですけど、情報を持ってそうな人なら……」
「知ってるのか?」
「いや、お前も知ってるだろ? サン・ジェルクで元老院の長の部屋の前で会ったじゃないか」
   ん? ちょっとまてよ。いま思い出す。そういえば長にもう一度話を聞ければな〜とか思うけど、あの人は一度眠ったら一週間近く起きないらしいからな。あの会議の後に寝たんだから、まだまだ起きないよな。
 んで、なんだっけ? 長の部屋の前であった娘だろ……え〜と頭の映像を巻き戻す。
「その子ってあれだっけ? お前といい感じになってた−−」
「何バカな事をいってんだ!?  別にそんな事なってねーよ!!」
 赤面を晒して必死に成っちゃって、恋してるんだな恋。まあお似合い……とは決して言えないけど、身分違いの恋もいいんじゃないかな? 僕は応援するよ。
「だから違うっていってんだろーが!!」
 ゼェハァゼハァと荒い息を繰り返してる。まったくそこまでムキになることでもないだろうに。
「それでその子ってのは?」
 テッケンさんがフォローする様にそういってくる。僕はとりあえず思い出した事を伝えて見る。
「なるほど、長さんのお孫さんなんだね。だけどあれ? もしかしたら僕も会ってるかも……だよね?」
 そう言ってテッケンさんは僧兵を見る。すると僧兵はコクリと頷く。
「そうです。ノンセルスで協力してくれたあの娘がそうです」
「ああ、やっぱり」
 なんだか納得したみたいな反応をするテッケンさん。何かそう言う要素を既に垣間見てたのかな?
「いや、確かに二人は仲がよかったから」
「テッケンさんまで、辞めてください」
 僧兵の奴は頭を抱えてまう。だけど一体、なんでそこまで拒否するのかわからん。別に全然良いと思うんだけどな。冷やかしじゃなく。二人はきっと惹かれあってる。それは傍目から見ててもわかるんだよ。
 だけどテッケンさんは深入りしようとはしない。僕の言葉も止めて、代わりにこれからの事を話すよ。
「でもあの娘も教皇様と一緒にいたんじゃ結局サン・ジェルクじゃ協力は仰げないね。残念だ」
「確かにそうですね。それは残念」
「なんだかお前は残念がってる部分が違う気がするぞ」
 おいおい、それは言いがかりだろ。僕は素直に色んな意味を込めて、残念って言ったんだよ。広い意味を込めたからテッケンさんよりも残念な気持ちが強く伝わったのかもしれないな。それはしょうがない。
「それはそうと結局使えない奴だな」
「お前はいっぺん死んで来い」
 酷い冷めた目でそんな風に言われてしまった。なんてこった傷付いちゃうぞ。てか、マジでどんどんと可能性が潰れてく。やっぱり多少強引にでもサン・ジェルクに攻め入って、元老院を脅すか? だけどどこに居るかなんて確実にはわかんないしな。
 僕達は互いを見て、口を開こうとして結局辞める。だって良いアイディアが次々に打ち砕かれていくから、流石に打ち止めだよ。このままなら元老院拉致くらいしか出来なくなる。重い空気が漂う。
 街の方から聞こえる慌ただしい音は世界の変容なんて気にしてなく、ただ今を生きる為のエネルギーに向いてる感じ。本当はローレの奴はここに居なきゃいけない筈だろうに、前ばっかり見据えやがって。でもリア・レーゼの人達はそれでいいと思ってそうでもあるな。
 でも口では言わなくても、本音は復興を一緒に……そんな願いは見える。だけどローレの事を信じてるから、あいつが帰ってくる場所はここだと思ってるから頑張ってるのかもね。
 多くなんて望まなくても、既に十分な物をあいつは持ってる。そう思うんだけどな。すると喧騒の中になにかが聞こえる?
「どうしたんだい?」
「いや、何か風に乗って聞こえませんか?」
  するとそんな僕の言葉に促されて、リルフィンが耳を澄ます。
「確かに聞こえるな。このノーヴィスでは珍しくない旋律の歌だ」
「歌……そうか、確かにそうだな。なんだか聞き覚えあるとおもったけど、この歌は良くクリエが歌ってた……っておい?」
 どこ行くんだ? リルフィンの奴、いきなり焼け落ちてる本殿の方へ歩いていくぞ。僕達は取り敢えずその後を追うよ。すると次第に曖昧だった旋律がはっきりと聞こえ出す。なるほど、リルフィンは音源の方へ近づいてるのか。焼け落ちた瓦礫を踏みしめながら進むと、神壇の前に来た。そして黄金色に輝くそれを見上げて、こうつぶやくよ。
「どうして忘れてたんだろうな。あんな強烈で、重要な奴を」
 なんだ? 希望を見つけたみたいな顔してるぞ。僕達はまだ良くわかんない。
「忘れたのか? この場所であったことを。主がこの場所を死守したのも、民の為もあるが、重要な場所だからだ。ここには誰よりもこの国に詳しい奴が居る」
詳しい奴……そしてこの歌……どうやら神壇の裏から−−ってそう言うことか。思い出した思い出した。僧兵の奴らはまだ疑問みたいだけど、テッケンさんもわかった様だ。
「なるほど、そうだね。こんな重要な事を見落としてるなんて一生の不覚だよ。ここ以外どこも残ってないのが不幸じゃない。ここだけが残ってる事が、僕達にとっては不幸中の幸いなんだ」
 確かに、テッケンさんの言う通りだよ。ここが残ってる……それが何よりも重要だったんだ。ローレの奴、見越してたのか? いや、流石にただ大事な部分だからかな。そこら辺はわからないけどけど、取り敢えずここには重要な奴が居るんだ。僕達は裏に回り、下に続く扉に手を掛ける。そしてその古びた木製の扉を開けると、一気に下手くそな歌が響いて来た。
「うお!?」
 バタン−−と思わず閉じた。いや、だって一人で歌ってるにしてはデカすぎだったんだ。普通鼻歌を想像するじゃん。全然そんなんじゃなかった。全力であの爺い歌ってやがった。まあ考えてみれば閉じ切った扉から漏れるのなら、其れなりの音量だったのは察しがついたな。取り敢えず、今度は覚悟して扉を開ける。
「つっ……なんて酷い歌だ」
「確かにそうだけど、あの爺いが無事で何よりだって思おう」
「そうだね。今は唯一の光に見えるよ」
 僕達は下に降りて一本道の通路を進む。そして白いヒゲをいっぱい蓄えた仙人モブリに声を掛ける。
「おい爺い! その歌やめろ! 聞くに耐えないぞ!!」
 ダメだ。全然辞める気配がない。みんなで一生懸命声を荒げるのに、マイク一本持ってない仙人モブリの声にかき消されてく。どう成ってるんだ一体? てか、どうすれば……
「やっぱり女じゃないとダメか」
 ポツリとリルフィンがそんな事をいう。そう言えばこの仙人モブリは異常なほどの女好きだったな。でも生憎今は女子がいない。どうしよう。するとテッケンさんが驚く声をだした。
「ん、んっこほっ……【ちょっと私を無視するなんて踏みつけるわよ!】」
「んひひょおおおおおおおおおお!! その声はメイド服のsっ子エルフちゃんじゃなああああああ!!」
 声だけで正確にいまの声がセラだと当てやがった。やっぱり聞こえてるじゃないか! てか残念な事にセラはいないけどな。今のはテッケンさんの声真似だ。だけど仙人モブリはどこかにセラが隠れてると思ってか、ハイテンションで駆け回ってる。
 こいつ……全然変わってない。
 そしてメリットはそれだけじゃなく、召喚獣の方にもあるんだ。パートナーがいれば、召喚獣は自身の力を最大限に発揮出来るらしい。統括の召喚士だけじゃ引き出せないパフォーマンスを、ヒトシラは引き出す事が出来る、重要な存在なんだ。
「てな、事らしいですよテッケンさん」
「なるほど。あまりにも君たちが普通に『ヒトシラ』なんて専門用語を使ってるから聞きずらかったけど、これで良くわかったよ」
「それは何よりです」
 まあ僕も詳しいわけじゃ無いけどね。ほぼテトラの受け売りだ。そもそもヒトシラなんて存在はメジャーじゃ無いもんね。このままテッケンさんを無視して続ける訳にはいかなかったので、説明したんだ。大切な事だしね。
「つまりは今のスオウ君とエアリーロの様な関係がそうなんだよね? 確かに二人はリア・レーゼでも力を相乗してた様な感じだったね。それはまさにヒトシラとしての関係が出来つつあったから……なんだね」
「そうなりますね。エアリーロと繋がる事で、僕はあいつの風を、そしてエアリーロは僕の風を得て互いを強化出来たんです。だからこそ、もしも他の召喚獣とも、それが出来れば……って事なんですけどね」
 そう、それが出来れば、きっともっとあの二人に近づける。少なくとも力では。でもだからって超えるか? と問われるとそこは微妙だ。なんせ戦力が桁違いだからね。だけど力があれば、もっといろんなアプローチの仕方があると思うんだ。
 可能性の幅が広げれる……みたいなさ。それは結構大きい事だろう。だからやる価値はあるとは思うんだけど……
「だけど今スオウ君は自分でヒトシラはパートナーの召喚獣一体と繋がるっていったよね? それって召喚獣一体に対して、一人のヒトシラが割り当てられてるって事じゃ無いのかい?」
「そこは確かにそんな感じなんですよね。だから問題はそこなんです」
 ローレの奴もエアリーロの奴も、言い方的にテッケンさんの推論通りっぽいんだよね。きっと普通に考えたら、召喚獣一体に心通じるヒトシラが一人つくんだろう。だけど絶対に出来ない……なんて言えないよね。他の召喚獣とも心を通わせれば、一人で複数のヒトシラになれるんじゃ……僕はリルフィンに話を振る。
 悩むよりも、この場に召喚獣が居るんだし、聞いた方が早いよな。
「どうなんだリルフィン? 一人で複数の召喚獣のヒトシラに成るって事は出来るのか?」
「聞いた事はないな。そもそも全部が揃った事など俺の記憶にはないしな。まあ俺はかなり古い方の記憶は無いから曖昧だが。だが、それ程ヒトシラに選ばれると言うのは難しいと言う事だ。意思でどうにかなってる物なのかもわからんしな」
 う〜ん、確かにヒトシラの選定はよくわかんない様な事をエアリーロも言ってたよな。やっぱり相性とか、それとももっと潜在的な何か……なのか? LROは心を汲み取るから、その人の本質までも見抜いて精霊の祝福の武器を決めるとまで言われてるんだ。
 それなら、本質を見抜いて割り当ててもおかしくないよな。だけどそれなら、やっぱり一人に対して一体が強くなる。それじゃあ困る。
「なんなんだろうな? ビビっとくる物があるとか? リルフィンは今までそんな奴にあってないのか? てか一番ローレの傍に居るのなら、最初に探し始めた筈じゃ無いのか? 」
 普通そうだよな? どうやらリルフィン以外の召喚獣は風の棲家にいたエアリーロみたいに、自分の特徴の現れてる場所に居るみたいだし、遠征とかして手に入れてった筈だ。それは結構面倒だし、召喚獣との契約を求めての戦いはきっとローレにとっても楽じゃなかった筈。
 だけどやらない訳にもいかない。だって召喚士であいつの目指す目的は大きいからね。それなら既存の力のパワーアップは図ろうとするものだ。リルフィンのヒトシラを求めててもおかしくない。
 どうなんだそこら辺?
「そうだな。確かにヒトシラ探しは俺から始まった。だが最初の頃はそんなに乗り気でもなかったからな主は。しばらくしても見つからない様だったから、早々と打ち切ってたぞ」
「珍しいな、あいつが諦めるなんて……」
 どんな手を使ってでもやり遂げるのがローレだろ。それが早々に切り上げるなんて……どうでも良いとでも思ってたのか? それかもっと興味のある事がその時にはあったとか?
「単純に時間を避けなかっただけかも知れないがな。その時は領土戦争の始まり時期で、色々と不都合が多かった。単純に戦力を増強させるために、不確かなヒトシラを求めるよりも、主は場所が割れてる召喚獣との契約を優先したと言う事だろう。
 ヒトシラ一人居るよりも、召喚獣が並んでた方が壮観だろ?」
「確かに、それはそうだな」
 前に見せてもらったローレと召喚獣の写った画像は確かに壮観だったもん。見栄えを気にして、ハッタリにも使おうと思うなら、召喚獣を数体揃えた方が確かに効果的だ。ヒトシラなんてメジャーじゃ無いもんな。この国のテッケンさんも知らないんだし、僧兵達も知らなかったようだしな。
 ヒトシラは代々星の御子を継いだ者だけに伝えられて来た秘密みたいな物だったのかも。テトラが知ってたのは、あいつは創生の神だからね。そこはまあおかしくない。召喚獣は自分達の事だし、知ってて当然。
「思ったんだけど……」
 ポツリと考え込んでたテッケンさんがそうつぶやく。一体何をおもったんだろう? 僕達は注目をするよ。
「複数のヒトシラはやっぱり無理なんじゃないかな?」
「どうしてですか? それはまだわからないですよ」
 もしかしたらの可能性は残ってる筈だ。実際フィフティフィフティくらいはまだ希望を僕は持ってるよ。それなのに無理は無い。流石に女神復活とか、全員の願いの成就の方法よりも、まだ可能性は高いとさえ思ってる。
 理由を聞かせて貰おうか。
「いや、単純にこれは差別化の問題だと思うんだ」
「差別化?」
 どう言う事ですか? 説明プリーズ。
「だからこれはそれぞれのアドバンテージの問題なんだよ。考えてもみて欲しい。もしも一人で複数の召喚獣と繋がれるヒトシラがいたら、それは複数の召喚獣の力を扱える事になるんだよ」
「そうですね。最高じゃないですか」
「いや、だからそれは召喚獣やヒトシラの頂点に君臨してる筈の召喚士の領分だって事だよ」
「力が結局被る事になる−−って事ですか?」
「そうだね。そもそもヒトシラはそれぞれの召喚獣に最もあうパートナーでその力を最大限に引き出すと言うのなら、ヒトシラ全員、その対応した召喚獣の一点特化型のスタイルになる筈なんだよ。そうでないとバランスも悪いし、そもそも召喚獣と波長があうとか必要じゃなくなるよ」
 確かにテッケンさんの言う事はごもっともだな。元締めである召喚士の領分を子分達が犯すわけは無いか。てか、そう言う風にシステム上なってるとおもった方がいい。なるほどね、ゲームとして考えても、確かにそれは結構あり得る。
 全ての召喚獣の力を満遍なく扱える術者自身……ヒトシラはそれを守る従者なんだから、それぞれの召喚獣の一点特化は普通に考えてもそうだね。
 納得だ。
「でもそれなら……この考えも無駄って事に。なんだか自分達で次々に可能性を潰す感じになってませんか?」
 いや、そんな事言いたくなかったけど、だってもうそうなってるとしか……するとリルフィンの野郎が終わった事をネチネチとまだ言ってる。
「だからシクラ達を協力者に仕立てとけばこんなことになってないんだ。大事なのは先の事じゃなく、今だろうが。今を越えないと、先はないんだ。越えれた時に、先の事は考えればいい。今を越えれば、落ちた印象も挽回するチャンスはくる。
 だが、ここで終われば全てががここまでなんだぞ」
「そんなのわかってる」
 頭を抱えながら僕はそう言い返す。だけど声に力はなかったかもしれない。だってリルフィンの言ってることは正しいからな。今を越えないと、明日へはいけないんだ。ならまずは、今をどんな手を使ってでも超える事が大事なのかも。
 でも結局、あのシクラとかが協力を約束したってそれはそれで嘘っぽいんだよね。そもそもそんな事を言ってたら、僕はきっと殺されてたし、あいつらにとっての最優先事項はセツリだよ。それにこの世界の神がいなくなるのは好都合とか言ってたしな。
 実際そんな今はあり得なかったんじゃないか? プライドとかじゃなくてさ、考えてもいくと、そう思える。
「ふん、まあ今更頭を下げる気もないから良いがな。だがそろそろ本当に頭打ちだぞ」
 確かにやれることはどんどんなくなっていってる。こうなったらプライドとか本当にいってらんないから、エアリーロのところに戻って二人の神の話でも聞くか? これだけは本当にただのプライドと羞恥心の問題だからやれるよ。
「何も出来ずに負けるなど、それだけは出来ん。なんの策もなく出ていくと、主に失望されかねんからな」
 本当にどこまで行ってもお前の心配事はローレに通じるな。なんだかそこだけはズレてると思うんだ。まあズレてるだけで真っ直ぐではあるけどな。でも確かにこのままじゃ、ろくな策もなくぶつかる羽目に……でもとりあえずぶつかればなんとかなる……って次元の相手じゃない。それは誰もが良くわかってる。マジで一体どうすれば……
「リア・レーゼがこの有様なんだ。サン・ジェルクに希望を託して行ってみるかい? 元老院がどう出るかわからないけど」
「そこですよね問題は」
 ようやくノエインが教皇として自分の道を進み出したわけだが、今その教皇は不在だ。あいつらの事だから好き勝手しそうだし、そもそも僕を見つけたら喜んでテトラに捧げそうだろあいつら。邪神にビビってたらしいし、取り居る為に、世界の敵にまでのし上がった僕を献上したいはずだ。
 てか、普通にこのまま終わるとも思えないんだよな。あいつらこそ、プライドだけはデカく高いはずだ。元老院と言う名家に生まれて、その誇りと上流階級の既得権益で好き勝手にやって来た奴らだからな。
 ノエインのことは勿論、僕の事だって相当嫌ってる筈だ。だけどノエインは圧倒的大人気の教皇様。今手を出すのは流石に不味いと奴らもわかってるんだろう。だけどちょうどいい事に、僕は指名手配犯だよ。あいつら民衆を煽っててもおかしくない。
 邪神はシスカ教にとっては敵の筈だろうけど、そんな信仰よりも、復讐を優先するだろあいつらは。目に浮かぶ。きっとシスカも神の国で泣いてるな。
「あいつらは確かに腐ってるけど、その歴史は相当なんですよね。それなら、やっぱり表に出て来てない裏の情報なんかも相当持ってる筈」
 寧ろそっちが多そうだしな。元老院は星羅が出来る前から元老院なんだろ? 沢山きっと隠し持ってる。でもサン・ジェルクに行くのはリスクがね。暴れるわけにもいかないんだし、難しいところがある。ノエインから圧力をかけて貰うとかするか?
 だけどそんな事をしたら、元老院側に、ノエインが僕の協力をしてると教える事になるかもしれない。そうなるとまた厄介な事になるよな。あいつらの事だから、これを世間に流して信用失墜させて、実権を取り戻そう−−とか考えてもおかしくないんだ。
 いや、おかしくないって言うか……絶対にやるな。確信もてるもん。やっぱり元老院なんかあの時に叩き潰して解体しとくべきだったんだ。ノエインは甘すぎるよ。懐に敵を飼ったっていい事ないよ。
「元老院内に協力者でも居れば、また違うんだろうけどね。このまま向かうのは危険だよ」
「協力者ですか……」
 案外あいつらって黒いつながりでガッチガチだからな。結構厳しいかもしれない。どうせ弱みを握り合って、裏切りを防いでたりしてるんじゃなかろうか。悪い奴らがよくやる手段だよな。別に奴らは信用をしてるわけじゃなく、メリットである集団になってるだけ。
 そしてそこで一番怖いのが裏切りな訳だから、それを起こさせない対策をとってるって考えるのは普通だろ。だからこっちに協力をする様な奴は正直考えられない。こっち側に付くメリットも考えても考えてもでてこないしね。
 するとここで僧兵の奴がポツリと言うよ。
「協力者ってわけじゃないですけど、情報を持ってそうな人なら……」
「知ってるのか?」
「いや、お前も知ってるだろ? サン・ジェルクで元老院の長の部屋の前で会ったじゃないか」
   ん? ちょっとまてよ。いま思い出す。そういえば長にもう一度話を聞ければな〜とか思うけど、あの人は一度眠ったら一週間近く起きないらしいからな。あの会議の後に寝たんだから、まだまだ起きないよな。
 んで、なんだっけ? 長の部屋の前であった娘だろ……え〜と頭の映像を巻き戻す。
「その子ってあれだっけ? お前といい感じになってた−−」
「何バカな事をいってんだ!?  別にそんな事なってねーよ!!」
 赤面を晒して必死に成っちゃって、恋してるんだな恋。まあお似合い……とは決して言えないけど、身分違いの恋もいいんじゃないかな? 僕は応援するよ。
「だから違うっていってんだろーが!!」
 ゼェハァゼハァと荒い息を繰り返してる。まったくそこまでムキになることでもないだろうに。
「それでその子ってのは?」
 テッケンさんがフォローする様にそういってくる。僕はとりあえず思い出した事を伝えて見る。
「なるほど、長さんのお孫さんなんだね。だけどあれ? もしかしたら僕も会ってるかも……だよね?」
 そう言ってテッケンさんは僧兵を見る。すると僧兵はコクリと頷く。
「そうです。ノンセルスで協力してくれたあの娘がそうです」
「ああ、やっぱり」
 なんだか納得したみたいな反応をするテッケンさん。何かそう言う要素を既に垣間見てたのかな?
「いや、確かに二人は仲がよかったから」
「テッケンさんまで、辞めてください」
 僧兵の奴は頭を抱えてまう。だけど一体、なんでそこまで拒否するのかわからん。別に全然良いと思うんだけどな。冷やかしじゃなく。二人はきっと惹かれあってる。それは傍目から見ててもわかるんだよ。
 だけどテッケンさんは深入りしようとはしない。僕の言葉も止めて、代わりにこれからの事を話すよ。
「でもあの娘も教皇様と一緒にいたんじゃ結局サン・ジェルクじゃ協力は仰げないね。残念だ」
「確かにそうですね。それは残念」
「なんだかお前は残念がってる部分が違う気がするぞ」
 おいおい、それは言いがかりだろ。僕は素直に色んな意味を込めて、残念って言ったんだよ。広い意味を込めたからテッケンさんよりも残念な気持ちが強く伝わったのかもしれないな。それはしょうがない。
「それはそうと結局使えない奴だな」
「お前はいっぺん死んで来い」
 酷い冷めた目でそんな風に言われてしまった。なんてこった傷付いちゃうぞ。てか、マジでどんどんと可能性が潰れてく。やっぱり多少強引にでもサン・ジェルクに攻め入って、元老院を脅すか? だけどどこに居るかなんて確実にはわかんないしな。
 僕達は互いを見て、口を開こうとして結局辞める。だって良いアイディアが次々に打ち砕かれていくから、流石に打ち止めだよ。このままなら元老院拉致くらいしか出来なくなる。重い空気が漂う。
 街の方から聞こえる慌ただしい音は世界の変容なんて気にしてなく、ただ今を生きる為のエネルギーに向いてる感じ。本当はローレの奴はここに居なきゃいけない筈だろうに、前ばっかり見据えやがって。でもリア・レーゼの人達はそれでいいと思ってそうでもあるな。
 でも口では言わなくても、本音は復興を一緒に……そんな願いは見える。だけどローレの事を信じてるから、あいつが帰ってくる場所はここだと思ってるから頑張ってるのかもね。
 多くなんて望まなくても、既に十分な物をあいつは持ってる。そう思うんだけどな。すると喧騒の中になにかが聞こえる?
「どうしたんだい?」
「いや、何か風に乗って聞こえませんか?」
  するとそんな僕の言葉に促されて、リルフィンが耳を澄ます。
「確かに聞こえるな。このノーヴィスでは珍しくない旋律の歌だ」
「歌……そうか、確かにそうだな。なんだか聞き覚えあるとおもったけど、この歌は良くクリエが歌ってた……っておい?」
 どこ行くんだ? リルフィンの奴、いきなり焼け落ちてる本殿の方へ歩いていくぞ。僕達は取り敢えずその後を追うよ。すると次第に曖昧だった旋律がはっきりと聞こえ出す。なるほど、リルフィンは音源の方へ近づいてるのか。焼け落ちた瓦礫を踏みしめながら進むと、神壇の前に来た。そして黄金色に輝くそれを見上げて、こうつぶやくよ。
「どうして忘れてたんだろうな。あんな強烈で、重要な奴を」
 なんだ? 希望を見つけたみたいな顔してるぞ。僕達はまだ良くわかんない。
「忘れたのか? この場所であったことを。主がこの場所を死守したのも、民の為もあるが、重要な場所だからだ。ここには誰よりもこの国に詳しい奴が居る」
詳しい奴……そしてこの歌……どうやら神壇の裏から−−ってそう言うことか。思い出した思い出した。僧兵の奴らはまだ疑問みたいだけど、テッケンさんもわかった様だ。
「なるほど、そうだね。こんな重要な事を見落としてるなんて一生の不覚だよ。ここ以外どこも残ってないのが不幸じゃない。ここだけが残ってる事が、僕達にとっては不幸中の幸いなんだ」
 確かに、テッケンさんの言う通りだよ。ここが残ってる……それが何よりも重要だったんだ。ローレの奴、見越してたのか? いや、流石にただ大事な部分だからかな。そこら辺はわからないけどけど、取り敢えずここには重要な奴が居るんだ。僕達は裏に回り、下に続く扉に手を掛ける。そしてその古びた木製の扉を開けると、一気に下手くそな歌が響いて来た。
「うお!?」
 バタン−−と思わず閉じた。いや、だって一人で歌ってるにしてはデカすぎだったんだ。普通鼻歌を想像するじゃん。全然そんなんじゃなかった。全力であの爺い歌ってやがった。まあ考えてみれば閉じ切った扉から漏れるのなら、其れなりの音量だったのは察しがついたな。取り敢えず、今度は覚悟して扉を開ける。
「つっ……なんて酷い歌だ」
「確かにそうだけど、あの爺いが無事で何よりだって思おう」
「そうだね。今は唯一の光に見えるよ」
 僕達は下に降りて一本道の通路を進む。そして白いヒゲをいっぱい蓄えた仙人モブリに声を掛ける。
「おい爺い! その歌やめろ! 聞くに耐えないぞ!!」
 ダメだ。全然辞める気配がない。みんなで一生懸命声を荒げるのに、マイク一本持ってない仙人モブリの声にかき消されてく。どう成ってるんだ一体? てか、どうすれば……
「やっぱり女じゃないとダメか」
 ポツリとリルフィンがそんな事をいう。そう言えばこの仙人モブリは異常なほどの女好きだったな。でも生憎今は女子がいない。どうしよう。するとテッケンさんが驚く声をだした。
「ん、んっこほっ……【ちょっと私を無視するなんて踏みつけるわよ!】」
「んひひょおおおおおおおおおお!! その声はメイド服のsっ子エルフちゃんじゃなああああああ!!」
 声だけで正確にいまの声がセラだと当てやがった。やっぱり聞こえてるじゃないか! てか残念な事にセラはいないけどな。今のはテッケンさんの声真似だ。だけど仙人モブリはどこかにセラが隠れてると思ってか、ハイテンションで駆け回ってる。
 こいつ……全然変わってない。
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