命改変プログラム

ファーストなサイコロ

上を目指して

 もう何時間経っただろうか。外の状況は全く分からなくて、太陽の動きさえ知り得る事が出来ないこの場所で、僕はずっとエアリーロ相手に戦闘してる。既に数時間位は経ったかな? いや、既に一日位の疲労は蓄積してるかも知れない。


「かはっ!」


  そんな事を思ってると、背中側からエアリーロが吐き出した風の攻撃が直撃する。僕は地面を跳ねて勢いが止まるまで何も出来ない。


「はぁはぁはぁはぁ……」
【油断禁物です。集中が切れて来てますよ】


  くっそ……そんなのわかってる。だけど気になるんだよ。どのくらい経ってるかとか、大切じゃんか。僕がここから出た時に全てが終わってたらどうするんだ。


【外の事が気になりますか?】


  僕の考えを見透かす様にそう紡ぐエアリーロ。なんだかだんだん僕の考えを読みまくる様になって来てないかこいつ? エアリーロが言うには僕達は既にヒトシラとしての関係が築かれつつあるらしいからね。
  エアリーロが僕の風を纏い、僕がエアリーロの風を使った。それはそう言う事らしい。まあだけどまだ正式ではないらしいけど……あと必要なのは主であるローレとの誓いとかなんとか。まあやんないけど。あいつとの関わり合いは今だけで十分だ。
  質悪いからな。ようはヒトシラでの繋がりが強まってるのかどうかはわかんないけど、エアリーロは僕の心を読んでる。僕は苦々しい声で「当然だろ」と答えるよ。喉の渇きがヤバイ。ここは喉を潤す為に、ウインドウを開きアイテム欄から水をだす。
  喉だって乾くのがLROだからね。普通に高い回復薬とかの他にも実はジュース類とかアルコールだって売ってる。旅のお供には水分補給は大切だって事。でもアイテム欄を圧迫するのが嫌な人は、水筒を肩や腰から下げるとかも聴く。まあ最悪、回復薬でも代わりにはなるからね。
 

 で、この水は僕が普段から持ち歩いてる物か? って言うとそうじゃない。僕は基本水なんて買わないしね。どうせ持ち歩くならジュースにする派だ。これは流石に水分補給も無しにぶっ通しでやり続けるのは困難だと判断したエアリーロがくれた物だ。
  どこから出したのか知らないし、実際ただの水かも疑わしくはある。味は水だけどね。でも不思議とこれを飲むと風が感じやすくなる……そんな気がちょっとだけする様な気もしなくもない。僕は取り出した水が入った容器の蓋をキュポンと取る。
 突然だけどこの水が入った容器はなんと竹です。LROには普通に水筒をとかもあるけど、何故か竹。いや、エアリーロが金属製の水筒を出すのもどうかと思うけど、でもこれはこれで悪くはない。昔はこんな風にして旅のお供に竹があったんだ成って感じる事ができる。
  そうやって竹水筒をに歴史を感じてると、バサバサとエアリーロが近くまでおりて来た。


【それが雑念ですよ。貴方が今、外の事を幾ら考えた所で役立たずでしょう。自分のやるべき事を見据えなさい】
「役立たず……は言い過ぎだろ」


 いや、実際その通りだけど。僕はテトラの奴に完敗したもんな。あそこでシクラの奴が現れなかったら、確実に死んでた。やるべき事……わかってるは居るんだけどね。


【あの子を助けたいのでしょう? 邪神と言う巨大な魔の手から。そして残酷な世界から……それなら強くなるしかありません。違いますか?】
「違わない……な」


  エアリーロの言うとおり、強くなるしかない。それが唯一、クリエを助け出す術だ。僕はアイテム欄の中に水筒を戻す。自分を貫くには力が居る。でもそれは実際は一人ではどうしようもない事なのかも知れない。
  ここで僕が身につける力……それだけで対抗できる程、きっとテトラの奴は甘くはない。それはきっとエアリーロだってわかってると思う。あいつがラスボスなら、プレイヤー一人で倒せる難易度なわけがないんだ。
 それこそ最強クラスが徒党を組みまくって、いや神ならそれこそやはり五種族の軍全部で挑んで対等なのかも知れない。でもだからってここでやっぱり無理だろ−−なんて言えない。僕がやらなきゃ……誰かが代わりにはなんてこれはあり得ない。それにタイミング的には今しかない。
 ゲームだから誰かがいつか……は通用しないんだ。僕が約束した子供はもう一人居るんだから。体の痛みや重さ。恐怖や葛藤……それら全部諸々、味わい尽くしてるよ。それでもこれが僕が出した結論で、選んだ道だ。
 

 地面に落ちてるセラ・シルフィングを僕は拾い上げる。後は僕がこいつを扱い来れるかどうかだろ。不甲斐ない使い手でゴメンだ。いつだって僕の無茶な要求に応えてくれてたのに、僕はただその力に振り回されてただけだった。
 これからはちゃんとやる。耳を傾けてお前と語らって、理解する。だからまだ付き合ってくれ。セラ・シルフィングを通して、僕は自身の風を感じ出す。それは外にある物じゃなく自身の中に流れてる風だ。
  今までの戦闘で、それを感じ取れる様にやっとでなった。この自身の風をイクシードは増幅させる機能を有してる様だ。そしてそれは気持ちと連動する。セラ・シルフィングが増幅した風が外に溢れ出し、周りの風を強引に巻き込んで形作られるのがイクシードのうねり。
 それは今までは僕の支配下にはなかった。セラ・シルフィングが自身で僕の為に制御してくれてた。最初のイクシードは風と雷の混合ハイブリッド。実際まだ、この雷の事はよくわかんない。エアリーロは専門じゃないしね。
 だけど風を感じると表裏する様にこの激しい音も聞こえる。イクシードは次第と風に比重が寄って行くけど、本当はどっちもバランス良く混ぜれるのかも知れない。けどどっちにしかまだ僕は特化した事がないんだよね。


 雷の特化はしかも一回だけで、あれは偶然みたいな物だった。風への理解は深まってるけど、セラ・シルフィングの根底にはまだまだ迫れてないのかも。だけど今は贅沢は言ってられない。風だけでも完璧にするんだ。それだけでも得られる何かはきっとある。
 それに普通のイクシードの状態なら、うねりを強めれば雷も自然と強力になって行く。まあでも結局はどっちかに特化させたほうが効率的には無難なんだけど。その位の操作は今までも出来たしね。遠距離と集団戦にはウネリの広範囲攻撃は便利で、雷に特化した刀身は今の所は切れ味増加位にしか使えてない。
 どうしてなんだろうね? 普通にやってたらイクシードの方にばっかりいくし、僕自身が風に比重を置いてるから? なのかな。相性が風の方がいいのかも知れない。取り敢えずただのイクシードはどうやっても混合だ。それを強みと思ってやるしかないし、これはこれで修行には良かったりするよ。風と雷はそれだけ違いもわかりやすいからね。


 僕は集中して風を中心にウネリをほどいて行く。刀身に残るのはビチバチと僅かに放電する音のみ。


【周囲の風は掴めましたか? では私の攻撃を出来得る限り避け続けなさい】


  そう言ってエアリーロは大きく羽ばたき上昇してく。そして一回激しい風を起こして、視界を奪うと、そのスピードを活かして動き出す。


「集中だ集中」


  風の繋がりは切れてない。姿は見失ったけど、エアリーロが乱す風は感じ取れる。次の瞬間後ろから迫るエアリーロ。それを僕はワンステップで交わす。あんまり激しい動きは出来ないんだ。だけどすぐさまエアリーロは反転する。
 そして風を自身の口の前に集めて、打ち放ってくる。地面に当たると同時に周囲にまでその風を撒き散らすこの風の攻撃は厄介だ。どうあがいても大きく避けないといけない。それに激しく風の流れを乱す。


【風は止む事はありません。どんなに無風に感じても、空気は凪いでいるのです。そしてつかんだ風も流れは止められない。風は沢山の事を教えてくれます。未練など捨てなさい。掴み続ける事が大切ではないのですよ。どれだけの風と会話できるのかが大切です。
  貴方達は繋がる事でしかそれが出来ないのなら、気持ちを切り替えて行きなさい】


  その台詞、耳にタコができる位聞いたっての。風は教えてくれる。色んな事を。でもだからって普通の風は止まったりしない。引き込まないのなら、どれだけの風の声を聞けるかが重要だ。けどエアリーロは普通にしてて、その情報を得られる様だ。風の声はデフォルトで聞こえる。
  まあ風の頂点に位置する存在なんだから、それは当然なんだろうけど、こっちはそうじゃない。流れ行く風に自身の風を絡ませるのがどれだけ大変か、あいつにはわかんないよ。だけどその文句も言い飽きたよね。
 その時、繋がった一吹きの風が教えてくれる。「こっちは不味い」って。でもそれは声がクリエの時みたいに聞こえるわけじゃない。この感覚はどう言ったら良いのかよくわかんないんだけど、つながった瞬間に感じ取れる……と言うか、そんな感じだ。


 四方から迫る風の攻撃。完全方位されてて避ける道が無い。エアリーロの方がやっぱり何手も僕の先を行ってる。後手に回り続ける状況を打破しないと、追い詰められ続けるだけだ。そしてエアリーロ相手に手こずってる様じゃ、あのテトラには何も通用しないよな。


【終わりですか?】


  そんな声が頭上から降り注ぐ。まさか、気が早いっての! 僕は周囲の風を掴み集めて、刀身じゃない場所に小さなウネリを作り出す。今はこれが精一杯。だけどそのウネリと攻撃の一つがぶつかり合って道はできる! そこから脱出だ。


「いっ!?」


 すると見計らった様に目の前にエアリーロが突っ込んできてた。やっぱり読まれてたか。一つしか撃墜出来なかったら、そこから脱出するのは当然。全部うち落とせれば、まだ良いんだろうけど、まだまだ僕の風の操作じゃ、一度に遠距離にウネリを作るのは一つが限界なんだ。
 どれだけの風を自身で支配下に置いて引っ張ってくるかっていうね。あれ大変。


【手が少ないから読みやすいのですよ。出来ないじゃなく、やって見る事も大切です! そんなに物分りの良い人ですか? あなたは】
「はは、確かに」


  お行儀良くやってる気もあんまりなかったけど、もっともっとガムシャラでも良いのかもね。エアリーロは結局付き合ってくれてるだけで、殺そうとはしようとしてないみたいだし、無茶をバンバンやるべきか。
 目の前に迫ったエアリーロが、そのまま突っ込んで来るのかと思いきや、直前で大きく翼を開いて激しい風を起こす。うげ、せっかくスキルを発動させてたのに無駄になった。一分に一回の絶対回避だったのに。風は全範囲系だからこのスキルじゃ通り抜けられない。
 僕は動けなくなり、しかもそれだけじゃなく、後ろで発生してた先の攻撃の炸裂した風とぶつかり合って、トルネードが発生しやがった。


【風のウネリと言うのなら、これくらいの物は作って貰わないとですね】


 トルネードの発生を確認したエアリーロは再び上昇。自分だけさっさと離脱しやがった。前言撤回、やっぱりあいつ僕の事を殺す気だろ。トルネードは三本も出来てて、こっちに迷わず向かってくるぞ。
  こんなのとまともにぶつかったら五体バラバラだ。


【言っときますが逃げられませんよ。あなたの小さなウネリと同様に、そのトルネードは私の制御下にあるのですから。自然的に発生したのと同じだと思わないでください。どこまでも貴方を追いかけます】
「くっ!」


 試しに刀身にウネリを集めて攻撃して見たけど、毛程も効きはしなかった。トルネードだからな……横からの攻撃には滅法強い。それに周囲の流れまでも巻き込んでうねってる訳だし、相性が悪いな。セオリーで行くのなら、トルネードは真上は無力ってオチがあって、今の僕ならこのウネリを使って結構高く跳べると思う。
 でも嫌らしい事に、エアリーロの奴はトルネードの頂点をこの風の棲家の外周と合体させてやがる。風の棲家を形作ってる風とトルネードがくっついてるんだ。
  これじゃあ幾ら上に跳べる様になってても意味はない。唯一の攻略法は封じられてしまってる。


(どうする? どうすれば良い?)


 僕は逃げながらなんとかする術を一生懸命考える。ワザと突っ込んでHPを減らしてイクシードの段階を上げる……いや、それじゃあダメだ。この状況はそれでどうにか出来るかも知れないけど、そんな命を無駄にする様なやり方じゃダメなんだ。
  それじゃあこれまでと同じだよ。ただのイクシードがダメなら、HPをワザと削ってでも段階を上げる。それが強引なやり方だったんだ。これまではそれでなんとかなったけど、今回の相手は打ち止めのイクシード3でも、更に進化した筈のイクシード アウラだってやすやすと超えた実力を有してる奴だ。


  段階を挙げれば勝てるかも知れない……そんな甘い考えは通用しない。だからこそ、僕はこのただのイクシードで、まずはエアリーロの鼻を明かさないとなんだ。僕は逃げるのを辞めて、トルネードと向かい合う。三方から近づいて来る三つのトルネード。
 それぞれが距離を保ってるのはきっと重なり合うのを防ぐため……なんだろう。トルネードって合体するんだよね。だけど合体すれば更に強い一本のトルネードが出来る訳だから、悪い事でも無い様な気がするけど……エアリーロには何か意図があってそうしたく無いのかも。
  まあそれか今の僕にはそれで十分って事なのかも。攻撃手段ないしな。だけどただぶつかるだけじゃ無い術を僕はここで得た筈だ。今、自分が出来る事を考えて導き出せる事はきっとこれしか無い。


【降参しますか? 死なずにすみますよ】
「誰がするか」


  エアリーロのそんな囁きを振り払って、僕は刀身に集ってたウネリを解除する。そしてそれと同時に一番近くに迫ってるトルネードの風の流れに自分の風を紛れ込ませる。僕のウネリもエアリーロのウネリも原理はきっと同じだろう。それなら、エアリーロの支配を乗っ取ればきっと僕の意思でこのトルネードを制御出来る筈だ!
 この風の棲家を進んできた時の事を思い出すんだ。風の流れを読んで……最も深い場所へ。そこにきっとエアリーロと繋がる風がある。流れに任せてトルネードの一部に加わる。後は風を読んで、話して、導かれるままに。


 ここからは流れのままにやってると上に上に生かされそうだからね。しっかりとコントロールをする。激しいウネリの中を僅かな流れの空白部分を見つけて進むんだ。


「っつ……」


 やばいな、かなり近づいてきてるのがわかる。激しい風が体をすでに持って行きそうな程だ。それだけ近いって事だよな。でも集中を途切れさせる訳にはいかないから、僕は目を閉じたままの状態を維持する。
 額から流れ出す汗が、下じゃなく風に煽られて横に流れて飛んで行く。エアリーロは僕が何をやろうとしてるか、きっと気づいてる。さっきから変にトルネードの流れが変わる時があるからな。流れを変えて、僕の風を追い出そうとしてるんだろう。
 だけどまだなんとか対応出来てる。
 自由な風はどっちの味方もしてどっちの敵にもなる。繋がれば教えてくれるからね。だからこそ、進める。前に前に……奥に奥に。エアリーロの支配するその風を見つける為に。


「あれ……か!」


 見つけた色濃くその色が出てる風。淡い緑色の輝く風はまさしくエアリーロを象徴する輝きの風だ。僕は直様その風とつながる。すると風を通して頭に響いて来るエアリーロの声。


【ここまでこれましたか。でもここからどうする気ですか?】


  随分と余裕を感じれる声だ。まあ確かにここまで来るのと、ここからやる事はきっと別物なんだろう。誰かの支配した物を乗っ取るなんて、僕には初体験だからな。しかも相手は元から風の支配者みたいなエアリーロだ。
 でもやらないと、僕はここでトルネードにミンチにされる。そして次は無い。今の僕には、次はもう絶対にないんだ。今までの様にリアルに戻れる事はない。HPがなくなったら、きっと本当に死ぬ。
 何回も体験したLROでの死の感覚は本物だった。だけどそれをこれまでは必死に受け流して来たんだと思う。でももうそれはない。僕には『ログアウト』がないのだから。僕は頭で伝えられるんだろうけど、わざわざ声に出してこういうよ。


「どうする? そんなの決まってるだろ。お前から奪い取るんだ!!」


 その言葉と同時に一斉にトルネードに残りの全部の風を投入する。


【なるほど。確かに壊せない風は乗っ取るしかありませんからね。だけど私の支配はそう甘くはないですよ】


  その瞬間エアリーロの風が一斉に溢れ出して来る。そしてあっという間にトルネード全体が輝き出す。これは……


【さあ、乗っ取ってみなさい。この全部を私の煌めく風で組み込んだ風のウネリを!!】


 なんて事をあっさりと……これじゃあもう、自身の風だけでこれだけのトルネードを作ってるのと同じだろう。全部にエアリーロの風が干渉してるのなら、付け入る隙が……こうなったら流れを読んで、繋がりが弱い部分からほどいて行くしか……時間は掛かるかも知れないけど、上手くいけばこのトルネードを消せるかも知れない。


「うっ……くっ!」


  いや、ダメだ。時間なんてもうない。目の前にトルネードはある。踏ん張っても、吹き飛ばされるのは時間の問題だ。僕は地面にセラ・シルフィングを深く突き刺す。これで少しは耐えられる。それでも到達されればどの道終わりだけど、抵抗するかしないかの違いはあるはずだろ。


「くっぬうううううう!」


 やばい、踏ん張る事に意識が行くと、トルネードに混ぜてる風の集中が疎かになる。これじゃあジリ貧だ。体力も精神力も……どうする? どうしたら良いんだ? 風の支配の格が違うエアリーロからこのトルネードを乗っ取るなんて実質不可能だ。僅かな繋がりをどうにか結びつける僕とは質も量も桁違い。
 これが風の精霊の力。実力と本質って所なのか。風の支配では全然上。遥か彼方を走ってる。てか飛んでるな。
 

【諦めて降参しないと本当に死にますよ。貴方を殺すと主がきっと残念がるのでイヤなのですけど。それに私も、せっかくのヒトシラ候補です。大切にしたいんですよ】


  だから生かされて……それで良かったなんて思えない。体がトルネードの周囲の風に持っていかれそうだ。なんとかコントロールを出来るうちにしないと……中に居たんじゃダメだ。僕は風を外に出そうとする。だけど上手く集中出来ないせいか、トルネードの風の外には出れたけど、それはなんと中心部分だった。
 そこはトルネードの内側の外だ。いや、なんかややこしいけど、今まではトルネードの回転してる風のその中に自身の風を混ぜてた訳だから、中心部分も僕にとっては外なんだ。


(だけど……これは!)


 棚からぼた餅的なあれかも知れない。外からの攻撃にはビクともしないトルネード。だけど中からはそうじゃない。そして今の僕には、自身から遠くにウネリを作る術がある! これだけの規模のトルネードを壊すとなると、其れなりの威力がウネリにも必要になる。自身の風を全部集めても足りない。僕はトルネードの風を僅かに引っ張り込んで中心部分でウネリに加えてく。
 わかった事は、流石に末端の部分まではエアリーロの支配は行き届いてないって事だ。全体に及んでる様に見える支配だけど、あくまでも自由な風は存在してる。おかげで、ウネリを強化出来る。


 内側からもう一つの逆回転してるトルネードを発生させれば……とか思ったけど、流石にそれだけの風は奪えない。なら一気に内側から炸裂する風を作るしかない。もうほんの数メートルに迫るトルネード。
 はっきり言って、まともに息が出来ない。意識が朦朧とする。だけど倒れる訳にはいかない。必死になってウネリを制御して激しく収束させる。小さな円をイメージして、可能な限り圧縮!! そして限界までも持って行って−−


「弾けろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


  その瞬間、僕は圧縮させたウネリを開放させる。するとトルネードの低い位置の風が一気に拡散する様に弾けた。そして一気に形を保てなくなったトルネードの煌めく風とあいまって激しい乱気流が発生した。それは残りの二つのトルネードのにも伝わる。
 そして他の二つも形を保てなくなって消えて行く。。どうやら近づいてたのが仇になった様だな。 僕はというと、乱気流に巻き込まれて吹っ飛ばされてました。上空に。上手く受け身も取れずに地面に落ちて、全身痛い。だけど……戻ってきた地上はさっきまではとは打って変わって凄く静かだ。
 僕は自分の手を見つめて、握ったり広げたりしてみる。


「まだ生きてるな」


 それを確認したかったんだ。なんとかやれた。うまく……とは言えないかも知れないけど、可能性は感じられたよ。

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