命改変プログラム

ファーストなサイコロ

花の城 4

 どうしてこんな事になってるんだろう。大きな城に相応しい、縦長の長いテーブル。テーブルクロスは細かな刺繍がされてて、その上には綺麗な花瓶に花が活けてある。どこを見ても立派な城の中で、ただでさえ緊張するのに向かいに座るのはシクラに百合姉さんだ。
  そして蘭姉さんは出入り口に仁王立ちしてる。あれはどうみても僕達を逃がさない様にしてるとしか思えない。出された紅茶とケーキは大変美味しそうだ。だけどなんだか手をつけようって気には僕はなれないよ。喉は乾くんだけどね。
 上を仰げばシャンデリアが煌めいててどこにも落ち着ける要素がない。


「食べないの? 美味しいのに☆」
「お口に合いませんでしたか〜?」


  僕達が全然手を伸ばさないから、二人がそう言ってくる。口に合うあわないじゃないんだ。きっとどれだけ美味でも、今食べたら味なんてわかんないとおもう。そのくらい緊張してるんだ。あんな戦闘を身近で見せつけられて、その後にほいほいとお茶なんて頂けない。
 あの力がいつこっちに振り下ろされるかと思うと、何も喉なんて通らないよ。だけどこのまま何も言わないのもどうかとまた思うよね。てか、この場を受け入れたのはリルフィン君なんだ。彼はどうしてるんだろう……そう思って隣を見ると、ペロッとケーキも紅茶も平らげてた。そしてこう言ったよ。


「甘ったるいが、悪くはない」


  死亡フラグが見える! 殺されるよそんな事を言ったら!! 


「贅沢な奴ね。ただの獣舌なだけでしょ? こ〜んなに美味しいのに☆」
「ふふ〜、私は今のは褒め言葉だと受けとりましたよ〜。全部食べたのがその証拠です〜」


 ふう、どうやら殺されずにはすみそうだね 。てか、リルフィン君は図太い神経をしてるよ。この状況でケーキが喉を通るなんてね。まあ美味しそうではあるんだけど……いや、それよりもなんでこんな招待を彼が受けたか−−だよ。
 きっとバトルシップで言ってた事と関係あるんだろうけど……出来るのかなそんな事が。


「さて、せっかくお茶してるんだし、何か喋ってよ。女の子を退屈にさせるなんて男としてダメでしょ? 楽しい話題を振ってくれたら答えるわよ☆」
「そうですね〜とりあえず私達で話を聞いて見てからですね〜。他の子に合わせるのはちょっと危険ですものね〜(男なんて)」


 あれ? またあのニコニコ笑顔からゾクリとする殺気みたいなのを感じた気が……いや、気のせいかな? でもこれはチャンスなのかも。彼女達の事を色々と聞き出すチャンスだ。そう思ってるとリルフィン君がいきなりこう言った。


「邪神と主を止めるためにお前達の力を貸せ!」
「ハイ却下。これ以上ないくらいにつまらない話ね。そんな話題で女の子が喜ぶとでも思ってるの?」
「そもそも彼等の行動はどうでも良い事ですものね〜。寧ろ邪神が自ら消えてくれるのはありがたいですので〜」


  どうやらまずは彼女達を楽しませないといけない様だ。唐突に話題を振っても機嫌を損ねるだけ……だけどリルフィン君は諦めきれない表情をしてる。このまま食い下がりそう……でもそれをやるとシクラは確実にウザがるだろう。
  そうなるとリルフィン君の身が危ない。ここは僕が勇気を出す場面だ。


「あっ、え〜とそうだ! この城って凄いですね。なんだかメルヘンチックというか」
「まあね。ここは元からせっちゃんの為の場所だもの。そして私達が眠ってた場所。せっちゃんの好みにあわせて作られてるの☆」


  そう言って小さく切ったケーキをパクリと頬張るシクラ。そして「ん〜んまい!」とか腕を振りながら言ってる。こうやって見ると年相応の女の子だ。不覚にもちょっと可愛いとか思ってしまった自分が居る。
 僕達にとっては最大の敵の筈なんだけど……誰も彼もビジュアルが良すぎるのがいけないんだ。敵は敵らしくグロテスクな怪物が一番やりやすいよね。月光色の髪を束ねて前のほうに持ってきてるんだけど、それだけでなんだかフンワリとした印象になる。
  もっと性格悪い筈なのに! 


「あなた達はどうしてここに? やっぱりスオウ君を探しててですか〜?」
「まあそうですね」


  今更過ぎる質問だよね。ここに来る前にシクラが言ってたのでほぼ正解だ。よって語る事がないね。だけどそう思ってると、百合姉さんの横からシクラが割って入ってくる。


「だけど闇雲にしたって出来が良すぎよ。ここは絶対に見つからない筈だったんだから。そもそもスオウを見つけるのにだって闇雲に飛んでたわけじゃないんでしょう?」
「それはそうだけど……」
「でもでも〜彼等にスオウ君の位置を知る術なんてあるのかな〜? 闇雲に探すしか無い様な?」
「流石にこの広いLROを闇雲になんて無謀すぎよ百合姉。何かアテがあるからこそ飛び出てきたんでしょう」


  流石シクラは色々と鋭いな。確かに何もアテがなかったらこの広いLROを探し回るなんてしない。それは時間の無駄にしかならないよ。ピクが居たからこそ、僕達は危険な賭けに出たんだ。そしてその結果がこれ。シクラ達ご自慢の拠点を見つける事が出来た。これは案外凄い事だ。
 連絡くらいしたい所だけど……どうやらメールとか外への通信手段は妨害されてるみたいだ。あれだけ僕達を無視してドンパチやってたのに、やる事はやってるんだよね。やっぱり気が抜けない奴だよシクラはさ。


「そう言えばスオウのあの場所はローレに教えて貰ったんじゃなかったかしら? それを聞いて……いや、それならこんな所にはこないわね。それにあいつに君達がそんな事を聞けるとも思えないものね☆」


 う〜ん、なんだかよくわからなかったぞ。なんとなくシクラが小馬鹿にしてるのは理解出来たけど。ローレ様がやっぱり一枚噛んでるのか? あの人は本当に随所に何かを仕込むのが好きな人だ。そもそも彼女がスオウ君を導く理由がわからない。敵対してる筈だろ。それなのにどうして?
 まあそれを言ったら、今まさにお茶をしてる僕達こそなんなんだって事になるけどね。複雑な事を考える人ほど、その時と場合を使い分けるのかもしれない。
  ようは使える時には使うし、敵に回れば迷わず倒す。だけどそれ以外は別に普通に知り合い程度には接して来る。接せられる側からしたら混乱ものだけどね。
 するとここでパン! と一つ手を叩く百合姉さん。なんだかキラキラした目をしてる。


「そっかぁ〜、皆さんはローレちゃんの事を良くしってるんですよね〜? いっぱい教えて欲しいな〜」
「主の情報はやれん! 貴様らなどにはな」


 おお、百合姉さんのお願いを一刀両断したリルフィン君。ケンカしてるように見せかけて、絆を深めようとしてるだけだからね彼は。ローレ様の事は大好きなんだ。それはまあ良いんだけど、でももうちょと良く考えてみてもいいと思う。
 実際今はローレ様だって一応敵側だ。そしてシクラが言った様に黒幕ポジション。てかそもそも協力をさせたいのなら、多少の情報を渡しても協力を仰ぐべきでは?


「う〜んただじゃダメって事ですか〜? それじゃあ私の秘蔵写真を五枚あげましょう! 姉妹達のお風呂から寝姿まで多種多少にありますよ〜」
「ちょ! 姉様!」
「百合姉! それはダメでしょ!」


  一斉に蘭姉さんとシクラが怒鳴った。流石に女の子だからそう言うのは恥ずかしいってことか。でも別にこの姉妹の写真なんか……いらないよね。うん、別に全然欲しく無い。そもそも百合姉さんは姉妹を大切にしたいんじゃなかったの? 簡単に売ってきたよ。


「ええ〜? どうせコピーですよ?」
「「問題はそこじゃない!!」」


  オリジナルは渡しません! とか、問題の焦点が違うよね。百合姉さんにとって価値があるのはオリジナルだけなのかもしれない。だけど二人にとってはオリジナルもコピーも自分のあられもない姿が写ってるのは同じなんだよ。
 コピーしたらコピーした分だけあられもない姿の自分が増えて行くんだよ。わかってるそこ?


「ふん、そもそもそんな物いらんわ。そもそも条件を出すと言うのなら、さっきの事を考えろ」
「なんだかあんたにゴミの様に言われるのは腹立つわね。ちょっとは気を使いなさいよ」
「いや、それは良いだろシクラ。欲しがられても私は困るぞ!」


  あまりにもそっけなく「そんな物」扱いされた物だから、怒りがリルフィン君に向かってるよ。恥ずかしい筈なのに、全然興味をもたれないのも女として……って奴だろうか?  だけど意外だったのは、ここでリルフィン君が協力を引き合いに出してきた事だ。ちゃんと考えてたんだね。それと案外蘭姉さんは可愛い反応をするんですね。
  なんだろう、口数が進むに連れて、ちょっとは空気が軽くいってるのかな? 僧兵君達も今はなんとか普通にお茶を啜り、ケーキをちまちま食べるくらいは出来てる。僕は実際リルフィン君の発言が危険過ぎてずっとハラハラしっ放しだけどね。


「まったく、本当にいらないんだからしょうがないだろう。それよりも協力するのかしないのか? だ」
「協力ですか〜? う〜ん私の秘蔵写真を見たらきっと考えも変わるとおもうんですけど〜。やっぱり五枚は少ないのかな〜。でもでも流石にこれ以上娘達を売り飛ばすなんて出来ないし〜」


  なんだか論点のズレた考えを未だしてる人が一名いるよ。はっきり言って、何枚でもリルフィン君の条件は変わらないよ。彼はそれこそローレ様しか見てないからね。それにしても彼女にとって写真は娘なんだね。なんだかもう〜うん、幸せそうだね。


「百合姉さんはそこで写真とにらめっこしてていいよ。ほんとこの獣は私達に興味なさそうだもん。だけど本気であの邪神にまだ挑む気? 実力差は既に分かり切ってるとおもうけどな☆」
「神殺しは考えるよりも容易ではない」


 シクラと蘭姉さんの言葉は何度だって考えた事だ。容易にあの神とローレ様を攻略できるなんて誰も思ってない。だからこそ、反則的な彼女達にだってリルフィン君は協力を仰いでるんだ。彼は彼女達の実力を認めてるんだよ。


「そんなのはわかってる! だが俺は、あの邪神をイマイチ信用できん。なんたって邪神だぞ。自分が間違ってるのかも知れんが、だが俺は許しを得て我を通す事にした。だからもう一度、いや、何度だって奴らの前に立ちはだかる!!」


 熱くそう語るリルフィン君。自分を信じて……わがままを通してでも、それがローレ様の為になると本気で思って……だよね? だけど実際、ちょっと意固地になってるだけってのもあるよね。リルフィン君は自分でも言った様にちょっと疑問を持ってる。
 リルフィン君以外の召喚獣の皆さんは全てがローレ様側だしね。何かを忘れてる。それが他の召喚獣達の言い分だ。それなら聞けば良い事なんだろうけど……なんだかローレ様は言う気がないみたいなんだよね。だからこそ、リルフィン君に自由にさせてるんだと思う。
 ここら辺も彼女の謎の行動の一つだ。常時召喚状態の召喚獣なんて傍に置いておくべきだとおもうんだけどね。必要ない……の判断なのか? まあ彼女は普段からリルフィン君を色々とこき使ってた訳だから、ただの護衛として常時召喚してる訳じゃないのかも知れない。
 それに実際、ローレ様を本当に身近で守ってる召喚獣は別に居たしね。しかもあれも反則臭い。いつだって召喚獣が見てて、危険が降りかかると時間操作を任意でその召喚獣がやってくれる。ローレ様を奇襲で倒すには、召喚獣の目さえも誤魔化して不意打ちを掛けないといけない。
 それはそんなに方法があるわけじゃない。だからこそ余裕がある。リルフィン君くらいなら、今はいなくても困らない程度なんだろう。既に五種族の協力は確約されてる。名を上げたいだけの馬鹿な連中も、邪神にはビビってるだろう。今やローレ様は、神と言う最強の盾と矛を併せ持ってる状態だ。


 ただでさえチートなバランス崩し所持者で、その能力が召喚だと誰もが知ってる。そもそもローレ様はバランス崩し持ちで一番相手に出来ないと言われてた。(まあそれは、どこに彼女が居るかわからなかったってのもあるけどね。世界樹の幹の上があるなんて、誰も想像してなかったもん)
 それなのに邪神まで抱え込んで鉄壁な布陣だ。自分を召喚獣に守らせて、敵は邪神テトラが排除する。この組み合わせに挑もうなんて無謀な人達はいない。


 攻略組の廃人な人達が出張って来てくれたら或いは……とは考えるけど、あの人達は効率廚でもあるからね。非効率的な事は基本的にやりたがらない。てかあの人達の考えは僕達には別次元で理解出来ない領域だ。だから実際、別に効率とかの問題ではないのかも。


  彼等はアンフィリティクエスト発現と共に、大量に溢れ出したクエストの消化に追われてる日々なんだよねきっと。でも優先度とかの基準がやっぱり僕にはさっぱりだ。どう考えてもLRO中の関心はこっちにある。
 それなのに……いや、これくらいにしておこう。ここは自由な世界なんだ。誰も他人の行動を強制なんか出来ない。僕がスオウ君の助けになりたいと思うのも自分のエゴみたいな物だよ。そしてリルフィン君の思いだって僕達には口出し出来ない。
  だってそんなに長くないもん。スオウ君達と違ってあの飛空邸で始めて……ってわけじゃなかったけど、普段はすっぽり毛と髪を隠す様にフードとコート着てたからね。中身がこんなのだっては、あの時始めて知ったんだ。
  だからその程度の付き合いの僕達じゃ、リルフィン君の行動を否定も肯定も出来ないよ。ただ、貴重な戦力なのは確かだ。たったワンパーテイーと少しの僕達だ。召喚獣と言うだけで彼は頼もしい。


「何度でもね。まあ別に好きにすれば〜が私の本音なんだけど……」


 凄くどうでもよさそうだ。実際シクラ達はこれからは高みの見物だけなんだろう。彼女達にとってはこのままやってくれて良いと、そう言ったもんね。


「だがスオウの事は助けにきただろ!」
「それは簡単。だってスオウは私達にとっても特別だもの☆ アレが居ないと、私達の使命は果たせない。だから邪神なんかに殺させる訳にはいかなかったの」


  セツリちゃんはきっとまだ色々と考えてる筈だ。だからこそ一番親しくなってたスオウ君はまだ利用価値がある。それがシクラの考えなんだろう。引き止めるのにも踏み出すのにも、大切な人の存在ってのは重要だ。
 シクラがどう使うかまではわからないけど、きっとロクな事じゃない。それだけはなんとなくわかる。


「ならもう一度でも良い筈だ。あいつはまだ、諦めてない筈だろ! だけど俺達の戦力はボロボロでバラバラだ。 このままじゃ同じ事にしかならないんじゃないか? あの時だってお前達が来なかったらきっとあいつは死んでた。
  大切なんだろ? 協力してくれ!」


 椅子から立ち上がったリルフィン君は肩幅よりもちょっと広く腕を開いて手のひらをテーブルに付く。そして頭をテーブルに着くか付かないか位の所まで下げる。リルフィン君が頭を下げるなんて……召喚獣だからそのプライドとかもあるだろうに……そんなの殴り捨ててでも大切な事……か。
 実際僕はそこまで乗り気じゃずっとなかったんだけど……リルフィン君がここまで本気なら、乗っかるしかないかな。
  代案もあるわけじゃないしね。


「僕からも頼むよ! 今この時も僕達は敵だ。そしてこの次に戦ってるのは僕達なのかも知れない。でも今回だけは僕達は協力出来ると思うんだ!」
「テッケン……」


  僕も頭を下げたのに少々驚いたような声を出すリルフィン君。僕達はみんなからスオウ君の事を頼まれてるんだ。それはその無事を確認する事は勿論だけど、それだけじゃ終われない事の筈だよ。だって今ここに居るメンバーが最終的なメンバー編成になると思う。
 いや、やっぱり僧兵君達は無理かな? 故郷が人質だからね。僕も同じだけど、ばれないようにする術とかは幾つか考えてある。
 だけどそれでも、スオウ君側につけれるのは僕とリルフィン君だけ。他のみんなは動けないってみといたほうがいい。絶望的……その言葉が真っ先に浮かぶ。これじゃあ邪神にか、ローレ様にだって勝てないだろう。
 いや、それどころか、その二人までいけるのかさえ微妙だ。敵は二人だけじゃなく、五種族も居る。たった三人で相手しなくちゃいけないのは最低でも最強で、更には五種族の代表達を立ち合わせるのだとしたら、その最強+軍隊だよ。
 考えるだけで、涙さえも枯れそうな絶望感しかない。だけど悔しいけど、この姉妹が僅かでも協力してくれるのなら……その絶望に一筋の光が見えるかもだ。それだけの力をこの女の子達は持ってる。
  敵だとイヤになるほどのチートな奴等なんだ。それが加われるとなれば、どうにか出来るかもって思える。


「う〜ん、だけど既にスオウに私達はここまで−−っていっちゃのよね。もうそれはキッパリと。そしてそれをアイツも受け入れた。あいつも確かそんな考えが一瞬は脳裏を過ってた。まあ当然よね。
私達は強くて、君たちは弱いもの。縋りたく成る気持ちは否定しないわ☆」


なんでこうシクラは人の感情を逆撫でするように言うんだろう。必死に我慢……と言うか、僕達は実際言い返せない。弱いのは事実だからね。一人じゃ僕達は何も出来ない。それを痛感してる。それなのに、今回は誰かに頼る事どころか、仲間達さえもバラバラだ。
  今までとは違い、僕達には大義名分はない。誰も僕達を……というかスオウ君を支持しないんだ。世界が変わる事に誰もが不安を持ってる筈だけど、そこにローレ様は先制で安心を提示した。それが大きい。悪いようにはならないと、確約してる。
 そしてそれを五種族の代表達も受け入れて、世界はもうただ静かに邪神の願いと、ローレ様の思惑の手の中。無闇に反発すれば、仲間内からの総攻撃だ。誰ももう何も言えない状況は出来上がってる。
 そんな中、それでもクリエちゃんの為に邪神に挑んだスオウ君はただの反逆者。味方なんて居る筈ない。


 でも……そんな中でも、彼は助けを求めなかったって言うのか? シクラ達が颯爽と救援に来てくれた。敵だとしても、その強さは折り紙付きで、しかも救援に来たって事は歩み寄る余地があるのかも……と考えないわけがない。
  どう考えても絶望しかない状況だ。それなのに、すがらなかったって言うのか? 


「でもあいつはね、せっちゃんを助ける為の勇者であり続ける選択をしたのよ」
「勇者であり続ける?」


  どういうことなんだ? 助けを求める事はそれ程にダメな事なのか? それにセツリちゃんは関係ないだろ。そんな風に思ってると「わからないって顔してるわね」ってシクラにこう言われたよ。いや、まさにその通りだけど……


「まあもっと簡単に言えば、せっちゃんがスオウを見限らない、冷めない選択かな? そもそも私も、こっちに泣きついてくるようだったら、あの場で殺そうと思ってたしね。そんなヘタレはせっちゃんを救いに来る王子様には相応しく無いでしょ?」
「だけど! ……そんなの、無謀すぎるよ」
「ああ、限界ってものはどんな奴にでもある」


  そう言うと扉前の蘭姉さんが激しい声でこう言った。


「限界? そんなのものは自分が自分自身に【良くやった】と言い訳をする為の言葉だ!」
「ふふ〜、蘭は厳しいですね〜。誰にだって限界と言うものは現前とありますよ〜。まあそれを見極めるのは結局自分自身なんですけどね〜。だけど限界を知る事だって大事なんですよ〜。そうやってまた人は成長するものです。
 テクニックの限界を感じたら、時には強引に行くのも手なんです〜」


  あれれ? 百合姉さんは途中まで良い事を言ってたけど、最後の一行はなんか違うよね?


「まあ百合姉の言葉は放っておくとして、そこの獣はともかく、ちっこいのはせっちゃんの事を少しはわかってるでしょ? じゃあせっちゃんが何を求めてるか位、少しはわかるんじゃない☆」


 セツリちゃんの求めてる物? それはなんだ? 彼女自身が言った言葉なら、自由に動ける体。そして優しい世界とかか。幸せで刺激的な毎日が送りたいんだよね。その為に彼女はこっちを選んだ。夢を見続ける事を選んだんだ。
 まてよ−−なんかピーンと来た。


「セツリちゃんは夢を求めてる。いや、夢のような事を見せてくれる誰かや何かを求めてる? それとも出来事……と言ったほうが良いのかな? 自分が夢見て、出来てない出来事を求めてる」
「うん、なかなかね☆ せっちゃんは恋に恋して、夢を夢見てる様な子なの。彼女は理不尽が嫌いで、やるせない事が嫌いで、自分の夢が壊される事を何よりも怖がってる。
  わかる? だからこそ、スオウは最後のその時まで夢の王子様のままで居なきゃいけないの。私はねちっこいの。あのアルテミナスで完璧に決着がついたなんて思ってない。
 夢を叩き潰すのは自分自身でやってもらわないと、未練がいつまでだって残るわ。せっちゃんの本当の選択はその時にある。私達は、せっちゃんが私達を選んでくれるのを信じてる。だから木っ端微塵にされる為にもスオウはあんな所で殺せなかったから助けたのよ」


 ようは結局はセツリちゃんの為にスオウ君生かして、そして試練の先に絶望と共に自分達の欲しい物を完璧に取ろうって作戦なんだね。夢を魅せられなくなったスオウ君なら、用済みだった。それが哀れに助けをこう彼だった。
 でもスオウ君は自分で選んだ。一番大変な道を。それはクリエちゃんの為だけじゃない。最初から助けたいと決めてたセツリちゃんの為にも……相応しいままでもう一度、彼女と向き合う為にはそれしかないって思って。
 どれだけ困難な道を進むんだよ彼は……


「どこに……」


  僕は拳を握りしめて、歯噛みしながら言葉を紡ぐ。


「どこに彼は居るのかだけ、教えて欲しい!」
「おい! それじゃあ−−」
「これ以上は無理だよ。スオウ君が断った以上、僕達がお願いする訳にはいかない。それにやっぱりクリエ様だけじゃない、その先まで繋げないといけないんだ。僕達は……」


  それが……僕達が集まって仲間になれたキッカケだ。ないがしろになんか出来ない。最終目標地点はそこなんだ。だからここでうまく行って終わっても、それはトルゥーエンドへは繋がらない。目を離しちゃいけない今と、見据えないといけない未来があるんだ。どっちが大事じゃなくて、どっちも大事だから。


「先まで見つめて、乗り越えれる試練じゃない。相手は神だぞ!!」


 リルフィン君は激しくテーブルを叩く。確かにそうだね。彼にとってはセツリちゃんなんて第三者どころか赤の他人だ。どうでもいいんだろう。けど僕達はそうはいかない。相手は神だ……そんなの百も承知でわかってる。絶望しかないよ。だけど、挑むしか彼はないんだ。
  全てを投げ出せば、もっとずっと楽になれるのに、そんな事は絶対にしないんだ。そういえばローレ様が裏切った時に言ってたっけ? 人は生まれた瞬間から色んな物を搾取されて、そして取りこぼして行ってるって。
  僕達が死ぬ時に持ってる大切な物なんか、この両腕で抱えれる位しかきっとないと。彼女はそれがイヤで、上に行こうとしてる。だけどスオウ君はそれで十分だと言った。腕いっぱいで十分幸せだって。腕いっぱい分を絶対に零さない様にすると。だから彼は必死になってるのかも知れない。
 もうセツリちゃんも彼の掴み取った幸福の一部だから。


 荒い息を吐きつつ、僕はリルフィン君にすごい剣幕で迫る。


「それでも! 彼は乗り越える! 僕達がそれを支えるんだ!! 」


  そうやってずっときた。できる事はきっとまだあるんだ。小さな僕がでっかいリルフィン君を牽制した所を見て、シクラは面白そうに笑いだす。僕は思わず「スオウ君はどこに居るんだ!?」って叫んでしまった。


「あっ……えっと風の棲家って所に送ったわ……です−−って何様よ!」
「……ご、ごめんなさい」


  気持ち爆発で勢いが付き過ぎたんだ。いや、自分でもビックリしたよ。でも風の棲家……そこにスオウ君が居るんだ!! 僕達は彼の居場所を遂につかんだ。こうなったら付き合うよ僕は……今度こそどこまでも!

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