命改変プログラム

ファーストなサイコロ

種を巻きたい

 暗い……真っ暗だよ。でも幾ら泣いてももうシスターはクリエを慰めに来てくれない。スオウもどう成ったのか……わかんない。もう……嫌だよ。辛い事が一杯で、クリエの性で痛い空気になってくの。
  だけどクリエにはどうしようもない。それならもうここにずっと居た方が良いのかも。わがまま言わずにずっとここで一人で泣いてれば、誰にも迷惑掛けないで済むよね。クリエが居たら沢山の人に迷惑掛けちゃう。大切な人達が不幸に成っちゃう。そんなのもう見たくないよ。
  色んな物返したかった……だけどクリエはそれをやるにも一人じゃ出来なくて……結局いっぱい迷惑ばっかり……スオウは生きてるのかな? 記憶が曖昧でイマイチ良くわかんない。生きててくれたけど、また無茶やっちゃってわかんないよ。


「スオウ……」


  小さくそう呟くと同時に、涙が零れちゃう。だけどもう誰も拭いてくれない。慰めてくれない。この真っ暗な中でずっと……ずっと一人で居なきゃ。


【泣かないで】


  誰も居ないはずの場所でそんな声が聞こえた? クリエは顔を上げて当たりをキョロキョロするよ。だけどやっぱり真っ暗。気のせいかな? そう思った時、ポスっと、頭に何かが乗っかった様な感触がした。


【泣かないで、小さな私の子】


  上を向くとそこには光り輝く女の人が居た。表情とか全然わかんない。だけどなんでだろう。全然怖いとか不気味だとか思わない。寧ろ、撫で撫でされるととっても安心しちゃう様な……誰なんだろう? クリエは知らないはずなのに、懐かしい気がする。
  光り輝くその人は、降りて来ると、私を優しく抱えて抱きしめてくれた。あったかい温もりと、良い匂いはとっても気持ちいい。普段なら直ぐにでも眠りに付けそうな感じなんだけど……今は変な事にクリエの瞳からはポロポロ、ポロポロと次から次へと涙が溢れて来ちゃう。


「あれ? あれれ? おかしいな。クリエとっても安心出来てるのに……なんで涙が出ちゃうんだろう?」
【良いのよクリエ。我慢なんてしなくて良い。私がきっと悪いんだから】


  よくわかんないけど、そう言われたら何かがプツンと切れた様にクリエは泣いちゃう。柔らかな胸に顔を埋めて、ワンワン一杯泣き叫ぶ。思いの丈をぶちまける。


「クリエが! クリエの大切な人達が一杯傷付いちゃう!! クリエは……クリエはやっぱり大人しくしてなきゃダメなのかな? クリエは何も望んじゃいけないの!?」
【そんな事ない。クリエは悪くなんかない。だって誰かの為に、友達の為にやりたかった事が有るのよね?】


  優しい言葉に「うん」と答える。フワフワでぬくぬくで良い匂いに吐き出す言葉が溶けて行くみたいに感じる。


「クリエはね。大切な友達の願いを叶えて上げたかったの。クリエの最初の友達……シャナの願い。クリエはね一杯シャナと笑ったの。だからシャナも笑顔にして上げたかった。クリエにはシャナもシスターも居てくれたけど、シャナにはクリエしか居なかったから。
  シャナは他の人には見えない見たいだったから。クリエがやらなくちゃってずっと思ってたの」
【うん、クリエは優しいね。きっとシャナちゃんも喜んでくれたでしょう】


  クリエは胸の中で「うん」って言う。最初は「いいよ」とか言ってたけど、クリエが引かなかったからシャナも「じゃあ、お願いしよっかな」って言ってくれた。クリエは嬉しかった。友達の為に何か出来る事が。それになんだか頼られてるって感じがこそばゆくて、とってもワクワクする事だったの。


「だけどクリエはね。なんにもやっぱり出来なかった。シャナの為にもスオウの為にもなんにも……」


  思い出すとやっぱり涙が止まらなくなりそうだから、胸に顔を擦り付けちゃう。


【クリエは本当に何も出来なかったのかな?】
「なんにも出来なかったよ! クリエ一杯迷惑掛けたもん。クリエのせいでシスターは居なくなっちゃった。帰る場所ももうないよ。クリエのせいで色んな事が起こって……その度に頑張ってくれたのはスオウ達……クリエはなんにもしてない! でもそのスオウ達ももう……」


 もう本当にクリエの居場所はなく成っちゃったかもしれない。クリエがずっとシスターと一緒に居れば、きっとこんな事にはならなかったよね。スオウを巻き込む事もきっとなかったよね。シスターを失う事もきっとなかった。幾ら考えてもクリエが悪い。


【その人はきっとまだ諦めてないと思うけどな。それなのにクリエが諦めちゃうの? 大切な友達の願いなんでしょ?】
「どうして……そんな事……それにもうシャナも居なく成っちゃったよ」


  もう全部が手遅れなの。もう何も戻って来ない。


【まだあの世界には居るわ。クリエ、良く聞いて。貴女は確かに小さくてか弱い子供よ。でも願いを叶える為に必要な物を持ってる。それは貴女自身が手にした力なの。自分で目標を決めて、行動を起こした。それは失敗だったかもしれないけど、そこで出会ったんでしょう? スオウに。
  彼と彼の仲間は一番の協力者に成ってくれた。それはクリエが進み出さないと起きえなかった奇跡なのよ】
「でもそのせいでみんなは……」


  みんなはどんどん追い詰められて行っちゃったよ。本当はクリエと出会わなければって思ってるかもしれないよ。


【試練は苦しいだけじゃない。経験し得る事も大切なのよクリエ。だって誰もが体験し得る事じゃないのだから。それにクリエは私よりもあの人達の事を知ってる筈でしょう? 貴女が憧れて、信じたあの人達は、今クリエが思ってる様な事を考える人達なのかな?】
「それは……」
【きっと今もみんな、クリエの事を心配してる】


  そう……なのかな? 


【そうよ。それに迷ったって同じじゃない? ここに引きこもってて、どうせ彼は来るわ。もう一度貴女を助けに。クリエが拒絶しても、それでも『諦めない』って彼は言った筈でしょ?】
「そう……だったかも」


  本当にスオウはアホだよ。クリエがすっごく悩んで必死に決めたのに、全否定だもん。正直ショックだったよ。でもそれ以上に、嬉しかったけど……そっか私がここに閉じこもっててもスオウは来ちゃう。それはきっと決まってるんだよね。


「ねえ、クリエは何かできるのかな? 今度こそ足でまといじゃ居たくないよ! 」


 顔を上げて光に隠されたその人を見つめる。すると穏やかに微笑んでこう言ってくれる。


【もう一度立ち向かう覚悟が出来たのかな?】
「だってこのままここに居ても、結局スオウ達の迷惑になるんだよね?」
【そうね。結局クリエは外のテトラの犠牲になるでしょう。そうなるとお終いだから、迷惑になるかも】
「それじゃあここでジッとしても居られないよ! クリエは……クリエは生きたい! そういったもん! それにやっぱりなんにも諦めたくなんかない!」


  少し前のジメジメした自分を吹き飛ばしてそう宣言する。都合いいって思われるかもしれないけど、クリエは子供だもん。夢いっぱいの方向を向いて居たいもん。まだまだ一杯、信じて居たい年頃なの!!


【うん、諦めない事が大切よ。私はそれを知ってるわ」
「どうしたら! どうしたら良いのかな?」


  スオウの力になりたい。このままじゃまたクリエは人質だもん。利用される道具だよ。ずっと利用されるだけなんて嫌。クリエだって一矢報いるんだから!


【そうね、クリエは自分の力をわかってる?】
「よくわかんない」
【あらら】


  即答しちゃったら、困った感じの声を出されちゃった。でも実際よくわかんないもん! クリエが自由に出来る事は色んな声を聴く事だけ。


【クリエの中には大きな力が眠ってるの。それはあのテトラの力と私の力。クリエがその力を使いこなせれば、きっとどうにか出来ちゃうよ】
「本当!? 」
【ええ、本当です】


  そっかそっか、クリエは凄いんだね!なんだか自信が湧いて来たぞ。


【でもクリエは小さいですからね。力をきっと上手く制御出来ない】
「制御?」
【上手には使えないって事ですよ】
「ええ〜じゃあどうすれば良いの? 」


  大問題だよそれは! 


【方法はあります。賭みたいな方法ですけど、協力してくれますか? 私を信じてくれる?】


  この人を信じる……それはなんだか当たり前みたいな感覚がある。まるで自分のお母さんみたいな……えへへ、実はお母さんとかお父さんとか全然クリエ知らないんだけどね。でもなんとなくそんな感じがするよ。


「うん、信じる! お姉さん悪い人じゃないって思うから。あれ? でもさっきそう言えば私の力って−−」


  そんな事を言ってた様な……う〜んって事はなんだっけ? わかんなく成って来た。


【私の事は良いでしょう。気にする程の事じゃないです。クリエが信じてくれるのならそれで充分。
問題はそんなに時間がない事。私は多くをクリエに伝える事が出来ません。それに願いの成就を約束も出来ません。私に出来るのは可能性を広げるだけ。
  わかりますか? 最後に掴み取るのは自分達で……それを私は願います】
「わかってる。シスターも言ってたもん。誰から助けて貰っても構わないけど、ちゃんと最後は自分でやらないとダメだって。クリエはだから、最後にはちゃんと自分でシャナを送り出すの。そうしなきゃいけないの」


  クリエは真っ直ぐにこの人を見つめてそう言ってあげる。決めちゃってみた。すると彼女はクリエの頬を両手で餅を丸めるみたいに手のひらで転がして来る。


【もう〜クリエは可愛いわね。嬉しい……本当に。みんな強く、良い子に育ってくれた。テトラの判断も正しいね。もうその時かもしれない】
「その時?」
【こっちの話よ。じゃあ始めましょうか。弱い私達の抵抗を】
「うん!!」






  瞳を開けると、豪華なシャンデリアだっけの照明が一杯瞳に入ってくる。眩しいから目をゴシゴシしながら起き上がる。外はもう真っ暗。街の明かりが遠くに見えてる。


「あら、遅いお目覚めね。もう起きないんじゃないかと思ってたのに残念」


  そんな嫌味ったらしい言葉を真っ先に言って来るのは、星読みの御子だった筈のローレ。クリエははっきり言って今一番嫌いな奴がこいつだよ。だってスオウ達を困らせてるのはこいつだもん。それに邪神と手を組んでるのもこいつだ。
  悪党だよね。なんで御子に成れたか疑問だよ。最初はちょっとだけ憧れたりもしたけど、そんな自分は追い出したもん。


「どう……なったんだっけ? クリエは……スオウは……」
「あんたは天罰を受けて眠ってたのよ。スオウは生死不明って所ね。外側の存在が連れて行ったわ」
「外側の?」


   なんだっけそれ? ローレはわかりやすく言う気がさらさらないよね。そんな自分が知ってる事は周りも知ってるとか当然みたいに思わないで欲しい。クリエは子供なんだよ。知らない言葉ばっかり並べられてもわかんないよ。


「私が子供が嫌いな理由を教えてあげよっか?」
「なにいきなり?」
「何? 何で? って図々しいしく何度も聞いて来る所。めどくさいでしょ? うんざりするのよね。自分でちょっとは調べなさいよ」


  ローレの奴、子供になんて酷な事を言ってるかわかってるの? クリエ達だって出来ることならそうするよ。だけどクリエ達はまだ読めない字とかあるよ。難しい言葉はわからないよ。だから周りの助けが必要なんだよ! 子供にくらい優しくしてくれって良いじゃない。


「私、子供は甘やかさない方針だから」
「……自分だって子供の見た目してるくせに。狙ってるんでしょそれ」
「ブッ!? −−あんたそんな言葉どこで覚えて来たのよ」


  ローレがクリエの言葉で吹き出した。やったざまあみろだね。ポタポタと口元から床に垂れる紅茶が床に敷かれてる変な模様入ったカーペットに染みを作る。すると慌ただしく一人のモブリのお姉さんが駆けて来た。


「ああ〜ローレ様のお口が大変な事に! これでお拭きください!」
「これで?」
「−−−−はい!」


  一生懸命腕を伸ばしてるお姉さんの手を見てるローレ。だけどその布を取ろうとはしない。何故ならそれは多分雑巾だからだね。お姉さんはきっと気づいてないよ。


「ねえちょっと?」
「はい? 私、今回は早かったですよね?」
「それ以前に、出す方を間違ってるって気づきなさいよ。私に雑巾で口元拭けって言うの?」
「え? ……あああ!! す、すみません、こここっちでした!」


  慌てて綺麗な布を取り出すお姉さん。そして最初に差し出してた方で、せっせとカーペットを拭くよ。


「まったく、もうちょっと使える様にならないと、他の子達にいびられるわよ」
「あははは、私的にはこれでも精一杯頑張ってるんですけどね。ダメダメです」


  そう言ったお姉さんはなんだか悲しそうだった。むむむむ、ローレがきつい事ばっかり言うからだよ!


「ローレはもっと優しくした方がいいと思うの。そんなんじゃ一人になっちゃうよ」
「あは、子供が何を言い出すかと思えば、なにそれ? お子様に何がわかるのかしら?」
「むむ、クリエだってわかるよ! ローレはワガママだってわかる! 自分の為に仲間を裏切る様な奴だもん」
「だ、ダメですよクリエ様。そんな事言っちゃダメです」


  クリエの言葉をお姉さんが仲裁してくる。だけどこれはお姉さんの為でもあるよ。あんな事言われて、いつだってきっとあんなだよこいつ。嫌にならないのかな? 少し前までもっと綺麗な物来てたのに、こんなお手伝いさんの一人みたいな衣装になっちゃって、可哀想だよ!


「これはローレ様が与えてくれたの。用済みになったダメダメな私をそれでもローレ様は傍においてくれてる。私は感謝してるくらいだよ」
「お姉さん……」
「わかった? 私は実はとっても優しいのよ。認識を改めなさい」
「……やだ」


  そんなの絶対にやだ。だって負けた感じがするもん! スオウを裏切って苦しめたこいつを優しいなんて思えないよ。


「やっぱりガキだからねクリエは。出来事の表層しか見てないからダメなのよ」
「ひょ、表層?」
「一番上の部分って事よ。一番見えやすい部分。野菜でいったら地面から出てる葉の部分しかあんたは見てないのよ。身は地面の中にあるのに気づいてない。滑稽じゃないかしらそれって」


  むむむ、こんどはしっかりと説明してくれた分だけムカつく。しかもわかりやすかったし! 出来るんじゃん。


「クリエはローレの葉っぱの部分しか見てないって事?」
「そう言う事よ」
「じゃあ、身の部分はどうなてるの? 土の中で腐ってるんじゃないの?」
「あんたそんなに口悪かったっけ?」


  印象をそのまま言ったら呆れた様な目で見られた。だってローレの印象はそうだよ。もしも私が葉っぱの部分しか見てなかったとしても、ローレと言う身の部分はぐちょぐちょに腐ってる印象決定的だよ。


「まったくこのちんちくりんのガキは私のこの美貌がわからないのかしら? 私の本体はこんなに光輝いてるじゃない」
「それこそローレが言った葉っぱでしょ?」


  中身って心とかじゃないの? するとローレはワザとらしく髪を両手で掻き上げてフワッと靡かせた。


「良い事教えてあげよっか? 中身の美しさは外見にも現れるのよ? それに今回の中身は私の行動の中身でしょ? 人間性から否定しないで。ゲンコツしちゃうぞ」


 ニッコリウインクしながら拳を作ってるローレ。細い金髪の髪の毛がキラキラ舞う中で、なんて物騒な物を示してくるの? どう見ても真っ黒じゃん。するとそこでローレの腰にある物にクリエは気づくよ。今まで確かそんな物はなかった筈。腰には短剣みたいな物が綺麗な鞘に収まってる。


「それなに?」
「ん? ああこれ? これはカーテナよ」
「カーテナ?」


  だから当然知ってるでしょ? って体で言われてもわかんないから! 本当にもう、こいつの「こんな事も知らないの?」って表情見飽きたんだけど。いちいちイラっと来るしね。子供に対してそんなに優越感に浸りたいか! 


「まったくしょうがないから教えてあげると、これはエルフのお宝なのよ。私の持ってる杖がモブリのお宝である様に、それと同等の価値があるアイテムなの」
「よくそんな大事な物くれた−−はっ! どうせ嫌な事やって手に入れたんだ」


  絶対にそうだよ。てかそうでもしないと手に入らないよね。やっぱり腐りきってるよ。


「人聞きの悪い事を言わないでよね。ちゃんとお願いしたわよ。そしたらくれたの。私がきっと可愛いからね」


  鞘から取り出したカーテナの刃の腹にチュっと口づけするローレ。おげえええええって言うカーテナの声が聴こえるみたい。


【オゲエエエエエエエエエエ】
「ええ!?」
「何がええ!? よ。本当だからね」


  ううん、今のはローレの言葉に対して驚いたんじゃない。今実際にカーテナの声が聴こえたから驚いたんだもん。でもでも、今まで剣とかの声は聞いたことないんだけどな……自然の物からしか声は聞こえないって思ってた。だけど……


【全くヘドが出る位にムカつく女ねこいつ。誰がお願いしたって? 脅したの間違いでしょ!!】


 やっぱり滅茶苦茶ハッキリ聞こえる。なんだか元々喋れたみたいな感じだよ。でも声に妙な違和感を覚えちゃう。女の子口調なのに、なんだか妙に低い様な……男の人が無理矢理女の子の喋り方を真似てるみたいな? そんな感じだよ。正直言ってちょっと気持ち悪いかも。


「はいはい、わかったわよ。本当は腹黒いやり方で手に入れたわ。だってあいつ等がまだ自分達の立場わかってなさそうだったからついね。まあでも問題ないでしょ。何かやる気でも、アルテミナスの地じゃないカーテナなんてただのオモチャだもの」
「え?」
「ん? あんたが気持ち悪い目で見て来るからしょうがなく教えてあげたのにほうけないでよ」


  う〜ん私はカーテナを見てたんだけど、その視線があまりにもアレだったからローレが折れてくれたって事かな? ある意味ラッキーなのかなこれは? ローレのオモチャ発言にカーテナはまた声荒げてる。
 すると頭に別の声が響くよ。


【カーテナですか。あの子の力は使えるかも知れませんね】
(そうなの?)
【ええ】


  なんだか光の女の人はカーテナが普通に喋ってる事に違和感を感じてないみたい。てか聴こえてるのかな?


【聴こえてますよ。それよりもどうにかして一度あの子をその手に取って貰え無いでしょうか? そうすれば力を行使出来ます】
(えっと、やってみるけど、どうして声が聞こえるのかな? 今までは武器からは声なんて聞こえなかったよ)
【ローレも言ってたでしょう。カーテナは特別な武器です。だからクリエには声が聞こえる】
(でもでもローレの杖の声は聞こえないよ)
【あの子は無口なんですよ。それよりも時間がありません。急いでください】
(う、うん!)


  本当はどうしてあんなに気持ち悪いの? って聞こうとも思ったけど、急かされて無理だった。さて、ローレは素直に渡してくれるかな?


「ねぇローレ?」
「なによ? 言っとくけどカーテナでは遊ばせないわよ」


 むむ、先手を打たれてしまった。だけど引き下がれ無いもん。


「そんな意地悪しないでよ! ちょっとだけでいいから!」
「私は意地悪がデフォルトみたいだから、良いでしょ別に。それにあんたの中の株を上げようとも思わないし。子供は二度寝でもしと来なさいよ」


  完全に子供扱い。ちょっとプツンと来ちゃったよ。


【手強いですね。どうしましょうか?】
(大丈夫。子供には子供のやり方があるってローレに見せつけてあげるんだから!)


    次の瞬間クリエはローレの足に飛びつくよ。そして「貸して貸して!!」って連呼する。これぞ子供の武器、駄々だよ!! 相手が折れるまで喚き続けるのだ。


「ちょっ! あーーーもう! うるさいから離れなさいよ!!」
「ヤダ!! 貸してくれるまで絶対に離れないもん!!」


  そんな決意を伝えて喚きまくる。すると流石のローレも折れてくれた。疲れた表情でカーテナを渡してくれる。


「少しだけだからね」
「うん!」


   手に取ると、クリエの意識と輝くお姉さんお姉さんの存在が入れ替わる。意識の水の中で手を取って輝くお姉さんはクリエの力を持ってってる感じ?


【少し失礼します】


  そう言って彼女はカーテナに何かを伝えて、そして意識の中で魔方陣が輝く。何をやってるのか全然クリエにはわかんないけど、それが終わると、彼女は後ろに下がってくれた。再びクリエが前に出ると、自分の手には変わらないカーテナがあった。


【うふふ、お嬢ちゃん 、ありがとね。あの方の思い、受け取ったわ】


  よくわかんないけど、できる事はやったんだよね。クリエはカーテナをローレに返すよ。


「もういいの?」
「うん。なんだかオモチャっぽいんだもん」


  取り敢えず素っ気なくしてた方がいいのかなって思ってたそう言ってみた。ローレは戻ってきたカーテナをクルクル回して鞘に戻す。するとそこで今にも泣き出しそうな声が聴こえた。


「ローレ様〜」
「どうしたの?」
「染みが取れ無いんです〜。どうしたら良いですか?」


  お姉さんはどうやらシミ取り作業が上手くいってない様子だね。


「他の人に来てもらえば? まあ私はそんなの気にしないけどね」
「ローレ様の部屋に汚れなんてダメです! 私支持を仰いできますね」


  キュピーンと何かがクリエの頭に舞い降りる。


「クリエもお手伝いする!!」


  そう言ってお姉さんの後に着いて行く。ローレが止める前に部屋の外に出て、後は自由行動だ!  そう思ってたんだけど……


「どこに行く? お前は部屋の中に居ろ」


  そんな声を出すのは邪神テトラ。スオウを殺そうとした許せない奴。でもクリエの中には居る彼女がなんだか震えてるのがわかった。同じになってるからか、彼女の気持ちが少しわかる。その震えは怖いとかじゃない、なんだろう優しい気持ちが溢れて来るよ。


【「テト……ラ」】


   伸ばされた手が止まった? よくわかんないけど、今の内に反対側に逃げる。クリエにできる事は、きっと今ここで彼女がいてくれないとダメ。だからできる限り、種を巻くの。きっともう一度来てくれるスオウの為に。

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