命改変プログラム

ファーストなサイコロ

毟り取られる

「じゃあ皆さん、世界の変容をお楽しみに。明日が終わる頃にはLROは新たな領域に達してる筈ですから。それぞれの国の代表の方々は今晩はここで落ちてくださいね。皆さん世界の変容を見たいでしょう?」


   アンコールワット調の宮殿前に集まった俺達にそう声を掛けるローレ。国の代表を抱きかかえれたら、後は好き勝手にどうぞ……ってな位かと思ってたら、どうやら最後まで付き合わせる気らしいな。いや、でもそれはある意味良かった。元々俺たちは最後まで食い下がってでも、こいつ等の改変を見る気だったからな。
  チラリと周囲を見回すと、やっぱり人の方がザワザワと少ししてる。頻繁に兵士が入れ替わり立ち替わりに代表のおっさんのところを行き来してる。それに王子様もいないしな。


「慌しく動いてるね。やっぱりピクちゃんと犯人探しかな?」
「それ以外には考えられないだろ。だけどローレ側には言ってないみたいだよな」
「うん、プライドとかあるだろうし、それに彼も食えないからね。何か狙いがあるのかも」


  アイリの言葉はよく分かる。ゴツイくせに複雑なんだよなあのおっさん。強引だけど、裏も読むみたいなさ。まあ頭もキレて戦闘も出来るは代表的にはデフォルトな能力とは思うけど、あの筋肉だけで頭悪そうに見えるんだよ。
  どこまで深く考えてるかは知らないけど、けどあのおっさんは脳筋じゃない。


「シルク様は無事そうで何よりですね」


  ホッとした声を出してそう言うのはセラ。実際色々と無茶やってしかも近くに協力者が居ないシルクは心配だったんだよな。でもその心配は杞憂だった。シルクはおっさんの後ろで妙な格好の兵士共に囲まれてる。
  あれは一応守られてるのか? それとも下手な真似をしない様に警戒されてるのか……ぶっちゃけどっちとも取れるな。けどまあ、ダメージは負ってない様だし、変わった様子もないから大丈夫って事だろう。
  声を掛けれれば良いんだけど……それはなんだか出来なさそうな雰囲気。やっぱり警戒されてる雰囲気の方が強いからかも。


「自分、シルク様と話して来るっす!」


  そう言って人混みの中を進み出すノウイ。俺達は三人で一斉にノウイの頭と肩と腕を掴んで待ったを掛けた。


「ちょっと待て」
「それはダメですノウイ」
「何バカな事をしようとしてるのよ」
「……え?」


  全員に突っ込まれても理解してない様子のノウイ。全く、少しは考えろよな。


「あんたね、私達はただでさえスオウの仲間だったって事で警戒されてるのよ。不用意に接触するのは避けた方がいいわ。しかも何言う気よ」
「えっと……シルク様、グッジョブです−−とか?」
「意味がわかりませんから、変に怪しまれそうですね」


  まさしくアイリの言う様に絶対に怪しまれるだろそれ。いや、そもそもこいつを会話させるって事が危険だ。どこでボロを出すかわかったものじゃない。


「奴らはお前達の行動を公開してないんだぞ。それなのに、もしもお前が意味深な事を言ったらダメだろ。もしかして……そんな疑惑が人の奴らに湧くかも知れない」
「じ、自分そんなヘマはしないっすよ?」


  どの口がそんな事を言ってるんだ? つぶら過ぎる瞳をパチパチしても許さないぞ。


「よくそんな事が言えるわねノウイ。あんた語尾にっすっす付けながらペラペラなんでも喋るじゃない」
「そ、そんなバカじゃないっすよ。グッジョブ程度なら大丈夫かなってちゃんと考えたっす」
「ふ〜ん、だけど一応私達は粛々としてた方が良いわ。それぞれの国が引き取ってるって体があるしね。私達があんまり自由に動くのはそれだけで不味いのよ。特にアイリ様の立場的にね」


セラの言うとおりだな、あんまり二人に自由にやられると他の国がうるさそうではある。特に人とスレイプルとウンディーネだな。あいつ等は代表がスオウと関係ないから、普通に邪魔者扱いしてるだろ。
  下手な行動は邪神の目をこっちに向けさせる口実にも成りかねないからな。下手な行動は極力避けたい所。特にこんな人前ではな。


「私は大丈夫ですけど、極力怪しまれる事は避けるべきです。今はまだ皆さん自由ですけど、その気になれば幽閉くらいされてもおかしくないですよ。特に明日のその変革が終わるまでは」
「……う、そうっすね」


  それぞれの国が自分達を守る為に引き取った感じだからな。邪神の邪魔だと考えれる行動は即、滅亡とかのリスクがデカくて、それを一番起こしそうなのがセラ達ってなってるからな。確かに幽閉位されても実際おかしくないな。
  でも俺達やモブリ側は言うまでもなく、こんな感じだからな。そんな可能性があるとすればやっぱりシルク。でもあいつはあいつでおっさんに必要とされてるみたいだし……何気に評価高いんだよな。まあ頼りに成る奴ってのはわかってたけど、俺はテツ程に付き合い有るわけでもなかったから、自国での評価の高さには驚いた。
  いつも謙遜してるからなシルクは。気づけなかった。


「それにシルク様は一度もこちらを見ようともしてない。シルク様はわかってるのよ。あんたと違ってね」
「うう……」


   セラの厳しい言葉に唸り声を上げる事しか出来なくなったノウイ。まあ自分の浅はかさは十分に反省して貰おう。俺達だけじゃなく、シルクの立場も悪くしたかも知れないんだからな。聞いた限りじゃ、まだシルクは被害者……な筈だ。
  あの囲まれ様だとそうは見えないけど、守られてるんだと脳内保管しておこう。


「おい御子、あのスオウとかいう小僧はどうする気だ? 邪魔しに現れるかも知れないぞ」


  そう言ったのは代表のおっさん。見つからなかったから、このままスルーしてくれるかもと思ったけど、そんな訳ないか。世界の決定に反旗を翻してるわけだからな。ある意味あいつはテロリストみたいな物だ。
  さて御子はどうするんだろうか? 


「邪魔に来たってどうって事無いわね。あのままなら、ただ死にに来る様な物よ。今度こそ。力の差はわかった筈だしね」
「じゃあ警戒する必要もないって事か。まあ確かにあの実力差でもう一度ぶつかり合おうとするとは思えないな。つまらんが」


  確かに普通に考えたらもう一度現れるって考える事は出来ないよな。それにあいつは他のプレイヤーとは違う。あいつが背負う物は本当の『死』。それを知ってたら尚更来るわけないって思わなくちゃいけないんだけど……実際あいつをよく知ってると、逆に来ない訳がないと思える不思議。あいつは……スオウはそういう奴なんだよな。
  そう思ってると、おっさんは自分の言葉を否定する様な言葉を更に続ける。


「だが……あいつがこのまま終わる−−ような気もしなくもない。そもそもたった一人で邪神に挑むような奴だしな。あれが出来るのなら、どんな無謀な事をしてもおかしくないかもじゃないか? まあ何しても勝てるとは思わんがな」


  勝つ事は難しいけど、あのバカなら……どうやらそんな風に思われてるみたいだな。間違っちゃ無いけど。


「勇気と無謀を履き違えた愚かな奴じゃよ。もしも現れたら真性のバカじゃな」
「ただのバカならまだ良いのですけどね」


  スレイプルの爺にウンディーネのお姫様が続く。二人ももしかして位は……いや、ウンディーネの姫様は結構あり得ると思ってそうではある。何を見てそう思ったのかはわからないが、スオウの奴をただのバカじゃないと見抜いてるっぽいな。
  あいつは普段は冷めてるけど、一度やり出した事では引き下がったりしないからな。本当にバカみたいに自分を追い込む奴。大馬鹿なんだ。命の価値をわかってるのかって、思う時があるよな。それで居て普通に笑ったりするし、時々あいつの底が見えなくなって不気味に感じる時もあるくらいだ。
  でも、あいつにここまでさせてるのはある意味で俺だ。俺がLROに誘わなかったら平和な高校生活を送れたかも知れない。それを自分の為に……無理矢理連れて来たんだ。まああんな事に成るなんて想像もしてなかったけど、俺はなんだかんだで変化を求めてた。そしてその変化は確かに起こった。いや、実際にはLROが始まったその前から、ずっとセツリはあそこで寝てて。
  誰かが起こしてくれるその時を待ち続けてたのかも知れない。そしてその誰かが偶々、スオウに成ったってだけ。あの時……もしもちょっとした偶然が入れ替わってたら、命を掛ける羽目に成ったのは俺だったかも知れない。


「どういう意味じゃウンディーネのよ」
「スオウでしたでしょうか? アレはバカを越えてるかも知れないという事ですよ。ただのバカはなにやっても笑い事で済ませられますけど、大バカまでいくと信じられない事をやったりします」
「ふん、あいつにそんな力があるとは思えんがな。気持ちだけ先行するタイプじゃ。それにのう、邪神よあいつに負けるのか貴様が?」


  スレイプルの爺は嫌味ったらしくローレの後ろで退屈そうにしてた邪神に話を振った。ザワザワとざわめく周り。折角前に出て来てなかったのに、わざわざ引っ張り出す様な事をいうから……名指しされた邪神はその漆黒の髪を靡かせて深い瞳を爺の方へ向ける。


「ふん、負ける訳がない。あいつが何をしようと俺に負けはないんだよ」


  凄い自信……いや、違うな。自信じゃない。本当にただそれが当然なんだ。そもそもLROの−−というかオンラインでやるゲームのボスは単騎で撃破なんてほぼ考えられてない。オンラインの特性を活かす為にもパーティー戦が基本で、強力なボスや特殊な戦闘はそれ以上のいわゆるアライアンスで挑むってスタイルだ。
  邪神であるテトラが本当にラスボス設定なら、たった一人で挑んで勝てる……は幾ら限界まで能力値をあげたって想像出来ない事だ。みんなで協力し合って倒す前提の敵なんだよ。それをたった一人では……幾らなんでも無理ゲーという奴だ。


  まあLROは今までの画面と向き合って、特定の行動だけをさせて敵を倒す事を目指す……ってだけのゲームじゃない。本当に敵と正面から向き合って、自身の一挙一動が死線と隣り合わせで、画面の外でコントーラー持ってた頃と違い、選択肢は山の様にある戦闘が出来る。
  実際デカイだけの敵を爽快に一刀両断とか、出来る奴とかいるしな。極めて行けば、ボスクラスだって個人で相手出来る奴が現れたっておかしくないのかも。だけど問題は、あの邪神はそこ等のボスとはやっぱり格が段違いに違うって事だ。
  なんてったって『神』だからな。設定的にあれは正真正銘の世界創生の神の一人。その気になればきっとここに居る俺たち全員を相手取って戦う事すら笑顔でしそうな奴だ。それだけの……それだけじゃない力をきっと持ってる。


(ん?)


   隣を見ると邪神に向かって鋭い視線を向けてるセラが居た。なんだか静かに敵意を送ってるけど、きっと邪神は気づいてるぞ。変なプレッシャーを感じる。邪神が動くたびに、肩が重くなる様な……のっぺりとした圧力を掛けられてるみたく感じるんだ。俺だけなのか……それとも……


「アギト……」


  キュっと服を掴んで寄りかかって来るアイリ。やっばメッチャ可愛い……じゃなくて、アイリの頬には汗が一筋流れてる。


「アイリも感じるか?」
「はい、体がちょっと重い様な……」


  どうやら俺だけじゃないみたいだな。っでもさっきまでなんともなかったのに……なんだよこの異様な気持ち悪さは。誰も何も言わないけど、さっきまでのザワザワとしてた喧騒が今は変に静かになってる。これってやっぱりこの周囲にこの気持ち悪さが広がってるって事だよな?  なんのつもりなんだ邪神の奴。
  そう思ってると、邪神がこちらに視線を向けて来た。ちょっとだけドキっと鼓動が大きくなる。何かやる気かもしれない……そんな不安があったからだ。だけどその視線は俺やアイリにじゃない。どうやらセラに向けられてる?
  てか、セラの汗がヤバイ事になってる。どうしたんだ一体?


「おい、お前……」
「敵意だな。それを明確に感じる」


  邪神の言葉に俺は二人を交互に見る。ヤバイな、反逆とでも判断されれば、アルテミナスが潰される。どうにか誤魔化さないと。


「おいおい、それは言いがかりって奴だろ? セラは何もやってない」
「確かにな。だが様子がおかしいだろ? 俺の呪いを受けてる証拠だ」
「呪い?」


  そんな邪神の言葉にノウイ奴が出しゃばって来る。


「なんなんすか呪いって! セラ様に何をしてるんすか!」
「興奮するよな。ただ襲われるのを待ってるのも面倒だからな。攻撃を受けても大抵は効かないが、目の前で虫が飛んでるとうざいだろ? だからその前に分かる術式を組んだんだ。これは敵意に反応して発動する魔法なんだよ」


  敵意に反応する……だと? 行動を起こす前に撃退す魔法って事か?


「まあ、そんなに威力はないがな。だが思った程に張本人には効果的みたいだ。周りに漏れてるのは調整ミスか? だがその位は我慢しろよ。俺に逆らおうとするのが悪いんだから。裏切ろうとは酷いなエルフ」


 そう言ってこちらにも視線を向ける邪神。すると何故か平気そうなローレが面白気に含み笑いしながらこう言って来る。


「あらら、裏切っちゃった訳? アルテミナスの落日も早かったわね」
「何?」
「だって敵意を向けるって事は裏切るって事でしょ? それはテトラの邪魔をするって事じゃない。見せしめの為にも跡形もなく消しとかないとね」


  幼顔な癖にいう事はどこの独裁者だよ。自分に賛同出来ない奴等は消していくって……まあそれは明言してたけど、魔法を使うとかなしだろ。するとアイリが気丈な声を出してこう言うよ。


「待ってください。確かになセラは邪神さんに敵意を向けたかも知れない。でもそれを行動に移すかは別のはずです。私達がこの子には邪魔なんてさせません。約束します」
「う〜ん、お優しいアイリ様じゃもしセラが暴走しても止められないと思うな。倒せないでしょ?」
「だからそんな事をしなくても良い様にやるんです!」
「でもそれじゃあ甘いでしょ? 覚悟の問題って言ってるのよアイリ様。いざという時の覚悟も出来ないんじゃ信用なんて出来ないじゃない。違う?」


  そう言われてアイリは言い返せなくなってしまう。だけど悔しい事にローレの奴の言い分は間違っちゃいない。狙われる側なんだから、そんな曖昧な対応じゃ納得出来ないってのは納得だ。まあローレの場合は面白がる為に、正論をぶつけて来てるんだと思うけどな。


「だが、行動を起こす前は未遂だろ。何もしてないのに罰するのかよ」
「水掛け論に持ち込みたいの? 犯罪を犯すかも知れない奴も、犯すまでは捕まえられないって。確かにリアルじゃそうでしょう。人道的な問題も有るし、色々と厄介だものね。でもここはLROで、今は私達がルールなのよ。どう判断するかは私達の自由。そうじゃない?」


  確かに今はこいつ等が頂点……俺達五種族はあの条件を呑んだ時点でそうなってる。契約を破れば天罰が下る。俺達は邪神の願いに協力はすれど犯行はしちゃいけないんだ。その先の平和の為に、平和がならなくてもあの邪神が暴れるのを防げるだけでも、この契約には価値はあった。
 だけどそのせいでスオウには協力出来なくなった所か、仲間達まで国や知り合いを盾に脅されてこの有様。今思えば、随分と不利な契約だったんだ。平和の為に今は我慢……人もスレイプルもウンディーネもそう思えるだろうけど、俺達は違う。あいつを……スオウを見捨てる事は出来ないんだ。
  そしてあいつはクリエを見捨てない。そうなると絶対にもう一度、あいつはこいつ等の前に立ちはだかる。その時、俺達はまた見てるだけなのだろうか?  それを思うと、ここで反旗を翻しても……


(いや、ダメだ。結局アルテミナスだけじゃこいつ等を止める戦力になり得ない)


  ここで反旗を翻しても、たった一国じゃ邪神とあの暗黒大陸の軍勢には勝てない。それはノーヴィスが加わってても同じだろう。どっちもドタバタがあった国だし、戦えるだけの戦力が薄くなってる。かと言って残りの三国が反旗を翻すメリットは何もない。でもこのままじゃ、スオウは……いや、今は自分たちの心配をした方がいいか。
  このままじゃエルフの明日がなくなるかもしれない。ヤバイな……冷や汗が止まらない。


「や……るなら、私だけを殺りなさいよ……ローレ」


  必死に喉から絞り声を奮い出すセラ。首を動かすだけでギギギギとでも聞こえそうな挙動はなんだか壊れ掛けのロボットみたいだ。まさか動きも縛られてるのか? 俺達は流石にそこまでじゃない。体が重く、気持ち悪いくらいだ。
  だけどセラの汗……呼吸の激しさ……そしてあのぎこちない動き……セラは敵意を送った張本人として一番呪いの影響を受けてるのかも。


「やーよセラ。プレイヤーに本当の意味でダメージ与えるなら、元に戻らない物を壊した方が効果的でしょ?」


  天使の様な微笑みで悪魔の様な言葉を紡ぐローレ。こいつは本当にヤバイな。早くなんとかしないと。それにこの発言は暗に元に戻せない程に壊し尽くすって言ってるだろ。折角復興して来てるアルテミナスは、まだまだ体力半分くらいしか戻ってないっての。


「っつ−−この!!」


  ザワっとセラのメイド服が謎のざわめきを見せる。LROは良い意味でも悪い意味でも感情を掬い上げるから、セラの感情の高ぶりで生み出された謎の風がきっとそれをやってるんだろう。だけどここでそれはヤバイ。
  ここでセラが手を出したら、もう擁護出来ない。


「やめろセラ!!」
「だめよセラ!!」


  二人同時にセラを抑えにかかる。俺がセラの両脇から腕を入れてアイリは何故か腰に巻きついてる。


「あらあら、これってもう確定的じゃないかしら? どうするテトラ?」
「そうだな、生かして置いてもデメリットしかないかもな」


  二人の言葉を聞いた瞬間……これはもうだめか? と本気で思う。こうなったら本当に反旗を−−


「ダメですアギト。堪えて!」


  アイリの言葉で一歩を踏み出せない。だけどこのままじゃ本当に……周りに視線を送っても、どこもかしこも目を逸らすか面白がってるかしかいない。どうやら代表達は面白がって、普通の兵はとばっちりを受けたくないって感じだ。
  テツ達は同情的な瞳を向けてるけど、どうする事も出来ない……このままだとただ面白がってるローレにアルテミナスの運命が!! 


「ローレ様」
「何かしら? 最後にいう事があるの?」
「最後にしない為に言いたい事があります」


  アイリは抱きついてたセラの腰から離れてローレと相対する。見下げるアイリと見上げるローレ。傍から見ると、アイリの方が立場上に見えるけど……そうじゃないんだよな。そう思ってると、ローレは徐に腰を下ろす。スカートを上品に上げて、先に脚を地面に付ける。
  スカートを汚さない配慮? てか、一体何を? そう思ってると、両手を添える様に膝の前で合わせて、旅館の仲居さんがお客様にでもする様にしてローレを見上げてる。


(おい、まてよ。これって……)
「そんな! ダメですアイリ様!!」


  セラも察してたのか、そんな声を上げてやめさせようとする。だけどアイリは振り向きもせずに一言だけ言って頭を下げる。


「どうか、この通りです」


  綺麗に曲がった背中。地面についてるかも知れない額。アイリのストロベローブロンドの髪が石畳に広がってる。


「あは! あはははははははははははは! くっく流石アイリ様。本当にお優しい。バカな部下の為にも頭を下げる。自ら土下座まで。だけどそれだけじゃないちょっと足りないかな?」


  ローレの奴はあれだけ高笑いしたのにまだ足りないと!? 本当に腐ってやがる。だけどアイリは頭を垂れたまま静かにこう言うだけだ。


「後、何をすればお許しいただけますか?」
「う〜んそうね、カーテナをこちらに寄越しなさい。最大戦力を取り合げる事で不問にしてあげるわ」


  その言葉の瞬間、アイリの肩がピクンと反応したのがわかった。だけどそれだけ。直ぐにアイリはその腰に付けてるカーテナをその装飾された鞘と共に頭の上へと両手で持ち上げる。


「どうぞ。これで良いんですよね?」
「ダメですアイリ様!! やめて下さい!!」


  セラが必死に叫ぶけど、アイリは反応しない。こうでもしないとここを切り抜ける術はない。そう判断したんだろう。伸ばされる小さな手がカーテナを掴み取る。ローレは見た目子供だから、案外一番カーテナが似合うかもしれない。
  組み合わせとしては最低だけど、力を発揮出来るわけじゃないからな。取り上げられただけ−−と思うしかない。


「へ〜これがカーテナか。近くで見るとやっぱり綺麗。それに案外重いし、ちゃんと剣って感じね。まあその態度に免じて今回は許してあげるわ。ふふ、私は頭良い子は好きよ。だからセラにはちょっとガッカリね。もっとキレるんだと思ってたのに」


  その言葉に再びローレを睨もうとするけど、挑発だと気付いて直ぐに深呼吸を開始するセラ。これ以上アイリに迷惑を掛けられない。そんな意識が働いてるんだろうな。


「結局やらないのか。おい御子、スオウはどうするんだ? まだそれを聞いてないぞ」
「ああ、そうね。捜索はしなくて良いわ。あんた達だってスオウが邪神に勝てるなんて思ってないでしょう?
  それなら別に捨て置いても良いじゃない。本当に明日来たら、その時に殺せば良いのよ」


  なんの躊躇いもなくそう紡いだローレ。邪神もその気なのか、何も言わずに闇の中に消えて行く。これで話は終了で、各々の種族は自分たちの割り当てられた建物へと帰ってく。だけど俺たちエルフは動けなかった。いつまでもアイリがその場にとどまってたから……俺たちエルフは、国の宝さえも失ったんだ。

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