命改変プログラム

ファーストなサイコロ

挑み続ける

 つまづいて転んで吹き飛ばされて……だけど更に走ってまた転んで吹き飛ばされる。これは僕の名誉の為に言っておくけど、決して僕がドジっ子な訳じゃない。この原因は目の前の『風の棲家』と呼ばれる場所に集ってる風が原因だ。ヒマワリの奴は何とはなしに直進してたけどさ、実際それだけでも結構難しい事が挑戦して見て始めてわかった。
 だって真っ直ぐに進めないもん。あいつバカだから気づいてなかったんだろうけど、この風幾重にもぶつかり合って変な気流を作り出してる。そのせいで足を進み出そうとする度に足が風に掬われてしまうんだ。そのせいで何度も転んでは後ろに吹き飛ばされてしまう。


「はぁはぁ−−くそ」


  思わずそんな言葉を吐いてしまう。実際ヒマワリの奴が気づかなかったのは、あいつのスペックの高さもあると思うんだ。あいつが大丈夫で、僕が吹き飛ばされるって事はそれはまさに僕とあいつの力の差と言える気がする。まあ、無理矢理で進める力だって事はわかってた事だけどさ、ヒマワリの奴が気にも止めてなかった所でつまづくってのが凹むところなんだよな。


(いや、頭を切り替えろ)


  僕は自分の頬を強く叩く。乾いた音が虚しく響くけど、気にしない。頬の痛みと共に気合を入れ直したんだ。前をしっかりと見据える。するとうっすらとだけど風の流れの様な物が見える気がする。あの時の感覚がまだ生きてる。いや、体が覚えてるのかも知れないな。


(いくら疎んでも、嘆いてもあいつはチートなんだから正攻法で並べる訳がないんだよ。いや、正面からぶつかって−−そう言った方が正しいかな。それなら、僕はない力分、あいつに出来ない事をやるしかない。そういう何かを見つけるしかないんだ)


  そして、今の僕に出来る事……それは風を感じることだ。これはきっと、その感覚がもっと敏感になったから現れたんじゃないかなって思ってる。その、完全に落ちたせい−−ってのもきっと……いや、これは考えないでおこう。今は邪魔だ。僕が考える事は、この感覚を最大限に使う術だ。


「ふぅ~はぁぁぁ」


  大きく息を吸って吐く。落ち着いて、そして体も一回リセットさせて、僕は前を見据えて一歩を踏み出す。ここら辺はまだ大丈夫。だけど近づくに連れて、少しづつその圧力は増して行く。今までは「こなくそおおおお」てな感じで行ってたけど、今回はそんな事はしない。もっと落ち着いて冷静に風を感じる。
  僕は見つけるんだ。きっとあるであろう風の示す道を。風の流れを見つめて、比較的勢いの弱そうな所を攻めてみる。


「うっ……つっ……うああああああ!!」


  ダメか、弱い部分だけを選んでると、どうしても途中で道がなくなる。弱いって認識が間違ってるのか? 僕は場所を変えて何回もトライしてみるけど、結果は同じだった。どこでも途中まではいい感じに行ける。少なくとも闇雲に突っ込んでた時よりは深く潜れてる。でも途中で必ず壁にぶつかる。ある程度まで行けば、風が弱い? そんな部分なんてほぼ無くなるみたいなんだ。
  しかも中に入れば入るほどに風は闇雲に流れてる。だから僅かな弱い風も掴めない。どうやら、ある一定の壁を超えるには弱いだけじゃいけないらしい。もっと感覚を研ぎ澄まそう。きっと何かしらの道があるはずだ。


「っつ」


  手を伸ばすだけで切り刻まれる激しく渦をまく風。吹き飛ばされてるだけとか言ってたけど、どうやらダメージとしてちゃんと捉えられてるみたいだ。切り刻まれた手からはジワリと赤い液体が染み出て来てるよ。ふと思うけど、落ち切ったんだよな僕は。誰からもなんのアクション無いけど、僕はもうリアルには戻れない。
  まあ、テッケンさん達にはバレてないだろうから当たり前だけど、佐々木さん達管理者側には流石にバレてると思ってるんだけど、未だに連絡の一つも来ないってのはどういうことなんだろう? バレてない−−は流石にないと思うんだけど……だってあの人達は僕の浸透率を監視してるはずだろ。それなら、気付かないなんてあり得ない。それとも僕の落ちたこと以上に大変な事がリアルの方では起こってる−−とか? それは考えたくないことだな。実際自分の事も必死に目をそらしてるのに、他の大変な事なんか気にしてられない。


「やっぱりイクシードでいくか」


  巣のままじゃキツイ物がある。これ以上はイクシードで感覚を上乗せさせよう。きっと通常状態よりも身体能力は上がってるはずだしな。一応セラ・シルフィングを抜いて僕はイクシードと紡ぐ。刀身に集まる風のウネリ。だけどなんか不安定だ。集まってるウネリは周りの風に阻害されてるのか、影響を受けてるのかわからないけど、曖昧に言うと集まりきれてない。僕の力になってくれない風が溢れてるから、それが邪魔してるのかも。
 けど、これは思わぬ朗報を伝える事が出来るかも知れない。不安定なイクシードの風が流れることで、違う可能性が見えてきた。流れてく風は今まで僕が選択してた道とは違う進路を辿ってる。幾つも流れて行く内の一本が、風の棲家の奥へ進んで行ってるんだ。弱く強く、激しく緩やかに、そんな風で入り乱れてる筈の複雑な風の棲家の奥へ流れて行く風。
  それは示してる−−って感じることが出来るんだ。だから僕はその風を追って進み出す。一歩を踏み出しても足を取られる事はなく結構サクサク進める。


(なんだか変な感覚だな)


  さっきまではどこを行っても微細な風はあった。だけど、今進んでる場所は何故か無風みたいな……いや、これだけ風が入り乱れてる中でそんな訳ないって思うけど、でもやっぱり風を感じない。けどこれが正しい道だから−−って見方もできない事はないよな。風の後を追って進む僕。だけど途中で不意にイクシードの風が途切れた? ブツって感じで見えてた風が消えたんだ。すると暴風並の風が真っ正面から吹き荒れる。


「ぬっ−−ぐぅばばばばばばばばばばばばば!!」


  前から吹き荒れる風が僕の頬をジタバタと激しく揺らす。必死に耐えるけど……これは−−ちょっ−−進めな−−


「ぬああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 再び吹き飛ばされた僕。一気に数百メートル位吹っ飛ばされる。まるで世界が回ってるかのような感覚だ。目の前がグールグルしてる。けど僕は目の回る中、なんとか態勢を無理矢理変えて、脚を突き出す。地面と触れた瞬間に力を込める−−事は実際しない。結構勢いすごいからね。このままじゃ無理やりでも止まれない。
  一回、二回位勢いそのままで跳ねて行って自然に止まらせる。でもこれをしたら、ほぼ振り出しに戻る状態になるんだよな。


「っつ!」


  鋭く走る痛み。右肩の方を見ると、服が破れて布に赤い液体がついてた。肘の方にも血がながれてる。これは今までの擦り傷レベルの傷じゃないぞ。明らかに攻撃を受けたかのような傷だ。


「HPは……」


これだけの傷だとそこが気になる。僕は自分のHPを確認する。するとやっぱりだ。僅かだけどHPは確かに減ってる。どうやら中心部に向かうに連れて激しさを増してる風は、普通にダメージ判定されるみたいだな。


「と、なると問題は時間だけじゃない」


  僕には回復手段がないんだ。しかも生憎な事に今の僕は防御も薄い。テトラの奴に防具自体をぶっ壊されたからね。地味に攻撃が通る状態だ。まあ、それでも数回で瀕死にはならないだろうけど、油断する訳にはいかないよ。イクシードの風は今は結構しっかりと集まり出してる。でもこれじゃあ、ダメなんだよね。示して貰わないと困るんだ。
  イクシードの攻撃状態がウネリを刀身に集めた状態で、この状態を含めてイクシードならこれ以外の形はないのかも知れない。けど、今はやって見るしかないんだ。意識をうねりに集中させて、その動きを自分で支配しようとする。自分の風なんだし、できない事はないと思う。てか、やれてたしな。あの時は生と死の狭間の力もあっただろうけど、普通に使える事が大事なんだ。
 火事場の馬鹿力なんて結局は一時的なものだし、全体としての力の底上げには出来ない。それに基本値を上げないといくらその時だけパワーが増幅されても、きっと最大値さえも頭打ちな気がする。まあ、だからこそこうやって一から自分の最も頼ってる部分からの改良をね、やってるわけだ。
  ここで何を得れるかなんてわからない。でも何も得ない訳にはいかない。きっとそれは自分次第なんだ。あのローレが懇切丁寧な訳はないし「後はあんた次第よ」って、絶対にそんな所だ。僕はゆっくりとうねりを解く。周りの風に任せて流すんだ。その中で道を見つける。


(もう一度同じような道を……)


  すると中へ続いてく風が見える。僕は肩の傷を押さえて、その風を追って進む。


(やっぱりさっきと同じだな。風が無い)


  順調に進んでると、フッと風が消える。その瞬間、爆弾並の風がまた僕を襲った。必死に耐えようとするけど、荒々しい風は簡単に僕の体を浮かせて飛ばす。地面にセラ・シルフィングを突き刺して僅かな抵抗を試みるけど、それも結局は無駄だった。もったのはほんの数秒だ。僕は盛大に飛ばされて再び振り出しに。


  安全地帯まで吹き飛ばされると、体の痛みに気づく。今度は最初よりも抵抗したからか、傷の数が多い。左腕に一箇所、わき腹、そして左脚だ。


(ん?)


  いや、もう一箇所あった。どうやら頬もやられてるらしい。何気に触った手に赤い液体がついちゃってるよ。だけどHPの減少は微々たる物だ。まだまだやれる。どうやら爆弾暴風が迫る前に僕の流す風はその暴風の前触れか何かに飛ばされてる。あれ以上はいけないって事なのか? いや、きっと何か有るはずだ。そもそも前触れが分かるのなら、それを回避する間が数瞬だけでも僕にはあるって事だ。
  僕は顔を上げて再び進み出す。流れてく風はさっきとは違う道を示してる。後を追って風の棲家へ迫る。周りの風が勢いを増してるのを示す様にゴウゴウと叫んでる。まるでいつでも僕を吹き飛ばす準備があるみたいにも聞こえたり……考えすぎかな。そう思ってると奥に向かって流れてた風がプツリと消える。


(来た!)


  僕は咄嗟に左側に飛んだ。これであの爆弾暴風から逃れる事が出来る筈! そんな考えだったんだ。だけど−−


「ふっ−−ブッ!? べぼばべばおべばああああああああああああああああああああああ!!」


  −−横に飛んだ瞬間に普通に周りで吹き荒れてる風が襲ってきた。しかも爆弾暴風の影響なのか風の流れがメチャクチャに変わって僕は風に踊らせる羽目に。ベチョっと風の棲家から吐き出された時には目はグルグルで三半規管が滅茶苦茶……とても着地がまともに出来る状態じゃなかった。ついでに息もまともに出来なくて死ぬかと思った。
  ゼェハァゼェハァ−−荒い息をはきながら僕は地面を這うように体を持ち上げる。見据えるのは勿論風の棲家だ。あの大きな卵みたいな風の塊は、なかなかに厄介だ。とんだじゃじゃ馬だぜ。てか、僕は一体何を目指してるのかな? この先に何があるのか……僕は全く持って知らない。ただの性悪女のローレに促されて来ただけ。


(まさか、ただの嫌がらせ……とかないよな?)


  流石にローレでもあの状況でそれはない……と思いたい。本当にただ嫌がらせで僕をここに送り込んだのなら、絶対にやつの元に化けて出てやる。末代まで呪ってやる。そのくらいしていいよね? でも実際よくよく考えたら、あいつは妨害されたくないはずだしな。そこら辺に気付くべきでもあった。けどあいつの考えってなかなかに理解しにくいからな……本気で僕に何かを伝える気が百パーないとも言えないところがあいつの底意地悪いところなんだよ。
  完全に自分だけの利益だけを追求する合理主義者なら、僕はあいつの言葉に賭けてこんな所まで来るなんてしなかっただろう。無駄足だってわかるからな。でもあいつは自分を信じさせる可能性を残してる。どれだけクズで人を嘲り笑う様な奴だけども……どちかっていうと敵側なんだけども、どこか敵や味方ってだけじゃ分けれない感じなんだ。
  吹き抜ける風、そして気まぐれに変わってく風の流れ。その飄々さはローレに通じる物がある気がするな。大きく息を吸って僕は立ち上がる。いつまでも地面を這ってる訳にもいかない。あいつの狙いがなんであれ、今の僕はここで何かを掴める気がしてる。その感覚を信じるしかない。
  今の僕は諦める言い訳をローレに押し付けようとしてるだけだ。きっと何かあるって、僕自身が感じたのならそれでいい。僕は色んな懸念を振り払って前へ進む。今、僕にできる事……それは疑う事なんていう、非生産的なことじゃない。見つけるんだ……何かを!






「ぬべばああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


  格好良く決めてから、既に五回は宙をまわった。結局の所、僕は何も掴めてない。爆弾暴風にぶつからなければHPは減りはしないけど、体力は減って行く。てか完全に落ちてから体力もリアルに近付いた? どうだろう、ただ疲れてるだけかな? でもまだ倒れる訳にはいかない。けど闇雲に行って突破出来る場所でもない。爆弾暴風がくる前に左右や上に避けたけど、どれも無駄だった。引き返してみても爆弾暴風を避けれる訳はなかったしな。
  でもこの方法じゃなかったらあそこまで行けもしないんだ。間違ってるとは思えない。僕の感覚があの無風空間を見つける事が出来れば進めそうな気はするんだけど、でも左右に行ってもそんな場所はなかったんだよな。一体どうすれば……行き着いた時には既に遅いのかも。それにただのイクシードでもこれ以上はキツイのかもしれないな。あの時の状態はイクシード3だ。それでようやく周りの風や自身の風を操れてた。それならやっぱりあの状態まで昇華させないと……


 「すう~はぁ~」


  肺に空気を送り込んでそれをそのまま吐き出す。イクシード3はいつだってちょっと緊張する。何てたって、命を削る技だったから。でも考えてみれば今の僕は常に命を晒してる状態だから同じかも。


「ん?」


  ここで僕は重要な事を思い出したぞ。よく考えるとイクシード3はHPがレッドゾーンに入ってないと発動出来ないじゃないか!


「くっ……」


  そうだった。今はイクシード3はつかえない。なんでこんな大切なことを忘れちゃうかな。安易に大きな力に頼ろうとする癖が相変わらずあるって事なんだろうな。少し前にこれからは力をちゃんと「扱う」そっちに切り替えた筈なのに……
いやはや癖って恐ろしい。


(思い直せ。きっとまだイクシードでもやれることは有るはずだ)


  僕はセラ・シルフィングに集まる風を見つめる。そして先の風の棲家も。瞳を閉じて思い出すはあのテトラと最後に戦った時の状況。
そしてその感覚だ。あの時、僕は風を身に纏った。でもそれよりも重要なのは、その過程じゃないだろうか。あの時僕は周りの風を掴んで行った。自分の僅かな風を補うためにはそれしかなかったんだよな。
 今の状態でも少しは操れてると見ていいよな。一応ウネリを解く事は出来てる訳だし。でもこれだけじゃ先にはいけないんだ。ただ流すだけじゃ、途中で阻まれる。それはもういやって程身に染みてる。じゃあどうすれば……考えたけど、あの時僕には風を通じてクリエの声が聞こえてた。風で僕達はきっと繋がってたんだ。
 あの時はクリエにチャンネルを合わせてたって感じなんだろうけど、もしかしたら風を結べれば見るだけじゃない何かを感じる事ができるかも知れない。でも完全に風よりじゃない普通のイクシード状態でそれが出来るか……


(いや違う。やれるかじゃない。やるんだ)


  僕はウネリに更に集中する。流れ出る風の一つに必死に意識を集めるよ。様々な方向に流れてく風のウネリ全てには流石に無理だから、中の方に流れてく数本のみに絞って、その中から適当に選んでみた。
  集中…集中…だ。流れ行く一本の風に全神経を集中させる。だけど意識が先端まで届かない様な……まさか、距離に限界があるのか? てか、風は伸びてるのに僕が立ち止まってるのがいけないのかも。
  だけど目を開けるとどうしても意識が分散するんだよな。けど目を瞑ったままってのは……いや、一本の風は感じる事が出来てる。そしてそれがどういう風に流れてるのかも僕には分かる。−−のなら、目を閉じたままでも歩けるかも。
  真っ暗闇−−だけど、僕には確かに一筋の風が道に見えるのだから。僕は土を踏みしめる様に歩き出す。もっと先端まで意識をもって行きたいからね。追いつくために、無風状態の中を早歩きで歩くと、風の流れの先端まで意識が届いたかもしれない。


(感じる。流れるままの風の先端まで……分かる)


   すると直ぐにブブブッと先端がブレる? いや、これは反対側から風が僅かだけど流れ出してる? でも人肌じゃ何も……風に意識を集中してるからこそ分かるレベルの微風なんだと思う。これならこれまで気付かなかった事を気付けそう……そんな気がする。


「うん、なんかやれる気がする!」


  ふんす!! っと鼻息荒く僕はやる気を取り戻す。だけどその時ボンッと吹き荒れる荒々しい風の塊。しまった……そんな事を思った時には遅かった。僕の体は再び爆弾暴風に吹き飛ばされた。悲鳴と共に激しく地面に打ち付けられる。だけど……痛さが吹き飛ぶくらいに僕はワクワクしてる。
  視界に広がる曇天の空。その空を覆う雲さえも巻き込んで吹き荒れてる風の棲家。アレの攻略が少しは見えてきた気がする。やっぱりそうなんだよな……諦めなければ、道は何処かにきっとある。


  爆弾暴風の前兆をもっとハッキリと掴む事が出来る様に成った。これは結構大きくて、もっと意識すると風の切り替わり? みたいなのが分かる。たった数秒の差だけど、それは予想以上に違ったよ。風が複雑に道筋を変えて行く−−その前兆を僕は掴む事が出来てる。
  そして僅かに吹いて来るその風に自分の風を絡めると、感じる事が出来る風の声と呼んで良いのか分からない物。それは僕がなんとか掴む事が出来た無風の道の尻尾なのかも。始めてだった。どんな方向に逃げても爆弾暴風とそこら中に吹き荒れる風に飛ばされてた。
  けど、今僕の横を爆発した暴風が通ってる。その音が僅かだけど聞こえる。実際吹き荒れる荒々しい風で直ぐに視界は覆われてる訳だけど、あれだけの暴風だったから音ぐらいはなんとか伝わってくる。でもそれも集中という賜物かも知れないな。
  どこまで奥に進んでも途切れる事のない一本の無風の道が続いてる。それを見失なわない為に、僕は目を瞑りひたすら集中する。額から落ちる汗も気にしない。どんな微細な反応だって見逃せない。だって気を抜くと、一瞬にして僕は爆弾暴風に吹き飛ばされる羽目になる。
  無風とあの暴風は表裏一体みたいな物だからな。流れ続ける風は気まぐれで、道にはいつだって罠がある。嘲笑う様に意地悪してくる。だからそれをかわす為に、僕は嘲笑う風と向き合って上を行かなきゃいかないんだ。
  風の先端が吹き荒れてくる風を感じる。爆弾暴風が来る。変わる道の流れ。その前兆。変わった風の流れの中で再び無風の道を数秒の間に見つけるのは技術とかじゃきっと無理だと思う。僕はつないだ風に教えられる様に、風の壁に吸い込まれる。するとそこは新たな道。
 第六感なのか、それともはたまた本当に風の声を聞いてるのかは自分でも分からないけど、言うなればなんとなく分かるとしか言えないな。それともやっぱり風の導き? 


 目を瞑って進み続けてると、瞼の向こうから強烈な光が射して来る。風の棲家のどこら辺に自分がいるのかもわからないけど、ただ真っ暗で風の凶暴な音しか聞こえなかった筈の場所じゃ何時の間にかかなくなってるのかも。
  僕はそんな事を考えながら瞼を開ける。直接瞳に入ってくる光は想像以上に眩しい。何かがそこに居る? 強烈な光を放つそれは……

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