命改変プログラム

ファーストなサイコロ

力合わせて

  届いたメールには【少しなら】そんな言葉が書いてあった。様は少しなら魔法を操る事は出来るってことでしょう。だけどその少しでやれる物なのか……それはなかなか微妙ね。


「どうですかセラ? シルクちゃんからメール返って来たのでしょう?」
「ええ、まあ一言だけ」


  本当に短い言葉が一言だから、これはこの文面からも悟ってって事かな? そしてアイリ様もそう思った様だ。


「一言ですか。向こうはやっぱり大変そうですね。クロード・リードの目が有るのでしょうし、頻繁に連絡は取れ会えない感じですね」
「そうですね。あんまり時間も掛けてられないし、早くピクを逃がす方法を考え出さないと……」


  シルク様は怪しまれない様に立ち振舞うので大変だし、向こうに情報は集まらない。比較的自由に動ける私達が情報統括して周りを動かさないといけない。まあ別にモブリ側でも出来そうではあるけど、駒の数がこっちの方が多いからね。
  自然と私達がその役目を負ってる。でもだからこそ責任重大だ。私達の判断で周りを動かすって事は失敗も成功も私達次第。


「こんなのはどうっすか? スレイプル達を使って人の部屋を強襲させるってのは? 言い訳は昔からの因縁って事にして、あくまでも邪神への反乱じゃないって言い張って貰うっす! それならスレイプルも滅ぼされなくて、その混乱に乗じてピクを逃せまっすよ!」
「確かに……でも、それはスレイプルのリスクが高すぎるわ。それにその理由は無理あるし。そもそもそこまでやってくれるかしら? 協力って言ってるけど、そこまでの硬い物じゃないでしょ。リスクを取りすぎる事を当てになんて出来ないわ」
「そっ−−すよね」


  でも、協力者が多いって事はアドバンテージだからね。何かに使えないかしら? とは思う。でもそもそも今の緊迫した状態でふらふらと他の種族の所に行くのも実際おかしいし、私達はそれぞれこの場所から動けないと思った方がいい。
  下手な行動は反乱と思われたって仕方ないもの。どんな言い訳をしようが、邪神やローレがどう取るかわからないし、騒ぎもせいぜい内輪だけでとどめれる範囲じゃないと……難しいわね。制約が多い割に、選択肢が少ない。


「ノウイ、あんたミラージュコロイドはいけるわよね?」
「もちのろんっす! 自分からそれを取ったら何も残らないっすからね」


  自信満々にそんな事を言ってるけど、結構虚しいわよそれ。せめてあと一つくらいは使えるスキルを取得しなさいよ。まあノウイも別に他にスキルを持ってない……わけじゃない。ただ単にミラージュコロイドだけが極端に目立つだけ。
  使い勝手が良いからね。だけど他のスキルとの併用運用が難しい。ミラージュコロイド発動中は攻撃力が著しく落ちるのも問題だしね。だけどそれを補ってあまり有る機動力を確保出来るのは魅力だ。潜入にも持ってこないだしね。


「鏡は全部展開出来るのよね?」
「あれから三時間っすからね。もう十分回復しきってるっす」
「それは良かったわ」
「ミラージュコロイドをどうするんですかセラ?」
「それは考え中です」


  一応使えるか確認しただけ。自分達の戦力把握は重要でしょ。


「ちなみにアイリ様は何か使えそうなスキルありますか?」
「う〜ん、私はあんまり特殊なスキルは持ってないですからね。カーテナのスキルはアルテミナス以外では使えませんし。はっきり言って役立たずです。攻撃くらいなら出来ますけどね」
「攻撃系のスキルは不味いです。後に問題されると厄介ですからね。アイリ様は絶対に使わないでください」
「はい、しょうがないですね。でも出来る事はやりますよ。取り敢えずは私も考えます。セラは何か自分に出来る事を考えてますか?」


  私に出来る事……確かに考えてないわけじゃない。私は太腿から聖典の鏃を取り出すわ。


「聖典十八機−−二機足りませんね」
「その二機は外に隠しときました」
「想定してたのですか? こうなるって?」
「いいえ、ただ追いかけたかったんです。でも結局どこに行ったかもわからないから、後で回収しようと思ってたんですけど、役に立ちそうです」


 思わぬ事が転ぶ事があるわよね。聖典はたったの二機だけど、派手に動く事もないのならそれで十分でしょう。それに二機くらいは考え事をしながらでも操れるしね。


「なるほど。でも考えたら、聖典の視界をセラは共有出来るんですよね? それならシルクちゃんの様子をうかがい知る事が出来るのでは?」
「……はっ!?」


  確かにそうだった。外から状況を伺うのも大切でしょう。こっちからは見えないんだし。それが聖典なら出来る


「セラって意外な所で抜けてて可愛いよね」
「素直に間抜けって言って良いんですよアイリ様」
「ううん、可愛いよ」
「−−−−−−うっ」


  なんでノウイの奴は鼻を抑えて後ろを向いた? こいつ、また変な妄想をしてるんじゃないでしょうね。でも今は構ってやらないわ。もっと大切な事をしないといけないもの。ゆっくり目を閉じて、思考をリンクさせる様にこう告げる。


「聖典解放」


  頭に映る外の風景。それは数時間前まで人が集まってた場所の光景だ。抉れた地面は二人の戦いの跡。でも今はここには様はない。


「っつ!?」


  動き出そうとした瞬間、宮殿のテラスに見えた黒い光。慌てて私はもう一度聖典を草むらに忍ばせた。あれはきっと邪神だ。今見つかるのはヤバイ。邪神が部屋に入るのを確認して低空飛行で、宮殿の後ろに回る。そして目指すはこっちとは逆の建物。
 取り敢えず様子を伺うのは一機で十分だろうから、もう一機は目立たない場所に待機させて置いて、もう一機を上昇させる。建物三階部分に差し掛かると見えてきた。


「居た。シルク様にその向かいに銀甲冑の……クロード・リードですね。後は怪し気な監視が扉に張り付いてる。だいたい情報通り……」
「目の前にその厄介な奴が居るんすか? シルクちゃんはドキドキっすねきっと」


  確かにそうだろう。談笑してる様に見えるけど、シルク様は気が気でないとおもう。全く、爽やかな笑顔して……殴ってやりたいわねあの顔。女の子が困ってるのを察しなさいよ。ほんと、男って鈍感なのが多くて困るわ。


「ピクの奴、クロード・リードなんかに頬ずりしちゃて……あれ大丈夫なの? いざって時に掴まれてたらシャレにならないわ」
「一時的な物じゃないですか? シルクちゃんがメールを速攻で返せたのも案外ピクのおかげかもしれません」
「なるほど……それはあり得ますね。でもあれは結構ヒヤヒヤですよ。色々と考えないといけないものこっちにとっては大問題」
「見えてるんだから良いじゃないですか。タイミングを見計らえば良いだけです。状況も鮮明に見えてきたんだし、どうですか? 良い案は浮かびましたか?」


  確かに状況はよく分かる。私達の駒は聖典にミラージュコロイド。それにバトルシップにスレイプルの協力者。でもバトルシップは大々的には使えないから、ここでは駒に入れるべきじゃないかも。ピクを逃がすために必要な事は、何よりも隙を作ること。
  これだけあればピクを逃がす位の隙はきっと作れるとおもう。


「ノウイ、ミラージュコロイドの特性は、前に飛空艇で聞いたので全てよね? 構造がわかってれば、視界内じゃなくても出せる。壁を挟まなければ、鏡面移動は可能」
「まあそうっすね。自分、セラ様には包み隠さずに話してるっす。構造がわかれば大体の場所にはだせるっすし地図があればそこから指定もできるっす。でもきっと部屋の中とかは無理っすね。システムでブロックされてる筈っす」
「そう、まあわかってた事だけどね。中に出せるのなら、そこから一気にピクを連れ出せた訳だけど、せめて部屋の外までは自力で脱出してもらわないとやっぱりいけない訳ね」


  まあそこはしょうがない。プライベート空間か何かに指定されてるであろう部屋の中まではね。でも構造と位置把握さえ正確に出来れば大抵の場所には鏡を設置出来るのは有難い。まあ始めてのダンジョンとかでは使えないけど、そもそもそんな初の場所ではこういう事はやらないわよね。
  本当はあんまり遠くに設置するのは術者本人には特には成りにくい。自分がいけない所で、だけどそこに仲間とかが居て、離脱させたいって状況なら使えるけどね。実際、墜落してる飛空艇ではそんな目的で使ったしね。
  だから今回も、それで行こうと思う。部屋から出たら、予め用意してた鏡にピクを飛び込ませる。それで鏡面移動を利用して一気にクロード達の視界から消えさせる。それで完全離脱が出来る筈で、鏡は上空のバトルシップまで伸ばして置けば良いのよ。そしたら後は、空からスオウの捜索に入って貰う。問題は私達がやすやすと干渉出来ない中。
  外は基本待ってる側みたいな物だし、私達がいくらだってフォロー出来る範囲。でも室内はそうじゃない。あそこで戦うのは間違いなくシルク様な訳で……それに相手はあのクロード・リードに怪し気な人の兵。


 どっちも何を隠し持ってるかわからないから厄介ね。だけど求める時間は僅かで良い。それならやれない事はない。シルク様の補助魔法でピクのスピードを強化させれば、二・三秒もあれば窓を突き破ってでも脱出出来ると思う。
 だけどその前に魔法を二度は最低でも使って貰う予定だから、ストック魔法でそれぞれ一秒で発動出来るとして、全部合わせると五秒必要。五秒なんて普段なら一瞬でしかない数字なんだけど……こと戦闘においてはそうは言えない。
 五秒あれば一太刀位は入れられるでしょう。その一太刀が作戦を狂わせることだって、充分にあり得る。今回のピク脱出大作戦は一瞬がまさに鍵なのよ。だからたった五秒なんて言えない。されど五秒を確保するのがどれだけ難しいか……取り敢えず、今考えた所だけを二人に伝える。


「なるほど、確かに、外側はそれで良いと思います。脱出出来た後−−ですね。でも問題はその前ですからね。クロード・リードを出し抜くとなると、生半可な物じゃダメな様な気もします。ですけど、私達は直接的に協力は出来ない。
  シルクちゃんの魔法もあまり使えない……となると−−」
「後はピクの魔法に頼るってことっすかね。でも何か使えそうなの有ったっすか?」


  確かにピク自身の魔法もあるにはあるわね。ピクの技の発動は早いし出来ない事はないと思う。だけど実際ピク自身にどれだけの技があるかを私達は把握してない。もう一度メールを打っても、今のシルク様の状況じゃ、きっと返ってこないだろうし、ピクに頼るのは実際無理そうだ。


「じゃあ、どうするっすか? シルクちゃんの魔法をフルに活用出来たらいいんでしょうけど、それも無理じゃ……こうなったら、外から聖典で砲撃をして気を逸らすというのはどうっすか? 最後の手段っすけど、やれない事はないはずっすよね?」
「それは……そうだけど、もしもバレたら人とエルフの間で戦争でも起きそうじゃない? この状況で攻撃とか下手すると大問題よ。確実にどこかの種族が片棒を担いだ……それを晒す様なものでしょう」
「そうっすね……邪神に反乱起こそうとしてる所があるって知らせられると面倒っすもんね。自国の問題は自国で処理するでしょうっすけど、この期を上手く使えば自分達の労力を払わずに他の国をおとせるっす。
 奴らがそれをやらないとは言えないっすもんね」
「そういう事よ。私達は姿を見せちゃいけない。それはアルテミナスの危機に繋がるわ」


  そしてそれは他の種族もね。でもだからって怖がってばかりで何も出来ない……なんて事になったら本末転倒なのよね。何か良い手はないかしらね。


「やっぱりここは残りのモブリとスレイプルを有効活用する事を考えた方が良いと思いますよ。ノウイ君はミラージュコロイドでピクを離脱させる役目が決まってるし、セラは聖典での状況観察をやってます。
  私は特徴的な技がカーテナに依存してるから役立たずですけど、テッケンさんや、鍛冶屋さんはきっと何か出来ると思います。それにモブリ側には教皇様がいらっしゃるのでは? 教皇なんですから、凄い力を持ってそうじゃないのでしょうか?」


  確かにそれはその通りね。折角居る協力者を使わない手はない。ノエインの力は知らないけど、教皇までやってる奴が弱いなんて事はないでしょう。テッケンさんや、鍛冶屋にも今の構想を伝えて、そこまでを繋ぐ道を一緒に考えてもらった方が良いか。
  ついでに、テッケンさんにはノエインをそれとなく巻き込んで貰う。お人好しそうだし勝手に協力してくれるかも知れないけど、それとなくとはこっちで動かさないとね。


「ノウイ」
「送信しまっす!」


  私が全てを語るまでもなく、準備してたらしいメールを送信したノウイ。なんて手際の良さ。ノウイにしてはやるじゃない。得意気に「イッヒヒ」とか笑うノウイ。正直なんか引くわね。


「これでしばらくは二人の回答待ちですかね? シルクちゃん達の様子にかわりはないですか?」
「そうですね。大丈夫な様です。−−というかなんだか……」
「どうしましたセラ?」


  これは確定出来ないけど、こうやって二人を見てると、直接情報が入ってくる訳だから、メールだけではわからなかった事がわかると言うか……私は最初、クロード・リードはもうちょっと監視的な感じでシルク様に接してると勝手に想像してた。
  だって普通はそうでしょう。実際一番シルク様が厳しい立場の中に居たはずだ。トップがスオウ側に居てくれてるエルフやモブリはこの通り楽々だし、国という物にそれほど思い入れがないスレイプルは別に後ろ指を差される事なく、寧ろ協力者まで出すほど。
  だけど人の国はそうはいかない。だってスオウとは殆ど関係ないし、トップが殺すとか宣言してたし、世界を敵に回したあいつを良い印象で見てる訳がない。そしてその仲間だった筈のシルク様は当然厳しく当たられてる……あの代表はシルク様には甘かった見たいだけど、いろんな所で陰口を叩かれてたりしたっておかしくない。
  そして案外ずっと敏いシルク様はそんな事に直ぐに気付くでしょう。私達の中で今、一番辛い環境にあの人は居る。そして皮肉な事に、そこでしか戦いが出来ないというね。そもそもシルク様以外の誰かに、もしもたまたまピクがくっついてればこんな事、起こり得る筈も無かった事。
 六分の一で、最も困難なたった一箇所。そこに丁度はまるんだから、私達は運が悪い。でも言うなら、ピクがシルク様以外の誰かにあの状況でついて行くなんて事はきっとなかったし、スオウとの繋がりが薄い人・ウンディーネ・スレイプルがそれぞれ厳しい立場を貫くのは当然と言えば当然。
  そう思うと、これは偶然じゃなく必然だったのかなって、考えられなくもないわ。まあ唯一の救いは、こうやって見てると、シルク様も案外優遇されてるって分かる事。きっとそれにはあのクロード・リードの感情が大きく影響してる。
  見てれば分かる。まさにその通りで、クロード・リードの様子を見てれば、その内なる感情が丸わかりと言うか……


「クロード・リードはきっとシルク様に惚れてますねあれは」
「ええ!? そうなんですか?」
「マジっすかセラ様!?」


  二人の声が重なって響く。二人とも声大きいわ。まあこっちにはエルフしかいないし、別に良いんだろうけどね。でも興味深いのはわかるわ。リアルでいう所のスキャンダルだしね。


「多分、確証はないですけど、女の感がそう言ってます。見てるとわかりますよ。物凄くクロード・リードはシルク様に気を使ってます」
「ですけど、聖君王子と呼ばれるくらいだから、有る意味その接し方が普通と考えても良いのでは?」


  確かに日常・普段を知らないから、もしかしたら日常的にこうなのかも知れないって事は否定出来ないわね。でもこれが日常的でしかも誰にでもなら、どれだけ女ったらしなのよって思うわ。それになんて言うか……こんな事をいうのは恥ずかしいけど……


「アレです。クロード・リードは今、恋してる少年の瞳してます」
「また随分主観的な意見っすね」
「何よ? 女は男よりもそういうのに敏感なのよ。文句有る?」


  女は誰しもがそんな特殊能力を持ってるのよ。LROとか関係なくね。するとノウイが「コホン」と咳払い一つしてこう言ってくる。


「えっと、じゃあっすね。自分の瞳はどう見えるっすか?」
「はぁ? なに言ってるの?」
「敏感なら、自分のこの瞳の奥の思いにも気づいて欲しいっす!」
「うっ……」


  なんなのよ一体? なんだか怖い位にノウイが真剣だ。しょうがないから、じっくりとその瞳を凝視する事に。


「ふむ」
「どうっすか? その……何か感じたっすか? 淡いピンク色のオーラみたいなも−−」
「あんた、その豆粒みたいな目にもまつ毛ってあるのね。今始めて気づいたわ」


  凝視した結果、左右の目に三本づつまつ毛が確認出来た。するとそんな答えに不満だったのか、ノウイは涙を目に溜めながら叫ぶ。


「そんなんじゃないっす!! 自分が察して欲しかった物はそ・ん・な事じゃないっすよ!!」


  どうやらまつ毛はそこまでも否定したい事だったらしい。期待外れにも程があるって言い方ね。なんか癪に障るわ。ノウイの癖に。


「じゃあ何をわかって欲しかったのよ? 口で言いなさいよ。面倒臭いわね」
「女には男よりも優れた第六感があるんじゃないんすか!? 自分の言葉、全否定っすよそれ」
「結論、あんたに使う能力はないわね。これで良いでしょ?」
「自分はどうでも良い存在っすか! 絶対絶対、セラ様にはそんな勘ないっすよ。自分にはそれが断言出来るっす!」


 ムカっ。


「何よそれ。あんたに私の何がわかるっての? 言ってみなさい」
「自分にはセラ様の何はわからないっすけど、何も察せないセラ様ってのは確実にわかるっすよ。断言物っす! セラ様は他人の気持ちに鈍感なんす! そんな人が誰かの恋の視線とか言っちゃうのは甚だおかしいっす!」


 なんだかいつも私を立てるノウイには珍しく楯突くわね。すっごくイライラしてきたわ。すると横からノウイに味方するこんな声が……


「う〜ん、セラは確かにちょっと鈍感よね」
「ちょっ! アイリまで何を! 私のどこが鈍感なんですか? 敵の観察とか怪しい奴の観察とか怠らないし、戦闘では常に敏感に周囲に気を配ってます」
「そういう事じゃないのよセラ。ねえノウイ」
「そうっすね。そういう所じゃないっす。もっと自覚してくださいっす」


  うう……アイリが向こうについてるせいで激しくいけない。なんなのよ二人して……私がそんなに恋に鈍感だっていうの?


「まあだけど、恋は盲目とも言いますしね。実際しょうがないのかな〜とも思います」
「何がしょうがないのよ?」
「そうっすよ! しょうがないで済まさないでくださいっす!」


  なんでノウイまでアイリの言葉に食いついてるの? そんな会話をしてると、ノウイの動きが一瞬がピクリと止まった。


「二人からメールが返って来たっす」


  そう言ってメールを晒すノウイ。取り敢えず今の話は後回しで、私達はメールに目を通す。


【部屋からの脱出後はそれで文句は無い。ミラージュコロイドなら足もつかないだろうしな。中の方が確かに問題だな。クロード・リードは有名人だし、シルクは単体では頼りない。直接攻撃や潜入なんて危ない事も出来ないのなら、俺たちスレイプルの手立ては一つしかない。
 俺達は物を組み合わせて作り上げる事の出来る種族だ。それなら、作るしかないだろう。幸い材料はあるんだ。ハリボテでもインパクトのある物を生み出せば。多少の目は引けると思う。いや、俺達はスレイプルの誇りに掛けて気を引ける物を作って見せよう】


  なるほど、実にスレイプルらしいやり方ね。人数も居るんだし、頑張ればかなりの物が出来るのかしら? でもそれほど時間を掛けてもいられないし、それでどれだけ……いや、これはもう鍛冶屋とスレイプル一同を信じるしかない。
  それにこれなら、文句を言われる筋合いもないでしょうしね。彼らはただ、物作りをしてただけ。次はテッケンさんの方ね。


【部屋からの後はそれできっと大丈夫だと思う。問題は部屋からの脱出だね。クロード君は普段は温厚で出来た人だけど、冷徹な面も持ってる。人の代表と国を一番に考える人だ。そこに仇名す奴らには見てられない位に残酷だよ。
  下手をするとシルクちゃんもただでは済まないかも知れない。謀反の考えがバレても不味いと思う。それに眠りの霧程度じゃ不味いよ。そんなの彼の一振りで意味をなさないと思う。速効性ならまだしも……でも本当に一瞬の目眩ましなら有効かも知れない。その一瞬で僕が動く。僕達は幸い、同じ建物に居るからなんとかやってみるよ。
  教皇様がその力を貸してくれるから、なんとか出来ると思うんだ。ビジョンはある。それと僕も一緒にピクと行って良いかな? 分身を使えばバレないで済むと思うんだ。タイミングはそちらに任せるよ。分かりやすい指示を頼みます】


  テッケンさん、貴方も無茶を言いますね。でもテッケンさんはどうやら私達の中で一番クロード・リードに詳しそうだ。それにこの人がなんの勝算もなく、こんな事をいうとは思えない。


「セラ……」
「セラ様……」


  真剣な表情の二人。私の判断を待ってくれてる。テッケンさんも鍛冶屋も信頼に足る人物だ。それなら、これ以上迷う事なんかないわ。私は今度は自身でメールを打って、二人に送る。そしてそれは直ぐに返って来た。
 鍛冶屋は既に目を引き寄せるための何かの製作に掛かってるらしい。始まりの合図はそれにするわ。行動開始は、スレイプルの作る何か。あれだけ大口叩いたのなら、ここに居る全部の種族に見えるでしょう。その後に何かギミックもあるみたいだし、それを行動開始の合図に。
  それとテッケンさんからは、さらに詳細な説明を求めた。それを確認して私は少し笑っちゃう。あの人も大概無茶をやりたがる。でも確かにこの位しないといけないのかも。でもこれなら確かに一瞬の目眩ましは必要ね。見てる私が最善のタイミングを伝えないといけない。
 それにちゃんともしもを考えてモブリに疑いが向かない様にも考えてある。でもあの分身ってこんな事も出来るのね。隠し球って奴? でも確かにこれなら勝算と言える。


「これで行きましょう。全ての作戦は決まったわ」
「ハイっす!」
「頑張ってください!」


  私達は腹を決めて窓の外を見る。きっとのこの窓の外に、それは見える筈だ。するとその時、わずかに机上の地図にノイズが走る? 

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