命改変プログラム

ファーストなサイコロ

何を見てる?

  カンカン、ドスドス、キュキュ−−−−っとそこかしこから聞こえてくる音。スレイプル以外の奴らはこの音が一体何を示してるのかきっとわからないんだろう。そして常にそんな音を立ててる俺達スレイプルは会談場であった建物から一番離された一角を与えられてた。
  もう一角とか言う時点で扱いが酷い。他の種族は会談場の宮殿みたいな建物の周りにある、そっちも勿論豪華な建物の中をエリア分けしてるのに、なぜに俺たちスレイプルだけはこの会談場の宮殿敷地の隅っこなんだよ。
  しかも離れみたいな建物に、入りきれない奴等は外って……どれだけだ。ローレの奴、完全にスレイプル舐めてるだろこれ。いや、まあうるさく雑音が生じるし、それを予め考慮した上では納得してやらない事もないけど……せめて屋根のある場所を提供しろよ。
  これでよくもまあ、あのプライドの高そうな代表の爺さんが文句いわなかったなって思う。そう思いながら窓から外を見てると、ある物に俺は気づく。スレイプルにあてがわれてる敷地の一部に鉄くずやらガラクタやらが大量に放置されてる?
  いや、ここは隅っこでも一応は宮殿の敷地内だ。流石に不法投棄とかはないだろ。それによく見てると、スレイプルの残ってる奴等は、その鉄屑やガラクタを抱えて行ってる。


(なるほど……そう言う事か)


  理解した。あの爺さんが文句も言わず−−かは知らないが、ここを受け入れた理由はきっとあれだな。あの鉄屑やガラクタは予め用意されてた物なんだろう。どうしてか−−なんて言わずもがな、それは俺達スレイプルの為だろう。
  職人が多いスレイプルだ。手が空くとついついやってしまうのが自分の作品の手入れや、そして鍛治。でもそれも材料ありきだ。それをローレの奴は予め用意してあの爺さんを釣ったわけだ。このそこ等じゅうから聞こえる音の原因はまさにスレイプルの習性の証の音とも言える。
  どいつもこいつも、世界が変わろうとしてる時に、せっせと自分の作品作りか。まああんなどこから寄せ集めたかわからない様な材料じゃまともな武器や防具に変貌すると思えない。わかってる奴等はきっと鉱石操作で、より純度の高い材料にしてるんだろう。


  ガラクタからでも俺たちは特有のスキルでその成分を操作出来るからな。金属の中の不純物を取り除いたり、他の物質との組み合わせなんかも出来る。純度の高い物はそれだけ良い武器や防具になってくれるからな。
  それにただの鉄屑やガラクタは売れないが、高純度な鉄やら鉛やらその他色々と分けて行けば、普通に小遣い程度にはなる。やる事もないんだろうし、そういうことをやってる奴等は多そうだ。そしてそんな作業には音が出るから……それも見越してのここ。
  ようは好き勝手にここならやって良いって許可が出てるのと同じだな。その証拠に誰も彼も遠慮なんてしてない。てか、材料を取り合って決闘してる奴等もいたりしてる。なんだかあれだな。自分達とここに居る奴等のついさっきの戦闘の受け止め方の違いって奴をヒシヒシと感じる。


 (そもそもスレイプルを選んだ奴等って、その内ゲームって部分がどうにでも良くなる傾向にあるんだよな。自分の作品の高みだけを目指そうとするというか……第一にゲーム的な進行とかがどうでもよくなってるし。
  強くなるのは、ゲームを攻略したいからじゃなく、より良い材料で誰も作ったことのない武器や防具を作って見たいから……的な。俺は……いつからこんなにゲームをやってたっけな)


  なんだかふと、そんなことを思ってしまった。少し前までは俺もあんな感じだった。世界がどうなろうと、どういう風に周りが変わろうと、別段気にしてなんかなかったんだ。ただ武器を作って、作って作って……それを売ったり、使われたりすることに幸福を感じて誇りを持ってた。
 LROという世界は、それだけの為の世界でしかなかったんだ。そしてそれで何も不満なんてなかった。寧ろ、周囲がいろんな噂やゲーム的な攻略に躍起になってたりするのは鼻で笑ってた。だってそう言う奴等に限って、自分の不甲斐無さを武器や防具のせいにする。扱え来れてない、そもそも真面目に武器に向き合っても居ない奴らがレンタル感覚でポイポイ武器を扱うのが胸糞悪いとも思ってたな。
  まあだが、それはLROのシステムにも問題があることだ。LROの強さの定義にはスキルの多さがある。ある程度強くなって、自分のスタイルを確立するまでは、それこそどんなスキルだって貪欲に吸収した方が良い。そうなってくると、スキルを自身の身の内に得れた武器や防具は、次々と用済みになる。
  そして次の武器のスキルを得る為に、扱わなくなる武器。自分達の作る武器や防具は、スキルの入れ物でしかないのか? −−−−っていう自問自答は俺達スレイプルが一度は通る試練みたいに言われてる。他の種族はきっと知らないだろうがな。


「はぁ〜」


  なんだかある意味でスレイプルその物の姿に安心するような……やっぱりそうでもないような、複雑な気分だ。スレイプルだけは世界が変革してもきっとこのままだな。このまま武器や防具とかを自己満足に作り続ける。これじゃあマイナーな種族なままだろう。


  ついさっき目の前で繰り広げられてた戦闘やその言葉を、きっと彼等は話のネタ程度にしか覚えてないだろう。それは何かがおかしいと、今の俺なら思うことが出来る。だけどそれを言った所で、理解される事はきっとない。
  それはやっぱり彼等はそれほど関わり合ってないからだ。世界へじゃない、スオウにだ。俺が一番気がかりなのはあいつ……だけどそれと同じ感情を求めるのは無理だ。彼等にとっては赤の他人なんだからな。
  噂くらいはきっと届いてるだろうが、それは野次馬になる程度の興味でしかない。彼等にとってあのスオウと邪神の死闘は、どこか違う世界の出来事……それこそ銀幕をただ見てる一観客っていう位のものだったと思ってもきっと差し支えないと思う。


  それは正直しょうがない事だ。赤の他人を本気で心配出来る奴なんて早々いない。それについては俺は何も言えないさ。だけどせめて、世界の変容の事とかは関心持てよ。そこは他人事じゃ済まない筈だ。
  邪神の復活で暗黒大陸は開かれた。それによって世界で起きてる天変地異。自分達がどこに居るか……理解してるのか? 思いっきり自分達の思いをぶつけれるこの場所がどこに存在してるか、わかってるか?
  俺達スレイプルの大部分はきっと……この世界に参加してる自覚がない。だからこそ、国としての存在感もないし、バランス崩しだって姿を表さない。俺達はプレイヤーで国に成ってない。多分最初から、ここまでずっとスレイプルって国を表して来たのはNPCだけだったんだ。


「はは……」


  乾いた笑いが漏れる。LROが本格稼働しだして既に一年半と少し経つってのに、俺達スレイプルは……俺達スレイプルだけは始まった日から何も変わってなんかない。それはなんだか、考え方を変えるとすごい事じゃないか? よくもまあ、一年半も誰一人として国に無関心で居られたものだ。
  デッカいんじゃないのか? 俺たちを包み込んでくれてる、デッカい存在じゃないのかよ国って。それを完全無視して、俺達スレイプルは個でしかない。まさに眼下に見えるこの光景が、自分達の国を放って置いて来たその縮図じゃなかろうか。
  誰も彼もが世界を意識せずに、あれだけの事態を目の当たりにしながら、その後にやる事がいつもの鍛治精製。捜索に参加してるのも、あの爺さんが率いてるNPCの兵士だし、スレイプルのプレイヤーはほぼ全てがこの体たらくだ。


  俺もだけどさ……これじゃあ愛国心なんて芽生える訳もなく、国と言うものを介さずとも俺達は個人でやっていけるから、国という形がそもそも必要なのかも疑問だな。国にこだわってるのは、NPCの爺いだけ。
  スレイプルはある意味、国って言う縛りなんてない方がいいのかも。まあなくなったら、微妙に困る事はあるかもしれないが、それだって絶対に無いといけない事じゃない。スレイプルには、大きな国って縛りよりも、緩く自由な数人程度のコミュニティーで十分だって実は昔から言われてたっけ。それこそギルドとか。
  そっちは結構活発だったりしてるしな。でもそれもどうやらギルドメンバー内で集まりがあったりするわけじゃないらしい。俺はよく知らないが、ギルドとしてのコミュニティーをやるのは、そこにブランドを付けるためだとか。
  一人が沢山の顧客を持つのはやっぱりどうしても難しい。一部のトップクラスにはそう言うのがいるけど、それも言うなれば、始めた時期の差でもある。出遅れた人達は、やっぱりそれだけ不利であるし、そう言う人達は元から信頼されてるギルドというブランドに参加する事で、自身の作品を売れやすくするってわけだ。


  まあ俺的には気に入らないやり方だけどな。そもそも自分の作品に自分以外の印が入るなんてあり得ないと考えてる。自分の作る武器は同じ形の物が巷には溢れてるかも知れない……だけど、その名を刻んだ武器はただ一つ……そう言うのに俺達は誇りを持って来たんじゃないのかよ。
  それが職人って奴だろ。


「んっ−−−−ってこれじゃあ、結局俺達は個人でしか居れないって言ってる様な物じゃ無いか」


  色々と国を危惧してたのに、結局そう思う自分はやっぱりあいつ等と変わらないスレイプルなんだな。わかってたけど、もどかしい。国としてやれる事なんか元々ないとわかってたけどさ、自分だけで出来ない事も誰かとなら……それこそ国という大きな存在なら……そんな風に都合良くも考えてしまう事がないわけじゃない。
  だってある意味、このスレイプル達は基本あの場所がなくなってもそれほど、関心しない奴らだろうし、説得とかして見るのも良いかもとか思ってたけど、そもそも他人に滅多に興味なんか示さなくもあるんだよ。
  

「何か釣れる要素はないか?」


  一人ブツブツそう言ってると、なんだか後方出入口の方が騒がしく成ってた。俺を見張るNPCスレイプルは内側にニ体と、外側にニ体の計四体。ある意味無茶をすれば突破出来なくもないと思える数だけど、それは憚れるんだよな。
  この場所は、ある意味あいつが守った場所でもあって……そう思うと、あいつのあの姿を無駄にするようで、自分からは動けない。こんな国だけどさ、スオウの奴は守ったんだ。自分がどれだけ危険な状態なのかわかってて、そして一人では邪神に勝てる筈もなかったのに、こんな俺達にさえないがしろにされてる国を……それでも。
  だから何かこの国があの邪神に潰される事なくあいつの為にやれる事はないか……そんな事を真面目に考えてたが、早々妙案なんて……基本俺達は武器や防具を作る事しか出来ないからな。スキルだって当然そっちに役立てられるものとかが多い。
  大人数で探して見つからない奴を、俺が見つけるなんて、流石にそれほど夢は見れないよな。そんな事を思ってると、今度は窓の冊子にガタっと鉄みたいな物が引っかかった。それも一つじゃない。隣やそのまた更に隣の窓にも……いや、この部屋に通じる窓全部に引っ掛かってないか?
  俺は訝しんで下を覗き込む。


「げっ!?」


  すると、思わずそんな声を出してしまう光景があった。さっきから散々スレイプルは個人で行動したがる……とか言ってたけど、これは前言撤回しないといけないかもだ。何故なら、眼下には協力しあって作った−−のかは知らない梯子を、プレイヤー達が登って来てた。


「おいおい、どういう事だよ一体?」


  こいつ等何をやる気なんだ。俺の長かった独白をなかった事にしそうな行動してるんじゃねーよ。無駄だった感じになるじゃないか。


「騒がしいな」


  そう呟いて、俺の見張り役のNPCが動く。だけどそれは、どうやら別に窓枠に掛かった梯子に気づいたわけではないようだ。彼等が向かったのは出入口の扉の方。そっちも騒がしいからな。俺は実際、次々と梯子を登って来ようとするこいつ等をどうするか思案してた。
  気のせいかも知れないけどさ、こいつ等俺を見て目を輝かせてる気がする……そして同時に寒気もする。この梯子−−−−落とした方が良いかも知れないな。


(でも、まさかな……)


  流石にどうして俺が狙われるかもよくわからないし、そんな筈はないと思う訳だ。だから流石に梯子を落としてやるのはどうかと……そんな事したら鬼畜みたいじゃないか。面白そうではあるんだけどな。
  だがそれを実践出来るのは俺の知ってる限り、ローレとセラくらいだろ。あの二人ならやれる。ローレは笑いながらやりそうだし、セラは無表情でやるだろ。でも俺はそれほど鬼じゃないし性格腐ってないからな。
  だけどそうやって迷ってると、この部屋に響き渡る二人の悲鳴と、扉を破壊する轟音が後ろから聞こえた。振り返ってみるとビックリ。そこには長く大きな鉄の棒みたいな奴が光ってた。まさかガラクタを漁ってたのはあれを作る為か?
  しかもあんな太くて頑丈そうな鉄の塊……幾らなんでも一人じゃガラクタからあそこまでの鉄柱を精製するのはかなり時間がかかる筈だ。だけど俺たちがここに戻って来て、まだそれ程時間は経ってない……となると、やっぱりスレイプル同士で協力を? 変な所でらしくない事を! 一体何の為にこんな事をやってるんだこいつ等は? 
  本気でわからない。


「うう……お前達、何を……」


  丁度扉に近づいてたせいであの鉄柱の衝撃を諸に受けたNPCは床に倒れふしたまま、痛々しい言葉を放ってる。いや、実際HPは減って無い筈だけどな。まあNPCだし、痛いのはいたいのかも。この世界に息づいてる存在だからな。
  だけどそれをやった当人達はそんな事を微塵も気にして無い。まあそれも当たり前と言えば当たり前だ。NPCという認識しか普通はないからな。目的を達したのか、鉄柱を床に落とすプレイヤー達。すると一斉に何故かこちらに走り寄ってくる。しかもその破壊した扉側だけじゃなく、梯子を登って来た奴らも何故か俺に向かって来てる。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


  そんな唸りみたいな声が一気に迫って来る。一体、何が起きてるのかわからない。俺は思わず武器や取ろうとするけど、そういえばなかった事を思い出した。取り上げられたんだった! 


「くっそおおおおおおおおおおお!!」


 しょうがないから、一番早く近づきそうな奴を殴る事に。だってこのままじゃこいつ等に押しつぶされそうな雰囲気だ。何の目的かよくわからないが、黙って潰される訳にはいかな−−


「ぐわあああああああああああああああああああああああ」


  一発殴った位じゃ全然止まらねぇえええ! 一気に揉みくちゃにされる。人のあふれる匂いや、こすれ合う事で発生する熱でおかしくなりそう。てか、揉みくちゃにされてるせいで息が……こいつらもしかして、裏切りかけた俺に制裁を加えようと?
  いやいや、他の国では考えられるが、ウチではそんな事あり得無いだろ。そう思ってると、一気にソファーにむかって投げられた。激しくソファーににぶつかったせいで、ソファー自体が大きく後ろに倒れそうになる。四・五人掛けの結構大きなソファーなのになんて勢いで投げやがるんだクソ。だけど倒れる寸前でソファーに巻かれる鎖の様な物。そして倒れるか倒れないかの絶妙なバランスを保って固定された。どういう事だよ。こんな変な位置で固定せずに、元に戻せよ!!
  自分がちょっとでも動こうとすると、それだけで倒れそうだから下手に動けないじゃないか。てかこれが狙いか? 


「さあ、下手に逃げる事も、暴れる事も出来なく成った所で、教えてもらおうか!」


  誰かがそんな事を言った。すると一斉に周りから歓喜の雄叫びの様な声が上がる。モンスターかこいつら。てか聞きたい事? その為に普段は個人主義なこいつらがこんな協力をしてるのか? 一体なんだってんだ。
  バランス悪いソファーの背に身体を預けたまま、俺は周りを見回す。部屋を埋め尽くす程の人数。流石に武器無しでどうにか出来る人数じゃない。テンションがやたら高いし……一人……じゃな。


「聞きたい事ってなんだよ?」


  俺がそういうと、何故かピタッと歓喜の叫びがやんだ。えぇ? マジでなんなんだ? この雰囲気なんだよ。意味がわからないから余計に怖い。マジで解放して欲しい。何が目的だこいつら? するとズン!! と一歩を踏み出す周りの奴等。なんだこの感じた事のないプレッシャーは?
  そんな感覚とは無縁だったはずだが、今の俺には自分の危機が分かる気がする。ジリジリと詰め寄って来る周りのスレイプル。そして後一メートルもしない所に……俺は思わず唾を飲み込む。


「……知りたいんだ」


  ポツリと聞こえたそんな声。すると一斉に彼等は頭を床に付き土下座の態勢へとシフトチェンジした。


「知りたいんだ! あの武器の事を!! あんたが作ったんだろ!?」
「あんなスゲー武器見たことねーよ!」
「噂には聞いてたんだ。だけど実際に見ると、その神々しさに俺たちゃやられたんだ! どうか色々と話を聞かせてくだんせぇ旦那!!」
「………はっ?」


  周囲から飛び交うそんな言葉に、俺は思わず拍子抜けした。まさか……その為にこんな事を?


「その為? それはスレイプルとして聞き捨てならない言葉だな! 我らにとって自身の作品こそが全て! そして常に上を目指してる筈だろう。そんな我等にあの武器は衝撃を与えたんだ!」
「衝撃って……そんなに活躍してたか?」


  スオウには悪いけど、そこまで活躍できてなかったよな。防戦一方だったし。まああれは相手が悪過ぎただけだが。


「活躍の度合いなど、そんなの意味をなさいだろう! 俺達スレイプルは一目みれば、その武器の潜在能力を測れる瞳を持ってる!」
「ああ、あれは相当だったぜ!」
「おう、鳥肌もんだったな!」


  周りが妙に賛同してるけど、真面目な話、俺たちにそんなスキルねーよ。せいぜい、それって他のプレイヤーよりも武器と長く深く付き合ってるから、そっちの神秘眼が養われてるかもって話だろ。だけど周りはあの時のセラ・シルフィングの事で持ちきりだ。どうやらそれだけあれは衝撃だったようだな。
  でも戦闘の本質や内容よりも武器を見るとか、やっぱりこいつ等は生粋のスレイプルだな。


「教えてくれ! あの武器の事を!! 俺達は知りたいんだ!」
「なんでそこまで……希少性ならバランス崩しとかの方があるし、あの剣よりも完成度が高い武器なんてまだまだここにはあるだろ?」


  そんな事を言いながらも、こいつ等の興味は実はわかってたりする。でも面倒だしな。どうにか解放されたいんだ。


「そんな事はわかってる! でもあれは今まで見た武器とは明らかに違ってた! 俺たちの胸をワクワクさせたんだよ!! あんな武器が自分達にも作れるかもしれない。そう思うだけで、この魂が叫ぶんだ! 知りたい……そして作りてぇええええええ! てな」


  ほかの奴らもそんな言葉に便乗してる。もう五月蝿くて叶わない。まあ確かにセラ・シルフィングはどこか普通の武器とは違う。その形に成ってる筈なのに、完成してない感じがするというか……まるでスオウの成長と共に、色んな一面を見せてくれる。そんな不思議な武器だ。
  だからこそ、俺もあの武器から、あいつ等から離れられない。でも……


「そう言うのは秘伝とかにしといた方が俺たちの場合はいい筈だろ? わざわざ技術を晒すなんて……」


  まあ技術なんてないんだけどな。確かにシルフィングを作ったのは俺だが、セラ・シルフィングに進化させたのはスオウだ。しかもあのイベントは使い古した武器とかなら、案外簡単にできそうな気がしなくもない。
  でもそもそもLROの場合は武器を使い古すなんてないんだけどな。そんなのは熟成しきった古参プレイヤーとか位。しかもどこまで使い続ければとか、そこ等辺もまだまだ全然わからない。この情報が出回って武器をもっと大切にする奴とかが出て来てくれるのなら、それも良いんだが今はまだその時じゃない様な気もする。
  それに下手に近づくとあの麒麟とかがな……今の状況が解決したら、公開しても良い情報だが、今は早いが俺の結論だ。でも周りの奴らはどうやら何がなんでも聞き出す気の様だ。


「確かにこんなのは実際にルール違反だと思う。でも、好奇心は抑えきれない! 恥を頼んで頭下げてるんだ! 教えてくれるまでは絶対引かないぜ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


  建物全体が震える様な叫び。くっそ、これはヤバイな。こういう事に関しては俺達スレイプルは引かない。ここから俺と、こいつ等の長い戦いが始まる事になる。






 三時間後


  駆け引きと探り合いの応酬の末にすでに三時間。迫り来るこいつ等にただ黙ってる……なんて出来る訳も無かった。だってうるさいんだ。煩わしいんだ。だから途中で方針変更して、ここに集まってる奴らにも、自分独自の何かを語って貰う事にした。しかもそれは物凄く盛り上がってしまった。
  いや、普段は個人でしかやってない鍛治関連の色んな情報を共有できたんだ。これで興奮しないスレイプルはここには居ないだろう。そして結局はセラ・シルフィングの情報も、自分が知ってる事は全て話してしまったぜ。これで明日からはアルテミナスにあるあの森にはプレイヤーが殺到するな。
  

「す……スゲーな。セラ・シルフィングって。それに俺達にもそれと同等の物を作る術がこんな近くに! 」
「実際、本当にあの武器の様な物が作れるのかは不明だがな」
「だからこそ、やりがいがあるんじゃねーか!」


  盛り上がる周りの奴等。確かにそれは賛成だな。俺達は常に目指してる。自分達が想像しうる……かそれ以上の最高の作品を作る事を。だけど、本当の秘伝は実をいうとあのイベントなんかじゃない。それはきっとこのままじゃ、こいつ等はずっと気づかない事。
  そしてあのイベントの為には絶対に必要な事だよ。俺は、問いかける様に興奮してるこいつ等に言ってみる。


「なあ、お前達は自分だけで最高の武器が作れると思か?」
「当然だろ!」
「それが鍛冶という芸術だ!」
「俺達はそれを目指してるんだ! 誰がいち早くそんな武器を作れるか−−だろ?」
「−−−−だな」


  誰もが揃って「俺だ、俺だ」と言ってる。確かに俺達スレイプルはどんな種族よりも鍛冶や防具とかの製造に長けてる。それを成せる技とスキルがある。俺達が生み出す武器は芸術だ。だけど、そこで終わってなんかないって、俺は知ったよ。
  創り上げて完成じゃない。最高の武器っていうのは、使い手と共に、完成されて行く武器なんじゃないかと最近は思ってるんだ。だからこそ俺は、あのバカから目が離せない。そう思ってると、頭に響く音。メール?
  宛名はノウイの奴から。内容を確認して、俺は安堵する。あのバカは生きてるらしい。これでまだ俺の作品は終わらないな。最低の考えだと思うが、これがスレイプルなんだよ。それに協力はするさ。とりあえずここからは満つに連絡を取り合う必要がありそうだ。
  俺たちの希望は、あの小さな小竜か。だがあの小竜は宛に出来る。自分には一体何が出来るか……武器もなくバラバラな俺たちに出来る事……一応返信を返して俺は考える。すると話が終わった奴らはぞろぞろと外に出て行ってた。
  そこでフと俺は気付く。よくよく考えたら、これだけ自由意志で動く奴らは貴重じゃないか? 今の俺達には戦力がないに等しい。そして誰もが自分達の国を思って派手な行動は取れない。でも……こいつ等はどうだ? 多少の国のリスクなんか構う奴らか? ここで逃がすにはどう考えても惜しい存在……戦力だ。


「ちょっと待てお前等!!」


  俺はそう叫んで、バラけてくプレイヤー達を呼び止める。既にかったるそうな奴等。だけど、色々と喋ったんだ。協力はして貰うぞ。


「なんだよ。もう解散だろ。さっさとあの爺い帰ってこないのか? 帰りたいんだけどな!」
「爺いは後一時間で帰ってくるとさ。それよりもやっとで互いの方向を向いたんだ。もっと仲良くしてみようぜ。これまでやれなかった事をとことんと」

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