命改変プログラム

ファーストなサイコロ

どこに行ったの?

 (どうして……こんな事になってしまったんだろう)


 それは私だけじゃなく、きっとスオウ君の仲間は誰もが思ってると思う。あの戦闘から既に三時間。周辺の捜索は続けられてるけど、まだ見つかった様子はありません。本当は私だって捜索に加わりたい、だけどその許しはおりませんでした。
 そしてそれはきっと、他のみんなも同じだと思います。私達はまだ完全には信用されてない。だからこそ、このノンセルス1に閉じ込められてる。周りの目を盗んで何回もメールしてるのに、一通も返って来る気配さえない。
 心配過ぎるよスオウ君。それに拍車を掛けるのが、彼を連れ去ったのがシクラ達ってことです。助けたんだから、殺す事はしないと思うけど、もしかしたらそのまま何処かに捨てられたりとかしてるかも知れない。
 

 だって彼女達は敵……そもそも何でスオウ君を助けたのかさえ、私達には理解できかねます。何もわからない。何もさせてもらえないこの状況がもどかしい。私はそれぞれの代表に用意されてた部屋から、元に戻った空を見上げます。勿論ここは人の代表の部屋です。
 あれから一度もみんなとはあってません。みんなとはメールでなんとかやり取りをするのみ。私には情報が入ってこないから、殆どこのメールが外の様子を知る手段です。どうやら情報が入らないのは他のみんなも同じみたいですけど、流石にアギト君や、アイリ様は私達とは権限が違いますから、情報のルートは大体そこです。
 アギト君は捜索にも出てる様だけど、色々と危ない橋ですよねそれって。もしも見つけたら、どうするのかな? 親友を……売る? いいえ、彼はそんな事をする人じゃない。だけどどうやら、アギト君にはエルフだけじゃなく、他の国の兵士も協力と言う名目で同伴してるらしい。
 それはどう考えても、協力じゃなくアギト君の監視目的でしょう。彼も下手な事はできない。こうなったらシクラ達を信じるしかないのかな? でも……あの人は正直、信じれない。


「はぁ~~」


 私は大きなため息をついて崩れ落ちる。ここで私が飛び出して行っても、スオウ君を見つけれるとは思えない。それにそんな事をしたらこの国が……ジレンマです。何もできないよ。シクラ達が現れた時、回復魔法を掛けようと思えば掛けれた。
 だけど……できなかった。あんなにボロボロで血もいっぱい出てたスオウ君に私は何もしてあげなかった。


「しょうがないよ」


 と彼はきっと言うだろう。でも……私はヒーラーとして失格だったって思うよ。目の前で息耐えそうな命があって、私にはそれを救う力がここではあるのに……見捨てたんだもん。それにスオウ君の場合は他の人とは事情が違う。
 リトライは……コンテニューはもう二度と出来なかったかも知れない体なのに。それをわかってて私は……私は何もしなかったんだ。


(もしかした、もう二度と会えないかもしれない)


 そう思うと、目頭が熱くなって来る。眉根を寄せて、鼻を啜らないと、周りにバレてしまいそう。すると肩に乗ってるピクが首を伸ばして私の頬をペロペロとしてくれる。慰めてくれてるの?


「ありがとうピク」
「ピ~~」


 私の小さな声に、同じく小さな声で応えてくれるピク。ピクが居てくれて良かったよ。私一人じゃ、後悔や自己嫌悪の輪にはまってたかも。でもこの子はそんな私の気持ちを敏感に察して、励ましてくれる。
 柔らかい羽を触ると心が少しは落ち着くし、そのヒンヤリとした桜色の鉱石部分は頭を冷やすのに丁度良い。そしてその愛らしい姿は、私の心をホッコリとさせてくれる。


「大丈夫だよね?」


 私は顔を上げて、再び空を見つめてそう言います。するとピクが大きく羽を広げて、自身の羽を一つ取りました。


「ピク?」


 私が首を傾げてると、ピクはその頭をチョンチョンと動かす。まるでその羽を私に渡したいみたいな……私は取り敢えずその手を差し出してみます。するとやっぱり、ピクはその羽を私の手のひらに。


「NO8--これって、まさかピク?」


 羽に浮かび上がる数字。それはストックナンバーです。実際羽自身に魔法を込めてるわけじゃないけど、ストック魔法の発動には羽を使います。その時に使いたい魔法を思い浮かべれば、余計な操作なんていらずに発動できる。
 だけどその時に、そのストックされたナンバーを羽は表示してるんです。でもこれはわざわざピクがこの魔法を発動する様に選んでるって事? 確かストックNO8の魔法は--ピクは私の言葉に何度も頷いてます。
 これはやっぱりそう言う事なんでしょう。私自身には魔法を使わせない様にする為のアイテムをつけさせられてるから、魔法を唱える事はできません。腕につけられたゴツイ腕輪がそのアイテム。でも……このストック魔法は別? 実際、私しか使い手がいないストック魔法です。
 多分これで大丈夫だろう--的な感覚でこの腕輪をつけられて、検証はされてない。実際、検証をする気みたいだったけど、代表さんが止めたんですよね。


【そこまでする必要はねえよ。シルクは優しいからな。俺達の事を大切にしてくれるさ】


 そんな事を言われたんです。あれは私を信頼してくれてる……とはちょっと違う感じだったかも。面倒臭い……訳でもきっとなかった。あの人が実は用心深い事を私は知ってます。じゃあ何故、重要な事をやめさせたのか……私は考えながら、この部屋を見回します。
 今は代表さんはいない。と、言うか他の国を纏めて指揮を出してるのがあの人だから、まだ戻って来てない。自分が見張れないとわかってた上で、私の出来るかも知れない手段を潰さなかった。それは用心深いあの人を考えると、ちょっとおかしいです。


(いいえ、でも……)


  そう言えばもう一つあの人の性格で知ってる事がある。確かにあの人は用心深いけど、基本はその見た目通りに豪快な人です。常に刺激を求めてるような、そんな人。用心深いけど、あえて危険を犯すスリルを楽しむ人。
 それならこれは……あの人がワザと残したスリルになれるかも知れない事なのかも。そもそもただ言いなりになる様な人じゃないしね。でも私が裏切るってまではきっと思ってないんだと思う。あの人は、私がこの国を裏切れないって確信してる。
 その中で、自分でどれだけ動けるかやってみな? きっとそんな感じ。それなら、やってみましょう。ストック魔法は埋まってるのが八つ位。残りは空きで、今は補充する事も出来ない。勝負はこの八つでやるしかない。だけど私のストック魔法は基本は回復魔法。七割がそれで、残りの三割にあったら便利かなって魔法を万が一に備えて入れてる。詠唱が長い補助魔法も基本はその枠。
 でも私の身体能力を補助しても……耐性魔法は使えるかな?  いいえ、まずは戦力分析といきましょう。私はこの部屋を見回します。


 この部屋には兵が中に三人。そして扉の外に二人備えてる。入る時に確認しました。ようは五人です。でも、静かに出来れば、外の二人は無視しても大丈夫。三人を一斉にこのNO8の魔法で眠らせる事が出来れば簡単なんですけど……流石に色がある煙が発生したら警戒しますよね。
 窓だって全部解放されてるのが痛いです。折角魔法を発動させても、これじゃあ部屋に蔓延しない。


(あれ? でも一瞬でも彼らの視界を遮る事が出来れば、ピクは外に出せるかも)


 それならそれで、苦手な駆け引きとかしないで良いかも知れません。難しく考えてたけど、一瞬視界を奪うだけなら、十分これだけでも……そう思ってると、扉が開いて銀甲冑のかっこ良い人が登場。
 いいえ、そんな紹介しなくても私は彼を知ってます。代表の右腕、銀十字兵団団長『聖君王子 クロード・リード』です。聖君王子の肩書きに笑ってはいけません。あの人は人の国ではアイドル的な存在です。そしてその強さだって一級品。さらにはその人格まで非の打ち所がないからこそ、聖君王子なのです。
 あの戦いの時、結局何も出来なかったのは、この人が私を捕まえてたってのも大きいです。幾ら暴れたって、ビクともしなかったですもん。鎧が大きいだけで本人は爽やか細マッチョなんですけど……あの怪力はゴリラとかにも匹敵できそうでした。イメージで。
 そんなクロードさんはなんとお茶を入れて来てくれたみたいです。偉いのに。


「シルクさんはどういうお茶がお好みかわからなかったので、自分の好みになってしまったのですが、丁度良いお茶を仕入れていたのでそれを淹れてみたんです。これはなかなかに美味しいですよ。いや、ははっそれは自分の感性でですけど。
 よろしければ是非、貴女の意見を僕は聞いてみたい」


 まるでキラキラと空気が輝いてるみたい。爽やかすぎて風が一瞬吹き抜けたかと思いました。流石聖君王子、あの笑顔と口調で女性を虜にしてるんですね。だけど実に厄介な人が加わってしまいました。この人の隙をつくのは、正直かなり難しいです。
 あんな爽やかに笑っていても、本当はいつだって気を張ってる人です。それにあの鎧……噂ですけど、あれはただの防具じゃないって言われてます。


「どうしました? いえ、その質問は野暮でしたね。大切なお仲間が世界の敵になってしまったんです。お優しいシルクさんが心を傷めない訳はない。ですがいつまでも気に病んでると、貴女まで倒れてしまうかも知れません。
 少しだけ、気に病むのを休憩しませんか?」
「気に病む休憩……ですか? 」
「ええ、下手な事を言うと怒らせそうですし、実際自分も心が痛いです。彼……スオウ君でしたか。彼も自分達の同胞なんですから。死んでるか生きてるかすら分からないと言うのは……ですね」


 意外にも彼は本気でスオウ君を心配してる様子です。殆どの人達はスオウ君を裏切り者と呼んで蔑んでるのに……本当に優しい人なんですね。裏表がない人だから……あんなに人気なのでしょうか?
 実際始めた時期とかはそんなに変わらない筈なんですけど、私達はそれほど接点がなかったんですよね。重要な局面の時には見かけてましたけど、彼は前線で私は後衛です。指揮する場所だって違ってたし、彼の方が出世は早かったですからね。
 まあ私は自分が偉くなったなんて思ってないんですけど。私は座った彼が両手をあわせて額を小突いてる姿を見て、おもわずこう言っちゃいました。


「クロードさんもとってもお優しいですよ」
「っつ! そっ、そんな事はないです! 貴女の優しさに比べたら自分など……まだまだです」


 なんだかすっごく慌ててジタバタとした彼。するとその鎧がテーブルに当たってお茶を倒してしまいます。


「ああ!? すぐに替えをいれて来ます」
「いいえ、別に私は----」


 そう言いかけて私は口を閉じます。だってこれは千載一遇のチャンスです。彼がいなくなれば、残りは普通の……普通の兵じゃなかった。よくよく考えたら、ここにいるのは代表護衛のエリートです。
 でもなんだかエリートってよりも実はオカルトチック。黒いコートにフードを被って、顔を覆い隠す様な、布は魔法陣が描かれてる。あからさまに怪しいです。何かの特性があるとしたら不用意に動くのは危ないかも。
 だけどこのまま何もせずにいたら、自分を嫌いになりそうです。せめて無事かどうかだけども……それを知る事はちょっと怖い気もするけど、いつまでもこんな気持ちじゃ、クロードさんの言うとおり、体が持ちそうにありません。


(ピク……に賭けるしかないんだよね)


 私は視線をピクに向けます。この小さな竜はきっと行かせてって言ってる。私がここからは逃げ出すのはこの国にとっても非常に不味い。実際、それはできません。そしてそれは他のみんなだって、そうなんです。
 みんな自分達の国を思って大人しくしてる。でも本当は助けに行きたい筈です。だけどその行動が邪神にバレるとあのモンスターの大軍に国を攻め落とされる。従うしか私達には出来ない。だけどピクなら……見逃して貰えるかも知れません。
 それにピクの感知能力はとっても高い。もしかしたらスオウ君を見つけてくれるかも知れません。その為にも、この子だけでもここから解放させないと。


「それでは少々お待ちを」


 そう言ってカップをお盆に戻して立ち上がるクロードさん。実は私が思ってるよりもピクは警戒されてない……って事はないんですよね。チリンチリンと動く度に音がする鈴を足首につけられてますから。
 これは私を警戒しての事なのか? それともピク自信を警戒しての事なのかで、結構やりようが変わる様な気もします。だけど、色々と考えてもやってみるしかないですよね。もしもピクの鈴が鳴っても、音だけで正確な位置を把握出来たりきっとしない。
 眠りの煙の中で、どれだけ正確にクロードさん以外の兵体さんが出来るのかに寄りますけど、きっと彼以上と言う事はない筈です。だから取り敢えず……


(早く行ってください)


  私はそう一生懸命願います。扉に手を掛けるクロードさん。すると背中越しに彼はこう言います。


「シルクさん、どうかおかしな事は考えないでください。私達は、国の為ならこの剣を容赦なく貴女に向けます」


 それはまるで私の心を見透かしたかの様な言葉。今の状況を鑑みて、ただ言っただけかも知れないですけど、私の決意が彼の言葉で揺らいでしまいます。だってその時の彼は、さっきまでと同じ口調のはずなのに、感じるプレッシャーは桁違いでした。
 それはきっと戦士としての宣言。


「それでは直ぐに入れ直して来ます」


 そう言って彼は再び扉の向こうに消えて行きます。ピクが催促する様に私の頬をに自分の頭をスリスリとしてくる。でも……不確定な要素が多すぎる今の状況とあの言葉で、私は二の足を踏んでしまいます。


(やらないと……今しかないんだもん)


 それがわかってる筈なのに、扉の外に変なプレッシャーを感じる様な……そんな訳ない、あの人はきっと今頃お茶を入れ直してる筈なのに……大丈夫、一瞬……それだけでピクは外に出れる筈です。私はピクの羽を握りしめます。口にするだけで、ストック魔法は発動出来る。どんなスキルを彼等が持ってるかわからないけど、詠唱が必要ないストック魔法は必ず発動してくれます。


(だけど……私に……私だけで出来るかな?)


 そんな不安は拭えない。だって私はヒーラーなんです。普段はみんなの後ろ側にいる係り。みんなに守って貰いながら、みんなをサポートするそんな役割です。そんな私が、自分よりもきっと強いであろう人達に挑む。しかもたった一人で……こんなのいつ以来か。
 思い出そうとしても、ちょっと時間がかかりそうな位です。いいえ、挑むって考え方がダメなのかも。すこしだけお茶目をするだけ……イタズラ感覚でやればそんなに……そう考えようとしても頭に浮かぶはさっきのクロードさんの言葉です。
 

(もう、どうしてあのタイミングであんな事を! 色々と余計な事を考えちゃうよ!)


 あの言葉がなかったら、きっと私は出来てたと思います。もしかしてこれが目的だったのかな? それなら大成功ですよ。この室内の兵隊さんたちは見てない様で、きっと私を見てるんだよね。視線は感じるからきっと……その筈です。
 するとその時、頭に響く音が。私はウインドウをこっそりと開くと、メールを確認します。それはセラちゃんからでした。セラちゃんはアイリ様達と同じ場所にいる様なので、アイリ様情報はセラちゃん経由でみんなに伝えてるみたいです。


【続報です。どうやら捜索はあと一時間で打ち切りになるみたいです。どうやらもうこの周辺には居ない。それが結論の様です。でも聞いてくださいシルク様。きっとスオウはまだ無事です。だって考えてみればリアルでの知り合いのアギト様やアイリ様になんの連絡も無い。それはまだ生きてるという証拠の筈です】


 なるほど、それは朗報です。リアルでの知り合いだからこそ得れる情報ですね。でも後一時間で打ち切り……と言う事は、すべての兵士が帰ってくるって事ですね。そこには勿論代表も。それは困ります。更に警備が頑丈になると……やりにくくなる。いつまでも拘束はされてないと思うけど、解放されるのを待ってるのもどうかと思う。
 それがいつになるかなんて分からないし、本当に解放されるのか……それも怪しいです。生きてる事がわかっても、これからはわからない。一刻も早く見つけたい事に変わりはありません。


(セラちゃん……)


 私はポチポチとメールを作成。誰かに背中を押して欲しくて作ったメールを彼女に返します。結局私は弱いんですね。一人では何も出来ない。頬に擦り寄って来るピクを撫でながら、私は心で「意気地無し」--そう呟きます。






※※※※


 「アイリ様! どうか私にも捜索を!! お願いします! 連れ去ったのはシクラなんですよ。今頃どうされてるか!!」


 代表の為に用意された一室で、私はアイリ様に詰め寄ってる。声を大にして、既にもう何度言ったか分からない台詞を延々と繰り返してる。その時間は既に三時間。あれからもう三時間も経ってしまってるんだ。これで焦ら無い訳ない。


「セラ、何度も言わせないで。今貴女達を外に出す事は出来ません。アギトを信じてください。アルテミナスはただでさえ、立場が際どい部分にある。アギトを捜索隊に加えるのだって、大変だったんだからね」
「それは……わかってますけど、じっとしてると吐き出さずには居られなくなるんです!」
「だからって十分おきにいきなり叫ばないで。十分過ぎるのが怖くなるから! 」
「す……すみません」


 怒られた。今までは私がアイリ様を怒ったり励ましたりする事が圧倒的に多かったのに、最近は色々と逆転し始めてる。まあ実際、それが普通なんだけど。彼女は私の上司でこの国の代表。これが正常な状態なのよね。


「それに私だってスオウ君の事が心配じゃない訳ない。私はリアルの彼も知ってます。あんな状態でシクラ達に連れ去られるなんて……気が休まらないのは同じです。けどだからといって、あのままだと、邪神に殺されてたのは確実です。
 捜索に出れない私たちが考えないといけない事は、彼女達の目的……じゃないのかな」
「そうですね。あの場面での介入。それはやっぱりスオウの救出にあったと思います」
「そうですよね。それ意外に考えられない。だけどだからと言って今無事かと思えるかと考えると、あのシクラ達だからこそ不安が付き纏う」


 まさにアイリ様の言うとおり。救出に来たとしか思えない行動の果てに逃走した。普通ならそこで安心出来る筈だ。けど……それを行ったのが、敵である筈のシクラ達ってのが問題。大問題。その後の行動が全く予想出来ない。
 実際あいつらがスオウを助ける理由もよくわからないわよ。あいつらにとってはスオウは死んだ方が良い筈の存在じゃなかったの? だけどわざわざ神に挑んで、面倒にも五種族の兵隊を相手にしてまでスオウを助けた……その意図は一体なに?
 そんな思いを巡らせてると、後ろから不謹慎な事をいう目が点野郎が一人居た。


「もう、死んじゃったっすかねスオウ君」
「「ノウイ!!」」


 ダン! っとテーブルを激しく叩いて、私達は立ち上がって叫ぶ。厳しい視線をあのバカにアイリ様と共に向ける。私達とは離れた場所で椅子に腰掛けてたノウイはそんな私達の勢いにビビってか、椅子ごと引っくり返ってた。だけどそんないつもの情けない姿じゃ今の発言は許せないわね。


「聞かせなさいよ。その発言の根拠を」
「……え~とっすね。まず謝っていいっすか?」
「謝る必要なんてないから理由を言いなさい。その後に殺してあげるから」
「自分……納得の理由を言えてもどのみち殺されるんすね」


 そう紡ぐと、ノウイは椅子を元に戻して、だけどそれには座らず、床に正座をする。よくわかってる奴ね。椅子に座るものならその脚を払って再び転ばせてたわ。


「あのっすねセラ様……とアイリ様も。自分もシクラ達が助けに来たとは思うっす。だけどそれは獲物を他の奴に取られるのがイヤッて理由じゃないかと思うんすよ。あいつらならあり得るっしょ? だから助けて、逃げた先で、満身創痍のスオウ君に奴らはとどめをっすね----ってセラ様!?」
「なによ……」


 素っ頓狂な声出して、その豆粒みたいな目を精一杯見開いてなんだってのよ。全くもう、目の前がなんだか滲むわね。


「スオウ君の為に、泣いてるっすか?」
「セラ……」
「あんたが変な事を言うから……っつ!」


 私はアイリ様にあまつさえも縋る。だって私が甘えられるのは今はこの人位しかないんもん。私はアイリ様の胸に顔を埋めて、声を殺して泣きます。考えたくない事が、幾ら振り払っても消えないんだもん。それなのにノウイの奴が変な事を言うから……止まらない。我慢出来なくなっちゃった。


「セラ様……」
「いいよセラ。思いっきり泣いていい。今度は私が傍に居てあげるからね」


 そんなアイリ様の言葉に甘えて私はいつまでもその胸を独占します。落ち着いたのは、一体何分位たってからかな? よく覚えてない。てか途中から記憶が無いような。
 気付いたら元のソファで私は横に成ってた。


「アイリ……様?」
「おはようセラ。もうちょっと寝てても良かったけど、タイミング的には良かったかも」
「私は……」
「泣き疲れかな? それと気をずっと張ってたのが原因かな? ちょっとだけセラは寝てたのよ」


 視線の上に見えるアイリ様の顔。なんだかとっても気持ちいい枕だなって思ってた物は、よく考えると、これってアイリ様の太ももじゃ無い? なんて私は恐れ多い事を。恥ずかしくなりつつ、私は体を起こす。


「あの……済みません、お手数掛けて」
「良いですよ。私と貴女の仲ですからね。それと彼が言いたい事があるようですよ」


 そんな声にアイリ様の視線を追うとまだ正座してるノウイが居た。実際どの位たったのかわかんないけど、既に結構辛そうだ。ずっとあの態勢だったの? そう思ってると、ノウイは土下座する。


「アイリ様、本当に済みませんっす!! 自分の言葉のせいで……その……不安にさせちゃって」


 どうやらノウイはそれを言いたくてずっと正座してたみたい。全くもう、バカな奴ね。


「ホント全くその通り。恥ずかしい所をあんたのせいで見せる羽目に成っちゃったわ。だから良い?   この事は絶対に誰にも言っちゃダメだからね」
「了解っす!」
「じゃあ良いわよ。許してあげる」
「ええ? マジっすか?」


 何よその予想外みたいな反応。


「いや、実際どんな罰も覚悟してたっす」
「確かに八つ裂きにしたい所だけど……あんたの言った事を否定出来ないしね。だけどまだ決まったわけじゃ無い。私は信じてるわ。まだ生きてるって」
「セラ様……」


 まだ確証があるまでは……そう自分に言い聞かせる。するとアイリ様がこう言ってくれる。


「私も信じてます。それに彼が殺されたのなら、その影響はリアルにまである筈ですよね。でも私にもアギトにもその連絡はありません。これはまだ生きてるって事だと思います」
「そっ、そうですよね!」


 それは良い情報だ。確かにもしも本当に全部が終わってるのなら、リアルでの知り合いの二人に連絡がこないのはおかしい。それは確実な朗報と思って良い情報。


「だけど実際、いつ何が起きてもおかしくない状況には変わりない。一刻も早く見つけれればいいんですけど、それも望み薄です」
「どういう事ですか?」
「今アギトから連絡が入りました。どうやら後一時間で捜索を打ち切るようです。ここ周辺には居ないと判断されたんでしょう」
「そうですか……シクラ達の能力なら、確かにそれも出来ますよね。たった数時間でかなりの距離を移動する位、あいつらになら可能。取り敢えずこの情報はみんなに回します」
「ええ、そうしてください。皆さん気に病んでるでしょうから、きっと励みになります」


 その言葉通り、メールを送って帰ってくる返事はどれも安心の言葉ばかりだ。だけどそこで意外な内容の物が一つ。それを書いて送った人物も意外な人物。そのメール主はシルク様。一番大人しそうな彼女のメールが一番行動的だった。


【それはとっても嬉しい情報だね。ありがとうセラちゃん。だけど早く見つけたいよね……もしかしたらピクにならそれが出来るかもしれない。だからこの子をここから逃がしがたいんだけど、一人で出来るか不安なの……セラちゃん、私にも勇気を分けて】

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