命改変プログラム

ファーストなサイコロ

天上外の戦い

 聞きたくなかった声が、聞こえてた。いつもいつも胸糞悪い印象しか残さない声だ。そしてその髪を見る度に、きっと嫌な事が起こるんだろうなって思える存在。そんな奴が……僕を助けに。
 土の味を噛み締める程に情けないな。動かない身体で、全身がどれだけ痛もうとも、助けられたくないって奴は居る。それがいうなら、このシクラだ。こいつはヤバイ……とそう思うんだ。


「貴様は存在の外側の……俺の前に現れるとは大した度胸だな。折角捨て置いてやろうと思ってたのに、邪魔をするのなら容赦はしないぞ」
「ふふふ、捨て置く? それはこっちの台詞ね☆ ずっと大人しくしてれば良かったのに、変に出しゃばったりせずに、暗い森の中で設定のままにやってれば良かったのよ。
 神って存在が重いんでしょう? 大丈夫、この世界の神はもうすぐ置き換わるから」
「置き換わるか……それがお前達が担ぎ上げる存在にか?」
「担ぎ上げるなんて言葉が悪いわね。虚構の神なんて、そもそもどうでもいい存在なの☆ この世界はあの子の為の世界。それを確定させるだけよ☆」
「それはやはり、俺達が望んだ世界じゃないよな?」
「あんた達の望んだ世界なんて知らないわね。世界はあの子が望む形になるわ☆」


 そうシクラが紡いだ瞬間に、激しい風が吹いて来た。それと音もだ。きっとテトラが攻撃をしたんだろう。その黒い光の力が炸裂したはずだけど、僕が生きてるって事は、それをシクラが防いでる。ぼやけてる視界に、月光色の輝きが煌めいてるのが見えてた。
 桜が散る様を見てる様に、その輝きが舞ってるんだ。不覚にも綺麗だと思えるその光景。こいつにそんな感情抱きたくないけど、やっぱり今だけは感謝しとこうかな。このまま死ぬよりは……だろ。


「さっすが神。なかなかパワフルね☆」


 その声を聞く限り余裕シャクシャクっぽいな。そう思ってると、シクラはこちらに言葉を振るう。


「ねえスオウ、私とも契約しない? ここで助けてあげるから、来たるその時にはせっちゃんに殺されてよ☆」


 一体何の冗談−−じゃないか。冗談の様な事を笑ってやってのけるから、こいつは怖い。質が悪いんだ。だけど僕は何も返せない。もう声だって……僕は出せないんだからな。


「ほんとに死にそうね☆ 取り敢えず、足でまといを抱えてあの邪神の相手はまだきついかも。でもまっ、やる価値はあるわ☆」


 そう紡いだ瞬間に、吹いていた凶暴な風が消える。シクラが何かしたのか。そして地面を蹴る音と共に、空気に伝わる震動と周囲の感嘆の声を感じた。神と外側のチート野郎の戦闘開始か。
 一体どっちが勝つのか……僕だけじゃなく、誰にもわからない事だな。その場の誰もが神達の戦いに気を取られてるなか、こちらに近づく足音が一つ聞こえてた。カンカンと甲高い音を地面に伝えるその履物は、僕の視界に映る所で止まる。
 自分の身長を水増しする高さのある下駄……じゃなくもっとオシャレな履物が見える。すると足首を覗かせてその誰かが、僕の前にかがむ。和装の服っぽいから足首までも完全ガード状態だったわけだけど、屈むと流石にね……その幼く細い踝が丸見えになってる。
 てかこれってまさか……僕がそう思うと耳元で囁かれる。


「スオウ、良い事教えてあげよっか?」


 それはまたまた無性に腹立つ奴の声だ。幼さの中に、計算高さを感じさせるその声は聞き間違えるはずもない……ローレの声。今度は一体、何を企んでる?


「ふふ、キーワードは明後日・そして今のスオウの為にこの場所を教えてあげる」


 そう言ってローレは僕の後頭部に何かを押し付ける。すると突然情報が頭に流れ込んで来た。見えるのは行った事もない場所の風景。


(これは……一体?)


 そう思ってると、突然至近距離で地面が爆ぜる。いや、正確にはローレが居た場所の地面が何ものかの攻撃で爆ぜたんだ。何も土埃で見えなくなった。すると攻撃された筈のローレの落ち着き払った声がどこからか聞こえる。


「遅かったわねリルフィン。まさかあの女に鞍替えした?」
「ふざけないで貰おうか。これは貴方がよく言う利害関係の一致って奴だ。こいつはまだ、殺させない。だが、自分だけではどうにも出来なかった。今の俺には力が半分もないからな」
「そうね。でもそれもあんたの意思でしょ? 私がまだこの姿で居れるのも、バランス崩しのマスターであれてるのも、どこまでもリルフィンが優しいからよ」
「俺は……貴方の本当の意味での敵になる気はないですから」


 そう紡ぐリルフィンが、僕を担ぎ上げる。


「まだ死ぬなよスオウ。お前にもやるべき事が残ってるだろう」


 言われなくてもわかってる。てか、それなら回復薬とか容易してこいよ。こっちはウインドウも開けないんだ。土埃が晴れて行くと、周りのギラギラとした視線が突き刺さってくる。どうやら、今のリルフィンの行動で気付かれたみたいだ。


「貴様、なんの真似だ!」


 真っ先にそういうのは人の代表のおっさん。その周りの奴らも、僕達を逃がさない様に武器を構え直してる。これ……逃げれるのか? そう思ってると、空から元気な雄叫びが聞こえてきた。


「うおおおおおおおしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 流星の様な光が鋭く地面に突き刺さる。その衝撃で近くに居た兵士達が空を舞う羽目に。悲鳴と叫び、それが大量に聞こえる中で、中心からは、そんな光景に満足するような、もっともっと暴れたいというような声が聞こえる。


「うにゃっはああ! さあ、思いっきり行くぞおおおおおおお!!」


 次々と飛ぶ兵士の面々。なんだあれ? 助っ人か? 


「くっ、どけ星の巫女! そいつだけはここで殺す!!」
「別に止めはしないけど、どうやらまだ新手が居るみたいよ」


 そんなローレの言葉通りに、その時身体を震わせる様な白い冷気がこの場に漂う。そして次の瞬間、足元から氷の棘が大量に発生する。これは……まさか


「コラー! ヒイヒイ、お姉ちゃんに譲れ! 僕はお姉ちゃんだぞ、お姉ちゃん!!」


 先に暴れてた奴がそんな文句を言ってる。ヒイヒイって誰だ? っておもったけど、なんとなく察しは付く。でもヒイヒイ? 確信が持てないな。


「大多数には私の力の方があってるのよお姉様。無骨で無作法な貴女の力と違ってね」
「なんだとーー!!」


 ヒイヒイの言葉に憤慨してる先に降りてきた奴。でも今ので確信出来た。あの声は覚えてる。てか、一度戦いあったんだ、そうそう忘れない。やっぱりこの氷の力は柊だ。なんだか柊はお姉様言ってるけど、そこまで様付けの効果ないっぽいな。寧ろあえてそう言ってバカにしてるような感じ?


「僕だって僕だって見てろよヒイヒイ!」


 そういったそいつは、軽い身のこなしと、その見た目からは感じられないパワフルさで次々と兵士を倒してく。でも白兵戦がメインっぽい彼女はやっぱり大多数向きとは言えないかも。
 そう思ってたけど、彼女は攻撃しながら派手に周りの建物をぶっ壊してる。するとそんな破片が彼女に集まって行ってるような……


「うおおおおおおおお! みなぎって来たあああああああああ!!」


 そう叫ぶと瓦礫が集まってごつくなった腕を振るう。すると更にパワフルさが増したのか、五種族の人垣が一気に吹き飛んだ。あいつもシクラ達と同様の存在……流石にチートな能力を持ってる。


「どうだヒイヒイ! 僕だってこの通りだもんね!」
「はいはい、せいぜい汗臭くやっててよ」
「もっと褒めてよヒイヒイ! だけどそんな素っ気ない態度が可愛いなぁもう!」


 どっちだよ。どうやらあのヒマって奴は頭が弱そうだ。その発言とかでもうバカっぽさが隠し来れてないもん。でもやっぱり……


「これ以上好き勝手にはさせん!!」


 人の代表のおっさんがヒマに向かってその馬鹿でかい剣を振り下ろす。その衝撃はそれだけで周りの味方が仰け反る位には強力だ。


「代表! ここは我等に任せてお下がりを!」
「うるさい、これ以上、被害を大きくしてどうするよ! 取り敢えず、俺たちで抑えてやるから、お前は態勢を整えさせろ! 混乱が大きいぞ」
「俺達……ですか?」


 立派な鎧に身を包んだそのお兄さんはおっさんの言葉に戸惑ってる。どうやら俺達って所がよくわかってないみたいだ。僕も良くわかんないけど、考える事も今の僕には出来ないよ。


「ああ、俺達代表だって飾りじゃないだろ」


 そう言って笑ったおっさん。その瞬間、大きな水がドバッシャアアアアアアン! と弾けたと思ったら、そこからウンディーネの代表が空へと飛び出してる。そして腕を二度程柊に向かって振るうと、一気に広範囲が爆発する。


「これで殺れるとは思いませんが、数秒程度なら稼げるでしょう。皆さん、怯まないでください。相手はたかが二人落ち着いて対処すればいいだけです」
「ふむ、まあご尤もじゃ!! 逃がしはせんぞ、世界の敵よ!!」


  スレイプルのジジイがそう言ってこちらに生成した斧を回転させながら飛ばしてくる。どうやら僕を逃がしてくれる気はないみたいだな。リルフィンは僕を担いだままなんとかそれをかわしてくれるけど、その後にはウンディーネの姫様が何時の間にか僕達の後ろに。その腕が僕の背中に添えられてるのが分かる。


「大人しくしてもらいましょうか。貴女をここで逃がす訳には行きません。少しは同情もしますけど、世界にとって貴女はここで死するべきなのです」


 綺麗な顔しておっかない事を……まあそれが代表の総意の考えだ。今更過ぎて反論する気にもなれないな。


「くっ……」


 リルフィンが悔しそうにそう呟く。一人なら今のリルフィンでも十分に逃げれそうだけど、僕って足でまといがいるからな……下手に動けなくなってしまった。するとその時、おっさんの馬鹿でかい剣が押し返される。


「ぬうじょおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「んなっ!? やっぱそう簡単じゃねーな」


 そしてそんなアホみたいな雄叫びに気を取られてた時にこちらには底冷えする様な冷気が漂う。これは……


「水と氷、どっちが優れてるか教えてあげる」


 そんな言葉が聞こえた瞬間、何かを感じたのか背中の感触が遠ざかる。そして次の瞬間、氷の結晶の塊が僕とリルフィンの周りには出来てた。


「まさか、傷一つないですか。水と氷、それは親和性のある関係とおもってますけど」
「ふふ、水がないと何も出来ない種族が必死になって吠えてるわね」


 そんな声の後にはパチンと何かを綴じる音が聞こえた。いや、何かなんて言わなくてもわかってる。それはきっと扇子だろう。柊は扇子を使って攻撃してたからな。戦闘は激化して行ってる。テトラとシクラ、そして柊とヒマに残りの五種族の代表とその兵士達。このままじゃノンセルス1がぶっ壊れそうな雰囲気だ。
 そう思ってると、柊の声が僕達に向けられる。


「なにやってるのよ。さっさと離脱しなさい。こんな所でいつまでもドンパチやる気ないんだから。ヒマ!」
「だからお姉ちゃんって呼べえええええ!」


 その瞬間、ヒマは柊が作った氷塊を叩き壊す。するとその氷塊も砕けた傍からヒマにくっついて行く。そしてそれは軽装だったヒマの防具となり武器と化す。
 そしてその勢いのままにウンディーネの代表を蹴り飛ばす。


「うう〜やっぱりヒイヒイの力はちょっと寒いね」
「やっぱりヒマに私の氷は似合わないわね。いつも思ってたけど」
「どういう意味だそれ!」


 なんだか緊張感って物がこの二人にはないな。いや、それだけ余裕をかませるって事なのかもしれないけどね。実際、まだまともに攻撃を食らってなんかないんだよな。だからこそ、HPは全快。これだけの人数と国を束ねる代表がいてこれって……やっぱりもの凄いチートだな。わかってたけど。
 でもそう言えばバランス崩しを使ってるわけじゃないんだっけ? それなら仕方ない……と言えなくもないかも。


「逃がさねえぞ、オラアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 代表の癖にそんな乱暴に言葉を吐き捨てながらおっさんが僕とリルフィンに狙いを定めてそのドデカイ剣を振り下ろす。だけどそれをヒマの奴が「あちょおおおおおおおおお」と言いながら蹴り返しやがった。
 なんかめちゃくちゃ簡単そうにやってのけたけど、とんでもない事だよ。するとヒマの奴はおっさんに向かってバカにする様に笑いながらこう言うよ。


「あっぷっぷ〜、もっと遊んであげたいけど、全力出してくんなきゃ張り合いないね〜」
「貴様っ!」


 ヒマの言葉に憤慨するおっさん。そして更にヒマが詰め寄って攻撃を加えようとする。けどその時に横から盾ごとぶつかって来た誰か。


「代表! ですから下がってくださいと……」
「はは、流石に自国じゃないときっつな。言い訳にもならんが……助かった」


 それはかっこ良いお兄さんだった。流石イケメンはやる時にやる。だけどヒマの動きは止まってるけど、別に押してるわけでもないんだ。ヒマの奴はその場に止まってるだけ……どうやらその突進をなんの事はなく止めてるみたい


「助かった? まだ何も助かってなんかないよぉ!」


 その瞬間、イケメンお兄さんが一気に押し返された。そしてその拳がおっさんに向かう。だけどその拳を間一髪、そのドデカイ剣で受け止める。だけど次の瞬間、剣が甲高い音を立てて砕け散った。


「ぬおおおおおおおおおおおお!?」


 そんな叫びと共におっさんは人の兵士の中に突っ込む。代表であるおっさんを受け止めようと兵士達は必死だ。


「全く、これだから若い奴らはダメなんじゃ!!」


 そう言ってスレイプルのジジイが一気にその土から大量の武器を作り出して行く。そしてその武器は僕達と柊、それからヒマに向けられてる。


「いねええええええええええ!!」


 放たれる武器の山。ドヤ顔したジジイの絶対的な自信がそこから垣間見得る様だった。だけど次の瞬間、その自信は一瞬で消え去る。なぜなら空から更に強大な二つの力が降り注いだからだ。
 テトラの黒い光と、シクラの月光色の輝き。それが向かってきてた大量の武器を地面に叩き落としてく。そしてその力の主達が神々しい力の輝きと共に姿を見せる。テトラは言わずもがな、普通に浮いてる。そしてシクラは空間に描かれた様な模様の翼を開いてた。


「あんた達、いつまで遊んでるのよ。さっさと離脱しなさい」
「珍しい。シクラにしては苦戦してるじゃない」


 確かに、耳に届く声は結構息が上がってる。柊がいう様にシクラでも流石に神を相手にするのはきついって事か。


「貴様ら一人でも逃げられると……思うなよ」


 テトラの奴もシクラ相手には余裕がないのか、その息は僕とやった時とは全然違ってる。


「ごめんだけど今は引かせて貰うわ☆ あんたのコードを食うのは今じゃないの」
「だから……逃がさんと言ってる!!」


 二つの力が再びぶつかる。広がる余波がこの街全体を揺らす様だった。


「さて、いつまでも遊んでたら後でシクラに怒られそうね。いくわよ、そこの獣にヒマワリ」


 獣って……確かにリルフィンは獣だけど、それじゃあ威厳って奴がないな。そしてヒマワリは柊の言葉に戦々恐々としてる。


「おこっ……おこっ……怒られるのはやぁ~だぁ〜!!」


 ブルブル震えながらヒマワリと呼ばれたそいつは周りの兵士を吹き飛ばしまくってる。なんてはた迷惑なやつだ。


「ねえ、ヒイヒイのせいにしてもいい? いいよね?」
「なんでよ。ノリノリで楽しんでたのはあんたでしょ?」
「だってだって、シクラはヒイヒイには甘くて僕には厳しんだもん! 不公平だよ!!」
「じゃあ、もっと優しくしてって言えば?」
「言ったよ! そしたらもっと賢くなったら考えてあげるって言われた! そんなの無理無理だよ!」


 どうやら自分の頭の弱さは理解してる様だな。発言からしてバカが滲み出てるもんな。きっと設定からバカって加えられてたんだろう。可哀想に。見てて楽しい奴ではあるけどね。
 こんな状態の僕だけど、なぜかヒマワリを見るとホッと出来る不思議。


「逃がしてなるものかあああああ!! おい、エルフもモブリも何をやっとるんじゃ! あいつは世界の敵になる奴じゃぞ!! ここで逃がしていいはずがなかろう!! それとも奴らに加担しとるのか!?」


 スレイプルのジジイがそう言ってモブリやエルフも煽る。折角静観してくれてたのに、余計な事をいうジジイだ。それを言われちゃ、彼等も動かない訳にはいかなくなる。
 ボヤける視界の向こうで、紅い髪が揺れてるのが見える。どうするんだアギト? 


「おい、どうやって脱出するんだ?」
「道が開いてるじゃない。あそこまで行けばいいわ」
「道?」
「あれだよ。みえるっしょ?」


 ヒマワリの声にリルフィンは指さされた方を見る。すると空に輝く魔方陣が見えた。まあ僕には魔法陣らしきものがみえてるって言った方が正しいけどね。ハッキリは見えない。だけど、きっとそうなんだろうと思う。
 てか既に用意されてるじゃねーか−−と言いたい。マジで遊んでただけかよ。


「じゃあ取り敢えずさっさとその死に損ないを連れて行きなさい。不本意だけど、一応私達が食い止めてあげる」
「よお〜し! じゃあこいつらが逃げるまでは思いっきり暴れても良いって事だよね?」
「まあそうね。後ろに敵をやらない為にも遠慮なんて必要ないわ」
「んじゃ一発、ヒマちゃんの輝いてるところ見せちゃうぞ!!」


 やる気満々なヒマは両拳をドン!! っと合わせる。すると再びその拳の構造が変わって行く。どうやらあいつの意思に合わせてその形状をいくらでも変えられる様だな。しかも砕いた分だけ力を増すみたいだし、今はいいけど敵に回すとヒマワリもかなり厄介な能力の持ち主だ。
 派手に暴れられると、一番手に負えなくなるタイプ。バカなのを利用して、真っ先にぶっ倒すのが最善だろう。
 ヒマワリの拳には氷のガントレットみたいなのが形成されて、更にその内部から、後方に棒状の物が伸びる。一体なんなんだ? って思ってたら、ヒマワリはその拳を握り、片足を後ろに、腰をかがめて両拳も体の後ろ側に持って行って溜めを作る。


「んぎぎぎいぎぎぎぎぎぎぎ!! いっくぞおおおおおおおおおおおおおお!」


 そんな叫びと共に、伸びてた棒が一気にガントレットに戻ってくる。そしてそれが完全に収まった瞬間に、両拳を伸ばしたヒマワリの腕が爆発した。正確にはそれだけの衝撃と勢いが爆発した? って感じかも。
 吹っ飛んだヒマワリはその勢いを拳に溜めて振りかぶる。すると明らかにあいつの拳が伸びた以上の場所が派手に吹き飛んでる。まるで衝撃波でもその拳から放ってるみたいだ。地面が抉れ、一振りでノンセルスの建物が少なくとも二・三棟木っ端微塵にかわる。
 あまりの凄さについつい呆然としてしまってたけど、我に返ったリルフィンは「行くぞ」と言って僕を抱えて、建物の屋根へ。そして屋根を伝って魔方陣を目指す。後方から僕達を狙って放たれる魔法は柊の奴が食い止めてくれる。
 

 結局僕は、助けてあげられなかった。逃げる事さえ自分では出来なくて、僕は更に自分の弱さを痛感した。敵であるはずの奴らにさえ助けられるし……本当に僕は口だけの奴だなって、軽く自分を軽蔑したい気分。
 大層な事は誰だって言える。それを実現出来ないと結局はホラ吹きだろ。僕は自分の理想を掲げて周りを振り回してる……もしかしたらそんなダメな奴なのかも。そう思うと、軽く泣きたくなる。
 戦闘の音が次第に遠くに感じてく。でもそれは戦闘から離れた事が原因なのか、自分の意識が限界に来たのかどっちかわかんない。けどただ言えるのは……僕は魔方陣をくぐった所とかはもう覚えてないってことだ。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品