命改変プログラム

ファーストなサイコロ

もう一度向かう

  真っ黒に包まれる視界。迫る力の本流。僕の僅かなHPはそれに耐えられる訳もない。けど僕はまだ生きてる。僕を守る様にきらめいてるのは後ろから流れくる風だ。激しい力をただ防ぐだけじゃなく、滑り込む様に流れ入って僅かにその力の流れを変えてる……様に思える。


(これは、クリエがやってるのか?)
【わかんない……スオウじゃないの?】


 確かに僕はある程度クリエの力の風と繋がれてる。同じ方向を向いた意識は、うまい事合わせられてる。今までで最高のシンクロ率。でも、それでも完璧じゃない。そもそもギリギリの体力。上手く操れてるかすらわかんないんだ。
 それにクリエが生み出してくれてるこの風は未知の風。あいつもどうしてこんな事が起きてるのかわかってなんか無いだろう。そもそもシルクちゃんに抱えられてるクリエは気絶してるんだしな。今、僕が喋ってるクリエは意識だけの何か……みたいな物なのかな?
 そして今、僕を守ってくれてる風は、僕の操作でも、クリエの意識でもないらしい。じゃあ一体……どんな意思が働いているんだ? いや、細かい事はこの際いいか。少し考えれば、可能性は絞れる。でもそれを議論してる暇はないんだ。
 集中を続けて、僕は更にその風を掴む。引き寄せる先は、セラ・シルフィングや一部のウネリ部分だけじゃない。僕は全身に余す事なくその風を纏うんだ。だってこの風に回復効果とかがあるわけじゃない。僕の身体はもう限界が来てるのはわかってる。
 どんな力も動けないと使えない。それなら、無理矢理にでも身体を動かす術が必要だ。それを僕は、この風を使ってやる気なんだ。だからこそ、纏うのは全身。
 

 落ちていたセラ・シルフィングの一つを風の力で浮かして手の近くに持ってくる。行ける……僕の風が絡まったクリエの風は、僕の思いを汲んでくれてる。僕がその柄を握ると、セラ・シルフィングは脈打つ様に、その輝きを見せてくれる。


「もう一度、頼むぜ相棒!」
(それと、行くぞクリエ!)
【うん!!】


 僕は周りの黒い力を断ち切る為に、両方のセラ・シルフィングを振りかぶる。いや、体全体で回転して、この風の感触を確かめる様に思いっきり動かした。刀身から放たれた風の刃がその力に風穴を開け、全身に纏う風がその風を大きく広げて黒い光を弾き飛ばす。


「なに?」
(いけ−−−−っつ!?)


 身体に走る激痛。思わず伸ばし切ってた腕が微妙な位置まで戻る羽目に。これじゃあカッコつかないな。でも……行ける。身体が痛いのは仕方ないんだ。無理矢理動かしてるんだからな。僕はそれでも、もう一度こいつの前に立てる。それが嬉しい。
 立ってるって言うか、風に立たせてもらってるんだけど、そんなのは傍目からはわかんないさ。せいぜい頑張って、僕はもう一度張り合う。


「よう、テトラ。まだ僕は終わらない」
「お前……どうやって。お前がつかめる風なんて何処にも無いはずだっただろ」


 テトラは僕が今一度目の前に立ってるのが信じられない様子。いや、テトラだけじゃ無い。それは周りの反応もそうだ。誰もが終わったと思っただろう。テトラの勝利が今にも宣言されておかしくなかった。
 だけど僕は、もう一度立ち上がったんだ。これはハッタリなんかじゃ無い。


「ああ、確かにこの場を支配してたお前の生み出す風は僕にはつかめなかった。だけど……僕達は同じ方向を向いた。そしてそれはお前と同じ力を持つ存在の風をくれた。そしてそれは掴めたんだ。だから僕は、もう一度立てた」
「あの子供がお前に力を貸してると?」
「ああ。どこまでクリエがわかってるかわかんないけど、これは間違いなく、あいつの力だ」
「面白い!」


 その瞬間、テトラは動く。黒い影が湧いて奴の姿が消える。そして次の瞬間、真下からテトラの奴が湧いてでやがった。


「っつ!」


 僕はそれをギリギリでかわす。だけどまだ加減が完璧じゃないからか、後ろにちょっと跳んだだけのはずなのに、何故か自分も上へ上がる。


「うおっ! っち、ならくそおおおおお!!」


 上へ跳んだのは予想外だけど、出きったテトラが真下に。これを狙わない手は無い! 僕はガムシャラにセラ・シルフィングを真下のテトラに振りかぶる。それを腕でガードするテトラ。イクシード3でも通らなかった攻撃。
 だけどそれは、今のは状態でも同じだった。弾かれたのはセラ・シルフィングだ。


「同じだな。何が変わろうと、僅かにその命を繋げようと、お前は俺には勝てない。良い加減諦めろよスオウ!」


 そう言ってテトラの奴が僕に向かってジャンプして蹴りを叩き込んでくる。セラ・シルフィングの刀身でなんとかガードしたけど、その勢いまでは止められない。僕は派手に飛ばされる。このままじゃどっかの建物にぶつかる。
 実際それだけで僕のHPはやばい所まで来てる。意識を集中して今までの経験を思い出す。アウラでは出来た事−−それをこの状態でも試すんだ。身体の痛みを頭から追い出して、風を操る事に集中する。身体中に纏ってる風、その足部分の風を集めて小さなウネリを作る。
 それを足で踏みつけて弾けさせれば、きっと任意の方向へ−−


「ぐぎゃ!?」


 −−ベチャッと地面に顔面を突っ伏す僕。どうやらそう上手くは行かない様だな。身体を自分の意思で直接じゃなく、関節的に風で操ってるせいで反射な対処が出来ない。そのせいで顔面をブロックする事も出来なかった。
 情けない。けどそう言ってる暇も無いな。聞こえる激しく地面を蹴る音。そして落ちる影がその存在を教えてくれる。


「それで俺に勝つ気か? 笑わせるな!!」


 拳に収束した黒い光をテトラは上方から放つ。僕は片側のセラ・シルフィングに集中して力を送る。そして黒い光に向かってその片側のセラ・シルフィングを振りかぶると、刀身から刃の形をした風が放たれる。
 そしてそれは予想外に黒い光を正面からぶった切って行く。そしてそのまま攻撃を抜けてテトラにまで迫るじゃ無いか。


(なっ……)
「なんだと!?」


 テトラは声に出して驚いてたけど、実際僕も心の中で結構驚いてる。そしてそのままテトラまで届く! −−−−と思ってた風の刃は、その直前で形を保てなく成った様に強風となって消える。


(マジか……あと少しだったのに)


 テトラも油断してたから、今のは残念でならないな。でも予想外の威力……今のならもしかしてテトラの障壁を抜けてHPを削れたかも知れない。僕は取り敢えず立ち上がる為に纏ってる風に補助をお願いするよ。
 動かない身体を引っ張ってもらって、まるで操り人形の様に身体を起こす。不格好なのはわかってる。でもこうでもしないと、僕は戦えないんだ。だけど今ので、もう一度戦う……その先に少しだけ光が見えたかも知れない。


 結局テトラに傷一つ付けれないと思ったけど……様はやり方なのかも。僕はまだ完全にこの風を操れてない。もっと上手く扱えれば、この身体だってもっと自然に操れるだろうし、力を効率良く使えるはずだ。
 今まで思い一つでやれた事を全て頭で判断して行うのは実際、かなりきつい。これが並列処理とかマルチタスクとかいう物なら……色んな処理を実行して動きが鈍くなったパソコンとかスマホに文句言えないな。
 キツ過ぎるだろこれ。頭の中がグチャグチャになるっての。そういえばセラの聖典がマルチタスクを前提とした操作を必要とするんだっけ? これで二十の聖典全てを自由に操るとか、化物だなあいつ。
 慣れてる筈の自分の身体でこれだぞ? 空中を自由に飛べる聖典を操るのがどれだけ難しいか、僕にはもう想像出来ない。セラの奴しか使いこなせる奴がいないとか言ってたけど、納得だな。もっと素早く思いを送れれば良いんだけど、絡めて掴み取って操ってる以上、自由自在にはどうしても行かない。
 

 だけどここまでやれてる。それだけで奇跡みたいな物なんだ。これ以上を望むなんて贅沢だよな。あとは自分の力で切り開く。そんな姿をクリエには見せたい。攻撃が不発に終わったテトラは、ゆっくりと地面に降りてくる。そして僕を見つめてこう言ったよ。


「お前……虫の息なのは変わってないんだな。立ち上がれる訳が無いと思ってたが、その纏う風で無理矢理に身体を操ってるのか。いや、一極化しなかったのは、そうするしか無かったからだな」


 はは、本当に良く見てる奴だな。もうバレたか。確かにこの風を一転集中にすれば、別に色々と考えなくてもテトラの障壁は破れたのかも知れない。それはある。だけど立ち向かう為には、立ち上がらないと行けない。
 戦う意思を示すには、戦えると伝えるには立ちはだからないと行けないだろ。それにガムシャラに力で戦うって事をしたく無かったってのはある。僕は今までガムシャラ過ぎた。ガムシャラに力に頼って、ガムシャラに力を操って来た。
 それに必死にセラ・シルフィングは答えてくれてたんだ。だから何時の間にかそれに甘えてたのかも。イクシード3という強大な力を切り札に、それでもダメな時はもっと他の何かに頼ろうと……その結果がイクシード・アウラ。
 力を水増しして行く事が悪い事だなんて思わないし、それも一つの手段で、僕には一つの力をじっくりと修練する時が無かったって言い訳も出来る。でも気づいたんだ。僕はやっぱりまだまだ弱い。それが事実なんだよ。
 イクシード3はきっと十分過ぎる程の力を与えてたと思う。僕にそれが操れてなかった。これじゃあもうダメだと決めつけて、もっと強大な力なら……って、結局そんな考えじゃ同じなんだ。イクシード3よりもアウラは色々と優ってた筈なのに、結局テトラにやられたのは、扱え来れてなかった事に他ならない。
 アウラも3も僕にはきっと過ぎた力で、それはきっと今纏ってるこれも……でもだからこそしっかり、丁寧に付き合おうと思った。クリエが分けてくれてる力だ。無下になんか出来る訳が無い。使い過ぎると、クリエがどうなるかもわかんないんだからな。
 だからこそ丁寧に、繊細に付き合う必要がある。僕の方から、この力を風を知って行かないと行けないんだ。


「そんな状態で、たとえ戦えたとしても、勝利をもぎとれると思ってるのか?」
「勝利……か、はは」


 僕のそんな笑いにテトラは眉根を不愉快に動かす。まあ確かに笑い飛ばす事じゃないよな。死活問題だ。勝てないと、結局何も変わらないんだから。少し前までは自分達にとっての勝利を目指してた筈だけど、それをいう事は出来なくなった。
 世界は思ったよりも早く進んでて、そしてローレの奴は全てを見透かした様に準備してたから。僕はもう色々と言えないよな。この決闘から生き残る術はただ一つなんだ。僕は静かにこう言うよ。


「それを目指すから立ち上がったんだ。その可能性はほんの少しだけど、まだあるさ」
「ここからの逆転などできれば、それはもう奇跡だな。それこそ神相手に」


 確かに神相手にそんな事が起これば奇跡以外の何ものでもないかも知れない。でも、その奇跡の要素は十分に引き寄せてる。だからこそ、ここからは僕自身の実力だ! 再び足に集めた風で地面を蹴って僕は進む。
 最初の反省を元に、微調整をしたけど、何故か真っすぐ行けないな。でも! 僕はあらぬ方向に飛びながらも連続で高速移動をする。そしてそこから、狙いを定めれば風の刃は放てる! 縦横、斜め、そして後方からいくつもその風の刃をテトラへと向ける。
 一つ放つ度に、勢いを止められなくて、紐で引っ張られるみたいに身体全体がセラ・シルフィングに引っ張られるけど、そんな時は抵抗せずに、他の部分の風を上手く調整する方向にすると、転ばなくてすむみたいだ。
 引っ張られる身体の部分を意識して、それに追いつく様に下半身部分を持ってくれば、着地の瞬間には足が間に合う。そして地面に着く足の反対側ではその時既に、風を収束。それで止まる事なく高速移動が続けられる。
 まあ、片足で移動する分は両足で調整するよりも不安てなんだけど、仕方ない。今僕が一番警戒する事は、テトラに捉えられる事だ。止まるって事はそのリスクを高める行為。常に動いてれば、そのリスクは軽減される。
 それに今の僕の動きは自分でも意図しない所に行く事が多いからな。まだまだ操れてない分、先回りとか予想とかされにくいだろう。しかもこの速さはやっぱり外せない武器。それを最大限に生かす為には、動く事は大切だ。
 どうなるかわからないから、怯えて何もしない……そんな甘えは今の僕には許されない。どうなるかわからなくても、恐れずに使ってけばそれは経験になる。今はそれを少しでも多く積み重ねないといけないんだ!


 風の刃は突っ立ってた筈のテトラにいくつも直撃した様に見える。でもその中にも直前でただの風に変わる奴とかがあったから、全てが当たったわけじゃない。でも、いくつかはテトラに確実に当たった筈だ。
 そう思ってると、土埃の中から、黒い光がいくつかこちらに向かって放たれる。だけど焦る程の攻撃じゃない。これは防げる事は実証済みだし、動く事でちゃんと避けれる。そう思って動きまくるわけだけど、こんな時に限って、急にテトラの方向へ進み出したりしやがる。
 そしてそこにはちょうど黒い光の玉の攻撃が来てた。ここからは逃げるのは無理だ。それに折角向かってるんなら、これもまた経験。僕は一刻も早く、今のが効いてるのか知りたい。


「うらああああああ!!」


 そんな叫びと共に、真っ二つに黒い球を切り裂く。そしてそのまま反動を利用して反対側の剣を横にふるってその風で土埃を追い払う。するとそこには腰を落として両手を合わせ、その腕の中で力を収束してたテトラの姿が! おとなしく見えたのは、力を両手で抑えて隠してたからか。
 こいつ、僕が突っ込んでくる瞬間を待ってたな。


「これならどうだ? 今までよりも重いぞ!!」


 両手を合わせた腕を突き出してくるテトラ。その瞬間、押さえつけられた力が一斉に開放される。目の前に迫るその力を避ける暇はない。まともに受けたらきっと僕の身体が持たない。その時イクシード3の名残の刀身を回る流星が輝きを放つ。


(なんだ?)
【使って欲しいんだよスオウ】


 クリエの声がそういうけど、実際この光ってなんの為に存在してるのか、イマイチわかんないんだよな。でもアウラの時はこれから直接風のウネリを出せたっけ? でもあれは体の周りを大きく回ってたから出来た事で、刀身を回ってる今の状態で出来る事ってなんだ? 


「わかんないけど、とにかく−−回れええええええええええ!!」


 僕のそんな叫びに呼応して流星は加速度的にそのスピードを上げる。そして僕はそんな回転が上がった刀身で取り敢えずテトラの力を受け止める。力の勢いに後方に押される。


(なんとか耐えてるけど……このままじゃヤバイ)


 今は後ろに飛ばされる事で受け流してる部分があるけど、決闘の範囲ギリギリに追い詰められると、この力をモロに受ける事になる。そうなると押しつぶされる。するとその時に気付いた。僅かだけど、テトラの力の向きが上向きに成ってないか? 真っ直ぐにぶつかって来た筈のその力が僅かだけど上へ流れてるような……風を敏感に感じてる今の僕にはわかる。


(まさか……)


 この刀身を回る流星の回転のせい? 受け止めてるのは主にここで、その回転が力の方向を強引に変えてる? わかんないけど、それなら!
 僕はあまり抵抗してなかったけど、風を集めてこの力に真っ正面から抵抗し出す。地面に足を付き、風の力で強引に力を込める。ただの棒の様な足も、受け止める腕も、悲鳴を上げてる。だけど、どのみちこのままじゃやられるんだ。
 だったら抵抗出来るうちにやる方が良いに決まってる。僅かに上方に持ち上がった力を更に押し上げる事ができれば、この力をやり過ごせる。


「うっぬあああああああああああああああ!!」


 叫んで全身に力を込める。地面に出来る僕の足のあとが一本の線の様に成ってる。確かに重い。今までは受け止めても振りかぶれた腕が動かない。でもだからこそ意思で動いてくれるこの流星の出番だ! 元の位置よりも僅かに下の方に身体を移動して、回転を更に強く。
 そうする事で上方に向き易くする。そしてある程度力が上へ流れ始めたら、片側で受け止めて、もう一方を自由にする。


「はぁぁぁ−−ふう!」


 大きく息を吐いて吸って、タイミングを測ってもう片側も離し、僕は動き出す。身体を前方に傾けて、地面と足の間に風のウネリを収束した球体を作り、それを弾けさせて、爆発的な推進力を得る。
 後ろで暴風がウネリ、僕の身体は真っ直ぐに直進する。


(よし!)


 今までで最高の出だしだ。スピードも方向も意図した通り! さっきの流星の回転で気づいたんだ。今までで僕は風を収束させる事にだけ意識を集中してた。回転方向まではそこまで気にしてなかったんだ。だけどそれじゃダメだった。
 自分の意図した方向にいけなかったのは、僕の集めた風が、僕の行きたい方向に回転してなかったからだ。だから今回はもっと精密に、風の回転方向にまで気を配って操った。その結果がこれ。大正解って訳だ!!


 更にもう一度風を集めてそれを弾けさせて更に加速。テトラに反応される前に、僕は奴を切り裂く! 交差樣に二度の剣尖を刻む。だけどその感触は明らかにおかしかった。そこにテトラの姿は見えてたのに、まるで切った感触がない。
 後ろをみると、切った筈の奴の身体から黒い影が出てた。この場合は今までのパターンから考えるに、あれは分身みたいな物。本体がきっと近くに現れる。


「流石に学習してる様だな」


 そんな声に反応して僕はとっさに剣を向ける。すると今度は確かな感触が伝わる。でも硬い感触だ。振り抜けてない。


「効かないとわかってるだろ?」
「違う! これはまだ僕が操れてないだけだ!」


 もっとセラ・シルフィングに風を! もう片方の剣に集中して、僕は音も無くその剣を振った。目の前を横切ったのは流星の光。その後に、テトラの身体に始めて届く傷が出来る。


(イケる!)


 僕はそれを確信して、更に身体を回転させて反動をつけて、また剣を振りかぶる。すると伸ばしてた来てたテトラの手のひらに傷が入る。これで認めろ。まぐれや偶然じゃないってな! 


「随分と嬉しそうだな。だが、これで並べられたと思ったら困るなスオウ」


 その言葉の瞬間、テトラの周りの地面から黒い影が染み出す様に湧いた。そしてそれがテトラの傷や服を戻して行く。おいおい、あんなのってありかよ!  そう思ってると、ガクンと僕の勢いが止められる。


「なんだ?」


 そう思って下を見ると、足に絡みついてるのは黒い影の様な煙の様な物。それが手の形をして僕を捕まえてる。


「お前の動きを止める術など、幾らでもある!」
 

 そんな言葉と共に向けられる拳。それを刀身で受け止める僕だけど、その瞬間凄まじい爆風が起こり一気に吹き飛ばされた。そうだったな……何をうかれてたんだか。あいつはこれまで全然本気なんか出してなかったんだ。
 少し攻撃を入れた位で喜べる相手じゃないってわかってたのに……つい、油断した。前方を見ると、テトラがその腕に収束させた力を槍の様な姿に変えて構えてる。そしてそれを勢いよく放って来た。空気を突き抜けて迫るその槍は半端ない速さだ。
 テトラにスピードだけは勝ってる自信があるけど、でもその力を込めた何かになら、自身を超えるスピードを与えれる……か。僕は地面にセラ・シルフィングを突き刺して強引に自分の動きを止めて、集めてた足の風を蹴って直前でその槍をかわす。
 だけどそこでテトラの不敵な笑みが僕には見えた。なんだ? 悪寒が全身に走るぞ。そう感じた瞬間には、視線の横側で空間が捻じれて黒い影か煙が染み出してくる。


「まさ−−かっ!?」


  そう紡いだ瞬間に空間を突き破る様にして現れるかわした筈の槍。避ける−−−−の反射が今の僕じゃ間に合わない。なんとか当てたのは片側のセラ・シルフィング。だけどその瞬間、槍は一気に弾けてセラ・シルフィングを僕の腕から弾き飛ばす。
 ゴキっと嫌な音がする肩……ヤバイ、今ので関節外れたかも知れない。身体が腕の反動につられる様に成ってる所へ、更にもう片側のセラ・シルフィングへと今の槍が突き刺さる。そして抗えない力に攫われる様にセラ・シルフィングが手から離れる。
 その瞬間、何かが途切れた様に、僕の身体から力が抜ける。いや、元から僕の身体に力なんてなかったけど、繋がってた筈の風が……感じれなく……セラ・シルフィング……そうか、テトラの狙いはは−−−−


「お前の力の源はあの剣だろ? あれが貴様の奇跡の要因だ。なら、狙うは自ずとあの剣に絞られる。これで本当の意味で終わりだ」


 風がなくなった途端に、重く成った身体。鉛の様な自分の身体は地面に倒れて一ミリも動こうとしない。やっぱり何枚もテトラの方が上手だったって事か……もうクリエの声も聞く事も出来ない。ゆっくりとこっちに歩いてくるテトラ。その腕には今度は細い剣が黒い力で作られる。
 万能だな……本当に。今の僕は糸が切れた操り人形みたいな物だ。もう本当にどうする事も……そう思ってると頭に響くおかしな音と声。


【ピッピーガガ……条件……変更……空間補填……難航……決闘空間の維持出来ません】


 そんなシステム側の言葉と共に、空間を包んでた膜が砕け散る。


(なんだ? 一体……何が?)


 そう思ってるのはどうやら僕だけじゃない。周りの人たちも、そしてあのテトラでさえ、何が起こったのか把握しかねてる。すると突如僕の目の前に月光色の髪が揺らめいてた。そしてこんな事を言われる。


「ふふっ、無様ねスオウ。だけどここで死なれたら私的に困っちゃうんだよね☆ せっちゃんが向こうと本当の意味で決別する時は、スオウをその手で殺した時だと思ってるから。だから、こんな所で死なないでよ」


 顔は見えない。でも……十分に誰かわかる。その髪色に人をバカにした様な星を使う喋り方。僕達の敵……セツリを攫った張本人。シクラ奴が僕の前に姿を表してる。

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