命改変プログラム

ファーストなサイコロ

二つ目の契約



 空が青い。燦々と降り注ぐ光は毒気が一切無く、これでもかって位にエネルギーをぶつけてくる。風が優しく頬を撫でて、心地良い


「久しいな」


 心地良い……そんな感覚が久しい。そしてこんなに澄み渡る空をみるのも久しい。大きく息を吸い込むと、体の芯に染み込むような空気……それが気持ちいいじゃないか。
 眼下には過ぎ行く広大な大地の姿。飛空挺というのはかくも便利な乗り物だ。まああまり俺には必要ないけどな。
 だが楽でいいのは確か。


「グス……ヒッキ……」


 飛空挺の静かで僅かに重厚感がある音に混じって、どこからか聞こえてくる雑音。探してみると、飛空挺の船首部分で丸っこく成ってる小さな影が見えた。
 目が覚めてからずっとあんな感じ。昔からそうだが、子供は苦手だ。直ぐに泣くし怒るしな……まあだから見てて飽きなくもない訳だが。
 からかうのは面白いしな。それにあれは一応大事な存在だ。あんな所に居て、気が狂って飛び降りでもされたら大変。一応声を掛けてやろう。


「おい、子供。そろそろ泣きやめ。いつまでそうしてる気だ?」
「グズっ……ヒック……うっく……」


 聞こえてるだろうに無視と来たか。そもそも自分をさらった奴となんか喋りたくないってのはある意味普通の感情かも知れないな。
 もうちょっとフランクに言ってやるか。


「こほん、ヘイカノジョ! 俺と一緒に魂のビートを鳴らしてテンションアゲアゲで行こうぜヒャッハアアアア!!」


 BGMにラップを希望するぜ! 最近ローレの奴に教えて貰ってはまってるんだ。だけどう~ん、反応薄いな。


「ヘイヘイカ~ノジョ、ブルーでも空のブルーみたいに行こうぜオーエイ!」


 肩を叩いて親指をグッと突き立てて決めポーズ。だけどやっぱり反応がない。おかしいな。ローレにみせて貰った映像だと、相手も同じテンションで返してくれるはずなんだが……まさか常識じゃ無いのか?


「なにこっぱずかしい事言いながら子供を口説いてるのよ」


 後ろから聞こえたそんな冷たい声。だけど振り返ると更に凍ったような視線に俺は射ぬ狩れた。なんて冷たい目だ。コイツ本当に人間か?


「ローレ、貴様誰に向かって物を言ってる? それに俺は口説いてたんじゃない。この子供が落ち込んでるようだったから、元気づけてやろうとだな」
「あんなアホな喋り方で元気になる奴なんていないわよ。寧ろイラっと来る。きっとクリエもその口を縫い合わせてやろうって思ってる筈よ」


 思わず口を手で隠して小さな丸い姿を見る。なんと恐ろしい。まさかそんな風に思われてたなんて……


「だが、お前も最高にクールだと言ってたじゃないか」
「あれはほら、社交辞令よ。あんたが妙に気に入ってたからアホくさ――と思いながらもそういってあげただけ」


 むむむ、神をバカにするとは恐れ多い奴だな。お前など、俺が本気に成ったら一ひねりだぞ。ポキポキと俺は腕に力を込めて指を鳴らす。


「何よ。怒った? だけどまだ付き合って貰うわ。良いでしょ?」


 なんて肝の据わった奴。周りの敏感な動物どもが逃げ出す程の殺気をぶつけてたのに、あえなくスルーか。


「それに子供にラップとかないから。童謡とかの方が良いわよ」
「童謡か……」


 そんな言葉を聞いて思い浮かぶ歌は一つだな。アイツが好きだったあの歌だけ。試して見るのも良いかもと思い、俺は瞳を閉じていつかの情景を思い浮かべながらその旋律を口ずさむ。
 腹に力を込めて優しく喉を震わせる。青い空に、懐かしい旋律が響きわたる。瞼に流れる思い出……楽しかった日々。そんな記憶が、歌とともに蘇るようだった。




 静かに空を見上げて目を開ける。太陽の光と、青い空が目に入ってくる。そよぐ風が、瞼の溝に貯まってた滴を流してく。


「その歌は……」


 ローレの声。だけどその時、俺の服が足下等辺から引っ張られる感覚。視線を下に向けるとそこには泣き顔のままの子供が居た。


「どうした子供? 感動したか?」


 微笑みかけてそういってやる。だけどこの子供はそんな言葉を無視して自分の言いたい事だけ言ってくる。


「今の歌……どうして知ってるの? ねえなんで?」


 おもいっきり服を引っ張りながら俺に向ける一番の視線でそういってくる子供。


「そんなの簡単だな。この歌は俺の最愛の人が良く歌ってた歌だ。お前こそ知ってるのか?」
「知ってる! 歌詞違うけど、同じ感じだった。シスターが良く歌ってくれてたもん」


 涙を拭きながら一生懸命そういって、子供もその歌を口ずさむ。確かに歌詞はなんか違うな。だけど旋律はまんまだ。
 するとローレの奴が横からこんな事を言う。


「その歌は有名よ。リア・レーゼやサン・ジェルク……というかノーヴィスでは有名で定番な子守歌ね。アンタが最愛とか言うって事は、女神の歌って事かしら?」
「まあ、そういう事だな」


 恥ずかし気にしながらも一応頷く。すると歌で通じ合えたのか、子供もやけに話しかけて来るように成ってる。


「ねぇねぇ、女神ってシスカの事? どういう人だったの?」


 なんだか随分あっさりと馴れ馴れしくしてくるな。それにシスカって……だから子供は直ぐに調子に乗る。ちょっと俺との立場の違いを思い出させてやるか。


「おい子供。あんまり馴れ馴れしくするな。勝手に改変した歌なんて俺は認めてないからな」
「べ……別に認めてほしい訳じゃないもん! あんたなんか大っ嫌いだし!! それに元々歌詞ちょっと違うし。変えたのはそっちだよ。
 クリエにとってはシスターのが最初だもん!」
「はっ? なに言ってるんだ子供? 俺が歌ったのがオリジナルだ。当然だろ」


 俺をなんだと思ってるんだ? この世界を造った神の一人だぞ。俺が知ってることは全て源流なんだよ。この世界のな。


「まあ確かに私の知ってるのともアンタが歌ったのはちょっと違ったわね。クリエのは論外だけど、歌詞なんてどっかの誰かが途中ですこしずつイジっててもおかしくないわ。
 それよりもなんでそんな歌にこだわるの?」


 ローレの奴は中腰になって俺から離れたクリエに向く。


「それは……なんだかこの歌は懐かしいかなって……って教えてあげないもん! この裏切り者!! 悪者!! キチクウウウ!!」


 おかしな叫びをあげる子供。でも懐かしいか……それはやはり……そう思ってると鬼畜いわれたローレは子供の顔面を握り潰す勢いだ。


「随分な言いようね。そんなに私がスオウ達を裏切ったのが許せない?」
「ゆるせないよ!」


 指の隙間から鋭い視線をローレに向けてる。そしてチラチラとこっちも見てる。そりゃあ許せないよな。気持ちは分かるさ。だけどローレの奴は別に全然気にした風もなくこう言う。


「ごめんなさいクリエ。だけどしょうがないことだったのよ。子供には分からないでしょうけどね」


 そう言ってローレの奴はクリエを解放して、立ち上がりこちらを見る。


「テトラ、最終会談には出て貰うわよ。もうすぐ到着するから準備してて」
「はあ、本当に面倒な事ばかりだな」
「力で押しつけるばかりよりは効率的よ。座って口を動かせば良いんだから楽じゃない」


 そう言って歩き出すローレ。すると「うあああああああ」という声と共に、クリエの奴がローレの足へと体当たりをかます。


「ふざけるな! アンタの思い通りになんか成らないもん!! 絶対に絶対に、スオウが来てくれるんだから! お前も! お前も! 倒しちゃうんだもん!」


 ビシッビシッと俺とローレに指を差してそんな宣言をするクリエ。痛々しい奴だ。分かってるだろうに。そんな事、有り得はしないって……


「何言ってるのかしら? スオウは死んだじゃない。私が殺したわ。それを見てたでしょう? アンタも。教えといてあげる。この世界には希望だけじゃなくて絶望とかもあるのよ」


 足下に転がるクリエを見下ろして、ローレの奴はそう紡ぐ。するとクリエの瞳には再び涙が溢れ出てきた。あの場にコイツも居た。
 あの瞬間を見てた筈だ。自分の言葉が間違いで、ローレの言葉こそ正しいと、わかってる。もうアイツは――ん?


(この感覚は……)
「そもそも他人に希望や望みを任せる事が間違いなのよ。自分の願いくらい、自分で叶えなさい。障害は全て潰す気で行きなさい。
 それも出来ないただの子供って自覚があるのなら、せいぜい一生懸命泣きわめいてればいいわ。そしたらまたどっかのバカが犠牲になってくれるわよ」


 おいおい、子供に対して厳しすぎだろコイツ。自分だって形は子供の癖に……まあこいつの場合は子供の形がズルいって感じだけどな。
 やけに可愛らしい外見をしてるのに見た目とは裏腹に内面が腹黒い。邪神と呼ばれてた俺ですらちょっと引く位だ。
 コイツは自分の夢を、自分で叶える。それを有言実行してるんだろう。それだけの物があるとは思う。だけど俺が見つめるその背中は、やっぱり頼りなさげに小さいんだ。
 俺からしたら危なっかしく見える。クリエはローレの言葉に打ちのめされてるのか、立ち上がる事をしない。ローレは言いたいことを言ったら、さっさと飛空挺の内部を目指して歩いてる。
 俺はさて……一体どうするか? まあやることなんかないんだが。この事実を伝えるべきかそうしないべきか。だが、この感覚が事実なら、ローレは一つ、俺に嘘をついてた事になるな。


(面白い)


 やはり一筋縄ではいかない奴だ。仲間――という感覚はないが、何を考えてるか、理解できない奴ではある。もう少しこの世界に付き合うついでだ。
 乗っといてやろう。


「おい子供。お前の希望はまだ光ってるかもしれんぞ」


 俺は俯いてるクリエにそう伝えてやる。だけど何言ってるのか、この子供はわかってない感じだ。全く、理解力が足りない奴だ。サービスはここまでだぞ。


「だがしかし、その光がもう一度立ち上がるかは別だがな。お前は、見捨てられるかもしれない」


 その言葉でようやく悟ったのか、クリエはどこか遠くを見つめる。きっとリア・レーゼを見てるつもり何だろうけど、残念……雰囲気だけで向くなよ。そっちじゃない。


「スオウ……ねえ次は、もし戦ったらスオウは勝てるの?」
「それは無いな。俺は誰にも負けない。神だからな。今度ぶつかれば、明確な敵だ。その時は確実に殺す。きっと俺の目的の邪魔をするだろうからな。
 俺は自分の敵には容赦はしない」


 俺の言葉を聞いて、この子供はなんと言うのか? そう思ってると、意外な言葉を紡いだ。


「そっか……それなら来てほしくないかも。だって……死んでほしくないし」
「それじゃお前の願いは叶えられないぞ。きっとな」
「それでも死ぬのはダメだよ。クリエの為にスオウが死んじゃイヤだ。だってクリエの力……戻ってる。シャナがあの時持ってった力なのに……それなのにシャナは戻ってないんだよ。これって……」


 そう言ってジワっと瞳に再び涙が貯まり出す。シャナが誰か知らないが、ようはその子が持って行ってた力がいつの間にか自分に戻ってるのに、その姿はない。
 その意味を、こいつは理解してるって事だろう。でもそれじゃあさっきの宣戦布告は……ってそうか、ローレの言葉が効いてるのか。
 そう思ってるとクリエは溢れ出しそうな涙を腕で拭って、垂れてきそうな鼻水をおもいっきりすする。そして強がったような笑顔を見せてこの小さな存在は言う。


「そんなのもう嫌だもん。シスターも居なくなって、アンダーソンは戻ってきてくれたけど、シャナも……このままじゃスオウも……そんなのヤだ。
 ヤだもん! クリエに優しくしてくれた人たちがいなくなってくのクリエのせいだから……クリエとこれ以上一緒に居たらダメなの」
「じゃあどうするんだ? 他力本願だったお前の願いは?」


 他力本願を理解できるのかは言った後に気づいた。だけど何となく雰囲気でわかってるようだ。


「シャナが居なくなったんじゃもうクリエの願いに意味なんてないのかも。ねえ、おじさんはクリエをどうするの? どうしてクリエを連れてきたの?」
「オジ!?」


 衝撃発言だ。おじさんだなんて地味にショック。初めて有効打をもらった感じ。純粋に言ってるだろうから、余計な……まあだけどここは気を持ち直して言葉を紡ぐ。


「お前は自分の存在意義を理解してるか?」
「存在……何?」


 キョトンとするクリエ。やっぱり子供は子供だな。


「お前は自分が今ここにどうして居るのか……それをわかってるかと聞いてる」
「それは生きてるからだよ! クリエはまだここで生きてるもん!」


 元気にそう言うクリエ。確かに……まあ間違っちゃいないけど、俺の質問の答えとしては×だな。


「違う違う。生きてるってそんな漠然とした事じゃなく。じゃあお前はどうして生きてるんだって事だ。どうしてお前はその生を受けた? お前は自分という存在の意味を知ってるか?」


 まあこの分だと知ってる訳もないだろうがな。


「クリエの生きてる理由? ここに居る訳? そんなの……そんなの……」


 フルフルと震えるクリエ。何もないだろう。こんな子供がそんな深い事考える訳もない。だけど自分が普通と違う位は理解してるだろう。その理由を考えた事があるか?
 寂しい思いをしてれば、どうして自分だけ……そんな思いは幾つもあったはずだろう。そう思ってると、クリエはポツリと何かを呟いた。


「ん? 聞こえないぞ」


 すると今度は大きな声でこう言った。


「愛されてるからだよ!」
「は?」


 ビックリした。それに耳もキーンと鳴ってる。子供の甲高い声がぶつかったせいだな。それにしても「愛されてるから」って……この子の口からそんな言葉がでるなんて予想外だ。
 だってローレに聞いた次第では、ずっと隔離されて育てられて来た筈だろう。どこに愛を感じた?


「クリエ、ずっと寂しい時あったよ。本で出てくるパパやママがどうしてクリエにはいないのかなって考えた。学校に通うように成ってからは、余計に思った。
 だって他のみんなには当たり前で、みんなパパやママの話は当然みたいに出てくるの。それに何より、嬉しそうで……顔は嫌そうなんだけど、本当はとっても幸せなんだなってみてるだけでわかったもん。
 クリエはいらない子だから、パパもママもいないのかなって考えたりもしたよ。だけどそんな時に、シスターがいってくれたの。
【クリエも愛の結晶だって。クリエがここに居るのは愛があったからなんだよ】って教えてくれた」
「パパとママはどうでもよくなったのか?」


 意地悪な事を聞いてみる。俺もローレの事は言えないかもな。だが俺は邪神だしな。意地悪は専門分野だ。


「勿論、じゃあなんで? って聞いたよ。だけどシスターは笑顔で誤魔化すだけだったもん。でもでもギュってしてくれたから……そしたら、別にシスターが居ればいいのかなって思ったの。
 愛とかはよくわかんなかったけど、ギュってしてくれるシスターにクリエは安心したの。シスターがそうしてくれるのなら、クリエもここに居て良いんだっておもえた。
 クリエはきっとシスターに愛されてたんだよ。だからそれがクリエのここ居る理由なの」


 うん…………なんだか俺の質問は無視してる気がするな。てか、質問の意図がこのお子様には届いてないのかも。間違ってないようで微妙にズレてる。
 俺が聞きたかったのは、存在理由なんだけどクリエはなんか思い出語っちゃったよ。まあこの子にとっては、生きてる事を許された理由として重要なんだろうけど……それにしても「愛されてるから」ね。
 姿形も全然違うのに、おかしな所でダブる奴だ。俺はため息を一つついてクリエにいってやる。


「なんだかちょっと聞きたかった事と違うんだが……まあ良いさ。愛して貰えて良かったじゃないか。幸せ……を感じれたんだろう?」


 俺のそんな言葉にクリエは「うん」と返す。でもその「うん」はただ無邪気な子供の「うん」とは違ってた。さっきまで饒舌に喋ってるときは子供らしかったのに……どうした?


「クリエは愛して貰ったよ。幸せだったよ。愛されて、幸せだったから……だからクリエもそれを返さないとって思う。
 シスターはもういないし、シャナにもそれが出来そうじゃない。クリエの願いはシャナの為だったけど、ちょびっとクリエの為もあったけど、今はそれを変えられる」
「変える?」


 クリエはその小さな手を胸まで持っていってそこで拳を作ってる。何だ? この小さな存在は何を決めたのだろうか? そう思ってると強い瞳で俺を見上げてくるクリエ。意志の宿った強い瞳。そしてこの子はこう言った。


「殺さないで欲しいの。スオウを……ううん、スオウ達を殺さないで。私の為に来ちゃうかも知れないけど……でも殺さないで!
 クリエは協力するから! クリエをどんなに利用しても良いから! だからスオウ達は殺さないで」
「お前……」


 愛する者達を守りたい……か。愛されたから、愛したから、無くしたくない。例え自分が犠牲に成ったとしても……その年でそう思えるとはな。
 ただ流されて、誰かに頼ってきただけじゃないと言うことか。強い瞳を向けられて、俺は少々驚いてる。いや、ワクワクしてるのかも知れないな。
 後少しだけだが、まだまだ楽しめそうだ。そしてこの提案は良くも悪くも都合がいいかもな。自分の意志で協力してくれるのなら、面倒が無くて良い。
 その先に自分という存在がどうなるかなんて、わかってもいないだろうに……


「本当に良いのか? それは助けを拒むことだ。アイツ等が頑張ってきたことを無駄にすることだ」
「だけどそれはクリエの為だよ。クリエの為に死んで欲しくない。クリエがお願いしたらきっとわかってくれるよ。もう必要ないって、私は言うの」
「それで、奴らが納得するとは思えんな。まあそもそも来るかどうかもわからんが、どちらにせよ、俺には協力して貰う。その意志を確認させろ」


 元々強制的に使うつもり立った訳だが……


「どうすれば良いの?」
「契約だ。神との契りはどんな誓いよりも重い。その覚悟がお前にあるか?」
「ある! ようはスオウと同じ感じでしょ? やるよクリエ。だってその誓いはおじさんも同じ筈でしょう?」


 むっ、案外鋭いな。そもそもこれをさせる気だったのか? 自分だけじゃなく我も縛る契約だ。それによって俺自身をそのか弱い体で縛り付けると……脳天気そうでなかなか考えてる奴だな。


「ああ、俺も同じだ。誓いは双方に刻まれる。破った者は罰を受ける」
「おじさんはスオウとの契約止めたけど罰受けてないよね? それ本当?」


 そう言えばあの場にこいつも居たな。一応警戒とかはしてるのか。


「あれは口での破棄だろ? 契約上の物じゃない。だからこそ俺と奴はまだ繋がってる。あの時死んでくれてたら、契約は無効に成ったはずだがな」
「じゃあ、スオウのタイムリミットは私だとどうなるの?」
「あれは意地悪をしたに過ぎない。怠けられても困るしな。それに俺の力は邪だ。そもそも五種族とは相性が悪いってのもある。
 俺との契約は強力だからな。言ったろ? 神との契約は重いと。怖じ気付いたか?」


 俺は威圧しながらそう言う。だけどクリエは頭を横に振るう。そしてやっぱり変わらない瞳で俺を見上げてくる。


「ううん、大丈夫! ようはクリエならスオウよりも長くは持つんだね。子供だから直ぐに死んじゃうとか嫌だもん。
 約束しよう。クリエはスオウ達の事、絶対に殺さないでってお願い!」
「じゃあ俺は、お前が逃げずに俺の目的の糧に成ることを」


 俺はクリエの頭に手をおく。誓いと共に現れる魔法陣。そして互いに刻まれる模様。痛みが走ったのかのか、首筋をクリエは押える。光の収束と共に、俺はこの子供に告げた。


「後悔しても遅いぞ」


 するとクリエは、模様が刻まれた首筋から手を離して、ビシッと俺を指さしてこう言った。


「大丈夫。クリエはもう…………十分だから」



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