命改変プログラム

ファーストなサイコロ

遠くより近くを

 目の前が真っ白に成った。何も見えない。意識だけがどこかに落ちて行ってる。僕のHPは尽きた。これは地獄にでも落ちてるのかな?
 イクシード・アウラだとどうなるのか……まだわかんない。いや、イクシード3の延長上の力だった訳で、このまま僕は真っ逆様に落ちていくしかないのかも。
 僕もこのままシステムの中で永遠に囚われる……とかだろうか。白い背景が次第に黒に変わってく。白だとおかしいと思ってたけど、やっぱり落ちていく先は闇らしい。
 どうにかしたい……けど、掴む場所なんてなくて、僕は体を動かす事も出来ない。何も抵抗出来ないまま、落ちて……落ちて……落ちて……もう誰にも会えなく成るのかと思うと、なんだか途端に寂しく成ってきた。


「こんなの……」


 僕は目に涙を溜める。脳裏をよぎる沢山の思い出。それが溢れだして、飛んでいく涙に映るようだった。セラに、テッケンさん、シルクちゃんにノウイ……それにアギトにアイリ……後リルレットにエイルも少々その映像に出てくる。
 でもやっぱりここ数日ならクリエだな……それにどこででも図々しく僕の記憶に焼き付いてるのはやっぱり日鞠……それに心残りしかないセツリ。
 僕は一際強く瞳を閉じて、そして力強く目を開いて叫ぶ。


「やっぱり嫌だああああああああああああ!!」


 死にたくない……その気持ちを込めた。てか、涙と共に溢れ出て来る。死ぬときは痛くて苦しくて抵抗なんて出来ないと思ってた。
 でもここは痛くもないし、苦しくもない……正直なんだか実感も無しに落ちて行ってたけど、やっぱり死ぬのは嫌だよ。
 このまま落ちて行く事には恐怖を感じる。とてつもない恐怖って奴を……僕は感じる。まだ自分があって、足掻けるのなら、足掻くんだ。
 そうしなきゃいけない! 僕は必死に腕を伸ばす。上手く……全然上手く動かせないけど、それでも伸ばす。掴む物もなにも無いけど、遠くになった光へと、それでも僕は腕を伸ばすしか出来ないんだ!


【よかった】


 その時聞こえたそんな声。そして僕の伸ばした手に小さな手が重ねられる。そして遠くの光からここまで延びてくる光が一人の少女の姿を形作る。


【まだ……生きようとしてくれて】
「サナ……お前……」


 それは聖獣共に力として囚われてた筈の少女だ。クリエのたった一人の友達。


【私は今は自由です。だから……】


 だから……助けに来てくれたって事か。本当に……なんて良い子だよ。暖かさを感じる……安心する、そんな暖かさを。触れ合えるって事が、どれだけ心を安心させるか……それを僕は今感じてる。


「サナ……ごめん……僕は……」
【謝るのは無しです。だって……まだお兄さんは死んでません】


 そんなサナの言葉にハッとする僕。


「え? でも確かに僕のHPは……攻撃だって派手なの受けたぞ。それにこの場所は……」
【だけどまだ死んでないです。でもこのまま落ちちゃうとお兄さんは死んじゃいます。私達と同じ場所に来ちゃいます。
 だけど……まだなんです。あのお姉さんはお兄さんを殺してなんかないですよ。でも、お兄さんの体は限界です。もう……ここのシステムだけじゃ引き上げられない】


 サナの声が優しく……だけど残酷に心に染みる。僕の体は限界……それってまさかリアルの方って事か? そっちが本格的に危ないから、僕はこうやって落ちてる。ローレのせいじゃないのか?
 じゃあアイツ……一体なにをしたんだ? すると手を掴んでたサナが光となって僕の背中側に回る。


「おい?」
【安心してください。私がお兄さんを送り届けます】
「出来るのかそんな事?」


 サナは普通の少女の筈だろ。そんな力なんてあったのか? すると彼女は僕の背中に手を添えて笑顔をくれる。


【はい、私にはクリエから預かった邪神の力がありますから】


 そうか! そう言えば、そうだった。この子はクリエを守る為に闇の力だけを引き受けて聖獣へと吸収されたんだ。聖獣から解放された今、その力がこの子自身……でもちょっと気になる事が。


「その力を使ってお前は大丈夫なのか? 元々無かった物だろ?」
【えへへ、そうですね。使い過ぎると私は消えちゃうかも知れません。そもそも神様の復活の方に一杯力もっていかれましたから……私の存在は今はこの力の残りカス分しかありません】
「お前! じゃあ僕の為に力を使ったら!」


 僕は声を大きくする。だけどその時サナは手だけじゃなく、その体を寄せてきた。


【良いんですよ……心配なんてしてくれなくて。だって……私はもう死んでます。消える事は本当は悲しむ事じゃないんです。
 だってそうでしょ? 本当は消えちゃうのが正しいんだもん。喜ばしい事だよ】


 そう良いながら僕は感じてた。この子の震えを。見なくても分かる。伝わって来るんだ。でもそれでもこの子は強がる……明るい声をくれる。
 その行為が、僕の胸を搔き毟る。


【それにね、私から無くなった力はきっとクリエに戻る。そしたらきっとあの子はいつも通りになるって事だよね。いらなかった物だとしても、やっぱりこれはあの子のだから、だから返さないと】
「自分を……犠牲にしてもか?」
【違うよ……犠牲にしてたのはあの子だよ。私の為に自分を犠牲にしてた。私は、ここに……どこにも居ちゃいけない存在だもん。それなのにあの子に取り憑いて】


 僕は強く拳を握りしめる。歯も目一杯噛みしめた。どうして……どうしてこんな子が……そんな思いで一杯になる。


【じゃあ、そろそろ送るね。これ以上下に来ちゃったら、いくら私の力でも保証できなくなっちゃう】


 その言葉と共に、サナの温もりが離れる感触があった。僕は唯一触れたままだった手を掴んで振り返る。そして目に一杯涙を溜めてガバッと抱きしめる。


【ふっ!? ふえぇぇぇぇぇええぇ!? ちょっとどうしたのお兄さん? これじゃあ送って上げられないよ】


 目を丸く……と言うか、グルグルさせながらそう言うサナ。いや、自分でも何やってるかわかんない。だけど、たった一人で消えようとしてる小さな少女を、このまま消えさせちゃいけない……そう思ったんだ。


「ごめん……本当に僕は役立たずだ。沢山協力してくれたのに……」
【……もういいよ。私はもう良いんです。だからクリエを助けてあげて。生きるのなら……生きてくれるのなら、クリエを幸せにしてください。あの子は……友達……だから】


 僕はそんな言葉を聞いて更に強く抱きしめる。今気付いたけど、そう言えば体が動く。感じるのに……こんなにもこの子を感じるのに……もうどこにもいないだなんて……すると瞳から離れた涙に浮かぶクリエの姿。


【あのね、あのね。クリエのお願い聞いてほしいの! クリエあそこに行きたいの。あの月へ!】


 その姿を見て僕はハッとする。そしてこう呟くよ。


「逝くな……このまま逝っちゃダメだサナ! お前がクリエを想うように、クリエもお前を想ってる。お前が不幸のままで逝ったら、アイツは自分の幸せなんてきっと考えない。そう言う奴だろ?」
【そう……かも知れないです。だけど私はどこまで逝っても救われない。だって死んでますから……でも安心してください。私は自分を不幸だなんて…………そんな事思ってませんから】


 そう言って目の前で笑うサナ。なんで……なんでこんな小さな子が笑ってて僕が泣いてるんだろう。普通逆だろ。一体どうしたらこんな小さな少女がそこまで悟れるんだ? 僕はどうしたら良いかわかんないけど取り合えず引き留めに掛かる。


「お前はここに居て良いんだ! 誰にも迷惑なんて掛けないじゃないか!」
【ありがとうお兄さん。だけど掛けるよ。私たちはこの世界に負荷を掛けてる。それは先日証明したはずだよ。ずっとこのまま……なんてダメなの。
 私たちは消えなきゃいけない】
「それはお前じゃなくても良いはずだろ!!」
【そうだね。でも私はお兄さんを助けたい。それはきっと友達を助ける為になるから。だからお兄さん――】


 サナは今までで一番力強い瞳を向ける。僕はその瞳を受け止める事が出来ない。だって……もう何も言えなくなりそうだったから……


【――私に誇りを頂戴。友達を助けたって栄誉が欲しいな。現実で何も手に入れられなかった私が、ここでそれだけ手にして逝きたい】


 案の定だった。何も……何も言えないよ。引き留める事はもう無理だ。僕なんかよりも……ずっとサナは強い。辿り付けない。追いつけない。
 僕はどんな強敵を前にしても、諦めずに来た……だけどここで初めて諦める。絶対にかなわない……越えられない何かを心で感じた。僕は必死に抱きしめてた腕を緩める。


【ありがとう……】


 サナは力を使い僕を浮かせる。そして自分は僕から離れ出す。だけどその時、指の先を僕は握る。


【お兄さん、そう持たないから、もう聞けないよ】


 そう言うサナ。引き留める気はない。だけどこれだけ言いたかった。


「ありがとうサナ」


 するとサナの瞳にブワッと涙が溢れ出す。


【あれ? おかしいな~あはは】


 やっぱりこのままお別れなんて……でもサナはその意志を曲げないだろう。僕は繋がる腕に力を込める。


「必ず……必ずもう一度会おう! だから……さよならはまだ言わない!!」
【無理だよ。奇跡でも起きない限り……絶対】
「なら、奇跡だっておこしてみせる!! 絶対に僕は――」


 その瞬間黒い光がサナのもう一方の腕に収束する。そして涙と笑顔と友にこの言葉を伝える。


【さようなら】


 僕はその瞬間必死に体を寄せて腕を伸ばす。そして『何か』を掴みとってそのまま黒い光に乗せられて上へ上へと昇ってく。
 そして光が波打ってる天辺へとぶつかった。




 そのままの勢いで瞳を開ける。すると眩しいライトの光が眼球に刺さった。手でライトを隠そう……そう思ったけどしっかりと握りしめられた手は動かない。
 どうなってんだ? って思いながらそちらに視線を動かすと、黒縁眼鏡で三つ編みで、妙に優等生っぽい演出をしてる幼なじみが大量の涙を僕の手に流してた。


「ひま……」


 なんだか声が籠もる。そう思って口元を見ると、なんだか酸素吸引機だっけか? が口に当てられてた。良く医療ドラマとかで見る、最初に患者に付ける奴ね。
 まあ最近は全然自分でも珍しくない代物だ。これ付けてると喋りづらいんだよね。取ろうとしようと反対側の手を動かそうとしたとき、ガバッと日鞠が抱きついてきた。


「スオウ! スオウ!! スオウ!!! 良かった……本当に良かったよぉ……」
「日鞠……」


 なんだか良く状況がわかんないな。頭がボーとしてる。でも取り合えず、目を覚まして良かったんだって思った。日鞠がこれだけ泣いて喜んでくれるのなら……それは良かったって事だ。
 いつもなら恥ずかしくて抱き締めたままなんて嫌だけど、今だけは振り払えないよ。それに僕も安心するしな。するとどこからかこんな声が……


「先生……これは……」
「奇跡……いや、彼の生きようとする意志かな?」


 声の方を見ると、白衣とナース服の男性と女性が居た。うん、どっちも既に顔見知りだな。それで、ここがどこだか分かる。例の病院かよ。


「また、お世話になったようですね……」


 僕がそう言うと先生は近寄ってきた。


「今回は何も出来なかったよ。体が静かに死を受け入れようとしてた感じだったからね。まあいくつか内部からの筋肉の断裂があったけど、まだそこは手つかずだ」
「手つかずって……」


 早く治療をお願いしたい! 何やってんだ医者だろ!


「いや、流石にもうダメかなって――ははは」


 ははは! じゃねぇ!! 医者が真っ先に諦めてたのかよ。てか、やっぱり死に掛けてたのか。だからこそ日鞠もこんなに……


「流石に今回はご両親に連絡を入れるべきかと思ったがね」


 そんな言葉に僕は顔を背けるよ。両親ね……居たなそう言うのも。戸籍上親ってだけだけど……他人だよあんなのは。血が繋がってれば家族……なんて事はない。
 血が繋がってなくても家族には成れるし、だからその逆も然りだ。


「連絡を入れたってあの人たちが帰ってくるとは思えませんけどね」


 よっぽど日鞠の家族の方が心配してくれるだろう。だけど日鞠がそんな僕の言葉を聞いてこう言うよ。


「帰ってくるよ。スオウの為にきっと……」
「お前だって知ってるだろ……あの人たちにとって僕は――」


 すると最後まで言い終わる前に、更に強く抱き締められた。ヤバい……冷静に頭がなってきたらドキドキしてきた。
 でも日鞠の奴は気にした風もなく、ただ感情を込めてこう言うよ。


「それでもきっと帰ってくるよ……どこかにきっと愛情はあるよ」


 日鞠は……僕なんかよりもよっぽどあの人たちを信じてる。どうしてそこまで言い切れるのか、全く持って僕には疑問だよ。
 愛情なんて……


「取り合えず本当に安心できるか精密検査をしましょう。本当に一度死に掛け……と言うか心臓は止まってたんですから、脳にどんな影響があるか分かりません。
 まあ、数分程度だったし、大丈夫だとは思いますけど……念のためです。意識は戻って来てるし、リーフィアは取りますよ?」


 そう言って後ろに回り込む先生。そう言えばまだ被ってるな。あまりにもいつも付けてるから、既にベットに横になるくらいじゃ違和感がない。
 確かに自分がどんな状態なのかは知っておきたい所だよな……限界っていわれ……あっ! なんか思い出した。


「ちょっと先生待ってください。メールだけでも仲間に送らせてください!」


 流石にこのまま戻れないと、みんなが心配するだろう。僕は【ゲートイン・マイフロア】を唱えて、自分の部屋へ。まあまだただ単に真っ白な部屋な訳だけど……ゲームを進めて行けば手に入れたお金を使って色々とカスタマイズ出来るらしいです。
 取り合えず無事を知らせるメールを作成してみんなに一斉送信。これで取り合えず大丈夫だろ。実際メールが返ってくるのを待ってたいけど、結構体痛いからな……筋肉断裂してるらしい、この中に入ってると大丈夫だけど……それじゃあ何の解決にもならない。
 実際手術の時とか、全身麻酔するよりも仮想世界にでも飛び込ませて遊ばせてた方が、楽なんじゃね? っても思うけど、それはなんだか色々な理由で無理みたいです。
 ちゃんと公表されてない通信方式使ってるのがリーフィアの場合は問題なんだろうけど……医療機器への干渉とかもあるしね。
 取り合えずあんまりこっちに居ると、また日鞠が泣き出しそうな気もするし、取り合えず戻る事に。
 僕が目を開けるとまた抱き締めて来た。


「うう~ヒヤヒヤしちゃう!」
「お前な……いちいち抱きつくな」


 なんだか味占めてるだろ。でも今の僕には日鞠を振り解く力も出せない。平気そうにしてるけど、あちこち痛いんだ。それに力が入らない部分も所々にある。
 確かに限界って奴かも……って思うけど、でも向こうにはイクシード3でも……イクシード・アウラでも勝てない敵が居る。
 使っても勝てないけど、使わないと手も足も出ない。この命と、この身をどれだけ犠牲にしても、届かない場所が向こうにはある。
 まあ届かない場所はこっちにだってあるけど……本当に求める物は……手に出来ない。そんな風にどの世界だって出来てるのか?
 理不尽じゃないか……神様。


「スオウ……悔しいの?」


 不意にそんな言葉を日鞠が言った。口になんて出してないのに……こいつは良く僕の思いを見抜く。マジでエスパーかって感じで。時々ゾクッとするよ。
 だけどそんな日鞠だから……隠し事なんか無駄かって思えるんだよな。


「悔しいよ。自分では強くなったって少しは思ってた……だけど、僕より強い奴なんてゴロゴロ居るんだ。それにやっとで手に入れた力は否定されるし……その前にそれをやるための奴には裏切られてるし……どう戦えば良いのか……正直わかんない。
 それなのに……僕はあの子を犠牲にして……助かった」


 情けなさすぎるよな。自然と涙がこぼれて来るよ。でも自分の泣き顔を一番見せたくないのは日鞠だから必死に顔を背ける。でもきっと無意味だろう。
 顔を背けるにも限界がある。するとそっと頬に手を当てて僕の顔と自分顔を近づける。頬と頬が触れ合う距離だ。


「あの子が誰か、私には分からないけど。ありがとうって言わないとね。スオウを助けてくれてありがとうって。私はスオウが居てくれるだけで嬉しいよ」


 日鞠の言葉が心に染みる。ここに居て良いんだって、良かったんだって思わせてくれる。


「それにねスオウ。強いって力は暴力だけじゃないよ。でも今のスオウは力に囚われすぎてるかも。完璧に強い存在なんていない。もっとよく考えて、もっと周りを頼れば良いよ。
 そしたら自分だけじゃ見えなかった勝てる部分があるかも知れない。それに何を求めるかにもよるかも。スオウは今、何を求めるの? 何を目指して戦ってるの? 周りから見た完全勝利じゃない……スオウにとっての勝ちは何?
 求める力は……きっとそれによって変わると思う」


 求める勝利によって、求める力も変わる……僕は、何を見てたんだろう。その言葉に何かを気づかされた感じだ。テトラにもそう言えば言われたな……力に囚われすぎてるって。あれは嫌みじゃなくて、こういう事なのか?
 僕はいつの間にか敵を倒す事しか見てなかった。そしてクリエの願いの為に動いてた筈なのに、いつの間にかその先のセツリの為に力を求めて……求めすぎてたのかも知れない。
 急いでた……急ぎすぎてた。目の前の大切な事が、見えなくなってた。僕にとっての勝ち……それは……迷う事無く言える筈の事だったのに、移り行く状況がかき乱してた。
 そうだよ……幾ら事態が大きくなったとしても、僕の求める勝利に揺るぎなんか無かったんだ。僕は日鞠の目を見つめてこう言うよ、


「日鞠、あのお盆の日に会った夫婦……海外に行くとか行ってたけど、連絡は取れるのか?」


 僕が突然全然別の話をしだしても、日鞠は別段驚く事も無く、頷くよ。


「うん、まだ出発してないし、大丈夫だと思うよ。でもどうして?」
「大切な事だから……どうにか時間を取って会いたい」
「そっか、分かった。伝えてみるね」
「頼む」


 日鞠はそう言ってスマホ片手に出ていくよ。そしてようやくここらでいいかな~的に先生が声を掛けて来る。


「さて、ではそろそろ行こうか。検査室が空いてれば良いが」


 どういう事だ? この病棟はガラガラの筈だろ? 僕が疑問をぶつけると、意外な言葉が返ってきた。


「それが最近患者が一気に増えだしてね。症状はいずれも同じだ。意識不明。それもLROのプレイ中にだ。誰も彼もがリーフィアを頭に着けて運ばれてくる。
 でも流石にここまで増えると……隠し通す事はもう無理かも知れないね。噂は既にネットに蔓延し始めてる」


 衝撃の事実……この時期にそれは不味いだろ。もうすぐ調査委員会のガサ入れか何かが入るんじゃなかったっけ? いや、既に覆面調査員とかが入ってるんだっけ? 結果がもうすぐでるのか? どうだったか良く覚えてないけど、非常に不味い事は確かだろ。一人でも必死に隠したのに、それが一気に増えてるとなれば、サービス停止は免れないぞ。そうなったらセツリは救い出せない。
 それにクリエの事だって……僕は先生にこう言うよ。


「急いでください! 検査終わったら直ぐにLROに戻ります!」
「いやいや、それは医者として許可出来ない。死に掛けたんだよ」
「そんなのいつもの事じゃないですか!」
「いつもの事で済ませられない事だよ。てか済ましちゃいけない」
「そんな事言ってる場合じゃ!!」


 僕達のそんな声は静かな病棟にけたたましく響き渡る。そして言い合いを続けながら僕は運ばれる。

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