命改変プログラム

ファーストなサイコロ

闇の主の帰還



 泣き叫ぶ声、大地は枯れて、流れる物は血の川だった。生き物が腐った臭いが辺りからは立ちこめて、それだけで吐きそうになるほど。
 綺麗な花なんてどこにも無く、この光景にふさわしいイビツな形をして禍々しい色をした花が血を吸って咲いていた。
 世界の終わりを見せられてる……そんな気分だ。秩序がなくなった人々は追い剥ぎを繰り返す。奪い盗み、争い殺す。子供だろうが老人だろうが関係ない。
 今を自分が生きるために、人は醜い姿を晒す。死んでいく人たちは全員こっちを見てた。まるで僕が悪いかの様に……こちらを見つめて死んでいく。
 そして死んだ後に、恨めしそうに腐った体、窪んだ真っ黒な目を永遠と向けている。


「うっ、うあああああああああああああああああああああああああああ!!」


 気が狂いそうな光景の数々。文字通り頭に焼き付くそんな光景を直接叩き込んでくるメノウ。だけどそんな映像を振り払うべく、僕は腹の底から声を出す。精一杯の叫びで振り払う。そして目指して見据えたのは、光の召還獣【フィアテール】。
 それこそ僕だって、光には及ばないだろうけど、セラ・シルフィングを素早く振るった。でもローレ達はいつだって何重もの対策を練ってた。
 セラ・シルフィングの刀身はここまでしぶとく生き残ってたノームの魔法によって阻まれる。最後の最後まで本当に邪魔してくれる奴。
 ノームの言葉がふざけた精神攻撃の最中、強く頭をよぎる。


【儂をここで倒さないことを後悔する事になるぞ】


 まさにその通りだった。僕の魂を込めた一撃はノームの魔法に阻まれてしまったんだ。そして時間は来てしまう。棺から聞こえてた聖獣の叫び。それが一際強く成った次の瞬間……その胸の黒い穴に吸い込まれてた水が枯れた。
 もうこれ以上出てくる物は何もない。そして最後の甲高い叫びの後に、ニ体の聖獣はキラキラした光となって棺をすり抜け、天に昇る。




 遂に世界樹の力は全て今、消え去った。その瞬間、黒い光が脈打つ。そして一気にこの場所全てに広がったんだ。真っ暗な空間……そこには何故か僕が一人でさっきまで居たはずの誰もがいない。
 そんな中で聞こえてきたのは一つの足音。暗闇に響く、やけにハッキリした音が聞こえてきて、僕の鼓動はそれが近づくに連れて早くなっていってる。
 分かる……これは胸騒ぎだ。考えたくない事が……脳裏をよぎる。そして闇の向こうから奴は現れる。漆黒の長い黒髪を揺らし、白地に金の装飾が眩しい服を靡かせる奴の姿を見間違う訳がない。


「テトラ……」


 僕がそう呟くと、邪神はその深い色の瞳を細めてこう返す。


「久しい……って訳でもないな。ちょっと前に会ったな。それにしても、まさかこういう展開に成るとは。だがまあ、悪くはない。そう……悪くはないさ」


 テトラはブーツの音を響かせて僕に近寄ってくる。思わず警戒する僕はセラ・シルフィングを構えるよ。だけどテトラの奴は、事も無げにその刀身に触れやがる。


「そう力むなよ。知らない間柄でもないんだしな。俺達は利害が一致した者どうしだろ? 武器を向ける相手じゃない」
「はっ、じゃあならどうしてノコノコ出てきたんだよ? 大人しく待っててくれれば助かるんだけどな」


 うんうん、どうせならそれがよかった。復活の儀式をしたけど、テトラ自体がそれを断る。斬新じゃないか。だけどテトラは顔を寄せてこう返す。


「なに、ここまでの儀式を完了されれば一システムに作られた俺が拒絶出来る筈もない。お前達はそれだけの事をやり遂げてしまったんだ。
 それにそっちの世界樹の力は消えた。俺が出なくても、暗黒大陸からより凶暴な奴らがこの世界に解き放たれる。もう事は起きてしまったんだ。
 言うなれば、お前の力が足りなかったせいだな」


 グサッと心に刺さることを言いやがったぞこの邪神。流石邪神だけあって性根が悪い。そしてテトラはセラ・シルフィングを見つめる。


「風帝か……つまらん方に逃げたな」
「むっ――」


 流石にこれにはカチンと来たぞ。


「――逃げたってどういう事だよ? この力は確実に僕を強化してくれてる!」


 ここまで渡り合えたのもこの力のおかげだぞ。それを逃げたとかつまらんとか、正直許せない。何様だ! 


「だがそれでもお前は止められなかった。俺の復活を。ようはその程度の力と言うことだ。その力でお前は本当に救いたい奴を救えると思ってるのか?」
「それ……は……」


 テトラの言葉にどう返すか悩む僕。てか悩んでる時点で、答えは出てるような気もする。風帝じゃ……イクシード・アウラじゃシクラ達には勝てない。
 それを認めたくないだけかも。


「そもそも風帝はお前自身の力には成り得ないしな」
「どういう事だよ?」


 相変わらずだけど……なんか何でも見透かしてるようなこいつの態度………………ムカつくな。だけど下手に攻撃したってこの邪神には通じる気がしない。
 まあ今はあの時とは違う。違うけど……こいつはイクシード・アウラに恐怖なんか全然感じてない。それともそもそも僕自身に? 
 自分を脅かすだけの力なんて、まだまだ僕にはないって見られてるのかも……そう考えるとやっぱりムカつくな。


「風帝はエアリーロがいないとそもそも発動出来ないだろう? お前がその力に頼って行くことを選ぶのなら、お前は下につかざる得なくなる」
「下に付くって誰の――――――――まさかっ!?」


 なんかピーンと来たぞ。悪寒が全身に走った感じ。イヤだ、聞きたくない! だけどそう思っても、テトラの言葉は入ってくる。


「術者が居るだろう? 召還獣を束ねる者が。そいつの下に付く事になるだろう。エアリーロの召還にはそいつが不可欠なんだからな。
 そもそも貴様の今の力は借り物でしかないと知れ」
「借り物……」


 そう言われると確かにそんな気もするな。ドヤ顔してた自分が恥ずかしくなる。エアリーロは元々ローレの召還獣。そしてそのローレの力を借りて成し得たのが、このイクシード・アウラだと……まさに借り物じゃないか! いや、分かってたけど……でも言われるとなんかショックだな。


「その力は元々召還士の為のものだ。召還獣は自身だけでは完全には成れない。その力を完全に発揮するには、心を通わす相手が必要だ。
 信頼でき頼れる……そして自分の力と相性が良い、そんな奴が必要なんだよ。そんな相手が見つかれば、召還獣はその者と共に更に高見へ昇れる。
 そんな召還獣と一対になれる相手を召還士の従者【ヒトシラ】と呼ぶ。そのヒトシラを揃え集める事で、召還士の力は完璧に成るんだ。
 貴様はようはヒトシラ候補生みたいなものだ。その召還士から見ればな」


 なるほど~、それで色々と疑問が解けたぞ。どうしてローレが僕に拘るのか……それは自分の力を完璧にするための従者を探してるからか。
 そして僕はどうやらエアリーロとそう成れる……ってか既にそうなってるから、生け捕りにしようと――いいや、洗脳してしまおうとか考えてた訳ね。
 怖い! やっぱりローレに裏がない事なんかないじゃないか! 


「お前はそれでも、その力に頼っていくのか?」


 僕はそう言われて、どう返せばいいのか……正直わかんない。だって、ようやく手にした新しい力だぞ。
 確かに今回は上手く出来なかったけど、これ以上が確実にあるなんてわかんないじゃん。手放しで喜んだんだぞ。それなのに……この力はローレの犬に成る事と引き替えなんて……そんなのあんまりだ!


「力は……力だろ」


 ようやく絞り出した言葉はこんなんでした。色々言われたけど、ほいそうですかって投げられる訳もない。だって喉から手がでるほどに求めてるんだから。
 自分の弱さは、今回でも痛感したよ。それなのに、やっとで目覚めた力に頼っちゃいけないなんて……酷だろ。何だよヒトシラって、人柱みたいじゃないか。ローレの為の人柱……なんか妙に納得できる。


「力は力だな。だがお前の力じゃない。それは借り物だ。借り物は自身の身の内にあるものとは違う。それを笠にお前は救うべき奴の前に立つのか?
 くっくく、まあそれはそれで滑稽ではあるがな。心を閉ざした相手にそれはどう映るのか興味深い」


 さっきから嫌味ばかり……だけど悔しい事に言い返せない。確かに心を閉ざしてこの世界に閉じこもろうとしてるセツリに、借りた力でぶつかるってのはなんか違う気もする。
 てか、確かにそれじゃ滑稽だ。借りた力で何が届けられるって事だよな。


「でも! じゃあ他にどうすれば良いんだよ! お前との契約で得られる力ってのはこれ以上なんだろうな?」


 僕はやけくそ気味にそう言った。テトラとの契約は僕が金魂水を使う事。そしてそれでテトラの望みが叶えられれば、僕に力を授けてくれるって事になってる。
 だからこそ、命を代償にここまで頑張ってきたんだ。


「それはおまえ次第だな。おまえがどこまでの器なのか次第だ」
「なんだそれ……」


 いまいち信用できない。てか具体的な事、何も言ってないしな。アホな契約したと今なら思う。テトラの奴は目の前で愉快に笑ってるし……そこら辺は実はどうでも良いって感じだな。
 まあテトラにとっては確かにどうでも良いことか。僕のパワーアップなんて、こいつにとっては僕を釣るための餌みたいなものだ。
 この場合、その不確かな餌に釣られた僕が悪いのか。釣り上げられても文句を言える魚でありたい……そんな意味不明な事を思ってると、目の前のテトラの姿が歪む。
 いや、それだけじゃない。周りの真っ暗だった景色がなんだか崩れてるような? すこしずつ光が見える。


「そろそろ時間だな。世界に再び出現する時だ」
「ん? どういう事だよ? お前は今、既にここに居るだろ?」


 訳が分からない。まるでまだこっちの世界に出てきてないみたいな言い方。幻術かなにかか今のお前は。


「ここは狭間だ。世界と世界、精神と世界……とかのな。お前と俺は契約で繋がってるから、こういう特殊な場所で一足先に会えてると言うことだ。
 向こうに出ては、こんな風にお前と話せるか分からんからな」
「対面とかの問題か? やっぱ邪神とか呼ばれてるから、五種族と仲良くやるのは不味いとか?」
「仕様だよ。俺は貴様たちのラスボスだからな。どうやったって戦う以外の選択肢などない」


 ラスボスってそれは言っちゃって良いことなのか? まあLROのミッション……ストーリー的ラスボスなんだろうけど……自身でバラすか普通。
 仕様とか良くテトラは口にするけど、コイツにはあんまりそういうの関係ないと思うんだ。だってどうみても自由にやってるし、コイツだけは自覚してる。自分がゲームの一キャラであることを。
 でもだからこそ仕様とか簡単に口に出来るのかも知れないけどさ……その言葉を聞く度にこっちはちょっとイラッとくるんだよ。
 仕様、仕様って……その言葉で全て片づけてるけど、一番色々と反発してるのはお前だろ。本当は僕と接触なんかしちゃいけない筈じゃないのか? そこれそ仕様とかで。
 だってラスボスだろ? 最後のとっておきの為のイベントとか、戦闘場所とか用意されてるんじゃないのか? それら全て吹っ飛ばしてこんな所に現れようとしてるじゃないか。
 どの口が仕様とかほざいてるんだよ。


「不満そうな顔だな。俺を殴り飛ばしたそうだ」
「ああ、そうだな。一番システムに足掻いてるのに、簡単にシステムを受け入れるような発言を繰り返すお前がムカつく。
 戦うしかないって……お前を復活させた奴は、戦闘したい訳じゃないぞ。交渉をしたいんだ。それを受け入れる余地も無いのか? 仕様で無条件でお前は僕たちを襲うのか?」


 ローレに寄る訳じゃないけど、既に復活が確定事項なら、聞いておきたい事だ。どんどん周りが明るくなってくる。テトラの姿も僕の姿も次第に明るさの中に溶ける様になくなって行ってる。
 するとテトラはこう言うよ。


「戦う――という事をどう捉えるかの違いだな。少なくとも俺は、その意味を幅広く捉えてるつもりだ」


 幅広くね。それはもしかしたらローレの思惑通りになる可能性もあるって事だろうか? 少し安心出来るような……別にそうでも無いような……微妙だな。


「油断するなよ。どちらにとってもお前には良いことには成らないだろう。だが俺を恨むのもお門違いだ。自分の力のなさに落ち込め。
 俺はただ、自分の願いの為に動くだけだ」


 そう言ってテトラと共に、この空間が静かに消える。意識がどこかに引っ張られる様な感覚。そしてどこかから響く鐘の音で僕は目を覚ました。




 目の前はさっきと変わらない状況の様だ。フィアにメノウ……後ろを見るとローレやリルフィンやノームの姿。後は縛られたイフリートも変わらない。
 だけどどうやら黄金の棺はなくなってるな。あの一瞬広がった黒い光はなんだったんだ? あれを感じたのは僕だけなのか?
 てかなんかみんな上を見てる。僕も上を見ると、なんだか黒い物がウニャウニャとウネってた。


「なんじゃありゃ!? ――てか、なんだこの音?」


 僕を叩き起こしたこのガランゴローンやらドーンやらと響く大量の音は一体どこから鳴ってるんだ? そんな大量の鐘とかこの世界樹に括りつけられてたか? 見たことないけどな。
 そう思ってると意外な所から答えが返ってきたよ。


「なんじゃって、もうちょっとリアクションはないのかしら? てかまあ貴方達は敗北したの。その位は寛大に受け入れてあげるね。
 それにこの音は下を見ればわかるかも」
「下?」


 フィアの言葉に僕は足下を見てみるよ。別に何もわかんないけどな。


「バカなの君は? 下の世界を見ろって事よ。そして耳を澄ませなさい!」


 むむ……召還獣で一番バカッぽそうな奴にバカって言われた。なんかショック。とりあえず遠くに見える丸い球体の端っこ部分を眺めて見るよ。そして耳を澄ます。


「いろんな音が鳴ってるけど……遠目過ぎてなんとも……まさか世界中の鐘が鳴り響いてるとか言わないよな?」
「そのまさかだよ。この日、この時、この瞬間、邪神は今まさに復活を遂げる。それはシスカ神を崇めるシスカ教にとっては大問題でしょ。
 世界中の鐘はその警鐘を鳴らしてるの」


 だからこそ、こんな空を越えた所にまで音が響いてるのか。地上にいたらさぞうるさそうだな。すると今度は後ろから小生意気な声が……


「止められなくて残念だったわねスオウ。これで世界は大きな変革に動き出すわ。もう、何をしても手遅れよ。だから後は傍観者にでも成ってて。
 そして証明してね。私と邪神とのやりとりを」


 そう言ってローレは僕たちを越えて、黒い光の柱が立ってた場所まで歩く。上でうなってる黒い固まりは、何かをドロッと落とす。それはテトラの像?
 ようがなくなったって事だろうか? すると黒い物は一斉に弾けて下の世界へと落ちていく。そしてその中から姿を現したのが、さっき見たテトラ……その者だ。みんなの雰囲気が一気に張詰める。
 そしてなんだかテトラの雰囲気ちょっとさっきと違うような……


「ご苦労……といった方が良いのかな? それともありがとうの方が良いか?」


 テトラの第一声はそんな感じだった。雰囲気違うように感じたのは勘違いか? 別段さっきと変わらない様な……すると後ろから聞こえる咆哮にみんながビクッとしたよ。


「邪神テトラアアアアアア!! 今すぐ暗黒大陸に帰ってろ!!」


 そう叫んでリルフィンがテトラへと迫る。手にした武器と共に床を蹴って、空中に現れてるテトラを目指す。だけどそんなリルフィンの攻撃は、なんと指一本……も使わずに微動打にされずに防がれた。
 何? 一体どういう事だ? あの服がとてつもない障壁を張ってるのか?


「フィンリルか? おかしな姿をしてるな。それに昔とは随分性格が荒っぽい。そういうのはイフリートの担当だろ? お前はもっと知性的にしたはずなんだけどな。
 それに知ってるだろ? どう足掻いてもお前達は俺には勝てないさ。生みの親である俺には勝てない」


 その言葉と共に、テトラは中指一本でリルフィンを弾く。一瞬にして床に叩きつけられるリルフィン。圧倒的……なんて物じゃないぞ。なんか前に対戦した時よりも強く成ってないか?
 とうとう邪神テトラが復活して、これからどうすれば良いのか……僕にはわかんない。リルフィンみたいに突っ込んでみるか?
 いや、事前に話した事が引っかかってそれも出来ないよ。イクシード・アウラじゃテトラには勝てない。それを断言されたような物だ。


「流石邪神と呼ばれる神。自分の子にも容赦ないわね。それとお礼なんていらないわ。ただ一つ、なにかくれるというのなら、交渉をしたいわね」


 ローレの奴……どこまでも上から行く奴だな。流石にテトラには敬語くらい使うかと思ってたけど、全然そんな事なかった。最早天晴れな度胸といわざる得ない。


「交渉か――邪神と呼ばれる俺にそんな事を申し込むとは面白い」


 そう言いながらこっちをちら見するテトラ。初めて聞いた様な言い方だけど、事前に言ってたからな僕が。だからあいつ的には「キタアアアアアア!」みたいな感じか?


「むしろ私的には普通だと思うけど。邪神ってつけるんだから神様って認識あるんじゃない。それなのにただ戦うしかないって非効率的でしょ?
 神様なら立派な頭を持ってるでしょうにね」


 なんかローレの奴、バカにしてないか? ぶっ殺されるぞ。自慢の召還獣もテトラの前ではどの程度の役割を果たせるかわかったもんじゃないんだからな。


「ふっ……だからこそ考え抜いた結論や信念があるとも言える。そう言う物が一番曲げ辛いと、貴様は知ってるか?」
「知ってるわ。私は私の信念を曲げるつもりはない。自分が正しいと信じてるから」
「同じだな。俺も正しいと信じてやった事がある。その結果邪神と呼ばれても、俺は後悔などしていない。この場合、俺たちは相入れないと思わないか?」


 なんだか自然と戦闘に流れを以降させようとしてないか? 無双しちゃうぞテトラの奴。あいつは流石に、ローレでも止められないと思う。そしてそうなったら、ローレはおしまいだろ。
 邪神を復活させた罪は即極刑になってもおかしくない。少なくとも権力も人望もなにもかもを失うことは確実だ。だってこのまま暴れたら、世界はきっと終わる。そしてこのまま何もテトラがしなくても、イヤでも世界の在り様は変わるんだ。
 ローレが生き残る道は、既に一つしかない。


「そうね。相入れないかもしれないわ」


 おいいいいいい!? なんかローレの奴速攻で認めたじゃん。前にこんな風になったら「思いを通すには戦うしかないわよね」とか言ってなかったっけ? もうバトル突入かよ? 
 だけどどうやら、まだローレは諦めてないようだった。


「だけど貴方は私達が戦いあうことを本気で望んでるとは私は思わないわ。ねえテトラ、貴方は創造神なんでしょ? 女神シスカと共にこの世界を創造した神。その貴方が、この世界を……そして私達五種族を滅ぼしたいと考えてるなんて思えないわ。
 貴方がスオウに託した望み……そこに貴方の気持ちがあると思うのは私だけかしら?」


 僕に託した望み……そう言えば心当たりがあるとかローレは言ってたな。それは一体……シスカに関する事だとは僕も思うけど、それ以上はハッキリ言ってわからない。情報無さ過ぎだもん。
 二人は無言で視線を絡めたまま動かない。すると先に折れたのはテトラの方だった。


「くっく……ははははははっははっは!! 面白い。実に面白いなお前は。交渉か……久々に長く語らうのも良いかもしれん。お前は俺たちの思いがそう遠くないと、思ってるんだろう?」
「そうね。少なくとも私は、この世界を滅ぼしたいなんて思ってないしね」


 そんなの誰だってそうだろ!? って突っ込みたくなった。だけどなんだかテトラはそれでも良いみたいな感じ? 一体どこであいつ等繋がったんだ?


「だが、しかし簡単にお前を信じれないのも確かだな。それにこの場にはふさわしくないのが居る」


 その瞬間、視界からテトラの姿が消える。そして目の前で揺れる黒い髪。一瞬でコイツ!? 


「返して貰おうか。俺の願いの欠片を」


 その言葉と共に、テトラは僕の胸に腕を突っ込む。なんだ? 胸に黒い穴があいてるぞ。そしてそこからテトラは何かを取り出す。金色に輝くあのガラス瓶は――


「金魂水!! 何で!?」
「お前は期待外れだったと言うことだよスオウ。俺自身がこの世界に居れるのなら、お前など不要だ」


 その言葉と共に、目の前に収束する黒い固まり。それが次の瞬間に一気に放出される。強力な砲撃、だけどそれを僕はあの一瞬でかわして、テトラの背後に回る。


「勝手な事ばかり言いやがって! 勝手に契約破棄するのは違反だろ!!」


 僕はセラ・シルフィングを振るう。だけど奴はそれを上手くかわしやがる。障壁や防御じゃない、ただたんにかわすんだ。


「一応最後までやらせろと? そんな事に既に意味などない。雇い主は俺で、お前は飼われただけの犬なんだよ。餌を与えるも捨てるも自由だろう? 勘違いするな。俺たちは対等じゃないんだ」


 スルリと攻撃をかわして僕の懐に潜り込むテトラ。そしてその腕が僕の体に触れるなり、体を貫通する衝撃が全身を痺れさせた。


「な……にを……」


 僕は地面に倒れ込む。コイツには最初会った時からそうだ。何も通用しない。なんなんだ……なんなんだよ一体! 悔しすぎる……


「お前はまだまだ弱い。だからこそ強さに惑わされるんだ」


 どういう事だよ一体……訳が分からない……いつだって僕の周りの奴らは言葉が足りないんだ。十を説明しろとは言わないけど、せめて五位はだせ……バカ野郎。
 一とか二程度の言葉で全てを察せなくて失望されたって……こっちが迷惑なんだよ。
 するとその時、どこからこんな声が聞こえた。


「ダメエエエエエエエ!! スオウを虐めないで!!」


 それは間違いなくクリエの声だ。あいつ……こんな所にくるなよ。どうにかしたいけど……ダメだ……体が動かないし声も出ない。するとクリエを見てたテトラが震えながらこんな事を口ずさむ。


「あれは……そうか、あれがもう一つの鍵。丁度良い。何故最初見たときに気付かなかったのかわからんが、今がベストタイミングだ」


 そう言ってテトラが腕を向けると、クリエの周りに黒い煙りみたいなのが現れてクリエを捕まえる。何をする気だコイツ? クリエを一体……鍵ってなんだよ?


「お前は何も出来ないな。本当に……昔の俺の様だ。だが救いはここで全て終われる事だ。楽にしてやろう。同じ存在の手でな」


 そう言ってテトラはローレの方を向く。そしてこう言った。


「お前がこいつを殺せ。後一撃も叩き込めばいい。それが出来れば、お前を信頼して話をしようじゃないか。出来なければ俺は一人で自分の望みを叶えに向かう。
 暗黒大陸との隔たりがなくなった今、世界はより凶悪で凶暴な暴力に支配されるだろう。その原因はお前に擦り付けられる。
 さあどうする? 自分の為に狙ってた男を殺せるか?」


 ローレ……テトラの奴……なんて事を言うんだ。言っちゃ悪いけどアイツなら――


「しょうがないわね。スオウ……死んで、私の為に」


 ほらやっぱり!! 絶対そう来ると思ってたもん。こいつの僕に対する執着なんてそんなもんだよ!!


「案外アッサリだな」
「自分自身ととじゃ比較になり得ないわね。こんなの即決に決まってるわ」


 悪魔だ。悪魔がいるぞ!! おいおい、まじかよローレの奴。フィアと共に、なんかとんでもない魔法が発動しようとしてるんですけど!?


「折角だから、大きめの奴で派手に送ってあげるわ。あんたの事、嫌いじゃなかったわよ」


 何勝手に一人でお別れの挨拶してるのアイツ? やばいってコレ。絶対に死んでも死にきれない! 化けて出てやる!! 
 光輝く星が空から一つ降ってくる。目の前が真っ白になって全てが消えていく。


「さようならスオウ」


 そんなローレの声だけが頭に響いてた。だけどそれを上回る勢いで僕は」「こなくそおおおおおおおおおおお!!」と心で叫んでた。

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