命改変プログラム

ファーストなサイコロ

夜が襲う



 夜空に吹きすさぶ激しい爆風。バトルシップのありったけの砲撃。だけどその燃え盛る炎は中心に向かって吸い込まれていく。
 そして夜空の闇と同じように変わりなく、そこに存在してるエルフ聖獣。やっぱりどんな強力な攻撃でも、遠・中距離じゃ奴に傷一つつけることは出来ない。全てはあの盾に吸い込まれてしまう。
 そう思ってると、奴はその盾を向ける。ヤバい!


「そこから離脱しろ! 早く!!」


 僕はバトルシップに向かってそう叫ぶ。すると次の瞬間、もう一度さっきと同じ衝撃と爆発が巻き起こる。盾が吸収した攻撃を解き放ったんだ。
 だけどバトルシップはそんな爆発から間一髪逃れてた。それは流石の軌道力だ。こっちも何とか距離を保てたな。


「大丈夫かエアリーロ?」
【人に心配される程、私は落ちてません。それよりも、貴方の方が見た目的には危ないですよ】


 全く、素直じゃない所は主にそっくりなんだから。確かに見た目は血が流れてる僕の方がヤバそうだけど、実際エアリーロだって相当ダメージ受けてるだろ。


【私たちは主からの魔力供給がある限り存在を保てます。貴方はその一個の命を燃やしてるのでしょう? リスクの大きさが違います】


 そう言われると、確かにまあそうなんだけど……分かっててくれるのは嬉しいよ。


「それも全部分かってやってることだ。今更気にする事じゃない。アイツにどうやって勝つか……それを考えようぜ」


 バトルシップだけじゃない。今や一斉砲火がエルフ聖獣に浴びせられてる。艦隊もモンスターに襲われてるのに、それらには僧兵自身が対応してるのだろうか? でも助かる。
 効きはしないだろうけど、盾の効力を広げさせてるためか、エルフ聖獣はその場から動けないみたいだ。今ならどうにか一息出来る状態だ。
 でもそれも長くは持たないだろうし、奴の攻撃を突破する術を僕たちは持ち合わせてない。


【勝つ手段……これは推察ですが、奴はこの夜の帳を攻撃に使ってると思われます。この夜の空が、奴の攻撃の領域範囲】
「んな!? おい、それは無しだろ。そんなの防ぎようがないないぞ」


 幾ら聖獣だからってやっていい事と悪いことってのがな……どいつブン殴ればそのふざけた仕様変更出来るんだ? やっぱ当夜かあの人だろ。


【夜に溶けるとはきっとそういう意味です。奴の影が追いつく事は出来ないし、後のは全て吹き飛ばした筈。それでも無数の攻撃が所かまわず降り注ぐのは、奴が自身の影の代わりを手にしてるとしか考えられない。
 そしてそれは私たちが絶対に逃れられないとするなら……その闇はこの夜そのもの】


 夜と言う闇自身を味方に付ける力……か。あの盾もそうだけどチート過ぎる。まあ夜だけの特殊効果と思えば……いやいや、ないない。


「この夜を使ってるって……どこにも逃げられないぞ。どうするんだよ」
【確かに逃げ場はないでしょう。ですが夜という闇に紛れて放たれてるならば、あるいはその姿を捉える事が出来るかも知れない方法はあります】


 何? 勿体付ける言い方をするエアリーロ。すると砲撃を受け続けてるエルフ聖獣の野郎が、盾に蓄積された砲撃を解放。それで一時的に艦隊からの砲撃を防ぎ、その隙に大きく羽根を広げて奴は艦隊の方へ。


「エアリーロ!」
【ええ、行かせはしません!】


 エアリーロは両の翼に風を集め、それを聖獣へ向けて放つ。その風は聖獣の飛行事態を妨害して、奴の進行を妨げた。
 すると聖獣がこちらを見てこう言ったよ。


「そんなに死に急ぎたいか。我が奴らを殺すまでは生きれただろうに。その望み叶えてやるぞ!」


 そんな呟きと共に、聖獣はこちらにその刀身を無くした武器を向ける。エアリーロの言葉を聞いたからか、夜と言う化け物がそこら中から僕たちを狙ってる様な……そんな変な感覚に襲われる。
 だけど気圧されちゃいけない。僕は目一杯強がってこう叫ぶ。


「先に死ぬのはお前だ!」
「まだ、そんな言葉を叫べるとはな!!」


 上から放たれる砲撃を避けて、エルフ聖獣はこちらに迫ってくる。全身の毛が逆立つような感覚……恐怖を感じてるのかも知れない。再び始まる、捌ききれない攻撃の恐怖。
 だけどエアリーロには何か策がある。それを信じるしかない。だからそれまでは出来うる限り、奴の刃をたたき落とそうじゃないか! 
 エアリーロの背で聖獣と対峙し、奴の振りかぶるその見えない攻撃を闇雲に振るう剣で落とす。遭いも変わらず、傷は増えていく。
 だけど今はちょくちょくとバトルシップが援護をしてくれる。その機動力で、聖獣の後ろをとったり、危ないときは回復魔法をくれたりと、かなり頼りになる。
 そしてエアリーロはいきなり下へ。すると辺りが暑くなってきて、そして炎の光で明るくなる。すると切迫感みたいなプレッシャーが軽くなったような? そこで聖獣の振りかぶる姿が見える。
 僕は必死に目を凝らす。まずは奴の動作の延長線上は必ず一応防ぐ。そこは確実に手応えがある部分だからだ。だけど問題はいつもここから、見えない刃の無数の攻撃が来る瞬間。
 ここで見極める。夜の闇をたぎる炎が照らす場所。ここなら……すると上から迫る何かを感じる。僕は片側のセラ・シルフィングを向けた。
 だけどその何かは、セラ・シルフィングにぶつかる前に消えた? しかも僕達にはどこにも傷が増えてない。これはまさか……夜の闇が届いてない場所だからって事か?


「気付いたか?」
「おう、お前のその見えない刀身は夜と言う闇に溶かしてたんだろ。だけどこの明るさじゃ闇は届かない。その刀身も意味なんてないな!」


 僕の言葉に聖獣は口をつり上げる。


「意味はある。元が無数の刃など付加価値でしかない。それに間違いは正しといてやろう。この剣の刃はここにある。
 これを振るう影響をただ夜という闇に乗せて広げてるだけだ」
「だからここならその影響はないって事だ」
「ああ、だが言っただろう。そんな物はただの付加価値。貴様がその一対の剣を信じてる様に、私もこの剣を信じてるんだ!!」


 そう言って迫る聖獣。そしてその武器を突き出して来る。見えない刀身……間合いが分からないじゃないか! でも僕には今までの感覚がある。前方からの攻撃は防げてた。
 ようはその感覚が奴の間合いだ。僕はタイミングを見計らってセラ・シルフィングを振りあげる。その瞬間に腕に伝わる感触。


(よし!)


 見えないけど確かにここにある。どこから来るか分からない無数の刃よりも、まだマシだ。僕の感覚が教えてくれるんだからな。


「うおおおおおらあ!!」


 僕は聖獣をはじき返す。だけどそれでも直ぐに聖獣は迫ってくる。何度も何度も燃え盛るリア・レーゼの近くで僕たちは接触する。上には行けない……夜の闇が広がる空は奴のテリトリー。ここで決めるしかない。
 何度目かの衝突。ぶつかり合う刃。するといきなり奴の刃の感触が消えた? そして振り下げてた腕を今度は振りあげる。それと同時に体に走る痛み。


(斬られ……た?)


 どうして? 


「この刀の刀身を見誤ってるんだよ貴様は」


 そんな言葉を受けて、思い出す。そうだ、こいつ様々な距離から振るってた。僕はそれを感覚だけで受けては弾いてたけど、それが明確に示してる。
 奴の武器は伸縮可能だろうって。いや、実際あいつの事だから、そうじゃなくて影を使っての刀身移動かと思ってた訳だけど、もっとシンプルで単純な事だったのか。
 でも確かに見えない刀身なら、それは有効だ。ぶつかり合った次の瞬間に聖獣は刃を伸縮してる。突如としてなくなる切迫の感覚が続くんだ。
 そして長くして切りかかって来るものだから、避けようがない。


【大丈夫ですか? ヒドい出血量ですよ】


 エアリーロが僕の姿を見て心配してくれてる。確かにヤバい出血量になってきたかも……エアリーロの背に立ってるのも結構キツい。
 でもここまでエアリーロは良くやってくれた。奴の厄介な能力もこの明かりで防げてるし……後は僕が頑張れば良いだけ。近接戦闘なら、奴の盾の力は発動しない。だからこそ何回も接触戦闘をしてるんだ。


(やらなきゃいけない……やらなきゃ……)
【スオウ?】


 再び迫るエルフ聖獣。僕は霞む視界にその姿を捉えて、セラ・シルフィングを構える。やりようはまだある。奴の剣が伸縮自在でも、その刃は柄から離れちゃいない。そして奴の剣はたった一つ。羽を使わなければ……だけど。
 これまでで奴のパターンは分かってる。僕たちは交錯点に併せて攻撃を仕掛けてる。その一撃をアイツは普通に受け止めて。動き出すのはその後――――僕の攻撃を確実に止めて、その見えない武器の特性を生かして攻撃を届かせてる。
 それならこっちだってこちらの武器の最大の長所を生かすまでだ。セラ・シルフィングは双剣だ。聖獣の二度目の攻撃にもう一方の武器を併せれば良い。
 問題なのは、二度目の攻撃でも聖獣は別に近づく必要がないって事だ。伸ばす事だって出来るんだからな。案外用心深い奴だし、ぶつかった位置以上に踏み込んで来ることはないんだ。
 でも……それじゃあ困る。確実に当てる為にはもう後数センチ踏み込んでくれないと……どうしてもエアリーロの背という呪縛がある僕と自由に空を飛べるエルフ聖獣じゃ動いて出来る事に差がでる。


「はぁ……はぁ――っ!」


 迫ってた聖獣の姿が一瞬消える。ここでアイツが引く訳ない。それなら必ず近くに現れる!
 下から燃える街並みの熱が上がって来る中、僕はその姿を探す。そして僅かに聞こえる風切り音。僕はとっさにその方向へ近い方のセラ・シルフィングを向ける。
 確かな手応え。どうやら別に消えた訳じゃなく、少し上へ上がって飛んできた……みたいな感じだ。視界がボヤケてたせいで見逃したか。
 だけど僕のこの反応は、良い複線になったかも。弱ってる所を見せれば、例え慎重な奴でも欲は出る。しかも自分の攻撃がノリノリで効いてるんだからよりそうだろう。


「随分辛そうだな。反応が遅れてるぞ」


 ギリギリと亀甲する状態でそんな事を呟く聖獣。やっぱりちゃんと見てるな……良いことだ。


「何の……事だ――――――――よ!?」


 僕は精一杯強がる声を出してた。だけど聖獣が次の動作……つまりこの亀甲を自ら終わりにする前に、片膝を付いた。


【スオウ!】


 エアリーロの驚きの声が聞こえる。そう心配すんなって……これは演技の様なガチだけど……大丈夫。問題ない。


「もう受け止める力も残ってないか? なら潔く斬られてろ!!」


 そんな言葉を放ち、案の定聖獣は僕に更に迫る。


(ここだ……ここしかない)


 僕は頭でその言葉を紡ぎながら、瞳に力を宿す。セラ・シルフィングから放したその見えない武器で、聖獣は僕の脳天めがけてその刃を振り下ろしてる。
 腕の感覚がちょっとおかしい。重いような軽いような、セラ・シルフィングの重さがあるような……無いような……僕は気付くと、右側のセラ・シルフィングを素早く素早く振っていた。
 エルフ聖獣の胴に一線の傷が刻まれて緑の液体が噴き出す。体中にかかるその気持ち悪い血液。だけどまだだ、振り切ったセラ・シルフィングでもう一度今度は反対に斬るんだ!
 だけど次の攻撃は避けられた。聖獣はひとまず距離を取ろうとする。


「エアリーロ……ここで決めないといけない……よな?」
【確かにそれが最良でしょう……この炎もいつまでも燃えてる訳じゃない。月の明かりだけでは闇を照らし尽くせない。それならば今しかない】
「だな」


 僕はエアリーロの言葉を聞くなり、片方のセラ・シルフィングを鞘へ納めて、エルフ聖獣へと飛び掛かる。直ぐに次のチャンスを狙ってたから、そこまで離れてもいなかったのが運の尽きだ。


「うおおおおおおおらああああ!!」


 仰天してる聖獣の体に何とかしがみつく僕。一瞬ガクッと高度が落ちたけど、その羽を大きく広げて聖獣は立て直す。


「貴様! 一体何を考えてこんな事を!?」


 何を考えて……か。実際後の事はあんまり考えて無かったりしてる。だって血が流れすぎて、頭クラクラだし、そこまで深く考えられるか。
 この行動の理由は自分のたった一つの目的の為……だから僕は聖獣の腰辺りに必死にシガミツきながらこう言うよ。


「お前をここで倒す……為だろ!」


 腰回りのベルトをしっかり掴んで、僕は残して置いたセラ・シルフィングを切っ先を向けて下から斜め上へと突き出す様に動かす。串刺しにしてやるんだ。狙いは心臓。
 こいつが吸血鬼っぽいから取りあえず弱点っぽいところを狙ってみる。セラ・シルフィングは銀の杭じゃないけど、全く効かない……なんて事はない筈だ。それに今のセラ・シルフィングはイクシードで刀身の周りに風と雷の一回り大きな刃が出来てる。
 完璧じゃないけど、ほぼ形にはなってる。これはメドゥーサ聖獣も斬りきった状態だ。効く……絶対に! だけど切っ先と自身の体の間に聖獣はその盾を入れてきた。力を吸い取る盾……この盾に何度苦しめられてきたことか。
今だって……


「甘かったな。お前の攻撃が届くことはもうない! そして自分から飛び込んできたこと、後悔させてやる」


 その瞬間、体全体に掛かるもの凄いG。聖獣の奴、地上近くから一気に夜天の空へと上がってく。


【スオウ、その手を離すのです!! 早く!!】


 追いかけ来てるエアリーロの声が聞こえる。確かにこんな星空満点の空じゃ、聖獣の透明な武器の能力にやられるだろう。
 だけど……放すわけにいかないんだ! 僕は体に掛かるGを堪えながら、必死にセラ・シルフィングを押し込む。


「無駄な足掻きを!!」


 大きく翼を動かして、更に加速する聖獣。本殿を越えて、もっと上へ上へと昇る。腕が……体がその風圧でガタガタと震える。でも……ダメなんだ……ここで放したら、ダメだ。
 すると上から迫るバトルシップが見えた。そして一斉に砲門をあけて、ありったけの火力をぶっ放してくる。今の聖獣はセラ・シルフィングに盾を使ってる。
 防ぐ術はないから、案外いけるかも……だけどそんな僕の考えは甘かった。聖獣はその武器を一振りすればよかっただけなんだ。
 それだけで、夜の闇から現れる無数の刃が、迫り来る攻撃を全て粉砕してくれる。そして空で沸き立つ爆炎の中に突っ込んで、それを抜けて更に上へ。
 やっぱりコイツの武器か盾……どちらか一つはどうにかしないといけない。盾に接触してるセラ・シルフィングからは、少しずつだけど力が盗られてる感覚がある。
 それでも少しなのは、きっとこの力が僕の手元を離れてないから……だと思う。遠距離攻撃はその制御が難しいからこそ、飲み込むのも容易なのかも知れないけど、自身の意思が強力に影響してる場合だと、易々と力を食らえない……のかも知れない。
 だからこそ、近接戦闘が有効だったんだ。まあコイツとの近接戦闘はあんまりやりたくもないけど……でもそんな事言ってられない。これだけ接近できて、これだけ近くで武器を振るえる機会がこれからあるかどうか……
 僕は思い出す……イフリートの炎でこの盾が壊れたことを。イフリートの奴は特殊だから、その炎を吸収されながらも壊せたんだろうけど、僕達普通のプレイヤーにはそれはきっと無理だろう。
 だけどそれは遠距離の場合だ。上手く力が吸い取れない近距離での攻撃なら、威力を削られないまま、盾自体にダメージを与える事が出来るはずだ。
 今まではその手から外す事ばっかりしてたけど、壊せるのなら……壊したい!! この盾が無くなれば、もっと幅広い攻撃が出来るんだ!


(イクシード……頼む。その切れ味を見せてくれ!!)


 上昇するに従って寒くなってくる。息も白くなり、体がまた別の要因でも震え出す。だけど僕は手を下ろさない。でも押し込むだけじゃ流石に無理っぽいから、ガンガンと何度も何度も突き刺してやる。


(壊れろ……壊れろ……壊れろ)


 と念を込めて、ただひたすらに腕を動かし続ける。すると遂に大きな月を背にして聖獣が空中で止まる。雲が下に見える……一体どれだけ上がって来たんだ……


「さて、ここが貴様の墓前だ。覚悟は十分出来たよな?」


 そう言って刀身の見えない武器を掲げる聖獣。周りから感じる異様な圧力。闇が僕を狙ってるようなこの感覚は……忘れようもない恐怖だ。だけど、僕はまだ諦めない。
 この腕が降り下ろされたら終わりだ。だけど、今ここでこの盾だけでも壊さないと、寿命がちょっと延びるかここで終わるかの違いだろう。
 僕は顔を上げて、目一杯の力で叫ぶ。


「僕の覚悟は、今ここでその盾を破壊するって事だ!!」
「無駄な事を! 貴様如きが破壊できると思うなよ!!」


 見えない刀身が僕へ向かって降り下ろされる。だけど僕は防御なんて考えずに、ただ真っ直ぐにセラ・シルフィングを突き出す。真っ直ぐ直線で……そして何度も何度も突いた場所を目指すんだ!!
 どうせこの攻撃、この一振りを受け止めた所で意味なんてない。周りの闇が僕を切り刻むんだからな。しかも今度は動いてない。きっと肌の浅い部分じゃなく、骨までも届く攻撃になるだろう。
 それが分かりきってるからこそ、僕は防御を捨てる覚悟が出来る。ヤケクソなのかも知れない……でも、先に届くのはセラ・シルフィングだ!! 振り下ろしと突きなら、突きの方が直線だから速い。
 それに今のセラ・シルフィングは軽いし、刀身も一回り延びてる。




「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」




 僕達の声が夜空に木霊する。そして僅かに速く届く確かな手応え。何度目かのそれは、今度こそ、その堅そうな体に突き刺さってる。
  するとそこから一気に漏れ出す風と雷。きっとこれは少しずつでも吸われてたイクシードの力。その力が一気に弾けて、僕と聖獣を突き放す。


「うぐあ!?」
「づああああああ!!」


 聖獣は直ぐに空中で態勢を整える。元々僅かな力しか吸われてないから、本当に一瞬だったんだ。だけど僕はそうはいかない。雲よりも高い空から、地面へ向けて一直線だ。
 雲を突っ込み抜けると、激しい炎に包まれてるリア・レーゼの姿が見えた。まだみんな戦ってるんだ。僕だけが退場する訳にはいかない。そう思ってると、優しい風が僕の体を包み込む。


【全く、無茶しすぎです。本当に死にますよ】


 エアリーロにまたまた助けられたな。まあ期待してたけど……いや、信じてたさ。すると雲が一気に斬り裂かれる。そこから現れるのは勿論エルフ聖獣だ。


「やってくれたな! だが、貴様等を倒すのはこの刀一振りで十分だ!」


 そう叫んで迫ってくるエルフ聖獣。確かに僕達を殺すのはあの一振りで十分だろう。だけど……自分がどれだけあの盾に依存してたか、それを思い知らせてやる。僕は急いでエアリーロの背へと戻る。
 その時点で、既に立つ体力がほぼ無い状態……


【盾がない? それなら!】


 エアリーロは遠距離攻撃を仕掛けようとしてる。でも僕は敢えてそれを止めるよ。


「ダメだエアリーロ。ここじゃ奴を倒せはしない……なあ、どうにかしてバトルシップや、艦隊と連絡を取る手段はないか?」
【何か考えでもあるのですか?】


 僕の言葉を聞いてそう訪ねるエアリーロ。僕はエアリーロの背で這いつくばりながらこう言うよ。


「ある……アイツの油断、慢心……そして無くした物の大きさを分からせてやる。だから、罠を張る」
【面白そうですね。貴方の言葉は私がこの声で届けましょう。私の声は数キロ程度は届きます】


 なるほど、それは心強い。僕は霞む視界の中、月を背にして迫るエルフ聖獣を見据えて笑う。


(必ず勝ってみせてやる)

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