命改変プログラム

ファーストなサイコロ

煌く風と、業火の炎



 空に展開する大量の飛空挺艦隊。チカチカとその艦隊上で光が見えたと思ったら、鋭く地面が抉られる。一斉にバラケてくモンスター共。奴らは今、混乱してる。


「行ってください! 貴方達は速く! 今のうちに!」


 そう言ったのは怯えてた筈の僧兵だった。まさか彼がそんな事を言うなんて思っても無かったよ。だってあの鬱状態の姿からは想像出来ない。
 サン・ジェルク艦隊の登場で少し希望が持てたのかな。まあそれは、僕たちも同じだけどね。ここでの艦隊到着は大きい。


「大丈夫です。私達はもう一度リルフィン様が戻ってくるまで耐えて見せます!」


 別の僧兵もそんな風に言ってくれる。そんな言葉を聞いて、ミセス・アンダーソンが「行きましょう」と言った。僕達はその言葉に頷くよ。


「頼むリルフィン」


 僕の言葉でリルフィンはその体を再び大きな狼の形態にする。月光の光を集めて格好良い召還獣となった姿が現れる。


【乗れ!】


 そう言って姿勢を低くしてくれる。僕とセラ、シルクちゃんにテッケンさん、そしてミセス・アンダーソンが真っ先にその背に乗った。
 そして地面を蹴って空中へと躍り出るリルフィン。まずは崩壊した本殿へ続く道の方へ行ってくれる。上から見ると、やっぱりヒドい事になってるな。
 瓦礫もいっぱいだし、本当にここからもう片方のセラ・シルフィングなんて見つけ出せるのか? 


「では、急いでやりましょうか」


 そう言ってアンダーソンが杖を腰から出す。そして今度はその杖を右手に持って、左手側をそっとなぞる。


「おい、まさかまたあの吹き飛ばす奴使う気か? 僕達まで落ちちゃうぞ」


 警戒しながら僕はそう言った。だってどうみてもその挙動はそうだろ。こんな狭い場所で使うなよな。しかも一体それでどうやってもう一本のセラ・シルフィングを見つける気だよ。
 するとアンダーソンは手を差し出してこう言った。


「今度のは今までとは違います。反対ですよ。良いから早く武器を貸しなさい」


 反対? どういう事か分からないまま、僕は取りあえずセラ・シルフィングをアンダーソンに渡すよ。自分の体よりも大きな剣だ。アンダーソンはバランス崩しながらも何とか剣を両腕でがっちりと抱きしめる。
 あの状態で魔法とか発動出来るのか? ちょっと心配だ。そうこうしてるうちに、飛空挺艦隊には空を飛べるモンスター共が攻撃しに行ってた。戦いは益々激化していくな。


「ではやりましょう。魔法に指向性を持たせます。少しお待ちを」


 するとアンダーソンの周りに魔法陣が現れる。組んでた魔法に何か手を加えてる? そんな感じかな。簡略化しての高速発動を実現してる――とか行ってたもんな。
 指向性って事はその魔法に対象を与えたりしてるって事か? そう思ってると、終わったのか「どっこらしょ」とか婆臭い事を言ってアンダーソンは立ち上がる。


「行きます!」


 アンダーソンはそう言って杖の光を剣に移す。すると杖の動きにあわせてセラ・シルフィングが浮いた。そしてリルフィンの体から外に出た所でアンダーソンはこう叫ぶ。


「対になる剣よ、出てきなさい。インベージェ!!」


 すると下の瓦礫がゴトゴト動き出す。僕達は身を乗り出してそれをみてた。そして何かがボッと瓦礫の中から姿を現す。


「来た。貴方の剣でしょ?」


 そう言うアンダーソンの言葉に反応して僕は目を凝らす。するとそれは確かにセラ・シルフィングだった。でも……


「おい、聖獣のベッタベタした粘液まで付いてきてるぞ」


 それに一緒に張り付いてる瓦礫もだ。あの聖獣の粘液が邪魔でとれなかったんだよ。このままじゃ使い物に成らないぞ。


「そこまでは知らないわね。どうにかしなさい」
「どうにかって……」


 自分で出来ればとっくにやってるわ! するとそこでシルクちゃんが挙手するよ。


「はい! 私が解決します。ピク、お願い!」


 シルクちゃんの言葉に、傍を飛んでたピクが直ぐに反応する。その口に炎を溢れさせて、勢い良く飛んできてるセラ・シルフィングにその炎を吐き出した。
 なるほど、あの粘液を燃やし落とそうって事か。すると炎の勢いで瓦礫も落ちていき、そこに残ったのは確かにセラ・シルフィングだけになった。


「おお、ありがとうシルクちゃん!」
「いえいえ、やったのはピクですから」
「そうだな、ナイスだピク」
「クピーーーー」


 上機嫌に鳴き声を響かせるピク。僕はゆっくりと近づいて来るセラ・シルフィングを伸ばした腕で掴む。


「っつ――」


 ちょっとだけさっきピクの炎で焼かれた方は熱かったけど大丈夫、このくらいヘッチャラだ。それよりもセラ・シルフィングがもう一度揃った事の喜びの方がデカい。


「アンダーソンもありがとう。助かったよ」
「いえいえい、剣が足りないからとやられては困りますから。当然ですよ」


 アンダーソンの言葉はなんかちょっと……黒怖い所があるような。まあいっか、取りあえずこれで万全だ。回復もシルクちゃんがやってくれてるし、今度はいきなり来たときとは違う。
 後ろ盾もようやく来たし、もっと余裕を持ってぶつかれる筈だ。まあ本殿がどうなってるのかが問題だけど……


「では行きましょう。リルフィン、お願いします」


 アンダーソンの言葉で再びリルフィンは走り出す。夜空を駆けて目指すは本殿だ。そこにきっと奴らは居る。




 リルフィンは世界樹の周りで吹き荒れてる風を物ともしないで、優雅に走る。どうやら召還獣は干渉されない……のかな?
 まあ取りあえず良いことだ。本殿へと近づくと、次第に戦闘音が聞こえてきた。すると本殿からはじき出される奴らの姿が!
 リルフィンはスピードを上げて、そいつ等を大きな尻尾で包み込む。そして遂に僕達は本殿外周へと降り立つ。そこには三体の聖獣の姿とニ体の召還獣の姿、そして僧兵達に、鍛冶屋の姿もあった。
 後ろを守りながらの戦闘は流石に分が悪いのか、召還獣も目に見えてボロボロだ。召還獣は【エアリーロ】と【イフリート】ニ体とも強力な召還獣なんだけどな。
 強力であるがために、その力を全解放出来ないのかも。特にイフリートの炎とか、全てを灰に帰すイメージがある。


「さあ、そろそろ終わりにしようか。召還獣に、僧兵の諸君。うるさい蠅も来てしまったようだし、遊びはこれまでにしよう。神体と共に、我らはソラへ行く」
 ソラ?……それってこの世界中の最長部の事か? こいつらあの場所の事を知ってるのか? 確かローレはあそこは一部の偉い奴らしか知らないとか言ってなかったっけ?
 それをなんで聖獣が……それに神体って……


「おそらくテトラが一度顕現したあの像じゃないかしら? あれを使って邪神の復活をするんじゃない」
「なるほど……考えられるな」


 セラの言葉に僕は素直に同意する。奴らはまだ僕達が戻ってきた事に気づいてない。これはチャンスだ。取りあえずリルフィンは再び下に行かせて、僕達は本殿傍の仲間と視線を交わす。
 僕は特にエアリーロとね。アイツとは前の戦闘でコンビ組んだ中だし、セラ・シルフィングの力と相性がいい。


「気をつけてください。奴らがあそこまで背後に無防備なのはおかしいです。見えないもう一体の聖獣。その動向が気になります」


 確かに聖獣共の背中はまるで誘ってるかの様に無防備だ。怪しいと思うのが当然。モブリ聖獣がどこかで罠を仕掛けてる……その可能性は高いだろう。


「だけど、行かない訳にはいかない。大丈夫、心強い仲間が救援に来てくれたんだ。後は僕達が聖獣を倒しさえすれば、この戦いは終わる」


 そう、結局どれだけのモンスターを制圧しても、聖獣が居る限り、この戦いでの勝利はない。隙を見せてくれてるのなら、罠だとしても飛び込まざる得ないじゃないか。それにここには頼りになる仲間達が一杯だし、きっとどうにかなるさ。
 そう思ってると、聖獣が姿見えないローレに向かってこんな事を言ってた。


「聞いてるか星の御子よ。我らがテトラ様の神体を差し出せ。そうすればここに居る戦えない奴らは見逃してやろう。そして道を開け。上へのな」


 随分高圧的な態度でそんな事を言うエルフ聖獣。そんな態度であのローレが敗北なんて認める訳ない。それはもう確実に言えるな。
 そう思ってると、本殿の前に大きな映像が表示される。カーテン越しのいつもの奴だな。そしてやっぱりローレらしい事を言うんだ。


「随分な言葉ね。まるで既に自分達が勝者の様な、そんな言葉。舐めるな化け物。私たちは、この地を明け渡したりなんかしないわ。
 そのムカつく仮面を全てはぎ取ってやるから覚悟なさい」


 聖獣も聖獣だったけど、ローレはやっぱりローレだった。アイツそこまで聖獣を逆撫ですることないだろ。なんでもかんでも挑発すれば良いってもんじゃないぞ。
 てか、いつもはローレの言葉にノリノリでシンクロさせてるあの変わり身の子も今回ばかりはとってもガチガチじゃないか。
 見ててちょっとおかしいぞ。緊張してるのかな? 


「無能な頭を持つと下が苦労する。無能であることは、それだけで罪だと思い知らせてやろう」


 エルフ聖獣がそう言ったと同時に、魚聖獣とスレイプル聖獣が動く。超圧縮の水弾に自身の腕を変化させての砲撃。それらが本殿へと迫る。
 するといち早く召還獣ニ体が動いた。イフリートとエアリーロがその攻撃を各で防いでみせる。搔き消された聖獣共の攻撃、そして今度はニ体の聖獣の瞳がそれぞれの色に輝き灼熱の炎と輝く風を、今度は聖獣へと向ける。
 聖獣達はその二つの攻撃を避ける為に左右へと分かれた。エルフとスレイプルが左、魚が右だ。僕はその瞬間動き出した。最初に狙う奴が決まったからだ。


「魚野郎をまずは倒す!」
「確かに狙い目かもね」


 セラが僕の言葉に続いて来た。一体一体倒していく事が大事だ。僕は既にイクシードで風のうねりを発生させて、そのままエアリーロの起こした風へと突っ込むよ。丁度この風と炎で聖獣共を隔ててる。そして魚聖獣は風側に逃げたのも大きい。
 この風は僕の力にも成ってくれる!! イクシードのウネリに僕はこの煌めく風を加えて、更に加速する。


「でええええええええええええええい!!!」


 両手に携えるセラ・シルフィングはしっくりする。僕は魚聖獣の背中へ向かって、強力になってる風のウネリを振り下ろす。


(いける!)


 回避方向も想定済み。追撃の手を緩めないで奴を追いつめる!! だけどその時、耳の端で響くパッチンの音。すると風のウネリが展開された障壁に阻まれる。


「なっ……なんだこれ?」


 障壁は障壁だけど……風のウネリを阻んでるこれは見たことないタイプの障壁だ。てかフザケてる感じ。丸い感じのヌイグルミ……ってかモブリを大きくした風船の固まりみたいなのが現れたんだけど……ふざけた事を!


「かああああああっ――死ね!!」


 ウネリが阻まれると、魚聖獣が振り返って水弾を放つ。だけどそれを後ろから来てたセラがその武器で切り裂く。


「何モタモタやってんのよ!」
「うるせい、これからだっての!」


 セラの罵声を受けて、僕はウネリをそのフザケた障壁から放して、セラを越えて聖獣に再び迫る。今度は上からじゃない、右横から一本のウネリを聖獣へと近づけるんだ。
 すると上から障壁の筈の風船モブリが降りてきて再びウネリを阻みやがった。


「んなっ!? 動けるのかよコイツ」


 予想外……でも何の為にセラ・シルフィングは二刀流だと思ってんだ。僕は左側のセラ・シンフィングのウネリを魚聖獣へと向かわせる。


「バカが! この盾の存在を忘れたか!」


 そんな言葉と共に、聖獣はその盾をウネリへと向ける。すると風のウネリがその盾へと吸収されていく。確かにこれで僕は攻撃手段を失った。だけど!


「バカはお前だ。僕は一人で戦ってる訳じゃない!!」


 その瞬間、魚聖獣に二つの影が迫る。一つはセラが、その黄金の武器を組み直して鎖鎌みたいにして、それを投げて魚聖獣の残ってた腕を絡めとる。
 そして最後に後方から迫るは鍛冶屋。奴の巨大な鎚がその純粋な重量を聖獣へと向ける。


「潰れろおおおおおおおおおおおおお!!」


 爆ぜる床。空気までも潰したかの様に一気に突風が吹き荒れる。床の板が剥がれ、大きく神殿とこの場所事態が傾いたかもしれない。


「どうだ?」


 武器が振り卸された場所は粉塵があがってる。だけど鍛冶屋の攻撃は純粋な物理重量に勢いを乗せて放っただけの物だ。
 もっとも魔法で防御しづらく、奴らの盾も反応はしない筈。それに動けない様に何十もの足止めを僕たちはした。当たってない訳がない。
 僕たちは固唾を飲む。するとその時、煙の中から何かが飛び出して鍛冶屋の体を貫く。


「づっ!!」


 あれは水弾か。くっそ、あれだけ完璧に動きを封じてたのに反撃出来るのかよ。


「鍛冶屋!」


 僕はその場に近づこうとする。だけどその時、ドロっとした何かが凹んだ床から出てきた。なんだこれ? そう思ってるとそのドロッとしたのから魚の顔が出てきて水弾を放ってきやがるじゃないか。


「げはははっは、この程度でやれると思うなよ人間!!」


 相変わらず厄介な性質を持ってる奴らだな。僕は向かい来る水弾をはじき返し、その水へウネリをぶつける。


「無駄無駄!! 貴様の攻撃など効かねーよ!」 


 またまた水たまりみたいになって床を移動しやがる魚聖獣。くっそ……アイツのあの姿、少し前の暴走状態のエルフ聖獣を彷彿させるぞ。もしかして何も効かない……とかいわないよな。
 すると上から凶暴そうな奴の声が響く。


【しょせんは水! 我の炎でその存在を消し去ってやる! 周りの奴らは巻き込まれない様にするんだな!!】


 イフリートが空から超強力そうな炎を吐き出す。巻き込まれないようにってアイツ滅茶苦茶だな。するとその炎に魚聖獣は対抗する様に鋭い水のレーゼーをぶつける。一点集中のその水と、広範囲に渡る灼熱の炎。そのぶつかる間では白い蒸気が吹き荒れてる。
 水は一瞬で蒸発してる様だ。広範囲に渡る炎はその水が届かない場所が落ちてくる。僕たちはそんな炎を必死に避けるよ。


【ぐぬっ!】


 するとそんな痛みを含んだ声が頭に聞こえる。どうやら一点集中の水が炎の中に一点の穴を開けて届いた様だ。何やってんだ召還獣だろうが! と、言いたいけど相手が聖獣だからな……そう思ってると、ダンっと近くに響く勢いのある音。そちらを見ると、光る鈍色の刃が迫ってた。
 仮面の向こうからこちらを見据える無数の瞳。腕を刃と化したスレイプル聖獣が素早く僕の懐に入ってくる。


「つっ!」


 素早い……懐に入られたら、ウネリじゃ小回りが利かなくて不利だ。ここは一端ウネリを解除して……そう思ってると、突きつけられる反対側の腕。
 その腕の中心では収束する光が僕を狙ってる。そう言えばコイツは接近武器だけじゃない、銃撃なんかもその体から精製出来るんだ。


「死ね」


 その一言と共に光が放たれる。僕はとっさに体を回転させてその砲撃を回避、その回転の勢いで僕は奴の腕を横に蹴った。


「んな!?」


 それはやりきった感じを出してた魚聖獣へと直撃する。はっ、ざまあみろ! そして地面にぶつかる前に腕で体を支えて、ウネリを一時的に切ったセラ・シルフィングを側面からスレイプル聖獣に向かわせる。
 だけどそれは奴の体から出てきた武器に阻まれる。全くどこからでも武器を出しやがるな。


「伏せろスオウ!!」


 そんな声を受けて僕は地面に体を這いつかせる。するとその瞬間、大きな鎚がスレイプル聖獣をその武器ごと、鍛冶屋が叩き飛ばす。
 おお、あの武器の特性が上手く生かされた感じだな。


「大丈夫か?」
「それはこっちの台詞だろ」
「この位、どうって事ない」


 そう言って貫かれた肩口ら辺を叩く鍛冶屋。まあ一応シルクちゃんにでも回復してもらった方がいいと思うけどね。
 するとこの場に響くテッケンさんの叫び。


「ぐあああああああ!!」


 そんな声を聞いて僕たちはそちらを向く。するとテッケンさんが対峙してたらしいエルフ聖獣がテッケンさんを抜いて、シルクちゃんに迫ってるじゃないか。
 僕達は急いで彼女の元へ駆け出す。シルクちゃんは回復の要だ。彼女を失う訳には絶対にいかない!! すると彼女と聖獣の間に、ミセス・アンダーソンが入る。


「この子をやらせはしないわ!」
「またあの技か? 甘い!!」


 アンダーソンの動きは読まれてたらしい。新たに得た羽の操作で聖獣はアンダーソンが腕をナゾる前に彼女を体を裂いた。


「づっ!?」
「アンダーソンさん!! ピク!」


 シルクちゃんの言葉を受けて、目の前のエルフ聖獣に向かってピクが炎を吐く。だけどそんなのに気にしても無い様に聖獣は突っ込む。
 駄目だ。ピク程度の炎で奴を足止め出来る訳がない。そう思ってると、案の定その炎の中から奴の腕が伸びてピクの首を掴み放り捨てた。
 そしてそのままシルクちゃんの眼前に迫り、その長刀を光らせてる。セラ・シルフィングに風を……いや駄目だ、アイツの盾に防がれるだけ。


「危ない!!」


 そんな声に反応して僕は横を見た。するとこちらに向かってくる風のウネリ? 僕はとっさに後方へ飛んだ。


「これは……」
「お返しだ。どうだよ自分の技で阻まれる気分は」


 魚聖獣の野郎……さっき僕から吸収した風のウネリを使ったのか。ダメージは受けてる様だけど、ここで自分の攻撃に阻まれるのは確かに効くな。
 これじゃあシルクちゃんの所にいけない。一番後方に居たシルクちゃんに誰も間に合ってない。風のウネリが消えていく……この向こうにはもしかしたら、無惨な姿のシルクちゃんがいるかもしれない。
 だけど僕の目に映ったのは全然そんな光景じゃなかった。


「なに!?」


 そんな魚聖獣の声。確かに「なに!?」だよ。


「召還獣……貴様等!!」


 エルフ聖獣はそう紡いで、その羽を大きく広げて上空のエアリーロへと迫る。そうシルクちゃんはエアリーロの風の障壁によって助けられてた。流石エアリーロ、ここ一番で頼りになる奴! 


「それならこの俺が!!」


 そう言って魚聖獣が水球をその口の前に収束しだす。だけどその水球を飛んできた矢が弾き飛ばした――ってか僕の頬を掠めていったんですけど……危ねーなオイ。


「やらせないわ。彼女を傷つけるなんて私が許さない」
「貴様!!」


 セラの言葉に魚聖獣は矛先を変える。だけどその時上から太い腕が魚聖獣を押しつぶす。そして周りを囲む様に広がる炎。


【今度は逃がさん! 燃え尽きろ雑魚が!!】


 その言葉と共に、激しい炎が柱となって上がった。もの凄い熱気が一気に辺りに広がる。イフリートは炎の召還獣だから、自身事激しい炎の中だ。アイツも大概滅茶苦茶だな。
 でもこれは効くだろう。魚聖獣に逃げ場はない。イフリートの炎は全てを燃やし尽くしそうな業火。幾ら水の体でも防げる物じゃない筈だ。
 そしてスレイプル野郎には鍛冶屋とテッケンさんが当たってる。ここに残ってた僧兵達は、震えながら本殿の防御に必死。
 本当は彼らにも戦ってほしいけど、本殿には民間人が居るからな。その防御を怠る事は出来ないか。そもそもここに残った人達はそれが仕事だっただろうしな。
 それにしても……


「後一体、どこに居る?」


 それが不気味でならない。近くに居ることは間違いない。だけど一回魔法を使っただけで、それ以降は仲間を助けようとしてないんだよな。どう言うことだ?
 姿が見えないってのは本当に厄介だ。
 そう考えてると、僕達の上空をエアリーロとエルフ聖獣がぶつかり合いながら通ってく。戦闘は混沌としたまま、更に激化の一途を辿る。

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