命改変プログラム

ファーストなサイコロ

神と信者の橋渡し



 ガシャン! と大きな音を立てて床に落ちた盆栽。見てみると無惨に鉢は割れて土が飛び出し、枝は折れてプランプランとしてた。


「あ……あああああああああああ!!」


 そんな大きな声を出してすぐさま盆栽へと駆け寄るノエイン。優しく本体を支えながら割れた鉢から取り出す。


「ノエイン……」


 僕はそんな後ろ姿に声をかける。盆栽をそれだけ大事に思うくらいに、リア・レーゼの事も……いや、そこにいるシスカ教の信者にも向けてあげてくれ。


「一つの世界が、壊れてしまったよ……」
「え?」


 いきなりちょっと訳の分からない事を言い出すノエイン。世界がどうしたって?


「盆栽は私にとっては小さな世界だったんだよ。一生懸命世話をすれば、必ず答えてくれるそんな世界。そんな世界が私は欲しかったのか、それともそんな世界で、ここもあって欲しかったのか……」
「ノエイン?」
「教皇……様?」


 ええっとよく分からないぞ。僧兵も心配気な様子。盆栽が壊れた事がよっぽどショックだったって事か。でもリア・レーゼが大変な時に、盆栽と比べられても……とも思う。
 ノエインはお腹に抱えた盆栽を予備の鉢の所まで持っていく。そして優しく一つの鉢の中へと納める。


「ノエイン様、そんな事をやってる場合ですか? 一刻も早く決断しないといけない事が山積みですよ」


 神官さんがそんな風に言ってくれるけど、ノエインは盆栽いじりを止めないよ。折れた枝を今度はテープで直してる。


「世界は世話を止めるとどんどん無差別に成長していく。ちゃんと育ててあげないとダメなんだ。手間暇を掛けても私達の手を放れると直ぐに秩序はなくなる。
 だけど本当は知恵のある生き物が定める秩序なんてのはこの世界には必要ないのかもしれない。そう思わないかい?」


 う~んなんだか話がかみ合わないな。ノエインは自分の言いたいことだけを言ってる様で、こちらの言葉に返す気がないみたいだ。
 でもその言葉が今の僕たちとも全く無関係……とも思えない。世界がどうとかこうとか……つまりノエインはその盆栽とこの世界を照らしあわせてるのか? そして自分はそもそも世界には必要ないんじゃないかって? そんな事?


「知るか。どうして自分が生まれたとか、生きてるとか生き続けなくちゃいけないとか、そんなのは考えたって答えが出るものじゃない。
 考え出すと答えが出ない問いに頭を悩ませ続ける事ってあるよな。だけどそんな事は、答えが出なくたって生きていける。
 そしてある時、やっぱりどうでも良いやって思える。そんな事がどうでも良くなる様な事が、起きたりする。現れたりする。そんな世界もあるぞ」


 そう、そんな世界があるんだ。どうしてどうして……と悩み続けてた暗闇を一瞬で照らす光みたいな奴が世界に一人はきっと居るだろう。
 いや、もしかしたらそんな誰かは一人一人に居るのかも知れない。だからこそ、破格の多さの命がリアルにははびこってるんだろう。


「ふはは……どうでも良いって、そんな風に返したのは君が初めてだよ。私は真剣なのに、そんな適当な返しかたをするなんて……全く持って、君は面白いね」
「それは誉めてるのか? 貶してるのかどっちなんだ?」


 どっちにも取れるから受け取り辛いんだけど。


「当然、誉めてるんだよ。そんな風に一蹴されたら、こっちもバカバカしくなっちゃうじゃないか。まあ実際、私も答えなんてないと分かってるんだけどね。
 それを探すのが生きるって事なんだろう。前の教皇がそんな風に言ってたよ」
「世界に私達は必ずしも必要ではないかも知れませんが、人は一人では生きていけない。支えあう人を求めてる。それこそが慈愛でもあります。
 ノエイン様……貴方もまた多くの信者に必要とされてる存在ですよ。それをお忘れ無く。教皇という虚像はそれを背負う者がいないと成り立たない。
 地位や権力が無くても、教皇という像を背負うだけで、貴方は他に代わりなんて無い教皇なんです。それまでもお忘れになりましたか?」


 過去を懐かしむ様なノエインの言葉に神官さんが背中を押すような事を言ってくれる。この人は本当に、出来る人だよ。上の立場のノエインを貶したりもしてそして今は鼓舞したり……不思議とこの神官さんの言葉は胸にスッと入ってくる心地よさってのがある。
 それだけ的を得た事を言ってるって事なんだろうか。


「そろそろ自分の手に収まる世界だけを作るのは止めましょう。予行練習にしてもやりすぎです。貴方がテープで枝を戻した様に、世界には私達の力が必要な時もあります。
 勿論何もしなくても元に戻るのかも知れない。ですがそれの善し悪しなど誰にもわかる物ではないでしょう。こうあって欲しいと言う、私達のエゴの通りに世界はならない。
 でも、そんな思いを胸に世界を支えようとする事に、悪などあり得ようも無いではないですか」
「そう……かも知れないかな。本当に君は痛い所も嬉しい所も突くのが上手いね」
「これが仕事ですから」


 どんな仕事だ。上司に文句を言うのが仕事って、なかなかに楽しそうじゃないか。てか、絶対に仕事じゃないよな。それはこの二人だから成り立ってる事だろ。
 でもおかげでノエインが少しは前を向いてくれかな?


「私にもまだ……何か出来ることがあるのだろうか? 教皇として……役に立てる事が出来るのかな?」


 おお、ようやくその台詞が来たか。僕と僧兵は思わず顔を見合わせるよ。


「出来る! 出来ます。その為の種を僕たちは捲いてる!」


 勢い良く僕はそういう。そう、後はノエインが導くだけだ。サン・ジェルクの総意って奴をさ。


「それはあの映像の事ですか? 空に浮かんだ?」


 神官さんの言葉に僕たちは頷くよ。


「ちゃんと知って欲しかった。考えて欲しかったんです。元老院が隠してしまう事だけじゃなく、ちゃんと今、この国で起こってることを。だって知る権利はある筈です」


 そうなればきっと、元老院に動かされるだけの傀儡じゃ居られない。だってこの国の全ての人はシスカ教の熱心な信者なんだから。その心に宿るは慈愛の精神だろ。そんな心に訴え掛けたい。


「なるほど、幾ら元老院が全ての決定権を持っていたとしても、この街の総意で軍を動かそうと、そういう事だね」


 ようやく僕達の言いたかった事がちゃんとノエインに伝わった……全く長かったよ。実際数分位しか経ってないけど、一分を争ってるこの状況じゃもっと急ぎたかった所だな。本番はこれからだし……実際上手く行くかはここからが問題。
 それこそ、ノエインの力量に掛かってる所が大きい。それに色々と覚悟が必要だよな。これは元老院に反抗する事だ。更にシスカ教が分裂とかなったら、泥沼だよ。だけど……やって貰うしかないのも現状だ。
 先に言ったように一分でも惜しいのが今なんだ。こうやってる間にも聖獣の魔の手は世界樹へと延びてる。だからそこら辺は今は考えない。余計な事を言って、折角やる気に成ってくれたノエインのやる気を削ぐのもイヤだしね。


「ええ、まさしくその通りだ。幾ら元老院が全てだと言っても、市民にはそんなに馴染みがない奴らだろ? なら矢面に立ってる教皇の声の方にみんな耳を傾ける筈だ。そしてお前の教皇と言う肩書きは今こそきっとその真価を発揮する。
 見せてやろうぜ。自分たちで作り出した虚像が大きな実像に成るところを! 証明しろよ。それこそがお前の求めた教皇のあるべき姿なんだって!!」


 僕の言葉を受け取ったノエインは強い光をその瞳に宿す。


「ああ、やってみよう。私はもっとこの世界を良くしたいんだ! いつか夢見てた、そしていつからか見なくなったその夢を……もう一度取り戻そう」


 なんだかノエインの顔色が良くなった気がするな。別に今までも悪かった訳じゃないけど、どこか一つ影があった気がしてた。でも今はそんなの感じれない。付き物が落ちたみたいに、スッキリしてる。
 大丈夫、これは前を向く奴の顔だ。諦めない奴の顔だ。僕は冗談めかしてこんな事を言ってみる。


「おう、それならもしかしたらローレもノエインの方に向くかも知れないぞ」
「ええ!? それは本当かい?」


 おいおい凄い食いつきようだな。今までで一番反応良いぞ。教皇とかなんとか言っても、やっぱりただの男かよ。だけどまあ、それで更に決意を堅くしてくれるのなら、良いんではないかな? 僕は力強く頷く。


「マジです!!」
「いや……でも、言っとくけど、それは出来たら……だよ。あくまでもちゃんとリア・レーゼの為に、そして信仰の為にだね……」


 急にモジモジと言い訳しだしたな。別にどっちでも良いよ。やる気に成ってくれたんなら、どっちでもさ。


「じゃあ早速やりましょう! で、街中にその声を届かせる術は何かありますか?」


 僕達ではそこまで準備出来なかったんだよね。だってボロボロのバトルシップにボロボロの自分たちじゃここまでが限界だったんだ。
 実際リア・レーゼの映像を送れてるって事だけでも健闘した方だよ。


「そこら辺は私目にお任せを。信頼できる部下を集めて、陣を構成しましょう。声だけを届けるのならば、そこまで難しい訳ではないですからね」


 そう言ってくれたのは神官さん。流石頼りになる! そんな風に思ったけど、ここでノエインがこんな無茶な事を言うよ。


「声だけ……それでみんな信用するだろうか? 私がその姿をみせた方が良いのでは? 必要なのは教皇と言う名の虚像だろう。声だけではどうにも弱くないかい?」


 それはそうかも知れないけど……


「姿を現すって映像でって訳じゃないよな? それはつまり戦場にその身を晒すって事だぞ。艦隊は既に展開してる。反逆の意を示したら、元老院の連中がどう出るか分からない」


 もしかしかたら、艦隊使って潰しに来るかも知れないぞ。言い訳は船の砲の誤差動とかで言い逃れも完璧。同情を買ってやっぱりリア・レーゼ所じゃなくさせれるかも……いや、考え過ぎかな。
 すると僕の言葉を聞いてノエインはこう言うよ。


「ただの道具として教皇と言う名を汚すのなら、いっそ華々しく散るのも悪くないかもしししっしれないよ」
「めっちゃ震えてるぞ」


 噛みまくりじゃないか。出来そうにも無いことを言うなよ。そこまでしてくれなくても、映像出せば済む話だろ。
そう僕は思ってたけど、でもなんだか後の二人は映像よりも、そんな震える教皇に賛成気味?


「教皇様……そこまで自分たちの為に……大丈夫です。必ずお守りいたします!!」
「良いんじゃないでしょうか、その心に従って……我らはどこまででも着いていきますよ。確かに声だけと言うのも味気ないですしね。
 安全な所にいるだけならそれは元老院と変わりもしませんし、彼らと決別する気に成ったのなら、無茶を通してみせましょう」


 おいおい、マジかよ。いいの? てか、大衆の前に出るって言ってもどうやって? だよね。ここに人数集めて魔法でやるほうが秘密利に出来て良いと思うんだけど……


「二人とも済まないね。だけどそう言ってくれると心強いよ。でも勘違いしないでほしい、私は元老院と決別する気はない。
 もっと早く決断しなくちゃいけなかった。彼らの暴走を止められるのは自分の立場しかないのに……私は彼らも見捨てない。
 必ずこのサン・ジェルクを本当の意味で繋がった街にしてみせる」


 決意の眼差しでそう言うノエイン。う~んみんな乗り気だな。


「そうですね。それこそ我らが教皇です。元老院とは違う道を……それでこそ着いていく意義があると言うもの。ようやく貴方の下でやりがいが出てきたかも知れません」
「相変わらず一言多い気がする……」


 神官さんの言葉に不満を漏らすノエイン。もうみんなの中じゃノエインが大衆の前に出るのは決定済みの用だ。まあこっちはお願いしてる立場だからな。どういう風な手段を取るか……それはノエイン達に任せるしかないか。
 こいつらだっていろんな物を賭けてるんだ。遊びじゃない。ゲームだけど……遊びじゃない。しょうがないから僕ももう言わないよ。だけど確認しときたい事はある。


「盛り上がってる所悪いけど、一体どうするんだ? どうやって大衆の前に出るんだよ?」


 普通に町中にノコノコ出ていった所で、今の状況じゃそこまで注目されないよな。どうせ大衆の前に出るのなら、みんなに見えないと意味ない。まあ元々小さなモブリにはそれは酷だけど。
 やりようはあるんじゃないのかな。それこそ魔法とかで。


「そうだね。やはりここは浮遊台を使うのが一番だろうと思う。演説の時は大概使うからね」
「浮遊台?」


 何だっけそれ? と思ってたら僧兵に呆れられた。なんでそんなに残念そうに僕を見るんだよ。


「お前な、自分が使った物くらいちゃんと知っておけよ。お前が俺達の艦隊に運ばれたあの台がソレだ。アレはリア・レーゼだけの物じゃない。ノーヴィス共通の持ち物だ」
「ああ、アレか!」


 わかったわかった。アレね。艦隊からの逃走にも使ったあの台の事だろ。そう言えばアレは偉い人の演説用の物だとか誰かが言ってた気がする。確かにアレなら空中に浮いてられるし、姿をみせつつ声と言葉を届けるには最適なのかもね。


「で、それはどこにあるんだ?」
「浮遊台は社の蔵に保管されてます。私たちの権限なら余裕で入手できますよ。問題は寧ろ、そこまで行くことでしょう。
 持ち運ぶ事は出来ませんし、貴方はモブリばかりの社内では目立ちます」
「それは……そうだな」


 幾ら外の騒ぎで忙しいとはいえ、怪しい動きしてちゃ引き留められるよな。でもそこら辺はほら、教皇の権限でどうにでも出来るんじゃ? いや……そもそも


「僕達は一緒に行った方が良いのかな? ノエイン達だけで行けば良いんじゃないか?」


 僕は一番簡単に解決しそうな事を行ってみたよ。すると僧兵が僕を蔑む用に見てくるじゃないか。なんだその目は?


「お前……ここに来て逃げる気か? ちゃんと最後までつき合えよ」


 逃げるって……人聞き悪すぎだろ。少しは信用しろよ。


「逃げる訳じゃないっての。ただ僕が居たら簡単に出来る事も危なくなる。そっちはお前と神官さんが居てくれるのなら取りあえず安心だって事だ。
 ノエインもやる気に成ってるし、やってくれると信じてる」
「それでお前はここで高みの見物なんて納得出来ない」


 この僧兵……どこまで僕を働かせたいんだ。少しは休ませてくれたって良いじゃん。まあ別に休む気はないんだけど……すると聡い神官さんはこう言うよ。


「何か思うところがあるのではないですか? この策を考案したのは貴方何でしょう? こんな無茶な作戦を実行しようと思うほどの人なら、何かまた考えがあるような気がしますが」


 ええっと……それは誉められてるのかな? 微妙に貶されてるような……また無茶な事をやろうとしてるとか思われてるよね絶対に。
 まっ、確かにそうかも知れないし、否定は出来ないけど。それに直ぐに責めて来る僧兵よりもマシか。ちゃんと理由があるかもって思ってくれる所は流石人格者。


「何か考えがあるのかい?」
「そうだな……実はちょっと気になってる事があってさ。さっきノエインが元老院も見捨てないって言ったじゃん。それなら一番に味方に付けるべきは決まってる。
 それはあの長とか呼ばれてた元老院だ」


 それしかない。だけど僕がそう言うと、ノエインも神官さんも難しい顔をする。どうしたの?


「う~ん、それはわかりますが……あの方は自分の意見を曲げるような方ではないです」
「そうなんだよね。あの人は超が付く頑固者だからね」


 そういえば、確かに頑固ではあったな。でも希望があるとすればあそこしか……


「あの長って奴だけは、純粋にシスカ教の事、このサン・ジェルクの事、世界のことを考えてたと思う。確かに意見は合わなかったけど、僕はアイツとだけは意見を交わしあったと思う。
 話が通じない相手じゃない。それにあの長は、他の元老院に騙されてるんだろ? お前達だって分かってる筈だ」


 僕はノエインと神官さんをみるよ。僧兵程度じゃそこら辺の事情に食い込んでなさそうだからスルーで。


「確かに長様は他の元老院の与える情報しか知らない。私も会うことは出来ないから……どういう考えかを聞くことも出来ないが……君は話したのかい?」
「ああ、バトルシップの通信で元老院どもが集合してる所に、そう呼ばれてた奴がいた。だけど最後に寝ちゃったけど」
「それはちょっと話すことは無理かも知れないよ」


 深刻な顔でそう言うノエイン。そう言えば確か、一週間毎にしか目覚めないとか言ってたな。


「長様は一週間毎にしか目覚めない。それを利用して他の元老院が会える日を調整してる。だから私でも、教皇になってからは一度も起きたあの方には会ってない」
「まさか……あれは本当だったのか……」


 結構半信半疑だったんだけど……じゃあ二百何百歳てのも本当か?


「本当ですよ。あの方は魔法で延命し続けてるのです。その為に活動時間を絞ってるんですよ。ですが確かに貴方が言ったように元老院を落とすにはそこから攻めるのが一番争いが無い部分でしょうね。
 ですが既に眠りについたのなら、諦めるしかありません。今行っても話すら出来ない」
「……無理矢理起こすとか?」


 僕はちょっとそんな提案をしてみるよ。


「そんな事をしたら、ショック死するかも知れませんよ」


 爺だからな……なるべく衝撃を与えちゃいけないのか。確かに死んで貰っちゃ困るよな。あの爺の頑固さはうざかったけど、あの爺の存在が元老院の抑止力にもなってると思う。
 他の元老院はあの爺さんを怖がってたし、曲がりなりにもあの爺さんが元老院のトップなんだ。


「聞きたい事があったんだけどな……二百何歳ならさぞ物知りなんだろう?」
「色々な事を教えて貰ったよ。あの人には本当にね」


 そんな風に昔を懐かしむ様なノエイン。二百何歳という年寄りだから……なんだけど……無理なのかな?


「起こさずに話す術が無いわけでもないですよ。それこそ魔法を使えば『夢』に入る事が出来ます」
「本当か!?」


 流石魔法、何だってありだな。


「でもそれにはあるアイテムが必要だよ。そして丁度それもこのサン・ジェルクの蔵にあるわけだから、求めるのなら、一緒に来るしかないかな」
「なるほど、どの道どうやってそこまで行くかを考えないとって事ですね」


 まあある意味、そのアイテムがここにあることを喜ぶべきだよね。どうしようもないよりもマシだ。
「どうしましょうか?」
「そこを考える気はないんだね……」


 直ぐに周りに振った僕にそう言うノエイン。いやいや、別に考えてない訳じゃない。周りの意見はどうかな? って言う確認です。


「問題なのはお前だけなんだから、別ルートで目指せばいいんじゃいか?」
「お前……それはちょっと酷いぞ……」


 なんで一番ここの地理に疎い僕が別行動なんだよ! 僧兵の野郎、僕が会話から外したから根に持ってるな。


「う~ん、確かにそれはちょっと無理でしょう。彼は蔵の場所も知らない訳ですし、無理がありますよ。どうにか周りの僧兵の目を取りあえず誤魔化す術とするなら、やはり――」




 社の通路を歩く。慌ただしく行き交う僧兵達。だけど僕は普通に歩けてる。なぜならそれは……再び僕が拘束されてるからです。まあ、確かにこれしかないよね。


「そう言えば、その魔法って僕にも使えるのかな?」


 僕は気になった事を、小声で聞くよ。


「大丈夫ですよ。その魔法は杖さえ持てば誰もが使えます。歴代教皇の内の一人の愛用した杖と言われてる物で、その教皇の特殊な能力を封じた唯一無二の宝具。その杖が宿してる魔法の名、それは――」


 そこで意味深に溜める神官さん。周りの慌ただしい雰囲気とは違う空気が僕達の間だけで流れてる。
そして彼はその名を告げる。


「――それは『夢現』。他人の深層心理への強制干渉を可能にする、最強の精神系魔法です」



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