命改変プログラム

ファーストなサイコロ

虚像と実像



 教皇の部屋で僕達は早々に見つかってしまった。新たに入ってきたモブリに。だけどどうやらこの人は、寛大な心の持ち主の様だ。
 それになんだか協力的? サン・ジェルクでそんな人がミセス・アンダーソンや教皇以外に居るなんて意外だよ。でもありがたい。周りの僧兵達に知らせられたりしたら大変だもん。
 そんな彼は、僕達を教皇の所まで連れていってくれると言う。それはとってもありがたい……でも、逆にここまで親切だと何か変な警戒心が生まれるな。


「こんな事を言うのも失礼だけど、アンタを信じて大丈夫なのか?」
「な……なんて失礼な! この方は神官だぞ。僧兵なんかよりもずっと上の位の方だ」


 僕が警戒心を表して言った言葉を、何故か一緒に来たはずの僧兵に遺憾と思われたらしい。へぇ~神官ねぇ。そんな事を言われても、これまでの経験上、位が上の方が信用出来ないんだよね。
 そう言う奴らの方が、利権とかにまみれてるイメージがあるもん。


「はは、神官なんてそんな偉い立場でも無いですよ。元老院や教皇様の小間使いみたいな物です。上からは怒鳴られ、下からは引っ張られる大変な立場なのですよ」


 中間管理職みたいな立場? それはそれは……確かに面倒そうな位置だね。神官さんは「はぁ」と大きなため息をついてる。すると僧兵さんは「す……すみません」となんだか僧兵代表みたいに頭を下げる。


「いえいえ、まあそれが仕事ですからね。それにこの大変な場所を耐えれば、教皇と言う位が見えてくる……かもしれません。
 これはいわば人々を導く為の修行期間みたいな物です。それを言うと僧兵の時からそうですけどね」


 教皇……それに成るためにはちゃんと段階があるんだね。だけどそれこそ僕達に協力して大丈夫なのかって思う。


「僕達に協力した事がバレたら、その夢も潰えるかも知れないぞ。僕達はここを牛耳ってる元老院の意向に反した事をやってるんだ」


 自分の努力と夢が潰えるかも知れない、そんな事に協力なんて進んでする奴いないじゃん。僕はこの神官の一挙手一頭足を見ながら、この人の人間性を計る。
 信用に値する人物なのか……それはとても大切だ。僕達は失敗出来ない。もしもこの人が僕達を元老院に売る気なら、のこのこ着いていくなんて出来ないからな。てか、そうしたほうが、後々得がこの人にはあるわけだし……リスクしかない僕達に協力してくれる……それだけ大きい人物なのか――はここじゃそこまで計れないだろうけど、せめて信用出来るかどうかは確かめたい。
 すると神官は穏やかな声でこう言うよ。


「確かに元老院がこれを知れば、私は教皇にはもう成れないかも知れません。でも元々私はそんな候補の一人にも入ってない落ちこぼれですし、それに……貴方達は間違った事をしてる訳じゃない。ですよね?」


 自虐的に自分を落としながらも何でもないように笑う神官。そして最後には少し深い瞳で真剣な面持ちになる。なんだろうか……全てを見透かされてるような気分に成るんですけど……元老院なんかよりもよっぽどゾクっと来たぞ。
 別に何も責めてられないのに……


「僕達は……正しいとか間違ってるとか……そんな思いでもう行動してない。元老院の……と言うか、あの長だっけかの言い分は、この街を治める者としてきっと正しいんだろう。
 だけど僕達はそれが正しいからって素直に引き下がる訳にはいかない。僕達だって仲間を、友達を……そしてあの街を助けたいから動いてるんだ!」


 僕はもうただ真剣にそう言ってた。目の前の神官の真意を探ろうとしてて、逆にこっちの真意が晒されてしまったよ。いや、まあ晒して困る物でもないけどね。逆によかったのかな?
 変な探り合いなんて僕には向いてないよ。そんなのはローレと元老院だけで十分だろ。思いをぶつける……それがどこまで他人に染みるかなんて分からないけど、結局はそれしかないよな。


「正義や悪では語れない部分に居る――と。面白いじゃないですか。正しさを常々心がけてる我らには実に面白い。無礼を言いましたね。謝りましょう。
 自分たちの狭い価値観に当てはめようとしただけの、安い考えを悔い改めます」


 ええっと……いきなり頭を下げられて僕もどうしていいか分からないです。てか、ここまで素直に頭をさげれるってスゴい。軽く感動だよ。


「あの……そんな、僕達はわがままを押し通そうとしてるだけですよ。きっとこの街の人たちにも迷惑掛けてる」
「それでも、恥ずべき事がどこにあるのでしょうか。仲間を、友を助けたい。それはとても普通で、当たり前の感情です。
 かけがえの無い関係と言うのは、宝ですからね。シスカ教もそう教えてます。元老院の方々とは相反する事になるでしょうが、私はまだ未熟者。その心に純粋に従うのも時には良いかと思えます。
 信じてくれるのなら、ご案内しますよ。我らが教皇、ノエイン・バーン・エクステンドの元へ」


 全ては僕達の心一つ次第ですか。本当に今まで見たどんな人よりも聖職者って感じの人だな。押しつけがましくなく、他人の話を聞き、尊重をする中で自分の考えも語る。これで落ちこぼれは無いだろうと思う。
 いや、ある意味「だから」かな? 元老院はこういう奴嫌いそうな感じがする。何となくだけど。すると先に僧兵が彼に近づきこう言った。


「頼みます! 自分は貴方を信じます!」


 なんだか目がキラキラしてるぞ。言葉も随分力強く言ってるし、尊敬に値する人物だと判断したのかな? 


「人間の貴方はどうでしょうか? 私では不満ですか?」
「いや、そうじゃないけどさ……後悔しても知らないぞ。折角立派なのに、人生棒に振るかも知れない。ここはアンタにとってもターニングポイントなのかも」


 転落か栄光かの。


「大丈夫ですよ。私が付く人は初めから決まってますから。社内では、趣味に明け暮れてる道楽としか見られてないですけど、本当は誰よりもシスカ教とこの国を思ってる人です。
 そして自分の力の無さに嘆いてる。これは聞かなかった事にしておいてほしいんですけど、実質と共に、あの方がこの街の全権を握れれば、この国の模様も変わります。
 ローレ様もあの方とは打ち解けてますし、サン・ジェルクとリア・レーゼ、双方の因縁が解決される時かも知れません」


 へぇ~そうなんだぁ……僕はとっても気まずいぞ。だって打ち解けてる? 違う違う、ローレの奴、教皇さえも道具位にしか見てなかった。間違いない、だって本人から聞いたもん。
 まあだけど今ここではそれは伝えない方が良いよね。関係がよくなるって事で言えば間違いないとも言えるし……だけどそっか、ようは元老院なんて潰れてしまえって思ってる訳か。僕は彼の腕を取るよ。


「そうだね。そうなる事を祈ってるよ。案内よろしく頼みます!」
「お任せあれ。それでは慎重に転移の陣を目指しましょうか」


 そう言って外の様子を伺う神官さん。そしてクイクイと手を動かす。大丈夫って事だね。僕達は神官さんの導きに従ってこのフロアをその転移の陣? と言うのに向かって移動する。


 転移の陣とかいうからどんな神秘的で魔法的な場所かと思ってたら、僕達がたどり着いたの場所はトイレ……だった?


「え……ここですか?」
「そうです、ここにあの方が設置した転移の陣があります」


 何故にトイレ? そんなに肩身が狭い思いしてるのかアイツ? ちょっと可哀想に成ってきたな。


「知ってますか? 位の高い方々はこの湖のそこにプレイべート空間を持ってます」
「それは知ってる……プライベート空間じゃないけど、似たようなのは見たしな」


 見たというか壊したんだけど……そこまで言う必要無いよね。


「そうですか、それなら話は早いです。その空間への入室は転移魔法で大体やる様に成ってます。しかもプライベートなので、個々人で様々な鍵を用意してる訳です。
 鍵というか手順と言うか、個人的な空間を勝手に侵されない為の悪知恵ですね。ノエイン様の空間への入室手段を知ってるのは私とミセス・アンダーソン様くらいです。
 中には本当に誰にも教えてない人も居るようですね」


 へぇ~何をやってるか怪しい物だな。特に元老院共は、そこに隠し財産とかあってもおかしくないと思う。そう考えてると、神官さんは一番奥の扉をリズム良く三三七拍子で叩くと、扉に向かってこういうよ。


「開け、ローレ様の心の扉」


 ズゴオオオオオオオオと成った。アイツ、変な所で煩悩丸出しだな。おかしな合い言葉使ってるんじゃないよ。言ってる方も聞いてる方も恥ずかしいわ。
 まあ元々誰かに使わせる予定はなく決めたんだろうけど……何? アイツ毎回毎回、こんな暗示めいた事を言ってプライベート空間にいってるわけ? 中で一体何をやってるんだ。心配だよ。


「こ、こほん」


 仕切り直す様に、そんな風にわざとらしくせき込む神官さん。扉を開くと、そこにはトイレは無く、魔法陣が輝いてた。おお、こう言うのを見るとスゴいと思えるね。
 今の合い言葉で魔法が発動して内部の空間が入れ替わった……とかかな? 便利な物だ。だけど確かにこれなら、誰も行き方知らないのもあるだろうな。
 プライベート空間への進入方法としては最適な方法だね。


「では、どうぞ」


 そんな風に促されて僕達はその魔法陣に飛び込む。包まれる光。そして僅かに感じる浮遊感。そして次の瞬間、足が地面を踏む感触が伝わる。ちょっと体がふらつくけど、何とか踏ん張って顔を上げる。するとそこは淡い光源が空中を彩り、刺々しい盆栽が沢山飾られてる、ちょっと異質な空間だった。
 盆栽もこういう風にライトアップすると、神秘的だと思える。


「全く、呆れた趣味でしょう。美しい花を咲かせる訳でもないのに、何がそんなに楽しいのか、私には理解出来かねますよ」
「ははは……」


 僕達の後に転移してきた神官さんがトコトコ歩きだしながらそんな事を言う。僕達は彼の後に続いて歩く。どこもかしこも盆栽だらけ。その外側では光に釣られてか、小魚が泳いでる。ここもまた湖の中だからね。
 進んでいくと、パッチンパッチンとハサミの音が聞こえてくる。ちゃんと居るみたいだな。少しカーブしてる道を進むと、手広く開いた空間が見えてくる。
 作業スペースか何かかな? そしてその中央のテーブルの所の長椅子に居る後ろ姿……あれは……


「ノエイン様」
「遅いよ全く。この子たちにとって肥料は栄養そのものなんだ……よ」


 言葉と共に振り返るノエイン。顔に泥をつけて、軍手にハサミなその格好は全然教皇ぽくない。てか、もしかしてこいつ、外の様子全く知らないんじゃないか? 僕を見て完全に固まってるぞ。


「お客様です。貴方にお話があるようですよ」
「どうして? リア・レーゼに行った筈だろう君は」


 本当に何も知らないのな。神官さんは外の様子知ってたぞ。どれくらいここに籠もってるんだよ。僕は何も知らないらしい教皇に向かって早速こう言うよ。


「ノエイン、お前の力が必要なんだ! 力を貸してくれ!!」
「質問の答えに成ってない……一体どうしたって言うんだい?」


 いきなりの事に戸惑ってるノエイン。てか、要領を得てないな。だけど待ちきれない僕ともう一人は、気にせずに続けてしまう。


「教皇様! どうか……どうか、その力でサン・ジェルクを動かしてください! お願いします!!」
「うむむ……どうやら言葉がちゃんと伝わってないみたいだぞ……」


 僧兵も勢いに任せて言ったから、ノエインは更に戸惑ってるぞ。でももう、僕達にはノエインしかしない。この国で、元老院の支配意外に通じる力……それを持ってるのはこの黒い髪のモブリだけ。
 僕達は前のめりになる気持ちを抑えられないんだ。


「ノエイン!」「教皇様!!」


 二人してズズイっとノエインに迫る。


「ちょ――ちょっと落ち着きたまえ二人とも。と、言うか私がピンチなんだから面白そうにしてるな!」
「えっ――ああ、はい。二人とも興奮してるようなので私が事情を付け加えて置きましょう。貴方はずっと籠もって可愛い娘達としか話してないから知らないでしょうけど、今外は結構な騒ぎです。
 サウニー郷からの通信途絶とかの報は聞いてますよね。それから発展して、今はサン・ジェルク上空で飛空挺とバトルシップの激しい攻防と、そして空に紡がれた魔法陣から伝えられるリア・レーゼの映像に持ちきりですよ」


 僕たちの説明不足を丁寧に補ってくれる神官さん。とっても助かります。だけどまだ説明が足りないのか、ノエインは呆けてる感じに見える。
 ちゃんと聞いてるのか? 情報の整理を頭の中で今やってるから、外からは間抜けに見えるのか……どっちだ?
 僕たちも神官さんに続いて重要な所を伝えようと頑張ってみる。


「自分達の艦隊は全滅したんです!! 聖獣によってサウニー郷も殺されました! このままでは、リア・レーゼで戦ってる仲間も、見殺しにされてしまうんです!」
「サッサウニー郷が!?」


 驚くノエイン。でもこんな物じゃないぞ。


「リア・レーゼは今その聖獣共に攻められてる。だけど、元老院共は見殺しにする気なんだ! 元老院以外に、サン・ジェルクを動かせるのはお前だけだろ? だから!」
「待って待ってくれ!」


 なんでここで止める? ノエインは更に混乱してるのか、目がグルングルン成ってるな。そして求めるのは神官の言葉なのか、なんだかすがる様な目してる。


「そろそろどうして彼等がここに居たのか、わかってらっしゃったんじゃ無いでしょうか? 貴方はそこまで頭が悪い訳では無いでしょう?」
「うぬぬ……相変わらず私に対する敬意が感じれない」


 別に敬意をほしがってる様にも見えないけど……まぁ確かに神官さんは何故かノエイン対してはちょっと言葉が辛辣かも。


「それはまぁ、いつかはそこは私の席ですから。早く退いてくれて良いですよ」
「うなっ!? 地位や権力には興味無いとか言ってたのに」


 ノエインは自分の身近に敵が居たことにビックリ。でも確かにさっき来る途中に聞いたときも、「自分に教皇なんて無理ですよ~」とか言ってなかったっけ? 嘘かよ。


「地位や権力なんかには興味ありません。私はただ、この教えをもっと広く深く広めたいだけです。そして信者の支えになれればと思ってます」
「うう……なんだか私が支えに成ってないみたいな言い方……」


 神官の言葉にそんな不安を漏らすノエイン。実際僕には支えに成ってる様には見えないんだけどね。だって初めてあったのも盆栽の買い物帰りとかだったし……実際盆栽の事しか気にしてないイメージが――あとローレ。
 てか、未来の事なんかどうでも良いんだ。今はノエインが僕たちの頼みを聞いてくれるかどうかが問題。


「ノエイン! 幾ら支えに成ってなくても教皇だろ! このままだとお前の大好きなローレだってどうなるかわからないんだぞ!」


 実際あいつプレイヤーだから二度と会えないとかは無いだろうけど、きっと落ち込んだりはするだろう。あいつにそんな感情があってそこまでリア・レーゼに感傷的になれるのならだけど……まあ、そこは一応自分が納めてる街なんだし、普通はなるだろう。


「大丈夫ですよ! 教皇様はちゃんと市民の支えに成ってます! だから貴方の言葉はちゃんと届く。お願いします!!」


 僕の失礼な言葉を訂正して頭を下げる僧兵。こいつがそう言うのなら、ちゃんと市民には指示されてるんだろう。神官さんのさっきの言葉はただの嫌味って訳ね。
 だけど一応頭が付いてきた所で、ノエインが言った言葉は残念な物だった。


「頭を上げてください。自分を支持してくれてる人の前でこう言うのもなんですけど、私は単体ではなんの力もない。
 私は飾りなんですよ。教皇の立場には何の決定権もありません。全てを握るの元老院。私では軍を動かすことは出来ない」
「そんな……」


 教皇の言葉に僧兵は膝を付く。だけど僕にとっては知ってた事だ。前にもそんな事言ってたもんな。一応それを伝えては居たけど、僧兵は信じたく無かったんだろう。


「すまない。ここまで来て貰ったのに、無駄足で。どうか、リア・レーゼを救って欲しい」
「それが自分達だけで出来れば、ここまで来たりしない! ここに来る時間でリア・レーゼにたどり着けるんだから!! 良く聞けよノエイン。出来ないじゃない。やるんだ!
 お前がこの街を動かさないと、リア・レーゼは確実に滅びる! ローレだってどうなるかわからない! 僕たちだけじゃどうにも出来ないから、ここに来たんだよ!」


 その位分かるだろ。僕は必死にノエインに詰め寄るよ。だってもうここしかないんだ。それなのに無駄足とかどうかとか、無駄足にするかはお前次第なんだよ。そして僕は無駄足になんかする気はない。


「だけど、私には本当に何も……」
「何も出来ない……それは本当かよ? 僧兵はお前は市民の支えに成ってるって言った。迷うことなく、言い切った。お前はなんで教皇なんだ? 権力や地位が必要だからそこに上ったのか?
 違うはずだ……だってそうならとっくに幻滅して止めててもおかしくない。それこそそこの神官さんにさっさと譲ったっていい。まあそれが出来るのかは僕は知らないけどさ。
 でも、何も無いって言いつつ、教皇で居るのはやっぱり一応はやりたい事がやれてるからじゃないのかよ。盆栽集めは無しにして」


 盆栽集めが一番やりたい事だったら、イヤだから真っ先に外してやった。いや、違うと思うけど……万が一って事もあるからね。


「やりたい事か……それは実は自分でも分からないよ。言っとくけど盆栽を集めだしたのは教皇に成ってからだから、目的では無いよ。そこは安心してくれ」
「それは安心です」


 よかった良かった。これで盆栽の為に教皇に成ってたら、救いようがなかったもん。もうどんな言葉も掛けられない……そう思ってました。


「最初は私もやる気に溢れてた様に思う。だけど上に立ってみて気付くこともある。それの最たる物が、教皇が元老院の作り上げる虚像だと言うことだよ。
 私達歴代の教皇は矢面に立って来ても、実は操り人形の如く動かされてるに過ぎなかった。その事実は悲しい物だ。私は全ての信者に讃えられてるその姿を追いかけて来たのに……実は教皇と言う光は偽物だったんだよ」
「偽物……」


 そんな風に言うノエインは何かを懐かしむ様に上を見つめてる。憧れ……そんな物がこいつにもあって……だけどその讃えられた姿が虚像だったことにショック受けたのか? 
 でも……それは……すると突然、足下に崩れた筈の僧兵が声を張り上げる。


「偽物なんかじゃない! 自分達にとっての教皇様は偽物なんかじゃないんですよ! だってそうでしょう、私達この街の市民が貴方に向ける思いは……絶対に偽物なんかじゃないんです!
 教皇と言う地位が作られた物だったとしても、そこに立った人達を、このサン・ジェルクの人達は偽物だったなんて思ってません!! 自分を含めて、きっとみんなそうなんです!! 教皇様だってずっと追いかけてたって事はそうだったんじゃないんですか!?」
「私……は……」


 僧兵さんの言葉に同様してるのか、椅子の上でよろめいた教皇。そのせいで椅子がグラッグラと不安定に揺れた。


「「危ない!!」」


 僕と神官さんがとっさに手を伸ばす。僕は椅子の上の方を押さえて、神官さんは椅子の下の方を押さえて揺れを強引に止める。だけどその時、勢いが付いた教皇は机に突っ伏した。
 そしてテーブルの上にあった盆栽とぶつかる。大きくグラついてテーブルから転がり落ちる盆栽。


「ああっ!!」


 腕を伸ばしも、モブリの短い腕じゃ遅かった。ガシャン!! と陶器の割れる大きな音がこの部屋に響いた。

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