命改変プログラム

ファーストなサイコロ

教皇を求めて



 映像の向こうのみんなは、必死にがんばってそして聖獣を振り切って行った。映像はミラージュコロイドの影響なのか、今は途切れてる。砂嵐の映像を見てた僕は、その映像に背を向ける。
 誰もが必死に祈るようにその映像を見つめてる中、僕は……


「おい、大丈夫か確かめて行かないのか?」


 一緒にここまで来た僧兵にもそんな事をいわれたけど、だけど僕は振り返らずにこういうよ。


「いい……みんなちゃんと無事だよ。それよりも急ごう。僕たちも僕たちの戦いをやらなきゃだろ。みんなの為にもさ」
「……そうだな!」


 僕達は周りに背を向けて歩き出す。目指すはこのサン・ジェルクの中心部分の社。この街の本殿。三方向の大きな橋が街側から延びてる訳だけど、問題はここが見晴らし良く作られてる事だよな。
 サン・ジェルクから逃げる時もここが問題だったし、でも案外今は誰もが上の映像を気にしてるし、いけるかも?


「楽観視は危険だ。元老院を舐めるなよ。お前達がサン・ジェルクの包囲網を抜けたせいで警戒が強化されたんだぞ」
「う……そうなのか? じゃあどうするんだよ? ノエインはあの建物だろ?」


 まあ部屋に居るかは知らないけど、まずは自室を当たるのが妥当だろ。確率的に言ってそれが一番良い。でもそれにはこの橋は必ず越えないといけない壁。何か手はないのか? 前は透明になったんだっけ? 


「おい、魔法で透明になるのとかは? こういう時の為の魔法だろ?」
「ふん、言っとくけどな、モブリだからって全員がいろんな魔法を使えるとか思うなよ」


 なに偉そうに自分の無能っぷりを自慢してるんだ。出来ないのかよ!


「うるさい、出来ないとかじゃない。ただ新たにセキュリティが強化されてるって事だ。この橋全体に、強制ディスペルの魔法陣が敷かれてる。
 だから魔法で姿を隠しても、無意味なんだ」


 そう言うことか。厄介な事をしてくれるな。あれ? でも待てよ。それって僕達があの社から出てきたって事がバレてるって事か?
 確かそこら辺は注意してた筈だけど。もしもバレてるのなら、ノエインが危ないのでは? 大丈夫なのかアイツ?


「おい、どうしてここまでそんな対策されてるんだ?」


 バレてなかった筈なら、そう言う強化は飛空挺の発着上とかで良かったのでは? だってそこら辺で僕達は暴れたもんな。


「お前達が派手に暴れたから、いろんな所のセキュリティが見直されたんだよ」


 なんてこった。自分達が派手にやりすぎたから、元老院の奴らは自分の身を守る為に躍起になったって事か。まあ、こいつの口調からして、別に僕達が社の中に居たのはバレてはないっぽいな。それならノエインは無事だろう。
 そもそも教皇様がどうにかなってたら、この作戦を取る前に何か言うはずだしね。問題はここをどう通るか……そう言えば、前にここを抜けた方法は魔法だったっけ? あの時は確か……別のアイテムを使ったような……


「そうだ! この橋に張られてるのは魔法を解除する魔法なんだよな? それならアイテムはどうなんだ?」
「アイテムってなんだよ?」
「僕達は身を隠せるアイテムを持ってる。それを使えばどうだって事だよ」


 そうそう、サン・ジェルク側の飛空挺に引き渡された時、全ての装備もアイテムも外されてたから忘れてたけど、テッケンさんと共に僕の全てのアイテムは戻ってきてるのだ。
 そしてその中には、アルテミナスで使った透明マントもあったんだ。これなら――


「ダメだ。ディスペルだけじゃない。アレを見ろ」


 そんな僧兵の言葉に僕は橋を歩く人達の足下を見る。するとなんだかその人達の足跡が光ってる……みたいな?


「幾ら透明になったって、アレは消せない。寧ろ、体が見えてないのに足跡だけなんて不自然すぎる。速攻バレるぞ」
「くっ、確かに……」


 随分厄介な事をしてくれるな。念には念を入れてるって感じだな。まあこの橋から続く社がサン・ジェルクの中枢なんだし、用心に越したことはない――って事か。全く持ってその通りだよ。


「じゃあ、本当にどうするんだよ」


 これ以上先へ進めないじゃないか。のんびりやってる暇はないんだぞ。


「全く、しょうがない奴だな。お前は本当にラッキーだよ。この俺を選んでな」


 なんだその自信ありげな態度は。何か策があるのか? まあ元々地元力があるから、リア・レーゼじゃなくサン・ジェルク側の僧兵を連れてきてるんだもんな。何かあるならさっさと教えろよ。


「抜け道って言うか……抜け穴があるんだよ。お前、泳ぎは得意か?」


 泳ぎ? 泳ぎねぇ……実際LROでの泳ぎにはそれほど自信があるって感じはない。何回も溺れかけてるしな。


「泳げないと、社に行く手段はもう強行突破しかないぞ」
「はん、舐めるなよ。泳ぎだろ。必要十分位は余裕だ」


 どのくらいが必要十分かは知らないけど……でもここで出来ないなんていえないし。あんまり派手に動きたくもない。なんの為にバトルシップが艦隊を必死に引きつけてるんだって事になる。
 僕がそんな強がりを言うと、僧兵は早速動き出す。人混みから離れてちょっと街灯の明かりも届かない薄暗い場所へ。柵の外へ出て、柵づたいに橋の側面へ。僕もそれに続く。なるほど、こうやって行けば良いのね。
 でも別にこれなら泳ぐ必要ないよな。脅しかよ。そう思ってると、何か呪文を詠唱しだす僧兵。そして自分に魔法をかけると、そのまま湖の中へスポンと入った。
 いや、これは別に効果音を間違えてる訳じゃないよ。本当に音も立てずにスポンって感じで入ったんだ。おいおい、どういう事だよ。何も言わずに行くなよな。超不安じゃないか。僕は黒い水面を見つめるよ。するとヌポっと顔の半分を出す僧兵。そして小さな手で、コイコイする。
 なんでわざわざ水面を行かなきゃいけないんだ? このまま側面づたいでも良いじゃないか。だけどもしかしたら側面にも何か侵入者対策をしてるのかもしれないな。ここは素直に従っとくべきか。郷に行っては郷に従えって言うしな――ちょっと意味合い的に使い方違うけど……ようはその地に長く居るんだから信用に値する筈、だと思う事にするよ。
 僕はとりあえず装備品をウインドウ内に戻すことに。これをしないと、体が重くてかなわないからね。何度も痛い目に遭ってきました。


「よし、行くぞ」


 装備を全て外して、僕も水の中へ飛び込む。ドバシャンと派手な音がしてビックリ。だけどそれが普通だよね。


「おい、もっと慎重に入れ。バレるだろ」


 怒られた。慎重にってお前絶対に魔法使ってるじゃん。反則だろ。


「使える物を使って何が悪いんだよ。取り合えずバレなかったみたいだし、急ぐぞ」


 そう言って潜る僧兵。どうせならその魔法を僕にもかけてくれるって発想はないのかな? そうしてくれたらとっても助かるんだけど。まあもう潜っちゃった奴に何も期待出来ないけどさ。
 見失うと大変だし、僕も息を吸って水に潜る。夜の湖は真っ暗だよ。底の方には幾つか光が見えるけど、それも心許ない光だ。まあなんだかその光の方を目指してるっぽいけど。
 あれはきっと前にクリエが箱庭に閉じ込められてた空間と同じ様なものかな? 水疱の中に空間を作ってるみたいな……きっとその光。それが一杯集まってる場所を目指してるって事は、あの上に社があるのかな? 近くまで行くと、淡い光を放つその水球の一つの中が見えた。
 なんだか一つの部屋が切り取られたみたいな感じだな。こう言うのが実は、このサン・ジェルクの湖の底にはゴロゴロと転がってるのかな? 魔法の国らしいね。
 そう思ってると上へ行くぞ的な合図があった。僕は頷いて、上へと昇る。


「ぷはぁ!」


 先に上へ着いて辺りを確認してた僧兵の合図の元、僕も顔を出して空気を求めた。ふう結構苦しかった。僕が肺に空気を送ってる間に既に僧兵は水から上がろうとしてる。全くちょっとは声かけてくれても良いじゃないか。僕は僧兵の後を追うよ。
 その間にも周りを確認。広いドーム状になった構造で、湖に接してる社の最下層部分……


「ここは……」
「ふっふ、ここはなかなか人も来ない場所なんだぞ。案外簡単に入れる割に警備はざるなんだ。まあそもそも社の底に穴があるなんてあんまり知ってる人はサン・ジェルクにも少ないんだけどな」


 なるほどね。ここってそんなに簡単にこれる場所だったのか。じゃあ上の警備は何なんだよって話になるよね。知ってる人が少ないから別にいいのか? その考えは危険だと思うけど。実際こんな風に僕たちは侵入出来てるしね。
 だけど助かったし、これは好都合だ。


「でも問題はここからだ。ここからはどう頑張ったって見つからずに進むのなんて不可能なんだ。なんたってここは本拠地だから。それだけの警備だと思ってろよ」


 そんな風にここからが本当の戦いだ……とでも言いたげな台詞。確かにその通りなんだろうけど……でもその通りじゃなくいけるかも知れない。
 僕は出口を確かめてる僧兵にこういうよ。


「う~んあのさ、ここからなら僕、教皇の部屋への直通通路知ってるぞ」
「はあ!? 冗談も大概にしとけよ。そんなのあるわけ――」


 信じれないのもわかる。僕は公然の出入り口がある場所から少し離れた所にトコトコ行き、壁に手を付き確かめる。確かここら辺を触ってたような。
 でももしかしたら魔法的な何かで通路を出現させてたとしてたら、僕じゃどうにも出来ないかも。余りにも普通に使ってたからそこら辺はわからないな。
 なんとかそうじゃない事を願いながら壁を触ってると、何か小さな取っかかりを見つけたぞ。目には何も見えない。だけど確かに手に感触はある。僕は取り合えずグッと力を込めて押してみる。するとゴゴゴと地響きが響き、隠し通路が開く。


「ほら、あった」
「――なっ……こんなの全然知らないぞ」


 そりゃあ教皇様の逃走用ルートみたいだし、知らなくてもおかしくないよ。やっぱり地元民だからって全てを知り尽くしてる……なんてのはおごりだよね。
 まあ僕がこれを知ってるのは完全にたまたまだけど……てか、魔法は通路じゃなく、このスイッチを隠すのに使われてる感じみたいだな。気づかなくても無理ない。そもそもあんまり人こないらしいね。


「よし、この通路なら教皇の部屋まで直通だ。行くぞ」
「なんだか素直に喜べないな……」


 そんな文句を言いつつも僧兵は後に付いてくる。新しい秘密を知ったって思えよ。地元の自分が知らない事を知ってたって事が悔しくてならないみたいだけどさ、今はそんな場合じゃない。
 一番大変だった筈の社内部の行動が一気に楽になったんだ。超大きい事だろそれは。暗い通路を進みつつそんなことを話し合う。


「まあ、そうだけど……おい、分岐があるぞ。どっちだ?」
「真っ直ぐ、だったと思う。確かそっちは外に出るんだよ」


 橋の近くに出るんだよね。そこも使ったもん。そしてしばらく進むと、通路は行き止まり。だけど赤く光る小さな点が見えてたからそれを押し込んでみる。すると色が青に変わり今度はシュっと扉が開く。
 一応顔を少し出して外を確認。うん、見覚えのある部屋だ。囲炉裏とか周りの装飾とかあの時のままだ。僕達は通路から部屋の内部に侵入する。


「あわわ、ここが教皇様の……なんて自分は恐れ多い事をやってるんだ」


 そんな事言ってを妙に震えてる僧兵。そういえば憧れなんだよね。確かにこれは結構失礼な事なのかも。だけど……


「今は緊急事態だろ。ノエインなら許してくれるって。それよりもどこにいるんだアイツ?」


 この一番広い場所にはいないみたいだな。僕は隣の部屋を調べる。ここはアイツの趣味の盆栽の鉢や土が一杯なんだ。もしかしたら趣味に没頭してるのか? とも思ったけど、やっぱりいないな。他の見た事無い部屋も片っ端から開けてみる。だけどやっぱりいない。


「おいおいマジかよ。なんでここにいないんだよ」


 期待してたのに。普通自室に確率高く居るものだろ。なんでどこにも影も形もないんだよ。


「どうするんだ?」


 そんな事を僧兵に聞かれる。僕は頭を抱えながら「どうするか?」って聞き返した。だって分からないよ。僕だってそんなノエインの事知らないし。


「取り合えず、何か手がかりがないか探してみよう」
「探すって何をだ?」
「ノエインが集めてる物とか、気になる明細とかあるかも。そこから行きつけの店や、行動パターンが少しは分かるかも知れない。
 日記とかもあればいいかもな」


 そんな事をいうと、僧兵はなにやらガタガタ震えてる。


「ななななな、他人の日記や私物に手を出すなんて……それは犯罪だぞ! プライベートを勝手に詮索するなんて、その人の尊厳の侵害だ! やっちゃいけない事だ!」
「でも、このまま手を拱いてる訳には行かない。別にお前は見てるだけでいいよ。シスカ教の教えじゃ仕方ない。僕は関係ないからやるけどな」


 そう言って棚の中身をガサゴソ漁る。


「この泥棒が!」
「うわっ、邪魔するなよ! 何も盗らないっての。必要な情報を見つけるだけだ!」


 本当にもう、融通が利かないな。元老院に反抗した時みたいな柔軟な対応をだな、求めるよ。


「あ、あれは別に神の教えに従ったまでだ。確かに俺達の中で元老院は大きいけど、それが神以上な訳じゃない。だけど今、お前がやってるのは明らかに神が禁じてる事なんだ」
「だからそこもほら、柔軟に見逃せって事だよ。僕はシスカ教信者ないし、そんな背信行為は知らん」
「この無神論者め。間違った事には意を唱える。そうしないと、悪がはびこる世の中になるんだぞ」


 プンスカプンスカ怒りながらそう言う僧兵。悪は既に蔓延ってるじゃん。元老院って悪が。声を大にして、今こそ駆逐してほしいよ。
 そんな風に背中越しに指摘されながらも僕は漁るのをやめない。だってこれは必要な事。僧兵もそう思ってる筈だ。そうじゃなかったら、こいつ力付くでも僕を止めそうだしね。
 それをしないって事は一応見逃す気で居るって事だろう。色々と言ってくるのは、一応止めようとしてますよ、的な体裁だな。
 う~~んだけどどうした物か……一向に収穫がない。てか、あんまり物がない。そもそもここ……教皇の部屋らしくないよな。全然豪奢じゃないし、一部の屏風とかはドドンと置いてあるけど、それ以外別に目を見張る物は無いに等しい。
 どんだけ質素にアイツ暮らしてるんだよ……と。教皇ってこんな物なの? まあ教皇の部屋が金ピカだったらそれはそれでイヤだけど。
 なんだかこれじゃああんまり夢見れないね。そう思ってるといきなり出入り口の扉がガチャっと開く。


「はぁ~全くノエイン様も人使いが荒い。いや、使って頂くのは一向に構わない訳だけど、それがこんなどうでも良い事じゃ、こっちのモチベーションが――ん?」
「「え?」」


 扉から入ってきたモブリと数秒目が合う僕たち。そしてお互いに何も言えない変な沈黙が流れる。だけどこれは「ヤバイ」その警報が僕の頭の中では鳴ってました。
 そしてゆっくりと状況を理解しだしたモブリが僕たちを指さす。


「き……君達……」


 その瞬間、僕はそのモブリに向かって走り出す。そしてその指さした手を押さえて、口も手で塞ぐ!! 


「んぐうううううう!?」
「ちょっと大人しくして貰おうか?」


 やっべぇぇどうみても僕は今、犯罪者に成った気がする。だけど叫ばれたりしたら困る。こうするしかなかったんだよ。


「おい! お前何をする気だよ!」
「しょうがないだろ。騒がれたりしたら面倒だ。僕たちどうみても怪しいし、ゆっくり弁明なんか出来ないじゃん」
「だからってそれは……」


 僧兵さんはなんだかクラクラと目眩でも起こしてるのか、ちょっと足もとがおぼつかない。自分がこんな犯罪者と行動を共にしてるのが信じれないのかな? 全く、失礼な。別に取って食おうなんて思ってないぞ。


「んんうううううんーーーー!!」


 ジタバタと暴れるモブリ。僕は大人しくして貰う為にこう言うよ。


「安心してください。別に殺したりしないですから。だから取り合えず落ち着いて。話し合おうじゃないですか」
「んぬううううううううう!!」


 折角人が優しく言ってるのに、全然落ち着かないよこの人。まあ、いきなりこんな事をやった奴の言うことなんか信じれないのも分かるけど……ここで無駄な時間を費やしてる場合じゃないんだ。
 一刻も早く戻らないと、マジで手遅れになってもおかしくない。それがあの映像で分かったからな。僕は僧兵さんを頼るよ。
 同じモブリの彼の言葉ならもっと落ち着いて聞けるだろう。


「頼む!」
「頼むって――ええ!? どうするんだ一体? ええっと、落ち着いてください。自分達は怪しいけど、でも犯罪を犯しにきたとかそう言うのじゃないんです。これもリア・レーゼで戦ってる仲間の為なんです。
 どうか自分達の話を聞いてください!」


 そう言って真剣に頭を下げる僧兵。すると効果があったのか、今まで盛大に暴れてたモブリの体から力が抜ける。これは話を聞く気になったって事かな? だけど油断は出来ない、一度従う振りをして油断を誘った隙に……なんてのは常套手段だ。
 取り合えずしばらくはこのままでいこうじゃないか。僕は目で僧兵さんに「そのまま続けて」って意志を示す。


「自分はサウニー教率いる飛空挺艦隊に居たんです。ですがサウニー教共々自分達の艦隊は聖獣に落とされました。辛うじて生き残ったのは自分を含めたたった数十人。それとバトルシップが一隻でした。
 だけどバトルシップだけじゃエンジンに火を灯せ無い。そこで彼らが取引を持ちかけました。リア・レーゼの為に戦ってくれるなら……それに自分達は乗ったんです。最初はそんな危険な場所に行くなんて……そう思ってましたけど、既に半数以上はリア・レーゼです。
 彼らは自分達がサン・ジェルクから援軍を連れて来てくれると信じてる! ですが元老院の方々にはその気がない……なら教皇様にお願いするしか……」


 プルプルと居たたまれない感じで震える僧兵。するとチョンチョンと僕の腕がつつかれた。視線を向けると、なんだかモブリがこっちを見てウンウン頷いてる。何? もう暴れないって意思表示か? 今の僧兵の言葉が響いたのかな? モブリの目は至って穏やかな色してる。大丈夫っぽいな。
 僕はモブリの拘束を解くよ。


「ふう、全く最初は何事かと思いましたよ。嘘……をついてる様には見えませんね。それに外の状況もありますし、あなた方の話は信じるに値するでしょう」
「そ、それじゃあ、この無礼、許して頂けますか?」


 僧兵さんはなんだか腰が低いな。そう言えば元老院程じゃないしろ、なんだか長い帽子をこの人も被ってる。結構偉いのかな?
 教皇のパシリっぽいから下っ端だと思ってた。


「許す許さないは今はどうでも良いことですよ。必死だったのでしょう、貴方も、そしてこの彼も」


 なかなかに寛大なモブリの様でよかった。僕たちはヘコヘコと頭を下げる。


「ですが……ノエイン様がそれを承諾なさるかは分かりかねますね。そもそもあなた方どこから?」


 う……でもここで変に誤魔化すのもな……僕は素直に言ったよ。そしたら結構な勢いで驚いてた。


「なっ!? こんなのいつのまに……どうりで時々突然消えると……貴方達以外にこれを知ってる者は?」
「さあ? どうでしょう。僕に心当たり無いですけど」
「そうですか……これもまあ後に回しときましょう。急ぎ会いたいんですよね? 教皇の元へ」


 そう言ってくれるモブリ。それはとってもありがたい。ありがたい……けど、直ぐに信じて良いのか、僕は躊躇うよ。だってこの街は基本、元老院に支配される筈だろ? 目の前のこのモブリが、そっち側とも限らない。



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