命改変プログラム
もう一つの手段
「ダメだ!!」
部屋に響きわたるそんな声。後ろを見ると、リア・レーゼの僧兵さんが、プルプル震えていた。そうだ……今の元老院の言葉、ちょっと正しい気がしたけど、幾ら正しくても僕も彼も、それを許容する事なんか出来ない。
だってリア・レーゼには仲間が待ってる。それに彼にとって、あの街は故郷なんだ。
「お……お願いします元老院の皆さん。リア・レーゼを助けてください! そこの奴が言ったように、きっと誰もが祈ってる。助けを待ってるんです!
家族や仲間……友達に、大切な人達が沢山なんです!!」
必死に頭を下げるその姿は、確かに何か心に来る物があった。彼の思いが伝わって来るというか……少し前にリア・レーゼに行ったばかりの僕が言うよりも重みがある……そう感じる。
だけど……
【お主も若いのう。色が違うと思うたら、リア・レーゼのか。家族や仲間、そして友……それを救いたい思いは分かる】
「なら!!」
【だが、その判断は出来かねる。聖獣の力もまだ未知数。少なくとも、奴らは儂等の一艦隊を全滅させる程の力。確実に勝てるか分からん。
我らはのう若いの。負ける事は許されないのじゃよ。どんなに非情と取られても、上の物としてより多くを守る義務がある。
今リア・レーゼに駆けつけても勝てるか分からぬのなら、勝てる戦力を整えて開戦するべきなのじゃよ。我らが今、その判断を誤ればノーヴィス全体が落ち、世界はより終わりに近づくじゃろう。
それだけはさせてはならん事じゃ】
「それをさせない為の犠牲がリア・レーゼだと?」
【そうじゃ。同士の死も無駄には出来ん。わし等はこの国と世界を背負ってるんじゃ。分かっておくれリア・レーゼの子よ】
どうしよう……なんて言えば良いのか分からない。困ったことに、この爺さんの言葉は正しい。上の立場の者として、より多くを救う方を選択する。それは仕方ない事だ。
きっと戦場がここだったら、ローレだってそうするだろう。敵の力は未知数で、ご自慢の艦隊がやられたとあっては下手に動くことは出来ない。
自分たちにだって背負う者があるから……だけど……
(これだけ反論出来ないのは、この爺さんだからだ。他の元老院の奴らなら、どうせ建前と分かるから幾らだって立て突ける……けど、この爺さんは違う。
本気でリア・レーゼの事を悼んでる。その上で、非情とわかりつつ、最善の選択を選んだ。それが本気で正しいと信じてるから)
画面の向こうの爺さんの意志は固そうだ。それを覆せるだけの物を僕達は持ってない。実際サン・ジェルクの援助があれば確実に勝てる……そんな保証はどこにもないんだ。
でも確実に、どうにか出来るかも知れない確率は上がる。このままじゃリア・レーゼは落とされるだろう。それは【確実】だ。
どれだけローレに隠し玉があるかどうか知らないけど、絶対的な数の差があるだろうし、聖獣は本当に厄介だ。どれだけ頑張ってもローレと僕の仲間、それに居合わせたプレイヤー達じゃ【落ちない】なんて未来は見えない。
リア・レーゼの僧兵の練度は見た限りそこまで高くないし、プレイヤーで構成されてたアルテミナスの様にはきっと行かない。
強みはローレ自身でいつでも動かせる一定量の兵隊が居るってだけだった。プレイヤーで構成した軍隊は、どうやったって時間帯によって数にバラツキが出るしな。
常に一定量の戦力を保有してるってのは強みだった筈だけど……それのキャパを余裕で聖獣軍団は越えてるだろう。
ここで僕達がサン・ジェルクを動かせないと落ちる……僕達がワガママなのは百も承知だ。でも、「しょうがない」なんて思える訳がない。
待ってる人達が、信じてくれてる奴らがいる。
「イヤだあああああああああああ!!」
「「「!!!!」」」」
その時、この場に大きく響いたそんな声。僕達は驚きの余り心臓バクバクしてる。
「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!! 頭では理解出来ても、それを受け入れる事なんか出来るはずがない!!
助けてください!! 今それが出来るのは貴方達だけなんです!! お願いします! お願いします!!」
僧兵さんは泣きじゃくりながら、その頭を何回も床にこすりつけてる。それは流石にちょっとした恐怖っていうか、怖いと思える光景だった。
現にサン・ジェルク側の僧兵達は少し引いてた。だけど、その必死さは周りの人達には届いてた筈だ。なのにそんな彼の心を姿を侮辱するような声が画面の向こうから届く。
【発言には気をつけろ! ここは我ら元老院の御前だぞ。長の言葉は絶対。その決定が貴様如きの私情で揺らぐ筈もない!!
そんなに故郷を無くすのがイヤなら、帰って故郷と共に滅びるが良い。その方がたった一人生き延びるよりも楽かも知れないぞ】
「きっ――さま!」
ザワッと僕の沸点が一気に高まる。この僧兵さんの姿を見て……そんな事が良くいえるな。通信越しじゃなかったら、ブッた斬ってやるのに。
【おうおう、怖い怖い。野蛮な猿が今にも飛びかかって来そうじゃわい。安心せい、お前は我らが丁重に保護してやるぞ。貴重な存在なんじゃからな】
手前の奴の次は、少し奥の小太りの奴がワインをつぎ直しつつそんな事を語る。こいつらはマジでふざけてるな。ワインなんてそもそも傾けてる場合じゃないだろ。真剣なのはやっぱり一番奥の爺さんしかいないじゃないか!
てか、こんな事言ってるのに注意くらいしろよ! 僕はそう思って奥の爺さんに視線を向ける。どうして微動打にしないんだ? アンタは唯一まともだと思ってたのに――ん?
なんだか口周りの髭が一定の間隔で靡いてる。顔の上ら辺は暗くて良く見えないからさ、そこら辺をよく見てたんだけど……あの規則正しさまさか……
「おい、ちょっとあの長とか呼ばれてた奴にズームとか出来ないか?」
僕はハッキリさせたくて、そんな事を言ってみた。すると、なんと出来るそうだ。流石は最新鋭の技術で作られたバトルシップだな。もしかしたら今までも出来たのかも知れないけど、それは知らない。
寄っていく映像。それで僕は確信したよ。
「寝てるじゃねーか!!」
どうしてだよ! 理解できないよ! なんでこの雰囲気の中寝れるんだ? どれだけ大事な話してたと思ってるんだよ。全然まともじゃないじゃないか。そう思ってると、ズームした画面の中に写り込んできた元老院の一人がこう言った。
【長は一週間に一度しか目覚めに成らない。なんせ御年二百五十六歳だからな。細々とした活動で、肉体の寿命を延ばしてるのだよ】
「二百五十六?」
僕は呆気にとられた。何その数字? ネタか?
「まさか本当だったとは……」
そんな言葉が周りから聞こえる。どうやらまことしやかにそんな噂はあったらしい。おいおいマジかよ。それも魔法なのか?
【何、君たちが気にする必要はない。長は我らの方針を決めてくださればこうやってまた一週間の眠りに付く。いつもの事だ。
決められた事を我ら残りの元老院が全力を持って実行する――それが我らなのだよ。まあやり方はそれぞれの自由だがね】
こいつ等……そう言うことか。あの爺さんが何も知らない筈だ。一瞬間に一度しか目覚めない爺を騙す事なんか、こいつらに取っては苦でもない事だろう。だってその他全員がグルなんだからな。
それも一番近い奴ら全員が欺いてるんじゃ気づきようがない。
【さて、煩わしい話し合いもここまでにしようじゃないか。リア・レーゼは落ちる。それを見届ける位はしてあげよう。だけど君をあの場所に戻らせる訳には行かないなぁ。
なんたってクリエが使い物に成らない、回収出来ないのなら、後は君を使うしかないんだから】
本性……表しやがったな元老院。
【サウニー卿は良くやってくれたよ。君の命だけは止めてくれた。しかも自分からサン・ジェルクまで……くっくはははははは!! やはり女神は、リア・レーゼの御子よりも我らを溺愛してくれてる様だ!!
我らの夢の可能性は今ここにある!!】
そう言って、元老院の奴らが一斉にワイン片手に乾杯をした。やっぱりこいつら、腐ってる。こんな時に自分たちの夢だと? 故郷の為に願い頭を下げてる奴がここに居るのに、祝杯をあげるなんて……
(爺さん、やっぱりアンタの見てる元老院なんて、とうの昔に失われてる)
僕は祝杯の隅に追いやられてる長を見てそう思う。すると後ろからまだこんな声が……
「お願いします……お願い……します……お願い……」
心がズキズキと痛む。こんな奴らに、まだそんな事を言うのか。こんな一目もお前に視線を投げかけない奴らにまだ……僕はその腕を強引に掴んで彼を持ち上げる。
「やめろ、もう無駄だ。あいつ等には話なんか通じない」
僕は彼の顔をまっすぐに見つめてそう告げる。するとボロボロと流れ始める涙。それが止めどなく溢れてくる。
「じゃあ……一体どうすれば……」
「まだ出来ることはある。僕達が何しに来たか思い出せ。これは一つの手段でしか無かったはずだ。まだ諦めるには早いんだよ」
僕の言葉を受けて、僧兵さんは必死に涙を拭って鼻水を吸い始める。少しは持ち直したか?
【何をしようともう遅い。諦めて我らの道具になれ。そうすれば良い思いが出来るかもしれんぞ】
そんな聞くまでもないくだらない事を言ってくる元老院の奴ら。本当に全く、どうしようもないクズだな。僕は映像に向かって剣を抜き突き立てる。そしてこういってやる。
「お前たちの思い通りにはさせない。僕達はまだ諦めてなんかいないんだ」
【はぁーはっはは!! 僧兵よ奴らを捕らえよ! 決して逃がすなよ!】
高笑いと共にそんな事を命令する元老院。ビクリと反応したこの場の僧兵達。そして向けられる視線。
【どうした? 早く奴らを捕らえてしまえ。昇進させてやるぞ】
響く元老院のゲスな言葉。僕達はだけど無言で視線を交わしてた。みんなどうするか迷ってる。当然だな。みんなはサン・ジェルクの僧兵だ。
彼らにとって元老院は絶対らしい。だけど今……彼らの瞳の奥に見える迷い。それが真実なんだと僕は思う。だから何も言わずに見つめ返すよ。強い瞳だけ思いを込めて。
誰も何も言わないから、周りの僧兵達は、艦長席に座ってる一人に視線を集中してる。
【何やってる? 昇進させてやると言ってるんだぞ。功労賞も授与してやろうじゃないか。お前たちは素晴らしい働きをしたんだ。誇っていいぞ。
だから早くそいつを魔法で縛り上げろ。今日の貴様等の役目はそれで終わりだ。労を労う為にも休暇をやろうじゃないか】
沢山の餌を豪快にばら撒く元老院。だけど艦長席に居る僧兵はそんな言葉とは全然違う事を元老院に聞く。
【我らだけ……ですか? 半分以上は既にリア・レーゼに向かい、命懸けで戦ってるんです。私達が援軍を連れてくるのを信じて……彼らまでも助けれないのですか?】
俯いて、目の前の台みたいなのに手を置いてプルプルしてる彼。そんな様子が見えてるはずなのに、元老院は簡単にこう言った。
【そうか、それは悼むべき事だ。非情に残念だ。普通は二階級特進だが、特別に五階級位あげてやろうではないか。勇気ある行動だ。愚かでもあるが……
それで文句なかろう、さあ早くそいつを捕まえろ】
彼の体の振動は次第に小刻みに、だけど激しくなってくように見えた。僕はその肩を強く押さえるよ。それに気づいた彼と視線がぶつかる。だから無言で頷いた。すると顔を背けられたよ。
だけど次の瞬間、彼も目一杯叫んだ。
「絶対にイヤだああああああああああああああああ!! 私達は仲間と別れる時、必ず戻ってくる、そう言った!! 仲間との約束を破るなんて出来ない!! だから助けを出さないあなた方の指示には従えません!!」
おいおい、かなり思い切った事を言ったな。僕も驚いたけど、元老院共もかなり驚愕してる。自分達の駒である僧兵が反旗を翻すなんて思っても無かったって事か。
だけど僕は気付いたよ。彼は小さな声で「どうしよう、どうしよう、どうしよう……」そんな言葉を紡いでる。勢いで言ったから、不安が襲ってるんだろうな。
だけど良く言ってくれた。僕は彼の肩においてる手に力を込める。
「ありがとう」
耳元でその言葉を紡いで僕は元老院共を指さして宣言してやるよ。
「そういうこった! ここに居るみんなは仲間を見捨てたりなんかしない! 平気で嘘を吐くことなんかしないだ。お前たち元老院の言葉が絶対じゃない、それがこの人達だけじゃない……それを今から証明してやるよ!!」
【ぐっぬううう……お前たち我らの言葉に逆らった事を悔やんでももう遅いぞ!! 艦隊、目の前のバトルシップを捕らえよ!!
壊すなよ。あくまで生け捕りにするのだ!!】
キレた元老院はサン・ジェルクの上空に停滞してた艦隊にそんな指示を出す。
それと同時に前方の飛空挺艦隊から、なにやらチカチカと光が見えた。すると俯いてた艦長代理の僧兵が叫ぶ。
「避けろ!!」
その瞬間バトルシップは傾きつつ高度を落とす。するとさっきまで居た場所で爆発が……おいおい、生け捕りじゃなかったのかよ。
どう見ても壊しに来てるじゃんか。そう思ってると、艦長代理の僧兵はぶつぶつ言うのをやめて、腹を決めたようにドシッと椅子に座った。
「もうやるしかない。それでいいよなみんな?」
「ええ」
「しょうがないかな」
「それが艦長代理の決定なら」
艦長代理の言葉にみんな快くそんな返事を返してくれる。すると彼は今度はこちらを向く。
「そういう事だ。もう俺たちは一蓮托生……なんとしてもやり遂げろよ。そうじゃないと……俺たちの人生も終わるかも知れないからな!」
人生って……まあ、確かに元老院に刃向かったら居場所なくなりそうだよね。それどころかクビにされてもおかしくないのかも。ほんと、それだけの犠牲を払ってでも、この人達は仲間との約束を守ろうとしてくれた訳だ。最高じゃないか。そんな事言われなくても、なんとしてでもやり遂げるさ。
「任せろ!!」
僕は力強くそう言うよ。すると再び振動が伝わってきた。どうやら艦隊がバトルシップを捕らえようと必死に追いかけて来てるようだ。
【ふはははは! 無駄な抵抗は止せ。いくらバトルシップでもその数相手に逃げられはせぬぞ!】
高笑いしながらワインを片手に持ってる奴が何か言ってる。ムカムカするな。
「通信を切れ! もうそんな物に意味なんて無い!」
僕の言葉を聞いてくれて、中空に出てた画面は消える。これで良い。あいつ等との交渉なんてこれ以上は無意味だ。
後はただ、最初の計画通りに動くだけ。
「テッケンさんからの連絡は?」
「まだだ。もしかして速攻やられた……とか?」
「そんな訳ない。あの人はやってくれる。みんなはバトルシップで艦隊を引きつけつつ、陣の完成を!」
僕の指示にコクリと頷いてくれるみんな。なんだか分かりあえて来た気がするぞ。そう思ってると、サン・ジェルクの町並みがかなり近くなってきた。
それと共に、艦隊に近づくことになるから砲撃も多くなってくる。バトルシップは常にガタガタ揺れてる。すると今度は空に現れる魔法陣。砲撃じゃない? そう思ってると鎖みたいなのが次々とバトルシップめがけて出てくるじゃないか。
なるほど、今度はちゃんと捕らえに来たって事か。これ捕まったらヤバいんじゃないか? 実を言うとこっちの武装は皆無なんだ。聖獣軍団との戦闘でボロボロだったし、全ての動力を飛行に回してるから、このバトルシップは辛うじて飛んでる状態だ。
砲撃とかに回すエネルギーはない。まあそもそもみんなにとってはこの追い回してくる飛空挺に乗ってるのは同僚の僧兵達。
砲撃を出来たとしてもきっとしないんだろうとは思う。でも、どうにかしなきゃいけない事はあるわけで……適当に撃ってる砲撃と違って、この魔法は確実にバトルシップを捕らえに来てるぞ。
すると舵を任せられてる奴がこう言うよ。
「みんな、しっかり何かに捕まっててくれ!!」
その瞬間、視界が百八十度傾いた。僕は艦長の椅子に必死にしがみつく。すると今度はそのまま回転。しかも左右に高速で移動しながら機体を傾けたり回ったり、これはジェットコースターなんて非じゃないアトラクションだ。掴まり損ねたリア・レーゼの僧兵さんなんてさっきからこの部屋のいたる所にぶつかっては転がってるよ。
そう思ってると、なんとか魔法の鎖の襲撃を抜けたみたい。まさかこれだけの機動性を備えてるとは、バトルシップ恐るべしだな。更に一気に急降下して、サン・ジェルクの街の直ぐ上へ。そこでピタリと砲撃が止んだ。
「そうか、街に被害を出すわけにはいかないから」
そこら辺はちゃんと考慮してるんだな。だけどそれなら再びあの鎖が襲ってくるだろう。モタモタしてはいられない。
そう思ってると、ブリッジ周りの席に着いてる僧兵達がこう言うよ。
「行ってください! そしてなんとしても目的の達成を!」
「私達も全力を尽くします! 陣の構成はお任せを。だからそれまでにあの方を見つけてください!!」
空に現れ出す魔法陣。僕はブリッジの僧兵を強引に抱えて、そこに近くに倒れてたリア・レーゼの僧兵さんを置くよ。
「シャキっとしろよオイ。信じろ、サン・ジェルクでもみんな今は仲間だ!」
「ん……んあ?」
目が回ってるからか、よくわからない反応しか返さない僧兵さん。全く締まらない奴だな。だけど時間もないし、僕は最後にこう言ってブリッジを飛び出す。
「僕が言うのもなんだけど、みんなに神のご加護がありますように……行ってきます!!」
腕に抱えたサン・ジェルクの僧兵の指示に従って、僕はバトルシップ内を駆けて薄暗い最下層部分に。バトルシップはどうやら、リアルの飛行機みたいに機体の下部が開くらしい。
だからつまりは……
「うおっ!」
僧兵がレバーを引いて底が開きだした。一気に外へと流れる激しい風が体を外へと吐き出そうとする。かなり降りてきたって行っても着陸も着水も出来ないからな。
実際下を見ると内蔵が浮いたみたいになるような変な感覚に襲われる。ジェットコースターで一番高い所から下る時の感覚。
そろそろ馴れろよ、とか言われそうだけど、怖いものは怖いんだぞ。だけど……迷ってる暇も時間も今の僕たちにはない。
この一瞬一秒の間にも、リア・レーゼはどうなってしまうかわからないんだ。
「行くぞ僧兵!」
そう言って僕は手を差し出す。すると頷いた彼が、必死に体を持って行かれない様に掴んでたレバーを放す。すると勢い良く僕の方に飛んできたから、それをキャッチ。そしてこの勢いで僕も――と、思ったらいきなり機体が激しく動き出した。
「なんだ!?」
「艦隊の魔法を回避してるんだろう。どうする? このスピードで飛び出すのは自殺行為だぞ」
自殺行為? そんなのは最初の時点からそうだったっての。
「どのみち僕達が早く出ないと、まともに避ける事も出来ないんだ。だからスピード出して振り切ろうとしてる。バトルシップも今行動不能に成られちゃ困る。
無茶でも何でもいっく……ぞおおおおおおお!」
僕は激しく気流が乱れて身動き出来ない状態の中、必死に体を穴の方へ引き寄せる。開いた部分を掴んでて良かった。
そして何とか僕達はバトルシップから飛び出した。その瞬間、バトルシップの勢いに吹き飛ばされて空中を回転。このままじゃ地面に激突で確実に死ぬ!!
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