命改変プログラム
したたかさの違い
暗い扉が開く。僕を誘う暗い扉。サン・ジェルクの旗を掲げるそれは、きっと旗艦なのだろう。普通サイズより大きな飛空挺の看板に着いた僕は、甲板の奥で開く扉を見つめてる。
周りにはリア・レーゼの橙を基調とした僧兵とは違う、深い藍色の服に身を包んだサン・ジェルク側の僧兵の山。流石旗艦だけあって、兵の数もハンパないね。
それに見る限り、後衛だけじゃないみたいだ。小さな斧を持ってる奴とか、自分と同じ大きさの盾を抱えてる奴とかいる。
まあ詠唱の時間は稼がないといけないんだし、全て後衛じゃ無理あるもんな。でも……案外以外だったのは、最新鋭のバトルシップじゃなく、旧型の方が旗艦だって事だな。
まあデカいし、旗艦だから前に出る気もないのかも知れないな。それにバトルシップは小型化でスピードと小回りを強化してる感じだし、旗艦って感じではないのもあるかも。戦闘機の位置づけだよね。
そんな事を考えて観察してると、開いた扉の奥から偉そうなやつが出てきたぞ。もう見た目で偉そうとわかる。
だってどこの料理人だよって暗いに帽子が長い。老いを感じさせる白髪が見えてるその頭に深くかぶってる帽子は自身の身長の倍はありそうだぞ。
疲れそうだ。誰か取ってやれよ。しかもゴテゴテに宝石が装飾されてるからか、バランス悪そうだ。杖を着いてまでも一人で歩けるなら、その帽子を取れば、もっと俊敏な動きが出来そうだぞこの爺。帽子と服は対になってる感じだな。
てか、宗教の服なんだろう。ゆったりとした感じの服だ。普通に床引きずってるし。そしてそんな老人の周りの兵士は一味違う感じな雰囲気を醸し出してる。
さながら大将を守る護衛なんだろうな。周りの普通の僧兵達は、整列して杖を斜め上につきだしてる。どうやらこれがサン・ジェルクの敬礼みたいな物らしい。
僕までの一本道を老人はゆっくりと歩いてくる。最初は自分がどうなるか、ローレがどこまで交渉してるのか、色々と考えてたけど……一分経っても、二分経っても三分経ってもなかなか近づかないから流石にイライラしてきた。
マジでその帽子取れよ。そう思ってると……
「ちょっと頼めるかの?」
そんな言葉を後ろの護衛に掛けたと思ったら、護衛はそそくさと老人に近寄って厳かに帽子を取った――取った!? マジで取ったよ!! ちょっとテンションが上がった僕。そしてスピードアップして僕の元まで来た。
こんな直ぐにこれるのならさっさと帽子とっとけよな。まあ予想外に甲板の端までは遠かったのかも知れない。老人にはこの大きさの船って不便なだけのような気がするね。威厳とかを保つ上では必要なのかも知れないけど、良い的だよね。
僕が入ってる台座の前に来た老人は腕を上げて、何かの合図。すると、周りの僧兵達が突き出してた杖や武器をおろした。周りの人達も大変だったな。流石に数分も腕を上げとくのはきつかっただろう。
(ようやくか……)
この数分間である意味待ちくたびれてた僕はそう思う。だけど僕以上に緊張してるのは周りのリア・レーゼの僧兵さん達だ。まるで「遂にこの時が……」的な感じなのが見て取れる。
きっとこの人達は不安なんだね。中身がクリエじゃない事に怒るのか、それとも事前に話は通ってるかで色々と変わるもん。
話が通ってれば合意の上なんだろうけど、そうじゃなかった場合、この長帽子被った老人は怒るかも知れない。そうなったら僕だけじゃなく、彼らの安否も危ういもんな。
不安になるのもわかるよ。ローレの奴、本当に何も言ってないんだな。
「さあ、出てきて貰おうか……クリューエル」
老人の口から出たそんな言葉。ああ、やっぱり……と僕は思いました。ローレの野郎、騙す気満々じゃねーか。やばい、周りのリア・レーゼの僧兵さん達が葬式状態だ。お前等、良くそんなんでローレに付いて行ってるなって思う。
アイツはそういう奴だろ。まあ見捨ててる訳じゃないとは思うけどな。アイツ的には、大丈夫だと思ってるから送り出したんだろ。
まっ、その根拠は全然わからんけど。流石にちょっと僕も不安がぶり返して来たかも。
「ほら、何やってるのよ。さっさと顔を見せてやりなさい。そいつの呆気にとられる顔が目に浮かぶわ」
この場所に居ない奴は気楽だな。ローレの命令を受けて、周りの僧兵がその杖で一斉に床を叩く。するとこの台座を覆ってた膜が溶けていく。
そして僕達は奴らの前に露わになるんだ。そしてひざまづいてる僕の方がまだ高い目線で、老人と目があう。だけど老人はキョロキョロと僕の後ろを覗きみたりしてる。
きっと信じたくないんだろう。そして中央に座らされてる僕以外、後は僧兵しかいないと確認すると、なにやらその濁った目でこう言ってる――――様な気がした。
(お前か? いやいや違うよな? クリエじゃないよな? クリエはどこだ?)
多分こんな事を訴えてるんだと思う。だけど残念。僕は今、言葉を封じられててまともに喋る事も出来ない。だから僕も目で訴えるよ。
(お前は騙されてる)
けどやっぱり僕達はアイコンタクトで分かりあえるほどの絆を築いちゃ居なかった。当たり前だね。だって今初めてあったし。ぶつかり合う視線が数十秒続いて、いきなり大声を老人は出すよ。
「違うではないか!! どう言うことだ星羅の御子よ!?」
すると今度は声だけがこの空域全体に響くように伝わって来た。
『別に違わないでしょ? 寧ろ配慮してやった位。だから感謝して欲しいわね』
「感謝だと? 儂等が求めるのはこんなどこぞの馬の骨とも知れぬ輩ではない! その身に二重の神の力を宿す、神の落とし子クリューエルだ!
貴様、再び我らを計っておるのか? そんな余裕があるのかのう。力を貸さぬぞ? それでも良いのか?」
おお、老人はリア・レーゼの足下を見てきたぞ。大ピンチのリア・レーゼはサン・ジェルクの力添え無くして勝てないとこの老人は踏んでる。
だけどローレの奴、前にも何かやったのか? そんな事を臭わせる事を老人が言ってた。何をしたのかが気になるけど、僕に発言権はないのだ。
『神の落とし子ね。そんな大切な子を元老院の爺共は何に使うつもりなのかしら?』
おっ、なんだか唐突に核心に迫ろうとするローレ。
「ふん、星羅の御子などには関係無い事じゃ。せいぜい世界樹にへばりついて胡座をかいていれば良い。自分が世界を見下ろす立場だとの勘違いも、そろそろ終わりにしてやろう」
『あらら、老害風情が何か言ってるわね。見下されてる実感があったなんて意外だわ。だけど悲しいことを言うわね。表面だけでも、一応は同じ宗教同士なのに。崇める対象だって同じはずよ?』
良くそんな事がいえるなこいつ。ローレって絶対にシスカ崇めてないだろ。利用してるだけだよね。そして勿論、老人もそんな事知ってるらしい。
「何が同じだ。我らと星羅は――いや、貴様は全く違う。その目に野心を燃やし、シスカ教を喰い荒らしてるのはわかってるのだぞ。そんな貴様にシスカ教の宝であるクリューエルを預けておけるわけがない。
これは正当な保護だ。だからこんなゴミ、突き返してやるわ!」
思ったけどさ、さっきからこいつ、僕に言う言葉酷くない? ローレと会話してる筈なのに、僕が傷つくんですけど。
『ゴミね。確かに私からしたらゴミだけど、そっちはきっと違うと思うわよ。言ったでしょ、配慮してあげたって。実を言うと、クリエはもう神の力を半分しか持ってないのよ』
「何!? それはどういう……」
おい、普通に僕をゴミ認定して話し進めてるぞコイツ等。後で覚えてろ。滅茶苦茶にしてやる。ゴミを舐めるなよ。
だけど僕は幾ら心の内で怨念を渦巻かせてもコイツに等届かせる事は出来ない。縛られてるし、言葉も喋れない。まさに物状態だよ。
(だけど今に見てろよ!)
この艦隊を犠牲にして取り合えずリア・レーゼの危機を脱する。その為に今は我慢だ。そして全てが上手く行ったなら、取り合えずローレに仕返しだな。
そんな決意を僕が固めてる間にも、偉そうな二人の会話は続いてる。
『アンタ達ももう知ってるでしょう。聖獣が復活して、世界樹が狙われてる。それにただ復活しただけじゃない。奴らは丁度そこに居たクリューエルの力を奪ったのよ。
しかも片方の邪神の力をね。それで奴らは完全体となったわ』
「なっ……貴様なんという事を! クリューエル様は無事なんだろうな!? 実はこのゴミを寄越したのも、既にクリューエル様がこの世に居ないから……」
わなわな震えながらそんな事を呟く老人モブリ。なんて最悪な想像をしてるんだ。まあ確かにそれを疑う余地も確かにあるとは思うけど……でもローレの奴、今丁度そこに居た――――とか言ったよな。
あくまで自分達は無関係で偶然だと言いたいらしい。前に、知らん存ぜぬを通したから、ここで実は手の内に居ましたとは堂々と言えるわけ無いって事だろう。
幾ら疑われてて、真っ黒に近い灰色でも証拠が無い限り確定させない。流石こいつは駆け引きって奴をわかってる。性格ドス黒いもんね。
そんな性格のドス黒いローレは老人モブリの真剣な言葉を笑い飛ばしてました。
『あははははははは、それはちょっと的外れも良い所ね。流石に脳細胞死んできてるんじゃない? 権力に胡座をかいてるから頭を使う場面なんてそう無いでしょ?
良い脳トレの本を後で送ってあげようか?』
「貴様! 話を誤魔化すな!! こんなゴミを寄越しおって……無事だと言うならクリューエル様の姿をみせろ! 流石にもうそっちで確保してるんだろう。見せることが出来ないのなら、それは死体だからか、貴様等が無能だからと言うことになるぞ!!」
ギリギリと歯を鳴らす皺だらけのモブリは、幾らモブリでも全然愛くるしくない。いや、寧ろ気持ち悪かった。しかもローレが無駄に煽るから、逆上したこいつは、僕の顔をその小さな足で踏んづけてる。
しかもドゲシドゲシと何回も踏みつけやがって、マジで許せない。
『別にそこまでする必要あるかしら? 必要なくない? 言ったじゃないあの子よりもそっちの方が価値あるって。それにどのみちこの状況じゃ声しか届けられないし……ああ、勿論今は保護してるわよ。
それにあの子、アンタ達のこと嫌いでしょ? 言ったとおり万全じゃない状態なの。そんな状態でなんて喋らせるのよ。女の子はデリケートな生き物なのよ老害。もう何年も前からセックスレスだろうから、そんな事もわからなくなったかしら?』
「ふん、くだらん!! 無理矢理でも何でもクリューエルの姿を見せろと言ってるんだ! 貴様がどんな仕掛けを施すかわからんから、声だけなど許さん。しっかりとクリューエル様の姿を確認した上で、貴様の話を聞いてやる。
このゴミがどういう配慮なのかをな!! このままではその完全体となった聖獣に潰されるぞ。助けが欲しいのなら、それ相応の態度を示せ!!」
「……」
おお、なんとローレが黙ったぞ。この場に妙な沈黙が流れる。声だけだったし、何も言わなくなると、なんだか途端にこの老人モブリがおかしい人に見えるな。
ヒステリックでも起こして空に向かって叫んでる危ない奴って感じ。だけど老人モブリはそんなの気にしない。奴は空に向かって更に叫ぶ。ローレが口を噤んだから、ここが好奇と踏んだのだろう。
「どうした? 遂にその無駄に動く口が動かなくなったか? それならばさっさと要求を呑め。そうでなければ潰れるぞ?
そもそも、貴様がトップな時点で長く続く訳もないがな。これを気に、完全な上下関係を叩き込んでやる。星羅など所詮は、我ら聖院の小粒程度の存在よ!! それを貴様は受け入れるしかないのだ!!」
その瞬間、ドガン――ピピ――アガガガ ってな音が聞こえて、おいおい、小さくだけど「ひっ」ってな声が聞こえたぞ。
それはきっと近くに居る偽の声だと思う。さっきまで映像として見てたし、それなら二人は同じ場所に居る可能性が高い。
いや、もしかして僕をこの空域まで連れて来た飛空挺に? ってそれは無いかな。わざわざ出てくる程の事でもない……と思う。だけどここに来て、奴は主導権を握りだした。元々クリエと引き替えに協力を得るみたいな体裁だったリア・レーゼ側はその立場の弱さを突かれてるな。
まあ、単なる因縁もコイツ等の間にはありそうだけど……いや、それはローレとコイツだけじゃなく、きっと星羅が聖院から分かれた後からずっとあるんだよな。因縁はさ。
『ふ……ふふは……小粒ね。私の足下でギャーギャー目障りに喋って動くしか出来ない存在がよく言うわ。いっとくけど、そのゴミで満足しといた方がいいわよ。まだ私が大人しい内にね』
何を考えてるんだローレの奴。幾らムカつくからってここで対抗心を燃やしてどうするんだよ。取り合えず僕を受け入れさせればいいだろ。そしたら後からどうにでも出来る。ここで僕が放り捨てられたら、何もかも無駄だぞ。
それにこんな所で落とされたら、僕が死ぬっての!! だから多少の屈辱なんて我慢して、クリエの映像とかを見せろよ! 出来るだろそのくらい。
「ここで暴れる気か? そんな事して何の得がある? それに貴様の力もリア・レーゼの守りに回さないといけないのは分かってる。
何も出来はしまい」
余裕な感じで老人モブリはそういうよ。確かに今無闇に力を使うわけには行かないよな。召還獣は自立行動とか出来るんだろうけど、そんな頻繁に呼び出す物でもないし、ここは森を越えた場所だ。
そしてその森のどこかには聖獣はいる。召還獣なんて強力な存在が通ったら妙な刺激を与えるかも知れない。それで再び進行が開始されたりしたら、今のリア・レーゼでは守りきれないぞ。
その為に、コイツ等を利用しようとしてるんだしな。そして僕が行動を起こす為にも、なるべく侵攻は後からの方が都合がいい。
触らぬ神に祟りなし……まあ少し意味は違ってるだろうけど、なるべくそんな感じで行きたい所だろ。
『そうね、今は何も出来ないかも。じゃあ、そろそろ次のカードを切りましょう』
何だ? 空に響くローレの声が悪役っぽくなってきたぞ。次のカード? イヤな予感しかしない。
「ふん、満身創痍の貴様にカードもそして手札さえもないだろう! ここから何が出せる? さっさとこのゴミの価値とクリューエルの安否を確かめさせろ!!」
老人モブリはなんだか老人じゃない位に生き生きしだしてるな。最初出てきたときは、明日死ぬんじゃないかって思ったけど、まだまだ口は達者なご様子だ。あれだな、いつまでも口だけ出し続ける、会長職みたいな奴だな。
まあ元老院って組織がそもそもそんな感じなんだろうけど……コイツ等は権力と贅沢を尽くして、生き生きとしてると思うとホント軽く殺意が沸くな。さっきから僕の事ゴミゴミ言い過ぎだし。そろそろマジで足どけろよ。
何回も甲板に頭をぶつけたせいで、血が出てるだろ。だけどそんなのこのモブリは見ちゃいない。いや、見ててもやめるとは到底思えない――か。
僕が煮えくり返ってる心で、呪詛の言葉を連呼してると、曇天の空に簡潔な言葉が一言響く。それもあっさりとした口調でだ。
『じゃあ、教えない』
マジでそれだけ。老人モブリは一瞬止まってたよ。だけど直ぐに気を取り直してこう言った。
「貴様ふざけるなよ! 我らの助力無くしてこの局面は乗り切れられんのだぞ!? それでも教えないだと?」
マジで何言ってるんだローレの奴? 丸く収めてどうにか先へ進めろよ。意味が分からないし。
『ええ、教えないわ。だって私がクリエに価値はないって教えて、しかも気まで使って価値のある方を送ったのに、それがただのゴミだ何だとケチつけれちゃ、言う気もなくなるわ。
っていうか、頭に来たわ。特に私をバカにした発言が』
僕の所はやっぱりどうでも良いってか!? 実際、最後の部分で意地張ってるだけにしか聞こえないんだけど……
「バカな事を! 貴様のそれはただのワガママだろう! だからこのゴミの価値を教えろと言ってる! そうすれば我らがこの艦隊でこの森ごと聖獣など焼き払ってくれるわ」
おいおい、随分物騒な事を言ってるなコイツ等。まあ森を焼き払う位は出来るだろうけど、それで聖獣まで倒せるかは別だよな。
あいつ等、そんな甘い存在じゃない。
『バカはアンタよ。アンタが年の割に饒舌に喋るから、なんとしてでもクリエが欲しいってのがよくわかったわ。まあ昔から隔離してた位だし、それだけの期待を込めてたんでしょう。
それがいきなり使い物に成らなくなったからって代わりを私が出して素直に信じれるわけないわよね。ふふ……アンタ達のクリエへのこだわり具合は良い感じに使えるわ』
「何を……」
少しだけど、身を引く老人モブリ。コイツも何かイヤな予感を感じ取ったのかも知れないな。
『サン・ジェルクは……いいえ、元老院は私の言葉なんて信じない。だからこそその目で確かめたい……大切な大切なクリューエルを。
それなら、アンタ達は私たちを守らざる得ないじゃない。だってクリエはリア・レーゼに居るのだから。そしてその最大の驚異を追い払わないと、安心なんて出来ないでしょ?
言う成ればアンタ達は勝手にこう思ってくれてる訳よ。
【リア・レーゼが落ちるとき、我らの目的も終わるかも知れない】ってね。あの子を使って……いいえ、あの子の力を使って何をしようとしてるのかなんて知る必要私にはない。
ただ、どれだけアンタ達があの子を求めてるか……それだけ分かれば、私は絶対にあの子を手放さないわ。まあ元々必要なんてないんだけど……元老院側がそれを信じてくれないんじゃ、どうしようもないものね』
あの野郎……この曇天の空にコイツ等を見下してるローレが浮かぶようだ。実際思いつきだろうに、確かにカードに換えてきたな。しかもとびきり級のカードになった。だって誰が、自分の信頼の無さを武器にすると思うだろうか? 互いに疑心暗鬼してるからこそ出来たジョーカーだな。
もしも良好な関係を築いてたら……と思ったけど、そんな関係なら、そもそもこんな取引しなくても救助を出すものか。無意味な想像だったよ。
「くっ……」
信じられる訳もない奴の言葉の全てに翻弄されちゃってる老人モブリ。これは……完全に逆転したな。だってコイツ等に、僕の価値を知る術はない。それを知ってるのはローレだけ。
『さあどうする? 別に見捨てても良いわよ。その時は、勿論クリエも道連れにしてあげる。まあ、今のあの子に価値なんてないんだけど、それを信じれないんじゃ~~ね♪ ほら、信じて見捨ててみなさい。女神様だってそれを望んでるわよ。信じる事って大切だと、仰ってたじゃない。きっと分厚い本のどこかで』
適当にこの教壇の神様を出すなよ。しかもバカにしてる感じだし。ホント信仰心のない奴。老人モブリとかだけじゃなく周りの僧兵達まで、今のローレの言葉にはざわめいてるぞ。
すると老人モブリは僕から足をどけてその皺だらけの顔を近づけてくる。目が赤く充血してて、息も荒い。気持ち悪い。
「吐け! 奴の言ってることがどう言うことか吐くんだ!!」
そう言って僕に唾を吐きかけながら叫ぶ。きったな……だけど残念……僕は言葉を封じられてる。何かを言いたくても何もいえないんだ。
『無駄よ無駄。そいつには魔法を掛けてる。ねえ、互いに賢い選択をしましょうよ』
そう紡ぐローレの声が、この薄暗い空に空に響いてた。
周りにはリア・レーゼの橙を基調とした僧兵とは違う、深い藍色の服に身を包んだサン・ジェルク側の僧兵の山。流石旗艦だけあって、兵の数もハンパないね。
それに見る限り、後衛だけじゃないみたいだ。小さな斧を持ってる奴とか、自分と同じ大きさの盾を抱えてる奴とかいる。
まあ詠唱の時間は稼がないといけないんだし、全て後衛じゃ無理あるもんな。でも……案外以外だったのは、最新鋭のバトルシップじゃなく、旧型の方が旗艦だって事だな。
まあデカいし、旗艦だから前に出る気もないのかも知れないな。それにバトルシップは小型化でスピードと小回りを強化してる感じだし、旗艦って感じではないのもあるかも。戦闘機の位置づけだよね。
そんな事を考えて観察してると、開いた扉の奥から偉そうなやつが出てきたぞ。もう見た目で偉そうとわかる。
だってどこの料理人だよって暗いに帽子が長い。老いを感じさせる白髪が見えてるその頭に深くかぶってる帽子は自身の身長の倍はありそうだぞ。
疲れそうだ。誰か取ってやれよ。しかもゴテゴテに宝石が装飾されてるからか、バランス悪そうだ。杖を着いてまでも一人で歩けるなら、その帽子を取れば、もっと俊敏な動きが出来そうだぞこの爺。帽子と服は対になってる感じだな。
てか、宗教の服なんだろう。ゆったりとした感じの服だ。普通に床引きずってるし。そしてそんな老人の周りの兵士は一味違う感じな雰囲気を醸し出してる。
さながら大将を守る護衛なんだろうな。周りの普通の僧兵達は、整列して杖を斜め上につきだしてる。どうやらこれがサン・ジェルクの敬礼みたいな物らしい。
僕までの一本道を老人はゆっくりと歩いてくる。最初は自分がどうなるか、ローレがどこまで交渉してるのか、色々と考えてたけど……一分経っても、二分経っても三分経ってもなかなか近づかないから流石にイライラしてきた。
マジでその帽子取れよ。そう思ってると……
「ちょっと頼めるかの?」
そんな言葉を後ろの護衛に掛けたと思ったら、護衛はそそくさと老人に近寄って厳かに帽子を取った――取った!? マジで取ったよ!! ちょっとテンションが上がった僕。そしてスピードアップして僕の元まで来た。
こんな直ぐにこれるのならさっさと帽子とっとけよな。まあ予想外に甲板の端までは遠かったのかも知れない。老人にはこの大きさの船って不便なだけのような気がするね。威厳とかを保つ上では必要なのかも知れないけど、良い的だよね。
僕が入ってる台座の前に来た老人は腕を上げて、何かの合図。すると、周りの僧兵達が突き出してた杖や武器をおろした。周りの人達も大変だったな。流石に数分も腕を上げとくのはきつかっただろう。
(ようやくか……)
この数分間である意味待ちくたびれてた僕はそう思う。だけど僕以上に緊張してるのは周りのリア・レーゼの僧兵さん達だ。まるで「遂にこの時が……」的な感じなのが見て取れる。
きっとこの人達は不安なんだね。中身がクリエじゃない事に怒るのか、それとも事前に話は通ってるかで色々と変わるもん。
話が通ってれば合意の上なんだろうけど、そうじゃなかった場合、この長帽子被った老人は怒るかも知れない。そうなったら僕だけじゃなく、彼らの安否も危ういもんな。
不安になるのもわかるよ。ローレの奴、本当に何も言ってないんだな。
「さあ、出てきて貰おうか……クリューエル」
老人の口から出たそんな言葉。ああ、やっぱり……と僕は思いました。ローレの野郎、騙す気満々じゃねーか。やばい、周りのリア・レーゼの僧兵さん達が葬式状態だ。お前等、良くそんなんでローレに付いて行ってるなって思う。
アイツはそういう奴だろ。まあ見捨ててる訳じゃないとは思うけどな。アイツ的には、大丈夫だと思ってるから送り出したんだろ。
まっ、その根拠は全然わからんけど。流石にちょっと僕も不安がぶり返して来たかも。
「ほら、何やってるのよ。さっさと顔を見せてやりなさい。そいつの呆気にとられる顔が目に浮かぶわ」
この場所に居ない奴は気楽だな。ローレの命令を受けて、周りの僧兵がその杖で一斉に床を叩く。するとこの台座を覆ってた膜が溶けていく。
そして僕達は奴らの前に露わになるんだ。そしてひざまづいてる僕の方がまだ高い目線で、老人と目があう。だけど老人はキョロキョロと僕の後ろを覗きみたりしてる。
きっと信じたくないんだろう。そして中央に座らされてる僕以外、後は僧兵しかいないと確認すると、なにやらその濁った目でこう言ってる――――様な気がした。
(お前か? いやいや違うよな? クリエじゃないよな? クリエはどこだ?)
多分こんな事を訴えてるんだと思う。だけど残念。僕は今、言葉を封じられててまともに喋る事も出来ない。だから僕も目で訴えるよ。
(お前は騙されてる)
けどやっぱり僕達はアイコンタクトで分かりあえるほどの絆を築いちゃ居なかった。当たり前だね。だって今初めてあったし。ぶつかり合う視線が数十秒続いて、いきなり大声を老人は出すよ。
「違うではないか!! どう言うことだ星羅の御子よ!?」
すると今度は声だけがこの空域全体に響くように伝わって来た。
『別に違わないでしょ? 寧ろ配慮してやった位。だから感謝して欲しいわね』
「感謝だと? 儂等が求めるのはこんなどこぞの馬の骨とも知れぬ輩ではない! その身に二重の神の力を宿す、神の落とし子クリューエルだ!
貴様、再び我らを計っておるのか? そんな余裕があるのかのう。力を貸さぬぞ? それでも良いのか?」
おお、老人はリア・レーゼの足下を見てきたぞ。大ピンチのリア・レーゼはサン・ジェルクの力添え無くして勝てないとこの老人は踏んでる。
だけどローレの奴、前にも何かやったのか? そんな事を臭わせる事を老人が言ってた。何をしたのかが気になるけど、僕に発言権はないのだ。
『神の落とし子ね。そんな大切な子を元老院の爺共は何に使うつもりなのかしら?』
おっ、なんだか唐突に核心に迫ろうとするローレ。
「ふん、星羅の御子などには関係無い事じゃ。せいぜい世界樹にへばりついて胡座をかいていれば良い。自分が世界を見下ろす立場だとの勘違いも、そろそろ終わりにしてやろう」
『あらら、老害風情が何か言ってるわね。見下されてる実感があったなんて意外だわ。だけど悲しいことを言うわね。表面だけでも、一応は同じ宗教同士なのに。崇める対象だって同じはずよ?』
良くそんな事がいえるなこいつ。ローレって絶対にシスカ崇めてないだろ。利用してるだけだよね。そして勿論、老人もそんな事知ってるらしい。
「何が同じだ。我らと星羅は――いや、貴様は全く違う。その目に野心を燃やし、シスカ教を喰い荒らしてるのはわかってるのだぞ。そんな貴様にシスカ教の宝であるクリューエルを預けておけるわけがない。
これは正当な保護だ。だからこんなゴミ、突き返してやるわ!」
思ったけどさ、さっきからこいつ、僕に言う言葉酷くない? ローレと会話してる筈なのに、僕が傷つくんですけど。
『ゴミね。確かに私からしたらゴミだけど、そっちはきっと違うと思うわよ。言ったでしょ、配慮してあげたって。実を言うと、クリエはもう神の力を半分しか持ってないのよ』
「何!? それはどういう……」
おい、普通に僕をゴミ認定して話し進めてるぞコイツ等。後で覚えてろ。滅茶苦茶にしてやる。ゴミを舐めるなよ。
だけど僕は幾ら心の内で怨念を渦巻かせてもコイツに等届かせる事は出来ない。縛られてるし、言葉も喋れない。まさに物状態だよ。
(だけど今に見てろよ!)
この艦隊を犠牲にして取り合えずリア・レーゼの危機を脱する。その為に今は我慢だ。そして全てが上手く行ったなら、取り合えずローレに仕返しだな。
そんな決意を僕が固めてる間にも、偉そうな二人の会話は続いてる。
『アンタ達ももう知ってるでしょう。聖獣が復活して、世界樹が狙われてる。それにただ復活しただけじゃない。奴らは丁度そこに居たクリューエルの力を奪ったのよ。
しかも片方の邪神の力をね。それで奴らは完全体となったわ』
「なっ……貴様なんという事を! クリューエル様は無事なんだろうな!? 実はこのゴミを寄越したのも、既にクリューエル様がこの世に居ないから……」
わなわな震えながらそんな事を呟く老人モブリ。なんて最悪な想像をしてるんだ。まあ確かにそれを疑う余地も確かにあるとは思うけど……でもローレの奴、今丁度そこに居た――――とか言ったよな。
あくまで自分達は無関係で偶然だと言いたいらしい。前に、知らん存ぜぬを通したから、ここで実は手の内に居ましたとは堂々と言えるわけ無いって事だろう。
幾ら疑われてて、真っ黒に近い灰色でも証拠が無い限り確定させない。流石こいつは駆け引きって奴をわかってる。性格ドス黒いもんね。
そんな性格のドス黒いローレは老人モブリの真剣な言葉を笑い飛ばしてました。
『あははははははは、それはちょっと的外れも良い所ね。流石に脳細胞死んできてるんじゃない? 権力に胡座をかいてるから頭を使う場面なんてそう無いでしょ?
良い脳トレの本を後で送ってあげようか?』
「貴様! 話を誤魔化すな!! こんなゴミを寄越しおって……無事だと言うならクリューエル様の姿をみせろ! 流石にもうそっちで確保してるんだろう。見せることが出来ないのなら、それは死体だからか、貴様等が無能だからと言うことになるぞ!!」
ギリギリと歯を鳴らす皺だらけのモブリは、幾らモブリでも全然愛くるしくない。いや、寧ろ気持ち悪かった。しかもローレが無駄に煽るから、逆上したこいつは、僕の顔をその小さな足で踏んづけてる。
しかもドゲシドゲシと何回も踏みつけやがって、マジで許せない。
『別にそこまでする必要あるかしら? 必要なくない? 言ったじゃないあの子よりもそっちの方が価値あるって。それにどのみちこの状況じゃ声しか届けられないし……ああ、勿論今は保護してるわよ。
それにあの子、アンタ達のこと嫌いでしょ? 言ったとおり万全じゃない状態なの。そんな状態でなんて喋らせるのよ。女の子はデリケートな生き物なのよ老害。もう何年も前からセックスレスだろうから、そんな事もわからなくなったかしら?』
「ふん、くだらん!! 無理矢理でも何でもクリューエルの姿を見せろと言ってるんだ! 貴様がどんな仕掛けを施すかわからんから、声だけなど許さん。しっかりとクリューエル様の姿を確認した上で、貴様の話を聞いてやる。
このゴミがどういう配慮なのかをな!! このままではその完全体となった聖獣に潰されるぞ。助けが欲しいのなら、それ相応の態度を示せ!!」
「……」
おお、なんとローレが黙ったぞ。この場に妙な沈黙が流れる。声だけだったし、何も言わなくなると、なんだか途端にこの老人モブリがおかしい人に見えるな。
ヒステリックでも起こして空に向かって叫んでる危ない奴って感じ。だけど老人モブリはそんなの気にしない。奴は空に向かって更に叫ぶ。ローレが口を噤んだから、ここが好奇と踏んだのだろう。
「どうした? 遂にその無駄に動く口が動かなくなったか? それならばさっさと要求を呑め。そうでなければ潰れるぞ?
そもそも、貴様がトップな時点で長く続く訳もないがな。これを気に、完全な上下関係を叩き込んでやる。星羅など所詮は、我ら聖院の小粒程度の存在よ!! それを貴様は受け入れるしかないのだ!!」
その瞬間、ドガン――ピピ――アガガガ ってな音が聞こえて、おいおい、小さくだけど「ひっ」ってな声が聞こえたぞ。
それはきっと近くに居る偽の声だと思う。さっきまで映像として見てたし、それなら二人は同じ場所に居る可能性が高い。
いや、もしかして僕をこの空域まで連れて来た飛空挺に? ってそれは無いかな。わざわざ出てくる程の事でもない……と思う。だけどここに来て、奴は主導権を握りだした。元々クリエと引き替えに協力を得るみたいな体裁だったリア・レーゼ側はその立場の弱さを突かれてるな。
まあ、単なる因縁もコイツ等の間にはありそうだけど……いや、それはローレとコイツだけじゃなく、きっと星羅が聖院から分かれた後からずっとあるんだよな。因縁はさ。
『ふ……ふふは……小粒ね。私の足下でギャーギャー目障りに喋って動くしか出来ない存在がよく言うわ。いっとくけど、そのゴミで満足しといた方がいいわよ。まだ私が大人しい内にね』
何を考えてるんだローレの奴。幾らムカつくからってここで対抗心を燃やしてどうするんだよ。取り合えず僕を受け入れさせればいいだろ。そしたら後からどうにでも出来る。ここで僕が放り捨てられたら、何もかも無駄だぞ。
それにこんな所で落とされたら、僕が死ぬっての!! だから多少の屈辱なんて我慢して、クリエの映像とかを見せろよ! 出来るだろそのくらい。
「ここで暴れる気か? そんな事して何の得がある? それに貴様の力もリア・レーゼの守りに回さないといけないのは分かってる。
何も出来はしまい」
余裕な感じで老人モブリはそういうよ。確かに今無闇に力を使うわけには行かないよな。召還獣は自立行動とか出来るんだろうけど、そんな頻繁に呼び出す物でもないし、ここは森を越えた場所だ。
そしてその森のどこかには聖獣はいる。召還獣なんて強力な存在が通ったら妙な刺激を与えるかも知れない。それで再び進行が開始されたりしたら、今のリア・レーゼでは守りきれないぞ。
その為に、コイツ等を利用しようとしてるんだしな。そして僕が行動を起こす為にも、なるべく侵攻は後からの方が都合がいい。
触らぬ神に祟りなし……まあ少し意味は違ってるだろうけど、なるべくそんな感じで行きたい所だろ。
『そうね、今は何も出来ないかも。じゃあ、そろそろ次のカードを切りましょう』
何だ? 空に響くローレの声が悪役っぽくなってきたぞ。次のカード? イヤな予感しかしない。
「ふん、満身創痍の貴様にカードもそして手札さえもないだろう! ここから何が出せる? さっさとこのゴミの価値とクリューエルの安否を確かめさせろ!!」
老人モブリはなんだか老人じゃない位に生き生きしだしてるな。最初出てきたときは、明日死ぬんじゃないかって思ったけど、まだまだ口は達者なご様子だ。あれだな、いつまでも口だけ出し続ける、会長職みたいな奴だな。
まあ元老院って組織がそもそもそんな感じなんだろうけど……コイツ等は権力と贅沢を尽くして、生き生きとしてると思うとホント軽く殺意が沸くな。さっきから僕の事ゴミゴミ言い過ぎだし。そろそろマジで足どけろよ。
何回も甲板に頭をぶつけたせいで、血が出てるだろ。だけどそんなのこのモブリは見ちゃいない。いや、見ててもやめるとは到底思えない――か。
僕が煮えくり返ってる心で、呪詛の言葉を連呼してると、曇天の空に簡潔な言葉が一言響く。それもあっさりとした口調でだ。
『じゃあ、教えない』
マジでそれだけ。老人モブリは一瞬止まってたよ。だけど直ぐに気を取り直してこう言った。
「貴様ふざけるなよ! 我らの助力無くしてこの局面は乗り切れられんのだぞ!? それでも教えないだと?」
マジで何言ってるんだローレの奴? 丸く収めてどうにか先へ進めろよ。意味が分からないし。
『ええ、教えないわ。だって私がクリエに価値はないって教えて、しかも気まで使って価値のある方を送ったのに、それがただのゴミだ何だとケチつけれちゃ、言う気もなくなるわ。
っていうか、頭に来たわ。特に私をバカにした発言が』
僕の所はやっぱりどうでも良いってか!? 実際、最後の部分で意地張ってるだけにしか聞こえないんだけど……
「バカな事を! 貴様のそれはただのワガママだろう! だからこのゴミの価値を教えろと言ってる! そうすれば我らがこの艦隊でこの森ごと聖獣など焼き払ってくれるわ」
おいおい、随分物騒な事を言ってるなコイツ等。まあ森を焼き払う位は出来るだろうけど、それで聖獣まで倒せるかは別だよな。
あいつ等、そんな甘い存在じゃない。
『バカはアンタよ。アンタが年の割に饒舌に喋るから、なんとしてでもクリエが欲しいってのがよくわかったわ。まあ昔から隔離してた位だし、それだけの期待を込めてたんでしょう。
それがいきなり使い物に成らなくなったからって代わりを私が出して素直に信じれるわけないわよね。ふふ……アンタ達のクリエへのこだわり具合は良い感じに使えるわ』
「何を……」
少しだけど、身を引く老人モブリ。コイツも何かイヤな予感を感じ取ったのかも知れないな。
『サン・ジェルクは……いいえ、元老院は私の言葉なんて信じない。だからこそその目で確かめたい……大切な大切なクリューエルを。
それなら、アンタ達は私たちを守らざる得ないじゃない。だってクリエはリア・レーゼに居るのだから。そしてその最大の驚異を追い払わないと、安心なんて出来ないでしょ?
言う成ればアンタ達は勝手にこう思ってくれてる訳よ。
【リア・レーゼが落ちるとき、我らの目的も終わるかも知れない】ってね。あの子を使って……いいえ、あの子の力を使って何をしようとしてるのかなんて知る必要私にはない。
ただ、どれだけアンタ達があの子を求めてるか……それだけ分かれば、私は絶対にあの子を手放さないわ。まあ元々必要なんてないんだけど……元老院側がそれを信じてくれないんじゃ、どうしようもないものね』
あの野郎……この曇天の空にコイツ等を見下してるローレが浮かぶようだ。実際思いつきだろうに、確かにカードに換えてきたな。しかもとびきり級のカードになった。だって誰が、自分の信頼の無さを武器にすると思うだろうか? 互いに疑心暗鬼してるからこそ出来たジョーカーだな。
もしも良好な関係を築いてたら……と思ったけど、そんな関係なら、そもそもこんな取引しなくても救助を出すものか。無意味な想像だったよ。
「くっ……」
信じられる訳もない奴の言葉の全てに翻弄されちゃってる老人モブリ。これは……完全に逆転したな。だってコイツ等に、僕の価値を知る術はない。それを知ってるのはローレだけ。
『さあどうする? 別に見捨てても良いわよ。その時は、勿論クリエも道連れにしてあげる。まあ、今のあの子に価値なんてないんだけど、それを信じれないんじゃ~~ね♪ ほら、信じて見捨ててみなさい。女神様だってそれを望んでるわよ。信じる事って大切だと、仰ってたじゃない。きっと分厚い本のどこかで』
適当にこの教壇の神様を出すなよ。しかもバカにしてる感じだし。ホント信仰心のない奴。老人モブリとかだけじゃなく周りの僧兵達まで、今のローレの言葉にはざわめいてるぞ。
すると老人モブリは僕から足をどけてその皺だらけの顔を近づけてくる。目が赤く充血してて、息も荒い。気持ち悪い。
「吐け! 奴の言ってることがどう言うことか吐くんだ!!」
そう言って僕に唾を吐きかけながら叫ぶ。きったな……だけど残念……僕は言葉を封じられてる。何かを言いたくても何もいえないんだ。
『無駄よ無駄。そいつには魔法を掛けてる。ねえ、互いに賢い選択をしましょうよ』
そう紡ぐローレの声が、この薄暗い空に空に響いてた。
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