命改変プログラム

ファーストなサイコロ

煌く風



 キラキラと煌めく風。それはこの一色触発の場にはふさわしくない綺麗な物。僕達は誰もがその風に目を奪われた。
 曇天の空を突き抜けて、そんな風と共に降りてくる何か。透明な羽を空の蒼の様に輝かせるその鳥は、なんだか神々しく見える。


「あれは……」


 リルフィンが何かを呟きながら空に腕を伸ばしてる。知り合いか何かなのか? そう思ってると、モンスター共が動き出す。
 その鳥へ向かっての一斉攻撃。だけど輝く鳥は空中を自由自在に動き回ってそれをかわすかわす。そして一気に地表スレスレまで降りて来たかと思うと、その輝きを増してモンスター共に突っ込んだ。
 強力でドデカいモンスター共をなぎ払って再び空へ上ってくその鳥。一体何なんだ? 訳わかんないけど、取りあえず敵では無いようだ。聖獣共に攻撃してるしな。
 そう思ってると、エルフ型の聖獣がその背中の黒い羽根を広げる。


「ふん、丁度良い。挨拶がてら自慢のアレを一体落としてやろう」


 そんな声と共に一気に奴も上空へ。二体は空中戦を始めちゃったよ。そして、あの謎の鳥はさっきの奴一体に任せる事にしたのか、残りがこちらを向く。


「では、踏みつぶしましょうか。貴方という存在を」


 頭の蛇をウネウネさせてる奴が甲高い声でそう言った。僕は当然の如く気持ちを切り替えて身構える。奴の頭の蛇が不気味に蠢いてこちらを見てる。
 アレは石化をやってくる。一発当たればそれで終わり。タイミングを合わせてかわしたと同時に突っ込む。残りの聖獣……モンスター諸々を相手にしなきゃいけないんだ、うじうじやってたらそれこそあっと言う間に終わってしまう。
 激しい雨の中、僕はタイミングを見計らう。息さえも詰まりそうだけど変に蒸せたりも出来ない。その瞬間にやられるかもだからな。僕は雨に邪魔されない程度に口を開けて、小刻みな呼吸を繰り返す。
 蠢く蛇。その様子を奴等の赤い瞳で確認してる。するとその中央。聖獣自信の瞳に光が見えた。その瞬間閃光が目の前を覆う。
 目眩まし――――この光に紛れて本命の攻撃は来る。だから僕は横に避けて、それと同時にセラ・シルフィングを振るう。出し惜しみは無し、イクシードを発動させて風のうねりを振りかぶる。
 この光は僕たちの視界だけじゃなく、きっと奴等の視界だって奪ってる……と思う。それにな、流石に何回も何回も食らってる光だ。そろそろ目だって馴れてきてる。全く見えない訳じゃない。
 そう思ってると、ドシャンドシャンと響く地響き。そして光を遮る何かが、目の前に現れる。それは武士甲冑を身に纏ったウッドールの強化版。そいつがイクシードのうねりを受け止めたまま迫ってきてやがった。


「なっ!?」


 イクシードのうねりはそんな柔な物じゃないぞ。それを受けたまま迫るなんて……どんだけ頑丈になってるんだよ。ヒョロヒョロのウッドールとは全然違う。
 武士甲冑に身を包むそいつは背中に差してる刀を抜いて、僕の攻撃なんか関係なく振り抜いてきた。刀と言っても木製だから木刀なんだけど、いかんせんデカイ分強力だった。地面を砕く衝撃。僕はとっさに横に飛んだ。すると運悪く奴が砕いた地面の衝撃によって、表面の泥が飛んできたじゃないか。
 それが丁度目に入るものだからたまった物じゃない。


「くっそ……」


 なんか今日はついてないな。急いで泥を拭おうとすると、その時どてっ腹に走る衝撃と共に僕は地面を転がる事に。


「どうしたのよ? 私を追いつめた時の元気はどこに行った? あの悔しさ……この程度で晴れると思うなよ!!」


 そう言うと、構えた盾から風のうねりが解放された。さっき僕が放った奴か。やっぱり吸収されてた様だ。


「ちっ!」


 僕はウネリをぶつけて拮抗させる。そしてもう片方から、奴に向けてウネリを向ける。吸収した攻撃を解放させる間は、別の事は出来ないかもしれない。それに賭けた。
 だけどどうやら僕には、圧倒的に手が足りない様だ。次の瞬間、ウネリを貫いて来た何かが僕の腕からセラ・シルフィングを弾き飛ばした。


「いけない、いけないな。お前は我ら全員を相手にしてる事を忘れるな」


 それはウンディーネをベースにした聖獣の一体。魚顔した気持ち悪い奴がエラを動かしながら、長い舌をだらりと垂らしてそう言った。さっきのは奴が放った水鉄砲みたいな奴か。
 超圧縮された水を放つ奴だったような気がする。それにしても酷い色したやつだ。ウンディーネだから青いんだろうけど、気持ちわる。白い石膏の方がまだ見れたよ。仮面と言うかこいつのはゴーグルだしな。
 しかも上半身裸で、下も海パン一丁に見える。色々とやばいよ。全部が気持ち悪い。


「なんだその顔は!!!」


 僕の考えでも見抜いたのか、魚聖獣は次々とそのレーザーみたいな水を放ってくる。この攻撃は線の様に一本を長く放つ事も出来るし、小出しにして玉数を稼いだりも出来るみたい。気持ち悪い癖に厄介な攻撃をしてくる奴だ。そう思ってると、地面から何かが生えてきて、僕は空中に押し上げられる。それは貝のモンスターの強化されたツタだ。
 身動きが取れない場所……これはヤバい。そう思って下を見ると。周りの雨があの魚聖獣へ集まってる。一気にドデカい水球が出来上がってしまってるじゃないか。


「くっそおおおおおおおおお!!」


 僕は残った片方の腕のセラ・シルフィングを振るう。例の水弾へ向かうウネリ。だけどその瞬間に、集まった水球に見合わない程に細い水が放出される。
 だけどウネリはそれに拮抗する事も出来ずに、中央をくり貫かれる。そしてもう片側のセラ・シルフィングまで僕の手から飛ばされた。


「づあっ!?」


 するとその瞬間、頬に赤い滴がかかる。どうやら今の攻撃はセラ・シルフィングを弾くだけに止まってない。僕の片腕は今の攻撃でグロい程に裂けてる。
 だけどそんな痛みを叫んでる暇もない。水弾はまだまだデカいままなんだ。そしてその表面にはいくつもの渦が出来上がってる。


「終わりだ。心配するな。直ぐにこの地の全員を同じ場所に送ってやろう。まずは貴様の仲間からな!!」


 その瞬間、渦からはいくつもの水が放出される。僕はそれを防ぐ物が何もない。


(終わり……本当にここで……みんなの忠告を聞かないかったから……)


 僕は唇を噛みしめて覚悟を決める。でもそれは、終わる覚悟なんかじゃない!! 僕は裂けた腕を前に出す。そして次の瞬間、大量の血と共に、そんな腕が弾け飛んだ。だけどそんな腕一本を犠牲にして、空中で軌道修正が出来た。僕にだけ向かってきてた水だ。僅かに移動できれば避けれる。


「甘いわ! この世界は我らに味方してるのだよ!!」


 奴は降り続く雨を利用して攻撃手段を生成してる。確かにこの世界は奴らに味方してるかもしれないな。だけど……それが何だって言うんだよ。
 負けるかも知れないこと、勝てる見込みなんて無いこと
全て分かってて僕は残った。みんなの優しい気持ちを投げて自分の訳の分からない思いを通した。
 きっとリルフィンの言葉が変な方向に作用したんだと思う。目の前の命を見捨てる奴に誰が救える――ってアレ。完全に綺麗事だ。人のたった二本の腕で、誰も彼もを片っ端から救える訳ない。
 だけど見捨てた事は返ってくるっては思った。それに誰もを救える程に強いって事は、大切な誰かを救えるって事だろ。
 誰かを救いながら、自分の救いたい人を救えれば、きっと誰もが幸せになれるじゃんか。だからこそ、見捨てたくないって思いが強くでたのかも。
 再び僕へ襲いかかる魚聖獣の攻撃。僕は体の一部を無くしながらソイツを目指す。体の到る所から血が流れ出る。その度に、僕の体は空中で無様にクルクル回るんだ。だけど幾ら無様でも、格好悪くても、このまま終わりたくなんかないじゃんか。僕は血まみれになりながら魚聖獣を目指す。


「づっ……勝てないなんて分かってた。でもな、ワガママを通してここにいる僕は、どんなになろうと、はいそうでしたって言って死ねないんだよ!!」


 諦めて死ぬことが許される筈ないだろう。そんな事するくらいなら、最初から逃げてた。ここに残ったのは死を覚悟したからって死ぬ為じゃない。
 僕は誰も見捨てたくない。それに気付いたから、ここにいる。NPCだって……プレイヤーだって……なるべく死んでほしくなんかない。それを利用したくなんかない!!


「死ぬさ! 貴様はここで死ぬ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 目の前が血で真っ赤になりながらも、僕は拳を伸ばす。本当の本当にバカな行為の最果てみたいな事だったけど、僕はこいつに本気で一発ブチ当てると考えてた。
 けどその瞬間、僕は一気に上昇して、後方で魚聖獣の攻撃が他の誰かに当たる音が聞こえた。てか……一体どうなってるんだろう? 随分モンスターどもが小さく見える。


『無茶をし過ぎです』
「え? え? 何の声?」


 そう思ってると、首を上に振られて、それと同時にクチバシから解放された僕はこの鳥の背中へと乗せられた。


『本当に全く……主と言い貴方といい、人間と言う生き物は理解に苦しみますね』
「えっ……と……もしかして……」


 僕はまさかと思う結論に達したぞ。まさかこの鳥が喋ってる?


『私は風の召還獣『エアリーロ』です。主の命により、救援に来た次第です』
「召還獣って喋るんだ」
『私たち召還獣は世界の柱。神と共に世界を支える礎の基礎。ですからこの世界のどんな物にも意志を伝える手段を持っています』


 つまりは併せてくれてるって事か。親切だね召還獣って。そう思ってると、いきなり体を斜めにして横にスライドするエアリーロ。僕は片腕で必死にその体にしがみつく。


「うぐぐぐぐ!!」
『その体では辛いでしょうがしばし我慢を。しつこい奴が追ってきてます』


 そんな言葉で後ろを見ると、黒い羽を広げたエルフ聖獣が確かに執拗に追ってきてる。


「やってくれたな! 従うしか出来ない愚かな奴らが我らの邪魔をするな! 世界樹は返して貰う……我らの手に、テトラ様の手にな!!」


 やってくれた? そう言えば奴の羽はなんか欠けてる様にみえる。もしかしてさっきの魚聖獣の攻撃に当たったのって……聖獣は黒い影から刀身しかない脇差し程度の刀を出す。そしてそれが僕達を目指して迫ってくる。だけど見てなくてもそれをエアリーロは難なくかわす。
 クルッと回ってね。でもそれは僕にはかなりの負担だよ。落ちる落ちる。落ちた先ではモンスター共が待ちかまえてるからやっぱり落ちられない――って!?


「おい、みんなが危ない!」


 下を見ると動けないみんなに迫る聖獣とモンスター。
『主は何をやってるのやら。本当に素直に行動出来ない人なんですから』
「?」


 よく分からない事を言ったエアリーロは羽を羽ばたかせてキラキラとする粒子を放出する風を下へと向ける。するとテッケンさん達がフワリと浮いて、リア・レーゼの方へと流されていく。
 おお、これなら……そう思ってると、背中に走る肉を抉る感覚。視線を背中側に向けると、避けた筈の小太刀がぶっ刺さってた。


「クハハハッハハ!! 我らの力を見くびるなよ!!」


 そう言って一気に目の前に迫るエルフ聖獣。今度はその長い太刀を豪快に振り卸してくる。もの凄い衝撃と共に、エアリーロは地面に迫る。


「おい、大丈夫か!?」


 僕は背中に刺さった小太刀を抜くことも出来ずに、ただ必死にしがみついたまま、声を張るよ。僕も何か出来ればいいんだけど……いかんせん、セラ・シルフィングは今は手元にない。
 でもあったとしても今の僕が役に立てるかは微妙だな……片腕もなく、必死にその体にしがみつくことで精一杯。実際まだHPが残ってる事が不思議な位だ。
 実際この小太刀の一撃で僕は死んでておかしくない筈なんだけど……不思議な事にエアリーロと接触してると、ちょっただけだけど、元気って奴が沸く気がする。
 というか微妙にHPが回復してるっぽいな。だからこそ、小太刀の不意打ちを受けても耐えれたんだろう。だけどエアリーロがこのままやられたら今度こそおしまいか。
 激しく落ちる雨と共に、地面に迫る僕達。だけどその時、エアリーロの声が頭に伝わるよ。


『大丈夫ですよ』


 その瞬間、エアリーロは大きく翼を広げて空中で態勢を立て直す。だけど追い打ちを駆けてた聖獣も上から迫ってる。


「斬り裂かれろ!!」


 黒い影を帯びた太刀が迫る。だけどそれを紙一重でエアリーロはかわして、その綺麗な翼で聖獣を弾き飛ばす。


「くっ――まだだぁぁ!!」


 飛ばされながら、聖獣は腕を伸ばす。すると雨の中から何か光る物が迫ってくる。


『二度も同じ手が通用するとでも?』


 そう言って再び大きく羽を羽ばたかせて回るエアリーロ。雨を共に迫ってた小太刀を風の力で吹き飛ばす。だけどその瞬間、僕にはパチンパチンと鳴る指の音が聞こえた。これは間違いなくウサ聖獣の魔法発動時の音。


「何か来る!」
 僕がそう言うのと同時に、なんと周りには三体の聖獣が現れる。どうやら今の魔法はこいつらを出現させる物だったらしい。
 一気に囲まれる事になってしまった。現れた三体の聖獣は一斉にその盾を構える。すると盾同士が共鳴する様にバチバチなりだし僕達を囲む円を作り出した。


「召還獣……貴様も神の力の一端でしょう。なら、我らの糧と成るがいい!!」


 メドゥーサ野郎がそんな言葉を紡ぐと同時に、共鳴する盾が怪しく輝く。その色は紫の……それは嫌な記憶が蘇る色だ。すると残った片腕に痛みが走った。


(またこの感覚……痣が疼――ん?)


 血塗れの腕を見ると僕はあることに気付く。テトラの施した呪いに浸食された僕の腕に、一点だけ、違う模様がある。手の甲の中心に知らない痣が増えてるよ。


『聖……獣……風情が、私の力を取り込めるとでも?』
「おい、そんな事言いながらも何か出てるぞ!!」
 エアリーロは強がってるけど、なんか確かに出てる。吸収されたりはしてないけど、明らかに辛そうだ。こっちも腕が疼いて疼いて堪らない。このままじゃエアリーロにしがみついてる事も出来なく成りそうだ。
 この状況……どうにかしないと。下では再びみんなにモンスター共も迫ってる。エアリーロがきてくれて、少しだけ希望が繋がったんだ。ここで終わらせてたまるか! 


「くっそ野郎!!」


 僕は一番近くの魚野郎の盾に飛びつく。武器も無くした僕にはこれしか出来ない。


「邪魔するな! この死にぞこないが!!」


 そう言って魚聖獣はそのムキムキの腕を伸ばしてくる。防御も何も出来ない……だけど、僕にはこの身に宿るスキルがある。武器を通さずに発動するのは初めてだけど……きっと出来るはずだ。
 だってマスターしたスキルは他の武器で使える。それは自分の身にそのスキルが宿ってるって事だろ!!


「うおおおおおああああああああ! 食らえええええええ!!」


 僕は腕にしがみついたまま、その身から青い雷撃を発生させる。


「んんがががががががががあああああ!?」


 おお、案外効いてる? 魚聖獣だったのが幸をそうしたのかも知れない。


「小賢しい!!」
「づわっ!?」


 だけどやっぱりただの雷撃。聖獣を止めるには役不足だったみたいだ。魚聖獣の野郎、強引に腕を振って片腕で何とかしがみついてた僕を振り払う。
 けどどうやら、僕の行動には意味があったようだ。


「あっ、このバカ!」


 そんな声が聞こえたかと思ったら、エアリーロを包んでた球体が崩れた。きっと僕を振りほどく為に盾を動かしたから、その状態が解除されたんだろう。
 聖獣一体じゃ出来ない事って事か。流石にその神の力成る物を取り込むって事はさ。最初にクリエの力を奪った時も全員で大きな魔法陣を組んでたし、それぞれの役割がきっと大事なんだ。
 そして崩れた球体の中から素早くエアリーロは抜け出して払われた僕を回収してくれる。
『全く、無茶をします。一応貴方を助ける様に言われて来たのですから無茶はやめてください』
「僕を? みんなをだろ?」


 てか、リルフィンはいいのかよ? 


『貴方を優先する様に言われてます。まあそれもあの時、貴方が全てを見捨てて行くようでは主は貴方が死ぬ前に私を送る事はしなかったでしょうが』


 むむ……ローレの奴、この状況を高見の見物してるのか。自分のバカで愚かな行動……それが結果的にはローレには好印象だったのかな?
 それなら、バカやった甲斐もあったかも知れない。本当に、実際こんな状況に成るって分かってても何で逃げなかったんだろう……無くなった腕とか超痛いし、小太刀も刺さったままだしで、リアルなら既に死んでるぞ。
 LROでも大量の出血で実は結構クラクラしてるし、今はなんとか気概とエアリーロの僅かな回復能力で持ってる様な物だ。
 今の僕の命はもの凄く細い糸に救われてる感じ。それは僕だけじゃ決して繋ぎ止めて置くことが出来ない物。


「ローレは僕を助けてくれたって事か……あいつがそんな事するなんてな……」
『主はヒネクレてますけど、心根は優しい方です。それに貴方は主の目に叶ったと言うことですよ。まあ何よりも主は友達いないですからね。心おきなく言い合える友達が居なくなるのは寂しいと思ったんじゃないでしょうか?』
「ああ~」
 なんか妙に納得した。けどまだ友達かは僕的には微妙だけどね。だけど元気は出たかも知れない。まあHPとかが回復する元気じゃなく、心が少しだけ持ち上がる元気。だけどその時ボソッとこうも言ったエアリーロ。


『ですがまあ、ちょっとヒネクレすぎではありますね』


 そう言いながらエアリーロは一気に地上のリルフィン達を目指す。モンスター共が迫ってるからな。てか、幾らなんでもエアリーロ一体ではキツ過ぎると思う。まさか同時に一体しか召還出来ない……訳でもないだろうに。
 もしかしてそれを指してヒネクレてるって事かな? 猛スピードで地上に迫るエアリーロだけどそこで再び太刀を構えるエルフ型の聖獣が立ちはだかる。


「墜ちろ!!」


 仮面の内側の瞳を輝かせて、鞘から抜いた僅かな刀身から闇が溢れ出す。聖獣の周りの空間が塗りたくられたみたいに真っ暗になる。おいおい、デタラメだな。
 そしてその闇に聖獣自身が消えた。


「迂回した方が良いんじゃないか? アイツ、お前が突っ込むのを見越してこのスキルを発動したに違いない」
『確かにそうですね。ですがそれでは間に合わなく成る。大丈夫、私の風は闇を祓います』


 そう紡いだエアリーロは、その体の回りにキラキラ光る風をまとわせて闇へと突っ込む。そこは上も下も何も分からない完全な闇。まあ雨が落ちてきてるから、厳密には上か下かは分かるけど、何も見えない。自分達以外は……するとその時、エアリーロが一気に上昇する。


「どうした?」
『攻撃です。こちらも反撃に出たい所ですが、それでは間に合わない。いちいち相手をしてる訳にも行かないですし、突き抜けましょう』


 そう言ってエアリーロは自身の光をより強くするよ。そして大きく翼を広げると一気に急降下しだす。だけどこれじゃまた攻撃を受けるんじゃ? さっきと同じ……そう思ってると、広がった光の中に僕達の分身みたいなのが現れてそれぞれ離れてく。なるほど、アレを囮にするわけだな。
 雨が痛く感じる程のスピード。きっと直ぐにこの闇を突破出来る。そう思ってた。だけどどこまで行っても光はない。
『これは……どうやら読みが違ったようです。ここは既にあの場所じゃない。どうやら聖獣のあの刀が作り出した闇の空間そのものの様です』
「そんな……どうするんだよ!?」


 僕がそう言うと、エアリーロはため息一つこう言った。


『どうにも出来ません。私の火力は召還獣の中ではそう強い物ではないですし、ですがこれで主もその重い腰を上げるでしょう』
「どういう事だ?」


 さっきからちょくちょくローレの事を挟むけど、そんなに知らないからな僕はアイツのこと。当然みたいに言われても困る。


『主はどこまでもこの世界を達観して見てる所があります。あの方はあの場所に居る事で世界が見える。あたかも神に成った様な感覚でしょう。
 だからこそ大抵の事には興味なんて示しません。動くことは大抵事を荒立てる事ばかり。でもそんな主も自分が負ける事は許しません。
 私を試して遊んでたみたいですけど、私自身が負けて自分も大した事無いと思われるのは許せない。だからそろそろ他の召還獣がくるはずです』


 なるほどね。何となくそれはわかる。すると言葉通りに猛々しい炎が闇に広がりこの空間をぶっ壊す。

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