命改変プログラム

ファーストなサイコロ

死にたがりの戦場



 黒い模様が寄り集まった球体。それはクリエから引き離された神の力の一端。奴ら聖獣が狙ってたのはどうやらその力……って事らしい。
 奴らはクリエから抜き出したその力を互いに分配して取り込み出す。寄り集まって球体を成してた力が五体の聖獣へと流れてくんだ。


「ど……どうなっちゃうんすか? 止めた方がよくないっすか!?」


 狼狽えながらそんなことを口走ってるノウイ。確かに止めたくはあるけど……一体全体どうやって止めるんだ。直接攻撃しかないんだぞ。奴らにダメージを与える術はさ。
 みんなシルクちゃんのストック魔法で回復してる様だけど、聖獣へと流れる力の奔流は凄まじい。クリエの体を離れたそれは巨大なただの力。それらが周りに影響を与えながら、聖獣へと流れてるんだ。
 流石に近づく事さえ難しそう。あの力の威力を僕は知ってる。腕は既にボロボロしてるしな。それが今や聖獣共のせいで周りに広がってる状態。
 近づくだけできっとダメージを受けるだろう。


「それじゃあどうしろって……そもそもそんな神の力なんて物を取り込めたりするものなの?」
「凄まじいエネルギーだからね。もしかしたら聖獣の体が耐えきれないなんて事を期待しても良いのかも知れない。現に奴らの体にはヒビが入りだしてる」


 セラの言葉に、テッケンさんが状況を良く見てそう答える。ヒビか……確かにテッケンさんの言うとおり、奴らの石膏の様な体は力を取り込んでいくごとに負担を強いられてるのかヒビや亀裂が目立ってる。
 元々ボロボロのメドゥーサの奴なんかいつ崩壊してもおかしくない……ない?


「あれ? おい、僕達が追い込んだ聖獣……立ってないか? 確か脚が無くなった筈だよな?」


 紫に光る魔法陣の中、僕は自分の目が信じれないけど、見えるままを伝えるよ。どうか見間違いであってほしい。みんなの意見――と言うか感想を求める。


「確かに自分にも立って見えるっす。と言うかっすね――自分には例の頭の蛇も蠢いてる様に見えるっすけど……気のせいっすよねセラ様?」
「私に振らないでくれる……まあだけど……気のせいだとは思うけど、私にもそう見えるわね。きっと気のせいだけど」


 この二人、必死に自分に気のせいだと思わせてるな。見えてる物を受け止め切れてない。まあ僕も実際そうだけど……と言うか、受け止めたくない。


「ふんっ、ノウイはまだしもセラまでその有様とは情けないな。俺は更なる発見をしてるぞ。奴の蛇も脚も、色があるように見える。
 まあ気のせいだろうがな!」


 鍛冶屋の奴、得意気に鼻を鳴らして何を言うのかと思えば一緒じゃねーか! 気のせいとみんな自分に言い聞かせてるだけだ。


「もう、皆さん現実から目を背けてる場合じゃないですよ!」


 珍しくみんなに一喝の声を上げるのはシルクちゃんだ。いつもホンワカ可愛らしい雰囲気と、いつでも一生懸命な姿が周りに勇気と癒しをもたらす存在な彼女の強い声。
 それは現実逃避に必死になってた僕達の心に染みる。たく、何をやってるんだろうな僕達は……LROで言うのも何だけど、現実から目を逸らしたって、僕達の都合の良い妄想に切り替わる訳じゃないんだ。
 意味がないって事くらい、わかってた筈なのに……恥ずかしいぜ。僕達は自分の態度を恥じて、視線を交わした。そしてシルクちゃんに向かってこう言うよ。


「ごめん。そうだね……目を背ける訳にはいかないん――」
「もう皆さんったら、何を言ってるんですか? あの聖獣は元からああだったじゃないですか」
「「「………………」」」


 ニッコリ百パーセントの可愛い笑顔でそう言いきるシルクちゃん。指まで立てちゃってなんて可愛らしい……僕は優しくシルクちゃんの肩を叩く事にしました。
 シルクちゃん、君が一番思い切った事を言ってビックリだよ。そんな思いを視線で交わした。伝わったかどうかはわかんないけど、見つめあう時間はドキドキしました。
 そんな事を言ってると、本気で渇を入れてくれる人がまだ一人残ってた。


「シルクちゃんまで全く……明らかに僕達が追いつめた聖獣は回復してる。きっとクリエ様から抜き取った力を取り込んでる影響だろう。
 それに……それだけじゃないってのも確かだよ。そして言っとくけど、これは気のせいじゃない!!」


 ズバーーーンと僕達の妄想はテッケンさんの言葉に寄って打ち砕かれた。うう……そんな現実知りたくなかった。世の中には知らなくても良いこともあるって、どっかの誰かが言ってたよ。


「これはそう言う次元の話じゃないよ。確かに知らなくても良いことも世の中にいっぱいあるけど、僕達には目を背けちゃいけない事もいっぱいある。
 これもその一つだよ。君はクリエを助けて、その望みを叶えてやりたいんだろう? それならこれも目を逸らしちゃいけない事だ。勿論僕達だって……」


 テッケンさんの言葉はどこまでも正しいな。正しすぎて自分の矮小さが身に染みるよ。目を背けちゃいけない事……それはわかってるんだけど……今までの苦労が目の前ので泡と帰すのは正直ショックがデカいよな。
 だけどそれが事実……受け入れるしか正直ない。僕は腕に乗ってる小さな重みを噛みしめる。そして雨が滴う頭をおもいっきり地面にぶつけてやった。
 だけどなんか全然様にならなかったよ。おもいっきり地面と衝突した筈だけど、今までの雨でぬかるんだ地面は、ベチャッと情けない音を立てただけでそこまで痛くも無かったもん。


「ちょっと何やってるのよアンタ? 泥飛んできたじゃない」
「…………」


 なんか顔も上げ辛い雰囲気。本当なら痛そうな音と共に、みんなの衝撃の声を受けながら「よし!」とか格好良く決めれた筈なのに……ベチャっじゃなんか違う。


「スオウ君? 大丈夫ですか?」


 シルクちゃんの優しい声が痛い。だって驚愕じゃなく、普通に心配するトーンの声だもん。マジで顔が上げられない。


(どうすれば?)


 そう思ってると、状況が見えないままこんな声だけが聞こえてくるよ。


「ぬあ!? 他の聖獣の体も崩れていって――ってアレ? なんか外側の白い部分が剥がれてる? そんな感じっすかね」
「そうね。石膏部分が剥がれ落ちてる? もしかして完全体に成りつつあるとか?」


 おいおい何だよ完全体って? この目で確かめたいじゃないか。


『私は後、二回の変身を残してる』


 的な事を言われて絶望感を味わうそんな感じか? やばい、みたいのか見たくないのかわからなく成ってきた。取り合えず泥の感触が気持ち悪いし、この態勢もきついから顔を上げたいです。
 みんなどうやら聖獣の方を見てるっぽいし、今なら何事も無かったのか様にして顔を上げられそうだ。まあ一応こんな事を口ずさみながら、僕は顔を上げる。


「ふう、頭も冷えたし、聖獣がなんだって? いや、この顔についた泥なんて気にしないでいいよ。 どうせ雨が洗い流してくれるんだし……」
「完全体か……確かにそうなのかも知れない。彼らは神の力を取り込む事でその姿を完全に取り戻してる……そう考える事も出来るね」
「でも……完全体なんて……今までも十分すぎる程に強かったのに、更に強く成っちゃうんですか? そんなの一体どうすれば」


 そこでみんな考え込んで、辺りには聖獣共が力を取り込む音が激しく響く。なんか誰もこっちをマジで気にしてない。僕の言葉なんて完全スルーだった。
 僕は静かに片手で額の泥をぬぐい去った。そして息を数回吐いては吸って、何食わぬ顔で会話に参加する事に。


「それでも倒す!! それしかない。この国を、そしてクリエを助ける? には多分。実際神の力なんかこいつにはいらないと思うけど、あの力が無くなりかけた時、クリエは死んだみたいになりかけてた。
 だからきっとクリエには必要なんだと思うんだ。それに聖獣はどのみち、野放しになんか出来ないだろ」
「そうですけど……ってスオウ君、いつの間に?」
「何をいってるんですかシルクちゃん。僕は最初からここで奴らの動向を見てたよ」


 アレはもう自分の中では無かったことにしたんだ。


「シルク様、今はソイツの奇怪な行動なんてどうでも良いんです。問題は今から私たちがどう行動するか――です。確認するけど、クリエは生きてるんでしょうね?」
「それは大丈夫です。私も確認しましたから」


 シルクちゃんの言葉なら、簡単に信用するセラ。問題なく「じゃあ次は……」と言い出すよ。いや、良いけどね。変に指摘すると、さっきの痛い行動をネチネチ言われそうだしな。
 てか……マジで聖獣どもの体が変わっていってる。石膏だった体は今や生命を宿した肉体――と思えるような物に成っていってるんだ。
 石膏時は真っ白だったけど、それが剥がれ出して、元の本来の奴らの色が現れてる。そこが命を感じる理由なのかも知れない。


「今度こそ逃げた方が良いかも知れないわね。クリエだって取り返したんだし、ここは一時撤退が賢明だと思うんだけどどうなのよ?」


 セラの言葉を僕達はしばし考える。確かにそれが賢明な判断って奴だろう。神の力を得ての更なるパワーアップを果たしてる聖獣にこのまま挑むのは流石にもう、勇気とか勇敢とかの言葉は間違いだろうと思う。
 それは無謀とか、愚作とか死にたがりの部類に入りそうな事の様に感じる。どんどん聖獣共に取り込まれて行って、小さくなっていく黒い模様で出来た球体。
 アレが無くなった時、奴らはその力を完全に取り込んで石膏部分も無くなり、再び動き出すだろう。その時の行動は実際わからない。
 一回見逃してくれたし、そのまま森へと帰るのか? それともその力を使って僕達に襲いかかるのか……実際後者だったら……それを考えると今の内に逃げる方が良いよな。


「私は……スオウ君は反対するかも知れないですけど、一端引いた方が良いと思います。もうこの状況は私たちが目指してた状況とはかけ離れちゃってます。
 聖獣は外へ出て、そして神の力を得て完全体に……一回戻ってローレ様に報告と判断を仰ぎましょう。悔しいですけど、既に私達だけの手でどうにか出来る状況じゃないです」
「くっ……」


 確かにシルクちゃんの言う通りだな。反論の余地はない。僕達が頑張ればどうにか出来る――そんな状況は既に通り過ぎてしまってる。
 僕達がなんとか出来たのは、聖獣が祠に封じられてるまで……あそこでなんとしても倒しておかないと、封印は出来なかったんだ。
 僕はクリエを抱く腕に力を込めて、そして立ち上がる。今優先すべき事は何なのか……見失なっちゃいけない。僕達はまだ諦めてなんかない。だけどここは退こう。ここで負けを認めても、その次を繋ぐために。


「スオウ……」
「分かってる。一端リア・レーゼに退こう」
「うん、そうだね」
「了解っす!」
「お前にしては賢明な判断だ」


 僕の言葉にみんなが同意してくれる。まっ、当然だろうけどね。僕だって引き際位わかるよ。僕達は聖獣を見据えたまま数歩後ずさり、そして一気に振り返ってリア・レーゼ目指して走り出す。
 すると直ぐに後方に居たリルフィンと僧兵の皆さんの所まで来た。


「どうした? と言うか、どうなってる?」


 リルフィンの奴はいまいち状況を理解してないらしい。こんな安全圏で高見の見物をしてるから……まあそれはいいや。取り合えず僕は素早くこう言った。


「状況は後で説明してやる。今は戦略的撤退だ!」
「戦略的撤退――っておい!」


 僕達はリルフィン達を追い越して行く。そんな僕達に釣られてリルフィン達も走り出す。


「貴様、それはただの逃げ口上だろ! 敵に背を向けて逃げ出すとは情けなくないのか!?」


 リルフィンは後ろから熱いお言葉をくれるよ。だけどリルフィンの前で敵に背を向けたのはこれが二回目の筈だけど……なんでそんなに目くじら立てるんだよ。


「あの時は、まだ貴様等にはやる気が見えたからな。だが今は本気で逃げてるだろう!」


 ぬぬ、よく分かるじゃないか。


「我らが退いたら聖獣は野放しだぞ! それではリア・レーゼが危険に晒される。ここで我らがアレを倒さないといけないんだ!!」
「そんなの分かってる。だけどアイツ等はクリエの神の力までも取り入れた。もう封印から解放された直後で弱ってるとかはない。
 しかも元は一体一体倒す予定だったろ。それを五体同時に相手出来るって言えるのかよ? もう、ローレが言ってた状況じゃない。更に悪くなったんだ。だから一端退いて態勢を本格的に立て直す。
 ローレにだってありのままに話して、リア・レーゼのプレイヤー側の兵隊を出して貰うしかない。僕達だけの手じゃ、もう負えないんだよ!」


 言ってて情けなくなるな。だけどまさにその通りだからな。結局状況説明までしちゃってるし……五体揃った時点で何もしなかったリルフィン達の方がそこら辺はよく分かってると思ったんだけどな。


「くっ……確かに五体の聖獣を同時に相手にするのは大変だ。それに貴様が言う神の力を手にしたのなら尚更……だが、それでは主の望みが……」


 望み? 僕たちに下った特殊ミッションのことか? 別にそこまで拘っても無さそうだったけどな。それにここで終わるんじゃない。その期待をまだ続かせる為に僕たちは一時撤退してる訳だよ。


「リルフィン君。命あっての物だねですよ。何もローレ様は貴方が死んでまでそれを成し遂げて欲しい訳じゃないでしょう」
「だが……このまま負け帰ると言う事は、主の手を煩わせると言うことだ。それでは私の存在意義がない……我は主の露払い。同胞を差し置いて我が常時この世界に存在してるのは、主に迫る危機を払うためだ!」


 そう言うとリルフィンは振り返って立ち上る紫の光へと向いた。


「あのバカ!」


 ローレの事を考えると、おかしな判断する奴だな。言ってる事も良くわかんなかったし……そう思って僕も後ろへ振り返るとその時、紫の光が収まり、別の閃光が輝いた。雷でも光ったのかと思う程の閃光。それには見覚えがある。そう思ったとき、ドシャンバシャンと激しい音が聞こえた。視線を音の方に向けると、そこには石と化した僧兵の姿が……


「「「う……うあああああああ!!」」」


 同僚の石姿を見て、動揺した残りの僧兵が一斉にスピードを上げてリア・レーゼへと向かう。アイツ等兵隊として質低いな。仲間を見捨てて行くか普通? だけど……確かにこの姿をみると腹の底からゾクッとした重い物がのしかかるんだよな。


「これって……」
「ああ、どうやら今度は見逃してくれる気はないみたいだな」


 シルクちゃんの震える声に、僕は雨の先を見据える。激しい雨で数メートル先しか見えないけど、変なプレッシャーを感じる気がする。


「シルクちゃん、その僧兵を回復させて。急いで僕達もリア・レーゼまで退こう」
「は……はい! ピク!」


 僕の言葉を受けてシルクちゃんがストック魔法で一気に僧兵の石化を解く。どうやらあの攻撃に備えてストック魔法も状態回復を増やしてたみたいだな。流石シルクちゃん。


「私達は一体……」


 状況が理解出来てないまま復活を果たした僧兵の皆さん。僕は急いでリア・レーゼへ向かう事を勧める。


「僕達も、ほら行くぞリルフィン!」
「ダメだ! ここで倒さないといけない。それが私に与えられた使命だ!」
「おい、あんまり意固地になるなよな! 僕達だけじゃアイツ等には勝てない! それくらい分かるだろ!」


 せめて後十数人はプレイヤーが欲しい。それでようやくどうにか出来る感じだろ。一体に付き、一人二人じゃ苦しいなんて物じゃない。


「ふん、我の見込み違いだったようだな。現状だけを見て逃げ腰とは、そこらの奴と変わらん」
「それはこっちの台詞だ。もっと冷静沈着な奴かと思ってたら、案外頑固で周りが見えないんだな!」


 今のリルフィンはどう見ても意地に成ってるだけだろ。聖獣の強さはこいつだって十分に理解してるのに、ローレの望みだからって変な使命感背負い込みやがって……


「いいから逃げるぞ! このままぶつかってもやられるだけだ! それを見逃せるか!」
「放せ余所者が! 貴様等に頼った我らが間違いだったんだ。リア・レーゼも主も、我が守ってみせる!! このまま下がれば、聖獣共は街を襲うんだぞ! それとも街に戻れば安全だと何故思う?
 今リア・レーゼは誰かのせいで結界が無い状況なんだぞ! パワーアップしたのなら、有無を言わさずに侵略しにきてもおかしくはないだろ!」
「うっ……」


 それを出すなんて反則だろ。でも確かにローレの言うことも一理あるかもしれない。僕達は勝手に街までは襲ってこないと思い込んでたけど、実際そうなのかはわかんない。
 確かに今のリア・レーゼには結界は無くなってるし、襲おうと思えば出来るんだよな。


「だけど結界が無くなったからって、そんな簡単に襲える物でもない筈だろ?」


 僕はリルフィンだけじゃなく他のみんなを見るよ。


「そうだね、結界が無くなったからってそんな簡単に攻め込まれたりはしないはずだよ。だって結界なんて張ってる方が珍しいしね。
 それでも早々、モンスターが押し寄せる事はない。確かに確実に無い……とは言えないのが本音だけど、向こうだってそれなりの覚悟を持たないといけない事を知ってるんだよ」


 テッケンさんのその言葉は納得出来るものだった。だけど安心出来るかは別だな。無い訳じゃないって事みたいだし。


「確かに普通のモンスター共は足踏みをするだろう。だが奴等は違う。聖獣を頂点にして集うモンスターがこの周りの森には何百と居る。
 しかも普通の街とこの場所は立地が違う。この地のモンスターは強力だ。それだけで奴等が躊躇わずに襲い来る理由にはなる。
 更にリーダー共が復活してパワーアップしたと成れば尚更活気づくだろう。奴等が一声かければあの森から次々とモンスターがリア・レーゼを攻め出す事に成るんだ。
 わかるか? 奴等に街事態を恐れる必要性なんてないんだよ」
「「「………………」」」


 まさかそこまでとは。確かについさっきまでの聖獣とはもう違うもんな。益々街事態を恐れる事なんかなくて、完全体に成ったことで、早くその力を試したいとも思ってるかも知れない。
 さっきの攻撃だって、白いままだったらしなかっただろうと思える。奴等は復活して、逃がす気は無い……そう言いたいのかも知れないな。
 僕達は喉を鳴らして唾を飲み込むよ。重い空気が立ちこめる。誰も何も言わない。どうするのか……どうしたら良いのか分からなくなったんだ。
 だってここで僕達が逃げたら、本当にリア・レーゼ事態に攻撃が向くかも知れない。そうなったら逃げる意味なんて……いや、逃げる場所なんて無いじゃないか!


「分かったか? 今の我らに逃げる事など許されない!!」
「許されないからって……勝てる訳じゃないっすよ!!」


 リルフィンの言葉にノウイが精一杯そういうよ。


「確かに勝てる訳じゃない。そのくらい我も分かってる。だがな、勝てない戦いはしなくても良いのか? それは違う! 少しでも奴等の侵攻を阻む事には意味がある。先に戻った僧兵達はこの事を伝えてくれる。そしたら避難が始まるだろう。増援も期待出来る。
 それまで我らはこの命を賭して戦う意味が生まれる!! そういう物だ」
「それは……そうかも知れないっすけど……」


 つまづく言葉を出しながら、ノウイは僕を見る。ノウイだけじゃない、みんなが僕を見てる。確かにその必要性は分かる。だけどそのリスクが僕だけ余りに高いことをみんな分かってる。だってこれからやる戦いは、『死』を前提とした戦いだ。

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