命改変プログラム

ファーストなサイコロ

引き裂かれる事



 豪雨の中、曇天へと立ち上る四つの光。それを見たリルフィンが何か不味そうにこう言うよ。


「そんな……まさかあの位置は……」
「なんだ? どう言うことだよリルフィン?」


 僕はウッドール共を切り伏せながらリルフィンに説明を求める。ああ、ウッドールってのは木の人形みたいなお粗末な体をしたモンスターです。こいつらが次から次へと森からこちら側に出てきてるんだ。
 幾ら倒しても切りがない。


「あの位置は、残りの祠の位置だ。つまり、私達が壊しかけてそこを利用して出てきた奴とは違い、残りの祠は聖獣の力で破られたかもしれないと言うことだ!!」
「「「なっ!?」」」


 僕達はリルフィンのその言葉に衝撃を隠せない。まさかもう聖獣達はその祠の封印から外に出たって言うのかよ。早すぎるだろ。こんなに早いんじゃ幾ら頑張ったって、五体全部を倒しきるのなんて不可能だったんじゃないか?
 豪雨を受けながら、そんな考えの中、歯を食いしばって剣を振る。


「スオウ……なんだか怖い」


 クリエが僕の首にぶら下がって震えてるよ。てか流石にこの態勢はクリエも僕もやりづらいな。


「クリエ、肩車の態勢になれ。髪の毛掴んでていいから。そっちの方が楽だろ」


 そういって僕はクリエの体を押し上げるよ。クリエは頷いて僕の背中側に回る。そしてしっかり固定した所で、両側の剣を振りかぶり、雷を周りに放つ。それによりウッドール共を一斉に蹴散らすんだ。


「どうだクリエ? こっちの方が楽だろ?」
「うん……だけどなんだかね。クリエはクリエは……胸がザワザワするよ」


 ざわざわね……奇遇だな。それは僕もしてる。遠くで光ってる光の柱は消えていく。あれが本当にリルフィンの言うとおりに聖獣が解放された光だったとしたら……考えたくない事がある。
 だけど考えない訳にも行かないんだよな。


「リルフィン、マジで聖獣が解放された光なんだろうな?」


 僕のそんな疑いの声に、リルフィンは懐をまさぐってある物を取り出した。


「これを見ろ。それぞれの祠に対応した鍵だ。その鍵であった札の文字が消えている。これはもうこの札自体に鍵としての効力が無くなった事を意味してる。
 どうしてか……それは頭が悪い貴様でも察せよう」


 最後の一言は余計だったけど、確かに僕にもわかる。根拠も無く言った訳じゃないって事か。って事は益々、この戦闘事態がやばくなったって事だろう。


「スオウ……確か聖獣さんは五体居るって言ってたよね? それでみんなが外に出てきた訳だから、きっとここに来ちゃうと思うよ! だって誰だって友達を傷つけられたら怒っちゃうよ」


 クリエが僕の頭にしがみつきながらそんな事を言う。確かにね……その可能性を僕だって考えてたさ。そして他のみんなだって……


「どうするんすか? ここは一端引いた方がよくないっすか? 聖獣がもしもこの場に揃ったら、それこそやばいっすよ!!」


 ノウイはウッドールから逃げながらそんな提案をしてくる。確かにそれも手だよな。聖獣一体もまだ倒せてない僕達が、同時に四体+αの相手なんてして無事に済むとは思えない。
 だからノウイの意見はちゃんと受け止めるべき提案。実際僧兵の人達もなんかウンウン唸ってるしな。


「確かにヤバいわね。いつも逃げ腰なアンタらしい意見だわ。まあ否定なんてしないし、尤もだとも思う。けどねノウイ。私はタダで逃げるなんて真っ平ゴメンよ!! 
 一体だけでもその首は貰っていくわ!!」


 流石セラ。いつだって前を向いてるぜ。セラはウッドールをケチらしながら武器を組み替えてる。そして再び大きな手裏剣にしたら、体ごと回りだして勢い良く手裏剣を放つ。するとなんと、手裏剣が空中で四つくらいに分裂してるように見えるよ。
 四つに分裂した手裏剣はガードに来てる蔦とそれぞれがぶつかる。分裂した一つ一つを犠牲にして、本体が進んでるって訳だ。
 これは行けるかも知れない。僕達が追いつめた聖獣はもうボロボロ。後一回攻撃がクリーンヒットすれば、もしかしたら……そんな期待を込めて僕達はその行く末を見守る。


「行けええええええええ!!」


 僕の肩にのっかってるクリエが拳を突き出してそう叫ぶ。だけど手裏剣は下から伸びてきた蔦によって進路を微妙にズラされた。この貝も考えたな。自分の蔦じゃ守りきれないと判断したから、軌道をズラす方向にシフトしたのか。
 確かにああ言う攻撃は僅かでも軌道がズレれば直撃は難しくなる。ホーミング機能でも付いてれば別だけど、あの手裏剣がそこまで高性能だったことはない。そして案の上、手裏剣は聖獣の横を掠めて行くに止まった。


「ああ~」


 と残念そうなため息を漏らすクリエ。だけどどうやらセラはそれも想定済みだったみたいだ。僕には見える。雨の中、金色の光が四つほど輝いてるのがさ。


「甘いわね。手裏剣の攻撃は全てがこれの準備の為の囮よ。さあ! 聖典の光に落ちなさい!!」


 その言葉と共に聖典四機から放たれる光。囲む様に配されたその位置からの攻撃を聖獣はよける事なんか出来ないだろう。
 セラの奴、あの手裏剣に全てを託したかの様に見せておいて、最初から聖典を仕込んでいたなんてやるな。手を使わずに操れる聖典だから出来ることで、セラの聖典を操る適正と技量があってこその作戦。
 聖典の放った攻撃に既に蔦は間に合わない。これは行ける。今度こそこの場に居る誰もが確信したよ。でもその時だ。空から何かが降ってきて、聖典の光を吸収しだす。
 それと同時に、どこからともなく聞こえる悲鳴と足音。そしてそれは僕の側をも突風の様に駆け抜ける。


「ぬぐあ!? ――なんだ?」


 地面に膝を付いて顔を上げると、貝の近くにそいつ等は集まってた。そしてその中の一人が丁度落ちて来た盾をその手に取る。その時僕は気付いたよ。


「あの盾……まさか……」


 そう思ってると、案の定盾からはさっきの聖典の攻撃がはじき出されて、聖典を直撃した。赤い炎と共に墜落する聖典。その爆発音が聞こえてる中、僕たちはその現れた奴らから目を離せずにいた。


「やっぱりあの盾は聖獣が持ってたのと同じ……それを持っててしかもなんだか奴ら聖獣と同じ色をしてる。それってつまり……」


 ここまで来たらもう連想ゲームみたいだな。誰も口にしないけど、きっとみんな誰もがそう思ってる筈だ。この目の前に現れた四体は……多分残りの聖獣なんだろう。
 僕達は警戒心マックスで奴らを見据える。聖獣と同じ石膏みたいな体。だけどその体つきとかはバラバラだな。しかも中には武器を持った奴も見える。
 一体あの武器にはどんな恐ろしい機能があるんだろうか。考えたくもないな。そう思ってると、シルクちゃんがこんな事を言ってくる。


「あれ? スオウ君、クリエちゃんはどこですか?」
「何言ってるんだよシルクちゃん。クリエならここに……」


 僕はそう言ってクリエが居るはずの頭の後ろ等辺に手を伸ばす。だけどそこに感触はない。スカッと手は通り抜けるだけ。よく考えたらさっきからクリエの体重を感じないな。


「居ませんよクリエちゃん……そこに居たはずなのに、居なくなったって……それじゃあどこに……」


 僕とシルクちゃんは辺りを見回す。だけどクリエの姿は見えない。くっそ、雨がうざったいな。
 僕とシルクちゃんがクリエを探してると、なんだかモンスター共が攻撃を止めて森の方へと動き出す。そんな奴らを見てノウイが緊張が解けた様にこう言うよ。


「よかったっすね。どうやら自分達は見逃して貰えそうっす」
「アンタね……」


 ノウイの言葉にセラが目くじらを立ててる。だけどセラも動こうとはしない。それはセラだってわかってるからだ。今奴らと一戦を交えても勝てる見込みが殆どないって事を。
 そして奴らも僕達なんて眼中に無いと言う感じで振り返りもしない。僕達が襲え無い事を向こうもわかってる。だけど今はそんな事よりクリエなんだ。
 あいつ一体どこに? 


「一体いつ居なくなったとかわからないんですか?」
「それは……」


 一体いつ? ついさっきまでは確かに肩車してた筈だ。攻撃だって受けてな……いや、待てよ。そう言えば思い当たる節があるぞ。ついさっきまで確かにクリエはここにいた。でも今はいない。その間に思い当たる節があるとすれば一つしかないじゃないか。
 それはあの聖獣共がここに現れた時の事だ。僕はあの時、奴らの勢いに膝を付いた。そしてその後にシルクちゃんに指摘されたんだ。


「待ってください……それってつまり……」


 シルクちゃんは僕の言葉を聞いてピンと来たようだ。ああ、それってつまり、クリエは聖獣に連れてかれてるんじゃないかって事だ!!
 だって周りを見渡しもどこにも居ないなんておかしい。もしも落ちただけなら、クリエは足下に居るはずだ。僕の側を離れるなんて事はしない。
 だけどクリエは僕の側には居ない。それならもうそれしか考えられ無いじゃないか。僕はその場でセラ・シルフィングを掲げた。
 そして帯電してる雷撃を空に向かって打ち放つ。落ちるはずの雷が空に昇り、放電のスパークの音と青白い光が周囲に広がった。


「スオウ君なにを……」


 シルクちゃんのそんな声が聞こえた。何を? そんなの決まってるよ。僕は確かめたいんだ。だからこっちをイヤでも見てしまう様にしてやっただけ。
 響いた雷撃の音に案の定モンスター共は立ち止まる。そしてこちらを振り返るんだ。てか、あのデカい貝も動けるには動けるらしいな。
 そして聖獣四体もこちらを見る。だけどその中の一体がこちらを向かない。元が雨のせいで良く見えないんだけど、十分だったよ。だって小さな足がジタバタしてるのは辛うじて見えたんだ。
 僕はその瞬間に動き出してた。強く地面を蹴って一気にモンスター共へ迫る。後ろから色々と声が聞こえたけど、聞く耳なんか持たなかった。


「クリエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」


 目の前のウザいウッドール共を雷撃で凪払い、聖獣までの道を作る。僕は一気に接近戦に持ち込む為に開いた道を抜ける。奴らは全員が攻撃吸収の盾を持ってるから、近づいての攻撃、それが一番良いはずって判断だ。
 けど振り返ってない奴の所まで行くには無傷の聖獣三体を抜けないと行けない。


(上等だ……)


 僕は腹を決めて向かってくるガタイのいい魚人みたいな聖獣のご自慢の筋肉とぶつかりあう。筋肉モリモリのからだ。尻からは魚の尾が生えてて、耳は僕達のとは違い、薄いヒレみたいになってる。
 人魚族の男バージョンに似てるけど、こいつはどっちかって言うとやっぱりモンスターより。だって顔は魚っぽいもん。プレイヤーが分身とする人魚族の男の顔はちゃんとした人ベースだ。
 だからこいつは似てるようで似てない。というか……もしかして聖獣って五種族を模したモンスターじゃないのだろうか? てか魚顔のくせにコイツも仮面を付けてる所にイラッとくるな。
 そう思ってると、魚聖獣の口がグアパっと開き、降っている雨を口の周りに集めだした。僕はイヤな予感がしたから、一端距離を取るために、後ろへ飛ぶよ。
 するとその瞬間、超高圧に圧縮されたビームみたいな攻撃が僕の居た場所を盛大に抉る。しかも地面を抉りながら方向修正して来やがるじゃないか。
 だけど僕はその攻撃を交わして一気に魚聖獣の懐へ。後ろの方でなんか被害が出た様な声が僅かに聞こえたけど、今は無事を祈って攻撃を決める。
 重量級の聖獣だ。僕は一回転――二回転――そして三回転とセラ・シルフィングで切りつけて強引に退かす。


「次! ――っ」


 魚野郎を退かした瞬間に前を見ると三枚の刃がズレて展開してる、刀っぽい武器が僕の左肩から体を切り裂く。だけどそんな僕は影の様にズレて消え去っていく。
 忘れて貰っちゃ困るけど、僕には一回だけ物理攻撃を絶対回避出来るスキルがあるのだ。いつだって念の為にそれを発動してる。
 だからそのスキルを使って目の前の、今度はスレイプル模してるんだろう聖獣を切りつける。


「くっそ、相変わらず堅い!!」


 だけど僕は反撃の隙を与えない程高速でその体に僅かだけど傷を残して行く。二刀流の手数の多さを最大限に活かす。
 なんだか爬虫類っぽい感じの鱗がスレイプルの模様に見えなくもない聖獣だ。そしてやっぱりコイツも仮面をしてるよ。ヴェネツアの派手な奴じゃなくて、どっちかって言うとシャアがつけてそうな目元を隠す奴。
 いや、それはシャアと言うかクワトロさんだっけ? まあどっちでも良いことか! 僕の攻撃が相当ウザかったのか、そのスレイプル型の聖獣は驚いた事に自分の片腕を武器へと変形させて反撃してきた。鋭利な長刀が僕の胸元を切る。
 胸元には防具をしてた筈だけど、いかんせん僕の防具程度じゃこの強さの敵が使う武器の攻撃を防げないみたいだ。バター並にすっぱりと切れて、血が勢いよく飛び出た。
 そして切られた防具は地面へと落ちる。一応アルテミナスで新調したものだったのに……これじゃあ買い直しだ。LROは武器も防具も耐久性って奴がある。武器だって折れるし、防具は攻撃を受ける度にその耐久性が減っていく。
 だけどどっちもちゃんと戦闘後にメンテをすればその耐久性も戻る訳だけど……防具は戦闘中にブッ壊されたらそれまでだ。
 武器は直す事も出来るけど、防具は基本買い換えらしい。――って、感傷に浸ってる暇はない。血が出てるって言っても皮一枚程度だ。気にする程度じゃない。それよりも問題なのは、奴の刃物に変わってた腕が今度は砲撃しようとしてるって事だろ。
 穴が開いた腕に光が見える。


「くっ!?」


 僕は急いでその場から転がって離れる。するとその瞬間に大きな水柱……と言うか泥柱的な物があがった。ベチャバシャベチャと周りに大量の泥をまき散らし、自身にもそれは掛かってる。だけどそんな事聖獣は気にしない。奴は再び僕にその腕を向けてくる。今度は外さないようにか、四つん這いになってる僕の顔の数センチ上から狙ってやがる。流石に近すぎだろう。
 絶対に砲撃の影響を受ける。だけどそんなダメージは頑丈な聖獣には関係ないか。集まり出す光。そして再び砲撃が放たれるその時、僕はその腕にセラ・シルフィングを突っ込んだ。
 その瞬間、砲撃に向かう筈のエネルギーが聖獣の腕の中で暴発する。僕と聖獣はその爆発の渦に飲まれる。


「ぐはっ……」


 爆炎の中から僕は吹き飛ばされて地面を転がる。体が所々焦げてるけど、見た目ほどダメージを受けてない。やっぱり爆発のメインは聖獣の腕の中で起こったからだろう。
 僕が態勢を立て直してると、爆炎の中から聖獣が姿を現す。その片腕はさっきの爆発で砲芯が花びらみたいに広がっちゃってる。
 あれではもう砲撃は出来ないだろう。スレイプル型のコイツはかなり人っぽい方だけど、やっぱり良く見ると人とはちょっとかけ離れてるな。頭に変な突起物あるし、鼻もなんか平べったい。それに大きく裂けた口には細かな牙が一杯だ。
 だけどコイツは無理に人型になってる感じじゃない。さっきの魚は無理ありすぎたからそう思うのかも知れないな。
 そんな無理のない聖獣は仮面の中の瞳? を光らせてこちらに武器を向けた――と思ったらその武器を壊れた腕に突き刺した。


「はっ?」


 僕はそんな声を出してしまうよ。だって気が狂ったとしか思えない所行だもん。だけどその突き刺さった武器は、次第に聖獣と同じ石膏の様な色をしていき、そしてなんと元の腕に戻ったよ。
 なんと言う事だ。武器を使って再生しやがったよ。確かにスレイプルらしくはあるけど……武器を無くしてどうするんだ。
 コイツも腕に付けてる盾を武器に使うのだろうか? そう思ってると、今度は前のめりになる聖獣。するとその背中がボコボコと蠢きだし、一気に上空へ何かを放つ。


「なに――――がっ!?」


 上を見た瞬間にすれ違いざまにザクッと地面に刺さった物。それはどうみても剣です。ってことはつまりだよ……雨と共に大量の武器が僕の周りに落ちてくるって事じゃ……


「うわっわっわわ!!」


 僕は慌てて武器を避ける。アイツが武器をその体の回復に使えたのもこういう事か。奴が生み出した武器だからこそ、体の一部に戻ることも出来る。
 空から降ってくる武器を僕が必死に避けてると、聖獣がその突き刺さってる武器の一つを持ってこちらに迫る。再び僕と聖獣は激突する。拮抗し攻めぎあってると、ウサギみたいな垂れ耳を持った別の聖獣が加勢してくる。
 その小ささから直ぐにわかる。あのウサギっぽい奴はきっとモブリを模してる……って事はメインの攻撃は魔法。


「やらせるか!!」


 魔法なんて打たれると厄介だ。僕はスレイプルの方の攻撃をいなして奴の後ろに抜ける。だけどそれを早々許す訳がないよな。
 けどここで僕は今までの攻撃の成果を使うよ。聖獣の体に刻まれたこのセラ・シルフィングから受けた傷。
 それはこのスキルのための物だ!! その瞬間奴の傷から解放された雷撃が溢れ出す。それによって一時的に動きが止まるスレイプル型の聖獣。


「そこを退けええええええ!!」


 僕はそのままモブリを模したウサ聖獣へと突っ込む。詠唱の暇なんて与えない。それが魔法の最大の弱点だからな。
 僕は一気にウサ聖獣を斬り裂く。もの凄くアッサリと決まった。だけど斬った瞬間におかしいとも感じたよ。だって石膏の体の感触すら無かった。
 本当は斬るというよりも、体小さいから殴り飛ばす感じていこうと思ってたんだ。そして進路を確保する。まあだけどどっちでもいいや。これで道は出来たんだ。
 僕は最後の聖獣へ向かう。今は一体一体を倒す事なんか考えてない。クリエを助ける。それが最優先事項だ。そう思ってると、どこかから指をパチンと鳴らす音が聞こえた。それと同時に僕の足下の地面が異様にぬめる――というかこれは沼みたいになってるような? 何だこれ? するとなんだか僕の周りが暗くなっていってしまう。そしてその暗い空間にさっき斬った筈のウサ聖獣の姿が。何故かシルクハットまで被って周りをクルクル回ってやがる。
 それになんだかどんどん増えていくような。そして次々とパッチンパッチンと指を鳴らす音が聞こえると同時に、暗闇の中から見覚えのある顔ぶれが出てくる。


「お前たち……なんで……」


 それはシクラや柊や、今まで倒したモンスターの数々。てかやっぱりこれにもシクラ達が関わってるって事か? 僕がそう思ってると、現れた奴らが僕を一斉に襲ってくる。移動できない中、これはズルい。
 そんな中、ウサ聖獣はジェスチャーで笑いを表現してた。それを見てちょっとわかった。これはきっと本人じゃない。そもそもあのお喋りなシクラが何も言わずに襲ってくるなんてないし、シクラや柊の攻撃にしては生温い。
 それに今まで倒した敵ばかりが出てくる所を見ると、きっと僕の記憶か何かからこの連中を見せてるんだろう。つまりはこれも魔法だ。変な空間に閉じこめられたのかも知れない。
 なら……僕はセラ・シルフィングに雷撃を帯電させる。そしてそれを放ちその衝撃で空間ごと破壊する! そうしようとしたら両腕をシクラと柊に押さえられた。
 そして目の前に何か大きな者が現れる。それは最初に僕が退治したボス級のモンスター。悪魔の姿だ。僕は必死に二人を引き剥がそうとするけど、二人とも嬉しそうに僕に抱きついてるよ。こんな顔いらない。こんな奴らじゃないし。
 そう思ってると悪魔の奴の巨大な拳が僕に迫る。だけどその時、暗い空間に亀裂が入って声が聞こえた。


「「スオウ!」」「「スオウ君!」」


 それは僕が最も頼りにしてる仲間達の声。

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